(イラン・コム 市庁舎前に集まり「有毒ガス」事件の説明を求める生徒の家族【2月28日 ARAB NEWS】
コムは体制を支える宗教関係者が集まる特殊な都市 その聖地の女子校が主に狙われたというのは興味深いところ)
【“力”で封じ込まれた反政府デモ 政権は更に保守強硬姿勢を強める】
イランでは2022年9月、女性が着用を義務づけられている“ヒジャブ”と呼ばれるスカーフをめぐって22歳の女性が拘束され死亡、この女性の死をきっかけに反政府デモが激化しました。
抗議行動の拡散のなかで、単に“ヒジャブ”の問題にとどまらず、「(最高指導者の)ハメネイに死を!」「自由に万歳!自由に万歳!」といったスローガンが叫ばれるように、現在の宗教支配を否定し、自由を求める声も出てきました。
数か月に及んだ抗議行動でしたが、上記のような現行体制の否定にもつながる動きに警戒感を強めた体制側の“力”による封じ込めによって、ほぼ終焉したような状況のようです。
この抗議行動鎮圧を通して、イラン体制の保守強硬姿勢は更に強まったようにも思われます。
****反政府デモに勝利したイラン保守強硬派 強まるロシアとの協力****
米ジョンズ・ホプキンス大学のヴァリ・ナスル教授が、米国の外交専門誌「フォーリン・アフェアーズ」ウェブサイトに2月6日付で掲載された論説‘Iran’s Hard-Liners Are Winning’で、反政府デモを鎮圧したイランの保守強硬派は強硬さを増しており、西側は核問題のみならずウクライナ問題へのイランの関与等、重要課題を包括的に交渉するべきであると論じている。主要点は以下の通り。
・過去5カ月の反政府デモにおいて、イスラム革命体制が倒れるとの観測が広まったが、治安部隊による苛烈な弾圧、反政府デモ側の指導者と組織力の欠如から革命体制が主導権を取り戻している。反政府デモを通じて保守強硬派は過去にないほど強硬となっている。
・反政府デモは、2015年のイラン核合意の再開の見込みをおぼつかないものにした。
・イラン側の核合意に反する行動は国際原子力機関(IAEA)を警戒させている。最近、IAEAの事務局長は、イランは数個分の核爆弾に相当する濃縮ウランを備蓄しているとして、イランを非難し国連制裁を再開する可能性について安保理に報告する見込みだ。イラン側は、そのような場合、核拡散防止条約(NPT)から脱退し、核兵器保有宣言をすると脅かしている。
・イランは国際的な孤立の深まりに比例してロシアに接近、最新鋭のドローンを供与している。ロシア側にとってもイラン製武器が必要な限りイランとの関係が戦略的な支えとなっている。
・ロシアは新型の戦闘機や防空システムのような重要な武器をイランに渡すであろう。西側はロシアとイランという個々の脅威に加えて両国の共同の脅威にどう対応するかという問題を抱えることになる。
・米国とその同盟諸国は、少なくともイランの強硬姿勢を和らげる戦略を考えるべきだ。そのような戦略は、ロシアのウクライナ侵攻へのイランの関与とイランの核開発を含む最も緊急な課題についての対話と圧力及びペナルティーの組み合わせである必要があろう。
欧米は、中断している核合意再開交渉のみならずウクライナ問題や地域問題を含んだより広汎な外交努力を開始するべきである。さもなければ、イランの保守強硬派は、イランをより危険な方向に向かわせるだろう。(後略)【3月3日 WEDGE】
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【高濃縮ウラン問題 IAEA事務局長のイラン訪問で一応の結着か】
核合意再建交渉は行き詰まっていますが、反政府デモ鎮圧を批判する欧米に対抗するように、イラン側の核合意違反の行為が目立つようになっています。
****イランの高濃縮ウラン確認=兵器級に近い83.7%―IAEA****
国際原子力機関(IAEA)が最新の報告書で、イラン中部フォルドゥの地下核施設で濃縮度83.7%の高濃縮ウランを特定したと説明していることが28日、明らかになった。AFP通信などが報告書の内容を報じた。イラン側はIAEAに「(60%への)濃縮過程で意図しない変動が起きたかもしれない」と釈明しているという。
イランは核合意の上限である3.67%を大きく逸脱する濃縮度60%のウラン製造を続けている。濃縮度が90%に達すると核兵器に転用可能とされる。
