(アヤソフィアのドームにはキリスト教の装飾が残っている【7月11日 BBC】)
【「エルドアン大統領による国粋主義によってトルコは6世紀に戻ってしまった」(ギリシャ文化相)】
トルコでは現在の共和国体制の建国の父ケマル・アタテュルク以来、世俗主義を基本としてきましたが、エルドアン大統領のもとでイスラム主義への傾斜が進んでいることはこれまでも再三取り上げてきました。
そうしたイスラム主義化を端的に示すものとも思われる出来事が、これまで博物館として開放していたイスタンブールの建築物アヤソフィアを、モスク(イスラム教礼拝所)として機能させるとの大統領の発表です。
****トルコ、アヤソフィアを博物館からモスクに 世俗化の象徴に大きな変化****
トルコのレジェプ・タイイップ・エルドアン大統領は10日、これまで博物館として開放していたイスタンブールの建築物アヤソフィアを、モスク(イスラム教礼拝所)として機能させると発表した。
アヤソフィアは約1500年前にキリスト教・東方正教会の教会として建設されたが、1453年にオスマン帝国の侵略によりモスクに改修された。
その後、1934年に宗教的に中立な博物館となり、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)の世界遺産に指定されている。
しかしトルコの最高行政裁判所は10日、「アヤソフィアのモスクとしての利用を停止し、博物館だと定義した1934年の閣議決定は法に則っていない」と結論した。
トルコではかねて、イスラム原理主義者がアヤソフィアをモスクに転換するよう求める一方、中立派の野党などが反対していた。モスクへの転換案は、世界各国の首脳や宗教的指導者から批判されてきた。
エルドアン大統領は、トルコは国家主権を使ってアヤソフィアをモスクに戻したと擁護。記者会見では、7月24日に最初の礼拝を行うと発表した。
「全てのモスクと同じように、アヤソフィアはトルコ人にも外国人にも、ムスリムにもそうでない人にも門を開く」
この発表の後、アヤソフィアではイスラム教の祈りが読み上げられ、トルコの主要ニュース局が一斉にこれを放送した。
一方、アヤソフィアが博物館として運営していたソーシャルメディアのアカウントは削除された。(中略)
世界の反応は?
ユネスコはこの決定は「非常に遺憾」だと発表。トルコ当局に「即刻、協議するべきだ」と訴えている。
ユネスコはこれまでも、アヤソフィアについて協議しないままモスク転換を決定しないよう、トルコ政府に求めていた。
東方正教会の指導者や、信者の多いギリシャもトルコのこの決定を非難している。
ギリシャのリナ・メンドニ文化相は、「市民社会へのあからさまな挑発だ」と表明。声明で、「エルドアン大統領による国粋主義によって(中略)トルコは6世紀に戻ってしまった」と批判した。
また、裁判所が博物館の地位を取り消したことについても、トルコには「独立した司法機関がないことを証明している」と指摘した。
東方正教会最大のロシア正教会も、トルコの裁判所が正教会の懸念を考慮に入れてなかったことに遺憾の意を示し、今回の決定がさらなる分裂を招く可能性があると述べた。
アヤソフィアのモスクへの転換は、宗教的保守派のエルドアン大統領支持者には指示されている。
一方、作家のオルハン・パムク氏は、この決定が一部のトルコ人が持っている世俗的なイスラム教国としての「誇り」を奪うものではないかと指摘した。
「私のような世俗的なトルコ人が何百万人も、今回の決定を嘆いている。でも私たちの声は聞いてもらえない」
<解説>オルラ・ゲリン、BBCニュース(イスタンブール)
6世紀に建設され、ビザンティン帝国やオスマン帝国時代を生き延びたアヤソフィアに変化が訪れようとしている。今やまたしても、モスクになるのだ。しかしトルコ当局は、ドームに残る聖母マリアのモザイク画を含めたキリスト教の装飾は撤去しないとしている。
アヤソフィアのあり方を変更するのは、きわめて象徴的なことだ。この建築物を博物館にすべきだと言ったのは、現在のトルコを建国したケマル・アタテュルクだった。
エルドアン大統領は今、アタテュルクが進めた世俗化の遺産を取り壊し、トルコを自分のビジョンで作り直そうと一歩を踏み出した。
アヤソフィアのモスク転換に当たり、自らを現代の征服者を呼ぶエルドアン大統領は、まったく悪びれていない。この決定が気に入らない者は、トルコの主権を攻撃しているのだと反発している。実際には、国外でも大勢が反対しているのだが。
アヤソフィアの「奪還」は、大統領支持層の宗教的保守派、そしてトルコの国粋主義者には歓迎されている。新型コロナウイルスのパンデミックによる経済的打撃から世間の目をそらすため、大統領はこの問題を取り上げたのだと批判する声もある。
