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(バングラデシュへ避難したロヒンギャ族の人々。9月3日撮影【9月6日 ロイター】)
【バングラデシュへの難民12万人超】
1週間前の8月30日ブログ「ロヒンギャ問題 懸念された最悪のシナリオ“暴力の連鎖”が現実のものに 逃げ惑う住民」で取り上げたばかりのミャンマー西部ラカイン州のイスラム系少数民族ロヒンギャの問題。
事態は更に悪化し、今回のロヒンギャ武装集団と治安機関との衝突を受けた国軍の掃討作戦で隣国バングラデシュに逃れたロヒンギャはすでに12万人を超えたと報じられています。
また、この事態の収拾・鎮静化に向けたスー・チー国家顧問兼外相の積極的な動き・発言がないことへ、国際的な批判も高まっています。
****ロヒンギャ問題に沈黙のスー・チー氏 難民12万人超・・・高まる国際圧力 軍や仏教徒に圧力か****
ミャンマーのイスラム教徒少数民族ロヒンギャの武装集団と治安機関との衝突を受け、隣国バングラデシュに逃れるロヒンギャ難民が12万人を超えた。
イスラム圏など国際社会からは解決を求める圧力が高まるが、ミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相は沈黙を保ったままだ。
同じ東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国で、世界最大のイスラム教徒を抱えるインドネシアのルトノ外相は4日、ミャンマーの首都ネピドーでスー・チー氏らと会談。ロヒンギャへの武力行使自粛や、海外からの支援物資が円滑に提供されるよう要請した、との声明を発表した。
インドネシアではロヒンギャ迫害への抗議デモが続き、在ジャカルタのミャンマー大使館には3日、火炎瓶が投げつけられた。ルトノ氏は、ロヒンギャ問題をバングラデシュとも協議する意向だ。
衝突は、ラカイン州北部マウンドー周辺で8月25日未明、武装した数百人が警察施設や国軍基地を襲撃したことで拡大。ミャンマー政府は、地元の武装組織「アラカン・ロヒンギャ救世軍」(ARSA)の「テロ行為」とし、掃討作戦を正当化している。
ただ、国軍が武装集団を370人以上殺害しても事態は沈静化せず、治安要員や市民らを含め死者数は400人を超えた。
ロイター通信によると、今回の衝突でバングラデシュに逃れたロヒンギャは12万3600人となり、昨年10月以降、ロヒンギャの難民は計約21万人に上る。
また一部のロヒンギャはインドにも流入している。モディ首相は5日にミャンマー入りし、対応を協議。
「大量虐殺」(トルコのエルドアン大統領)、「評判をおとしめる」(英国のジョンソン外相)との批判が上がる。だが、国政運営に協力が不可欠な国軍や、人口の約9割を占める仏教徒への配慮からか、スー・チー氏はイスラム教徒を擁護する発言は控えている。
ミャンマー人権問題の国連特別報告者、李亮喜(イ・ヤンヒ)氏は「(スー・チー氏は問題解決に)踏み込むべきときだ」と訴える。【9月5日 産経】
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【国境で足止めされる難民 渡河の際の事故も】
ロヒンギャが逃げ込んでいる隣国バングラデシュも、ロヒンギャを積極的に保護している訳ではなく、基本的には国内に入れない対応をとっており、国境で足止めされる難民も増加しています。
そうしたバングラデシュ側の警備をかいくぐる形で国境の川を渡る際の、ボート転覆などの事故も報じられています。
****バングラデシュに逃れるロヒンギャ族、川岸に20人以上の遺体****
少なくとも過去5年で最悪の状態となったミャンマー北西部の武力衝突から、数万人の少数民族ロヒンギャ族が避難するなか、バングラデシュ国境警備隊は過去2日間で川岸に打ち上げられた子どもを含む20人以上の遺体を回収したと明らかにした。
国連では、ヘイリー米国連大使が、ロヒンギャ族の武装勢力による最近の攻撃を非難したうえで、ミャンマーの治安部隊に対して、国際的な人道法を順守する責任があるとし、罪のない市民への攻撃を回避するよう求めた。
国連筋3人によると、25日以降、イスラム教徒である約2万7400人のロヒンギャ族が、ミャンマーからバングラデシュに逃れている。
ミャンマーのラカイン州で、ロヒンギャ族の武装勢力が警察や軍基地を襲撃し、衝突により少なくとも117人が犠牲となっている。
バングラデシュにいる国連筋の話では、約2万人のロヒンギャ族が2国間の緩衝地帯で立ち往生しているという。その数は3万人に増えるとも予想されている。
