孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン  アブドラ氏が開票停止を要求 新たな混乱の火種に?

2014-06-20 22:51:58 | アフガン・パキスタン

(14日、アフガニスタンの首都カブールの投票所で投票するアブドラ元外相【6月14日 Bloomberg】)

アブドラ氏が結果の受け入れを拒否する可能性も
6月14日ブログ「アフガニスタン  大統領選挙は安全かつ公正に行われているのか? とは言うものの・・・」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140614)で取り上げたアフガニスタン大統領選挙。

タリバンの妨害や選挙の不正など問題は多々あるものの、とにもかくにも米軍撤退後のアフガニスタン自立に向けての重要な1歩となる選挙です。
現在、14日に行われたアブドラ元外相とガニ元財務相による決選投票の開票作業中です。

“アメリカの努力もむなしく、今も腐敗ははびこったまま。成功したと一部で言われている「選挙による民主主義」が、短命に終わる可能性もある。
それでも、アフガニスタン史上初の平和的な政権交代がこのまま穏やかに進行するとしたら、大きな前進だといえるだろう。私たちにとっては当然のことが、この国では特筆に値する快挙になるのだ。”【6月10日 Newsweek日本版】とのことですが、「穏やかに進行する」かどうか、怪しい情勢にもなっています。

****アフガン大統領選:元外相が開票中断要求 不正を主張****
14日に決選投票が行われたアフガニスタン大統領選の候補者、アブドラ・アブドラ元外相(53)は18日、投票で大規模な不正があったとして、独立選挙委員会(中央選管)に対して開票作業を一時中断して調査するよう求めた。

選管はこのまま開票を続けるとしているが、アブドラ氏が結果の受け入れを拒否する可能性もあり、政情は混迷を深めそうだ。

決選投票はアブドラ氏とアシュラフ・ガニ元財務相(65)が争っており、地元メディアはガニ氏がリードしていると報じている。

アブドラ氏は、選管が公表した推定投票率(約58%)があまりにも高く、ガニ氏の得票が不正に上乗せされたと主張。

自陣営の開票作業の監視チームを全て引き揚げるよう命じたことを明らかにした。さらに「このまま開票が続けば、(選挙結果が)正当性を失うことになる」と指摘。カルザイ大統領についても「公平ではなかった」と批判した。

中央選管によると、16日の時点で568件の不正の疑いが寄せられた。このうち141件は選管スタッフに対する疑惑で、残る427件はいずれかの陣営関係者に対するものだった。

不正内容は買収や投票の強制、得票数の操作など多岐にわたるという。暫定結果の発表は7月2日に予定されている。

アブドラ氏は前回の大統領選(2009年)でも決選投票に進んだが、カルザイ大統領による不正を指摘してボイコットした。

この時はカルザイ大統領の無投票当選が決まったが、選挙の正当性に疑問符がついた。今回の決選投票では、両候補の陣営が衝突して死者が出る騒ぎも発生しており、混乱が長引けば政情不安につながる恐れがある。【6月19日 毎日】
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8人が立候補した1回目の投票では、アブドラ氏が45%を獲得し、2位のアシュラフ・ガニ元財務相の31.6%でしたが、今回決選投票にあっては、現段階情報ではガニ氏がアブドラ氏を100万票ほどリードしていると見られています。

パシュトゥン人とタジク人
両候補のプロフィールは以下のとおりです。

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 ◆アブドラ・アブドラ(53歳)
 1回目得票率 45.0%
 経歴     タリバーン政権に対抗した北部同盟出身。カルザイ政権初期に外相
 支持層    第2民族タジク人、旧軍閥、現政権の一部
 選挙運動   地方遊説を重視。各地で道路、ダム建設を約束

 ◆アシュラフ・ガニ(65歳)
 1回目得票率 31.6%
 経歴     世界銀行勤務。タリバーン政権崩壊後に財務相、カブール大学学長
 支持層    最大民族パシュトゥン人、帰国組の知識人
 選挙運動   討論会を重視。汚職や軍閥支配を批判。女性の登用を公約  【6月15日 朝日】
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政策的にはさほどの差はないと見らており、カルザイ大統領が署名を拒否している国際治安支援部隊(ISAF)撤収後の駐留米兵の地位を定めるアフガニスタンとアメリカの「安全保障協定」についても、アブドラ、ガニ両氏とも当選すれば署名すると明言しています。

ただ、アフガニスタンの場合、民族対立の内戦の過去もあり、出身民族が大きな意味を持つとされています。
この点で言えば、アブドラ氏が母方のタジク人を支持基盤とするのに対し、ガニ氏は最大民族パシュトゥン人出身です。

アブドラ氏が問題としている“選管が公表した推定投票率(約58%)があまりにも高い”ことに関しては、“決選投票の直後から、ガニ氏の地盤の東部各州で投票率が非常に高かったとの見方が流れ始め、一部の地元メディアが「ガニ氏が逆転した」と報道。アブドラ氏は、カルザイ大統領に選管幹部の更迭を求めたが、受け入れられなかった。”【6月19日 朝日】とのことです。

“ガニ氏の地盤の東部各州”というのは出身民族パシュトゥン人の居住エリアであり、アブドラ陣営は「100万票の不正票が相手側に入った」などと主張しています。

タリバンもパシュトゥン人中心に構成されており、タリバンの選挙妨害が強ければタリバンの地盤でもある東部各州の投票率は低く抑えられます。逆に、妨害程度如何によっては投票率が大きく動くことも考えられます。

今後をにらんで、同じパシュトゥン人のガニ氏を勝たせるためにタリバンが妨害を手加減した・・・ということはないでしょうが・・・。

あるいは、パシュトゥン人主体の現政権・選管などが、ガニ氏に有利に取り計らった・・・という話でしょうか。

なお、“欧州連合の選挙監視団は「1回目の投票より、透明性が高かった」と評価していた”【同上】とのことです。

後味が悪い結果となった前回選挙
前出【毎日】記事にもあるように、前回(2009年)選挙のときも、アブドラ氏は選挙の不正を理由に決選投票をボイコットしています。

このときは第1回投票でカルザイ大統領陣営の大規模不正があったとして、アメリカ・欧州が選挙の正当性に問題があるとし、結局、カルザイ大統領は過半数を制したものの、不正票を差し引くと過半数に満たないとして決選投票が行われることになりました。

****アフガン:アブドラ氏ボイコットでも決選投票は予定通りに****
アフガニスタン大統領選決選投票(11月7日)を巡り、カルザイ大統領の対立候補であるアブドラ元外相がボイコットの構えを見せている問題で、選挙管理委員会幹部は31日、毎日新聞の電話取材に「ボイコットしても選挙は予定通り実施する」と明言した。

だが、カルザイ氏が当選してもアブドラ氏は新政権の正統性を否定していく方針で、アフガニスタンは泥沼化する対テロ戦と同様に政情も混迷を深めそうだ。

アブドラ氏のホセイン選対本部長は31日、取材に「カルザイ氏に求めた条件が31日夜までに受け入れらなければボイコットする」と語った。

条件として▽内務相▽教育相▽国境問題担当相▽地方政府相▽選管事務局長の更迭を挙げた。5人はいずれもカルザイ氏と同じパシュトゥン人。

カルザイ氏は公式見解を示していないが、選対幹部は「更迭する正当な理由がない」と否定的な姿勢を示す。

一方、選管のナジャフィ委員長は取材に「選挙法に従えば、すでに棄権通告期限は過ぎており、決選投票は予定通り実施される」と述べ、勝者が憲法に従って新大統領に任命されると明言した。

人口の3割弱を占めるタジク人を支持基盤にするアブドラ氏は、8月実施の投票を巡り、最多人口のパシュトゥン人を地盤とするカルザイ氏の「不正」を糾弾し、決選投票を強く要求していた。

選管は10月20日、両氏に不正があったとする一方、不正票を除いたカルザイ氏の票が当選要件の過半数に届かなかったとして決選投票の実施を宣言した。

ところが、カルザイ氏の優位は動かず、米政府も「新政府発足前に新戦略の策定は可能」と同氏再選を見越したことで、アブドラ氏側は反発。決選投票のボイコットは、カルザイ氏に要求を認めるよう米国に圧力をかけさせる狙いもある。

一方、AFP通信によると、アラブ首長国連邦に滞在中のクリントン米国務長官は31日、アブドラ氏がボイコットした場合について「選挙の正当性に影響するとは思わない」と述べ、ボイコットがあっても米政府が決選投票の結果を受け入れるとの見通しを示した。【2009年10月31日 毎日】
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カルザイ大統領は第1回投票に対するアメリカの“不正”批判に激怒し、その後のカルザイ政権とアメリカの不協和音の大きな原因ともなりました。
カルザイ大統領がアメリカとの「安全保障協定」に署名しないのも、こうしたアメリカへの“恨み”があるから・・・とも言われています。

一方、ようやく実施されることになった決選投票は、勝算の目途が立たないせいか、当事者アブドラ氏がボイコットするということで、非常に後味の悪い選挙でした。

民族間抗争など「時代遅れの見方」・・・であるために求められる自重
そんな昔の話もあっての、今回のアブドラ氏の開票作業中断要求です。
正直なところ「またか・・・」という感もあります。

アブドラ氏が主張するような“100万票”規模の不正があれば確かに問題ですが、タリバンとの内戦、腐敗・不正の横行というアフガニスタンの現状を考えると、多少の不正・妨害は呑み込んで、結果を受け入れるしかないように思われます。

もしそのせいでリードを許したということであれば、そうした不正・妨害を乗り越えるだけの力量が自分に不足していたと考えるべきでしょう。
そうでないと、話が1歩も前に進みません。

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アブドラ氏が1次投票から引き続き優勢との見方がある一方、直接対決になれば、最大民族パシュトゥン人のガニ氏が少数派タジク人に支持基盤を持つアブドラ氏を逆転するとの観測も出ている。
民間企業が有権者約2800人を対象に実施した世論調査では、ガニ氏を支持するとの回答が49%を占め、アブドラ氏支持(42%)を上回った。【6月14日 時事】
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アフガニスタンにおける世論調査がどういうものかの疑問はありますが、ガニ氏が逆転するとの予測も以前からあった話であり、あながち不正によるものだけではないように思えます。

****米軍撤退アフガンは「イラクにはならない****
イスラム過激派組織の侵攻でイラク情勢が緊迫している。治安は11年の米軍撤退以降で最悪だ。16年末に米軍完全撤退が予定されているアフガニスタンは大丈夫なのか。

先週末には大統領選の決選投票が行われたが、選挙戦の問には候補者のアブドラ元外相を狙ったと思われる爆弾テロが発生。
大統領選阻止を宣言していた反政府勢カタリバンの犯行の可能性も指摘された。

だがアブドラは、アフガニスタンとイラクは「事情が違う。この国では全住民がタリバンを拒否している」と言う。

最大民族パシュトウン人を父に持つアブドラだが、支持基盤は少数派タジク人。彼が大統領になれば民族間抗争が勃発するという声もあるが、アブドラは「時代遅れの見方」と一蹴する。

さらに、今年末の米軍の戦闘部隊撤退後も、一部部隊を残留させるための協定をアメリカと結ぶと明言している(カルザイ現大統領は拒否)。

直前の世論調査では対立候補のガニ元財務相にリードを許したが、アブドラは勝利する自信を見せた。それも、またテロの標的にならなければだが。【6月24日号 Newsweek日本版】
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アブドラ氏の言うように、民族間抗争など「時代遅れの見方」であってほしいと思います。
そのためにも、アブドラ氏自身がその民族間抗争の火種とならないよう、自重してもらいたいものです。

なお、公式には7月2日から一部の投票結果の発表が始まり、最終結果は7月22日に公表される予定です。
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タイ  カンボジア労働者国外脱出騒動  “こわもて”イメージ払拭に励む軍政

2014-06-19 22:17:35 | 東南アジア

(15日、タイのカンボジア国境付近で、帰国を待つカンボジア人労働者たち(ロイター=共同)【6月16日 共同】)

アメリカ:“奴隷労働”に制裁も検討
6月15日ブログ「タイ養殖エビの“奴隷労働” カンボジアでは農地が収奪されサトウキビ農園に その消費者は・・・」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140615)で取り上げた、タイにおける養殖エビ餌漁業での外国人労働者“奴隷労働”に関して、アメリカが経済制裁に乗り出す可能性が出てきたそうです。

****タイの水産業にはびこる奴隷労働と「屑魚****
世界最大のエビの輸出国であるタイの水産業界には長年、公然の秘密があった。悲惨な奴隷労働と暴力が横行しているという秘密だ。

だが最近、タイの漁港や漁船で働く多くの外国人労働者が、無給で過酷な労働に従事させられている実態が白日のもとにさらされつつある。

タイの水産業界では、人身売買組織に騙されたり、仕事を求めて不法入国してきたミャンマーやカンボジアの貧しい人々が大勢働いている。

彼らは長期間に渡って船上で働かされ、地上に上がることも仕事を辞めることも許されない。タイ人の雇用主に反抗すれば暴行を受け、命を奪われることもある。

外国人労働者はもちろん、タイ側の関係者でさえ、タイの漁業業界では殺人行為は日常茶飯事だと証言している。「外国人乗組員が全員射殺されるのを見た」と、あるタイ人は言う。「雇用主は賃金を支払いたくないから、全員を並ばせて一人づつ撃っていった」   悲惨な実態が広く報道されたのを受けて、長年見て見ぬふりをしてきたアメリカがついに、タイへの経済制裁に乗り出す可能性が浮上している。

制裁が科されれば、70億ドル規模のタイの水産業にとっては大打撃だ。

アメリカの食卓では、タイ産の安価なエビやフィッシュスティック(細長く切った魚のフライ)の需要が非常に高い。さらに、一見そうとはわからない形で大量に出回っているタイ産海産物もある。「屑魚(トラッシュ・フィッシュ)」だ。

屑魚とは単一の品種ではなく、2種類の海産物の総称だ。1つは人間の食用に適さない魚、もう1つは成魚に育てば美味だが、十分成長する前に網にかかってしまって売り物にならない魚である。屑魚はすりつぶされ、家畜飼料やペットの餌、魚油や安物の加工食品にされる。

屑魚と強制労働の関係は明白だ。逃げ出した元奴隷労働者らの証言によれば、彼らはタイ人が所有するトロール漁船や小型船に乗せられ、屑魚を大量に獲るため遠海に運ばれる。

東南アジアの海域では乱獲が進み、高値で売れる魚が急激に減りつつある。そこで船長らはやむを得ず、屑魚をたくさん獲ろうと乗組員に過酷な作業を強いるわけだ。(後略)【6月19日 Newsweek】
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タイ産の屑魚が使用されているのは、エビ養殖の餌、魚醤、魚油サプリなどだそうです。

ペットフードもでしょう。
格安のキャットフード缶詰を買うときに生産国を見ると、ほとんどがタイ産です。
タイの屋台(人間用ですが)などを考えれば、「タイで猫用の缶詰を作る際に、衛生面への配慮がなされとはとても思えない・・・一体何が入っているのだろう・・・」という不安があり、しばしば購入を躊躇しました。

衛生面はともかく、労働環境面で大いに問題があったようです。

さすがにアメリカは人権に敏感なだけあって、反応も早いようです。日本では殆ど話題になることすらありません。

EU:軍政に外交関係の一部停止など制裁を実施
もっとも、アメリカでの経済制裁論議(詳細は知りませんが)の背景には、外国人労働者“奴隷労働”だけでなく、タイの軍事クーデターへの批判もあるのかも。

