(ミャンマーの電気が届いていない家庭で使用しているTOYOバッテリー。1週間に1回、400kyat(約40円)でバッテリーを充電しているそうだ。【2017年11月7日 塩野愛実氏 Inclusive World】
【中国が求めているメッセージ「中国はいじめっ子ではない」】
中国「一帯一路」については、「債務のわな」等の批判があるなかで、27日には中国主催の国際会議が開催され、中国はこうした懸念払しょくに努めていました。
****中国、インフラの質改善約束=「一帯一路」会議閉幕―北京****
中国政府主催の北京でのシルクロード経済圏構想「一帯一路」に関する国際会議は27日、習近平国家主席と37カ国の首脳級の円卓会議を開き、一帯一路の関連事業推進に向けた共同声明を採択、3日間の日程を終え閉幕した。
記者会見した習氏は「質が高く持続可能で、リスクに強く、費用が合理的なインフラを建設する」ことで各首脳と合意したと明らかにした。
習氏によると、今回の会議を機に各政府や企業は283の合意文書を締結。同時に開かれた企業関係者のフォーラムでは、総額640億ドル(約7兆1000億円)以上の事業協力で一致した。
トランプ米政権は、「戦略的競争相手」と見なす中国による世界規模の影響力拡大の試みとして、一帯一路を警戒。中国がインフラ建設融資で途上国を支配下に置く「債務のわな」を仕掛けていると批判している。
習氏はこうした批判を念頭に、「われわれは融資ルートを広げ、融資コストを下げる。各国の金融機関が投融資に参加することを歓迎する」と強調。資金面や環境面で無理を強いないインフラ建設を実施する方針を示し、一帯一路に対する各国の懸念払拭(ふっしょく)に努めた。【4月27日 時事】
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支援を受ける側も、マレーシア・マハティール首相のように、中国の足元をみすかすような形で、より有利な条件を引き出そうとする動きもあります。
結果的には、そうした要求にこたえることは、中国にとっても「一帯一路」のイメージアップとなるでしょう。
****「一帯一路」戦略立て直し 習氏、国際ルール順守強調 国際フォーラム開幕****
(中略)開幕式に先立つ25日、人民大会堂で習氏に迎えられたマレーシアのマハティール首相は、「一帯一路は偉大なイニシアチブだ」などと持ち上げた。
しかし、当初の姿勢は冷ややかだった。昨年首相に返り咲いた後、ナジブ前政権が中国と合意した鉄道建設計画を「返せないほどの借金をしなければならない事業で必要ない」と、同年8月に中止を発表したのだ。
タイ国境からマレー半島南部のマラッカ海峡を結ぶ「東海岸鉄道」の建設は、マレーシアでの目玉事業だっただけに中国側の衝撃は大きく、マレーシア側に218億リンギ(約5900億円)の賠償金を求めた。
だが、マハティール政権は中国とたもとを分かったわけではなかった。コスト削減を求めて交渉を続け、中国の譲歩を引き出した。
交渉役を務めたダイム・ザイヌディン元財務相(80)は朝日新聞の取材に「『中国はいじめっ子ではなく、心からマレーシアを助けようとしている』と外から言われる形にしようと伝えた。それは彼らがまさに求めていたメッセージだった」と明かす。
中国の融資で建設した港で巨額負債を抱えたスリランカは、99年間の港運営権を中国に譲った。中国の金融機関が焦げ付くリスクにかまわず貸し出しをする問題が横行、米国などが「債務のわな」と強く批判した。東海岸鉄道も「スリランカの二の舞いになる」といった声が地元メディアで報じられていた。
中国が強硬な姿勢をとり続ければ、一帯一路の評判をさらに傷つけかねない。マレーシアの提案は、一帯一路の成否と国際世論を気にする中国に強く響いたとザイヌディン氏は見る。
中国側は「搾取する意図はない」と歩み寄り、鉄道はルートを変えて短縮。当初の建設費の3割にあたる215億リンギ(約5800億円)を削減した。
マハティール氏は今月、事業の再開を発表。習氏は「一帯一路は特に周辺国家に大きなチャンスをもたらす」と、満足げだった。(後略)【4月27日 朝日】
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【別途存在する新疆ウイグル弾圧問題】
そうした「債務のわな」の議論とは別に、中国が「一帯一路」を進めるうえで、地理的に計画の要となる新疆でウイグル族などの徹底弾圧を行っていること、それに周辺イスラム国でさえも声を上げようとしないことへの批判もあります。
