孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン産原油全面禁輸  トルコ・サウジアラビアの対応 イランで高まる市民の不満の行き先は?

2019-05-03 23:07:49 | イラン

(【チャート広場】)

 

【上昇傾向の原油価格の状況で、アメリカのイラン産原油全面禁輸措置】

昨年10月以降の原油価格の推移をWTI原油先物で見ると、昨年末に1バレル=45ドル付近で底を打ち、年明けからは右肩上がりに65ドル付近まで上昇しています。(ここのところの足元は6162ドル付近まで、やや下っていますが)

 

全くの門外漢で、それ以上のことはわかりませんが、こうした原油価格をどの水準に持っていくかという各国の思惑、その結果、産油国等の国家財政がどうなるか、また世界経済がどうなるのか・・・ということは、国際政治・経済を動かす極めて重要なファクターであることは間違いないでしょう。

 

周知のように、この原油価格に大きな影響を与えるイラン産原油禁輸の厳格運用という措置が、アメリカ・トランプ政権によって実施されています。

 

****原油価格高騰に懸念 米、イラン産の禁輸を日本などに適用 大統領選向け強硬策****

トランプ米政権は2日、イラン産原油の禁輸制裁から日本など8カ国・地域に認めた適用除外の措置を打ち切った。

輸入を続ければ米国の制裁の対象になる。イランは核開発の再開も示唆しており、中東地域の不安定化や世界の原油価格の高騰が懸念されている。

 

「中東を不安定化してきた無法者国家から資金源を奪う」

ポンペオ米国務長官は4月下旬、イラン産原油の全面禁輸に踏み切る理由をこう強調。「イランと関わる国は慎重を期すべきだ」と牽制(けんせい)した。

 

トランプ大統領は昨年5月、オバマ前政権下で米英仏独ロ中6カ国とイランが結んだ核合意から一方的に離脱。これに伴って米政権は禁輸制裁を昨年11月に再開した。

 

この際は各国事情を考慮し、日本のほか中国、インド、トルコなどに180日間の適用除外の措置を講じたが、今回は例外を一切認めなかった。

 

原油埋蔵量が世界4位を誇るイランの原油の全面禁輸は市場への影響も無視できない。米政権はジアラビアなどに不足分の埋め合わせを求めているが、サウジは増産には慎重姿勢で、先行きは不透明だ。

 

トランプ氏は「史上最強の制裁」と称し、イランへの圧力を強め、体制転換も排除しない構えだ。今年4月にはイランの精鋭部隊である革命防衛隊を「外国テロ組織」に指定している。

 

トランプ氏の強硬策の背景は専ら国内事情とみられる。来年の大統領選を見据えた、最大の支持基盤のキリスト教福音派の支持固めだ。福音派が、イランと敵対するイスラエルへの支持傾向が強いため、強硬策はアピールにつながる。

 

だが、全面禁輸で原油価格が高騰すれば米市民にも影響が及ぶ。また、最大の輸入国の中国や、トルコが禁輸に反発しており、緊張が高まる懸念がある。

 

 イラン窮地、猛反発

原油輸出が国家歳入の約6割を占めるとされるイランは猛反発。イランにとっては、制裁緩和と引き換えに核開発制限を受け入れたのに米国に反故(ほご)にされ、核合意に残留する利益が見いだせなくなっている。

 

ザリフ外相は4月28日、「核不拡散条約NPT)からの脱退も選択肢の一つ」と核開発の再開を示唆。

核合意の当事者の欧州連合(EU)や英仏独は原油取引を続けるための「貿易取引支援機関(INSTEX)」を立ち上げ、米国の制裁回避を狙う。

 

だが、各国企業は制裁を恐れ、イランとの取引に消極的だ。ザリフ氏の発言はこの現状を牽制(けんせい)したものだが、実際に核開発を拡大すれば、中東で緊張が一気に高まるのは必至だ。

 

また、革命防衛隊のバゲリ司令官は同日、「イランの原油が海峡を通れないなら、他国の原油も通過できない」とホルムズ海峡の封鎖を警告。封鎖すれば世界的な影響は避けられない。

 

ロハニ大統領は「米制裁は原油輸出手段の一つを封じたにすぎない。他にも、米国が知らない方法が6種類ある」と自信を見せる。タンカーの行き先を隠しての輸出や、公海上で物資を積み替える「瀬取り」を横行させるとの見方が出ている。

 