アメリカ以上に人権に敏感な欧州は、タイの軍事政権に対し、外交関係の一部停止など制裁を実施する方針を固めています。

****EU:タイ軍政に制裁 外交関係を一部停止へ****
欧州連合(EU)は、先月のクーデターでタクシン元首相派政権を崩壊させ全権を掌握したタイの軍事政権に対し、外交関係の一部停止など制裁を実施する方針を固めた。近く大筋合意し、23日の外相会議で承認する。EU外交筋が毎日新聞に明らかにした。

EUは軍事政権に対し、早期の民政回復を求めており、EU外相会議の宣言案ではタイへの「関与見直し」を決める。外相会議の日程上の理由で制裁合意が遅れていた。

宣言案では全権を掌握した「国家平和秩序評議会」のプラユット議長(陸軍司令官)など、タイの軍事政権からEUへの公式訪問を停止する。

また、政治経済分野の協力強化を目指して2006年から交渉している「友好協力協定」について「民主的な選挙で選ばれた政府ができるまで調印しない」と、事実上の交渉停止を宣言した。また軍事協力も中止する。

EUはタクシン元首相を失脚させた06年のクーデターでも外交関係停止の制裁を取っており、08年に正常化していた。【6月19日 毎日】
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日本外交はしばしば“追従外交”とも揶揄されますが、かつてのミャンマー軍事政権や内戦時のスリランカなど、アジアの人権侵害国との関係については、人権侵害を重視する欧米とは一線を画して、従来の深い関係性に配慮した対応をしばしばとっています。

カンボジア人就労者は逮捕されて虐待されるといううわさで、脱出騒動
一方、軍事政権下のタイでは、軍政が不法就労者の摘発に乗り出すといううわさが広まり、カンボジア人労働者が国外に脱出する騒ぎとなっています。
もちろん脱出できるのは“奴隷労働”ではない、違法移民を含む普通の労働者です。

****カンボジア人20万人がタイを「脱出」、摘発の噂広まり****
タイで働くカンボジア人労働者の間に、クーデターで実権を握った軍政が不法就労者の摘発に乗り出すといううわさが広まり、出国しようとするカンボジア人が国境沿いの町に押し寄せている。

国際移住機関(IOM)によると、この1週間ほどで18万人あまりのカンボジア人が、摘発を恐れてタイを出国した。毎日約1万人が出国する状況が続いているといい、車などで出国した人も含めると、合計は20万人近くに上る可能性もあるという。

国境の町には3000~4000人が押し寄せるなど状況は深刻化しており、カンボジアとタイの当局者が17日に会談して対応を協議した。

タイの国境に面したアランヤプラテートに集まっていたカンボジア人就労者の多くは、逮捕されて虐待されるといううわさを聞いたと話していた。

これに対してタイ軍の報道官は、「広く伝わっているような形で逮捕する方針はもってない」「パニックにならないでほしい。当初は柔軟な姿勢で臨む。移民労働者は普段通りに働き続けられると請け合いたい」と語る一方、「ただし必要があれば当局が調べられるよう、雇用主には従業員名簿の作成を求める」とした。

タイで合法的に就労している220万人は、ミャンマー人が170万人、カンボジア人は43万8000人を占める。タイは失業率が0.9%と低く、低賃労働の多くは外国人労働者が担っている。【6月19日 CNN】
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タイでは多くのミャンマー人・カンボジア人労働者が主要産業を支えていますが、正規の労働許可を取得していない不法就労者も少なくありません。

“クーデター後、各分野の政策の見直しを進めている軍政は10日、外国人労働者政策に関する小委員会を設置。担当のタナサック国軍最高司令官が優先課題として児童労働や人身売買の取り締まりを指示した。
これがタイのカンボジア人コミュニティーやカンボジア国内で「カンボジア人が標的になる」とのうわさになって一気に広がった。「カンボジア人が軍に射殺された」といううわさも流れ、パニックになったという。”【6月17日 朝日】

タイの経済界からは、今回の大量出国で労働力不足を懸念する声が上がっており、当局も噂を否定してはいます。

しかし、「広く伝わっているような形で逮捕する方針はもってない」「当初は柔軟な姿勢で臨む」「ただし必要があれば当局が調べられるよう、雇用主には従業員名簿の作成を求める」・・・・・というのは、やはり、「何らかの規制を行う」「将来は厳しく対応する」「管理を厳重にして、いつでも調査できるようにする」ということであり、あまり不安の解消にはなっていないように思えます。

通常の民政ならともかく、こわもての軍政ですから。拘束されたら、どんな扱いを受けるか・・・・。“奴隷労働”が公然の秘密として存在するような国ですからなおさらです。

プラユット議長作詞『舞い戻れ幸福よ、タイに』】
一方、軍政を率いるプラユット議長(陸軍司令官)は、“こわもて”イメージの払しょくに努めているようです。

****タイ、クーデター主導の司令官が作詞「幸福」のバラード****
タイのクーデターを主導した軍司令官が作詞した「幸福を取り戻す誓い」を歌ったバラードが、動画共有サイト「ユーチューブ」で再生20万回を超えるヒットとなっている。

普段は険しい表情のプラユット・チャンオチャ陸軍司令官による歌詞の題は『舞い戻れ幸福よ、タイに』。

「われわれは心から皆を守る」「もう少しだけ時間が欲しい」といった一節が並ぶ。
タイ王国陸軍軍楽隊が曲を付け、同ウェブサイトで前週6日に発表した。投稿されたユーチューブ上では週明けの9日までに再生15万回を記録した。

楽隊の隊長クリサダ・サリカ大佐は「司令官から直接1時間ほど会えないかと呼び出しを受けた。司令官が自分で作詞した。(司令官は)タイ国民に自分の思いを伝える曲、タイの人々が聞き、再び互いを愛せるようになる曲を求めていた」と述べた。

タイ軍は今回のクーデターの印象を良くしようと、コンサートを開いて兵士が踊ったり、見物人に無料で食べ物を配布したりするなど懸命に努めている。

プラユット司令官は週に一度の定例のテレビ演説で、数か月にわたって抗議行動が続いて政治が行き詰まり、また政治的暴力で30人近くが死亡している事態を受け、やむなくクーデターを起こしたと語った。【6月10日 AFP】
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いささか厚化粧の下に・・・という感もあって、ひいてしまいます。
歓心を買う国民サービスにも取り組んでいます。

****幸福のため」W杯無料放送=タイ軍政の意向で****
タイ国家放送通信委員会(NBTC)は12日、国内でサッカーのワールドカップ(W杯)ブラジル大会の全試合が地上波テレビで無料放送されると発表した。
「国民に幸福を取り戻すため」として、軍事政権の国家平和秩序評議会(NCPO)の意向で決まった。(後略)【6月12日 時事】 
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随分と「国民の幸福」を大切に考えておられるようですが、中立的な立場で混乱を収め、速やかな民政復帰を目指すことが最大「幸福」につながることは言わずもがなでしょう。

国民和解を進めた後、憲法起草と政治改革
軍事政権は民政復帰は急がず、時間をかけてタクシン派の勢力を抑える対策を進める方針のようです。

****暫定政権発足「9月中には」…タイ陸軍司令官****
タイのクーデターで全権を掌握した国家平和秩序評議会のプラユット議長(陸軍司令官)は13日夜、テレビ演説し、「9月中には暫定政権が発足する」との見通しを示した。
暫定首相には議長自身の就任が有力視されている。

議長は、憲法起草を行う立法評議会も暫定政権とほぼ同時に発足するだろうと語った。5月末に発表された民政移管までの3段階の行程表では、第1段階(2~3か月)で国民和解を進めた後、憲法起草と政治改革を行う第2段階に入るとしている。(後略)【6月13日 読売】
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成り行きによっては軍政との衝突も懸念されるタクシン派ですが、タクシン氏本人との関係では、以下のようにも報じられています。その真意はよくわかりません。

****政治に干渉するな」=軍政がタクシン氏に―タイ紙****
15日付のタイ英字紙バンコク・ポストは、タクシン元首相に近い筋の話として、軍事政権の国家平和秩序評議会(NCPO)が元首相に対し、政治への干渉をやめるよう伝えたと報じた。支持者がタクシン氏を訪れるのをやめさせることも求めたという。

タクシン氏はNCPOの要請に同意し、支持者にNCPOに協力するよう伝えた。また、NCPOのプラユット議長(陸軍司令官)にメッセージを送り、「全ての人に正義と公正が確保されること」を要請した。

タクシン派政党・タイ貢献党筋の話では、同党の政治家らがタクシン氏と面会するのは難しくなっているが、ソーシャルメディアを使ってタクシン氏との連絡を保っているという。【6月15日 時事】
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イランとアメリカ イラク情勢で異例の協調姿勢

2014-06-18 23:12:34 | イラン

(イランの首都テヘランで、大統領当選1年の節目に記者会見し、イラク支援などについて語るロウハニ大統領=2014年6月14、田中龍士撮影 【6月14日 毎日】)

【「イラクの安定は共通の利益であり、ISILへの懸念も共通だ」】
“安倍晋三首相が並々ならぬ意欲を示す集団的自衛権の行使としての戦闘下でのシーレーン(海上交通路)の機雷掃海。中東情勢が悪化するたびに不安定化するペルシャ湾・ホルムズ海峡での活動は日本にとって欠かすことができないと首相は判断している。”【6月18日 産経】

その“不安定化”の当事者であり、34年前に国交を断ったアメリカとイランが、イラクでのイスラム武装組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」への対応を巡り急接近する異例の状況となっています。

イランのロウハニ大統領は14日、「米国がイラク国内のテロリスト集団に対して行動を起こすなら、検討できる」と述べ、支援申し入れを検討する用意があることを明らかにしていました。

****イラク情勢:米国とイラン 異例の2国間協議****
米国務省高官は16日、イスラム過激派の侵攻で治安が悪化しているイラク情勢について、米国とイランが協議したことを明らかにした。
治安悪化の背景とされる宗派・民族間対立を軽減させる方策について話し合ったとみられる。

長年、敵対的関係にありイラクでも影響力を競い合ってきた両国が協調姿勢を見せるのは異例で、事態の深刻さを反映する動きと言える。

米国はイランで起きたイスラム革命(1979年)以降、国交を断絶している。イランで昨年、穏健派のロウハニ大統領が誕生して以降、決裂していた米欧との核開発を巡る交渉が再開するなど、米国との関係改善の兆しが見えている。

両国はイラン核問題交渉が行われているウィーンで協議した。
同高官によると、2国間協議は今後も継続され、イラクに侵攻する「イラク・レバント・イスラム国(ISIL)」がイランを含む周辺地域にもたらす脅威の度合いや、イラクの宗派間の対立を防ぎ安定化させる方策などが議題になるという。軍事面での連携は除外する。

イランとの協議について、国務省のサキ報道官は16日の定例会見で「イラクの安定は共通の利益であり、ISILへの懸念も共通だ」と述べ、両国に連携の余地があることを強調した。

イスラム教シーア派国のイランは、シーア派が主導するマリキ政権を支援しており、影響力を持っている。
一方、米国もマリキ政権を支援しており、シーア派政権を攻撃するスンニ派主体のISILは両国にとって共通の懸念材料となっている。

また、イラク危機への対応についてオバマ米大統領は16日夕に国家安全保障会議を開催。最新情勢の報告と選択肢の提示を受けた模様だ。ISILの前進を止めるための空爆など軍事行動も検討されている。

また、オバマ氏は同日、約275人を上限とする米軍兵士をイラクに派遣することを米議会に書簡で通知した。バグダッドの米国民や米国大使館の安全確保などを図る目的だが、「戦闘のための装備をさせている」という。

国防総省によると、既に中東全域などを担当する米軍兵士約170人がバグダッドに到着し始めている。さらに約100人の兵士が、飛行場管理や安全確保、兵たん支援などのため移動中で、計約270人の兵士が大使館の警備隊とともに配備される。【6月17日 毎日】
******************

イラン・ロハニ大統領は14日、「イラクへの介入を考えたことはない。イラクから支援の要請があれば国際法の範囲で応えるが、いまは要請はない。イラクは独力で危機を解決できる」と会見し、軍事介入を否定していましたが、米紙ウォール・ストリート・ジャーナル電子版は12日、イラン安全保障関係筋の情報として、イランが革命防衛隊を派遣したと報じています。

“同紙によると、派遣されたのはイランの革命防衛隊の精鋭部隊「コッズ」。ISILが制圧したイラク北部の要衝ティクリート奪還に向け、イラク・マリキ政権の政府軍支援を開始。これまでにティクリートの約85%の地域を奪還。首都バグダッドなど主要都市でも守備についている。”【6月13日 毎日】

また、イラン国内ではシーア派聖地防衛を掲げての民兵募集に多くの若者が応じており、すでに2000人規模の民兵組織バシジがイラクに入っているとも報じられています。

****イラン:4200人が派遣を志願…イラク中部聖地を防衛****
イランのニュースサイト「ヤング・ジャーナリスト・クラブ」は14日、イスラム教スンニ派の過激派組織「イラク・レバント・イスラム国(ISIL)」からイラク中部のシーア派聖地を守るため、イランの若者4200人が派遣を志願したと報じた。革命防衛隊傘下の民兵組織バシジが含まれるとみられる。

報道によると、テヘランに本部を置くイスラム教活動団体が、イラン革命(1979年)や最高指導者ハメネイ師に忠誠を誓う若者から聖地保護の要求を受けて募集したところ、4200人が登録した。
イラク中部の聖地ナジャフとカルバラに派遣する予定という。

ナジャフにはシーア派初代イマーム(宗教指導者)アリの、カルバラには3代目イマーム・ホセインの聖廟(せいびょう)があり、フセイン政権崩壊(2003年)後、イランなどから巡礼者が頻繁に訪れている。イランは、ナジャフの宗教施設や発電所の建設工事に巨額の投資をしている。

一方、英紙ガーディアン電子版は14日、イラク当局者の話として、イランのバシジ部隊2000人がイラク東部に到着したと報じた。イラン国境に近いハナキンに1500人、バドラに500人が入り、革命防衛隊の精鋭部隊「コッズ」のスレイマニ司令官はバグダッドにいるという。【6月15日 毎日】
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こうしたイランの介入について、アメリカは否定していません。
“ハーフ米国務省副報道官は13日の定例会見で、イラン軍部隊のイラク介入について聞かれると「確認できない」と述べた上で、「イラクは主権国家だ」とも語り、受け入れ判断はイラク側によるとの姿勢を示唆していた。”【6月16日 毎日】

イランはマリキ政権のほか、シリアのアサド政権やレバノンのシーア派組織ヒズボラと同盟関係にあり、その影響範囲は「シーア派三日月地帯」とも呼ばれています。

シーア派の盟主を自任するイランは、シーア派のマリキ政権をなんとしても支えるつもりでしょうが、それについてアメリカの“お墨付き”が得られて、今後の関係も改善するとあれば一挙両得でしょう。

****イランがイラク関与深める 米の“お墨付き”得るチャンス****
 ■ISIL対策、精鋭部隊幹部を派遣
ISILの攻勢が続くイラクに対し、隣接するシーア派大国イランが関与を深めている。イランは今回の危機を、イラクでの影響力保持に向けて米国から“お墨付き”を引き出す好機ととらえているようだ。

