(14日、アフガニスタンの首都カブールの投票所で投票するアブドラ元外相【6月14日 Bloomberg】)
【アブドラ氏が結果の受け入れを拒否する可能性も】
6月14日ブログ「アフガニスタン 大統領選挙は安全かつ公正に行われているのか? とは言うものの・・・」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140614)で取り上げたアフガニスタン大統領選挙。
タリバンの妨害や選挙の不正など問題は多々あるものの、とにもかくにも米軍撤退後のアフガニスタン自立に向けての重要な1歩となる選挙です。
現在、14日に行われたアブドラ元外相とガニ元財務相による決選投票の開票作業中です。
“アメリカの努力もむなしく、今も腐敗ははびこったまま。成功したと一部で言われている「選挙による民主主義」が、短命に終わる可能性もある。
それでも、アフガニスタン史上初の平和的な政権交代がこのまま穏やかに進行するとしたら、大きな前進だといえるだろう。私たちにとっては当然のことが、この国では特筆に値する快挙になるのだ。”【6月10日 Newsweek日本版】とのことですが、「穏やかに進行する」かどうか、怪しい情勢にもなっています。
****アフガン大統領選:元外相が開票中断要求 不正を主張****
14日に決選投票が行われたアフガニスタン大統領選の候補者、アブドラ・アブドラ元外相(53)は18日、投票で大規模な不正があったとして、独立選挙委員会(中央選管)に対して開票作業を一時中断して調査するよう求めた。
選管はこのまま開票を続けるとしているが、アブドラ氏が結果の受け入れを拒否する可能性もあり、政情は混迷を深めそうだ。
決選投票はアブドラ氏とアシュラフ・ガニ元財務相(65)が争っており、地元メディアはガニ氏がリードしていると報じている。
アブドラ氏は、選管が公表した推定投票率(約58%)があまりにも高く、ガニ氏の得票が不正に上乗せされたと主張。
自陣営の開票作業の監視チームを全て引き揚げるよう命じたことを明らかにした。さらに「このまま開票が続けば、(選挙結果が)正当性を失うことになる」と指摘。カルザイ大統領についても「公平ではなかった」と批判した。
中央選管によると、16日の時点で568件の不正の疑いが寄せられた。このうち141件は選管スタッフに対する疑惑で、残る427件はいずれかの陣営関係者に対するものだった。
不正内容は買収や投票の強制、得票数の操作など多岐にわたるという。暫定結果の発表は7月2日に予定されている。
アブドラ氏は前回の大統領選(2009年)でも決選投票に進んだが、カルザイ大統領による不正を指摘してボイコットした。
この時はカルザイ大統領の無投票当選が決まったが、選挙の正当性に疑問符がついた。今回の決選投票では、両候補の陣営が衝突して死者が出る騒ぎも発生しており、混乱が長引けば政情不安につながる恐れがある。【6月19日 毎日】
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8人が立候補した1回目の投票では、アブドラ氏が45%を獲得し、2位のアシュラフ・ガニ元財務相の31.6%でしたが、今回決選投票にあっては、現段階情報ではガニ氏がアブドラ氏を100万票ほどリードしていると見られています。
【パシュトゥン人とタジク人】
両候補のプロフィールは以下のとおりです。
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◆アブドラ・アブドラ(53歳)
1回目得票率 45.0%
経歴 タリバーン政権に対抗した北部同盟出身。カルザイ政権初期に外相
支持層 第2民族タジク人、旧軍閥、現政権の一部
選挙運動 地方遊説を重視。各地で道路、ダム建設を約束
◆アシュラフ・ガニ(65歳)
1回目得票率 31.6%
経歴 世界銀行勤務。タリバーン政権崩壊後に財務相、カブール大学学長
支持層 最大民族パシュトゥン人、帰国組の知識人
選挙運動 討論会を重視。汚職や軍閥支配を批判。女性の登用を公約 【6月15日 朝日】