IAEAは原因を巡り、イラン側と協議を続けているという。イランのアブドラヒアン外相は27日、IAEAのグロッシ事務局長が「近日中」にテヘランを訪問すると述べており、突っ込んだやりとりが交わされる可能性がある。【3月1日 時事】
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イランは核兵器の保有意思を否定しており、イラン高官は濃縮過程で60%を超えるウラン粒子が検出されることもあると説明した上で「決して隠そうとはしていない」と強調、イラン原子力庁報道官も「報道は事実の歪曲だ」「濃縮過程で60%を超える粒子が存在しても、濃縮度が60%を超えたことにはならない」と反論しています。
いずれにしても、イランの核保有の技術的可能性は非常に高いレベルに達しています。
****イラン、核爆弾1発分の核分裂物質を約12日間で生産可能=米高官****
米国のコリン・カール国防次官は28日、下院公聴会で、イランは現在、核爆弾1発に必要な核分裂性物質を約12日間で生産できるとの見方を示した。生産所要期間は、米国がイラン核合意から離脱した2018年時点で推定されていた約1年間から大きく短縮されたことになる。
カール氏は「米国がイラン核合意から離脱して以降、イランの核開発の進展は著しい」と強調した。
その上で同氏は「この問題を外交的に解決してイランの核プログラムを抑制できれば、他の選択肢よりも好ましいという見方が依然としてあると私は思う。だが現時点では、核合意は凍結されている」と述べた。
米高官はこれまで、イランが核爆弾1発分の核分裂性物質の生産に数週間程度かかると推定してきたが、これほど具体的に述べたのはカール氏が初めて。【3月1日 ロイター】
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こうした状況で国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長がイランを訪問し、一応、80%超の濃縮ウランは蓄積されていないというイラン側主張を受入れ、イラン核施設への監視を強化することで合意したことが発表されています。
****80%超濃縮ウラン「蓄積なし」=イランと監視強化で合意―IAEA****
イランを訪問した国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は4日、ウィーンの空港で記者会見し、イラン中部フォルドゥの核施設で核兵器級に近い濃縮度83.7%のウラン粒子が検出された問題について「その水準の濃縮ウランは蓄積されていない」と述べた。また、イラン原子力庁との共同声明を発表し、核施設への監視を強化することで合意したと明らかにした。
グロッシ氏は高濃縮のウラン粒子が意図的に作られたものかどうかに言及せず、「この種の施設では偶発的に起こり得る」と解説した。「濃縮過程で起きた意図しない変動の可能性」とするイラン側の説明をおおむね受け入れた形だ。
一方、イランが手掛ける濃縮度60%のウラン製造に関し「既に相当に高い水準だ」と懸念を示した。【3月5日 時事】
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****IAEA事務局長がイラン訪問 原子力庁のトップらと会談、核施設監視カメラなど再設置で合意****
IAEA=国際原子力機関のグロッシ事務局長がイランを訪問し、核開発をめぐり原子力庁のトップらと会談しました。イラン側が撤去した核施設を監視するカメラを再び作動させることなどで合意したということです。
IAEAのグロッシ事務局長は3日から、イランの首都テヘランを訪問していて、ライシ大統領のほか、エスラミ原子力庁長官らと会談しました。
会談後、イランとIAEAは共同声明を発表。声明では、イランはIAEAの監視活動に自発的に協力するなどとしています。
4日、オーストリアに戻ったグロッシ事務局長は、去年6月以降撤去されていた核施設を監視するカメラを再び作動させることなどで、イラン側と合意したと明らかにしました。
IAEA グロッシ事務局長 「ご存じの通り、ここ数か月間は核施設の監視活動の一部が縮小していた。今回それらを再開することで合意した」
グロッシ氏は合意について「言葉だけでなく、極めて具体的なものだ」とし、成果を強調していますが、現時点ではどの核施設でどの機器を再び作動させるかなどは明らかにしていません。(後略)【3月5日 TBS NEWS DIG】