AP通信は16日、イラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」のソレイマニ司令官がバグダッド入りし、作戦司令室を設置したと伝えた。

司令官は、ISILが攻撃対象に宣言しているシーア派の聖地カルバラやナジャフも訪問。作戦司令室では、反攻作戦の洗い直しや、イラク政府軍やシーア派民兵との連携が検討されているという。

コッズ部隊は主にイラン国外での工作を担っており、内戦下のシリアでは同盟関係にあるアサド政権を支援しているとされる。

イランは2003年のフセイン政権崩壊後、イラク政治の主導権を握ったシーア派勢力を後押しし、影響力を強めてきた。盟主を自任するシーア派勢力圏にイラクを組み込む狙いがある。

11年末の米軍のイラク撤退後はマリキ政権がスンニ派排除を進め、シーア派優位が強まった。

こうした中、米国がイラク情勢でイラン側と協議したことは、イランにとって自国抜きではイラク安定が達成できないと米国が認知したことを意味する。

ただ、ISILが急速に勢力を伸ばした背景には、シーア派を優遇するマリキ政権に対するスンニ派の不満の高まりがある。

ISILに制圧されたスンニ派地域では、政府軍が早々に撤退したのは、政権にスンニ派を守る意思がないからだ-との反発も強いという。

イランが今後も介入を強めれば、スンニ派のさらなる反政府感情を招いて宗派対立が激化しかねない。【6月18日 産経】
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ISILはスンニ派の多い地域で勢力を拡大し、一方で、シーア派最高権威シスタニ師の呼び掛けに応じISILに対抗すべくシーア派民兵が動員されており、また、マリキ首相はスンニ派主体のISILをスンニ派の盟主サウジアラビアが支援していると非難するなど、シーア派偏重の姿勢を崩しておらず、すでにイラクの内紛は宗派間紛争の様相を呈しています。

イランが本格支援に乗り出せば更にその傾向が強まることが懸念されています。

また、イランの介入は、イランの影響力拡大を嫌うサウジアラビアなどスンニ派湾岸諸国の反発を招き、事態が複雑化する危険もあります。

効果的な選択肢が少ないアメリカ
隣国のシーア派同盟国支援に素早く反応しているイランに対し、アメリカは国内の厭戦気分から地上軍派遣などはできません。

アメリカ国防総省は14日、ヘーゲル国防長官がアラビア海北部に展開する米海軍の原子力空母「ジョージ・H・W・ブッシュ」をペルシャ湾に派遣するよう命じたことを明らかにしていますが、空爆についても難しい状況です。

****米大統領、イラク空爆当面見送り=包括戦略に焦点―WSJ****
米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版)は17日、オバマ大統領がイラクで攻勢を強めるイスラム過激派への空爆を当面見送ることを決めたと報じた。ホワイトハウスで18日に行われる民主、共和両党の議会指導者との会談で、こうした方針を伝える。

同紙によると、大統領が現時点で空爆を控えるのは、過激派の攻勢を阻止するための標的に関する十分な情報の欠如などが理由。イラク軍への情報提供や同国内の宗派対立解消へのてこ入れを継続し、域内の同盟国の支援を模索する。

米政府高官は、同紙に対し「大統領が焦点を合わせているのは、単に素早い軍事行動ではなく、包括的な戦略だ」と指摘。イラク支援の幅広い取り組みの中で、軍事的な要素も含まれる可能性があると説明した。【6月18日 時事】 
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“域内の同盟国の支援”の中、あるいは延長に、かつての宿敵イランとの協調行動もあるということでしょうか。
効果的な選択肢が少ないオバマ政権としては、「状況の悪化を座視するより、たとえ敵視するイランでもISILに対抗する点においては許容できる」(元米情報機関分析官)というところでしょう。

ただ、イランとの協調については、アメリカ国内にもいろんな反応があるようです。

“イランへの強硬姿勢で知られる共和党のグラハム上院議員は15日の政治討論番組で、「イランが衛星国家をイラクにつくることは受け入れない」としつつ、「バグダッドを守るためにはイランの助けが必要かもしれない。対話をし、協力を呼びかけるべきだ」と話した。”【6月17日 朝日】という容認意見の一方で、「イランがイラク情勢でパートナーになりうると信じるなら愚の骨頂だ」(共和党のマケイン上院議員)という批判も多くあります。

アメリカがイランのイラク支援をどこまで容認して、どのように協調するのかは曖昧です。

****情報入手、深入り牽制…イラク情勢でイランと協議の米政府****
米国が1979年の米大使館占拠事件以来、国交を断絶しているイランとの間でイラク情勢をめぐる協議を始めたのは、米軍がスンニ派過激派組織「イラク・レバントのイスラム国(ISIL)」への空爆に踏み切る場合に備え、イラク国内の実情を把握する必要があるからだ。同時にイラクへの過度の介入を牽(けん)制(せい)する思惑もある。

国務省ナンバー2のバーンズ副長官は16日、イラン核協議のためジュネーブに滞在。協議にはイランのザリフ外相が出席しており、ロイター通信によると、オバマ米大統領が協議を命じた場合に備えてバーンズ氏が派遣されたという。

2011年の米軍のイラク撤退後、米国は過激派組織の動きなど地上の動向に関する情報が得にくくなっており、協議ではイラクのマリキ政権と関係が深いイランに情報提供を求めた可能性がある。

イランに対し、シーア派主導のマリキ政権に宗派的な事情から肩入れすることのないよう自制を促す狙いもあった。

ただ、米政府はイランとの接触は認めたが、バーンズ、ザリフ両氏によるものかは明らかにしていない。ケリー国務長官がイランとの軍事協力を「排除しない」と述べたことも、米政府はただちに否定した。(後略)【6月17日 産経】
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“イラクへの(イランの)過度の介入を牽制する”・・・とは言っても、すでにイランはマリキ政権支援で動き出しています。イラクの現状も何らかの支援を必要としています。
アドバイザーの派遣や民兵・義勇兵程度の参戦は黙認するけど、革命防衛隊の本格参戦は認めない・・・といった類の線引きでしょうか。

アメリカ大統領の憂鬱
それにしても、アメリカ大統領とはつらい職務です。
遠く離れた海の向こうの国での出来事について、動かないと「何もしない」と批判されますし、動けば、それはそれで国内外の批判を浴びます。

****イラク情勢 「何もしない大統領」米、オバマ氏への批判噴出****
緊迫するイラク情勢をめぐるオバマ米大統領の対応の遅さと曖昧さに、米国内で批判が高まっており、11月の中間選挙をにらみ野党・共和党は攻撃を強めている。

大統領は13日、ホワイトハウスで、地上部隊を派遣しないこと以外、具体策を何ら示さず、決定まで「数日を要する」と言い残し、ヘリコプターで遊説先のノースダコタ州へ向かった。

共和党のベイナー下院議長は「下院と国防総省は、イラクの情勢悪化をホワイトハウスに警告してきた。だが、何もせず、イスラム過激組織が首都バグダッドへと迫っているときに、大統領は昼寝をしている」と痛烈に批判した。

マケオン下院議員(共和党)は大統領の言葉をとらえ「ホワイトハウスには、何も決められずに、『あらゆる選択肢を検討している』と言う歴史がある」と皮肉った。

マケイン上院議員(同)に至っては「大統領は国家安全保障チームを一新すべきだ」とし、ライス大統領補佐官(国家安全保障問題担当)や、デンプシー統合参謀本部議長らの辞任を要求。過激派組織の脅威増大は「イラクから米軍が撤退した代償であり、大統領はアフガニスタンでも同じ破滅的な過ちを犯そうとしている」と非難した。

一方、ウォールストリート・ジャーナル紙は「(就任から)5年以上がたち、われわれはこの大統領に指導力、戦略的な望みを期待すべきではないということを知るようになった」と批判している。【6月15日 産経】
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アメリカではすでに次期大統領を目指す熱い戦いが、ヒラリー・クリントン氏を先頭に始まっていますが、こういう人たちは自分ならもっとうまくやれると思っているのでしょう。しかし・・・・。

****オバマの遺産:ホワイトハウスの主には絶対なるな****
まともな考え方をする人で、米国の大統領になりたい人などいるのだろうか。

非常に大きな期待を背負って就任したバラク・オバマ大統領のこれまでの姿を見ていると、こんな警句が頭をよぎる――何かを手に入れたいと望む時はくれぐれも注意せよ、本当に手に入れてしまうかもしれないのだから。(中略)

理屈の上では、米国の最高司令官たる大統領は世界で最も強い力を持っている。しかし実際は、大統領が何かを変える力は弱まりつつあり、その一方で大統領が責任を取る能力には制限が設けられていない。(中略)

同氏がゴルフコースで過ごした日数は、昨年は46日間に上り、自身の過去最高値(30日間)を上回った。これではまるで、もう力を抜き始めているように見える。

「ちょうど昨夜は人生と芸術というとても大きな、興味深いことについて話をした。今から政治に関するささいな仕事に戻る」。オバマ氏は先月、イタリアの知識人たちとローマで夕食をともにした翌日にそんな愚痴をこぼしている。

同氏がキャビン熱(狭い空間に長期間押し込まれて精神的に不安定になること)にかかっていることは明らかだ。良い面があるとすれば、それは同氏の任期が2年半しか残っていないことだ。【6月16日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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ドイツ 問題も多い「脱原発」政策  「老朽火力」への依存が進む日本 「原発再稼働を進める」白書

2014-06-17 23:26:42 | 原発

(ドイツ東部ブランデンブルク州に広がる褐炭の採掘場=2014年4月9日、篠田航一撮影 【6月17日 毎日】)

【「パラドックス(逆説)だ。結局、褐炭という過去の資源の犠牲になってしまう」】
ドイツでは、福島第1原発事故を受けて国内17基の全原発を22年までに順次停止する「脱原発」を決定しており、再生可能エネルギーの比率を高めていることは周知のところです。

「脱原発」という安全を重視したエネルギー政策の一方で、環境に負荷がかかる石炭・褐炭への依存の高まり、再生可能エネルギーの安定性確保の難しさ、電気料金の高騰といった問題を抱えていることも指摘されています。

****ドイツ:脱原発…進む石炭依存 電気代1.7倍に****
 ◇閣議決定から3年 再生エネ普及、安定送電に影
2011年の東京電力福島第1原発事故を受け、ドイツが22年までに国内17基の全原発を順次停止する「脱原発」を閣議決定してから、今年6月で3年になる。

風力や太陽光発電など再生可能エネルギーの割合は順調に伸びているが、原発停止に伴う電力の供給源確保には不安も残る。

温室効果ガスを排出する石炭や褐炭(水分や不純物が多く低品質の石炭)への依存度はむしろ高まっており、電力供給の不安定化など多くの課題も表面化している。(中略)

ドイツは2013年、総発電量のほぼ4分の1に当たる23.9%を再生エネでまかなった。だが、再生エネは気象条件に左右されやすいため、安定確保が見込める石炭・褐炭への依存も進む。

13年の石炭・褐炭の割合は45.2%と3年連続で上昇。褐炭のみを使った電力生産量も13年は1620億キロワット時に上り、91年以来最大となった。

 ◇削減目標黄信号
だが、石炭・褐炭の活用が進めば、温室効果ガスを90年比で2020年までに40%削減するとの政府目標に黄信号がともる。

野党・緑の党や環境団体は石炭・褐炭の削減を求めるが、「45%もの電源を放棄できない。むしろもっと活用すべきだ」(欧州連合エネルギー担当のエッティンガー欧州委員)との意見も根強い。

加えて、天然ガスに頼れない事情も浮上している。ドイツはガス輸入の約4割をロシアに依存するが、ウクライナ危機の影響で今後は対露依存度を下げる方針。

このため、石炭・褐炭は「消せない選択肢」(独商工会議所幹部)なのだ。ドイツの火力発電所は現在、温室効果ガスの排出を抑制する最新技術の導入などに取り組むが、政府は石炭・褐炭を「当面は不可欠」(与党の連立協定書)と位置付けている。

 ◇「強風は要注意」
再生エネの普及に伴い、送電会社の負担も増えている。発電が天候に左右される分、需給調整に気を配る必要があるからだ。(中略)

センターは、風が弱く風力発電が難しい日には管内の石炭火力発電所などに連絡し、発電ペースを上げてもらう。逆に強風で電力を過剰に生産すると、今度は「発電ストップ」も依頼する。ケーブルに過度な負担がかかり、停電の恐れが高まるためだ。(中略)

12年、発電の増減を依頼した回数は過去最多の年間262日に上った。脱原発決定前年の10年は年間160日だった。職員の負担は増える一方という。(中略)

 ◇地域差も課題に
送電網の整備も遅々として進んでいない。政府は22年までに、風力に恵まれた北部から産業拠点が集中する南部まで、計約2800キロの送電線を整備する計画だ。

だが、大消費地の南部バイエルン州では、自然破壊や健康被害への懸念から高圧送電線建設の反対運動が起き、ゼーホーファー州首相が「建設阻止に全力を挙げる」と建設予定地の住民に約束。同氏はメルケル政権を支える連立与党の実力者のため、「バイエルンの反乱」などと騒がれている。

反対運動はドイツ各地で展開されている。住民側は主に送電線の地下埋設を求めているが、電力会社側はコストの増大を理由に拒否。工事は年間数十キロしか進まず、このままでは22年の脱原発に間に合わない計算だ。

ドイツ経済研究所のクラウディア・ケンフェルト教授は「ドイツ北部は褐炭や風力発電が過剰だが、西部は再生エネが少ない。南部は太陽光は多いが風力が足りない。ドイツの地図を見れば、(エネルギーの需給バランスは)見事にバラバラ」と現状を説明する。

地域差を是正する送電網の整備が急務だ。再生エネ普及のコストは電気代に上乗せされるため、消費者の負担も増加している。標準世帯(3人家族)の電気料金は03年に月額平均50.1ユーロ(約7000円)だったが、10年後の13年には83.8ユーロ(約1万1800円)と約1.7倍に上昇した。

メルケル政権は電気代の上昇抑制策にも頭を悩ませている。【5月10日 毎日】
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13年現在の総発電量に占めるエネルギー別発電割合は▽石炭・褐炭45.2%▽再生可能エネルギー(風力、太陽光など)23.9%▽原子力15.4%となっています。

福島第1原発事故後、原子力の割合が約2ポイント減ったとのことですが、逆に言えば、まだ2ポイントしか減っておらず、今後ゼロに持って行く過程で、前出のような問題が一層深刻になってくることも想像されます。

石炭・褐炭への依存の高まりについては、褐炭採掘場拡張のために多くの住民が立ち退きを迫られ、太陽光発電施設も撤去される・・・という事態も起きています。

****ドイツ:脱原発で「褐炭依存」 低品質−「過去の資源」 採掘場拡張、800人退去対象****
「脱原発」を決めたドイツで、原子力分の穴埋め用エネルギー源として地球温暖化の一因とされる二酸化炭素(CO2)を排出する石炭や褐炭(水分や不純物が多く低品質の石炭)への依存が進んでいる。

急速な再生エネへの転換は難しく、当面は旧来のエネルギー源に頼らざるを得ないためで、褐炭の採掘場拡張のため住人が立ち退きを迫られるなど矛盾も表面化している。

「パラドックス(逆説)だ。私たちは再生エネを成功させようと努力してきたのに、結局、褐炭という過去の資源の犠牲になってしまう」。東部ブランデンブルク州ウェルツォウで、太陽光発電会社を経営するハーゲン・レッシュさん(35)は憤りを隠さない。

