孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ローマ法王  「平和の構築には戦争をするよりも勇気が要る」 中東和平交渉への取り組みを促す

2014-06-10 21:59:21 | パレスチナ

(握手を交わすイスラエルのペレス大統領(左)とパレスチナ自治政府のアッバス議長(中央)。右はフランシスコ・ローマ法王=2014年6月8日、AP 【6月9日 毎日】)

【「弱者・貧者の味方」と「政治的戦略家」という“二つの顔”】
5月27日ブログ「ローマ法王 中東歴訪で“異例の行動” 合意形成に向けた取り組みを促す」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140527)で取り上げたように、5月26日からのローマ法王の中東歴訪は、中東和平に向けた政治的メッセージを明確にした異例のものでした。

****異例の行動でメッセージ=ローマ法王、中東歴訪終了*****
フランシスコ・ローマ法王は26日、3日間にわたるヨルダン、パレスチナ自治区、イスラエルの訪問を終えた。法王自身は今回の訪問を「純粋に宗教的な旅」と位置付けたが、パレスチナとイスラエルの首脳をバチカンの自宅に招待したり、双方の土地の間に立ちはだかる「分離壁」に立ち寄って祈りをささげたりと、異例の行動は政治的なメッセージとなった。

法王の招待を受け、アッバス自治政府議長は6月6日に訪問すると約束。7月末に任期満了となるイスラエルのペレス大統領も快諾した。4月末に交渉が中断されたばかりの中東和平にとって明るい話題となりそうだ。【5月27日 時事】 
***************

****弱者の側に」政治に一石****
中東訪問の際、法王は予定になかった二つの場所で祈りを捧げた。

一つが、イスラエルが「自爆テロ対策」で建設し、パレスチナ人の生活を妨げている高さ8メートルの分離壁。
もう一つが、パレスチナのテロで死亡したイスラエル国民の追悼碑だった。

どちらかの側に立つのではなく、常に「弱者、犠牲者の側に立つ」という法王の姿勢を表した。【6月10日 朝日】
***************

聖地エルサレムを抱えるパレスチナの和平にはバチカンの利害も絡んでおり、ローマ法王には、「弱者・貧者の味方」と「政治的戦略家」という“二つの顔”あるとの指摘もあります。

****ローマ法王:平和の使徒、アピール 中東歴訪終了****
・・・・分離壁での祈りとペレス氏らのバチカン招待からは、法王の「二つの顔」が垣間見える。

壁で分断されたパレスチナ住民に寄り添う「貧者の法王」と、海外布教を進めてきた修道会イエズス会の出身者らしい戦略家としての顔だ。

カトリック系団体「聖エジディオ共同体」のアンドレア・リッカルディ氏はイタリア紙で、後者を「法王の政治的な顔」と表現した。

バチカン招待は「次善の策」だった。法王は当初、「平和の人」とたたえるペレス、アッバス両氏を歴訪中に引き合わせようと考えたが、会談場所の調整がつかず断念した。

イスラエル側から「うまが合う」(バチカン報道官)ペレス氏を選んだことで、ネタニヤフ首相の強硬路線を支持しない姿勢を暗に示した形だ。

バチカンは長年、キリスト教の聖地があるエルサレムがイスラエル・パレスチナ紛争の「トゲ」になっている状況に危機感を抱いてきた。

紛争の絶えない中東からキリスト教徒の流出が続けば、「聖地は(信徒のいない)博物館になってしまう」(バチカンのパロリン国務長官)。

和平への取り組みには「エルサレムの扱いが話し合われ、聖地や礼拝が保障されるようになってほしい」(エルサレムのカトリック神父)との願いがある。

欧州出身でない法王には「ホロコースト(ナチス・ドイツのユダヤ人大虐殺)の過去」に縛られていないという強みもある。

出身国アルゼンチンで培ってきたユダヤ教徒やイスラム教徒との友好関係も、積極的な行動を支えている。(後略)【5月27日 毎日】
****************

双方に「憎悪と暴力の連鎖」を断ち切るよう促す
中東歴訪時の“招待”にもとづき、8日、イスラエルのペレス大統領、パレスチナ自治政府のアッバス議長がバチカンに招かれ、共に祈りをささげました。

****ローマ法王:中東和平を祈願 両首脳がバチカンで祈り****
フランシスコ・ローマ法王は8日、イスラエルのペレス大統領、パレスチナ自治政府のアッバス議長をバチカンに迎え、中東和平を訴える合同祈願の集いを開いた。

対立するイスラエルとパレスチナの首脳がバチカンで共に祈りをささげたのは初めて。

法王は和平のための「勇気」を双方に要請、キリスト教カトリックのトップとしての国際的な影響力を生かし、和平交渉の停滞打開を目指す仲介を本格化させた。

イスラエルとパレスチナ自治政府の和平交渉はオバマ米政権が妥結期限に設定した4月末が過ぎ、決裂状態が続いている。

イスラエルのネタニヤフ首相は4月以降、閣僚らにパレスチナ側との接触を制限しており、公の場でのペレス、アッバス両氏の対面は異例。

集いはバチカンの庭園で開かれ、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖典である旧約聖書、新約聖書、コーランから平和祈願の一節が唱えられた。

法王は「平和の構築には戦争をするよりも勇気が要る」と述べ、双方に「憎悪と暴力の連鎖」を断ち切るよう促した。

ペレス氏は「平和の追求をやめない」と表明、アッバス氏は「包括的で公正な平和」の実現を求めた。両氏は「平和の印」に握手を交わし、オリーブの木を植樹した後、法王を交えて会談した。

法王は5月下旬の中東歴訪中にペレス、アッバス両氏をバチカンに招待し、受諾を取り付けていた。

キリスト教の正統性を巡って11世紀にカトリックとたもとを分かった東方正教会の精神的支柱であるコンスタンチノープル総主教バルトロメオ1世も参加。イスラエル、パレスチナの聖職者・高官に加え、中東歴訪に同行した旧知のユダヤ教、イスラム教の指導者も出席した。

バチカンの報道官によると、2000年の「大聖年」などの機会に他宗教の指導者がバチカンで祈りの会合を持ったことはあるが、対立する紛争当事者の政治指導者がバチカンで共に祈りをささげた前例はないという。【6月9日 毎日】
******************

法王は外交で決定権は持たないまでも「正義と平和の実現へ世界を導くことはできる」】
もとより、ローマ法王には外交での決定権はありませんし、和平交渉に前向きなペレス大統領も政治的実権はなく、しかも7月末には任期が終了します。

こうしたことから、法王外交によってすぐに何かが変わるという訳でもありません。

****交渉再開に寄与、望み薄****
ペレス氏とアッバス氏は和平プロセスが始まった1993年のオスロ合意以降、ともに和平の実現に向けて尽力してきた。

だが、今のイスラエル政権は、和平に消極的なネタニヤフ氏が率いる右派リクードやパレスチナ国家の樹立に反対する極右政党を含む。パレスチナの暫定統一政府設置後はアッバス氏が「ハマスと手を組み、テロを容認した」と圧力を強めている。

イスラエルの和平推進派を代表するペレス氏に政治的な権限はなく、同氏は7月末の任期切れと共に大統領を退任する見通しだ。

法王の仲介による今回の顔合わせが実際の和平交渉の再開に影響を与える可能性は低い。イスラエル紙ハアレツは「和平への空虚な祈り」と評した。

それでも、ペレス氏が法王の呼びかけに応じたのは、任期が終わる前に、世論に向けて「アッバス氏は和平のパートナー」だと改めて示し、最終的には和平交渉に戻るしか選択肢はないとメッセージを送る狙いがあったとみられる。ペレス氏は行事で「和平が遠くに思われるときも、近くしようとし続けなければならない」と訴えた。【6月10日 朝日】
******************

しかし、アメリカが中東和平交渉を進展させるのに失敗して次の手が全く見えない状況だけに、今回のローマ法王の行動が、中東和平をあきらめ気味の国際環境を刺激し、停滞する交渉を後押しする効果は期待できます。

****ローマ法王、国際政治に影響力=平和や貧困問題で存在感****
フランシスコ・ローマ法王が外交の舞台で目立っている。平和を願い、貧者に寄り添うひたむきな姿勢は人々の心をつかみ、メッセージは世界に響く。
大スター並みの人気を誇る法王には政治指導者が相次いで面会、その存在感は国際政治に影響を及ぼしている。

かつて反共を唱えたヨハネ・パウロ2世が、東西冷戦の終結に重要な役割を演じたように、世界で10億人を超える信者を抱えるカトリックの頂点に立つローマ法王の動向は注目されてきた。フランシスコ法王もその例に漏れない。

「無益な軍事的解決を脇に置くよう切に願う」―。2013年9月にロシアのサンクトペテルブルクで開かれた20カ国・地域(G20)首脳会議。米国が検討していた対シリア空爆が最終的に回避されたのは、討論の途中で読み上げられた法王の書簡が寄与したとされる。

世界の政治指導者や大企業トップが集う今年1月のダボス会議では、「勝ち組」の影で日々の食にも困る「負け組」がいることを忘れてはならないと警告。有力者として米誌タイムの表紙を飾った法王は、異例のメッセージで存在感を示した。

これまでにフランシスコ法王は地元である欧州各国の首脳、オバマ米大統領やロシアのプーチン大統領らと会談。安倍晋三首相も6日に初めて面会した。

米外交専門誌は、法王が外交で決定権は持たないまでも「正義と平和の実現へ世界を導くことはできる」と分析する。【6月9日 時事】 
********************

****ローマ法王:中東和平に存在感 両首脳対面を仲介***
・・・・ローマ・LUMSA大学のボニーニ教授は「従来の力関係や紛争当事者の利害という側面でなく、(宗教という)別の角度から光を当てようとする新たな試みだ」と分析する。

平和祈願の集いが中断している和平交渉の再開に直結するとの見方は少ない。
ペレス氏は任期切れを来月に控え、対パレスチナ強硬路線のネタニヤフ・イスラエル首相は歩み寄りの姿勢を示していないからだ。

ただ、イスラエルには今回の集いがネタニヤフ氏の強硬路線を国際的に孤立化させるとの見方もある。地元メディア「Yネット」は「首相に新たな打撃」との分析記事を掲載した。

イスラム原理主義組織ハマスを「テロ組織」と糾弾する同氏は、自治政府とハマスの統一政府を断固拒否しているが、米欧は既に支持する方針を示しており、今回の集いはむしろネタニヤフ氏の「孤立感」を際立たせたとの見方からだ。【6月9日 毎日】
**************

パレスチナ自治政府側は、今回のローマ法王の行動を評価しており、和平への機運が高まることを期待しています。

****PLO局長:法王の和平祈願「歓迎」 イスラエルを批判****
パレスチナ解放機構(PLO)のエラカト交渉局長は9日、フランシスコ・ローマ法王が8日にバチカンで開いた中東和平祈願の集いを「歴史的な日」と歓迎し、和平機運を高める波及効果に期待を表明した。

一方、ユダヤ人入植地の住宅建設を進める対パレスチナ強硬派のネタニヤフ・イスラエル首相を「和平でなく入植地を選んだ」と批判した。

エラカト氏は、中断しているイスラエルとの和平交渉のパレスチナ側中心人物だ。アッバス・パレスチナ自治政府議長とペレス・イスラエル大統領が法王と共に平和の祈りをささげた8日の集いに参加。
9日のアッバス議長とモゲリーニ・イタリア外相の会談後、ローマで記者団の質問に答えた。

イスラエル政府は、パレスチナ自治政府の主流派ファタハがイスラム原理主義組織ハマスとの統一暫定政府を発足させたことに反発。報復措置として東エルサレムとヨルダン川西岸に約1500戸のユダヤ人住宅を建設する入植計画を発表しており、中断している和平交渉の再開のめどは立っていない。

エラカト氏は中東和平情勢について「親パレスチナか親イスラエルかで陣営が分かれているのではなく、和平支持か和平反対かで分かれている」とし「ネタニヤフ首相は平和ではなく入植地を建設している」と指弾した。

さらに「8日の集いでネタニヤフ首相への圧力が強まるか」との毎日新聞の質問には「圧力うんぬんでなく、和平はイスラエルとパレスチナにとって必要であり、双方にとっての利益なのだ」と答えた。

モゲリーニ外相は、イタリアが欧州連合(EU)の議長国となる7月にイスラエルとパレスチナ自治区を訪れ、和平交渉の再開を後押しする考えを強調した。【6月10日 毎日】
****************

イスラエルを認めないハマスを取り込んだパレスチナ統一暫定政権について、イスラエル・ネタニヤフ首相は認めない姿勢を変えていませんが、EUは3日の声明で「パレスチナの和解の重要な一歩」として新政権支持を表明し、国連も歓迎しています。
また、アメリカ国務省も新政権に協力する意向を示しています。

統一暫定政権発足によって、ようやくパレスチナ側に実効性ある交渉主体が出来たといえます。
イスラエル・ネタニヤフ首相がこの現実に向き合っていくように、EUやアメリカが国際環境を整えていくことが重要でしょう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

タイ  政治混乱・軍事クーデターの背景にある農民や労働者階級と裕福なエリート層との格差問題

2014-06-09 22:40:56 | 東南アジア

(タイ・バンコクで、右手の指3本を掲げてクーデターに抗議するデモの参加者 【6月2日 AFP】)

空腹でも食べることができず、トイレに行きたくても行けない
タイを含めて東南アジアについては、“のんびりした国”といったイメージがあります。
ただ、道路は車やバイクで溢れており、道路を横断するのも、慣れない観光客にとっては命がけのチャレンジにもなります。

乗合バスも乗客で満員で、停留所に近づくと車掌役の男性が身を乗り出して行き先を大声で連呼、客が乗ると外に出ていた男性が車体を叩くなりして運転手に合図し、走り出したバスに飛び乗る・・・といった、慌ただしく騒々しい場面が繰り返されます。

タイ・バンコクでは、個人的には市内移動は三輪タクシー“トゥクトゥク”を使うことが多く、バスに乗る機会はありませんが、女性の車掌さんが乗っているようです。そう言えば水上バスでは、小銭をジャラジャラ鳴らした女性車掌さんが切符を切っていたように思います。

このバンコクの車掌さんの仕事は、トイレに行く時間もない忙しいもののようです。

****大人用おむつ着用しないと働けない・・・・待遇改善求めるタイのバス車掌ら****
タイ首都の交通渋滞に毎日つかまるバスの車掌たちは、トイレ休憩をとれないことの対策として過激な解決方法を見いだした──大人用のおむつだ。

何年にもわたる底堅い経済成長を続けているタイだが、バンコクの肉体労働者たちは、容赦のない都市化と変わらぬ経済格差の最前線に置かれている。

ごみ収集から工場労働、タクシー運転手まで、無秩序に広がった人口1200万人の大都市の機能を維持する職業に就いている人々の多くにとって、賃金上昇は必ずしも生活の向上に結び付かないのだ。

■長時間のおむつ着用で疾患に
交通渋滞がますます悪化する中、車掌たちは老朽化したバスに乗り、熱帯の暑さの中、大気汚染のひどい路上で長時間を過ごしている──トイレ休憩さえとれないことが多い。