バングラデシュ国境警備隊の司令官によると、ロヒンギャ族の乗ったボートが転覆した後、ナフ川のバングラデシュ側の川岸でロヒンギャ族の子ども11人と女性9人の遺体を31日発見した。【9月1日 ロイター】
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****ロヒンギャ難民乗せたボートが複数沈没、子ども5人死亡****
ミャンマーとバングラデシュを隔てるナフ川の河口で6日早朝、ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャの難民を乗せたボート数隻が沈没し、少なくとも子ども5人が死亡した。バングラデシュ国境警備隊がAFPに明らかにした。
当局よると、ミャンマー北西部ラカイン州とバングラデシュを隔てるナフ川河口で大勢のロヒンギャ難民を乗せた3~4隻のボートが沈み、死傷者はさらに増える恐れがあるという。
国境警備隊の隊員はAFPに、「これまでに男女の子ども5人の遺体が複数か所で見つかった」と語った。
ラカイン州では武装勢力と治安部隊が衝突を続けており、主にロヒンギャをはじめとする避難民が大量にバングラデシュ国境に殺到している。衝突が発生した先月25日以降、避難民の多くが小型の釣り用ボートでナフ川を渡ろうと試み、すでに大勢の人が水死している。
国境を越えてバングラデシュに流入した避難民の数は12万5000人を超えている。【9月6日 AFP】
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【住宅放火、難民再入国を阻止する地雷設置?】
このような大量難民が発生している背景には、ミャンマー国軍の武装勢力との戦闘にとどまらない、“混乱に乗じて”ロヒンギャ追い出しを狙っているとも思える行動があります。
****ロヒンギャ2万人、無人島で孤立 川岸に子どもらの遺体****
・・・・国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは29日、衛星画像の解析から、ロヒンギャが多数派のマウンドー一帯の少なくとも10カ所で、家々が広範囲に焼かれたと発表した。「治安部隊が火を放った」との住民の証言があるという。(後略)【9月1日 朝日】
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更に、ミャンマー側は、バングラデシュに逃れたロヒンギャ難民が再びミャンマーに戻ってこないように、国境線に地雷を設置しているとの情報も報じられています。
****ミャンマー、国境に地雷設置=バングラデシュ政府関係筋****
ミャンマーが、バングラデシュへ避難したイスラム教徒少数民族ロヒンギャが戻ってくるのを防ぐため、3日にわたり国境地帯で地雷の設置作業を行っているもようだ。バングラデシュの政府関係者2人が明らかにした。
同国は、国境近くでの地雷設置に対し、6日正式に抗議する意向だという。
ミャンマーでは8月25日、ロヒンギャ族の武装勢力が警察や軍の拠点を襲撃したことをきっかけに、軍による取り締まりが開始。少なくとも400人が死亡し、ロヒンギャ族の12万5000人が同国の西隣にあるバングラデシュへ脱出し、重大な人権問題になっている。
バングラデシュの関係筋は「ミャンマーは国境にある有刺鉄線が張り巡らされた柵に沿って地雷を設置している」と話した。主に写真証拠や通報者から情報をつかんだという。
関係筋は「わが国の軍部は、3―4つの集団が柵の近くで作業をし、何かを地面に埋めているのを目撃している」とし、「それらが地雷であることを、通報者と確認した」と述べた。その集団が制服を着ていたかどうかは明らかにしなかったが、ロヒンギャ族の武装勢力でないことは明白だと話した。
バングラデシュの国境警備員マンズルール・ハサン・カーン氏はこれより先に、ロイターに対し、5日にミャンマー側で2回の爆発音が聞こえたと証言。少年1人が国境付近で左足を失い、治療のためバングラデシュ側に運び込まれたという。このほかにも別の少年が軽傷を負ったといい、同氏は地雷の爆発である可能性があると述べた。
あるロヒンギャ族の難民は4日に、難民らが避難に使う国境の無人地帯の道の近くに、直径約10センチメートルの金属の円盤が一部ぬかるみに埋まっているところを撮影した。この難民は、似た円盤がほかにも2つ埋まっていたと話した。
ロイターは、埋められていたものが地雷かどうか、ミャンマー軍と関係があるかどうかを確認できていない。ミャンマー軍からのコメントは得られていない。【9月6日 ロイター】
