孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パレスチナ・ガザ地区とイスラエル ロケット弾攻撃と空爆の応酬

2012-11-16 23:46:41 | パレスチナ

(ハマスのロケット弾 “flickr”より By marsmet543 http://www.flickr.com/photos/71744937@N07/8133370673/in/photostream/

テルアビブ近郊にもロケット弾着弾
パレスチナ・ガザ地区を巡っては、今月10日から3日間、ハマスなど武装組織がイスラエルに向けロケット弾など100発以上を撃ち込み、イスラエル軍兵士4人が負傷。これに対しイスラエル軍はガザを空爆し、住民ら7人を殺害、その後、両者の間で非公式な停戦合意が成立したとみられていました。【11月15日 毎日より】

しかし、イスラエルが14日の空爆で、ガザ地区を実効支配しているイスラム原理主義組織ハマス軍事部門の幹部、アハマド・ジャバリ司令官を殺害したことを受けて戦況は一気にエスカレートし、ガザ地区とイスラエルの間で双方の報復攻撃が続いています。

****ガザ地区:イスラエル空爆続行 ハマス応戦 死者21人に****
イスラエル軍は16日、前日に続きイスラム原理主義組織ハマスが実効支配するパレスチナ自治区ガザを空爆した。ハマスもロケット弾で応戦しており、14日以降の死者は双方で子供を含む計21人に上った。AP通信によると、イスラエルはガザとの境界近くに戦車などの部隊を移動させ、予備役兵士3万人のうち1万6000人の招集を開始。地上戦への備えを強めている。

イスラエル軍は14日以降、ロケット弾の発射施設150カ所を含む少なくとも450カ所を空爆した。パレスチナ自治政府の内務省の庁舎にも着弾。一連の空爆によるパレスチナ人の死者は18人となった。

一方、ハマスも14日以降、イスラエル領内に向けて約280発のロケット弾を放って反撃しており、15日にはイスラエル人3人が死亡した。ガザ北方約70キロにあるイスラエル最大の商業都市テルアビブにも2発が飛来し、1発は人家のない郊外に着弾、残る1発は海に落ちた。

テルアビブが攻撃を受けるのは、91年の湾岸戦争で当時のイラクのフセイン政権が発射したスカッドミサイルが着弾して以来。08〜09年にイスラエル軍がガザを攻撃した際には、ガザからの反撃はテルアビブには及ばなかっただけに、ハマスの軍事力の強化が実証された格好だ。

戦闘が激化する中、エジプトのカンディール首相は16日、ガザ地区を訪問し、ハマスのハニヤ最高幹部と会談した。ガザ市内の病院で、空爆によるパレスチナ人犠牲者を弔問した後に記者会見したカンディール氏は、「戦闘の激化を止め、停戦を実現するための努力を強めたい」と語った。

アラブ諸国は停戦に向けた働きかけを強めており、サウジアラビアのアブドラ国王は16日までにエジプトのモルシ大統領と電話で対応を協議し、戦闘の激化を避けるよう訴えた。またチュニジア政府は16日、アブデッサラーム外相が17日にガザを訪問すると発表した。【11月16日 毎日】
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イスラエル軍の空爆については、450か所を空爆してパレスチナ人の死者は18人ということであれば、亡くなられた犠牲者には非常に失礼な言い方になるかもしれませんが、攻撃目標を明確にとらえた精度の高い攻撃が行われているとも言えます。
このあたりの情報収集・攻撃力は、さすがに百戦錬磨のイスラエルです。
この空爆で、ガザ地区武装勢力のロケット弾攻撃力を相当なダメージを受けているのではないでしょうか。

一方、パレスチナ・ガザ地区からの攻撃については、“イスラエル軍は、ガザ地区の武装勢力から380発以上のロケット弾を打ち込まれ、うち274発はイスラエル南部に着弾したが、112発は同国の防空システム「アイアン・ドーム(Iron Dome)」で迎撃したと発表した。” 【11月16日 AFP】とのことです。

「アイアン・ドーム」(Iron Dome)はイスラエルのRafael社が開発中の迎撃ミサイル・システムです。
“捕捉・追跡レーダーが敵のRAM(ロケット弾、砲弾、迫撃砲弾)を検知して、BMC(Battle Management & Control)と呼ばれる射撃統制装置に知らせる。BMCはそれが自陣営に有害と判断すれば、垂直ミサイル発射機に迎撃ミサイルの発射を指令する。迎撃ミサイルは捕捉・追跡レーダーとBMCによって中間誘導され、最終段階では自らのレーダー・シーカーで目標を捕らえて接近し弾頭を起爆して目標を破壊する”【ウィキペディア】

対象は、ロケット弾、砲弾、迫撃砲弾・・・ということで、ミサイルだけでなく飛んでくるものなら何でも撃ち落としてしまおうというシステムです。
迎撃するのは、人口密集地域に向かうと判断されたものだけになります。
「アイアン・ドーム」に迎撃されずに“274発はイスラエル南部に着弾”ということですが、予測される着弾地から迎撃の必要がないと判断されたものも多く含むのではないでしょうか。
イスラエル南部での最初の実戦においては、迎撃成功率は85%に達したとされています。