尿路感染症になった時、ワッチャリ・ビリヤさんは長時間トイレに行けない対策として大人用おむつをはく以外に選択肢がなかった。

「体を動かした時に不快だった。特に中に尿をしている時に」と、ワッチャリさんは振り返る。
「バスターミナルに到着したらおむつ交換のために走らなければならなかった。1日に最低2枚は使っていた」

ワッチャリさんはその後子宮がんと診断され、手術を受けた。「医師には、清潔でないおむつを着用していたせいだと言われた」

バンコクには地下鉄や高架鉄道が少なく、多くの市民が移動手段としてバスや車、三輪自動車のトゥクトゥク、オートバイに依存しており、中でも自動車を購入する人が税制優遇措置により増えている。

■バンコクの女性車掌の28%が「おむつ」
トイレ休憩の不足に対しておむつ着用という過激な解決方法を選ばざるを得なかったのはワッチャリさんだけではない。最近の調査によればバンコク市内の女性車掌の28%が最大16時間のシフトの間におむつをはいていることが分かった。

調査を行った「女性と男性の進歩的運動基金」のディレクター、ジャディド・チョーウィライ氏は「衝撃を受けた」と語る。
「また女性の多くが尿路感染症や膀胱結石を患っていることも分かった。子宮がんになった女性車掌も多い」

タイの労働者階級と裕福なエリート層との格差問題は、タイの政治危機の要因の一つだ。タイでは反政権デモが数か月間続き、5月22日に軍事クーデターが起きている。

■労働条件の改善を
欧州の労働者と異なり、アジアの労働者はストライキをめったに行わない。またタイでは、国営企業の従業員がストライキを行うことが非合法化されている。

だがバンコクのバス車掌と労働組合は労働条件の改善を求める声を上げ始めている。
「(バス車掌の)労働条件は良くない」と、バンコクのBMTA労組のチュティマ・ブーンジャイ(Chutima Boonjai)氏は語る。BMTA労組はバスの路線沿いやターミナルへのトイレの増設を要求している。
「(バス車掌は)暑い中で長時間勤務しなければならず、空腹でも食べることができず、トイレに行きたくても行けない」

またバスの運転手は、腰痛や痔などの問題も抱えている。「最悪の事例は疲労と暑さによる高血圧やがん、脳卒中だ」と、ブーンジャイ氏は語った。【6月8日 AFP】
*****************

タイの有権者の多くは今、民主主義の果実を味わった。エリートたちにとっては、それがまさに問題なのだ
“タイの労働者階級と裕福なエリート層との格差問題は、タイの政治危機の要因の一つだ。”・・・・農民を含めて“タイの農民や労働者階級と裕福なエリート層との格差問題は、タイの政治危機の最大の原因だ”と言った方がより適格でしょう。

タクシン元首相を支持する勢力と反タクシン派の確執が続き、ついに軍事クーデターとなったタイですが、タクシン派は農民や都市貧困層を支持基盤とし、反タクシン派は既得権益エリート層・バンコク中間層を基盤としています。

選挙を忌避する反タクシン派には、タクシン元首相の施策により政治に影響力を持ち始めた農民や都市貧困層に対する嫌悪感・蔑視があるように思えます。

タクシン元首相には金権腐敗や強権的政治手法の批判があります。また、それまでの国王を頂点とした社会の既得権益層(枢密院・官僚・軍部・司法関係者など)には、国王の権威を冒涜するものと見なされています。

“タクシン氏は、自分自身や取り巻きの会社においしい話を振りまき、腐敗していると広く思われていた。タクシン政権は人権侵害で非難された。恐らく最悪だったのは、多くの人が、タクシン氏の権力掌握と利益供与を国王に対する冒涜と見なしたことだろう。”【6月9日  Financial Times】

一方、“タクシン氏は、かつて社会から取り残されていたタイ北部の巨大な票田に、自分が彼らの利益を代弁しているということを納得させた”【同上】

****タクシン批判の是非****
(タクシン元首相に対する)すべての批判が的外れなわけではない。タクシン氏が直接あるいは傀儡を通じて運営した政権については、嫌悪すべきものがたくさんある。他の多くの未熟な民主主義と同様、法律は権力の乱用や縁故資本主義の導入を防ぐには執行力が弱すぎる。

だが、こうした批判の多くは誤りだ。タクシン氏の政権が、かつての悪名高い一部の軍事政権指導者など、他の多くの政権より腐敗しているかどうかは疑問だ。

タイの民主主義が近隣諸国のそれより程度が悪いとは必ずしも言えない。インドやインドネシア、フィリピンは、とにかく辛抱強く投票を続けている。

タイの政治にはチェック・アンド・バランスが欠けているという考え方も正しくない。それと同じくらい簡単に、タイにはチェック・アンド・バランスが多すぎると主張することもできる。

ここ数年で、3人もの首相が裁判所によって失職させられた。強力なチェックなどというものがあるとすれば、これがそうだろう。

民主主義への嫌悪は、農民が分別を持って投票するとは信用できないという家父長主義的な考え方によるところが大きい。

農民は、誰でもいいから自分たちに最大の賄賂を贈ると約束した人物に投票していると思われているのだ。実際、タクシン氏は施しに対する権利を与えることで人気を得た。

タクシン氏が誠実だったかどうか、あるいは冷ややかな多数派工作をしていただけかどうかは、この際、ほとんど関係がない。

タクシン氏の政策は、旧来の制度が自分たちにとって民主的な意味を持たなかった有権者の琴線に触れた。タイの有権者の多くは今、民主主義の果実を味わった。エリートたちにとっては、それがまさに問題なのだ。【同上】
*****************

タクシン支持派と反タクシン派の争いは階級闘争的な側面があります。

所得格差に対応できていない「中進国の罠」】
そうした対立は、経済成長によって不可避的にもたらされる所得格差、それによる政治的不安定という「中進国の罠」に有効に対応できていないことによるものだとの指摘もあります。

****田中角栄のいないタイと中国は「中進国の罠」を乗り越えられるか****
・・・・タイは「中進国の罠」にはまった。

アジアは1980年頃から奇跡の成長を続けてきたが、ここに来て成長の鈍化が顕著である。その代表がタイと中国だ。両国ともに1人当たりのGDPが5000ドルを超えて、先進国の目安となる1万ドルまで、あと一歩というところに来た。開発途上国の優等生である。

しかし、真に先進国になるためには「中進国の罠」を乗り越えなければならない。アジアにおける「中進国の罠」とは、経済発展に伴い農工間格差が広がり、政治が不安定化することである。

必然的に生まれる都市と農村間の経済格差
経済発展とは、ごく簡単に要約すると、農業が主な産業であった社会から工業やサービスが主体となる社会に変わることに他ならない。その初期においては、サービス業よりも工業の発展が著しい。

工業やサービス業は都市部で発展する。そのために、経済が発展すると都市と農村間の経済格差が広がる。これは必然的に生じる現象である。農村が貧しくなることは政策の失敗ではない。

(中略)
経済を発展させるためには、まずはクーデターがしばしば起こるような政情不安を改めて、しっかりした政権をつくることだ(軍人による開発独裁もOK)。次は外資と技術の導入。

それと同時に、教育の普及も重要である。教育の目的は豊かな人間性を育てることではなく、勤勉な労働者をつくることだ。

明治期の日本も昨今のアジア諸国と同じことを行っているが、国際間の資本移動が限られていた時代に、経済を成長させることは大変だった。明治の日本は「女工哀史」のようなことをやって資本を蓄積する必要があったが、現在は儲かる条件を整えれば外資が勝手にやって来てくれる。

政治を安定させて、低賃金でも文句を言わずに働く労働者を用意することができれば、経済発展はそれほど難しくない。

ただ、経済がある程度発展すると、そこからの発展は難しくなる。それは農工間格差が露わになるためだ。農村は都市のように豊かにならない。

そして、当然のこととして、農村に住む人々に不満がたまる。現在のタイや中国はまさにそのような段階にある。

田中角栄が試みた「農村の工業化」
(中略)
経済発展の意味を正しく理解すれば、必要な施策が「農業・農村の振興」ではなく、「農村の工業化」だと気がつくはずだ。

これを違う言葉で言ったものが、年輩には懐かしい田中角栄の「日本列島改造論」である。これは日本中に新幹線や高速道路を張り巡らせて、日本各地に工業団地を造ろうとしたものであった。

ただ、農村の工業化は成功しなかった。その真の理由は工業製品の需要が、思っているほどには大きくなかったためだ。最初、家にテレビが来たときは嬉しいが、テレビは家に2台程度あれば十分である。国中を工業化するほどの需要はない。

しかし、この田中が推し進めた政策は思わぬ効果を及ぼした。新幹線や高速道路を造るために都市で稼いだお金を地方に回すと、地方に雇用が生まれて、一時的でも地方の疲弊を和らげることができた。
この路線を引き継いだのが竹下登や金丸信が率いた旧田中派であり、それは小沢一郎に続く。

「日本列島改造論」から40年ほどの歳月が流れたが、日本が曲がりなりにもほぼ均一な発展を遂げることができたのは、地方で無駄な公共工事を行ってきたことが大きい。

取り残されている中国とタイの農村
翻ってアジアを見ると、日本が過去に行ったような農工間格差を是正する政策には乏しい。

中国は胡錦濤の時代に「西部大開発」を打ち上げているが、それは沿岸部で稼いでいる連中が西部で資源開発を行って儲けるということでしかなく、地方に住む人々にお金を落とすといった発想に乏しかった。

それはタイも同様である。海外から工業(トヨタ自動車など)を誘致することにより、バンコクは急速に豊かになり、中心部は東京と変わりがない様相を呈するまでになった。

しかし、コメを作っていたタイ農村部は発展から取り残されてしまった。
そして、タイの支配者階層を支持基盤にしているタイ民主党(黄色シャツ)は、マクロな視点から見れば、一貫して農村部に取り残された人々を無視してきた。バンコク周辺だけが経済発展の果実を享受してきたのだ。

そこを突いたのが、「赤シャツ」を率いるタクシン元首相である。
彼はバラマキを約束して農民の支持を集めて首相になった。彼は田中角栄に似ているが、似ていない面も多い。

田中が政権政党の中にいて、バラマキ(直接補助)よりも公共事業という間接補助を行ったのに対して、タクシンとその後継者は格安医療の普及や小学生に無料でパソコンを配るといったようなバラマキ政策を行っている。タクシンの発想は田中角栄よりも日本の民主党に似ている。

タイでは民主的な選挙制度が定着していたために、今回のような事態に発展したが、農民の不満を力で抑え込んでいる中国では不満のマグマが膨らんでいる。

中国共産党は、これまで田中やその後継者が行ったような、格差を是正する政策には熱心ではなかった。そして、それは再び暴力革命が起きるのではないかと言われるまでの状況を作り出してしまった。

現在のタイや中国には、田中および自民党が行った政策が欠けている。
資本主義を擁護する立場にいる自民党が農工間格差是正に熱心に取り組んだのに対して、本来農民の味方であるはずの中国共産党が農工間格差是正に熱心に取り組まなかったことは、現代史のパラドックスである。

タイと中国は「中進国の罠」を抜け出すために、大きな変革が必要な時代に突入した。【6月9日  川島 博之氏 JB PRESS】
******************

歪んだ微笑の国
****タイ:タクシン派が軍政批判「3本指抗議」ネットで広がる****
タイのクーデターに抗議する人々の間で、中指、人さし指、薬指の3本の指を掲げる仕草が、軍事政権への抵抗を示すシンボルとなっている。

米映画「ハンガー・ゲーム」で独裁国家に対する反逆の象徴として使われたジェスチャーで、インターネットを介して広がっている。

5月22日の軍事クーデターでタクシン元首相派政権が崩壊して以降、タクシン派らは軍政による監視網をかいくぐり、各地で抗議デモを続けている。

6月1日に首都バンコクの商業ビルでゲリラ的に行われたデモでは、参加者らが3本の指を掲げて抗議。ネット上でデモを指揮するリーダーは、フェイスブックで「軍や警察の見ていないところで1日3回、3本の指を掲げよう」と呼びかけた。

「ハンガー・ゲーム」で3本の指は、愛する人への感謝と称賛、別れを示すが、タイ軍政への抗議者らは、自由、平等、友愛などの意味を込めているという。

これに対し、軍政を支持する反タクシン派からは「3本の指は『汚職の自由』や『タクシン一族の家族愛』の意味だ」とちゃかしたメッセージが投稿されている。

一方、プラユット陸軍司令官は6日夜に放映されたテレビ番組で、「望むなら家の中で掲げることはできるが、外では掲げるな。命令に反するもので、さらなる問題を生むからだ」と強い不快感を示した。【6月7日 毎日】
*****************

“兵士がごく少人数の抗議者の集会を襲撃する。市民は本を読んだり(『1984年』)、3本指を掲げたりする(『ハンガー・ゲーム』)ことで逮捕される危険に直面する。すべてが恐ろしいほど時代がかっている。タイは歪んだ微笑の国になってしまった。”【6月9日  Financial Times】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

イラク  スンニ派イスラム武装勢力の活動で混乱が拡大  サウジアラビアは路線変更?