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この地雷設置の話が本当なら、今回のミャンマー国軍の行動がまさに“民族浄化”を狙った“ロヒンギャ追い出し作戦”であった言えます。
【スー・チー氏の行動を求める国際世論の拡大】
こうした事態に、ASEAN内のイスラム教徒を多く抱えるインドネシアやマレーシア国内では、ミャンマーに対する世論の批判が大きくなっており、政府レベルの発言・要求も。
“インドネシアのルトノ外相は4日、ミャンマーの首都ネピドーでアウン・サン・スー・チー国家顧問と会談しました。このなかでルトノ外相は武力行使の自粛とロヒンギャの人たちにインドネシアをはじめ外国などからの支援物資が円滑に届けられるよう協力することなどを求めたということです。
一方、ミャンマー政府はスー・チー国家顧問がどのように答えたのかは明らかにしていません。”【9月5日 NHK】
“マレーシアのアニファ・アマン外相はAFPに対し「率直に言って、アウン・サン・スー・チー氏には満足していない」と発言。”【9月5日 AFP】
激高しやすいトルコ・エルドアン大統領からは“ジェノサイド(大虐殺)”との言葉も出ています。
****スー・チー氏に懸念表明=ロヒンギャ問題で電話会談―トルコ大統領****
ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャ迫害について、トルコのエルドアン大統領は5日、ミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問と電話会談し「ロヒンギャに対する人権侵害に、特にイスラム諸国は深い懸念を有している」と伝えた。トルコのメディアが大統領府筋の話として報じた。(中略)
エルドアン氏はスー・チー氏に対し、深刻な人道危機を警告、市民の被害に細心の注意を払うべきだと伝えた。
電話会談に先立つ4日、エルドアン氏は「ミャンマーでのジェノサイド(大虐殺)に人々は沈黙している」と批判し、ニューヨークでの国連総会でこの問題を取り上げる考えを表明、強い関心を示していた。【9月5日 時事】
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“(トルコの)イブラヒム・カルン大統領報道官は声明で、会談後「最初分の援助物資1000トンを送る許可が出た」と述べた。ミャンマーとバングラデシュの国境地帯の両方の側にいる世帯に配布する考えという。”【9月6日 AFP】
物資の支援ということでは、地中海でアフリカらの移民・難民救助にあたっていた人道支援NGOが、地中海での活動が困難になっていることもあって、ロヒンギャ支援に対象を変更する動きもあります。【9月5日 AFP「地中海で移民救助のマルタNGO、次はロヒンギャ救援へ」より】
また、スー・チー氏同様にノーベル平和賞を受賞したマララさんも、ロヒンギャの窮状打開を求める声明をツイートしています。
****ロヒンギャ問題、各国がミャンマー批判 マララさんも声明****
・・・ここ最近の騒乱は昨年10月、ロヒンギャの小規模な武装集団が複数の国境検問所を奇襲したことに端を発しており、ラカイン州で発生した衝突としては近年最悪の事態に発展。国連(UN)は、ミャンマー軍が報復として民族浄化に及んだ可能性があるとの認識を示している。
ミャンマーの軍事政権に政治囚として長年軟禁されてきたスー・チー氏に対しては、ロヒンギャに対する処遇を明確に非難することや、軍を処罰することに及び腰だとの批判が徐々に高まっている。スー・チー氏は25日の衝突発生以降、公の場で一度も発言していない。
イスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」に頭部を銃撃されたものの一命を取り留めたマララさんはツイッター(Twitter)上に声明を出し、「報道を目にするたびに、ミャンマーのロヒンギャのイスラム教徒の窮状に胸が痛む」とつづった。
さらに、「私は過去数年間、この痛ましく恥ずべき処遇を繰り返し批判してきた。私は同じノーベル賞受賞者のアウン・サン・スー・チー氏が同様にしてくれることを、いまだ待ち続けている」と述べた。(後略)【9月5日 AFP】
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【グテーレス国連事務総長、ロヒンギャへの国籍付与を求める】