地元住民約5000人に太陽光による電力を供給してきたレッシュさんが所有する発電施設は、褐炭採掘のため立ち退きを迫られるからだ。

ドイツは2022年までに国内17基の全原発を停止する。政府は停止する原発分を補完するため太陽光・風力などの再生可能エネルギーの普及を進めているが、急速なエネルギー転換は進んでいない。

州政府は今月3日、電力会社が計画する26年以降の採掘場拡張案を認可。火力発電用に約2000ヘクタールが新たに採掘場として拡張される。

レッシュさんの発電施設のほか、近くの住民約800人が立ち退き対象となった。住民側は反発を強めており提訴も視野に入れている。

同州では、旧東独の社会主義政党の流れをくむ左派党が連立政権の一角を担う。
本来、左派党の党本部はCO2削減を訴える立場だが、褐炭が基幹産業の同州では、褐炭活用に賛成の姿勢を見せる。同党のクリストファーズ州経済相は「褐炭は放棄できない」と州政府の意向を強調する。

ドイツでは1990年代、石炭・褐炭は、総発電量に占めるエネルギー源の60%近くを占めた。その後、徐々に依存を減らし、10年には約41%まで下がった。

だが11年の福島第1原発の事故後、再び割合が増え、13年は約45%まで上昇した。
再生エネは現在、約24%にとどまっており、メルケル政権は石炭・褐炭を「当面は不可欠」(与党の連立協定書)と位置付けている。【6月17日 毎日】
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【「いかなる事情よりも安全性を全てに優先させる前提」のもと・・・・
「脱原発」状態にある日本でも、老朽化した火力発電所に依存する状態となっています。

****40年超「老朽火力」26%、原発再稼働を推進 25年度エネ白書****
政府は17日、平成25年度版のエネルギー白書を閣議決定した。

原子力発電所を持たない沖縄電力を除く大手電力9社の火力発電所のうち、運転開始から40年以上経過した「老朽火力」が25年度に火力全体の4分の1を超えたと指摘。

東日本大震災後に原発の代替電源として老朽火力に頼っている現状が改めて浮き彫りになった形で、燃料コストや二酸化炭素排出量の増加、トラブルによる供給不足などを懸念した。(中略)

大手電力9社の老朽火力のトラブルは25年度に169件と、22年度の101件から増えた。火力発電所の耐用年数は40年程度とされており、低効率の老朽火力をフル稼働することにより、トラブルのリスクが高まっている。

白書では「故障などによる電力供給不足に陥る懸念が依然として残っている」と警戒を示した。

一方、原発については「エネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源」と、4月に閣議決定したエネルギー基本計画で定めた位置づけを強調。

その上で、原子力規制委員会が規制基準に適合すると認めれば「再稼働を進める」との方針を改めて明記した。

白書では、電力・ガス事業の制度見直しや、次世代エネルギー資源「メタンハイドレート」の開発状況、米国やカナダの新型天然ガス「シェールガス」の輸入に向けた取り組みなどについても説明した。【6月17日 産経】
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また、同白書は、原発の運転停止で火力発電所をフル稼働させていることや燃料価格が上昇によって、“液化天然ガス(LNG)などの燃料輸入額が13年に約27兆円に達し、東日本大震災前の10年(約17兆円)と比べて約10兆円増えた”【6月17日 読売】ことも指摘しています。

更に、“原発停止により全国の電力会社が出す温室効果ガスが10年度から2年間で約30%増えたことで、日本全体でも約8%増加した”【同上】とも。

そのうえでエネルギー白書は、“「いかなる事情よりも安全性を全てに優先させる前提」のもと、原発の再稼働を進める方針”を強調しています。

実を言えば、私が住んでいる鹿児島県薩摩川内市は全国でもトップを切って再稼働が予想されている原発を抱えています。
毎週金曜日の夕方になると、自宅近くの九州電力支社の前で行われる抗議行動の「再稼働反対!」のシュプレヒコールが聞こえてきます。

大規模自然災害などでいったん暴走し始めたら、それを食い止める有効な手立てがない原発を使用することの問題に反論することは難しいものがありますが、正直なところ「そうそう大規模自然災害が起きるものでもあるまいし・・・。福島の経験で少しは対応・対策もましになるだろうし・・・。危険性云々を言えば、世の中のものすべてがリスクを伴うもので、そうしたリスクを“無視”することで皆が普通に生活しているのが現実ではないか・・・確率的にはリスクはむしろ低い原発だけをことさらに言い立てるのはいかがなものか・・・」という感もあります。

火山の巨大噴火云々に至っては、「そんなこと言い出したら、原発の話は別にしても、鹿児島で生活している人間はどうしろと言うのか?」という感も。

安全性よりは、放射性廃棄物の最終処分方法が確立しなまま原発を使用することの問題の方が気になります。

【「潜在的核保有国」であることを目指す日本の“秘めたる国策”】
核燃料サイクルが機能しない現状で、増え続けるプルトニウム、実用化できない高速増殖炉は日本にとって厄介ものにも思えますが、「潜在的核保有国」であることを目指す日本の“秘めたる国策”“裏の国策”に関係するとの指摘もあります。

****潜在的核保有国・日本」への不信 オバマが安倍から「核」取り上げた****
ギリシャ神話の「地獄の神」プルート。その名を冠したプルトニウムは核爆弾の原料である。

危険極まりないこの核物質は日米の間で「同盟の証」だった。米国は日本にプルトニウムや高濃縮ウランを与え、原子力開発に使わせていた。今になって米国は「引き渡せ」と迫る。一連の交渉に安倍政権への不信が滲む。

安倍首相が引き渡しを表明
オランダ・ハーグで開かれた核安全保障サミットで安倍首相は、茨城県東海村で研究用に使っていたプルトニウム・高濃縮ウランを米国に引き渡すことを表明した。

「テロリストに渡る危険性」を危ぶむ米国の要請とされるが、厳重な管理なら日本でも可能である。米国はそれを許さず、「米国へ移送」にこだわった。

日本は信用できない、と言わんばかりの強い姿勢は、安倍首相が進める「戦後レジームからの脱却」と無関係でなさそうだ。

原子力平和利用を口実に「潜在的核保有国」でありたいとする日本への冷めた眼差しが、親密な日米関係の象徴だった「核物質」を日本から運び出す決断となった。(中略)

日本の秘めた国策
核の扱いは日米間で微妙な問題となっている。日本は「平和利用のための研究に欠かせない」と手元に置く必要性を主張。米国は「テロリストへの流出」を理由に引き渡しを迫るというやり取りだが、いずれも表向きの議論である。

裏に日本は「いつでも核武装できる体制をとることで潜在的核武装国としての地位を確保する」という秘めたる国策がある。(中略)

安倍首相の登場で揺らぐ前提
技術や核管理の根幹は米国が握り、商業生産の現場で日本が力を発揮するという協力関係を築くことで、日米原子力体制は維持されてきた。協力関係といっても「米国が主導権を握り日本が従う」という構図である。

安倍首相の登場で、この前提が微妙になっている。
「ホワイトハウスは安倍に違和感を持っている。これまでの日本の首相と違うキャラクターだと。中曽根もナショナリストではあったが、日米関係の重要性を理解していた。戦後レジームからの脱却という言葉が好きな安倍は少し違う」(中略)

高速増殖炉「もんじゅ」存続の狙い
心情とは異なっても政治家・安倍晋三は妥協せざるを得なかった。だが、これで日本が潜在的核保有国を諦めたわけではない。(中略)

「事故ばかり起こしている『もんじゅ』に政府があれほどこだわるのは、一度でも動かせば核兵器に使える高純度の核物質が手に入るからです」(中略)

今回のエネルギー基本計画で「もんじゅ」は見直され、商業運転を事実上放棄することになった。「核物質の減容化・無害化」を目指す実験炉にする、という方針の変更がなされたが、裏の狙いは「兵器に転用できる高純度核物質の取り出し」にあると小出助教は指摘する。(中略)

「IAEAの査察で最重点に置かれているのが日本です。用途が定かでないプルトニウムや高濃縮ウランをこれほど大量に保有いている国はないからです。兵器転用が疑われているということです」(後略)【3月27日 DIAMOND online】
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“さもありなん”という感もありますが、こうした話が本当なら、突然に「脱原発」を言い出した小泉元首相の背後には・・・・という話にもなります。
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コロンビア  左翼ゲリラとの和平交渉を進めるサントス大統領が再選  紛争終結を求める国民

2014-06-16 22:12:10 | ラテンアメリカ

(奥さん、お嬢さんと再選を祝うサントス大統領 【6月16日 時事】)

【「紛争の終結か、終わりなき紛争か」】
南米コロンビアは、政治の腐敗もあって以前から左翼反政府ゲリラの活動が盛んな地域でした。

その中心的存在のコロンビア革命軍(FARC)は麻薬組織とも協力関係を結び、コカイン原料のコカ栽培地やコカイン精製工場、コカイン密輸ルートを保護することで多額の軍資金を獲得。

更に誘拐による身代金も大きな資金源で、誘拐が多発するコロンビアでは、誘拐組織と被害者の間で交渉にあたる“誘拐ビジネス”が成立していたほどです。

FARCは2000年頃には国土の3分の1を実効支配下に治め、“首都ボゴタ南部のサン・ビセンテ・デル・カグアンに事実上の首都を置き、一時は武力で政権を奪取するのではないかという話も現実味を帯びるほど勢力は強大で活動は活発だった”【ウィキペディア】とのことです。

しかし、“2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件以降は国際社会がテロに対して非常に厳しい姿勢を示すようになり、コロンビア政府も米国に同調する形でFARCに対し強硬な態度で臨むようになった。”【同上】という情勢のなかで、中南米唯一の親米右派政権であったウリベ前大統領がアメリカの協力で強硬なゲリラ掃討作戦を実施し、次第に左翼ゲリラは追い詰められてきています。

ウリベ前大統領から政権を引き継いだサントス大統領は、弱体化した左翼ゲリラとの和平交渉を進めてきました。

そのコロンビア大統領選挙の決選投票が15日行われ、和平交渉路線をとってきたサントス大統領が再選されました。
対立候補のスルアガ氏は左翼ゲリラへのより強い対応を訴えており、サントス大統領と袂を分かったウリベ前大統領の後押しもあったようです。

スルアガ氏は5月25日の第1回投票ではサントス大統領を抑え首位にたちましたが、決選投票では和平交渉推進派の候補の票がサントス大統領に流れる形で、サントス大統領の逆転勝利となりました。

****コロンビア大統領選、FARC和平交渉推進の現職サントス氏が再選****
南米コロンビアで15日、任期満了に伴う大統領選挙の決選投票が行われ、現職のフアン・マヌエル・サントス大統領(62)が接戦を制して再選を果たした。

選挙管理委員会の発表によると、中道右派のサントス大統領の得票率は50.95%で、より保守色の濃いオスカル・イバン・スルアガ元財務相(55)の45%を上回った。

サントス大統領は1期目の任期中、半世紀にわたる左翼ゲリラ「コロンビア革命軍(FARC)」との「内戦終結」を公約に掲げ、和平交渉を率いてきた。

一方のスルアガ氏は長く和平交渉に反対の立場を取ってきた人物で、今回の選挙でも「刑事免責なし」を掲げ、もっと厳しい条件での対応を主張していた。

対FARC和平交渉の是非を国民に問う形となった今回の大統領選だが、「紛争の終結か、終わりなき紛争か」の選択を迫ったサントス大統領が、より多くの国民の支持を集めた。

アンデス大学の政治アナリスト、フェリペ・ボテロ氏は、「国民は和平交渉の継続を望んでサントス氏に投票した。必ずしも1期目の政策全般を支持したわけではない」と述べている。

コロンビアでは過去50年に及ぶ紛争で22万人以上が死亡し、500万人が住む家を追われている。【6月16日 AFP】
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【「平和な普通の国」になる日が近づいている
第1次サントス政権で進められたFARCとの和平交渉に関しては、農地改革と農村開発の取り組みに引き続き、昨年11月にはFARCの政治復帰について合意しています。

****コロンビア政府、和平の主要問題で左翼ゲリラと合意****
南米のコロンビア政府と左翼ゲリラ「コロンビア革命軍(FARC)」が6日、FARCがほぼ50年続けているゲリラ戦の終結後に政治に参加することで合意に達したと発表した。

キューバの外交官ロドルフォ・ベニテス氏が、「われわれは(和平交渉)議題の第2項について基本的合意に達した」との共同声明をキューバの首都ハバナで読み上げた。

同ゲリラ軍の政治復帰は、コロンビア政府とFARCの1年間の和平対話の交渉議題5項目のうちの1つだ。

ラテンアメリカで最も長く続いている武力紛争を終結する包括的協定をまとめるには、双方はさらに麻薬取引、犠牲者への補償、武装解除の3項目で合意に達しなければならない。

双方がこれまでに合意に達していたのは交渉議題の第1項である農地改革と農村開発の取り組み方で、これは紛争の根源でもあった。

ノルウェーの外交官ダグ・ミランダー氏は、合意には「野党勢力に対する保証と政治への市民参加を促進する措置が含まれており、最終的な和平協定調印後にコロンビア選挙制度の改正を予定している」と語った。ノルウェーとキューバは昨年11月にハバナで始まった和平対話の保証人だ。

ハバナでの合意発表の直前にコロンビアのフアン・マヌエル・サントス大統領は、コロンビアが「平和な普通の国」になる日が近づいていると語った。「われわれは、50年もの流血を強いられてきた紛争を終わらせるため、粘り強くやり遂げなければならない」【2013年11月7日 AFP】
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また、大統領選挙直前の5月16日には、3つ目の項目である麻薬問題でも合意が成立しました。  

****麻薬問題解決で左翼ゲリラと合意=和平へ前進―コロンビア****
キューバの首都ハバナで和平交渉を続けるコロンビア政府と左翼武装組織コロンビア革命軍(FARC)は16日、麻薬問題の解決に向けて協力することで合意した。

2012年に始まった和平交渉の五つの議題のうち、両者が合意したのは三つ目。

合意内容にはコカインの原料となるコカの葉の撲滅などが含まれているが、詳細は明らかにされていない。麻薬密売はFARCの重要な資金源で、合意が着実に実行されるかは不透明だ。

大統領選が25日に迫ったコロンビアでは、和平交渉を主導するサントス大統領が再選を目指している。政府とFARCの抗争終結を望む国民は多く、交渉の前進はサントス氏の支持率上昇につながるとみられている。【5月17日 時事】 
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更に、決選投票前の6月11日には、コロンビア第2の左翼ゲリラ組織、民族解放軍(ELN)と和平に向けた予備協議を開始したことが発表されています。

****左翼ゲリラと和平協議=治安回復に一歩前進―コロンビア****
南米コロンビア政府は10日、同国第2の左翼ゲリラ組織、民族解放軍(ELN)と和平に向けた予備協議を開始したと声明を発表した。

政府は既に、最大の左翼ゲリラ組織コロンビア革命軍(FARC)との和平交渉も進めており、治安改善に向けて一歩前進した。

ただ、左翼ゲリラは麻薬取引や誘拐を繰り返し、20万人以上の犠牲者を出しており、話し合いには、野党を中心に批判の声が根強い。

15日の大統領選決選投票で再選を目指すサントス大統領の追い風となるかは不透明だ。野党候補のスルアガ氏は、ゲリラとの対決姿勢を強めており、支持率はサントス氏と伯仲している。【6月11日 時事】 
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このようなサントス政権の和平交渉への取り組みが評価された今回決選投票結果でしたが、左翼ゲリラ組織との和平交渉が実効あるもとなり、治安回復が実現できるかは今後の取り組み次第です。