2014-06-08 22:43:48 | 中東情勢

(アンバル州の州都ラマディ 5月21日 反政府勢力と治安部隊の戦闘で火災にあった住宅 【6月8日 AFP】)

イラク国内の治安はここ数年で最悪
イラクでは4月30日に行われた連邦議会選挙の結果、マリキ首相が率いるイスラム教シーア派主体の党派「法治国家連合」が92議席(定数328)を獲得して、最多の議席を確保しました。

その他の政党については、シーア派の他の有力2党派が計57議席、スンニ派主体の3党派が計54議席、少数民族クルド人の5党派が計62議席を占めています。

第1党となったマリキ首相派ですが、過半数には届かないため、連立政権の発足に向けてスンニ派やクルド人勢力も含めたほかの政党連合との交渉が行われています。

ただ、マリキ首相については、その強引な政治姿勢について他派からの批判が強く、また、シーア派とスンニ派の宗派間対立が激化している状況では、連立交渉は難航することが予想されます。

その宗派間の対立、スンニ派のイスラム過激派を中心とするテロ活動は激しさを増しています。

****イラクのイスラム武装勢力、大学で学生らを人質に*****
イラクの首都バグダッドの西に位置するアンバル州の州都ラマディで7日、イスラム武装勢力「イラク・レバントのイスラム国(ISIL)」が市内の大学に立てこもり、学生と職員数百人を人質にとったが、特殊部隊の突入で人質は全員解放された。イラク政府が発表した。

地元警察によると、ISILの戦闘員らは、付近のアルタシャ地区からアンバル大学に侵入し、警備員数人を殺害した後、正門に通じる橋を爆破した。

現地のAFP記者によると、特殊部隊が突入してキャンパスを奪還したが、その際に携行式ロケット弾を使用するなど、武装勢力との間で激しい銃撃戦になったという。

アドナン・アサディ内務副大臣は電子メールで声明を発表し、治安部隊は「アンバル大学の学生寮から人質となっていた男女の学生全員を解放」し、出入り口にある検問所は復旧したと述べた。

またサード・マーン内務省報道官はAFPに対し、人質は全員解放されたと述べたが、死傷者については言明しなかった。

イラク北部では、治安部隊とイスラム武装勢力との激しい戦闘が2日目に入り、59人が死亡している。バグダッドでは、相次ぐ爆弾攻撃で少なくとも25人が死亡した。

武装勢力は、この数日間に複数の州で大規模な作戦に乗り出しており、これまでの死者は200人を超える。イラク国内の治安はここ数年で最悪となっており、武装勢力の拡大が浮き彫りになっている。【6月8日 AFP】
******************

国際テロ組織アルカイダから派生し、今ではアルカイダのコントロールも無視して独自の活動を続けるイスラム過激派組織「イラク・レバントのイスラム国(ISIL)」は、イスラム国家の樹立を掲げてイラクからシリアに至る各地を占拠し、世界中の過激派を引き寄せています。

アメリカはシリア反体制派を支援してきましたが、アサド政権が崩壊すれば、今度はシリアがISISなど過激派の拠点になりかねないとの懸念を強めています。

イラクにおいては、スンニ派の多いアンバル州を拠点としています。
“イスラム教スンニ派が大半のアンバル州で昨年末、シーア派のマリキ首相に対するデモが激化。強制排除で死傷者が出たため、治安部隊が事態の沈静化を狙って中心部から引き揚げた隙にISISが入り込み、警察署などを占拠した。4カ月が過ぎた今も奪還のメドは立たない。”【4月30日 朝日】

この事態に、アメリカもイラク支援に乗り出しています。
“米国のオバマ政権は米軍の撤退後、イラクとは距離を置いてきた。だが、ISISが勢力を伸ばしはじめた昨年末に方針を転換。イラクに対して空対地ミサイルやアパッチ攻撃ヘリコプターなどを供与し、米軍特殊部隊も隣国ヨルダンで訓練を始めたとされている。”【同上】

前出【6月8日 AFP】にもあるように、モスルなど北部で治安部隊と戦闘が続いており、首都バグダッドでも連続爆弾テロが起きています。

****バグダッドで連続爆弾テロ 過激派犯行か****
イラクの首都バグダッドでおよそ1時間の間に7か所で連続して爆弾テロがあり、少なくとも20人が死亡し、イスラム教の宗派間の対立をあおろうとする過激派の犯行とみられています。

イラクの治安当局によりますと、バグダッドで7日夜、買い物客でにぎわう市場や交通量の多い大通りなど7か所で、自動車に仕掛けられた爆弾がおよそ1時間の間に相次いで爆発し、これまでに少なくとも20人が死亡し、80人がけがをしました。
爆発があったのは、イスラム教のシーア派の住民が多く暮らす地域で、治安当局は、スンニ派中心の国際テロ組織・アルカイダ系の過激派による犯行とみて捜査しています。

イラクでは、ことし4月に行われた国民議会選挙でシーア派のマリキ首相率いる政党連合が第1勢力となりましたが、スンニ派を中心にマリキ政権は独裁的だと反発が強まっています。

こうした状況のなか、イスラム過激派勢力は宗派対立をさらにあおろうと活動を活発化させていて、7日には北部のモスルでも市街地を占拠する過激派が治安部隊と激しく衝突し双方に多数の死傷者が出るなど、治安の悪化に歯止めがかからない状況が続いています。【6月8日 NHK】
*******************

増加する国内難民 戦闘で支援も困難
宗派間内戦再燃が懸念される状況で、国内難民が増大しています。

****イラクの国内避難民、戦闘激化で48万人近くに UNHCR****
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は6日、イラク西部アンバル州で数か月にわたって続いている戦闘により、自宅を追われた国内難民の数が48万人近くに達した可能性があると明らかにした。

スイス・ジュネーブで記者会見したUNHCRのエイドリアン・エドワーズ広報官は、「イラク政府によると、今年1月に同州での戦闘が激化し始めて以降の国内避難民は、本日(今月6日)現在で約43万4000人に上っている。しかし、イラク当局は1か月ほど前から、不安定な情勢を理由にやむなく避難民の登録受け付けを中止しており、実際の状況は把握できていない」と説明。
「UNHCRは、現在の国内避難民の数は48万人に近いとみている」と述べた。

こうした危機的状況の影響を受けた人たちのため、UNHCRは今年3月から支援を呼び掛ける活動を開始した。しかし、集まった金額はこれまでのところ、必要とされる2640万ドル(約27億円)のわずか12%にとどまっている。

内戦が続く隣国シリアと国境を接するアンバル州では昨年12月、州都ラマディでイスラム教スンニ派のアラブ人が長期にわたって運営してきたデモキャンプを治安部隊が排除。これをきっかけに周辺地域は危機的状況に陥った。

■長期化する戦闘
デモキャンプの排除後、反政府勢力は首都バグダッドに近い同州ファルージャの全域とそのさらに西方のラマディの一部を掌握。その後、戦闘が長期にわたってもなお、砲撃やミサイル攻撃は州内各地で続いており、問題解決の糸口は見えていない。

エドワーズ氏によると、反政府勢力側が州内のダムを破壊した後、国内避難民は急増した。水浸しになったダム周辺の約7万2000人が自宅を離れて避難した。さらに、ダムの破壊によって人々が清潔な水の入手に苦しむことになり、健康リスクが増加。危機は一層拡大した。

「地元当局者によると、この地域には毎日、給水車28台分の飲料水が輸送されているが、これは必要量の半分にすぎない」という。ファルージャでは先ごろ病院と水処理施設が砲撃を受けたため、さらに多くの市民の流出が懸念されている。

しかし、同氏によると、切実に援助を必要とするこれらの人々を支援する取り組みは、戦闘の継続によって妨げられている。

「われわれは緊急に対応を強化する必要に迫られているが、3つの理由によって困難になっている。(その理由とは、)州内の治安悪化により、支援が必要な人々の元への訪問が妨げられていること、人々の避難先が国内各地に及んでいること、支援が不足していることだ」【6月8日 AFP】
*****************

サウジアラビア:イランとの関係修復に動く?】
イラク・シリアの状況を悪化させているイスラム過激派組織「イラク・レバントのイスラム国(ISIL)」のスポンサーはスンニ派の盟主を自任するサウジアラビアだとも言われています。

しかし、サウジアラビアでは、これまでイスラム過激派を支援してきたとも言われているバンダル王子が4月に総合情報庁長官の地位から解任されています。

*****************
今回バンダル王子からシリア反政府勢力「支援」を引き継いだのは、ナエフ内相だとされている。

ところがこのナエフ内相の父親ナエフ王子は、内相を30年以上勤めて国内のアル・カイダ勢力を潰滅させた人物であるばかりでない。2011年12月にはイランのモスレヒ情報相とも会談しているのである。

この(父)ナエフ内相は2012年6月、スイスで79歳で「急死」している。その後を継いだのが、現在のナエフ(息子)内相なのである。アル・カイダとは関係が良くないのだろう。【6月5日 Japan-World Treds】
****************

こうしたサウジアラビア国内の路線変更もあって、シーア派の盟主、宿敵イランとの接触を申し出ているとも報じられています。

****イランと関係改善も=サウジ外相****
サウジアラビアのサウド外相は13日、首都リヤドで記者団に対し、長年緊張状態にあるイランとの関係を改善する用意があると表明した。AFP通信が伝えた。

サウド外相は「イランは隣国であり、彼らと交渉を行う」と述べ、既にザリフ・イラン外相にサウジ訪問を招請したことを明らかにした。【5月13日 時事】 
*************

過激派支援をサウジアラビアが止めて、マリキ政権を支援するイランとも関係改善を図る・・・という話になれば、シリア・イラクの状況にも変化が生まれることも考えられます。

まだ、先行きは不透明な話ではありますが。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

中国  “変わる中国”と“変わらぬ中国” 「内政不干渉」外交と天安門事件再評価

2014-06-07 22:32:54 | 中国

(スーダン・ダルフールにおける国際連合とアフリカ連合が共同で行なっている平和維持活動に参加した技術系の中国部隊  “flickr”より By United Nations Photo https://www.flickr.com/photos/un_photo/5839522737/in/photolist-9U25Ev-9RDtMw-dDsBtN-6jK1Xo-9yEXtc-8Mtvt-cA2Lj5-8MvrVH-8Mywa5-8MywhA-8Myw13-8Mvs54-dDsBEf-996Erj-ajVj5o-iMWx8H-eUpzE-eUqNz-gnf29z-boL8hd-4CRuP8-fNgsrq-fNgsny-fMYSpn-fMYS2M-fMYRzX-fMYRGV-fNgrKd-8cYALy-5zxyYC-a8NUSp-7wKQfA-5ndT2P-8cVhGp-8cYAXu-8cYASW-8cVhCD-8cYAWd-gBSZ4T-951stb-5cUwSf-7JGZiU-94XpNF-951sxd-94XpSK-94XpRp-951suG-7JTXb7-9ukCkW-dVzM58)

南スーダン和平交渉に積極関与
中国の国際支援については、“人権侵害が行われている国においても「内政不干渉」の立場からこれを問題視せず、手当たり次第に資源確保に走っている”との批判や“地元の雇用につながらない”といった批判があります。

こうした批判は誤解に基づいている部分が多いとの指摘もあることは、5月12日ブログ“中国李克強首相のアフリカ歴訪で拡大する鉄道建設支援  中国の国際支援に関する「誤解」と問題”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140512)で取り上げたことがあります。

ただ、いずれにしても中国外交は「内政不干渉」を建前として、よその国の紛争や人権侵害には関与しないという、ある意味では非常に無責任な対応に終始しているという感はあります。

それは、中国国内に多くの非民主的な問題、人権侵害を抱えており、それらについて欧米から批判されたくないという保身と裏腹の関係です。

しかし、世界各地において中国の関与が大きくなるにつれ、自国権益を守るためにもそうした無責任な対応ばかりも取ってはいられない・・・という面も出てきているようです。

その1例が内戦が続く南スーダンで、大きな石油権益を有する中国が停戦に向けて深く関与し、武器売却を中止をしたそうです。

****中国が「内政不干渉」の原則転換、アフリカ権益保護強化で****
中国は南スーダンの石油産業への最大の出資国だが、その投資を脅かす政府軍と反政府勢力との5カ月以上にわたる戦闘を収束させるため、これまでにない外交アプローチに出ている。

その微妙な変化は、エチオピアの首都アディスアベバで数カ月間行われた和平交渉で顕著に表れている。
複数の外交官は、中国が常に交渉に関与し、南スーダンの支援国である米国、英国、ノルウェーと協議している様子などに、中国のより積極的な姿勢が見て取れると話す。

戦闘開始から1カ月がたった今年1月23日に最初の停戦合意が成立した時、中国の解暁岩・駐エチオピア大使は各国代表団とともに署名の場でスピーチし、中国の関与を印象付けた。

こうした新しい方針は、中国がアフリカの内政に立ち入らないという従来の政策を放棄したというわけではなく、投資拡大とともに利害関係も増える中で、中国が政策を徐々に変更しつつあることを示している。

アフリカ最大の貿易相手国となった今、中国は経済的利益が増大する他のアフリカ地域にも、その新たなアプローチを広げる圧力に直面する可能性もある。

国際政治リスク分析を専門とするコンサルティング会社「ユーラシア・グループ」のアナリスト、クレア・アレンソン氏は、中国が「こうした国々にかなり重要な資産を有し、それらを守る必要が出てきた」と指摘。「内政不干渉のスタンスは維持したいのはやまやまだろうが、思い通りにはいっていない」と分析する。

今のところ、南スーダンには中国が積極的外交を展開する例外的な状況がある。

南スーダンの原油生産がフル稼働した場合、同国からの原油購入は中国の総輸入量の5%に上っていた。また、中国石油天然ガス集団(CNPC)は、ジョイントベンチャーで開発する南スーダンの油田に40%の権益を有している。

原油収入が南スーダンの歳入に占める割合は約98%。米英、ノルウェーは同国の最大の支援国でありながら、原油生産の権益は持っていない。

<平和維持活動>
こうした背景を受け、中国はキール大統領と反政府勢力を率いるマシャール前副大統領の双方に話し合いを要請。 さらに、駐南スーダン大使の馬強氏は双方が衝突した昨年12月15日の直後、政府軍であるスーダン人民解放軍(SPLA)の司令官に対し、武器交渉を中止すると通告した。

東アフリカ諸国の地域機構「政府間開発機構(IGAD)」を中心とした調停に関与した複数の西側高官は、中国が武器売却中止を決断したことは知らなかったとし、政策転換があったのは疑いないと見る。

ある外交関係者は、「中国は明らかに外交を強化しており、今やより積極的で対応も迅速だ」と話す。
この関係者は、南スーダンがスーダンから独立した翌年の2012年に起きた両国間の衝突に、中国が政策を転換する最初の兆しがあったという。

15カ月続いた衝突を収束させるには、中国の役割が不可欠と見られていた。この問題で、南スーダンの原油生産はストップし、事態は戦争の瀬戸際にまで達した。

この外交関係者は、「この2年で明らかな進展があった」と語る。
南スーダンの原油生産は現在、政府側と反政府勢力が衝突する前の昨年12月の3分の1の水準で推移し、生産量は1日当たり約16万5000バレル。中国人労働者が避難した油田もある。

こうした状況が中国を動かした。中国は衝突当初から積極的な役割を担うと表明。ただ、その対応がどう変わるのかについてははっきりと示さなかった。

中国のアフリカ特使である鐘建華氏は2月、こうした政策が同国にとって新たなチャレンジだとし、「われわれにとって未知のことなので、物事は常に慎重に進めている。私たちは単に参加するだけでなく、学びもしている」と話した。

中国の新たな動きは他にもある。国連の平和維持活動(PKO)のエルベ・ラドゥス局長は、中国がスーダンのPKO活動に兵士を大規模派遣する計画だと明かす。
国連によると、派遣されるのは約850人の歩兵大隊で、中国が同大隊をPKO活動に送るのは初めてとなる。

<直接介入>
南スーダンでは1月の停戦が合意直後に破られ、5月に再び停戦が成立。中国は、この2度目の停戦に違反がないかチェックするIGAD提唱の監視体制にも100万ドル以上拠出している。

馬・駐南スーダン大使は、首都ジュバの大使館で中国の役割についてパソコンを使ってプレゼンテーションしながらこう語る。「南スーダンには大きな利害関係を有していることから、戦闘停止と停戦合意に向けて双方を説得すべく、これまで以上の努力をする必要がある」。

中国による直接的な介入の一例としては、国連が1万5000人規模の避難民キャンプを移設することを、馬大使が南スーダン政府に受け入れさせたことが挙げられる。そこでは、ヌエル族の多くの避難民が洪水の危険に直面していた。

南スーダン政府は当初、移設に反対した上にキャンプを取り壊そうとしていた。しかし、馬大使との協議の結果、中国の国営石油会社がキャンプ新設に約200万ドルを拠出することになり、方針を変更した。

国連のヒルデ・ジョンソン南スーダン担当国連事務総長特別代表は、中国のこうした対応について「非常に大きな助けになった」と話す。

南スーダンの衝突では少なくとも1万人が死亡し、130万人以上が避難を余儀なくされている。戦闘の背景には、キール大統領が属するディンカ族とマシャール前副大統領のヌエル族との民族対立がある。