 日本、代替調達へ対応 ガソリン、当面高止まりか

日本の石油元売り各社は既にイラン産原油の輸入を停止し、代替調達に向けた対応を始めている。月岡隆・石油連盟会長は記者会見で「原油調達先の多様化は大変重要」としつつ、「原油の安定供給が損なわれることはない」と述べた。

 

ただ、原油価格が高騰するおそれはある。米WTI原油の先物価格は、昨年12月下旬に1バレル=40ドル台前半をつけてからは上昇基調で、足元では63ドル前後。月岡氏は「60~70ドルの範囲でおさまる」とみるが、イラン以外にもベネズエラなどが政情不安で生産量を落とす可能性がある。石油天然ガス・金属鉱物資源機構の野神隆之・首席エコノミストは「要因が重なり需給が引き締まれば、昨年の最高値の76ドルに向かっていく可能性がある」とみる。

 

レギュラーガソリンの店頭価格(全国平均)は1リットルあたり150円台に近づいており、当面は高止まりが続きそうだ。【53日 朝日】

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【トルコ「石油輸入先の急速な多角化は困難」 問題が多いアメリカとの関係】

大体の動きは、上記記事が網羅的に説明していますが、少し補足する記事をあげていくと、まず今回の“例外を認めない”措置で大きな痛手を受ける国のひとつがトルコです。

 

****トルコ、石油輸入先の急速な多角化困難 「製油所に適合せず」****

トルコのチャブシオール外相は2日、米国によるイラン産原油の全面禁輸措置に関連して、石油輸入先の急速な多角化は困難との考えを示した。

外相は、一部の国の石油は国内製油所の規格に適合しないとした上で「石油輸入先を短期間で多角化することはできないと思う」と指摘。「石油を第三国から調達するとなれば、製油所の改修が必要だが、それには製油所を一定期間閉鎖せねばならず、コストがかかる」と語った。

ロイターの試算によると、米国がイラン産原油の禁輸制裁を復活した昨年11月以降の4カ月間で、トルコはイランから月間平均20万9000トンの石油を輸入。これは必要量の12%に相当する。(後略)【53日 ロイター】

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正確なところは知りませんが、原油というのは、産出国によって相当に質の違いがあるということは時折耳にします。その質に対応した精製施設が必要になるということのようです。

 

この製油所の問題が実態としてどの程度影響がある話なのかは知りませんが、トルコとアメリカの関係は、シリアのクルド人勢力をめぐる対立のほか、トルコが要求するギュレン師の引き渡し問題、ロシア製ミサイル「S400」の導入問題など、極めてギクシャクしています。

 

また、エルドアン政権は先日の国内選挙での首都アンカラ・最大都市イスタンブールの敗北(イスタンブールは相変わらず敗北を認めていないのでしょうが)という試練に直面する政治的に微妙な時期にもあります。

 

エルドアン大統領としては、唯々諾々としてトランプ大統領の“命令”に従う訳にはいかない・・・というところでしょう。ただ、禁輸措置に違反してアメリカと本格的に事を構えることになるのも・・・・。

 

ついでに言えば、シリアでの(米軍に協力する)クルド人勢力の問題では、トルコとクルド勢力YPGの衝突が伝えられるなど、一触即発の状況にもあります。

 

****トルコ軍とクルド勢力の衝突****

al arabiya net は、トルコ軍とその支配する民兵とクルド勢力YPGとがafirn 及びaazazの2つの都市の周辺で激しく衝突したと報じています。(その規模や死傷者の有無等さらには具体的な日時も不明。)


この衝突は、YPGがトルコ軍装甲車を攻撃し、トルコ兵1名が死亡したことから起きたものの由。(トルコ軍によれば、この事件で兵士1名が死亡し、3名が負傷した由)


このため両都市間の道路は閉鎖されている由。両者間では緊張が高まっている由。(中略)

 

他のアラビア語メディアにはこの事件に関する記事はなく、また衝突の規模も不明で事件の重要性は不明であるが(おそらくは偶発的な衝突か?)、トルコ政府はこの地域からのクルド勢力の撤収を求め、実力行使も辞さない構えを取っているので、今後ともこの種事件が生じ、場合によっては全面的な紛争につながる可能性もあり、取り敢えず。【52日 「中東の窓」】

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トルコとYPGの衝突は、トルコと(YPGと連携する)シリア駐留米軍との衝突にも発展しかねません。

 

イラン産原油の扱いをめぐる問題は、例えば上記のようなシリア情勢という異なる問題とも密接に絡み合って、関係国間での協議・調整が図られるものと思われます。いろんな“カード”と併せての“取引”が行われるのでしょう。

