孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  イスラエル人入植者の暴力に対し制裁措置 従来のイスラエル支持一辺倒からの転換とも

2024-02-02 23:08:09 | パレスチナ

(ガザ地区内のイスラエル人入植地建設を支持する極右会合に集まった人々(エルサレム)【2月1日 WSJ】)

【西岸地区で増加する入植活動、入植者による暴力 イスラエル支持の米独も批判】
パレスチナ・ガザ地区でのイスラエル軍による民間人犠牲者増大等の人道上の問題は連日報じられているところですが、1月6日ブログ「パレスチナ 犠牲者数の上ではすでに事実上の“第5次中東戦争” 更にヒズボラ参戦はあるのか?」でも触れたように、ヨルダン川西岸地区でもイスラエルのよる入植活動が活発化し、入植者によるパレスチナ人への暴力も目だっています。

****イスラエルの入植活動、ヨルダン川西岸で「過去にない急増」 NGO****
昨年10月7日にイスラエルとパレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスの軍事衝突が始まって以降、同自治区ヨルダン川西岸でイスラエルの入植活動が「過去に例のないペースで急増」している。イスラエルの入植活動を監視するNGO「ピース・ナウ」が4日、報告書で明らかにした。

1967年からイスラエルに占領されている西岸では軍事衝突開始以降、イスラエルの入植地が新たに9か所確認され、暴力も急増している。

西岸では約300万人のパレスチナ人が暮らす一方、49万人のイスラエル人も入植地で暮らしている。こうした入植地は国際法違反と見なされているにもかかわらず、イスラエルは承認している。

ピース・ナウは報告書で、今回の紛争開始以降、新規入植者が「記録的な」数に上っているとした上で、西岸で一部入植者によるパレスチナ人を「排除する」動きが増加していると指摘。

イスラエル軍が全権を持つ西岸の被占領地「C地域」に言及し、「入植者は3か月に及ぶガザ戦争を、C地域での広範囲の実効支配を既成事実にするのに利用している」との見解を示した。

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ政権では、入植推進運動の指導者数人が閣僚を務めている。同政権は、一部の入植計画を進めるのに有利となるよう「軍事的・政治的に寛容な環境」づくりに努めてきたとピース・ナウは指摘している。 【1月6日 AFP】
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ネタニヤフ政権の極右指導者はこの機に乗じて、やりたい放題のようにも見えます。イスラエル軍もこうした動きを後押しするかのように、西岸地区での圧力を強めています。
“イスラエル軍、ヨルダン川西岸で多数拘束 過激派関与の疑い”【1月5日 ロイター】

こうした状況に、イスラエルの後ろ盾となってきたアメリカも批判を強めています。

****米、イスラエル過激派入植者へのビザ発給を制限****
米国のブリンケン国務長官は5日、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区での暴力行為に責任があるイスラエル過激派入植者の入国を阻止するための新しい政策を発表した。

ブリンケン氏は声明で、国務省が新たなビザの発給制限を実施すると明らかにした。対象となるのは、暴力行為や、必要不可欠なサービスや基本的な生活必需品への民間人のアクセスの不当な制限などを通じて、西岸地区の和平や治安、安定を弱体化することに関与したと考えられる個人。(後略)【2023年12月6日 CNN】
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また、過去のホロコーストの歴史的経験からイスラエル支持が国是にもなっているドイツも、西岸地区の状況を批難しています。

*****イスラエル人入植者によるヨルダン川西岸での暴力、独外相が非難*****
パレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区でイスラエル人の入植者による暴力が増加していることを受け、ドイツのベアボック外相は、ヨルダン川西岸地区でのパレスチナ人に対する暴力を非難した。

ベアボック氏は8日、訪問先のヨルダン川西岸地区で、記者団に対し、「ここに合法的に住んでいる人々が違法に攻撃されている場合、法の支配の実施と執行はイスラエル政府の責任だ」と述べた。

ヨルダン川西岸地区ラマラのパレスチナ保健省によれば、昨年10月7日以降、ヨルダン川西岸地区では、少なくとも340人のパレスチナ人がイスラエル人の入植者や兵士によって殺害された。

国連人道問題調整事務所(OCHA)は先月、2023年は、記録を開始した05年以降で、ヨルダン川西岸地区でパレスチナ人が最も死亡した年だと明らかにしていた。

イスラエル軍は、1967年にヨルダン軍からヨルダン川西岸地区を奪取して以降、同地区を支配下に置いている。90年代に調印された合意後、イスラエルは支配地域の一部に対する限定的な支配権をパレスチナ自治政府に移譲することで合意した。

イスラエルはヨルダン川西岸地区で、入植地の建設を進めているが、こうした入植地は国際法の下では違法なものとみなされている。

ドイツは、イスラエルの最も緊密な同盟国の一つで、ドイツ政府はイスラエルには自衛権があると繰り返し強調してきた。しかし、ベアボック氏は、パレスチナ自治区ガザ地区での民間人の死者を抑制するようイスラエルに警告する国際社会の指導者の列に加わった。

