孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イスラエル  シオニズムやパレスチナ問題とは距離を置くユダヤ教超正統派

2017-11-27 22:08:40 | 中東情勢

(兵役義務に抗議するユダヤ教超正統派の人々と、デモを排除する警官【11月21日 AFP】)

安息日の鉄道補修工事に抗議して閣僚辞任
個人的には宗教とほとんど縁がないため、イスラム原理主義的とかキリスト教の宗教右派とかいった、宗教的主張主張が強い人々の心情は、正直なところ理解しがたいものを感じています。

各宗教とも、普段の行動は世俗主義的な人々とさほど変わらない人々から、聖典の一言一句を現実生活にあてはめ厳密な戒律を実行している人々まで多様ですが、ユダヤ教にあってもそのあたりは同様です。

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ユダヤ人はざっくり言うと4つに分かれていて、
超正統派(黒い服を着て、ハットを被ってる人たち)
宗教派(普通の服装だが、律法を守ってユダヤ教を信じる人たち)
伝統派(宗教ではなく、民族の伝統として律法を守る人たち)
世俗派(宗教にも律法にも興味の無い人たち)
http://senderofview.com/yudayakyou-tyouseitouha-hukusou-bousi/)】
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ユダヤ教徒と言えば、黒のスーツと帽子を着用しヒゲやモミアゲを長く伸ばした人々をよくイメージしますが、彼らはユダヤ教の正統派の中、その中でも特に厳格に律法に従う立場をとる“超正統派”(ハレーディー、ハレーディーム)と呼ばれる人々で、イスラエル人口の10%を占めています。

超正統派の人達は、生まれてから一度もモミアゲを切ったことがないそうですが、聖書に、「モミアゲは大事な場所である」と記載されているから・・・だそうです。
イスラム過激派がヒゲにこだわるのとよく似ています。

なお、ユダヤ教については何も知りませんので、「ユダヤ教の『超正統派』が奇抜っ?漆黒の服装や帽子のブラック事情!」(10月27日 http://senderofview.com/yudayakyou-tyouseitouha-hukusou-bousi/)などを参考にさせてもらいましたが、誤解や不正確な記述はご容赦ください。(興味のある方は、ご自分で確認してください)

最近、このユダヤ教超正統派の人々に関する記事を目にしました。

****安息日の鉄道工事、是か非か イスラエル閣僚が抗議辞任****
イスラエルのリッツマン保健相は26日、ユダヤ教の安息日シャバットに鉄道の補修工事が行われたことに抗議し、辞任した。リッツマン氏はユダヤ教超正統派の政党「ユダヤ教連合」の党首で、「もう大臣としての責任を果たせない」とした。
 
ユダヤ教では、金曜日没から土曜日没までが安息日とされる。労働が禁じられているため、ほとんどの店は閉まり、バスや鉄道なども原則運行しておらず、街は静まりかえる。

ただ、必要不可欠な一部労働は法的に認められている。保健相が辞任の理由として挙げる工事は、平日の乗客輸送に影響を与えないよう安息日に行われたという。
 
ユダヤ教連合は国会定数120議席中、6議席を占め、ネタニヤフ首相率いる右派連立政権に参加しているが、離脱はしない方針だ。ネタニヤフ氏は26日、「安息日は我々にとって重要だし、安全で継続的な輸送の確保も全ての市民に必要なことだ」と述べた。
 
イスラエルではユダヤ教の戒律に厳格な正統派と、宗教による市民生活の規制を嫌う世俗派のあつれきがあり、長年の論争になっている。【11月27日 朝日】
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ユダヤ教にあっては安息日の労働禁止が重視されることはかねてから聞き及んではいます。
安息日にはイスラエルでは交通機関もストップし、国境も閉じているそうです。(観光客は大変そう)

ただ、社会生活維持に必要な鉄道補修工事も認めない・・・というのは、一般人にはなかなか理解しがたいものがあります。

“安息日に仕事をしてはいけない”というと、趣味やレジャーを楽しめるようにも思われますが、ユダヤ教にあっては料理、車の運転、ゲーム、パソコン、スマホも“仕事”にあたるとかで、“じゃ安息日には何をするのか?”と言えば、「休息日は仕事をせずに、家族と対話をしましょう」とのこと。

不公平批判から新たに兵役義務も
****超正統派ユダヤ教徒ら33人拘束、兵役義務への抗議デモで****
中東エルサレムとイスラエルのテルアビブ近郊で20日、イスラエル人ユダヤ教超正統派の兵役義務化に対する抗議デモがあり、参加者らとイスラエル警察が衝突、警察によると33人が拘束された。【11月21日 AFP】
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超正統派の人々は、1948年の建国直後からユダヤ教学院(イエシバ)で宗教を学ぶことを条件に兵役を免除されてきました。

しかし、他の国民からの不公平感が高まり、2017年から兵役免除の特典が廃止されることとなりました。その結果、超正統派がイスラエルを去り、他国へ移住する動きが広まっています。上記記事はそうした混乱の一つです。
https://matome.naver.jp/odai/2141310159162401701