この対立は、中央アフリカ共和国やコンゴ民主共和国など、既に紛争を抱える周辺地域に新たな衝撃波をもたらした。中国のアプローチは、新たな衝突が難民流出や経済成長の妨げにつながるかもしれないと懸念する周辺諸国からも歓迎されている。

ケニヤのケニヤッタ大統領は、中国の李克強首相が5月にナイロビを訪れた際、「(中国は)政治的、外交的、財政的に大きな資産を有しており、うまく利用すれば、地域の平和と安全を変革させることになる」と持ち上げた。

李首相はアフリカ歴訪中、アフリカ諸国の内政に干渉するつもりはないという中国政府の原則を繰り返したが、一方で支援拡大を約束し、新たな開発計画の契約にも署名した。

中国が外交的に積極的になれば、これまで治安維持で欧米に依存してきたアフリカに、政治的な釣り合いが生まれると歓迎する声も一部にはある。

キール大統領派の部隊を支援するために南スーダンに部隊を派遣し、西側から非難を受けたウガンダ。
その当局者は「中国がアフリカに関与している今、西側は中国の助けを借りてわれわれを人質に取ることはもはやできない」と話す。

南スーダンのベンジャミン外相は、中国がアフリカでけん引力を増していると認め、その背景として国連安全保障理事会における中国のアフリカ支援があると指摘。
「これにより、中国がアフリカで尊敬を得ている。そして、彼らが私たちのもとに来れば、こちらもその話を聞こうとする」と、そのつながりを強調した。【6月7日 Newsweek】
*****************

今のところは、あくまでも自国権益を守るための介入・関与であり、人権・民主化、あるいは紛争による犠牲の軽減といった価値観に基づくものではないようです。

まあ、その点においては欧米諸国も似たり寄ったりの部分はあります。欧米外交もきれいごとだけで動いている訳でもないでしょう。

中国経済の世界各地での影響力が大きくなるにつれ、世界の平和や秩序の維持が結局のところ自国の利益にもなるということから、中国が世界の平和・秩序維持にこれまで以上に積極的になるのであれば、それはよろこばしいことでしょう。

【「一党独裁体制をやめるという決心がなければ、天安門事件の見直しは残念ながら、ない」】
しかし、欧米的価値観と大きく異なる、非民主的な一党独裁という根幹部分においては、変化は期待できないようです。

天安門事件から25年を迎え、習近平政権の人権・民主化活動家らへの締め付けがこれまでになく強化され、事件の再評価という期待は遠のいています。

参考:6月1日ブログ“各地で噴出す形骸化した代議制民主主義への怒り そもそも民主主義が存在しない中国で天安門事件から25年”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140601

****打ち砕かれた希望「天安門事件の見直し」 活動家らを次々と拘束****
2014年6月7日(土)19:36
中国で民主化運動が弾圧された1989年の天安門事件が4日で25年を迎えた。

習近平(しゅうきんぺい)政権は事件の再評価を求める動きを広がることを警戒し、全国で事件の遺族や人権、民主化活動家らを次々と拘束し、その数はすでに100人を超えたといわれ、近年で最も厳しい強い締め付けを行っている。

習政権が発足した直後、「弾圧に関わっていない新しい指導部が党の負の遺産を清算してくれる」と関係者の間で期待されたが、その希望が打ち砕かれた。

 ■例年以上の締め付け
(中略)
しかし、今年は例年と違った。北京市警察当局は4月末から5月初めにかけて、事件の遺族の多くを北京市以外の都市に連行したほか、外国人記者らと普段連絡を取っている民主活動家、人権派弁護士らを拘束した。米国に拠点を持つ人権団体の統計によると、拘束者は100人を超えたという。

遺族らが毎年発表する声明文も今年は当局の妨害を受け、発表できなかったという。外国メディアに対する取材妨害も近年で最も激しく、事前に関係者と会っただけで拘束された外国メディア関係者も複数いた。

「習近平体制の下で事件の見直しが進むと期待したのに、逆に締め付けが厳しくなった」
多くの遺族が落胆した。

 ■期待抱かせた新指導部
2012年11月に習近平体制が発足した直後、遺族たちが高い期待を寄せたのには、それなりに理由があった。

新政権の最高指導部(中国共産党中央政治局常務委員)のメンバー7人は事件当時、ほとんど課長、局長級の地方幹部だったため、武力弾圧との関わりはない。事件の責任者を追及しても、彼ら自身にその責任が及ぶことはないわけだ。

習近平国家主席(61)の父親で、党長老だった習仲勲(しゅうちゅうくん)氏(1913~2002年)は事件当時、全人代常務副委員長(国会副議長)を務めていたが、学生に同情的な言動を取ったため最高実力者の●(=登におおざと)小平(とうしょうへい)氏(1904~97年)に嫌われ、権力中枢から追われたことはよく知られている。

また、現政権ナンバー2の李克強(りこくきょう)首相(58)は、党の下部組織で長年、青少年教育の仕事を担当し、天安門広場に陣取った多くの学生リーダーとも交流があった。事件当初、大学生らのデモに理解を示していたともいわれる。

「習主席と李首相が協力して、共産党の負の遺産を清算してくれるに違いない」。そんな希望的観測が関係者の間で流れるのはたやすいことだった。

習政権が1989年の武力弾圧について謝罪すれば、国内外で高い評価を受けるのは間違いなく、政権にもプラスになるだろう-多くの人がそう考えたのだ。

 ■再評価を拒む3つの理由
しかし、習政権は天安門事件を再評価するどころか、胡錦濤(こきんとう)前政権よりも厳しい姿勢をとった。その理由として、改革派の党古参幹部は以下の3つを挙げる。

 (1)天安門事件について謝罪すれば、民主化を求める大学生らの主張を認めることになる。習氏本人もその家族も、共産党一党独裁政権の恩恵を受けた特権階級であり、そもそも民主化を受け入れるはずがない。

 (2)習主席は保守派と軍に主な支持基盤を持つ。江沢民(こうたくみん)氏(87)、李鵬(りほう)氏(85)ら天安門事件当時の指導者の支援をも受けている。事件を見直せば、長老や軍の反発は必至で、習氏の支持基盤の弱体化につながりかねない。

 (3)党が持つ負の遺産は天安門事件だけではない。反右派闘争、大躍進、文化大革命、少数民族弾圧など数多い。1つについて謝罪すれば他のことに必ず飛び火し、ドミノ現象のようなことが起き、共産党の歴史が全部否定されかねない-。

 この古参幹部は「一党独裁体制をやめるという決心がなければ、天安門事件の見直しは残念ながら、ない」と言い切った。【6月7日 産経】
*******************

6月1日ブログで、「天安門事件を再評価し、当時の共産党政権の対応の間違いを明らかにすることなしに、中国の民主化はあり得ません」と書きましたが、それは「一党独裁体制をやめるという決心がなければ、天安門事件の見直しは残念ながら、ない」ということでもあり、政権内部からの変革は期待できません。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

フランス  ノルマンディー上陸作戦から70年 連合国爆撃による市民犠牲者に対する国家追悼式も

2014-06-06 22:14:04 | 欧州情勢

(連合軍の空襲を受け、完全に破壊されたノルマンディー近くの街、サン=ロー 当然に多くの犠牲者が出ています。写真は【2012年6月6日 デイリー・ニュース・エイジェンシー】http://dailynewsagency.com/2012/06/06/before-and-after-d-day-rare-color-xt8/

ウクライナ問題関係国首脳の言動に集まる注目
第2次世界大戦のノルマンディー上陸作戦と言えば、ナチス・ドイツに占領されていた欧州において、アメリカを中心とする連合国側が反攻を開始し、連合国勝利への道を開いた輝かしい作戦として有名です。

映画「史上最大の作戦」「プライベート・ライアン」などによって、日本でもなじみが深い作戦でもあります。

そのノルマンディー上陸作戦から70年、フランスでは記念式典が開催されていますが、ロシア・プーチン大統領、アメリカ・オバマ大統領、ウクライナ・ポロシェンコ次期大統領も出席するため、欧州情勢の懸案事項となっているウクライナをめぐる何らかの動きがあるかどうかが大きな注目を集めています。

****ノルマンディー上陸作戦70年で式典****
第2次世界大戦のノルマンディー上陸作戦から70年を記念して開かれた式典で、アメリカのオバマ大統領は「この勝利が後世の安全保障を形づくり、民主化の動きを広めた」と述べるとともに、自由のために戦うアメリカの姿勢は変わらないと強調しました。

ノルマンディー上陸作戦は第2次世界大戦中の1944年6月6日、アメリカ軍を主体とする連合軍がナチスドイツに占領されていたフランス北西部のノルマンディーの海岸から上陸したもので、70年となる6日午前、日本時間6日午後6時ごろから、フランスとアメリカによる記念式典が開かれました。

この中で、オバマ大統領は「ノルマンディーは、民主主義の足がかりとなった。われわれの勝利は、20世紀を決定づけただけでなく、後世の安全保障を形づくった」と評価しました。

そのうえで、「われわれは、かつての敵を新しい同盟国に変えるために取り組み、新たな繁栄を築いた。この70年、民主化の動きが広がった」と述べ、連合国側の勝利をたたえるとともに、自由のために戦うアメリカの姿勢は変わらないと強調しました。

このあと、現地では、オランド大統領主催による昼食会やアメリカとフランス以外の国々も参加する全体の記念式典が開かれ、ロシアのプーチン大統領やウクライナのポロシェンコ次期大統領も出席する予定です。

この機会にウクライナ情勢を巡って対立するオバマ大統領とプーチン大統領がことばを交わし、事態打開のきっかけにつながるのかどうかが注目されます。

ノルマンディー上陸作戦とは
ノルマンディー上陸作戦は第2次世界大戦中の1944年6月6日、アメリカ軍を主体とする連合軍が、ナチスドイツに占領されていたフランス北西部のノルマンディーの海岸から上陸したものです。

作戦の記録を伝えるイギリスの博物館によりますと、この日に上陸した兵士はおよそ15万6000人で、連合国側が勝利する大きな転機となった史上最大の作戦といわれています。

また、10年前の2004年に行われた60周年の記念式典では、ロシアが初めて招かれてプーチン大統領が出席し、連合国の一員としてのロシアと欧米の結束を確認する象徴的な場となったいきさつもあります。【6月6日 NHK】
*****************

ウクライナを巡る関係国首脳間の動きについては、フランス・オランド大統領主催の夕食会が、オバマ大統領用とプーチン大統領用で時間をずらして別々に開かれるとか、“(イギリス・ロシア)両首脳は会談冒頭で握手をしなかったが、報道官はテレビカメラがいないところで握手したと述べた。”【6月6日 毎日】というように、非常に慎重な扱いになっています。

日中韓首脳が、立ち話したとか、握手したとか、しなかったとかが大きな話題となるのと同じです。

今後、対立を深めているプーチン大統領とオバマ大統領がことばを交わす機会があるのか、更には、プーチン大統領とウクライナ・ポロシェンコ次期大統領の会談が実現するのか・・・注目されています。

ノルマンディー地方の死亡者は約2万人に上り、約6割が空爆による犠牲者だった
そうしたウクライナ関連はともかく、ノルマンディー上陸作戦の本来の話でも、注目されることがあります。

ノルマンディー上陸作戦では、連合国側・ドイツ側双方に多大な戦死者が出ていますが、民間人犠牲者も多く出ており、しかも、その多くは連合国側の爆撃によるものでした。

****ノルマンディー上陸70周年:初の仏国家追悼 犠牲2万人****
ノルマンディー上陸作戦70周年記念式典で、連合国軍の爆撃などで死亡したフランス民間人約2万人に対する戦後初の仏国家追悼式が6日、カーン市の平和記念館で行われた。

戦後、連合国軍、独軍の犠牲にのみ焦点が当たり、民間人の正確な被害は不明だった。1990年代以降に本格的な研究が行われ、ようやく国家式典という形で結実した。

式典に出席したオランド大統領は「戦いは市民の戦いでもあった。今日ここにフランス国家として、兵士とともに全ての市民に哀悼を表す」と述べた。

上陸作戦では最初の2日間の連合国軍による市街地への空爆だけで、同地方のカーン、サンローなどの都市は大部分が破壊された。

90年代以降に多面的に歴史を捉え直す機運が高まり、地元カーン大学で民間人死亡者数の集計調査が行われた。

その結果、上陸開始後約2カ月半の戦闘で、ノルマンディー地方の死亡者は約2万人に上り、約6割が空爆による犠牲者だったと算出された。

同時期の米軍の死亡者約2万4000人に近い被害だった。戦後の研究で、市街地爆撃は、連合国軍が独軍の援軍の行路を阻み、補給や通信を断つため計画的に実施したことも明らかになっている。【6月6日 毎日】
**************

映画「史上最大の作戦」でも、連合国側の空爆が開始されると、降り注ぐ爆弾の中で地元ノルマンディー住民が連合国の反攻を喜び旗を打ち振る・・・といったシーンがあったように記憶しています。

しかし、その連合国側の爆撃で1万人以上の住民が犠牲になったこと、そうした民間人犠牲もいとわず連合国側が攻撃を行ったということは、記憶すべき歴史の真実でしょう。

いまでこそ“ピンポイント爆撃”とか言われるようになっていますが、日本でも広島・長崎があり、東京をはじめとする各地の空襲があり、その後のベトナムでもナパーム爆弾で村ごと焼き払うような攻撃もあり・・・・ついこの前までは、そうしたものが戦争の実態でした。

人権意識が高いフランスにあっても、自国の戦争の在り様・犠牲者を直視するには時間を要したようです。

罪もない人々の人生を破壊する戦争の恐ろしさと愚かしさ
戦争の傷跡としては、以下のような記事も。
ナチス・ドイツによる被害は、執拗に記憶にとどめられています。

****フランスが忘れない虐殺の記憶****
ナチス親衛隊に皆殺しされた村を廃墟のまま保存し続ける意味

(中略)フランスでは、ノルマンディー以外にも戦争の記憶を今に伝える場所が少なくない。なかでも象徴的なのが、フランス中南部のリムーザン地方のオラドゥール・シュル・グラヌ村。ナチス親衛隊による大虐殺の舞台となった村だ。

ノルマンディー上陸作戦直後の1944年6月10日、フランスのレジスタンス組織によるナチス司令官誘拐計画への報復としてナチス親衛隊がオラドゥール・シュル・グラヌ村を襲撃し、男性を次々に銃殺。

500人ほどの女性と子供が逃げ込んだ教会には火が放たれ、子供1人を除く全員が焼け死んだ。村はすべて焼き払われ、犠牲者642人の大半は身元さえ判別できなかった。   当時、亡命政府を率いていたシャルル・ド・ゴールは、ナチスの蛮行を後世に伝えるため、破壊された村を再建しないことを決めた。

おかげで村は今も廃墟同然の状態で保存されており、近隣には虐殺の際に住民が身に着けていたものなどを展示する博物館もある。

昨年夏にはドイツのガウク大統領がオランド仏大統領とともに村を訪れ、虐殺を生き延びた数少ない村民と面会した。さらに今年1月にはドイツの検察当局が、虐殺に加わった元ナチス親衛隊の男(88)を起訴している。  オラドゥール・シュル・グラヌ村を訪れる人は年間13万人。フランスでは、こうした「戦争ツーリズム」が一大産業となっている面もある。