ガザ地区では、イスラエル軍の攻撃によって昨年10月7日以降、少なくとも2万2835人のパレスチナ人が死亡した。この死者数は、イスラエルとハマスとの紛争が始まる前のガザ地区の人口227万人のうちの約1%に相当する。

ベアボック氏は、イスラエルのカッツ外相やヘルツォグ大統領との会談後、イスラエルはガザ地区での軍事行動で、パレスチナの民間人をもっと保護しなければならないと述べた。【1月10日 CNN】
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【ガザ地区での入植活動再開、ユダヤ人による「新ガザ」建設を主張する極右勢力】
イスラエル・ネタニヤフ政権を支える極右閣僚は、ガザ地区についても再び入植活動を再開し、パレスチナ人を排除して、ユダヤ人による「新ガザ」を建設することを主張しています。

****イスラエル強硬派閣僚、入植者にガザ帰還呼びかけ 米「無謀で扇動的」****
イスラエルのイタマル・ベングビール公共治安相は28日に開かれた集会で、ユダヤ人入植者らにパレスチナ自治区ガザへの帰還を呼びかけた。強硬派として知られるベングビール氏の発言は政府の公式見解と対立するもので、パレスチナ自治政府とイスラム組織ハマスは共に反発している。

ベングビール氏は、ユダヤ人入植者と軍隊がガザ地区に戻ることがハマスによる昨年10月7日の奇襲攻撃を繰り返さないための唯一の方法になるとし、「10月7日のあの出来事を繰り返したくなければ帰還し、この土地を支配する必要がある」と語った。

同集会は入植者の団体が企画し、数百人が参加。十数人の閣僚も参加した。

パレスチナ自治政府は、こうした呼びかけはパレスチナ人の強制移住につながり、地域の安全と安定を脅かすと非難。ハマスは、同集会で「パレスチナ人に対する強制移住と民族浄化の犯罪を実行に移す意図が明らかになった」とした。

イスラエルの戦時内閣に参加しているガンツ前国防相は29日、この集会に連立政権のメンバーが参加したことで、イスラエルの対外的な立場が傷つくと同時に、ガザ地区で拘束されている人質の解放に向けた取り組みが損なわれると懸念を示した。

米ホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は、ベングビール氏の発言は無謀で扇動的なものとして非難した。【1月30日 ロイター】
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****イスラエル極右が目指す「パレスチナ人なきガザ」****
ガザ再占領を否定するネタニヤフ首相に極右勢力の圧力強まる

ユダヤ教のラビ(宗教指導者)であるエイタン・カーンさん(49)は、パレスチナ自治区のガザ市の将来について思い描いていることがある。緑豊かなハイテク都市に変貌させて、ユダヤ系住民や外国人観光客を呼び込みたいと考えているのだ。名称は「新ガザ」に改め、パレスチナ人は歓迎しないという。

エルサレムで1月28日、「入植地が安全をもたらす」と題する極右の会合が開催された。それに参加したカーンさんは「平和を手に入れる唯一の方法はアラブ人を排除することだ」と語った。「そこはイスラエルの都市になる」

イスラエル政府は戦闘終結後のガザの在り方についてまだ具体的な計画を立てていないが、政府内に強い影響力を持つ極右勢力には「ガザにユダヤ人を再入植させる」という明確な目標がある。それは28日に明確に打ち出された。イスラエル占領下のヨルダン川西岸に住む宗教的な入植者を中心とする数千人が閣僚らと共に、エルサレムの講堂で開かれたこの会合に参加したのだ。

会合の主催者は、イスラエル人の新たな入植予定地を記した地図を発表した。「ガザに永久に戻った」と書かれた看板をガザ地区内で振りかざすイスラエル兵の映像が流れる中、群衆は愛国的な歌に合わせて踊り出した。パレスチナ人に対してガザからの一斉退去勧告が出るだろうと参加者らは述べた。

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相をはじめとする高官らはガザ地区について、治安部隊を無期限で配置するものの、再占領するつもりはないと繰り返し表明している。

イスラエル人の大半はガザへの再入植に反対している。ヘブライ大学が最近行った世論調査では、ガザ地区の併合と再入植を支持しているとの回答は35%にとどまった。

だが、連立政権を構成する超国家主義勢力は絶大な影響力を持つ。イスラエル人の約70%がネタニヤフ首相を支持していない今、こうした勢力が連立政権を崩壊させ、新たな選挙を迫る可能性がある。

同時に、イスラエルがガザへの再入植を試みれば、米国や穏健なアラブ諸国との関係が悪化する可能性が高い。米国はパレスチナ自治区ガザの領域を縮小することには何度も反対している。そうした事態になれば、ネタニヤフ氏が長年にわたり優先的に取り組んできたサウジアラビアとの関係正常化も頓挫する可能性が高い。

米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官は29日、ガザでの入植地建設に関する会合をイスラエルの閣僚らが支持したことは「無責任かつ無謀で、扇動的でもある」と述べた。