イスラエルというと、徴兵制のもとで、男性も女性も等しく銃を手にしてイスラム・アラブ世界に囲まれた祖国を守る・・・・というイメージがあり、実際そうでもありますが、超正統派の人々に限ってはかなり趣が異なります。

現代イスラエルは不信仰な人間の手によって建国された国であって、神の御心に反している」】
兵役にもつかないぐらいですから、イスラエル建国やパレスチナ問題に関する考え方も、いわゆる“イスラエル的”なものとは異なります。

****黒い服の超正統派****
さて、最も宗教的な「超正統派」とは、どういう人々でしょうか。 彼らは統計上、38万人いるとされています。 彼らは黒い帽子、黒い服を着ているので、すぐに見分けられます。彼らの中には様々なグループがありますが、ここではその中で二つをご紹介します。

その一つは、現代イスラエル国家の存在を否定している人々です。 独立記念日に、エルサレムで超正統派の人々が多く住むメア・シェアリームと呼ばれる地区を訪問すると、彼らは黒旗を揚げて喪に服しています。

現代イスラエルは不信仰な人間の手によって建国された国であって、神の御心に反していると、彼らは考えているのです。

彼らの中の「ネトゥレイ・カルタ」という過激なグループは、イスラエルの敵を支持する行動を行うため、いつも物議をかもしています。 イランを訪問して、イスラエル殲滅を叫ぶアフマディネジャド大統領を訪問した指導者もいました。

一方、超正統派の中には熱烈にメシアを待望する人々もいます。 「ルバビッチ運動」と呼ばれる人々の中には、ニューヨークで10年以上前に死去したシュヌルゾンという偉大なラビがメシアだったと信じる集団があります。

彼らは、その偉大なラビが復活して再臨すると信じ、そのラビのポスターをイスラエルの各地に貼り「メシア来臨に備えよ」と訴えています。 彼らは異邦人に対する宣教も積極的です。【「シオンとの懸け橋」】
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“現代イスラエルは不信仰な人間の手によって建国された国であって、神の御心に反している”・・・・いわゆる“宗教右派”的な祖国への執着、シオニズム、パレスチナへの厳しい対応とは全く異なります。

この超正統派の人々を支持基盤とする政党が、連立にも加わっている「ユダヤ教連合」(ユダヤ・トーラ連合)です。

****ユダヤ・トーラ連合****
・・・・この政党は、現行のパレスチナ問題に対して特に関心は持っていない。逆に、シオニズムについても特段関心はなく、一部の議員はシオニズムを批判している。例えば、2009年に死去したこの党に所属していたアブラハム・ラヴィツは、次のように言った。

「シオニストたちは間違っている。<イスラエルの地>に対する愛を育むためなら、その全土にわたって政治、軍事的支配を打ち立てる必要などまったくないはずなのだ。人は、テルアビブにいながらにしてヘブロンの町を愛することができる。(中略)ヘブロンの町は、それがたとえパレスチナ側の支配下に置かれたとしても十分愛され得るだろう。イスラエル国自体は一つの価値ではない。価値の範疇に属するものは、もっぱら精神に関わる事象のみである」【ウィキペディア】
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信仰心さえあれば、現実の“領土”がどうであっても全く関係ない・・・・という立場のようです。
<イスラエルの地>にこだわる宗教右派の立場を“突き抜けて”しまっています。

ちなみに、保守強硬派として対パレスチナの先頭にたっている「宗教派」は以下のようにも。

****宗教派の人々****
54万人とされる宗教派(正統派)の人々は、普通の服を着ています。 男性はたいていキッパという丸い帽子を着用していますが、色のついていないキッパをかぶる人ほど、より保守的な人が多いです。 ただし、キッパを着用する人が全て宗教派とは限りません。

宗教派の中で「宗教右派」と呼ばれる人々は、ユダヤ・サマリヤ(西岸地区)が神から与えられた約束の地だと信じ、入植活動を熱心に行っています。 人間の活動が、神の約束の成就を早めると考えるわけです。

宗教右派の人々の中には行き過ぎた行動に走る人々もいます。 たとえば、1994年にヘブロンで礼拝中のアラブ人を多数殺害したゴールドスタインも、宗教右派組織「カハ」に属していました。 1995年にラビン首相を暗殺したイガル・アミルも宗教右派の青年で、今でも「自分は神の御心を行った」と確信しています。

2005年のガザ撤退時には、国防軍と警官隊に対峙する多くの若者たちの様子がテレビで全世界に中継されましたが、その若者たちも宗教右派です。 彼らは右派ラビの薫陶を受け、決死の覚悟で入植拠点の撤去に反対するため、国防軍は対応に苦慮しています。

なお、宗教派の人々が全て過激だと言うわけではなく、穏健な考え方の人々も数多くいることを理解しておく必要があります。 逆に、政治的な右派の人々が全て宗教的なわけでもありません。