今も多くの難民が国外生活
コロンビア関連のニュースを紹介しているサイト「音の谷ラテンアメリカニュース」によれば、

“FARC書記局員イバン・リオスの後継者でFARC第18戦線の最大ボスであったアルフレド・アラルコン・マチャド別名ロマン・ルイスがコロンビア陸軍との戦闘で死亡”
“警察と軍はテレビでサッカーワールドカップの試合を見るためにアンテナを設置していたELNゲリラボス1人を逮捕”(以上、http://blog.livedoor.jp/otonotani/archives/8415486.html

“トリマ県で陸軍が実行した軍事作戦によりFARCゲリラ2人が死亡し1人が逮捕”
“メデジン市で犯罪組織の縄張り争いが勃発 これまでに5人が死亡し12人が怪我”(以上、http://blog.livedoor.jp/otonotani/archives/8410458.html)といった状況のようです。

そのなかで、“エクアドルに逃げたコロンビア難民の多くがエクアドルに留まることを希望 エクアドルで避難生活を続けるコロンビア難民の80%近くが、コロンビアの自宅に戻るよりエクアドルに留まることを希望していると月曜日国際連合難民高等弁務官事務所(Acnur)の責任者ジョン・フレドリクソンがエクアドルの首都キト市で明らかにしています。ラテンアメリカには6万人から7万人の国外難民がいますが、5万5000人がエクアドルに存在しその内の98.4%がコロンビア人です。”といったニュースも。

なお、在コロンビア日本国大使館が出している「在留邦人向け安全の手引き」(http://www.anzen.mofa.go.jp/manual/clombia.html)によれば、“コロンビアの人口は、日本の概ね3分の1です。一方、年間の殺人発生件数は、日本が約1,100件であるのに対し、コロンビアでは約16,000件発生しています。・・・・コロンビアでは、政府による治安対策の効果により、主要犯罪(特に殺人・テロ・誘拐)の発生が減少傾向にあります。しかしながら最近では、一般的な強盗・窃盗等が増加傾向にありますのでご注意下さい”とのことです。

「手引き」には、アパートは基本的には4階以上の階を選択、身辺警護員(エスコルタ)等は将来的に裏切る場合があることを常に想定する、車がパンクしてもすぐに止めて修理しない、可能であれば自宅に直接郵便物が届かないように措置する、(銀行から預金を引き出した場合)自宅に到着し安心した瞬間を狙うケースもあるので最後まで警戒を怠らない・・・・等々の注意事項が並んでいます。

なんだか人間不信に陥りそうな生活です。
ただ、国連が2013年9月に発表した「世界幸福度報告書2013」によれば、2010-2012の間の国別幸福度ランキングで日本は43位に対し、コロンビアは35位でした。人生は考え方次第・・・ということでしょうか。
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タイ養殖エビの“奴隷労働” カンボジアでは農地が収奪されサトウキビ農園に その消費者は・・・

2014-06-15 21:18:34 | 東南アジア

(カンボジア 25ドルで先祖伝来の農地をブルドーザーでいきなりつぶされ、できたサトウキビ農園で日給2.5ドルで働く女性 【6月17日号 Newsweek日本版】)

【“よくある話”】
国境を越えて資金と物資を自由に動かす多国籍企業、生産拠点を賃金の安い途上国に移す企業・・・そうした世界規模の経済が展開する今日、普段私たちが食べたり使ったりする安価な商品の多くが海外、特に途上国で生産されたものであることは常識です。

そして、途上国の労働環境が時として劣悪なことも周知のところです。
昨年4月、バングラデシュで複数の縫製工場が入る8階建ての商業ビル「ラナ・プラザ」が崩壊した事故によって1100名を超える犠牲者が出た際も、劣悪な労働環境で生産された商品を取引していた先進国企業の姿勢が問題になりました。

そんな“よくある話”のいくつか。

****世界で売られる“奴隷労働”養殖エビ 日本にも拠点…国内流通か****
養殖エビの世界最大の輸出国であるタイで、ミャンマーやカンボジアの出稼ぎ労働者がエビの餌となる魚を獲る漁船で過酷な労働を強いられ、少なくとも20人が死亡するなど深刻な虐待を受けていると、英紙ガーディアン(電子版)が10日、報じた。

タイ最大手の食品メーカーが魚を加工した魚粉を餌として買い取りエビを養殖して輸出しており、“奴隷労働”によるエビが欧米の大手スーパーで売られていると警鐘を鳴らしている。この食品メーカーは日本にも拠点があり、国内でも流通しているとみられる。

「死ぬと思った。やつらは私を鎖につなぎ、食事も与えなかった。われわれは動物のように売り払われた」。公海上で操業していた漁船から脱出したという、カンボジアの元僧侶の被害者は、ガーディアンにこう明かした。

ミャンマー出身の被害者は「一生懸命働いても殴られた。数え切れないほどのミャンマー人が奴隷として売られた」と説明し、「20人の仲間が殺されるところを見た」と証言した。

約半年にわたる調査に基づいた報道によると、労働者たちは無給で、1日20時間の労働を強いられた。眠らないように覚醒剤を打たれたり、拷問を受けたり、見せしめに仲間を殺されたりしたという。

労働者たちは、もともと工場や工事現場で働いていたが、ブローカーによって1人250ポンド(約4万3000円)以下でトロール船の船長に売られ、拘束されたとしている。

こうして獲られた魚のうち、食用に適さなかったものが魚粉に加工され、養殖エビの餌として販売されていた。
それを購入していたのがタイ最大の食品会社「チャルーンポーカパン(CP)フーズ」。

タイ最大のコングロマリット(複合企業体)「CPグループ」の食品部門として、年商330億ドル(約3兆3000億円)を誇り、総輸出量50万トンといわれるタイ産エビの約10%を担っている。

CPフーズの担当者は、ガーディアンに対し、過酷な労働によって獲られた魚であることを知っていたと認めた上で、「金もうけのために行われてきたことは明らかなので、解決したい」とコメントした。

CPフーズの取引先には、米国のウォルマート・ストアーズやコストコ、フランスのカルフール、英のテスコという世界4大スーパーが名を連ね、日本の大手もCPフーズの養殖エビを販売しているとみられる。

国際団体、反奴隷制インターナショナルの責任者エイダン・マクウェイド氏はガーディアンに「タイ産のエビを購入することは、奴隷労働で生産した商品を購入することだ」と非難。

タイ政府も「人身売買との戦いは国家の優先事項である」とコメントし、問題解決に本腰を入れて取り組む姿勢を示した。

また、米ウォルマートは「タイのシーフード輸出産業から奴隷制度を根絶するための重要な役割を果たしたい」とし、CPフーズとの取引を見直すことを示唆した。

国際労働機関(ILO)によると、タイでの人身売買や奴隷労働は世界最悪の水準にある。また国際移住機関(PDE)の2011年のリポートは、タイの漁船で奴隷労働に従事した人の59%が、同僚の殺害を目撃していたと報告している。【6月12日 SankeiBiz】
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「蟹工船」の世界のようです。
実を言えば、昨日私はブラックタイガーを食べました。どこの国で養殖されたものかは知りませんが。

“よくある話”をもう一つ。

****EUが目をつむる農民搾取の現実****
対EU輸出でサトウキビ生産が急成長 だがその陰には土地を奪われた農民の涙がある

木造高床式の掘つ立て小屋脇のたき火で、39歳のルーブ・ベウーンは食事の準備に忙しい。彼女がかき混ぜているのは、近くの森の蜂の巣から採ってきたローヤルゼリー。今日手に入れることのできた唯一の食料だ。

「4年前までは、いい暮らしができていた」と、黄色いドロドロの液体をわずかなコメと混ぜながら彼女は嘆く。「今では生きるためにサトウキビ農園で奴隷のように働かなくてはいけなくなった」

8人の子供を抱え、毅然としながらもその目に深い悲しみを宿したループは、数年前までこの村のごく普通の農民の1人たった。

カンボジアの首都プノンペンから75ご西にあるコンポンスプー州の村カウクで、彼女は毎朝早起きし、家族のためにささやかな朝食を作ってから、自分の水田に仕事に出掛けていた。はるか昔から彼女の先祖が耕していた2ヘクタールの土地だ。

夫と共に稲作に従事し、8人の子供たちを学校に通わせられるだけのコメを収穫。暮らしは質素だったが、安定していた。

その生活が一転したのは2010年3月のこと。地元の製糖工場の関係者が警官と兵士を引き連れて村を訪れ、住民が懇願するのにも耳を貸さずにルーブや他の20世帯が所有する土地を奪ったのだ。数時間のうちにブルドーザーが水田をつぶし、サトウキビ農園に造り替えてしまった。

これはカウク村だけの出来事ではない。その前年には別の村で、サトウキビ農園に転換するため土地を回収するよう指示された治安部隊が、村で放火や銃撃を行い、抵抗する村人を殴ったり逮捕するなどして罪に問われる事件が発生した。

奪われた土地で日雇い
事前に何の通告も相談もなく、ループは家と土地を収奪された。彼女の唯一の生きる糧だった水田は、わずか25ドルの補償金に消えた。

「怒りでいっぱいだが、私にはどうすることもできなかった」と、涙をためながら彼女は言う。「地元当局者はカネを受け取ったほうがいいと言った。どちらにしても土地は取られるんだから、と」

今ではルーブは、気の毒に思った親戚が貸してくれたわずかな土地に、間に合わせの家を建て家族と暮らしている。屋根に大きな穴の開いた木造の家は、サトウキビ農園のすぐ脇に立つ。

皮肉なことにループは現在、この農園で日雇い労働者として働いている。1日10時間サトウキビの収穫作業に従事して2.5ドルの日銭を稼ぐ。

自分の土地を奪われ、ほかに収入の当てもない彼女にとって、現実的にやむを得ない決断だった。カンボジア中で多くの人々がルーブと同じ運命をたどっている。それも、ヨーロッパの人々の砂糖への渇望を満足させるために。

現在カンボジアで生産される砂糖の97%が、最大の得意先であるEUに輸出されている。EUへの輸出は、カンボジアの砂糖生産を急成長させた要因だ。

カンボジアでサトウキビ農園の多くが操業を始めた07年から13年にかけて、カンボジア産砂糖の対EU輸出額は6万1000ドルから5300万ドル近くにまで急増した。

その背景にあるのは、「武器以外すべて(EBA)」と呼ばれる貿易規定だ。EUは01年3月、国連が後発開発途上国と指定した国を対象に、武器以外のすべての製品の輸入関税をゼFこするなどの優遇制度を採用した。

コーヒー、ソフトドリンク、子供のバースデーケーキ……。ヨーロッパに住む人なら誰でも、ルーブのようなカンボジアの人々の収穫したサトウキビからできた砂糖を味わっている可能性が高い。

一方、ヨーロッパとは違い、カンボジアでは砂糖はほろ苦いものでしかない。

地元NGOによれば、カンボジアでは06年以降、少なくとも3500世帯がサトウキビ農園のために土地の立ち退きを迫られてきた。抵抗する者は殴られたり逮捕されたりして黙らされた。
大抵の場合、彼らが立ち退きを知らされるのはブルドーザーが到着してからだ。(後略)【6月17日号 Newsweek日本版】
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25ドルで先祖伝来の農地をブルドーザーでいきなりつぶされ、できたサトウキビ農園で日給2.5ドルで働く。
全く関係ありませんが、アメリカ・シアトルでは「最低賃金」が時給で15ドルになったそうです。

****シアトル市が下した最低時給15ドルの「英断****
米ワシントン州のシアトル市議会が、最低賃金を現行の時給9・32ドルから破格の15ドルに引き上げる法案を満場一致で可決した。

アメリカ最高の水準であり、今後7年以内で段階的に導入する計画だ。15ドルの最低賃金は、昨年11月に同州シータック市の住民投票でも承認されている。

「1年前、15プはプラカードに載る『数字』にすぎなかった。それが今日、シアトルの10万人の労働者にとっての現実になった」と、ファストフード店の1年前の大規模ストライキを支援した団体「ワーキング・ワシントン」の広報担当は言う。

法案の支持者は、シアトルは物価が高いだけでなく、現在の最低賃金ではフルタイムで働いても年収約1万9300ドルにしかならないと指摘していた。

「低賃金で生活が苦しいという不満と怒りが、ファストフード店のストライキを生んだのだろう」と、ニックーリカータ市議は言う。「少数の人々の手にどれはどのお金が集中しているか、われわれは分かっている」

マリー市長は最低貫全引き上げを支持し、法案の投票時には議場の後方で見守っていた。有権者も同様で、先月の調査では賛成が74%に達している。【6月17日号 Newsweek日本版】
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タイやカンボジアの話の対極としては、本来は“お金が集中している少数の人々”を話題とすべきなのでしょうが、別世界の話は現実感がないので。

いずれにしても“よくある話”です。
そうした世界でわずかばかりの便益を受けている一人として、どのように考え、どのように行動すべきかは非常に難しい話ですが。
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アフガニスタン  大統領選挙は安全かつ公正に行われているのか? とは言うものの・・・

2014-06-14 22:04:05 | アフガン・パキスタン

(14日、アフガニスタンの首都カブールで、大統領選の票を投じる女性(EPA=時事)【6月14日 時事】)

自立に向けた重要な1歩
アフガニスタンでは、今年末までの米軍など外国部隊撤退を控え、カルザイ大統領の後任を決定するという、アフガニスタンの将来を大きく左右する大統領選挙の決選投票が行われています。

****アフガン死傷者7人に 決選投票を妨害…新大統領に「安定」の重責****
アフガニタンで14日、大統領選挙の決選投票が行われた。

4月5日に行われた初回投票で首位になったアブドラ元外相(得票率45%)と2位だったガニ元財務相(同31・6%)の戦いで、暫定結果は7月2日に発表され、最終結果は不服申し立て審査の後、同月22日に公表される。

イスラム原理主義勢力タリバンは、選挙の妨害を宣言している。
東部クナール州では14日朝、治安部隊と武装勢力の戦闘が発生し、女性市民1人が死亡、市民や兵士6人が負傷した。首都カブールでもロケット弾が撃ち込まれた。

政府は兵士や警官約40万人を全土に展開して警戒に当たり、内務省は、14日朝までの24時間でタリバン兵計72人を殺害したと発表した。

アフガンでは、北大西洋条約機構(NATO)軍主体の国際治安支援部隊(ISAF)が今年末までに撤収する。NATOを主導する米軍はその後、規模を現在の約3万2千人から約9800人に縮小して駐留し、2016年末までに撤収する予定だ。

憲法の3選禁止規定で今回、出馬できなかったカルザイ大統領は、来年以降の駐留米兵の地位を定める両国の「安全保障協定」への署名を拒否したが、決選投票に進んだ2候補は署名を明言している。

米軍の支援は当面、継続するとはいえ、アフガン治安部隊の役割は段階的に増していく。
イラクでは米軍撤収後に、イスラム過激組織の増長で治安が悪化しただけに、新大統領は今後、安定をどう確保するかという重責を担うことになる。【6月14日 産経】
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周知のように米軍が撤退したイラクが内戦状態に陥りつつある現在、改めてアフガニスタンが自立できるのかが問われていますが、今回選挙は自立に向けた重要な1歩になります。

アブドラ元外相は北部同盟幹部としてタリバン政権打倒に貢献した経歴があり、2009年の前回大統領選挙では第1回投票でカルザイ大統領に次ぐ2位となりましたが、選挙に不正があるとして決選投票を辞退・ボイコットしました。

ガニ元財務相は世界銀行での勤務経験があります。

“両氏の政策に大きな違いはなく、決選投票では民族票が結果を左右する可能性が高い。
アブドラ氏が1次投票から引き続き優勢との見方がある一方、直接対決になれば、最大民族パシュトゥン人のガニ氏が少数派タジク人に支持基盤を持つアブドラ氏を逆転するとの観測も出ている。民間企業が有権者約2800人を対象に実施した世論調査では、ガニ氏を支持するとの回答が49%を占め、アブドラ氏支持(42%)を上回った。”【6月14日 時事】

もとより、アフガニスタンのような国での“世論調査”なるものは、あくまでも参考程度にすぎません。

ジャーナリスト:選挙に泥を塗るような報道はしないという選択
“両氏の政策に大きな違いはない”という点では、どちらが勝つかより、選挙が安全かつ公正に行われるかの方が重要かもしれません。

タリバンはすべての投票所を標的に攻撃を仕掛けると警告する声明を出しており、実際、前出記事にもあるような事件・妨害も報告されています。

ただ、本当にこの程度の妨害であれば、選挙はおおむね安全に行われたと言えるでしょう。
本当にそうなのか?タリバンの攻撃を恐れず、有権者が投票に出かけたのか?