なお、イスラエルは「アイアン・ドーム」に加えて、弾道弾迎撃ミサイルである「アロー2」、更に日本でもお馴染みの「パトリオット」も配備して防空体制を固めています。
「アロー2」はパトリオットミサイル発射システムとの相互運用性を持ち、アローで撃ちもらしたターゲットの弾道データをパトリオットの発射システムに渡して迎撃を引き継がせることが可能となっているそうです。

しかし、「アイアン・ドーム」のような高性能防備にもかかわらず、上記記事にあるようにガザ地区からのロケット弾がガザ北方約70キロにあるイスラエル最大の商業都市テルアビブ近郊に着弾し、イスラエル国内に衝撃が広がっています。
ガザ地区武装勢力の軍事力もイランなどの支援を受けて強化されているようです。

****イスラエル、ガザ地区への攻撃を継続 テルアビブにもロケット弾****
・・・・ハマスはイスラエル南部にロケット弾を打ち込み、これまでにイスラエル人3人が死亡、19人が負傷した。テルアビブのすぐ南の海にもロケット弾1発が落下し、これはガザ地区からのロケット弾としては、これまでで最も遠くまで飛んだ砲弾となった。

ガザ地区のイスラム原理主義組織「イスラム聖戦」は、このロケット弾は自分たちが打ち込んだイラン製のファジル5だと発表した。テルアビブではサイレンが鳴り響き、テレビは避難しようと走り回る人たちの姿を放送した。
イスラエルの報道によると、テルアビブに砲弾が発射されたのは、イラクがスカッドミサイルを打ち込んだ1991年の湾岸戦争以来だという。(後略)【11月16日 AFP】
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イラン製「ファジル5」は、75kmの長射程ロケット弾で、レバノンのヒズボラも保有していると言われています。

【“強い姿勢”をアピールするイスラエル
“イスラエルのバラク国防相は15日、予備役3万人の招集を認め、ネタニヤフ首相は「市民を守るために必要な全ての行動を取る用意がある」と改めて強調した。今後、地上作戦を含めイスラエル軍の攻撃がさらに強化される可能性がある”【11月16日 時事】、“ハマスのメシャール政治局長は15日、訪問先のスーダンの首都ハルツームで演説し、「イスラエルはアラブ圏の変化におびえている。イスラエルが何でもできる時代は終わった」と牽制した。”【11月16日 朝日】と、イスラエル側・ハマス双方とも1歩も後にひかない構えです。

イスラエルの今回作戦の背景としては、国内総選挙に向けて“強い姿勢”をアピールする狙いがあると言われています。
イスラエル・ネタニヤフ首相はイラン攻撃主張などで十分に強硬姿勢のように見えますが、イスラエル国内では対ハマス姿勢が「弱腰だ」と政界でたたかれていたとのことです。

“イスラエルは空爆の理由を「ガザからのロケット攻撃の激化」とするが、背景には来年1月に控えた総選挙がある。ネタニヤフ首相にとってハマスに厳しい態度で臨むことで支持を得やすくなる。
もう一つは、ハマスを支援するイランの存在だ。核開発を進めるイランに対して単独攻撃も辞さない構えを見せるネタニヤフ氏は、ハマスを最も近くにいる「イランの代理人」として敵視。先月23日には、イランの監督下で武器を製造し、ハマスに密輸していたとされるスーダンの工場をイスラエルが空爆したとも報じられた。
ガザ攻撃は、イランからの武器流入が継続しているとみて、機先を制する狙いもありそうだ”【11月16日 朝日】

今後、イスラエル地上軍がガザへ侵攻し、戦火が更に激化することになれば、内戦状態が収まらないシリアのアサド政権、欧米の経済制裁で経済状況が悪化し、イスラエルからの核施設攻撃を警戒しているイランが(パレスチナ支援の大義を掲げながら)自国の状況打開のため敢えてミサイル攻撃で参戦し、アラブ・イスラム国家対イスラエルという構図を作り出す・・・ということも可能性がない訳ではないのでは。

混乱拡大を回避したいアメリカ、エジプト
イスラエルを抑制できる立場にあるのはアメリカですが、イスラエル・ネタニヤフ首相と再選をはたしたアメリカ・オバマ大統領は“反りが合わない”と言われています。ネタニヤフ首相はアメリカ大統領選挙ではロムニー候補に肩入れする姿勢を見せていました。

****ロムニーに肩入れしたネタニヤフの苦境****
イスラエルのネタニヤフ首相はオバマ米大統領の再選について、両国の戦略的提携は「ますます強固になる」と外交儀礼上、最低限の祝辞を述べた。だが以前からオバマと反りが合わないネタニヤフは選挙戦の間、対立候補である共和党のロムニーに肩入れしており、それはアメリカ側にも明らかだった。

仕返しにオバマは、パレスチナとの和平交渉などでネタニヤフに厳しい立場を取るのではないか、との声がイスラエルにはある。来年1月のイスラエル総選挙でネタニヤフが勝利するのを、オバマが阻もうとする可能性まで懸念されている。