しかし国際社会では大勢が、アヤソフィアはトルコではなく人類に属するものだと主張し、そのままにしておくべきだと訴えている。アヤソフィアはキリスト教とイスラム教の架け橋であり、共存のシンボルだと。【7月11日 BBC】
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“エルドアン氏は演説で、「いろいろな見解があるのは理解できるが、地位の決定はトルコの主権に関することだ」と指摘。モスクとしての運用は司法判断に基づくもので「全ての人が尊重する必要がある」と述べ、キリスト教徒が多い各国の反発を念頭にくぎを刺した。”【7月11日 時事】とも。
“トルコ当局は、ドームに残る聖母マリアのモザイク画を含めたキリスト教の装飾は撤去しないとしている。”とのことで、当面は礼拝時にはカーテンで隠すようです。
****アヤソフィア、礼拝へ壁画隠す トルコ、旧大聖堂のモスク化で****
トルコのエルドアン大統領が10日にイスラム教のモスク(礼拝所)とすることを決定した世界遺産の建造物アヤソフィアで、礼拝に向けた準備が進められる。地元メディアによると、人物が描かれたキリスト教の壁画は開閉できるカーテンで覆われるという。
世界遺産イスタンブール歴史地区を代表するアヤソフィアは6世紀にキリスト教の大聖堂として建設され、内壁にはモザイク画などで聖母子像や天使が描かれている。イスラム教では禁じられている偶像崇拝とみなされるため隠すとみられる。
アヤソフィアの所管は文化観光省から宗教庁に変更され、入場料もなくなる。【7月11日 共同】
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記事から推測するに、普段はカーテンは開けられ、観光客は無料で入れる・・・ということでしょう。
ただ、いつまでこうした措置が続くか・・・・?
【アメリカの制止も無視】
ユネスコや東方正教会関係者だけでなく、アメリカも“失望”を表明しています。
****米、トルコ政府の決定に失望=世界遺産アヤソフィア****
米国務省のオルタガス報道官は10日、声明を出し、トルコ政府がイスタンブールの世界遺産アヤソフィアをモスク(イスラム礼拝所)として運用すると決めたことを受け、「失望している」と表明した。
報道官はアヤソフィアについて、「その豊かな多文化的歴史が認められ、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産の重要な一部となっている」と強調。トルコ側があらゆる人のアヤソフィア訪問を保証する計画をまとめることを期待すると述べた。【7月11日 時事】
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ポンペオ米国務長官は今月1日、エルドアン大統領に対し、モスクに戻さないよう要請し、かつてはキリスト教の大聖堂だったこの歴史的建造物をすべての人に開かれたままにすべきだと述べています。
これに対し、
“トルコ側は、ポンペオ氏の発言に「仰天した」とコメント。トルコ外務省のハミ・アクソイ報道官は「誰しも意見を述べることは自由だ」とするも「同時に、われわれの主権について警告する形で話す権利は誰にもない」と述べた。”【7月2日 AFP】
アメリカとトルコの関係は、ロシア製ミサイル導入問題やギュレン師引き渡し要求などですでにギクシャクしていますが、今回の措置で直ちにどうこうということはないにしても、改めてトルコの異質性を明示した形にもなっており、アメリカ・トルコ関係にとってプラスにはならないでしょう。
異質性という点では、EU加盟をめぐる欧州とトルコの関係においても同様でしょう。
いずれにしても、「異文化共存の象徴」と見なされてきたアヤソフィアをモスクに戻して「礼拝の場」とする今回発表で、トルコのイスラム主義化はさらに1歩進んだようです。
【同性愛は「神が禁じた性的倒錯だ」】
トルコ・エルドアン大統領の欧米文化との異質性・イスラム重視の保守主義については、下記のような記事も。
****トルコ大統領が同性愛非難=「神が禁じた倒錯」****
トルコのエルドアン大統領は29日のアンカラでの演説で、同性愛について「神が禁じた性的倒錯だ」と激しく非難し、国民にこれを容認すべきだという世界的な風潮に同調しないよう呼び掛けた。
トルコでは6月後半、世界各国での運動と足並みをそろえて性的少数者(LGBT)の権利保護を訴えるオンラインでの活動が行われており、これに公然と異を唱えた。
エルドアン氏はこの中で、同性愛が「何者かによる(トルコの)国民的、道徳的価値観に対する陰湿な攻撃で、若者を毒で汚そうとするものだ」と主張。「この動きを支持する者は、倒錯者のパートナーだ」と断じた。【7月1日 時事】
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