****言うこととやることが大違い、一帯一路は欺瞞である****
(中略)今回のサミットの狙いは、昨年(2018年)どん底に落ちた一帯一路ブランドのイメージ、つまり「債務の罠」だとか「中国版植民地主義」だとか、資金調達の透明性の問題だとかを払拭するのが狙いで、習近平は賢明に国際標準のルールを尊重することや投資規模のスリム化についてアピールしていた。
だが、一帯一路に対する最大のブラックイメージであるウイグル弾圧問題についてはほとんど言及されていない。
一帯一路の起点である新疆地域の治安を維持するために、平穏に暮らしていたウイグル人まで“再教育”施設に強制収容している状況について、日本を含めて一帯一路を支持する西側国家は言及しなかった。
それどころかカザフスタンやキルギス、パキスタンといったイスラム国家は一帯一路の果実を得るために、中国のイスラム弾圧に目をつぶっている状況だ。
一帯一路構想こそ、中国がことさらウイグル弾圧に力を入れる原因でもある。一帯一路を支持することは、世紀の民族弾圧に加担することではないか、という視点でこの問題を考えてみたい。(後略)【5月2日 福島 香織氏 JB Press】
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【ミッソンダム建設再開をめぐって住民と中国の板挟み状態のスー・チー政権】
中国にとって、米軍がコントロールするマッラカ海峡を通らない石油等の搬入ルートを確保するうえで、前出のマレーシア、パキスタンと並んでミャンマーは重要なポイントになります。
そのミャンマーとの関係で、「一帯一路」停滞の事例としてよく挙げられるのが、ミッソンダム建設計画の中断です。
このダム計画をめぐって、再開するのか、中止するのか、スー・チー政権は決断を迫れています。
****中国主導のミッソンダム、右往左往のミャンマー政権*****
ミャンマー政府(前テイン・セイン政権時)が中国が支援するカチン州のミッソンダムプロジェクトの一時中断を決めてから7年が経つ。
中国はこのダムプロジェクトを「一帯一路構想」の要の一つとしており、スー・チー政権が誕生してからもプレッシャーをかけ続けてきた。
ここ数週間でその動きが活発化しており、昨年12月下旬には在ミャンマー中国大使がカチン州を訪問して現地の政党や社会活動グループのリーダーに会い、今月半ばには「カチン州の地元の人たちはミッソン水力発電プロジェクトに反対していない」という声明を在ミャンマー中国大使館が出した。
地元の指導者達は即反発、中国大使館の声明は誤解を与えているとし、カチン人はプロジェクトが「永久的に」お流れになることを望んでいるとした。
スー・チー氏は、野党時代にはダムプロジェクトの契約書を公表すべきだとしていたが、政権について3年、公表の兆しは見えない。
また、国民民主連盟(NLD)政権になってから、カチン州知事を含むプロジェクト見直しのための委員会が設立され、既に2つの報告書が出されているが、政府は公表しないままだ。
そんな中、スー・チー氏が今月22日に質問に答える形で、「前政権が認めたプロジェクトを、政策が合わないからと言って新しい政権が止めてしまったら、ミャンマーのことを信じる投資家がいなくなってしまう」と発言。このことが憶測を呼び、カチン州ではプロジェクトが地元民の声を無視して推し進められるのではないかと心配の声が上がり始めた。
29日からネピドーで行なわれている「Investment Myanmar Summit」の会議では、投資・外国経済関係担当のタウン・トゥン大臣が火消しに回り、現時点では何も決定されていないと明言した。政府は「中国との関係を大切にしており、どうにか解決策を探したいと思っている」と正直に答え、ダムの規模縮小や場所の移転、また他の代替プロジェクトの開発も視野に入れているとした。
ダムの建設予定地が地震断層線上にあり、集水地域がシンガポールの国土の2倍というリスクの高い壮大なダムプロジェクトだが、地元の自然や文化・歴史的遺産を飲み込み、多くの村民が移住を余儀なくされることもあり、地元の反対は変わらない。
スー・チー氏自身がミャンマー一帯一路委員会のトップを務めるが、はてさてミッソンダムという要のプロジェクトに関してはなかなか難しい舵取りを迫られている。決断にはまだ時間がかかりそうだ。【1月30日 ASIA RISK】
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上記記事にもあるように、これまで沈黙してきたスー・チー氏が、いよいよ建設計画再開に踏み出すのではないか・・・との憶測が流れています。