4月5日に行われた第1回投票でも多くの妨害があり、犠牲者も少なからずあったものの、予想されたよりはスムーズに行われ、カルザイ大統領も選挙の“成功”を評価した・・・と報じられています。

****アフガン:大統領選、投票率60% 市民ら23人死亡****
任期満了に伴うアフガニスタン大統領選挙は6日、本格的な開票作業に入った。

独立選挙委員会(中央選管)によると、5日の投票で、有権者約1200万人のうち推定700万人以上が投票。投票率は約60%に上った。

カルザイ大統領は5日夜、テレビ演説で「我が国が民主国家であることを世界に示せた」と述べ、旧支配勢力タリバンの攻撃が続く中、票を投じた国民をたたえた。

2009年の前回選挙では約500万人が投票したとされる。「多数の不正票が投じられた」と批判され、実際に投票した人はこれより少ないとみられており、今回の関心度の高さを示した。(中略)

アフガン内務省によると投票日の5日、治安当局と武装勢力の交戦などで武装勢力の179人が死亡。一方、警察官12人とアフガン軍兵士7人が死亡し、民間人が4人亡くなった。91個の地雷や爆弾が見つかり、未然に処理したという。

タリバンは5日深夜、「1088件の攻撃を全土の投票所に仕掛けた」と発表。規模は誇張されているとみられるが、タリバンが大規模攻撃を仕掛けたのは間違いなさそうだ。【4月6日 毎日】
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タリバンが大規模攻撃を仕掛けたのは間違いなければ、この程度の犠牲者で済むとは思われません。
実際はもっと激しい妨害もあり、また、不正もあったにもかかわらず、国の将来を案じるジャーナリスト側が“国益のために”敢えてそうしたネガティブな側面は報じなかったとも指摘されています。

****アフガン大統領選報道のジレンマ****
選挙を傷ものにしたくない記者たちが不正や爆撃を報じず「自己検閲」したことの是非

4月5日に実施されたアフガニスタン大統領選挙は「成功裏に終わった」と伝えられている。
だが本当に公正に行われたのか、タリバンによる妨害はなかったのか、投票率はどれぐらいだったのか・・・・。私たちが正確な情報を得ることはできなかった。

外国メディアは「民主主義の勝利」「タリバンに打撃」といった見出しで、称賛の嵐だった。
アフガニスタン国内でも肯定的な評価ばかり。当局やメディアは有権者の勇気や治安部隊のプロ意識をたたえ、反政府勢力の弱体化を指摘した。

しかしこの選挙がどれはどの成功を収めたのかは、誰も分かっていない。理由は簡単だ。アフガニスタンのジヤーナリストが、選挙に泥を塗るような報道はしないという選択をしたからだ。タリバンによる投票日の攻撃は報じない、というように。

彼らはタリバンに対する恐怖心からその選択をしたわけではない。
むしろ、タリバンの攻撃を報じなかったために報復をほのめかされた記者たちもいる。タリバンにとって暴力は広報の側面もあるからだ。なぜ攻撃を報じないのかと、何人もの記者にタリバンから怒りの電話がかかってきたという。

それでも記者たちが報じなかったのは、能力不足だからでも怠慢だからでもない。この13年間、アフガニスタンのジャーナリストたちは数え切れないほどの戦闘やテロ行為を報じてきた。

だが今回の大統領選では、できる限りの明るい光を当てようと芝居を打ったのだ。彼らはそれを愛国心からやったと語る。

タリバンの攻撃に目をつむるという決定は「国益に基づくものだ」と、テレビ局1TVの報道部長アブドゥラ・アザダ・ケンジャニは言う。メディアは「選挙に汚名を着せたり国の将来を危険にさらす」べきではない、と。

しかしジャーナリストが誰かの利益のために一度でも事実を曲げると、後はよどみ切った泥沼に沈んでいくだけだ。

カウントされた「幽霊票」
大統領選投票日に起きた暴力を報じた数少ないメディアによれば、実際にはこれまでの選挙より多くの攻撃があった。

治安が悪化しているというニュースは投票率を下げかねない。有権者が正確な情報を得ていれば、命を落とすリスクを冒してまで投票には行かなかったかもしれない。しかも自分たちの1票がきちんと反映されるかどうかも分からない選挙にだ。

選挙戦の間に行われた世論調査によれば、大統領選が自由かつ公正に実施されると考えていた人はわずか25%だった。そんな状況で、投票率が高まるなんてあり得るだろうか。

推定では有効票は700万以上、登録有権者数の60%に上ったとみられるが、私たちが真の投票率を知ることはない。

国際監視団やメディアが目を光らせていた首都カブールなど都市部では、投票所の前に長い列が見られた。だがジヤーナリストのファザル・ラーマンは、地方では選挙が行われた形跡がない地域もあったと報じた。

カブールから南西へ100キロ余りのガズニ州では、総票数4万7658票の大半が「幽霊票」だとラーマンは指摘する。誰も投票していないのにガウントされた数字だ。「独立選挙委員会は投票所の数を32力所としていたが、私かこの目で開設が確認できたのは12力所だけだ」とラーマンは書いた。

このような報道はほかにはほとんど見られなかった。選挙が本当に自由で公正に行われたからか。あるいはアフガニスタンのメディアが選挙に傷を付けたくなかったからか。

私はアフガニスタンのジャーナリストたちにひどく同情するし、彼らのプレッシャーも理解できる(中略)

有権者を危険にさらした
・・・・とはいえ、投票日に報じるべき事件を報じなかった記者は、役割を果たさなかったと言わざるを得ない。

さらには治安に関する誤った情報を信じて投票所に向かい、爆撃に遭った人々に対する責任も感じるべきだ。

駐留軍の縮小を続ける外国部隊にとって、アフガン戦争は過去の話になりつつある。今回の大統領選も、バックミラーで見ているような感覚だ。

だがアフガニスタンのジヤーナリストたちはそんなことを言っていられない。彼らは大統領選後もこの国を見守り続ける必要がある。

「国益のために」と言えば愛国心にあふれているように聞こえるが、それはまったく逆の結果をもたらしかねない。【5月27日 Newsweek日本版】
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“何人もの記者にタリバンから怒りの電話がかかってきた”というのはユーモラスでもありますが、投票に出かけて犠牲となった人が多くいるとしたら笑ってはいられません。

「幽霊票」などの不正行為についても、今になって下記のような事実が公表されています。

****不正疑惑で職員半数を停職=アフガン選管****
アフガニスタン選挙管理委員会は、4月に実施された大統領選挙初回投票で不正に関わった疑いがあるとして、決選投票までに全職員のほぼ半数に当たる約5300人に停職処分を下した。

報道によると、処分を受けた職員の大半は各投票所の現場担当者だった。この他にも自治体首長や政府職員、警察幹部らも不正に関与した疑惑が浮上し、政府に処分を要請したという。【6月14日 時事】 
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全職員のほぼ半数が不正行為で停職になった・・・・一体どういう選挙が行われたのか?
そうした疑問も当然ありますが、そんな広範な不正を暴く自浄能力がアフガニスタン選挙管理委員会にあったのか?それならどうして全職員のほぼ半数が停職となるような事態を招いたのか?・・・どうもそのあたりが釈然としません。

それでも“特筆に値する快挙”】
しかしながら、選挙が安全かつ公正に行われたかは非常に疑問ではあるものの、それでもアフガニスタン史上初の平和的な政権交代は評価に値するとの指摘もあります。

****米軍の運命を握る政権交代****
・・・・選挙で誕生した新政権が、旧政権の政策を検討して新たな方針を決定する・・・・民主主義国家では当たり前だが、アフガニスタンでは穏やかに政権交代が実現すること自体初めてのことだ。

4月の第1回投票が成功裏に終わったとの報道は、いささか誇張されている。多くの不正が確認され、選挙当日のタリバンによる攻撃も発生した。

カルザイがおとなしく引退する気配もなく、退任後も影響力を及ぼすと考えられている。

それでも前回09年の大統領選に比べれば大きな進歩だ。当時は腐敗が横行し、100%が不正票たった地域も。カルザイ政権の信用は失墜し、タリバンを勢いづかせることにもなった。

カーネギー国際平和財団の上級研究員セーラ・チェイスは、今回の選挙が変革の節目になるとの考えは「妄想」だと主張する。誰が大統領になろうと、駐留米軍が完全撤退した後、アフガニスタン政府はうわべだけでも治安を維持するのに相当の困難を背負うことになる。

アメリカの努力もむなしく、今も腐敗ははびこったまま。成功したと一部で言われている「選挙による民主主義」が、短命に終わる可能性もある。

それでも、アフガニスタン史上初の平和的な政権交代がこのまま穏やかに進行するとしたら、大きな前進だといえるだろう。私たちにとっては当然のことが、この国では特筆に値する快挙になるのだ。【6月10日 Newsweek日本版】
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まあ、まだ「選挙による民主主義」が短命に終わると、また、イラクの二の舞になるとも決まった訳でもありませんから、とりあえずは選挙がなんとか無事に行われ、新政権が速やかに確立されて自立へ向けて歩みだすことを願っています。選挙結果をめぐって混乱拡大・・・なんてならないように。

なお、“アフガン内務省によると、投票所約7200カ所のうち約800カ所が治安上の理由から閉鎖された”【6月14日 毎日】とのことです。
タリバンと交戦状態にあるなかでの選挙ですからやむを得ないでしょう。
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香港  中国政府が白書「香港は中国政府の管轄下にあり、“完全な自治権”を持っているわけではない」

2014-06-13 22:17:59 | 東アジア

(天安門事件から25年となる4日、香港で行われた、ろうそくに火をともして事件の犠牲者を悼ぶ追悼集会 【6月4日 AFP】)

【「1国2制度」のもとでの天安門事件批判
中国においては天安門事件は、その名前を口することさえ許されないタブーですが(まるで“ヴォルデモート卿”みたい)、いわゆる「1国2制度」のもと、中国本土とは異なる高度な自治が認められている香港では、天安門事件から25年を迎える今年、事件の再評価を求めるデモも例年どおり行われ、4日には10万人規模の追悼集会が開催されています。また、事件の「記念館」もオープンしたとか。

****天安門事件から25年 香港でデモ行進****
中国で民主化を求める学生たちの運動が、武力で鎮圧された1989年の天安門事件から今月4日で25年になるのを前に、香港で1日、当時の学生などがデモ行進し、中国政府に対して、事件の評価を見直すよう求めました。

これは当時、中国の民主化運動を香港で支援した元学生などが、毎年行っているもので、ことしは、およそ1000人が参加しました。
参加者は「民主的な中国を建設しよう」と書かれた横断幕などを掲げながら、中国政府は、一部の学生による「暴乱」とした事件の評価を見直すべきだなどとシュプレヒコールを上げ、香港の中心部を4キロにわたって行進しました。(後略)【6月1日 NHK】
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****天安門事件25年 犠牲者追悼 初の「記念館****
 ■本土から学生続々、情報拡散狙う
香港・九竜地区の一角に4月、天安門事件の犠牲者を追悼する「六四記念館」がオープンし、中国本土から観光や留学目的で入境した大学生らが詰めかけている。

香港の民主派団体が開設したもので、事件に関する常設の記念館としては世界初という。数十平方メートルのこぢんまりとしたスペースながら、資料や画像などがまとめられている。(後略)【6月2日 産経】
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****香港で天安門事件25周年の追悼集会、参加者は主催者発表で18万人に****
2014年6月4日、英BBC中国語版ウェブサイトによると、天安門事件から25年となった同日夜、香港で大規模な追悼キャンドル集会が開かれた。

集会は午後8時に、香港の民主派団体「香港市民愛国民主運動支援連合会」(支連会)の主催で開かれた。

今年のスローガンは「天安門事件の再評価を、徹底的に闘おう」。参加者は主催者発表で過去最多となる18万人、香港警察の発表はおよそ10万人だった。(後略)【6月5日 Record China】
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強まる中国の“締め付け”】
“香港は、英国が1997年に香港を中国に返還する前に小平とマーガレット・サッチャーが合意した「一国二制度」の取り決めの下で統治されている中国の特別行政区だ。香港は同制度の下、北京中央政府の領域である外交・防衛政策を除き、行政区を自ら治める自由を持つ。”【6月11日 英フィナンシャル・タイムズ紙】

香港からすれば天安門事件批判は当然の権利なのでしょうか、外部の目から見ると、「1国2制度」とは言いつつも、どこまで中国が許容するのだろうか・・・とやや不安な感もあります。

実際、“香港出版界では昨年10月、習近平国家主席を批判した本の出版を準備していた香港の出版社の経営者が深センで中国当局に拘束され、今年5月に懲役10年の有罪判決を受けた。”【6月2日 毎日】など、香港ジャーナリストが拘束されたり、襲撃にあったりする“締め付け”が目立つようになっています。

また、北京・習近平政権にあっては、現地の「自治」よりも中央の「統制」を重視する姿勢が強まっています。
(3月8日ブログ“香港 「一国二制度」の幻想”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140308

決定権を持つのは北京
こうしたなか、1997年の返還の記念日である7月1日を前にした6月10日、中国政府は“香港は中国政府の管轄下にあり、「完全な自治権」を持っているわけではない”旨を強調する白書を発表しました。

****中国が香港に対する権限確認の白書、民主化の動き牽制****
中国政府が香港に対して「包括的な権限」を持つことを確認する内容の白書を発表した。

香港では10万人以上が集まって権利の拡大を求める集会が開かれたばかり。民主化の推進を望む住民は白書に対し、一層反感を募らせている。

今回の白書は、香港で次期行政長官を選ぶ選挙制度の改革や、「1国2制度」を巡る論議が活発化する中で、中国国務院新聞弁公室が発表した。
香港が1997年に英国から中国に返還されて以来、こうした白書が発表されるのは初めて。