ノルマンディー上陸70周年の今年は特に盛り上がりをみせており、観光客数は推定6割増。第一次大戦最大の激戦地となったフランス北部のソンムや、ノルマンディー上陸作戦の舞台オマハ・ビーチも、オラドゥール・シュル・グラヌをはるかに上回る数の観光客を集めている。

もっとも、こうした歴史的な場所を訪れなくても、フランスでは至る所で戦争の傷跡が感じられる。どの町や村もナチスの占領という暗い過去を経験しており、身内を亡くした国民も多い。

欧州の他の国々にも惨劇の舞台となり、その後、悲しい歴史を風化させない役割を担うようになった場所は多くある。アウシュビッツやダッハウのユダヤ人強制収容所、第一次大戦中に毒ガスを使った激戦の舞台となり、充実した戦争博物館をもつベルギーのイーペル......。

ド・ゴールが望んだように、こうした場所は罪もない人々の人生を破壊する戦争の恐ろしさと愚かしさを、今も世界に訴え続けている。【6月5日 Newsweek】
************

もっとも、戦争の傷跡はそうした記念館などでなくても、心ならずも残存しているものもあります。

一般市民を巻き込んだ近代戦の先駆けであり、欧州に甚大な被害をもたらした第1次世界大戦と言うと、日本では歴史の遥か彼方の出来事のようにも思えますが、ベルギーでは今も当時の化学兵器処理が続いているそうです。

****ベルギー:第一次大戦の化学兵器、今も処理****
化学兵器禁止機関(OPCW)へのノーベル平和賞授賞が決まったのを機にベルギー国防省は、同国西部で第一次世界大戦時の化学兵器を処理している施設を毎日新聞など一部報道機関に公開した。

第一次大戦の開戦から来年で100年を迎えるが、今なお年間2500発の化学兵器が確認されている。住民は「ここでは化学兵器を使った戦争が、今も暮らしに影響を与えている」と語る。

ベルギー西部の村プルキャペルにある約280ヘクタールの森に処理施設が点在する。倉庫には化学兵器とみられる赤くさびた砲弾が無造作に並ぶ。「触らないで」。担当者が叫んだ。大戦末期、資源の尽きたドイツが粗末な素材を使ったため、中身の漏れる事故が年間40件は起きているからだ。

周辺は、第一次大戦で英露仏などの「連合国」と、独、オーストリアなどの「同盟国」の戦闘が行き詰まり、両者がざんごう戦で計約14億発の砲弾を撃ち合った。
このため、今も農作業中などに砲弾が大量に見つかる。

化学兵器は全体の約4.5%、6600万発が発射されたが、不発率も30%程度と高く、100年近くたった今も年2500発、重量で7トン以上が確認されている。大半は英独軍のものだ。

砲弾はマスタードガス弾など67種類もある。中身をエックス線で確認し、化学兵器の場合、特別な処理に移る。中身が取り出せる種類の砲弾なら、分解して毒液を処理業者に委託する。

分解しにくい場合、密閉空間で安全に爆破する炉を使って処理する。現在は機器の入れ替えで処理は中断しているが、テストで動かした爆破処理のごう音が森に響いた。

ベルギーは1980年代まで見つかった化学兵器を海中投棄していたが、処理技術が確立されたため99年から本格的処理に取り組み、1万8000発の化学兵器を廃棄した。

しかし、いつ終了するか先は見えない状況だという。化学兵器禁止条約は第一次大戦での化学兵器の処理は対象にしておらず、各国の自主的な取り組みに任されている。

フランスでも大量の砲弾が見つかるが、手付かずだという。【2013年12月12日】
******************

正しい歴史認識というのは、自国に都合のいい歴史を我田引水するのではなく、ノルマンディー上陸作戦における連合国爆撃による地元市民の多大な犠牲、ナチス・ドイツの虐殺の爪痕、今もベルギー・フランスに残る第1次大戦当時の化学兵器・・・・こうした事実を直視し、再び同じような悲劇が起きないようにする誓いを新たにすることでしょう。

式典出席首脳がそうした歴史認識に立てば、ウクライナで衝突が起こることもないはずですが。



【追記】
“仏大統領府によると、オランド仏大統領の仲介でロシアのプーチン大統領とウクライナのポロシェンコ次期大統領が対話したという”“タス通信によると、昼食会前や記念撮影後にプーチン、オバマ、メルケルの3氏が談笑する場面もあったという”【6月6日 毎日】とのことです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

シリア  出口が見いだせない反政府勢力・欧米支援国 その陰で続く難民女性の犠牲

2014-06-05 23:19:47 | 中東情勢

(シリア難民キャンプの少女 “flickr”より By UNHCR UN Refugee https://www.flickr.com/photos/unhcr/11219260643/in/photolist-eGVnnE-ggdn9z-eGVnDE-i6pDjk-jYCh1E-f5ZyHD-eGVnNC-eGVnGU-eGVniE-eGVnyb-eGVn8E-nAxnmu-fDvBBk-kMzegB-eGVnKh-eGVnbU-eGPg9M-eGPgtR-fZtQZi-fZtSct-dWF56m-hUUK4e-m2r3pg-gW5gp9-74g825-j2Lq1k-fPUJjC-nq9nyk-boBfbN-irBrCa-eQK8oq-i2oXx3-ipbkcg-i2oriV-7QAEWh-i2oPsA-mHG3c3-7QAEBj-boBBNj-7QxkMX-i2pdau-dakvLT-k1stiP-i2oURk-dgC8ER-i2puqo-fZtbkq-fZtyDq-fZthja-fZteni)

膠着した内戦の構図
内戦が続くシリアの大統領選挙は、“選挙にはアサド氏のほか、人民議会(国会)のハジャル議員と市民団体代表のヌリ氏が出馬した。しかし、2人は選挙戦を演出するための「見せかけの候補者」(シリア専門家)との見方が強く、アサド氏の勝利が約束された選挙となった”【6月3日 時事】という状況で、欧米が認めないアサド大統領が予定通り圧勝で3選を果たしています。任期は7年です。

****シリア大統領選、アサド氏が3選…得票率88%****
シリア国営通信は4日、内戦下のシリアで行われた任期満了(1期7年)に伴う大統領選(3日)で、3選を目指すアサド大統領(48)が得票率88・7%で当選したと報じた。

国会議長がアサド氏勝利を宣言した。アサド氏退陣を対話の前提条件としていた反体制派との和平交渉は一段と困難になった。【6月5日 読売】
*****************

シリアの大統領選はこれまで、支配政党のバース党が選出した候補を国民の信任投票で承認する方式がとられていましたが、内戦発生後の2012年に政権による「政治改革」の一環として行われた憲法改正で、複数候補の出馬が可能となっており、今回が改革後の初めての選挙です。

しかし、投票が政権側の支配地域でのみ行われ、反体制派を支持する市民は事実上閉め出されています。
また、300万人超とされるシリア難民の大部分は有権者リストに登録されていません。在外の反体制派指導者らにも出馬資格が与えられていません。

この選挙を“茶番”(米国務省のサキ報道官)と批判する反政府側とこれを支援する欧米ですが、戦局はアサド政権側に有利に進んでおり、一方で反政府側はイスラム過激派が勢力を強めて分裂状態となっている・・・・という状況で、“アサド抜き”を目指してはいるものの、出口を見いだせないのが実情です。

****シリア情勢:米、アサド氏なしの移行政権目指す****
米国はシリア大統領選挙について「民主主義の見せかけ」(サキ国務省報道官)と受け入れない立場をすでに表明。国連の仲介によるジュネーブ合意に基づきアサド氏なしの「移行政権」実現を目指す。

アサド氏は選挙結果を受けて「民意」を盾に正統性を強調するとみられる。米国を中心に支援国会合などで対応を協議しているが、出口は全く見えないのが現状だ。

シリアへの軍事関与に極めて消極的だったオバマ政権が、訓練実施など間接的ながら軍事分野での支援拡大に向かいつつある。

オバマ大統領も先月28日の演説でシリア反体制派への支援拡大を明言。今後、米当局が身元を確認した反体制派要員に対し、米軍が訓練や装備の提供を行う計画だ。すでに米中央情報局(CIA)が第三国で実施しているとされるプログラムの拡大版と言われる。

支援拡大の背景には、内戦での反体制派の退潮がある。装備・実戦経験に勝る外国から流入したイスラム過激派勢力が勢力を拡大し、反体制穏健派と「仲間割れ」するなど混乱が起きている。

現状は反体制派にとって「極めて悪い」(米議会に近い中東専門家)状況で、軍事的に優勢なアサド政権側を「政治的な選択」に向かわせることが困難だとの判断があると見られる。

ただ、オバマ政権としては移行政府樹立など最終的な「政治的解決」を求める姿勢に変化は無い。イラク、アフガン戦争を経て海外での軍事作戦への米軍関与に後ろ向きの米世論もあり、装備供与が雪だるま式に拡大したり、米軍の大規模派遣が行われたりする可能性も極めて考えにくい。

「シリアの危機は投票箱を通じてこそ、解決される」。イランのザリフ外相は1日、首都テヘランで開かれたアサド政権の友好国による国際会議で、3選が濃厚なアサド大統領への支援を続ける考えを示した。

イランの影響下にある武装組織ヒズボラの拠点レバノンや、最大の敵国イスラエルと隣接するシリアは戦略上の要衝で、アサド政権とも友好関係を保ってきた。

ヒズボラ参戦の見返りに、アサド政権が保有する弾道ミサイルがヒズボラに提供されるとの密約もささやかれ、移送中のミサイルを狙ったとみられるイスラエルの攻撃もたびたび起きている。

ただイランは、経済制裁の解除を狙って、核協議などで米欧との協調路線を模索している。専門家の中には少数意見だが「米欧との関係改善の障壁になるようであれば、イランがアサド政権を見捨てる可能性も否定できない」と指摘する声も出ている。

一方、反体制派支援国には温度差が出てきている。サウジアラビアやカタールなどイスラム教スンニ派王家が統治する湾岸諸国は、シーア派国家イランの影響力拡大を懸念し、反体制派への支援を続けている。【6月5日 毎日】
******************

軍事的に有利に立っていることで自信を深めるアサド政権、分裂する反政府勢力、穏健派を支援するアメリカなど欧米、アサド政権を支援するシーア派のイラン・ヒズボラ、これに対抗して反政府勢力を支援するスンニ派のサウジアラビアなどの湾岸諸国という構図が膠着しています。

シリア北部では最近、軍事的に劣勢になっている反体制派が地下にトンネルを掘って爆弾を仕掛ける「トンネル爆弾」による攻撃が相次いでいます。

****シリア 大統領選前に大規模爆発****
内戦が続くなか、今週、大統領選挙の投票が行われるシリアで、政府軍の拠点を狙った大規模な爆発があり、選挙を前に抵抗を続ける反政府勢力と政府軍の攻防が激しさを増しています。

シリア北部の主要都市アレッポで31日、旧市街にある政府軍の拠点を狙った大規模な爆発がありました。反政府勢力側が撮影し、インターネット上に掲載した爆発の瞬間とされる映像では、大きな爆発音と共に数十メートルの高さまで煙などが立ち上る様子が確認できます。

この爆発について、反政府勢力側のイスラム武装組織は、政府軍の拠点まで地下にトンネルを掘って近づき爆弾を仕掛けたと表明し、政府軍の兵士少なくとも40人を殺害したと主張しています。

政府側はアサド大統領が再選されることで政権の正統性を内外に誇示するものとみられます。

これに対し、選挙の実施を認めない反政府勢力側は、地下道を使った爆弾攻撃や迫撃砲による都市部の爆撃などで抵抗を試みていて、選挙を前に双方の攻防が激しさを増しています。【6月1日 NHK】
***************

政権側も地下トンネルに爆弾付の監視カメラを設置して反政府派の攻撃に対抗するなど、地上が廃墟と化した街の地下トンネルでの攻防が行われています。

地下トンネルによる攻撃は、政権側の支配がいまだ十分でないことを示す効果がありますが、ただ、それによって戦局が大きく変わることもないようにも思えます。
アレッポなどで、そうした“地下トンネル”を使った抵抗しかできない状況に追い込まれつつある反政府側の苦境を示すもののようにも思えます。

売られるシリア難民少女 売春を強いられる難民女性
内戦が続くなかで、大勢の難民が国内外で発生していることは周知のところですが、生活基盤のない難民の暮らしが厳しいものであろうことは、ちょっと考えだけでも容易に想像できます。
そして、厳しい生活のしわ寄せは、弱い立場の女性に回ってきます。

****花嫁として売られるシリアの少女たち****
難民キャンプでもトルコの都市部でも、シリア内戦の窮状に付け込む悪党が暗躍している

他人の不幸でカネを稼ぐ卑劣な人間はいつの世にもいる。ヨルダン北部にあるザータリ難民キャンプで責任者を務めるキリアン・クラインシュミットは、それを目の当たりにしている。

12年のキャンプ設立以来、無法状態に付け込んで、このキャンプでは人身売買が行われている。狙われるのは、立場の弱い難民の若い女性だ。

サウジアラビアなど湾岸諸国の50~70代の男たちが、難民生活を送る10代のシリア人少女たちを妻として安い値段で買っていく。仲介役は数千ドルで取引をまとめているという。

難民の中には、結婚すれば娘は安全に暮らせると考える家族もいる。キャンプでは性暴力が頻発し、女性たちはトイレや共同キッチンに行くことさえ怖がっている。(中略)

クラインシュミットによれば、今では外部の者がキャンプに入ることは制限され、キャンプ内はかなり安全になった。

だが結婚後たった数週間で夫に捨てられる少女たちも増えている。出戻った少女たちはキャンプに帰っても居場所はない。「もう処女ではないという理由だ。古い考え方の人たちだから」と、クラインシュミットは言う。

シリア人難民の80%は難民キャンプではなく都市部に暮らしている。そこでは低年齢の結婚率はもっと高いとみられている。ただキャンプの外の状況を把握するのは難しいと、ユニセフ(国連児童基金)のヨルダン支部副代表のミッシェル・セルバディは言う。(後略)【6月10日号 Newsweek日本版】
**************

このような話は以前からあります。

****シリア難民の少女は“安上がりな花嫁”でいいのか? 買い漁るアラブ人男性たち ****
ヨルダンやレバノン、イラク、トルコなどにあるシリア人難民キャンプを、湾岸諸国から来たアラブ人男性らが訪れ、“花嫁候補”を物色している。お目当ては、シリアの内戦から逃れてきた女性の難民だ。ジューイッシュプレスやアルバワバ、アラクバールなど、中東地域のメディアが断続的に報じている。

アラブ男性を惹きつけるのは、シリア女性の高い身長、大きな瞳、輝くような素肌、そして「安い値段」だ。シリア女性は「アラブ随一の美女」といわれるが、難民となったシリアの少女はわずかなお金で手に入るという。

シリア難民の親の多くは、16歳の娘を1000ユーロ(約10万円)で売るという。アラブの富豪にとってみれば、1000ユーロははした金。だが難民にしてみれば大金だ。

また、娘を早く結婚させることで、不安定な状況から抜け出し、大事な娘を守ってくれる男性が現れたのだと夢を見る。

アラブ富豪との結婚を自ら進んで決意する14~15歳の少女もいる。靴や毛布さえない難民キャンプでは選択の余地がないという問題が背景にある。少女らは、苦しい家計を助けるために親元を離れることで親の負担を軽くしようと考える。