この会合では、イスラエルの極右閣僚であるイタマル・ベングビール国家治安相も踊りに加わり、ネタニヤフ氏にガザ地区の将来について「勇気ある決断」を下すよう訴えた。閣僚11人と議員15人が壇上に上がり、ガザにイスラエル人入植地を再び作ることを支持する宣言に署名した。その中にはネタニヤフ氏率いる与党リクードの党員も多数いた。【2月1日 WSJ】
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こうした極右勢力の協力がなければネタニヤフ政権は崩壊し、選挙になります。選挙になると国民支持を失っているネタニヤフ首相は政権を手放し、現在の状況に対する政治責任を問われることになります。

従って、ネタニヤフ首相としては極右閣僚の言動を抑えることができない、あるいは、かれらの強硬姿勢に引きずられているとの指摘があります。

【バイデン政権 入植者の暴力行為に制裁措置 イスラエル紙「歴史的な動きだ」】
話を西岸地区の入植活動に戻すと、先述のように以前からイスラエルに自制を求めてきたアメリカ・バイデン大統領は、改善しない状況に、スラエルに対する批判を一段階上げたようです。

****米、イスラエル入植者に制裁 占領地・西岸で「地域に脅威」 ネタニヤフ政権に圧力****
バイデン米大統領は1日、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸でユダヤ人入植者によるパレスチナ住民への暴力が頻発しているのを受け、過激な入植活動を行う個人や団体への制裁を可能にする大統領令を発表した。

国務省は同日、住民殺害などに関与した極右のイスラエル人入植者の男4人を制裁対象に指定した。米政府が同盟国イスラエルの入植活動に制裁を科すのは極めて異例だ。

占領地である西岸への入植は国際法に反しており、米国を含む国際社会が目指すイスラエルと将来のパレスチナ国家による「2国家共存」の障害とされる。大統領令は、2国家を否定し入植を進めるイスラエルのネタニヤフ政権への警告の意味があり、今後は制裁対象者が拡大する可能性がある。

一方、米ニュースサイト「アクシオス」は1月31日、米国がパレスチナを国家承認する場合を想定し、国務省が政策検討に着手したと伝えた。実際に承認すれば、パレスチナ国家樹立はイスラエルとの協議によるべきだとしてきた従来の立場から大きく転換することになる。

国連人道問題調整室(OCHA)によると、パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスとイスラエルの戦闘が始まった昨年10月7日以降、西岸では入植者によるパレスチナ人への暴力が約500件発生し、子供を含む少なくとも8人が死亡、100人以上が負傷した。イスラエルは治安維持に必要な措置を講じていると主張している。

バイデン氏は大統領令で、過激な入植者の暴力でパレスチナ人が住む場所や財産を奪われていることは、地域の「平和と安全、安定に深刻な脅威」だと非難。制裁対象の4人は、米国内の資産が凍結され、米国人との銀行間送金などが不可能になる。

ハマスとイスラエルの戦闘発生後、バイデン政権は入植や暴力事件の増加への懸念をイスラエルへ伝達。昨年12月には入植者数十人への米査証(ビザ)発給を制限した。その後も事態が改善しないことから制裁発動に踏み切った。【2月2日 産経】
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今回制裁対象となった4人は、建物への放火で死者を出したことの責任が問われています。

“イスラエルのネタニヤフ首相は声明を出し、「住人の大多数は法を順守する国民である」と強調。「多くは徴兵や予備役として、イスラエルを守るために戦っている」などと擁護しました。”【2月2日 TBS NEWS DIG】

バイデン大統領の今回措置は、アメリカ国内のリベラル派や若者の間でパレスチナ側への同情が拡大し、イスラエル批判が強まっていることも影響していると指摘されています。

バイデン大統領の支持基盤であるリベラル派や若者の間でのこうした動きは、ただでさえ大統領選挙で苦戦しているバイデン陣営にとっては大きな痛手となりかねませんので、それへの対応をとったというところでしょうか。

****バイデン氏の演説、10回以上中断 ガザ情勢対応に抗議の叫びで****
米南部バージニア州マナサスで23日に開かれたジョー・バイデン大統領(81)の選挙集会で、パレスチナ自治区ガザ地区での即時停戦を求める抗議者が次々と声を上げ、バイデン氏の演説が約20分間に10回以上中断する場面があった。

ガザ地区ではイスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が続いているが、民間人の死傷者が拡大。民主党支持者の間では、米国によるイスラエル支援や即時停戦反対の姿勢に反発する声が若い世代を中心に広がっている。

抗議者らは1人ずつ立ち上がって「今すぐ停戦を」「ジェノサイド・ジョー」などと連呼。1人が警備担当者に外へ連れ出されると、しばらくして別の抗議者が叫び出す場面が続いた。

バイデン氏は当初は「彼らは身につまされる思いなのだ」と語る余裕を見せていたが、最後は抗議の声に構わずに演説を続けた。会場の外では、パレスチナの支持者ら数十人が抗議デモを行った。【1月24日 毎日】
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今回制裁措置について、“イスラエルに寄り添ってきたバイデン政権の今回の厳しい対応をイスラエル紙ハーレツは「歴史的な動きだ」と報じた。”【2月2日 共同】

イスラエルとアメリカ・バイデン政権の間の溝は“ポスト・ハマス”のガザ地区に関する青写真、「2国家共存」の是非等に関しても広がっていますが、そのあたりはまた別機会に。
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