白書では香港が中国政府の管轄下にあり、「完全な自治権」を持っているわけではないと強調。1国2制度に関連して「香港では現在、多くの誤った見方がはびこっている」と述べ、住民の同制度に対する理解には「混乱や片寄りがある」とした。

さらに「香港特別行政区の高度な自治は、完全な自治ではなく、分権でもない」「中央の指導部によって承認された地方業務を運営する権限だ」と述べている。

これに対して香港で民主主義を訴える公民党の梁家傑党首は背筋が寒くなったと話し、「1国2制度に関する我々の認識が根本から覆えされた」と指摘した。

関係者は白書について、選挙制度改革に関連して民主化を推進しようとする動きを牽制する狙いがあるとみている。【6月12日 CNN】
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香港の自治の自由は北京の中央政府の支配下にあり、香港を統治するのは中国である・・・ことをはっきりさせた白書でした。

香港では現在、行政長官は中国の影響力が強い政財界のエリートを中心とする約1200人の委員会によって選ばれていますが、次期行政長官選(2017年)は「普通選挙」が実施されることになってはいます。
しかし、中国政府と香港民主派の間では「普通選挙」の実態についての対立があります。

****反中央の人物」任命しない=次期香港長官選で中国高官****
中国全国人民代表大会(全人代、国会に相当)香港基本法委員会の李飛主任が香港入りし、「普通選挙」が導入される見通しの次期香港行政長官選(2017年)について「中央(政府)に対抗する人物」が当選しても任命しない方針を示した。22日に開かれた香港政府主催の昼食会と基本法に関する座談会で語った。

中国共産党の一党独裁を否定する民主派の長官就任は、容認しない立場を明確にした形だ。【2013年11月23日 時事】
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****香港民主派が大規模デモ=「真の普通選挙」求める****
香港民主派は1日、行政長官の選挙制度改革で「真の普通選挙」導入を求める大規模なデモを行った。参加者数は主催者発表で約3万人、警察発表で約1万1000人だった。【2014年1月1日 時事】
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10日の白書は、改めて香港民主派を牽制する内容となっています。

“中国は白書で、香港の指導者は「愛国者」でなければならないと述べた。「国を愛することは香港の行政官に求められる政治的要件だ」と述べ、もし指導者が愛国者でなければ、香港は「正しい方向から逸れてしまう」と説明した。
さらに中国は、「外部勢力が香港を利用し、中国の内政に干渉しようとする試みに対して警戒を怠らない」ことが必要だと述べ、暗に米国と英国の干渉を批判した。”【6月11日 英フィナンシャル・タイムズ紙】

「セントラル占拠」という名の集団は今夏、指導者を自由に選ぶ権利を香港市民に与える普通選挙制度を求め、中心部のオフィス街でデモを行う計画とされていますが、“返還交渉に携わった中国の元政府高官は先週、抗議デモが暴動を引き起こすようなら、中国政府が香港に戒厳令を敷く可能性があると述べた。”【同上】とのことです。

****香港を統治するのは中国だ―国務院が異例の「白書****
北京政府は過去において、中国指導者の演説や国営メディアからの「一般的な指令」を通じて同様のメッセージを出したことがある。

しかし、こうした宣言を白書、つまり特定問題に関する政府のポジションペーパーの中で打ち出すのは異例だ。白書は軍、行政、立法、司法が香港を全体的に管理していることを詳述している。

親民主派の立法会議員で弁護士の梁家傑 (Alan Leong)氏は、北京のメッセージによって香港の人々がたじろぐことはないと述べ、「心配ご無用。香港の人々は脅しには慣れている」と語った。

一方、親北京系の新聞の元記者でベテラン政治評論家のジョニー・ラウ(Johnny Lau)氏は「これは、政府が向こう数日以内に香港の管理を厳しくする口実を与えるものだ」 と述べた。

同氏は、この白書が国務院の新聞弁公室(広報担当部局)によって出されていると指摘、これは北京の中央政府が香港の人々だけでなく世界全体に向けて情報を発信しようとしていることを示していると述べた。

ラウ氏は「中国政府は、香港における反対運動の高まりにいら立ちを募らせており、それが香港をめぐる自らの主権を宣言するというより強硬な路線をとらせた」と述べた。【6月11日 ウォール・ストリート・ジャーナル】
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自由を求める覚悟のほどは?】
香港および中国の民主化がどうあるべきか・・・という話とは別に、現実政治の観点から言えば、中国政府の姿勢は当然のものであり、いくら「1国2制度」とは言っても、中国共産党の意向に反するような自由が認められると考えるの幻想にすぎないでしょう。

別に中国だけでなく、自治に寛大な国であっても同様でしょう。
例えば、アメリカのある州がイスラム・シャリーアに基づく統治を求めたとしても、連邦政府は容認しないでしょう。ましてや、相手は中国です。

もし、中国本土で行われているような政治制度は受け入れられない、欧米的な自由・人権を維持したい・・・ということであれば、本来は1997年の返還前に行動するべきであった、中国の主権のもとに入った今になっては遅すぎるという感がします。

「1国2制度に関する我々の認識が根本から覆えされた」(香港で民主主義を訴える公民党の梁家傑党首)・・・それは認識が甘かったとしか言いようがありません。

返還当時は金融センターとしての香港の価値は中国政府にとっても重要なものでしたが、上海が成長した今はその価値も大きく変わったのではないでしょうか。

今や、香港経済は中国本土に依存して成立している状況です。一方で、中国の経済的・政治的影響力は97年当時とは別物です。
中国政府もそうそう香港に気を遣う必要もなくなっています。

それでも政治的自由が欲しい・・・ということであれば、第2の“天安門事件”を覚悟するぐらいの決意が必要でしょう。
香港民主派にその覚悟は?
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イラク  イスラム過激派組織ISILの攻勢で進む“シリア化”

2014-06-12 22:27:53 | 中東情勢

(ISIL戦闘員 “flickr”より By rokonbd77 https://www.flickr.com/photos/88945895@N08/14396685441/in/photolist-nWfGbg-nW6WSs-nWCjW7-nWbM1v-nEoTF2-nEo4Ym-nWR4xg-nWStHP-nEo591-nDFuTF-nWa6Jk-nDEM7N-nU7Bjb-nE9mKx/)

首都バグダッドを目指して南下する勢い
イラクで、イスラム過激派組織「イラク・レバントのイスラム国(ISIL)」の攻勢によって混乱が拡大していることは、6月8日ブログ「イラク スンニ派イスラム武装勢力の活動で混乱が拡大 サウジアラビアは路線変更?」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140608)でも取り上げたばかりですが、その直後にISILは第2の都市モスルを制圧、更に南下してティクリットも後略して首都バグダッドをうかがう勢い・・・というように、混乱というより内戦状態、悪くすると国家破綻も懸念される危険な状況になっています。

****イラク 大規模衝突による混乱拡大懸念****
イラクでは、国際テロ組織アルカイダ系のイスラム過激派組織が北部の都市を制圧し、首都バグダッドを目指して南下しているのに対し、マリキ政権は軍事作戦を本格化して反撃する構えで、大規模な衝突による混乱の拡大が懸念されます。

イラクでは、国際テロ組織アルカイダとつながりのあるスンニ派のイスラム過激派組織が北部で攻勢を強め、10日までに第2の都市モスルを制圧したのに続いて、その南のティクリットも制圧したとの情報もあります。
さらに、バグダッドから北におよそ100キロ離れたサマラ近郊でも、治安部隊との攻防が続いているもようで、過激派組織は11日、「戦いは今後、バグダッドでさらに激しくなる」として、首都バグダッドを目指して南下するという声明を出しています。
これに対しイラクのマリキ首相は義勇兵を募るなどして治安部隊を立て直し、モスルを奪回する軍事作戦を本格化する方針を示しているほか、欧米のメディアによりますと、アメリカに無人機による過激派組織への空爆を要請したものの、拒否されたということです。

こうしたなか、バグダッド北東部のシーア派住民が多く住むサドルシティーでは11日、自爆テロが起き、少なくとも24人が死亡しました。
イラク北部ではモスルなどからすでに50万人以上の市民が避難していて、今後、大規模な衝突による混乱の拡大が懸念されます。【6月12日 NHK】
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内戦下のシリアとの間で戦闘員や武器の往来が活発化する恐れも
モスルが位置する北部や西部はスンニ派住民が多く、シーア派中心のマリキ政権に冷遇されているという政権に批判的な空気があります。ティクリートはフセイン元大統領の故郷でもあります。
また、モスル周辺はスンニ派過激組織ISILがもともと「縄張り」としていた地域でもあり、戦略的に見ても重要な地域です。

****戦略の拠点を占拠****
ISIS(ISILに同じ)は、イラク戦争後に勢力を拡大した。サウジアラビアなどの湾岸諸国、エジプトなど北アフリカ地域、さらにはアフガニスタンから、アルカイダ系イスラム過激派を受け入れてきた。

その前身の「イラク・イスラム国」は、モスル周辺が「縄張り」。周辺を通行する住民に独自の税金を課していると、3年前に朝日新聞と会見した軍情報部の関係者が証言していた。

モスルは、もともとISISの足場があり、シリアとの国境や油田地帯に近い戦略的に重要な都市だ。

モスルの南東には、イラク有数の石油都市キルクークがあり、クルド人とスンニ派住民が対立している。クルド側は11日に特殊部隊を投入して警戒を強めるが、ISISの勢力が及べば対立が激化しかねない。

また、ISISはニナワ州と隣接するシリアで、内戦に介入している。国境地帯を制圧したことで、反アサド政権の戦闘を勢いづかせ、内戦をさらに激化させることも懸念される。(後略)【6月12日 朝日】
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いくつかのポイントがありますが、ISILはシリアでアサド政権や反政府の他の組織と戦闘を行っており、今後シリア内戦と連動して、シリア・イラク双方で状況が悪化することが懸念されます。

「イラク・レバントのイスラム国(ISIL)」の“レバント”とは、シリア、レバノン、ヨルダン、イスラエル(およびパレスチナ自治区)を含む地域を指し、ISILにしてみれば、その名前のとおりイラク・シリアにまたがるシャリーアによるイスラム国家建設に向けて大きく前進・・・といったところでしょう。

“ISILがモスルの北西約100キロにあるシリアとの国境検問所を制圧したとの情報もあり、今後、内戦下のシリアとの間で戦闘員や武器の往来が活発化する恐れもある。”【6月11日 毎日】

“モスルを含むニナワ州はシリアにも接している。「イスラム国」はシリア内戦にも参戦し劣勢に回っているが、ニナワ州を掌握したことで戦闘員の動員や物資の運搬が容易になるとみられ、シリア内戦に影響する可能性がある。”【6月11日 東京】

なお、前回ブログでも触れたように、ISILは、現在はアルカイダの制止を無視する形で活動を拡大しており、アルカイダからは“破門”状態にあります。

クルド自治区への影響
モスルはクルド自治区に隣接しており、クルド人との対立も激しくなっているようです。
8日、および9日にはクルド人政党を狙った爆弾テロが連続して起きており、ISILの反抗と見られています。

モスルでは人口の4分の1に相当する50万人規模の住民が市外へ脱出しており、避難民の多くは、比較的治安が安定しているクルド自治区に向かっています。

“クルド自治政府トップのバルザニ議長は11日、避難民を制限なく受け入れる意向を表明した。
ジバリ外相は11日、モスル奪還に向けた軍事作戦でもクルド自治政府と協力したい意向を表明した。
ただ、バルザニ議長は「モスル陥落前に何度も中央政府に協力を呼びかけたが、応答がなかった」と、マリキ政権への不信感を表している。”【6月11日 毎日】

もともとクルド自治区とイラク中央政府の関係には自治や石油利権を巡って確執があるところですが、今後内戦状態の混乱が拡大し、ISILとクルド自治区の本格交戦、あるいはマリキ政権の機能麻痺といった状態にもなれば、クルド自治区が中央政府のコントロールを離れて分離独立へ向かうことも考えられます。

そうなると、イラク国家の分解にとどまらず、“国家を持たない最大民族”クルド人を領内に抱えるトルコ、シリア、イランを巻き込んだ大規模な中東再編成にもつながる・・・ということは、これまでも再三取り上げた話です。

なお、モスル住民が避難しているのは、ISILによる恐怖支配を恐れてのこともありますが、今後モスル奪還を目指すマリキ政権が包囲作戦をとり、容赦ない攻撃を行うのでは・・・という不安からでもあります。

マリキ首相への不満噴出 政局は混乱
マリキ政権側の対応については、以下のように報じられています。

****マリキ政権への批判が噴出*****
シーア派のマリキ首相は10日、連邦議会に対して、超法規的な治安措置をとるために非常事態令の承認を要請した。

ところがマリキ首相に反発するスンニ派やクルド人の政党から政府への批判が噴出。政敵であるスンニ派のナジャフィ議長は「政府の責任は重い」と指摘した。

背景には、マリキ首相が自身の支持基盤であるシーア派が多い南部や首都バグダッドの治安対策を優先し、スンニ派が多い北部や西部を軽視してきたとの不満がある。

またイラク政界では4月の連邦議会選挙後、次期政権樹立に向けた各党派の連立交渉が続いている。マリキ首相の党派が第1勢力だが、過半数の議席は得ておらず、政権を維持できるかは不透明だ。

スンニ派など反対勢力には、混乱の責任をマリキ氏に押しつけ政権交代を迫りたい思惑もある。ISILはこうした政局の混乱につけ込んで勢力を拡大している。【6月11日 毎日】
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****民兵利用は更なる混乱の恐れも****
イラク国会のヌジャイフィ議長は「モスル奪還のために地域住民を動員した作戦を進める」と説明。マリキ首相は10日、ISILと戦う住民に武器を配る考えを示した。

ただ、マリキ政権はこれまでもISILの制圧下にある中部ファルージャを奪還できずにいる。住民を武装させ民兵として利用することは、さらなる暴力や混乱につながる恐れもある。【6月12日 産経】
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現在の事態は、シーア派を偏重し、スンニ派を軽視してきたマリキ政権の失策が招いた結果とも言えます。

****イラクの治安悪化はなぜ止まらないのか****
背景には、4月末の議会選で第1勢力となった「法治国家連合」を率いるマリキ氏のシーア派系政権と、スンニ派との関係悪化が挙げられる。

ファルージャを含むアンバル州は、旧サダム・フセイン政権で軍や治安情報機関を担ったスンニ派部族の勢力圏。米軍が11年末に撤退できたのは、こうした部族と協力して、アルカイダ組織と対抗できたからだ。

だが、米軍撤退後、マリキ氏の強権化傾向や政権の腐敗に対する批判が、スンニ派の間で強まっている。

今回のモスル陥落も、北部や西部のそうした不満分子とつながっている可能性があり、大規模な宗派間抗争が再燃する恐れがある。【6月12日 朝日】
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露呈した脆弱性
今回の混乱で印象的だったのは、政府軍の士気の低さです。

“現地からの報道によると、制圧された地域では、配置に就いていたはずの治安部隊の抵抗がほとんどなく、私服に着替えて逃げ出す警官の姿も見られるという。”【6月11日 時事】