 

【対イランでアメリカに協調するサウジも、石油価格に関しては利害が対立】

一方、アメリカ・トランプ政権としては、対イラン政策で上記の禁輸措置厳格運用を行うものの、その結果として原油価格上昇、アメリカ国内のガソリン価格上昇という事態になると、大きな国内的批判を浴びることにもなります。

 

冒頭記事にもあるように、南米産油国のベネズエラ情勢も極めて流動的な状況で、原油価格上昇を避けるためにはサウジアラビアの増産協力が必要になります。

 

アメリカとサウジアラビアは、対イラン包囲網をつくる上で密接な協力関係にあり、トランプ大統領はカショギ氏殺害事件で高まる米国内のサウジ批判にもかかわらず、議会に対する拒否権を行使してまで、あくまでもサウジ擁護の姿勢を崩していません。

 

****米軍のサウジ支援継続 議会、拒否権を覆せず****

米上院本会議は2日、イエメン内戦でのサウジアラビアの軍事行動に対する米軍の支援の停止を求める決議にトランプ大統領が拒否権を発動したのを受け、決議を再び採決した。

 

しかし、大統領の拒否権を覆すのに必要な3分の2以上の賛成は得られず、米軍の支援が継続されることが確定した。

 

上下両院は3月から4月にかけ、サウジ人記者殺害事件でトランプ氏がサウジのムハンマド皇太子を擁護したのを受け、サウジ支援停止決議を可決したが、トランプ氏はサウジとの同盟関係を重視する立場から拒否権発動に踏み切った。【53日 産経】

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そうした緊密な関係にあるトランプ政権とサウジアラビアの関係ではありますが、石油増産という話になると、サウジアラビアとしては価格上昇に期待するところが大きく、両国間には利害の対立があって水面下での綱引きが行われているようです。

 

****米国とサウジとの攻防激化、イラン原油禁輸で ****

トランプ米政権は2日、イラン産原油の輸入国に対する制裁適用除外ルールを撤廃し、各国に全面禁輸を求める措置を開始した。

 

産油国サウジアラビアは、必要なら生産を拡大する意向を表明しているが、価格安定に向けた供給拡大の規模を巡り、水面下ではサウジと米国が向こう数週間にわたり激しい攻防を繰り広げそうだ。

 

関係筋によると、米国はサウジとクウェートが共同所有する油田の生産再開を求めている。再開されれば、供給量を日量50万バレル押し上げる可能性がある。

 

一方、財政均衡には原油の値上がりが必要なサウジは、増産不要で米国を説得する材料として、原油供給量の過不足を示す指標の算出方法を変更するよう、他の石油輸出国機構(OPEC)加盟国に働きかけている。(中略)

 

ただ、両国はなかなか合意できずにいる。昨年9月には、サウジのムハンマド・ビン・サルマン皇太子とクウェートの首長シーク・サバーハ・アル・アフマド・アル・サバーハ氏が会談したが、関係筋によると協議は物別れに終わった。

 

焦点は、サウジが4月下旬に必要なら増産するとした確約を果たすかどうかだ。トランプ氏は426日、ツイッターで「サウジなどと原油供給の拡大について話した。すべての関係国の意見が一致した」と述べた。関係筋によると、サウジは増産する見通しだが、増産の規模や供給時期など詳細は確約していない。(後略)【53日 WSJ】

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サウジアラビアにとって、石油価格・産出量の問題は死活的に重要な問題ですから、これもまた、唯々諾々としてトランプ大統領の“命令”に従う訳にはいかない・・・というところでしょう。

 

【イラン 高まる市民の不満】

一方、イラン。

冒頭記事では、「米制裁は原油輸出手段の一つを封じたにすぎない。他にも、米国が知らない方法が6種類ある」(ロウハニ大統領)「イランの原油が海峡を通れないなら、他国の原油も通過できない」(革命防衛隊のバゲリ司令官)という“強気“発言が紹介されていますが、非常に苦しいのは間違いないでしょう。

 

長引く制裁の影響で経済が疲弊し、市民の不満は高まっています。

 

****イランのガソリンスタンドの長い列****

米国のイラン石油に対する禁輸措置の全面適用は昨日2日からだったと思いますが、al arabiya net はイランのメディを援用して、今後の燃料価格の値上げを見越して、この日イラン各地では、ガソリンスタンドの周りに長い車の列ができた(写真)と報じています。