ただ少女の早すぎる結婚は、早すぎる妊娠を招き、初産で子どももろとも命を落とすリスクも低くない。(中略)

とはいえ、多くの親にとってみれば、家計に大きな不安を抱えているなかで、1000ユーロを払ってくれる男性が現れれば、娘の結婚に同意せざるを得ないのが現実だ。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、特にヨルダンにある難民キャンプが一番狙われているという。

「一度両親の元を連れ去られてしまえば、結婚後は買春業に従事させられ、用済みになったら路上に捨てられる」と国連関係者は危惧する。(今井ゆき)【2012年12月7日 開発メディアganas】
****************

キャンプの中に残っても、女性の置かれた状況は過酷です。

****家族を助ける「サバイバル・セックス」、売春婦と化すシリア難民たち ****
売春婦となるシリア難民が増えている。ボイス・オブ・アメリカ(VOA)などが7月29日付で報じたもので、家族のためにお金や食料を確保するというのが理由だ。こうした行為を援助従事者たちは「サバイバル・セックス」と呼んでいる。

■難民キャンプに売春宿
この問題の背景にあるのは、難民のおよそ7割が女性と子どもであり、生活力が乏しいという現実がある。
シリア難民を最も多く受け入れるレバノンのアイン・ヘルワやサダヤなどの難民キャンプの中には「売春宿が多い」とレバノンの難民支援団体「結束と開発」で働くリマ・ザーザー氏は明かす。

シリア第3の都市ホムスからレバノンに逃れてきたイシュタさん(16歳)も売春婦になったひとりだ。2012年12月、イシュタさんの父は空爆を受けて死亡。これをきっかけに、母、姉とともにシリアを脱出した。

当初は、姉と一緒に、ベイルート、ベルダンで、生活していくために物乞いを始めた。だがすぐに性的虐待を受けるようになった。数週間後、自暴自棄に陥ったイシュタさんは売春婦になった。

「男たちは、車や廃墟ビルの中、荒地に私を連れて行き、動物のように扱う。ほとんどの男性はコンドームを使わない」とイシュタさん。報酬は1人につき20~30ドル(2000~3000円)。1週間におよそ6人の相手をするという。

援助従事者らの話では、客をとる値段は、ベイルート郊外や南部レバノン、ベッカー高原では7ドル(約700円)程度だという。

■援助従事者も顧客
ショッキングなのは、シリア難民の女性を買春する顧客に援助従事者も少なくないこと。また売春婦でなくても、女性の難民という弱みに付け込んで、セックスを求めてくることはざらだ。

シリア難民で、二児の母でもあるアフナさん(26歳)は「援助従事者から、セックスを要求されることは珍しくない」と暴露する。NGOの男性スタッフからある日、「男性と性的な関係をもてば、男性が何か援助物資を手に入れたとき、それを分け与える」と言われた。アフナさんは泣いて、このNGOを離れた。

レバノン政府の発表によると、同国が受け入れたシリア難民の数は100万人以上。13年末には200万人に達する見通しだ。

受け入れ先となる難民キャンプは不十分で、女性難民の多くは、難民キャンプの外の廃墟ビルや安い家などを借りて、生活している。だが、家主やレバノン政府の役人から「セックスさせろ」と求められるケースは後を絶たない。

■おじからも性的虐待
女性を性の対象とみるのは、援助従事者や家主、レバノン政府の役人だけではない。「多くの女性は家の中で、特におじやきょうだいからの性的虐待に苦しんでいる」と、レバノンの難民支援団体「国境なき開発活動」のカッセム・サードさんは指摘する。

多くのシリア難民は、過度に人数の多い環境や古い建物、廃墟ビルや雑にできた避難所などで生活している。そのため男性は、強い憤りや怒りがたまる。そうしたストレスが、近くにいる女性への虐待につながるというわけだ。

女性たちを保護しようと、国境なき開発活動は、技術を身に付ける訓練を女性に提供し始めた。内容は、家庭内での性的虐待から自分自身をどう守るのか、どう対処するのかというもの。

また、法律の力を活用することを視野にレバノンの司法当局と連絡をとっているが、同国の法律は「夫婦間のレイプ」を認めておらず、事態の改善は簡単ではないのが現状だ。(有松沙綾香)【2013年8月31日 開発メディアganas】
****************

アサド排除よりも優先すべき停戦
反政府勢力を支援して“アサド抜き”を模索する欧米ですが、結果的にこのような現状を固定化するのであれば、アサドであろうがなかろうが、とにかく内戦を終結させて国民の安全と暮らしを確保することの方が優先されるべきではないか・・・そのために必要なら、シリアにおいて統治能力を有する唯一の存在であるアサド政権を存続させたままの停戦もやむを得ないのではないか・・・と考えます。

銃を手にして己の大義のために戦う男たちにとっては、その背後での女性の苦しみなど考慮に値するものではないのでしょう。もともと、女性の権利が軽んじられている風土がありますから、なおさらです。

しかし、多くの女性を含む国民を犠牲とした“民主主義を求める戦い”に、いかほどの大義があるのか疑問です。
単に、戦いのための戦いに没頭しているにすぎません。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アメリカ  タリバンとの“取引”に高まる国内批判

2014-06-04 23:49:22 | アメリカ

(ボウ・バーグダル陸軍軍曹の解放を呼び掛ける看板 【6月4日 Newsweek】

【「不釣り合いな捕虜交換」】
一昨日、6月2日ブログ「アメリカ 米軍兵士の解放でタリバンと取引 ナイジェリアの女子生徒は?」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140602)で取り上げた、アメリカが拘束中のタリバン幹部5名を解放する見返りに、5年間タリバンに拘束されていた米軍兵士1名が解放されることになった“取引”が、アメリカ国内で問題となっています。

もとより、テロ組織などとの取引には、同様の犯罪を助長することになるという批判はつきまといます。

それでも、オバマ政権は取引を行い、「米国は兵士を見捨てることはない」と、その成果を強調しました。
また、今回の取引が、米軍のアフガニスタン撤退を見据えて、タリバンとの和平交渉の糸口となることも期待されています。

取引批判のひとつは、解放されたタリバン幹部が、遠からず戦線に復帰するであろうことを懸念するものです。

****米兵1人対タリバン幹部5人 「不釣り合いな捕虜交換」に批判****
米政府がアフガニスタンのイスラム原理主義勢力タリバンに拘束されていた米兵1人の釈放と引き換えに、キューバのグアンタナモ米海軍基地内のテロ犯収容施設に収監されていたタリバン幹部5人をカタールに移送したことに激しい批判が起こっている。

幹部には旧タリバン政権時代の内相や国防次官らが含まれており、野党共和党は「不釣り合いな捕虜交換」(ダンカン・ハンター下院議員)だと指摘している。

オバマ米大統領は5月31日、2009年から米兵としてタリバンに唯一拘束されていたボウ・バーグドール陸軍軍曹(28)が約5年ぶりに釈放されたことを、ホワイトハウスにバーグドール氏の両親を招いて自ら発表した。

オバマ氏は「米国は軍人を決して置き去りにはしない。最高司令官としてバーグドール氏を危機から救ったことを誇りに思う」と述べた。また、タリバン幹部の移送先であるカタールの政府が、米国の安全保障を守る方策を取ると約束したとして、問題はないとの立場を強調した。

アフガンからの全面撤退に向けた行程表を発表したオバマ政権は、今月14日のアフガン大統領選の決選投票を経て発足する新政権とタリバンとの和平交渉を後押しする構えだ。

移送を通じ、タリバンの姿勢を軟化させる狙いもあるとみられる。また、ブッシュ前政権下での収容施設での「敵性戦闘員」の非人道的な扱いを問題視してきたオバマ氏としては、施設閉鎖に向けた一歩にしたい考えだ。

しかし、移送される幹部らが再び野戦司令官に戻るとの懸念は根強い。しかも、国防総省はバーグドール氏が自ら部隊を離れたとしており、5対1の「捕虜交換」が本当に必要だったのかと、共和党や米メディアが異を唱えている。【6月4日 産経】
******************

この種の批判は当然に予測されたものです。

交換の比率については、考え方次第です。
イスラエルはハマスとの間で、兵士1名と拘束中のパレスチナ人1027人の交換に応じたこともあります。

****ハマスに拉致されたイスラエル兵、5年ぶりに帰国****
2006年6月にパレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスに拉致され、同地区に拘束されていたイスラエル軍兵士、ギラド・シャリート曹長が18日、1941日ぶりに解放され、故郷のイスラエル北部Mitzpe Hila村に帰還した。

イスラエルとハマスは前週、シャリート曹長とイスラエルで拘束中のパレスチナ人1027人を交換することで合意していた。1027人の中には、イスラエルへの攻撃に関与したとして終身刑を受け、服役中の数百人も含まれている。(後略)【2011年10月19日】
******************

脱走?裏切り?】
ただ問題は、タリバン幹部の解放というアメリカにとって大きな代償を払って解放にこぎつけた米陸軍軍曹(28)には、ともに戦った兵士のなかから“脱走兵”“裏切り者”との批判があることです。

****5年ぶり解放の米兵は裏切り者か****
アフガニスタンの反政府武装勢力タリバンによって拘束されていた米陸軍軍曹のボウ・バーグダルが先週、5年ぶりに解放された。
だが、この知らせに誰もが手放しで喜んでいるわけではない。

米政府はバーグダルの代わりにキューバのグアンタナモ米軍基地に拘束していたタリバンのテロリスト5人を解放した。共和党をはじめとする一部の米議員は、こうした「人質交換」はタリバンの戦力強化につながると批判。

その上、バーグダルは英雄どころか脱走兵だったという疑惑が持ち上がっている。

バーグダルの小隊の一員だった元軍曹のマット・ビールカントは、バーグダルは脱走容疑で軍事裁判にかけられるべきだと、CNNに語った。バーグダルは09年6月30日にアフガニスタンの駐屯地から姿を消し、5年にわたりタリバンに拘束されていた。

現在はドイツにある米軍の病院施設に移送され、治療を受けている。「彼が姿を消した当時はムカついたが、その後の成り行きにはもっとムカついている」と、ビールカントは言った。「バーグダルは戦争のさなかに脱走し、仲間の米兵は彼の捜索で命を落とした」。

CNNによれば、アフガニスタン東部パクティカで行われたバーグダルの捜索で少なくとも6人の米兵が亡くなったという。

アメリカの戦争に幻滅?27歳の元上等兵ホセ・バゲットはCNNに語った。「彼は警戒任務の最中にいなくなった。逃亡したのか裏切り者になったのか誘拐されたのか、誰も知らない。分かっているのは、米軍を守るべきだった彼がアメリカに背を向け、自分勝手に行動したということだ。なぜそんな決断をしたのか分からないが、私たちは彼の捜索のためにさまざまなものを犠牲にした。数人の米兵の命も犠牲になった」

バーグダルへの怒りをぶつけようと、ソーシャルメディア上に「ボウ・バーグダルは英雄なんかじゃない」と題したウェブページを開いた米兵もいる。

敵意に満ちたコメントが寄せられたが、こんな声もあった。「彼を裏切り者だと決めつける人には、武装勢力に5年間拘束されてみろと言いたい。それでもまだ彼を非難できるだろうか。彼が逃亡するなり拘束されるなりした時にどういうつもりだったにせよ、彼はもう十分過ぎる代償を払った」

ローリングストーン誌は12年、バーグダルがアメリカの戦争に幻滅していたと報じた。彼は両親にこう話していたという。「嘘にまみれて時間を浪費するのはもったいない。人生は短いから、他人のゴタゴタに付き合ったり、ばかな奴らの間違った考えに協力したりする暇はない。彼らの考えをずっと目にしてきて、僕はアメリカ人であることすら恥ずかしく思う。アメリカ人がどっぷり浸かっている独善的で傲慢な態度は恐ろしい。すべてがぞっとする」
【6月4日 Newsweek】
*******************

“ニューヨーク・タイムズによると、軍曹は2009年6月、「陸軍に幻滅した。米国の任務を支持しない。新しい人生を始める」と書いたメモを残し、駐屯地のテントを抜け出した。同紙は「軍曹は現地の言葉を学んでいた」「よく山をじっと見つめ、中国へ行けたらと話していた」などとする元同僚の証言も伝えた。”とも報じられています。

不思議なのは、こうしたバーグダル氏に関する情報は、当然にオバマ政権は把握していたと思われますが、そうした評価についてどのように考えてていたのか・・・ということです。

戦線離脱兵士であろうと、「米国は兵士を見捨てることはない」という点については変わりはないと確信しているのでしょうか。
それはそれでひとつの見識ですが、国内で問題になることは避けられません。

“米陸軍は3日、ドイツで療養中の軍曹の回復を待って拘束の経緯を聴取する方針を明らかにし、デンプシー統合参謀本部議長は「違法行為があったなら見逃さない」とする声明を出した。ただ、野党・共和党はオバマ政権の対応を問題視しており、追及を強める構えだ。”【6月4日 時事】

****タリバン幹部解放 米野党が政権を批判****
アメリカ政府が、アフガニスタンで反政府武装勢力タリバンに拘束されたアメリカ軍兵士の解放の見返りにタリバンの幹部5人を釈放したことについて、野党・共和党などから議会への説明が足りなかったなどと批判の声が上がり、オバマ政権は釈明に追われています。

アメリカ政府は先月31日、アフガニスタンでおよそ5年前から反政府武装勢力タリバンに拘束されていたアメリカ軍兵士の解放の見返りに、キューバにあるグアンタナモ収容所にいたタリバンの幹部5人を釈放しました。

これについて野党・共和党などからは、議会への事前の説明が足りないままテロリストとの交渉に応じたなどと批判の声が上がっています。

これについてオバマ大統領は3日、訪問先のポーランドで「兵士の健康状態が懸念されるなか解放の機会が訪れた。このチャンスを逃したくなかったので一部の手続きを省いた」と説明し、理解を求めました。

一方、アメリカのメディアは、兵士が部隊から逃亡してタリバンに拘束された疑いがあると伝えており、オバマ政権が解放を急いだことを疑問視する報道も出ています。

これについてマクヒュー陸軍長官は3日、「兵士の健康状態が回復すれば詳しく事情を聞く」とする声明を発表するなど、解放交渉への批判の高まりを受けてオバマ政権は釈明に追われる事態となっています。【6月4日 NHK】
*******************
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

インド  2少女レイプ殺人で、改めて「寺院よりトイレ」

2014-06-03 22:47:40 | 南アジア(インド)

(野外に用を足しに出て、集団レイプされ木に吊るされた2少女のひとりの母親 【6月3日 AFP】)

家にトイレがある人より、携帯電話を持っている人の方が多い
5月28日早朝、インド北部の村で、5人の男に集団レイプされた10代の少女2人が、木に首をつった状態で死亡しているのが見つかりました。

“少女らが自殺したのか、犯人たちがレイプ後に口封じのために2人の首をつったのかはいまだ判明していない”【5月30日 AFP】とのことでしたが、下記【6月3日 AFP】では“集団レイプされた末に殺害された”とされています。