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政策的にはさほどの差はないと見らており、カルザイ大統領が署名を拒否している国際治安支援部隊(ISAF)撤収後の駐留米兵の地位を定めるアフガニスタンとアメリカの「安全保障協定」についても、アブドラ、ガニ両氏とも当選すれば署名すると明言しています。
ただ、アフガニスタンの場合、民族対立の内戦の過去もあり、出身民族が大きな意味を持つとされています。
この点で言えば、アブドラ氏が母方のタジク人を支持基盤とするのに対し、ガニ氏は最大民族パシュトゥン人出身です。
アブドラ氏が問題としている“選管が公表した推定投票率(約58%)があまりにも高い”ことに関しては、“決選投票の直後から、ガニ氏の地盤の東部各州で投票率が非常に高かったとの見方が流れ始め、一部の地元メディアが「ガニ氏が逆転した」と報道。アブドラ氏は、カルザイ大統領に選管幹部の更迭を求めたが、受け入れられなかった。”【6月19日 朝日】とのことです。
“ガニ氏の地盤の東部各州”というのは出身民族パシュトゥン人の居住エリアであり、アブドラ陣営は「100万票の不正票が相手側に入った」などと主張しています。
タリバンもパシュトゥン人中心に構成されており、タリバンの選挙妨害が強ければタリバンの地盤でもある東部各州の投票率は低く抑えられます。逆に、妨害程度如何によっては投票率が大きく動くことも考えられます。
今後をにらんで、同じパシュトゥン人のガニ氏を勝たせるためにタリバンが妨害を手加減した・・・ということはないでしょうが・・・。
あるいは、パシュトゥン人主体の現政権・選管などが、ガニ氏に有利に取り計らった・・・という話でしょうか。
なお、“欧州連合の選挙監視団は「1回目の投票より、透明性が高かった」と評価していた”【同上】とのことです。
【後味が悪い結果となった前回選挙】
前出【毎日】記事にもあるように、前回(2009年)選挙のときも、アブドラ氏は選挙の不正を理由に決選投票をボイコットしています。
このときは第1回投票でカルザイ大統領陣営の大規模不正があったとして、アメリカ・欧州が選挙の正当性に問題があるとし、結局、カルザイ大統領は過半数を制したものの、不正票を差し引くと過半数に満たないとして決選投票が行われることになりました。
****アフガン:アブドラ氏ボイコットでも決選投票は予定通りに****
アフガニスタン大統領選決選投票(11月7日)を巡り、カルザイ大統領の対立候補であるアブドラ元外相がボイコットの構えを見せている問題で、選挙管理委員会幹部は31日、毎日新聞の電話取材に「ボイコットしても選挙は予定通り実施する」と明言した。
だが、カルザイ氏が当選してもアブドラ氏は新政権の正統性を否定していく方針で、アフガニスタンは泥沼化する対テロ戦と同様に政情も混迷を深めそうだ。
アブドラ氏のホセイン選対本部長は31日、取材に「カルザイ氏に求めた条件が31日夜までに受け入れらなければボイコットする」と語った。
条件として▽内務相▽教育相▽国境問題担当相▽地方政府相▽選管事務局長の更迭を挙げた。5人はいずれもカルザイ氏と同じパシュトゥン人。
カルザイ氏は公式見解を示していないが、選対幹部は「更迭する正当な理由がない」と否定的な姿勢を示す。
一方、選管のナジャフィ委員長は取材に「選挙法に従えば、すでに棄権通告期限は過ぎており、決選投票は予定通り実施される」と述べ、勝者が憲法に従って新大統領に任命されると明言した。
人口の3割弱を占めるタジク人を支持基盤にするアブドラ氏は、8月実施の投票を巡り、最多人口のパシュトゥン人を地盤とするカルザイ氏の「不正」を糾弾し、決選投票を強く要求していた。
選管は10月20日、両氏に不正があったとする一方、不正票を除いたカルザイ氏の票が当選要件の過半数に届かなかったとして決選投票の実施を宣言した。
ところが、カルザイ氏の優位は動かず、米政府も「新政府発足前に新戦略の策定は可能」と同氏再選を見越したことで、アブドラ氏側は反発。決選投票のボイコットは、カルザイ氏に要求を認めるよう米国に圧力をかけさせる狙いもある。