IAEAのグロッシ事務局長は3日から、イランの首都テヘランを訪問していて、ライシ大統領のほか、エスラミ原子力庁長官らと会談しました。
会談後、イランとIAEAは共同声明を発表。声明では、イランはIAEAの監視活動に自発的に協力するなどとしています。
4日、オーストリアに戻ったグロッシ事務局長は、去年6月以降撤去されていた核施設を監視するカメラを再び作動させることなどで、イラン側と合意したと明らかにしました。
IAEA グロッシ事務局長 「ご存じの通り、ここ数か月間は核施設の監視活動の一部が縮小していた。今回それらを再開することで合意した」
グロッシ氏は合意について「言葉だけでなく、極めて具体的なものだ」とし、成果を強調していますが、現時点ではどの核施設でどの機器を再び作動させるかなどは明らかにしていません。(後略)【3月5日 TBS NEWS DIG】
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なんとかかんとか、欧米との合意形成に向けた枠組み内にとどまった・・・というところでしょうか。合意形成は相当にハードルが高くなっていますが。
【強化されるロシアとの軍事協力体制 イスラエル・アラブ諸国の反発も】
そうしたなか、国際的孤立を深めるイランとロシアが軍事協力するという関係が深まっています。
****露イランが軍事協力深化 ウクライナ侵略支援、中東の不安定化にも影響****
米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は24日、ロシアがイランからさらなる武器支援を得る代わりに、同国に戦闘機や防空システムなどの供与を含む「かつてないレベルの軍事協力」を提案しているとの情報があると明らかにした。
バイデン政権は、高性能なロシア製兵器がイランに流れれば中東地域の不安定化を招く恐れもあるとして警戒を強めている。
カービー氏が記者団とのオンライン会見で説明したところでは、イランは昨年11月、ロシアがウクライナで使用する大砲や戦車の砲弾を供給。
ロシアは、イランがこうした軍事支援を拡大するのと引き換えに、戦闘機や防空システム、ミサイル、電子機器などをイランに供与することを提案した。
供与が検討されている兵器の名称や数量は明らかにされていない。イランはこれらに加え、攻撃ヘリやレーダー、高等練習機YAK130を含む数十億ドル相当の供与を求めているとみられるという。
カービー氏によるとロシアは昨年8月以降、イランからドローン(無人機)数百機を調達し、ウクライナのインフラ施設への攻撃などに利用。イランとミサイル開発などで協力関係にある北朝鮮も、ウクライナ侵攻を支える露民間軍事会社「ワグネル」に武器・弾薬を供与しているとみられている。
ロシアがイランや北朝鮮からドローンや弾薬の供与を受けるのは、戦闘が長期化する中で、自前の砲弾やロケット弾が枯渇しつつあるためだとの見方が強い。
その一方でロシアは防空システムなどの高性能兵器では依然として優位性を保っている。イランなどにとって、ロシアが大砲などローテクノロジー兵器の不足に苦慮する現状は、同国に恩を売り、その技術を自国に導入する絶好の機会だ。
核関連技術やミサイルの開発を続けるイランは、中東地域における米国の重要同盟国であるイスラエルやサウジアラビアにとって最大の脅威。イランの軍事力増大は、中東の緊張を高める要因となる。【2月25日 産経】
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“イランは07〜20年の間、核兵器開発疑惑を巡って、国連安全保障理事会決議に基づく武器禁輸の制裁を受けた。制裁下では過去に導入した米国製やロシア製の戦闘機の整備や部品調達に苦慮してきたが、ロシアが新型の戦闘機の供与に踏み切れば、軍事力を強化できる。サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)など周辺のアラブ諸国や、イランが敵視するイスラエルにとっては、安全保障上の懸念が強まることになる。”【2月25日 毎日】
すでに1月29日にはイスラエルによるイラン・イスファハンの軍需工場と思われる施設へのドローン攻撃が実施されています。
****軍事報復が続くイスラエル・イラン関係 米国は関与できるか****
(中略)1月29日に行われたイスラエルによるイランに対するドローン攻撃は、イスラエルのモサド(対外情報部)がイラン中央部イスファファンにあるイラン国防省の施設を狙ったものであり、4カ所に対して正確な攻撃を行った。