****ミャンマーに圧力かける中国****
ミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相が中断されている北部の水力発電ダム建設の再開を強く求める中国と反対する住民らの間で板挟み状態になっている。(中略)
同ダムは計画当初、発電量6000メガワットの約90%が中国に輸出され、中国は南部雲南省の開発にその電力を使う構想を抱いていたとされる。しかし、ミャンマーでの反対運動の高まりと前政権による建設工事中断を受けて、現在では「中国国内の電気需要は賄えるようになったので、発電所の電気はミャンマー国内で大半が消費される」ということになっているという。
■ 中国は再開に向けて圧力強化
こうしたミャンマー政府の対中政策の転換に中国政府は当初戸惑いと衝撃を受けていたが、スー・チー政権が誕生したことをきっかけに「建設再開」に向けた水面下での交渉を強めている。
中国側は建設工事契約に基づき、中止となれば「契約違約金」「これまでの投資への損害賠償金」など多額を要求する構えをみせてスー・チー政権に圧力をかけているとされる。
こうした手法は中国の「一帯一路」構想の常とう手段で、債務不履行に追い込まれれば所有権、借用権で実質的に中国が運営管理に乗り出し、計画途中での中断や中止は損害賠償要求で窮地に追い込むなど、いずれにしろ中国側が有利な立場に立つことになるのだ。
野党「国民民主連盟(NLD)」時代は環境問題への配慮からダム建設に反対していたスー・チー顧問もミャンマー北部の電力需要への対応策も求められる一方で、住民の反対運動そして圧力をかけてくる中国との間で「板挟み状態」に陥っているのが現状といえる。
■ 地元中心に広がる反対運動
北部カチン州で二つの川が合流し、ミャンマーを代表するイラワジ川となる場所で進められていたミッソンダム建設計画は、周囲の豊かな自然環境を破壊し、生態系に深刻な影響を与えること、自然災害への影響、さらに文化遺産が破壊される懸念などから地元住民を中心に建設反対運動が再び大きくなっている。(中略)
4月19日には仏教、キリスト教、イスラム教の各宗教の指導者がダム建設計画の完全そして永久放棄を求める集会を開催するなど反対運動はカチン州の住民に留まらず、いまや国民的運動にまで拡大しようとしている。
反対運動の盛り上がりの背景にはダムそのものの環境破壊問題もあるが、その一方で対中強硬政策から親中政策に舵を切ろうとしているスー・チー政権と、「一帯一路」構想を押し付けてくる中国そのものへの反発が根底にあるとみられている。
政府のタウン・トゥン投資対外経済関係相は2019年1月にネピドーで会見した際に外国メディアの質問などに答えて「環境問題も大事であり、反対する地元民の声は無視できないが、国家開発推進には電力が必要である」との立場を示し、スー・チー政権内で特別委員会を設置して「ミッソンダム建設工事の再開の当否を検討、協議している」ことを明らかにした。
こうした流れからスー・チー顧問が建設再開に前向きで、中国訪問で「中断している建設工事の再開」を伝える可能性が浮上している。スー・チー顧問自身はこのダム問題に関しては一切コメントをせず、沈黙を守っているが、逆にそれが「ゴーサイン」を伝える証左ではないかとの見方が強まっている。
中国にとってミャンマーはインド洋、南西アジアへの足掛かりという戦略上重要な位置を占めている。それだけにスー・チー顧問が予定する訪中で、中国側から多額の経済援助と見返りに「ダム建設の再開」を要求されることは明らかで、ミャンマー国内では安易な合意への警戒感も高まっている。【5月2日 大塚智彦氏 Japan In-depth)】
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【中国批判には、反ユダヤ主義的「ヴェニスの商人」のような感も】
暴騰にとりあげた国際会議に出席したスー・チー氏が中国側にどのような回答を伝えたのか・・・現段階では明らかにされていません。
ただ、上記のような中国「一帯一路」批判は、やや中国に対して一方的過ぎるような感もあります。
計画中止になったとき、違約金や損害賠償を求めるというのは、中国ならずともどこの国でも行うことでしょう。
「債務のわな」云々にしても、中国支援の計画を決定したのはミャンマーなど支援受ける側であり、返済が滞れば、何らかの弁済措置を求めるというのも、これまた中国ならずともどこの国でもある話でしょう。
いささか、「ヴェニスの商人」における、ユダヤ人金貸しシャイロックに対する反ユダヤ主義的“無理難題・理不尽”な判決のような感も。