一方、AFP通信によると、アラブ首長国連邦に滞在中のクリントン米国務長官は31日、アブドラ氏がボイコットした場合について「選挙の正当性に影響するとは思わない」と述べ、ボイコットがあっても米政府が決選投票の結果を受け入れるとの見通しを示した。【2009年10月31日 毎日】
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カルザイ大統領は第1回投票に対するアメリカの“不正”批判に激怒し、その後のカルザイ政権とアメリカの不協和音の大きな原因ともなりました。
カルザイ大統領がアメリカとの「安全保障協定」に署名しないのも、こうしたアメリカへの“恨み”があるから・・・とも言われています。
一方、ようやく実施されることになった決選投票は、勝算の目途が立たないせいか、当事者アブドラ氏がボイコットするということで、非常に後味の悪い選挙でした。
【民族間抗争など「時代遅れの見方」・・・であるために求められる自重】
そんな昔の話もあっての、今回のアブドラ氏の開票作業中断要求です。
正直なところ「またか・・・」という感もあります。
アブドラ氏が主張するような“100万票”規模の不正があれば確かに問題ですが、タリバンとの内戦、腐敗・不正の横行というアフガニスタンの現状を考えると、多少の不正・妨害は呑み込んで、結果を受け入れるしかないように思われます。
もしそのせいでリードを許したということであれば、そうした不正・妨害を乗り越えるだけの力量が自分に不足していたと考えるべきでしょう。
そうでないと、話が1歩も前に進みません。
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アブドラ氏が1次投票から引き続き優勢との見方がある一方、直接対決になれば、最大民族パシュトゥン人のガニ氏が少数派タジク人に支持基盤を持つアブドラ氏を逆転するとの観測も出ている。
民間企業が有権者約2800人を対象に実施した世論調査では、ガニ氏を支持するとの回答が49%を占め、アブドラ氏支持(42%)を上回った。【6月14日 時事】
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アフガニスタンにおける世論調査がどういうものかの疑問はありますが、ガニ氏が逆転するとの予測も以前からあった話であり、あながち不正によるものだけではないように思えます。
****米軍撤退アフガンは「イラクにはならない」****
イスラム過激派組織の侵攻でイラク情勢が緊迫している。治安は11年の米軍撤退以降で最悪だ。16年末に米軍完全撤退が予定されているアフガニスタンは大丈夫なのか。
先週末には大統領選の決選投票が行われたが、選挙戦の問には候補者のアブドラ元外相を狙ったと思われる爆弾テロが発生。
大統領選阻止を宣言していた反政府勢カタリバンの犯行の可能性も指摘された。
だがアブドラは、アフガニスタンとイラクは「事情が違う。この国では全住民がタリバンを拒否している」と言う。
最大民族パシュトウン人を父に持つアブドラだが、支持基盤は少数派タジク人。彼が大統領になれば民族間抗争が勃発するという声もあるが、アブドラは「時代遅れの見方」と一蹴する。
さらに、今年末の米軍の戦闘部隊撤退後も、一部部隊を残留させるための協定をアメリカと結ぶと明言している(カルザイ現大統領は拒否)。
直前の世論調査では対立候補のガニ元財務相にリードを許したが、アブドラは勝利する自信を見せた。それも、またテロの標的にならなければだが。【6月24日号 Newsweek日本版】
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アブドラ氏の言うように、民族間抗争など「時代遅れの見方」であってほしいと思います。
そのためにも、アブドラ氏自身がその民族間抗争の火種とならないよう、自重してもらいたいものです。
なお、公式には7月2日から一部の投票結果の発表が始まり、最終結果は7月22日に公表される予定です。