****インド貧困女性を襲う「トイレの恐怖」、2少女レイプ殺人で明らかに****
インド北部カタラサダトガンジ村の女性たちにとって、夜のとばりが下りた後に家の裏に広がる野を歩くことは、普段から身の危険を感じる恐ろしい体験だ。

しかし先月27日、野外に用を足しに出た少女2人が連れ去られ、集団レイプされた末に殺害された事件は、日々の試練に新たな恐怖をもたらした。

農場労働者としてのわずかな収入で生活する5児の母マハラニ・デビさん(40)は「事件があってから、私たちは以前よりもさらに恐怖を感じるようになった」と語る。デビさんが住む3部屋からなる家には、この地区の大半の家と同様、トイレがない。

先週に起きた12歳と14歳の少女殺害事件は、2012年12月に首都ニューデリーで個人バスに乗り込んだ女子学生が集団レイプされ死亡した事件が生み出した激しい抗議運動と共鳴し、国内外で広く報じられた。

しかし、野原で襲撃された少女らが置かれていた危険な状況は、インドでは珍しくない。法的理由から氏名が伏せられている被害少女らは事件の夜、自宅にトイレがなく、村にも公衆トイレがないために2人で野原に出かけた。

国連児童基金(ユニセフ、UNICE)によると、インド人口の半分近い約5億9400万人が野外をトイレ代わりにしている。事件が起きた村があるウッタルプラデシュ州バダユン県のような農村部の貧困地域では特に状況はひどい。

インドのトイレ事情を調査した非政府組織(NGO)「ウォーターエイド」のキャロリン・ウィーラー氏によれば、日が暮れてから野外で用を足すことを強いられているインド人女性は全体の約3分の1で、彼女らはトラブルに巻き込まれないよう、大抵は見張り役の友達と2人で連れ立って出かける。

「女性が一番危険にさらされやすく、無防備な時。こんなに多くの女性が毎日、野外で用を足すという危険を冒しているということは衝撃だ」とウィーラー氏はAFPに語った。

被害少女の親族の女性はAFPのインタビューに対し「自分も野外に用を足しに行くときに怖い」と語った上で、当局には加害者をきちんと法で裁くことを望み、政府には村に公衆トイレを作ってもらいたいと訴えた。

しかし、野外での用足しをなくすことは、インドの新政権にとって難しい挑戦だと専門家たちは指摘する。

トイレの問題は、困窮するインドの地方部が多く抱える社会開発問題のうちの1つに過ぎない。
カタラサダトガンジを含むバダユン県の村々に電気が通るのは毎日2、3時間。未舗装の泥道には汚水や下水がそのまま流れている。

また被害者の少女たちは、地方部では根強く残っているインドの身分制度カーストの中の低い位置に属していた。一方、少女を襲った男らのうち何人かは、同じく身分は低いがウッタルプラデシュ州で影響力の強い「ヤダブ(Yadav)」といわれるカーストの出身だった。

少女らの遺族は地元警察が、女性を軽んじることに加え、下層カーストに対する偏見から適切な対応を怠ったと非難している。【6月3日 AFP】
*******************

インドで女性が被害者となる性的な事件が多発していることは、12年12月のニューデリーで起きたバス車内女子学生集団レイプ事件を契機に国内で大きな問題となっています。

また、インドの貧困の象徴としてトイレ問題があることは、2013年12月28日ブログ「“変わるインド” “変わらぬインド”」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20131228)でも取り上げました。

“2011年の国勢調査によると、インドの半数近くの世帯はトイレがなく、住民は屋外で排便せざるを得ない。インドでは、家にトイレがある人より、携帯電話を持っている人の方が多い。子供の4割が栄養失調に陥っている最大の原因は、食料不足ではなく、お粗末な衛生状態だ。”【5月15日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】

****トイレをつくれ!=野外排せつ6億人、女性立ち上がる―インド****
インドで野外排せつの根絶を目指す市民運動が大きなうねりになりつつある。

政府は27年前に衛生向上計画を打ち出したが、いまだ約6億4000万人が日常的に野外で排せつする。業を煮やした女性らが各地でトイレ設置のために立ち上がった。

首都ニューデリー中心部、車道脇には「立ち小便」をする男性が並び、その脇では半裸の少年が用を足す。地方の状況はさらに劣悪だ。ネパール国境に近い北部バワニプール村に住むマノラニ・ヤダブさん(40)は「全住民が野外で用を足している」と話す。

世界保健機関(WHO)は11月、インドにはテレビがあってもトイレがない家庭が多いと指摘。人口の半分以上が日常的に野外で排せつ行為を行っており、コレラや腸チフスのまん延につながっていると警告した。

政府は2022年までの野外排せつ根絶を目指すが、その歩みは遅い。特に女性は排せつ時に性的被害を受ける危険におびえ続けてきた。「こんな状況は耐え難い」。12月上旬、ヤダブさんは自分の土地を政府に寄付し、公衆トイレの設置を要請した。

中部マディヤプラデシュ州に住む新婦アニータ・ナルレさん(30)は家にトイレがないことを理由に2年前、夫に別居を告げた。これが引き金となり、女性が各地の村でトイレ設置を求めるデモを展開。この運動は国連児童基金(ユニセフ)の目に止まり、8月に映画化された。

専門家は「若い世代の台頭で社会変革の波が起きつつある」と指摘するが、道のりは長い。ヤダブさんは「人々の熱意がインドの日常風景を変える日」を待っている。【12年12月28日 時事】 
****************

カタラサダトガンジ村で起きた二人の少女の悲劇は、インドが抱える性犯罪と貧困という二つの大きな問題の結果でもあります。

更に言えば、もうひとつのインドの抱える大きな問題も絡んでいます。
死亡した2人は14歳と15歳のいとこ同士で、カースト(身分制度)の枠外に置かれる最下層「ダリット(Dalit)」の出身とされています。

そうしたカーストの問題もあって、“遺族や村の住民らは、2人の遺体が28日早朝に見つかった当初、警察は取り合わなかったとして、強く抗議している”【5月30日 AFP】とのことです。

警察組織の腐敗という意味では、4つ目の問題もあるとも言えます。

モディ氏はトイレに専念し、寺院のことは僧侶に任せておくべきだ
新首相に就任したモディ氏は、ヒンズー至上主義者としての側面が懸念される一方で、その経済手腕に大きな期待がよせられています。

モディ氏は選挙において、「寺院よりトイレ」を支持すると宣言しています。
宗教的情熱に費やすお金を減らしてでも、衛生にかけるお金を増やすべきだとの主張ですが、まったくの正論です。

ただ、本当にモディ首相が“寺院”に深入りせず、宗教間の対立を煽るようなことがないか・・・まだ疑念はあります。

****インドのモディ氏、「寺よりトイレ」の誓いを貫け*****
モディ氏は、インドの経済的な目覚めを遠くから垣間見てきた何百万人もの国民が抱く積もり積もった切望を呼び覚ました。

また、狭義のヒンドゥー主義に基づくアイデンティティ政治の誕生を夢見る人たちにも希望を与えた。

前者は歓迎すべきことだ。後者は断然、歓迎されない。
モディ氏はトイレに専念し、寺院のことは僧侶に任せておくべきだ。【5月15日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
***************
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アメリカ  米軍兵士の解放でタリバンと取引  ナイジェリアの女子生徒は?

2014-06-02 21:56:50 | アフガン・パキスタン

(タリバンによる拘束から解放されたボウ・バーグダール陸軍軍曹の家族と共に会見するオバマ大統領 【6月2日 The Huffington Post 】)

【「アフガン国軍が自ら国の安全を守るべきだ」】
アメリカはアフガニスタンから年内に戦闘部隊を撤退させることになっていますが、その具体的内容についてオバマ大統領が明らかにしました。

カルザイ大統領が署名を拒否している安全保障協定が今後締結されることを条件に、アフガニスタン国軍の訓練やアルカイダを掃討する対テロ作戦のため、約9800人の駐留させるというもので、これについても16年末までには完全撤退させる方針です。

****アフガン、治安悪化の懸念 米軍、16年末までに完全撤退****
米国のオバマ大統領が27日、来年以降も米軍の一部をアフガニスタンに駐留させる一方、2016年末までに完全に撤退させる方針を表明した。

イラク戦争を終結させたオバマ氏は、10年以上続くアフガン戦争も任期中に終わらせる決意を示した。だが、アフガンの情勢はなお不安定で、米軍撤退が再び治安悪化を招く、との懸念が強い。

 ■オバマ氏、任期中の終結決意
米軍が主導するISAF(国際治安支援部隊)は年内に治安維持の権限をアフガン政府に移譲することになっている。

オバマ氏は27日、これまでの方針通り年内に戦闘部隊を撤退させる一方、アフガン国軍の訓練や国際テロ組織アルカイダを掃討する対テロ作戦のため、約9800人の駐留を続けると正式に発表した。

残った部隊も段階的に縮小し、16年末までに大使館警護などの一部要員を除き完全に撤退させる。

オバマ氏は米国民向けの声明で「10年以上イラクとアフガンでの戦争に注力した時代から、新しいページを開くときが来た」と述べて、自らの任期中に二つの戦争を終わらせ、ほかの外交課題に注力すると訴えた。

アフガンからの撤退について、ホワイトハウス高官は「アフガン国軍はタリバーンに対抗する力をつけてきている」とこれまでの訓練や資金援助の成果を強調。

別の高官も「アフガンの安全を確保する長期的な解決策は米軍の駐留ではない。アフガン国軍が自ら国の安全を守るべきだ」と訴えた。

この高官は対テロ作戦についても「引き続き掃討作戦を続けるが、これまでにアフガンとパキスタンにいるアルカイダ指導部に大きな打撃を与えた」と自信を示した。

一方で、完全撤退に慎重な共和党議員らは反発。米議会の重鎮マケイン上院議員ら共和党の3上院議員は連名で「歴史的な過ちだ。敵を増長させ、アフガンのパートナーを失望させる。米国が頼りにならず、指導的役割を果たそうとしていないという世界の見方を加速させることにもなる」と批判した。

今後の撤退について、米国は条件もつけている。オバマ氏はこの日の声明で、「米軍駐留の一部継続は、安全保障協定の締結が条件だ」と明言。大統領選を受けて発足するアフガンの新政権に、罪を犯した米兵の法的な地位などを定めた協定への署名を求めた。協定が結ばれない場合、米軍を即座に完全撤退させる方針も改めて示した。【5月29日 朝日】
***************

オバマ大統領は、イラク・アフガニスタンの二つの戦争を終わらせたという“成果”を、厭戦気分が強いアメリカ国内に向けてアピールしたい思いでしょう。

“二つの戦争を終わらせ、ほかの外交課題に注力する”・・・対外戦略としては、アメリカにとっての中東のウェイトも低下していますので、アジアにおける対中国戦略に更に力点を置いていくということでしょうか。
“包囲網”なのか、“新たな大国関係”なのかは別にして。

アフガニスタン国内には、米軍撤退によるタリバンの拡大や軍閥の復活を懸念する声もあります。
アフガニスタン治安部隊は人員はそれなりになっていますが、その質については疑問視もされています。

 
****タリバーン勢いづく恐れ*****
駐留米軍が2年半後に完全撤退することに、アフガニスタン国内では懸念が広がっている。

アフガン独立人権委員会のラフィウラ・ビダル報道官は「外国軍の撤退は、特に地方の治安を劇的に変える。反政府勢力タリバーンが支配地域を広げるだけでなく、これまで外国軍が押さえ込んでいた軍閥も復活し、力の弱い中央政府を無視して勝手な統治を始めるだろう」と危惧する。

AFP通信によると、タリバーンは28日、声明で「1人でも米兵が残る限り、聖戦を続ける」と宣言。西部ヘラートでは、米外交官が乗った車がタリバーンとみられる武装勢力の攻撃を受け、2人が負傷した。

最盛期には10万人に達した駐留米軍は徐々に撤退が進み、現在は3万3千人。他の北大西洋条約機構(NATO)加盟国の部隊を合わせたISAFの規模は5万人程度になった。

並行してアフガン側では治安部隊の育成が進み、軍・警察を合わせた要員は35万人。タリバーンの推定兵力の10倍以上の規模だ。

テロや攻撃への対応や、タリバーン掃討作戦など重要な任務のほとんどをアフガン側が受け持つようになった。4月にあった大統領選の1回目の投票の警備も独力で乗り切り、自信を深めていた。

ただ、兵士や警察官の給与や装備の大半を負担するのは米国だ。米軍撤退で支援が細るようなら、兵力の維持すら不可能になりかねない。地上での作戦を支える空軍力は未整備で、今後2年半の間にアフガン側がISAFの作戦能力を完全に引き継ぐのは困難だ。

来月14日に予定される大統領選の決選投票を控え、候補者の陣営にも波紋が広がった。アブドラ・アブドラ元外相の陣営のファズルラフマン・オリヤ報道担当は「アフガンの自立は当然だ」としながらも、「2年半後にまだアルカイダが残っているようなら、次の米大統領と交渉し直すべきだ」と述べた。

アフガンでは、駐留する外国軍に関係するビジネスが主要産業となってきた。撤退がもたらす経済的な影響を心配する声もある。米政府の関係機関で運転手をしている男性(34)は「上司から職員数を減らすと通告された。米軍がいなくなれば失業だ」と話した。【同上】
******************

【「米国は兵士を見捨てることはない」】
こうした米軍撤退が迫るなかで、アメリカはタリバンとの“取引”に応じ、拘束していたタリバン幹部5名と引き換えに、5年間タリバンに拘束されていた米軍兵士の解放を実現しました。

****米兵、5年ぶり解放 タリバーン、米と取引****
オバマ米大統領は31日、アフガニスタンの反政府武装勢力タリバーンに拘束されていた米陸軍軍曹(28)が約5年ぶりに解放された、と発表した。

この引き換えとして、米政府はキューバのグアンタナモ米軍基地にある対テロ戦収容所から、タリバーンの幹部ら5人をカタールに移送した。5人は当面、カタールで監視下に置かれる。

今回解放された軍曹は、アフガン東部のパキスタン国境付近で2009年に行方不明になり、その後、タリバーンが拘束中の映像を公開していた。

オバマ氏は軍曹の両親とともにホワイトハウスで急きょ会見。「(軍曹を)忘れたことはない。米国は兵士を見捨てることはない」と成果を強調した。

一方、タリバーンの5人のうち2人は軍事部門の幹部司令官。米国人や同盟国軍兵士、さらにアフガン国内のシーア派住民数千人の殺害にかかわった疑いがもたれている。今回の取引について米国内では批判も出ている。【6月2日 朝日】
******************

膨大な数の兵士を海外に派兵しているアメリカにとっては、兵士の処遇は非常に敏感な問題です。

オバマ政権は30日に、退役軍人病院で患者が長期間診療を受けることができずに死亡した問題で日系のシンセキ退役軍人長官更迭に追い込まれていますので、「米国は兵士を見捨てることはない」というアピールは退役軍人病院スキャンダルの穴埋めにもなるでしょう。アメリカには2000万人を超える退役軍人がいます。