政党で言えば、UTJは宗教的ですが政治的には中道に近く、イスラエル我が家は、政治的には右派ですが世俗的傾向が強いです。【「シオンとの懸け橋」】
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こちらは比較的理解はしやすいですが、パレスチナ問題の解決を難しくしている人々でもあります。

国内政治基盤は脆弱な第4次ネタニヤフ政権
2015年5月に成立したネタニヤフ第4次政権は、ネタニヤフ首相率いる右派リクード(30議席)▽中道右派クラヌ(みんなの党、10議席)▽「ユダヤの家」(8議席)▽ユダヤ教超正統派「シャス」(7議席)▽ユダヤ教正統派「ユダヤ教統一律法党」(6議席)の右派系5党61議席で構成すされています。

ユダヤ教正統派「ユダヤ教統一律法党」(6議席)と表記されているのが、「ユダヤ教連合」(ユダヤ・トーラ連合)です。

同じ超正統派でも、パレスチナ問題に距離を置く「ユダヤ教連合」(ユダヤ・トーラ連合)が、“アシュケナジー”(ユダヤ系のディアスポラのうちドイツ語圏や東欧諸国などに定住した人々、およびその子孫を指す)を代表するのに対し、ユダヤ教超正統派「シャス」は“セファルディム”(ディアスポラのユダヤ人の内、主にスペイン・ポルトガルまたはイタリア、トルコなどの南欧諸国に15世紀前後に定住した者を指す)を代表しており、パレスチナに対してはあまり寛容ではないようです。

「ユダヤの家」は宗教右派で、入植活動に積極的な党です。

保守派ネタニヤフ政権は宗教右派や超正統派を集めてやっと過半数を維持している状況にあります。
国内基盤がぜい弱だと、対外的に強硬姿勢をとることで求心力を維持しようとする動きになりやすい傾向があります。

****アメリカは極右イスラエルをどうするのか****
・・・・ネタニヤフ政権の基盤は盤石ではありません。国会120議席のうち、連立与党は61議席であり、辛うじて過半数を維持しているにすぎません。しかもイスラエル国内は不景気で、高い失業率や不動産価格の高騰などにより国民の不満が高まり、政権の支持率は不安定な状態にあります。

ネタニヤフ政権がイランへの制裁解除に反対し、核施設への先制武力攻撃を主張しているのも、それが要因になっています。国外の敵をことさら強調して、これを叩くことで求心力を高めようとしているのです。(後略)【2015年08月21日 東洋経済online】
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こうしたネタニヤフ首相とオバマ前大統領の関係は険悪でしたが、トランプ大統領に代わってからは、安倍首相同様に親密な関係に一転しています。

超正統派に厳しい社会風潮も
超正統派に関するニュースとしては、下記のようなものもありました。

****ユダヤ教超正統派の男22人を性的暴行で身柄拘束 イスラエル****
イスラエルの警察当局は27日、女性などへの性的暴行の容疑でユダヤ教の超正統派の男20人以上の身柄を拘束した。閉鎖的な超正統派の地域社会の中では、男らに疑いがかかっていることは知られていたが、当局に見つからないように隠蔽(いんぺい)工作をしており、警察によるおとり捜査が行われていた。
 
警察によると身柄を拘束されたのは、エルサレムやパレスチナ自治区ヨルダン川西岸の超正統派入植地ベイタル・イリットなどの居住区に住む20~60歳までの男22人で、過去2年間にわたり地元の女性や若者、子どもに対して性的暴行を働いたとされる。容疑者らは警察で事情聴取を受けた後、訴追される可能性がある。
 
エルサレムでは、容疑者たちの居住区の住民らが逮捕を妨害するために、警察官らに怒鳴りつけたり、投石したりする姿もみられ、警察車両2台の窓が割られたという。
 
超正統派のそれぞれの地域社会の中ではラビ(ユダヤ教指導者)の指導の下、内部でこれらの犯罪とその容疑者を調査し、犯行が警察に知られないために容疑者がするべきことを定めていた。

警察はこの超党派コミュニティ内部の調査プロセスをあばき、容疑者の身柄を拘束することで、今後の性的暴行事件の発生を防ぎ、これまでの被害者を助けることにもつながると説明している。
 
ユダヤ教の超正統派はイスラエルの人口の約10%を占め、ユダヤ教の厳格な解釈の基に生活している。さらに原理主義的なグループは、世俗的な政府機関の権限を認めることを拒否し、警察や司法制度をできるだけ避け、宗教的な教義やラビの教えに従っている。【3月28日 AFP】
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イスラム教やキリスト教でもそうですが、性に関して厳格な戒律を強調するほど、性的な問題・虐待・暴力は水面下の陰湿な形で行われることにもなります。

先述の兵役義務や、上記警察の対応など、ユダヤ人社会にあっても超正統派への風当たりは強まっているようです。






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