記事は、革命防衛隊に近い tasnim通信によると、現在補助金付のガソリンは1ガロン当たり20セントで売られているが、これが経済評議会の決定で、今後、運転手一人につき月16ガロンに制限されるとの噂が流れたためとしています。


現在この決定の実施期日は未定の由で、内務省は国民に対して、政府の発表だけを信じるようにと警告した由。【53日 「中東の窓」】

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****教員のデモと逮捕(イラン)****

もう一つイラン関係のニュースを・・・


これもal arabiya net の記事ですが、2日イランの14の州で、数万人の教員及び退職者のデモが行われ、当局は教員組合等複数のものを、集会の罪(当局の許可を得ない集会と言う意味か)で逮捕した由。


教員組合の要求は、給料の値上げ、支払いの遅れている賞与等の支払い、退職者の待遇改善、パートタイム教員の正規教員化等の由。【同上】

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****イラン経済の窮状、庶民の胃袋も直撃 ****

「インフレで肉なんていう贅沢品は買えなくなった」

 

鶏肉を買うため列に並ぶ買い物客

イラン当局は経済の混乱を鎮めるための新たな標的を定めた。食肉市場を操る連中だ。

 

イラン暦の新年を祝った45日までの2週間、イランの人々は食卓を飾るのに以前よりずっとお金が掛かることを実感した。

 

イラン中央銀行によると、仔牛(こうし)肉や牛肉は昨年に比べ67%も値上がりした。羊肉は52%、鶏肉も63%値上がりしたという。靴屋を営むアリ・モシュタギ氏(38)は、「すさまじいインフレになった去年から、肉なんていう贅沢品は買えなくなった」とこぼす。「お客も呼べない。まともな料理が出せないから」

 

食肉市場の危機はイラン人の胃袋という、おそらく最も痛いところを突いている。イランでは昨年初め、景気への不満から抗議行動が広がった。イラン政府はそうした事態の再発を避けるため、食料品価格の操作とみられる行為を取り締まっている。

 

国営メディアによると、正月の休み中、テヘランの警察当局は食肉市場を操作した疑いで43人を逮捕した。警察はまた、隠されていた鶏肉270トンと牛肉175トンを押収。後で価格を引き上げて売る狙いだったとみられている。(中略)

 

取り締まりの強化は食糧危機の深まりを示す兆候だが、その主因である通貨安は他の製品価格も押し上げている。ペルシャ暦の正月には至る所で見られる果物の価格も、昨年58%上昇した。イランの食事に欠かせない米は24%値上がりし、砂糖は39%も高くなった。

 

イラン統計庁によると、昨年のインフレ率は27%に達した。

 

当局は食肉市場の操作を取り締まる以外にも、両替商による外貨の密輸や横領、金貨市場の操作を摘発し、十数人を金融犯罪で起訴している。イラン指導層は金融犯罪が経済混乱に拍車を掛けかねないと懸念している。(中略)

 

政府は自治体が運営する店舗で安価な冷凍の輸入肉を販売し、市場価格をそれに近づけようと試みた。1人につき1カ月当たり7.7ポンド(約3.5キロ)を割り当てたこのプログラムは3月に終了したが、市場の価格を大きく押し下げるには至らなかった。

 

イランの政治指導層が二極化する中、食糧危機は分断を一層深めている。ハッサン・ロウハニ大統領を含む政府高官は、食糧不足の元凶はインフレや密輸、米国の経済制裁にあると主張している。

 

一方、強硬派はこうした危機について、2015年の核合意に対する反対や、「米国は信用ならない」との懸念が正しかったことを証明していると指摘する。ドナルド・トランプ米大統領は昨年、イランとの核合意から脱退し、制裁を再開した。

 

経済的な苦境は中間層にも影響を及ぼしている。

3人の子どもがいる買い物客の男性は、「何も買わないさ。肉のウインドーショッピングをしているだけだ」とあきらめ顔だ。「値段を調べて、家で肉の話をするのが趣味になった。誰が肉を買えるかって?金持ちだよ、貧乏人じゃない」【417日 WSJ】

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問題は、こうした市民の不満は、アメリカの望むような“体制転換”ではなく、穏健派ロウハニ政権の崩壊・より強硬な好戦的反米主義の台頭を招くだけに終わるであろうという点です。

 

パレスチナ対策にしても、イラン対策にしても、アメリカ国内選挙対策重視の観点から世界を左右する対策が決定されていくというのは世界にとっては不幸なことです。 


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