また、国連のグテーレス事務総長は、ロヒンギャ問題の根幹にある、ロヒンギャにミャンマー国籍が付与されていないことへの改善を求めています。
****国連事務総長、ミャンマーのイスラム教徒に国籍を与えるよう求める****
国連のグテーレス事務総長が、ミャンマーのロヒンギャ族のイスラム教徒にミャンマー国籍を与えるよう求めました。
ミャンマー政府は、100万人を超えるロヒンギャ族のイスラム教徒を不法移民だとして、彼らの市民権を認めていません。(中略)
ロイター通信によりますと、グテーレス事務総長は5日火曜、ニューヨークの国連本部で、ミャンマー・ラカイン州のイスラム教徒が普通に生活できるよう、彼らに国籍を与えるか、法的な地位を与えることが急務だと強調しました。
また、ミャンマー政府はイスラム教徒が普通の生活を送れるよう用意すべきだとして、ミャンマーの少数派が教育や自由市場に参加できるようにしなければならないと述べました。
さらに、ミャンマーのイスラム教徒は民族浄化の危険性に直面していると警告を発し、ミャンマー政府の関係者に対して、地域を不安定にする暴力を停止するよう求めました。
グテーレス事務総長は、国連安保理に書簡を送っており、その中で、ミャンマーのイスラム教徒に関する懸念を表明し、この国の暴力を停止するための措置を提案しているとしています。
また、バングラデシュに避難した一部のイスラム教徒は、命を失っており、これは大変遺憾なことだとしました。【9月6日 Pars Today】
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グテーレス事務総長は2005年から10年間、国連難民高等弁務官の地位にありましたので、難民問題に対する関心・熱意は人並み以上のものがあると思われます。
【スー・チー氏「大量の偽情報が危機の実態をゆがめている」】
こうした国際的な批判が高まる中で、スー・チー国家顧問がようやくロヒンギャ問題について発言していますが、残念ながら“「大量の偽情報」が危機の実態をゆがめている”との、きわめて後ろ向きのものでした。
****スー・チー氏、「大量の偽情報」が実態を歪曲 ロヒンギャ危機で****
ミャンマーの事実上の指導者であるアウン・サン・スー・チー国家顧問は6日、イスラム系少数民族ロヒンギャの難民ら12万5000人が隣国バングラデシュへの避難を余儀なくされていることをめぐり、「大量の偽情報」が危機の実態をゆがめていると非難した。
先月25日にミャンマーの治安部隊とロヒンギャの武装集団の衝突が発生して以来、スー・チー氏がコメントするのは初めて。スー・チー氏の執務室がフェイスブックに投稿したところによると、同氏は、偽ニュースが利用され、さまざまなコミュニティー間に多くの問題を引き起こし、テロリストらの関与を助長しているとみている。
スー・チー氏はこれに先立ち、トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領と電話で会談。ミャンマー政府軍によるロヒンギャ弾圧をめぐっては世界的に非難の声が上がっているが、同大統領はその急先鋒(せんぽう)に立っている。
ノーベル平和賞受賞者のスー・チー氏は、ロヒンギャの処遇について声を上げることや、ミャンマー政府軍を厳しく非難することを拒んできたため批判が強まっている。
同氏が長年にわたり人権団体から圧力を受けているにもかかわらず、こうしたかたくなな姿勢を貫く背景について、専門家らは、いまだに権力を持つ軍の機嫌をとり、ミャンマーで急速に拡大する仏教徒の愛国心をなだめる思惑があると分析している。【9月6日 AFP】
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“スー・チー氏は、ロヒンギャの遺体とされる写真をトルコの副首相がツイッターに投稿したことに言及し、ミャンマー以外の場所で撮影された「フェイクニュース」だったと指摘。「テロリスト」の利益を推進する目的で流された偽情報の「巨大な氷山の一角」だと強調した。”【9月6日 時事】
確かに多くの情報のなかには“フェイクニュース”が混じっていることもありますが、それを理由に問題とされていることの本質から目をそらすのは“民主化運動の象徴”“ノーベル平和賞受賞者”のスー・チー氏らしからぬことです。
国軍との関係、仏教徒ナショナリズムの台頭はわかりますが、それを乗り越える行動が彼女には期待されています。
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