“モスルの住民は、政府庁舎やテレビ局、米国によって提供された戦闘機やヘリコプターなどが配備された軍事施設が反政府勢力によって容易に奪われてしまったことに衝撃を受けている。”【6月11日 WSJ】

“ISILは既にモスルがあるニナワ県全域を制圧し、油田地帯があるキルクーク県や、サラハディン県にも侵攻。軍や治安部隊は無抵抗で逃亡するケースが続出している。”【6月11日 毎日】

“「国民は一致団結せよ。撤退するな。銃を捨てて逃げた者は罰せられる」。マリキ首相は11日、記者会見で訴え、国民に総動員を呼びかけた。だが、イラク軍や治安部隊は、モスルでは逃げ出したとみられ、南下するISISの勢いを止められずにいる。”【6月12日 朝日】

イラクという国家の脆弱性が露呈した感があります。
同様の状況が、米軍撤退後のアフガニスタンでも再現されるのでは・・・という懸念もあります。

アメリカは空爆は拒否 領事らが拉致されたトルコは報復も検討
その正当性は別にして、多大な犠牲を払ってイラク・アフガニスタンに“民主化”をもたらしたアメリカとしては忸怩たるものがあるでしょう。

そのアメリカはイラク支援は強化するものの、深入りはしない方針です。

****イラク支援を強化=空爆要請は拒否か―米****
カーニー米大統領報道官は11日声明を出し、イラクで攻勢を強めているイスラム教スンニ派過激組織との戦いでイラク指導部を支持し、支援を強化する方針を示した。

オバマ大統領が先に発表した対テロ戦基金(約50億ドル)を活用して、イラクを支援するため議会に協力を求めるとしている。

声明は、過激組織によるイラクでの攻勢を強く非難。アーネスト副報道官はこれに先立ち、記者団に対し「イラク情勢は深刻で、悪化している」と表明していた。

副報道官はこの中で、オバマ大統領はイラクで数十万人の避難民が発生していることを懸念していると指摘。

ただ、オバマ政権が「人道上の危機」を理由に軍事行動を検討しているかどうかとの質問に対しては、直接の回答を避けた。

ニューヨーク・タイムズ紙(電子版)は11日、イラクと米国の当局者の話として、イラクのマリキ首相が先月、オバマ政権に対して過激組織への空爆を検討するよう秘密裏に求めていたと伝えた。米側は拒否しているという。【6月12日 時事】 
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今回の混乱に巻き込まれているもうひとつの国がトルコです。

****イラク過激派、トルコ総領事ら49人を拉致****
イスラム武装勢力が掌握したイラク北部の都市モスルで11日、トルコ領事館を武装集団が襲撃し、総領事や子ども3人を含む49人を拉致した。トルコ当局が発表した。

匿名を条件にAFPの取材に応じたトルコ政府関係者によると、館内にいた総領事や職員らはモスル市内にあるイスラム武装勢力「イラク・レバントのイスラム国(ISIL)」の拠点に連れて行かれた。

トルコのメディアによると、アフメト・ダウトオール外相は同日、米ニューヨークの国連本部で、拉致された国民に危害が加えられることがあれば「厳しい実力行使」に出ると断言した。

外務省が発表した声明によるとこのほかにも、トルコ人のトラック運転手31人がISILによって10日に拉致され、市内の発電所に拘束されているという。

レジェプ・タイップ・エルドアン首相は主要閣僚らと緊急会議を開き、対応を検討している。(後略)【6月12日 AFP】
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今後はイラク政府軍も反攻に出ると思いますが、イラクの“シリア化”が進みそうです。
前回ブログでも取り上げたように、サウジアラビアがISILから手を引いたとも言われていますので、シリアにおいてアサド政権との休戦を実現し、国際社会が結束して、対象をイスラム過激派に絞ってシリア・イラクで連携して対応していくのがいいと思うのですが・・・。
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ミャンマー  少数民族問題  停戦後も残る地雷  停戦を複雑にする木材密輸権益

2014-06-11 22:05:11 | ミャンマー

(かまどの前でラジオを聴くカチン人青年。
“ミャンマーの少数民族カチン族の最大武装勢力カチン独立機構(KIO)の主要拠点ライザから放送されている「FMライザ」は、カチン州で広く視聴されているという。(2013年2月13日カチン州ライザ、赤津陽治撮影) 【2013年2月14日 アジアプレス・ネットワーク】)

全土停戦協定案で、6月にも再協議
ミャンマーでは1948年のイギリスからの独立直後から、少数民族武装勢力と政府軍の間で内戦状態が続いていますが、2011年の民政移管の後、17の武力勢力のうち14が政府と停戦で合意し、和平交渉を続けています。【6月11日 朝日より】

****少数民族武装勢力との全土停戦協定案をめぐる協議、ヤンゴンで開催****
ミャンマー政府と少数民族武装勢力との間で締結をめざしている全土停戦協定案についての協議が最大都市ヤンゴンで5月21日から23日まで開催された。6月にも再度協定案についての協議が行なわれる予定

◆早期の全土停戦協定締結と政治対話の実施をめざして
ミャンマー政府と少数民族武装勢力との間で交渉が進む全土停戦協定の草案について話し合う会議がヤンゴンで開かれ、23日に終了した。

アウンミン大統領府相を団長とする政府・議会・国軍の代表で構成される連邦和平実務委員会(UPWC)9名と少数民族武装諸組織を代表する全土停戦調整チーム(NCCT)9名が5月21日から23日までヤンゴン市内のミャンマー・ピース・センターで協議した。4月上旬に開催された前回の会合で、政府案と少数民族武装勢力案を一つにまとめた7章にわたる統一案ができたとされている。しかし、まだ多くの項目で相違があり、今回の協議では協定案の相違点についての交渉が行なわれた。(中略)
最終日に発表された共同声明では、6月中にヤンゴンで再び協議し、早期の全土停戦協定締結と政治対話の実施をめざすことが確認された。 【5月26日 アジアプレス・ネットワーク】
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ただ、4月23日には、中国国境に近いシャン州北部ナムカン郡で、パラウン州解放戦線(PSLF)軍事部門のタアーン民族解放軍(TNLA)と国軍との間で戦闘が発生し、国軍兵士約30人が死亡、TNLAの兵士1人が死亡したとも報じられているように、状況は必ずしも安定している訳でもないようです。

【「何の表示もないまま、彼らが一斉に帰り始めると、危険なことになる」】
また、全土停戦協定が締結されても、今後に残された課題は少なくありません。
そのひとつが地雷の問題です。

下記記事はカレン州・カレン族の状況ですが、少数民族の中では最も長く、1949年から独立闘争を続けていたカレン民族同盟(KNU)は12年1月、停戦合意を結び和平交渉に入っています。

****ミャンマー、残る地雷の影 少数民族と紛争、互いに使用****
政府と少数民族武装勢力との和平交渉が進むミャンマーで、紛争中に埋められた地雷の被害が後を絶たない。どこに埋められたのかの記録はなく、将来、難民が帰還する際の障害になりかねない。

 ■通い慣れた森、失った足
ミャンマー・カレン州と国境を接するタイ北西部メソト。メータオ・クリニックは、国境を越えてやってくる避難民のための無料の診療所だ。運営費は国際NGOなどの寄付によってまかなわれ、年間約16万人の患者を受け入れている。

「まだ少し痛い」。クリニックの義足科でマーウィンチーさん(37)は初めて作る義足の調整に苦心していた。
昨年7月、カレン州南部のウォーレー村で竹を採りに森へ入った際、地雷を踏んだ。生計を立てるため4年以上も通った森だという。「ドン」という音とともに意識を失った。ミャンマー側には適切な治療施設がなく、タイ側の病院へ運ばれた。気づいたときには左足のひざから下が無くなっていた。

森には地雷が存在することを示す標識はなかった。「村の人は皆、森にはもう地雷は無いと言っていた。死ななかっただけましです」。新しい義足ができたらまた森へ入って仕事をしたいという。「それ以外に収入がないから」

義足科は2000年にできた。年間約250人が無料で義足を作ってもらうために訪れる。そのほとんどが地雷の犠牲者だ。

見習いとして働くタンゲーレイさん(20)もその一人。11年4月カレン州内で木の伐採中に地雷を踏んだ。大きな声で叫び、仲間を呼んだ。「数分間は何が起きたか分からなかった」。両足のひざから下を無くした。「地雷で被害を受けた人がたくさんいる。多くの義足を作れるようになりたい」と話す。

 ■記録なく、埋設場所不明
(中略)
ソーシイコーさん(51)はカレン民族同盟(KNU)の元兵士だ。30歳の時、前線で政府軍との戦闘中に地雷で左足のひざから下を無くした。

14歳で兵士となり、地雷を埋める任務に就いたこともある。埋めた場所は記録に残さない決まりだった。敵に知られないようにするためだ。目印はせいぜい石を置いたり、枝を折ったりする程度で、村人には口頭で伝えたという。
「敵軍が通りそうな所に地雷を埋め、去ったら取り除くようにしていた」と言うが、頼りは記憶だけ。戦闘の長期化や、埋めた兵士が死んでしまったケースもあり、「取り去れず残った地雷も多くある」。自分が踏んだ地雷も、どちらの軍の埋めたものか分からないという。

 ■十数年で3千人超が被害
地雷禁止国際キャンペーン(ICBL)によると、ミャンマー国内の少なくとも50郡区で対人地雷が確認されているが、埋設数や範囲ははっきりしていない。

1999年から2012年までに、兵士を含めて、少なくとも3349人(うち死者319人)の被害が出ている。

地雷は政府軍のほか、少数民族の武装勢力が埋めたものも多い。ビルマ医療協会(BMA)のナーワーワーアウン医療プログラム副部長は「将来、人々が安全に生活するためには地雷の撤去が必要になる。それには情報共有のため、政府、軍、コミュニティーの密接な協力が必要になる」と話す。

カレン民族同盟(KNU)の組織、カレン保健福祉局は和平後をにらんで、約3万5千枚の警告表示を用意した。ただ、長年の内戦で疑心暗鬼に満ちた村人らから、埋設した場所について、十分な情報を得られないのが実情だ。

和平成立のあかつきには、タイの難民キャンプの約12万人、ミャンマー国内の約55万人の避難民に、帰還の道が開ける。

ウンピアムマイ難民キャンプを統括するソーワッティーさん(57)は「何の表示もないまま、彼らが一斉に帰り始めると、危険なことになる。地雷原の表示や、地雷の撤去を確認してから動き出すなど何らかのルール作りが必要だ」と話す。【6月11日 朝日】
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2013年だけで5000万元(約8億円)ほどの収入 進行する森林破壊
一方、ミャンマー北東部カチン州では、1994年に国軍とカチン独立軍(KIA)の間で停戦協定が結ばれて以来、カチン独立機構(KIO)が州の大半を実効支配していましたが、2011年から再び戦闘状態に入っています。

少数民族は翡翠や木材の密輸で資金を得ており、この巨額の権益の存在が少数民族問題の解決を難しくしているとも言われています。

****ミャンマー内戦、停戦の障害は違法伐採****
熱帯の広葉樹が残るミャンマーの森林は、東南アジア本土における材木伐採の最後の開拓地だ。
中国の国境まで徒歩2~3時間のミャンマー北東部カチン州では、数週間前まで材木を満載したトラックが毎日100台近く通り過ぎていた。

カチン独立組織(KIO)の軍事部門カチン独立軍(KIA)は、自治権を求めて息の長い闘争を50年以上続けている。

縮小を続けるミャンマーの平地林を起点にする中国への主要な密輸ルートは、4月までKIAが掌握していた。材木輸送の18トントラックが通過する度にKIOは通行料を徴収しており、2013年だけで5000万元(約8億円)ほどの収入を得ていたという。

8割のトラックは、成長著しい中国を目指す。

◆国境での対立
ミャンマー第2の反政府組織KIOは、恒久的な停戦協議を拒絶し続けている最後の主要組織だ。実現すれば、世界で最も長い内戦の1つが終結へと踏み出すことになる。

KIOの戦略部門を率いるザウ・タウン(Zau Tawng)氏は、「平等の権利を手に入れるまで革命は続く」と断言。(中略)

◆密輸に“課税”
1994年、軍事政権との一時停戦に合意したKIOは、カチン州東部の重要なヒスイ鉱区を放棄し、材木に目を向けた。

世界的な天然資源の監視団体グローバル・ウィットネスによれば、KIOが掌握する地域で森林伐採が急増したという。現在も、黒々とした丸裸の斜面が大地の傷跡として放置されている。

2002年、KIOは商業伐採を禁止し、金や翡翠(ひすい)の密輸に“税”を課して収入源を確保する。材木取引にも課税しているが、その規模は比較的小さいという。

にも関わらず、今年に入ってからの中国向けの材木の密輸は、過去最高の水準を記録していると、複数の自然保護団体が指摘している。

◆政策が裏目に
改革派の現政権は4月1日、ヤンゴンの港から未加工の木材輸出を全面的に禁止。陸路での中国向け輸出は2006年に既に禁止されている。森林資源減少の圧力軽減や国内への消費転換、加工産業による付加価値向上が主な目的だ。

一方、政権の意図に反して、中国への違法輸出が増える可能性を自然保護団体は懸念している。

禁止措置が施行されてから11日後、ミャンマー軍は違法伐採を阻止するという名目で国境検問所を掌握した。
軍の急襲についてKIOは、森林を守るという大義名分より、KIOの重要な収入源を断つ意図があったと見ている。

恒久的な停戦合意の期限は8月に迫っている。実現の見込みが遠のいた現在、ミャンマーの森林の危機的状況はこのまま続く可能性が高い。【5月22日 NATIONAL GEOGRAPHIC】
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なお、森林破壊は少数民族側だけでなく、欧米諸国から厳しい経済制裁を科され財政的に困窮していた軍事政権によっても、交換可能な“通貨”として木材が利用されたことで著しく進行しました。

いずれにしても、木材密輸から生まれる権益をどのように扱うかが、交渉の現実的課題となります。

ミャンマーのカチン州・シャン州の状況を伝えるブログ「ビルマのカチン州・シャン州での出来事 written by 菅光晴」から拾った、カチン州関連の話題です。

****KIOの強制徴兵に抗議****
5月13日、カチン州ミッチーナ市にある反政府武装組織「カチン独立機構(KIO)」の事務所前で、KIOに息子を強制的に徴兵されたビルマ族の親たち二十数人が抗議集会を開いた。

集会参加者の1人は「うちの息子は(カチン州西部の)パッカン郡内で毛布を販売中にKIOの兵士らに連れ去られました。息子が今どこで何をしているのか、生きているのか死んでいるのか、まったくわかりません」と語った。
【5月15日】http://blog.livedoor.jp/kachin_shan/archives/8376338.html
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****ビルマ国軍とKIAの戦闘開始から3年****
6月7日午前8時から9時にかけて、ヤンゴン市チャウッタダー地区のマハーバンドゥーラ公園に人権団体のメンバーら約100人が集まり、ビルマ国軍と反政府武装組織「カチン独立軍(KIA)」が戦闘状態に入った日(2011年6月9日)から3年がたつのを前に、両軍の戦闘停止を訴える集会を開いた。

この日、ヤンゴン市内ではさらに、午前10時から午後3時にかけてピードゥーウーイン(人民広場)で、午後3時から6時にかけてインヤー湖公園でも、停戦を望む市民らによる祈祷集会が開かれた。【6月8日】http://blog.livedoor.jp/kachin_shan/archives/8407694.html
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