この攻撃に詳しい関係者は、攻撃された国防省の施設は軍需工場だとしており、道路をはさんで宇宙研究センターに所属する施設があるとしている。
この宇宙研究センターは、物質・エネルギー研究所を含むが、イスラエルの研究者によれば、物質・エネルギー研究所は、ドローン、ミサイル、人工衛星の研究開発や核開発のための資材のテストを行っている可能性がある。同研究所の研究は新兵器の生産に用いられている可能性もある。
宇宙研究センターのウェブサイトでは、リバース・エンジニアリング(第三者の機材を分解して模倣すること)を行っているとしていることから、宇宙研究センターは、ロシア側が提供した軍事技術をコピーしていると見られ、国防省のために最新兵器の生産ラインを製造していると考えられる。(後略)【2月24日 WEDGE】
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このイスラエルの攻撃は米国務長官とCIA長官がイスラエルを訪問するタイミングで起きており、イランに対する攻撃だけでなく、対イランで腰が重いアメリカを牽制する狙いがあるとのこと。
イスラエルはイラン核開発が進むことを座視することはないので、今後もこうした攻撃が繰り返され、それに対するイラン側の報復もまた繰り返される・・・という形で、緊張関係が高まっていくと推測されます。
【女子学生を狙った有毒ガス? 「女性の教育に反対する宗教団体」やイスラム過激派による犯行?】
上記のようなイランの国内・国外情勢のなかで、ある「事件」が注目されています。
****イランで女子学生を狙った毒物事件相次ぐ 被害者は数百人 当局も調査****
イランのイスラム教シーア派の聖地などで女子校を中心に有毒ガスとみられる化学物質がまかれる事件が相次いでいます。これまでに数百人の被害者が出ていて、イラン当局が調査に乗り出しました。
イランメディアによりますと、シーア派の聖地コムの学校で去年11月、20人近くが病院に運ばれる被害が初めて確認されて以降、周辺都市の女子校でも同様の被害が続発。イギリスBBCは首都テヘラン近郊の女子校で2月末、37人の女子生徒が被害を訴えたと伝えていて、有毒ガスがまかれたとみられます。
被害を訴える女子生徒
「胸が痛くて歩こうとすると足が少し震える」
「立ち上がると、めまいがし、まひした感じがして歩けない」
ロイター通信によりますと、イラン当局は複数の学校で数百人に及ぶ被害が確認されたとしています。
また、事件には兵器用の化学物質ではなく一般に入手できるものが使われたとの見方を示していますが、何が使われたかは毒物の専門家が調査しているということです。
犯人の特定には至っておらず、イラン指導部の中では過激な主張を繰り返すイスラム過激派の関与の可能性も指摘されています。
イランでは女性のスカーフ着用をめぐるデモが反政府デモに広がるなど混乱が起きていますが、デモと事件の関連は分かっていません。【3月4日 TBS NEWS DIG】
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イランのバヒディ内相は3月1日、国営メディアに「一部はストレスや不安によるもので、イランの敵や外国の報道機関が不安をあおっている」と語り、西側の“過度”の反応を牽制しています。
確かに、この種の事件ではストレスや不安によって連鎖反応的に混乱が拡散されることが多々あります。本当に有毒物質のために体調が悪くなった者は限定的かも。
いずれにしても。ライシ大統領は1日、バヒディ氏に調査の監督を命じたとのこと。
イラン国会の教育委員長は「30人の毒物学者が学校で見つかった毒物を窒素ガスだと判断した」と述べいるようです。委員長や副保健相は、女子の通学を妨げることが動機だとして、イスラム過激派が関与した可能性に言及したとのこと。
生徒の被害は中部コムなど少なくとも4都市の30以上の学校で確認されており、ユニセフは「女子の教育率に悪影響を及ぼしかねない」との声明を出し、支援を提供する用意があると述べています。【3月4日 共同より】
「女性の教育に反対する宗教団体」やイスラム過激派による犯行でしょうか? 真相解明が待たれます。
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