【日本とは全く次元の異なる深刻な電力事情】
スー・チー氏が対応を明確にしてこなかったのは、現実政治家として住民生活向上・ミャンマー経済活性化のために電力がどれほど重要かを認識しているからでしょう。
“ジェトロが行った調査(2017年度)によると、ミャンマーに進出した日系企業の80%以上が「電力不足・停電」を経営上の課題に掲げています。電力をはじめとするエネルギー問題の解決は、日本企業のミャンマー進出にとって、重要なポイントの一つと考えられます。”【2018年04月18日 VACグループHP】
これまでミャンマーについては、4回、1週間弱程度の観光旅行をしただけですが、それでもミャンマーの電力事情の劣悪さはわかります。
“ときどき停電がある”というのではなく、毎日停電があり、時期・地域によっては電気を使える時間の方が少なかったりもします。
ただ、外国人旅行者が宿泊するホテルは自家発電機を有していますので、停電・電力事情の問題の実態は理解できていないかも。そもそも電気が通じていなければ、停電も何もありません。(先日のパキスタン旅行では、ホテルも夜12時を過ぎると自家発電機を止めるので、全くの暗闇となり困りました。パキスタンでも中国支援でダム建設が進んでいます)
****貧困層にみるミャンマーの電力事情****
私がミャンマーのヤンゴンで暮らし始めた4月頃は、停電が毎日のように起きていた。
ミャンマーの電力供給は水力発電が中心であるため、雨がほとんど降らない乾季(11月~翌4月)になると停電が起きやすい。また、暑さが酷い3~5月もエアコンが多用されるため、電力が不足し、頻繁に停電が発生する。
最高気温が45度近い中での数時間におよぶ停電。うだるような暑さの中で、いつになるか分からない復旧をひたすらに待たねばならず、自分が日頃いかに電気に依存した生活を送っているのかを再認識する。
このように、ミャンマーでは最大都市ヤンゴンですら電力供給が未だ不安定だ。
一方で、貧困地域に至っては、そもそも電気が届いていない家庭も多い。(中略)
電気が届いていない貧困層の家庭
まず、公共の電気が届いていない家庭から見てみよう。電気が届いていないこのお宅には、代わりに充電式バッテリーがある。(中略)
電気の通っていない世帯では、この充電器のように、バッテリーから電化製品に向かってコードが延びているのをよく目にする。また他の家庭では、小さい充電式バッテリーが電灯用に使われ、照明器具へとコードが延びていた。(中略)
このように、公共の電力サービスがない無電化世帯においても、充電式バッテリーを利用し、意外に多くの人が電気を利用している。
簡易的な発電機(ジェネレーター)を持つ電気屋から線を引いている家庭もある。
(弊社の調査では、無電化世帯においても何らかの電気にアクセスできる世帯は98%にのぼる。またバッテリーを使っている世帯は、平均して月々約4,900チャット(約490円)を充電に支出している。)
ちなみに、無電化地域におけるバッテリーの需要に伴い、バッテリー充電をビジネスにしている人もいる。
充電だけをする業者もあれば、充電だけでなくバッテリーの戸別回収から、充電、配達までする業者もある。(中略)
ミャンマーの国勢調査(2014年)によると、無電化世帯は67.6%。大半の人々が公共の電力を利用できない状態にある。
しかし、ここ最近、公共の電力網が整備されていない地域において、民間企業による新しい動きが見られる。
例えば、現地大手企業ヨマ・ストラテジック・ホールディングスはノルウェーの政府系ファンドと合弁企業を設立し、無電化地域におけるミニ電力網の構築に取り組む。(中略)
民間企業の取り組みに加え、ミャンマー政府によって2030年までに電化率100%を達成するという目標が打ち出された。国を挙げて、ミャンマー全土に公共の電力を普及させようという動きだ。(後略)【2017年11月7日 塩野愛実氏 Inclusive World】
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こうした電力事情にあって、「発電所の電気はミャンマー国内で大半が消費される」ということであれば、検討に値するでしょう。
もちろん、ミャンマー国民が電力より環境を選ぶ、あるいは、中国の影響拡大を拒否するということであれば、それは最大限に尊重されるべきですが、電力問題を実感できない日本の人間がステレオタイプな中国「一帯一路」批判で云々するのであれば、やや違和感も感じるところです。
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