「ネタニヤフはアメリカ大統領選で1人の候補者に賭けるという大きなリスクを冒し、その賭けに負けた」と、イスラエルの政治評論家ラビブ・ドルッケルは語る。
ネタニヤフ自身は一方の候補を応援していたことを否定。連立政権の一部メンバーは、オバマの勝利を歓迎すると語った。

総選挙では、ネタニヤフ率いる与党リクードが第1党となり、連立政権がさらに4年間続きそうだ。ただし中道派のオルメルト前首相が立候補すれば、状況は変わるかもしれない。オバマの勝利で、立候補の可能性は高まったと評論家はみている。【11月21日号 Newsweek日本版】
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今回のイスラエルの作戦の背景には、アメリカがイスラエル支持を明らかにせざるを得ない状況をつくることで、アメリカ・オバマ政権とのぎくしゃくした関係を一気に解消しようという狙いもあったのでしょうか。
あるいは、対外危機をつくることで、中道派の態勢づくりを阻止しようとする狙いもあったのでしょうか。

アメリカとしてはイスラエルの軍事行動を容認しつつも、これ以上の拡大を防ぎたい・・・といったところで、エジプト・モルシ大統領とも連絡をとっています。

****ガザ空爆:第一の責任はハマス 市民の犠牲は遺憾…米政府****
緊迫するガザ情勢について、米国は第一の責任はハマスにあり、との立場だ。ホワイトハウスのカーニー大統領報道官は15日、「ガザからイスラエルに向けたロケット弾の集中砲撃を強く非難するとともに、罪のないイスラエルとパレスチナ市民の死傷を遺憾に思う」と語った。

オバマ大統領はイスラエル軍によるハマス軍事部門トップの殺害を受けた14日、イスラエルのネタニヤフ首相と電話会談し、「イスラエルの自衛権への支持」を表明した。また同日、エジプトのモルシ大統領とも電話で話し、事態の沈静化と地域の安定のためエジプトが中心的役割を果たすよう求めた。
米国はイスラエルの軍事攻撃を容認しつつも、必要以上の空爆や地上戦の展開は、パレスチナ市民の犠牲を増やすことになると懸念している。【11月16日 毎日】
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微妙なのはエジプト・モルシ政権の立場です。
基本的には、ハマスを生んだムスリム同胞団が出身母体ですし、エジプト国内には反イスラエル感情が強く存在します。
しかし、パレスチナの混乱が自国に波及するのは困りますし、財政的支援を受けるアメリカからの要請も無視できません。

****ガザ地区:エジプト首相が訪問 停戦仲介の糸口探る****
イスラエル軍の大規模攻撃が続くパレスチナ自治区ガザ地区に16日、カンディール首相を派遣したエジプトのモルシ政権。

表向きの目的は、ガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスへの「連帯」を示すことだが、停戦仲介の糸口を探る狙いもあったと見られる。戦闘の激化が続けば、エジプトも含め、昨年の民主化要求運動「アラブの春」で不安定化した中東諸国に争乱が飛び火する懸念があるからだ。
ただ、カンディール氏の訪問中、イスラエル側がエジプトの要請で受け入れた一時停戦は、ガザからの攻撃が続いたこともあって実現せず、仲介の困難さを浮き彫りにした。

エジプトのモルシ大統領は、ハマスの源流の穏健派イスラム原理主義組織ムスリム同胞団が出身母体で、パレスチナ寄り。今回の軍事衝突でもイスラエルの空爆を「残虐な行為」と非難、14日に駐イスラエル大使を召還した。
こうした対応は、ムバラク独裁政権が昨年2月に崩壊した後に台頭した親パレスチナのイスラム勢力などの国内世論に配慮する必要性も反映している。

一方で、モルシ政権は79年にイスラエルと結んだ平和条約は維持する方向で、バランスを取りながら現実的な対外政策を模索している。これは、イスラエルの後ろ盾である米国からの13億ドルの軍事援助などが「革命」で弱体化した経済の回復に必須だとの判断からだ。オバマ米大統領は14日のモルシ氏との電話協議で、ガザ情勢沈静化のための働きかけを求めた。

カンディール首相の派遣は、「連帯」を演出して親パレスチナ世論を納得させ、影響力を行使してハマスを抑え、イスラエルの攻撃強化をけん制する狙いがあると見られる。

ただ、来年1月に総選挙を控えるイスラエルのネタニヤフ首相も、ハマスの攻撃が続く以上「国民を守る指導者」の看板は下ろせない。イスラエル紙ハーレツは、ネタニヤフ氏は対ハマス姿勢が「弱腰だ」と政界でたたかれていたと指摘。今回の作戦は野党勢力も評価しており、後には引けない状態になっている。【11月16日 毎日】
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強硬姿勢・報復を求める国内世論のために政治指導者も“後には引けない”というのは、戦火拡大の典型的パターンです。
そうした愚行を繰り返すことのないように望みます。

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