もちろん、タリバンとの取引は長い準備期間があってのことで、別に退役軍人病院問題に合わせてのものではありませんが。

****アメリカとタリバン****
アメリカ政府は、ことし末に控える国際部隊の大部分の撤退を前に、政治的な対話を通してタリバンをアフガニスタンの国造りに取り込み、現地の情勢を安定させようと、タリバンとの和平交渉の実現を目指してきました。

アメリカとタリバンは2010年から中東のカタールを拠点に水面下で協議を重ね、本格的な和平交渉に入る前の信頼関係を築く措置として、互いに拘束しているアメリカ兵とタリバンの幹部をそれぞれ解放することでいったんは合意しました。

しかし、その後、アフガニスタンのカルザイ政権が協議に加わるかどうかを巡って対立して、協議はおととし中断し、去年、再開が模索されたものの、難航して暗礁に乗り上げた形になっていました。【6月1日 NHK】
***************

今回の取引が成立したということは、暗礁に乗り上げた形になっていたタリバンとの和平交渉の水面下でそれなりに動いているということでしょう。

****タリバン幹部釈放で和平交渉実現も****
アメリカのヘーゲル国防長官は、アフガニスタンの反政府武装勢力タリバンに拘束されていたアメリカ兵の解放と引き換えにタリバンの幹部5人を釈放したことで、タリバンとの本格的な和平交渉が実現することもありうるとの認識を示しました。(中略)

アメリカのヘーゲル国防長官は1日、アフガニスタンに向かう機内で会見し、5人の釈放について、「タリバンとの対話の打開策につながるかはまだ分からないが、うまく行けばその可能性はある」と述べ、今回の対応によって今後タリバンとの本格的な和平交渉が実現することもありうるとの認識を示しました。(中略)

5人はかつてのタリバン政権下で諜報機関や軍の高官などを務めていた幹部で、タリバンの最高指導者オマル師は声明を発表し、「偉大な勝利だ。家族らに心から祝福を伝える」として5人の釈放を歓迎しました。

タリバンは幹部の釈放をアメリカと本格的な和平交渉に入るうえでの前提条件としてきたいきさつがあり、今後、両者の和平交渉にまで進展するのか注目されます。【6月2日 NHK】
*******************

取引への批判と擁護
アメリカ国内ではタリバンとの“取引”を批判する声もあります。

****米・タリバン捕虜交換に批判の声、米長官「命救うため」と擁護****
米政府がアフガニスタンの旧支配勢力タリバンに拘束されていた米兵の解放と引き換えに、タリバンの捕虜5人の移送に応じたことについて、一部の共和党議員からは批判の声が上がっている。

一方、チャック・ヘーゲル米国防長官は1日、作戦の目的は米兵の生命を救うことにあったと説明し、この「捕虜交換」を擁護した。(中略)

カタールの仲介で実現した劇的な身柄交換については、米・タリバン双方が成功だったと宣言している。
タリバンの最高指導者、ムハマド・オマル師は、グアンタナモに拘束されていた5人の解放を「大きな勝利」と称える極めて異例の声明を発表。

ヘーゲル長官は、アフガニスタン和平に向けた突破口となり得るとも示唆しており、米国とタリバン間の信頼醸成につながる可能性を指摘する声もある。

だが、数人の共和党議員は、さらなる米兵の拉致を助長するものとしてこの捕虜交換を批判。共和党のジョン・マケイン上院議員は、移送したタリバン幹部たちが再び米国との戦闘に復帰することを防ぐためにどのような手段が講じられているのかを明らかにするよう要求した。(後略)【6月2日 AFP】
******************

マケイン上院議員はベトナム戦争に従軍した際、5年半にわたり北ベトナム軍の捕虜となり、激しい拷問も受けた経験をもっています。

また、父親が米軍高官であったことから早い段階で捕虜交換の話がありましたが、「自分より早く捕縛されているものが釈放されるなら受け入れる」と、自身の釈放を拒否したこともあります。

そうした経歴の持ち主の捕虜交換批判ですから、一定の重みはあります。
ただ、皆がマケイン氏のように大義に殉じる不屈の精神を持っているかと言えば、それもまた・・・。

ナイジェリアは「対テロ全面戦争」】
今回のタリバンとの取引で、ナイジェリアでイスラム過激派「ボコ・ハラム」拉致され、“奴隷として売り飛ばす”と言われている200人超の女子生徒の問題を思いました。

5月23日ブログ「ナイジェリア 女子生徒連れ去り事件の背景 テロ組織との交渉は認められるか?」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140523)で取り上げたように、ナイジェリア政府は“弱腰批判”を受けたくないこともあって、公式にはボコ・ハラムとの取引を否定しています。

“今回のように世界的に注目されている重大な犯罪を犯したテロ組織と交渉のテーブルに着けば、同じような行為を誘発しかねない。ナイジェリア政府は誘拐を防げなかったことで国内外から批判を浴びており、交渉に応じれば弱腰と見られるだろう。今のところ、ナイジェリア政府は交渉に応じないと表明している。「いかなる形であれ人身売買に加担するつもりはない」と、大統領報道官は言う。”【5月27日 Newsweek日本版】

ただ、水面下の動きも報じられてはいます。

****ナイジェリア少女拉致、元大統領がボコ・ハラム側と接触 消息筋****
ナイジェリアの少女集団拉致事件で、捜索が続いている200人以上の女子生徒の解放を促すため、オルセグン・オバサンジョ元大統領が事件を起こしたイスラム過激派「ボコ・ハラム」に近い人物らと会ったと、消息筋が27日AFPに明らかにした。

匿名を条件に取材に応じたこの情報筋によると、同国南部のオグン(Ogun)州にあるオバサンジョ氏の農場で先週末行われたというこの会合には、同氏とボコ・ハラム幹部の親族らに加え、複数の仲介役が出席。「(拉致されている)少女らを交渉を通じてどのように解放していくかが話し合いの焦点だった」としている。

この会合が政府の承認を受けて行われたのかは明らかになっていない。(中略)

オバサンジョ氏は2011年の大統領選で、グッドラック・ジョナサン現大統領を支持したが、その後2人の関係は冷え込んでいるという見方が広まっている。(中略)

一方ナイジェリア政府は、戦闘員らと少女らの交換に応じる可能性について公式に否定しているが、少女らの解放に向けボコ・ハラムと協議するため、仲介者の派遣は行っている。【5月28日 AFP】
******************

タリバンとの取引は、タリバンとの和平交渉を進めることにつながるという大義もあります。
それに対し、ボコ・ハラムとの取引は、単に狂気に満ちたテロリスト集団を利するだけという違いがあります。

しかし、タリバンに捕虜となった米兵は、それなりに覚悟のうえで戦争に参加した訳ですが、ボコ・ハラムに拉致された女子生徒はまったくの無関係の市民です。

非常に悩ましい判断ですが、ナイジェリアの件では裏取引によるものであろうが、とにかく女子生徒の救出を第一に考えるべきかと思います。

ナイジェリアのグッドラック・ジョナサン大統領は5月29日、“同国に文民政権が誕生してから15周年を迎えた記念式典で、イスラム過激派「ボコ・ハラム」による少女集団拉致事件を念頭に「対テロ全面戦争」を行う決意を示した”【5月30日 AFP】とのことです

同日には、ボコ・ハラムが国境付近の3つの村を襲撃し、計35人が死亡したと報じられています。
また、6月1日には、北東部アダマワ州ムビで大きな爆発が起き、少なくとも40人が死亡したと伝えられており、これもボコ・ハラムの犯行の可能性が高いとされています。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

各地で噴出す形骸化した代議制民主主義への怒り そもそも民主主義が存在しない中国で天安門事件から25年

2014-06-01 22:46:20 | 中国

(ブラック・ブロック(黒い塊)は、街頭での抗議行動などにおけるデモンストレーションの戦術の1つで、各参加者が黒色の衣服、帽子、ヘルメット、サングラス、マスクなどを着用して行う。【ウィキペディア】
写真は、2007年、ハンブルクの反弾圧デモでのブラック・ブロック)

【「代議制民主主義はもはや誰も代表していない。街頭で圧力をかけなければ、政治的な力にならない」】
****W杯を脅かす若者たちの怒り****
マスクやバイクのヘルメットで顔を隠した集団が車を破壊し、警官にレンガを投げ付け、タイヤに火を付ける・・・。6月12日にワールドカップ(W杯)の開幕を控えたブラジルのサンパウロやリオデジャネイロでは、そんな光景が繰り返されている。

警察当局によれば、彼らは「ブラック・ブロック」という過激派グループだ。

しかし、取材に応じたサンパウロのAMと称する32歳の人物は、ブラック・ブロックは組織の名称ではなく怒れる若者たちのデモ戦術だと語る。
「ブラジルのスラムでは前からあった暴力行為が都市の真ん中に出てきたんだ」

ブラック・ブロックのデモ参加者の多くは左派でも右派でもなく、現在の「システム」全体に反対していると、AMは言う。

ブラジル政府はW杯に117億ドルもの大金をつぎ込む一方で、荒れ果てた学校や病院は放置していると、AMは怒る。

だが同時に、反W杯デモは世界的な運動の一部だとも考えている。
「代議制民主主義はもはや誰も代表していない。街頭で圧力をかけなければ、政治的な力にならない」

この戦術が誕生したのは1980年代のドイツ。警察と対峙した反原発派や不法占拠者が暴徒化したのがきっかけだ。その後、叩年前後の反グローバル化運動にも取り入れられ、ブラジルでは13年、公共交通機関の値上げに反対するデモで注目されるようになった。

運動の主力は10代から20代前半の若者たちで、中流や中流下層の出身者が多い。「新しい世代はすごく過激だ」と、AMは言う。「まともな仕事も子供も責任もないから、警察と正面からやり合うことを恐れないJ

W杯期間中の暴動は、再選を狙うルセフ大統領にとって大きな痛手になる。もっとも、デモ参加者の多くは野党を含む全政党に非難の矛先を向けている。

「若者たちはすべての政治家に失望している」と、社会学者のエステル・ソラノは指摘する。
「既存のシステムにはうんざりしているが、新しいシステムはまだできていない」【6月3日号 Newsweek日本版】
****************

W杯が開幕間近に迫るブラジルの問題(工事の遅れ、貧困・格差をなおざりにして巨大イベントに資金がつぎ込まれることへの人々の反発・抗議など)については、4月23日ブログ「ブラジル W杯開催を控えて続く社会混乱」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140423)などでも取り上げてきましたが、今日はそれ別の話です。

上記記事で非常に印象的なのは、「代議制民主主義はもはや誰も代表していない。街頭で圧力をかけなければ、政治的な力にならない」という言葉です。

確かに世界を見渡すと、各地で、様々の分野で、人々の直接行動・街頭行動が繰り広げられています。

アメリカの「ウォール街を占拠せよ」運動、ギリシャ危機時の緊縮財政への抗議行動、チュニジア・エジプトなどの「アラブの春」、ウクライナの親ロシア・ヤヌコビッチ政権の崩壊、タイの反タクシン派の反政府運動・・・・
日本の反原発運動もそうした流れのひとつでしょう。

形骸化し、機能不全に陥った代議制民主主義に対し、「代議制民主主義はもはや誰も代表していない。街頭で圧力をかけなければ、政治的な力にならない」という怒りの声のように思えます。

こうした怒りが代議制民主主義の枠組みの中に流れ込むと、先の欧州議会選挙における“フランス政界に激震、欧州議会選で極右政党が首位”【5月26日 AFP】、“反EU政党が首位=イギリス総選挙前、与党に衝撃―欧州議会選”【5月26日 時事】といったように、移民・イスラム排斥、反欧州統合などを掲げる極右ナショナリスト政党、過激な主張のポピュリズム政党が台頭し、既存の政治ステムは“激震”“衝撃”を受けるといった結果にもなります。

東西冷戦が西側が勝利する形で終わり、経済システムとしての自由市場経済と政治システムとしての代議制民主主義――すなわち自由民主主義が普遍的な価値観として認められた・・・かのようにも思われたのですが、今や代議制民主主義は限界を示しているのでしょうか?

しかし、直接行動・街頭行動で圧力をかけ、政治を動かした、あるいは動かそうとした結果として、大きな混乱を招いている事例も多々見られます。

エジプトにおける若者の抗議行動は、結局、長い政治混乱を招き、安定を求める人々は再び強権的軍事政権を選択したように見えます。
タイでは、民主主義を否定するような街頭行動の結果、軍事クーデターが起きています。
シリアでは、反政府行動は泥沼の内戦と化しています。

その国々における代議制民主主義の在り様は様々ですので、代議制民主主義が機能不全に陥っているのか、「代議制民主主義はもはや誰も代表していない。街頭で圧力をかけなければ、政治的な力にならない」という声が正当化されるのか、一般的なもの言いが難しいところがあります。

トルコでも反エルドアン政権の抗議行動が報じられています。

****大規模抗議計画も当局阻止=反政府デモ1年―トルコ****
トルコ最大都市イスタンブールで31日、エルドアン政権に抗議する大規模反政府デモ発生から1年に合わせ、デモの主要組織「タクシム連帯」が市内の広場や国内各地で抗議行動を計画し、大勢の市民がデモを試みたが、警官隊に阻止され、大きな衝突には至らなかった。

トルコのメディアによると、抗議活動が計画された市内のタクシム広場へ向かおうとするデモ隊と警官隊とのにらみ合いが続いた後、警官隊が放水や催涙弾を発射して追い払った。10人以上が負傷したもよう。首都アンカラなどでも抗議デモが行われたが、警察に鎮圧されたという。

警察はこの日、約2万5000人の警官や50台の放水車を投入して広場一帯を封鎖し、厳戒態勢を敷いた。エルドアン首相はデモ阻止のため「必要なことは何でもする」と警告していた。【6月1日 時事】 
*****************

建前さえもかなぐり捨てた習近平政権
西側諸国の政治的混乱や経済危機から、中国の強権的社会システムの効率の良さが云々されることもありますが、共産党一党支配のもとで人々の声を抑圧する体制が代議制民主主義に代わり得るものとは到底思えません。

代議制民主主義における直接行動の位置づけはいろんな問題をはらんでいますが、そもそも民主主義が存在しない国においては直接行動に訴えるしかありません。

代議制民主主義の存在しない中国にあっては、様々な問題で直接行動が頻発し、その弾圧が繰り返されていることは周知のところです。
その最たる出来事が、25年前の天安門事件でしょう。

****天安門事件25年 力での統治、中国に病巣…広がる官僚汚職****
寸鉄も帯びず、「汚職糾弾」や「民主化」を訴えた学生らが弾圧された中国の天安門事件は、改革開放路線下の約10年で築き上げた中国共産党指導部への期待や信頼を国内外で打ち砕いた。

力で民意を封じた統治思考は、四半世紀を経て、世界の大国となった中国の随所に病根を広げる結果をも招いている。

東西冷戦下にあった1980年代、米国を頂点とする当時の西側諸国は、共通の敵だったソ連に対抗するため、毛沢東時代の極左路線と決別したトウ小平体制下の中国と手を結んだ。

しかし89年、北京の天安門広場で、西側の基本理念だった「民主主義」を学生らが叫んだ直後、中国指導部は運動を「反革命暴乱」と決めつけ、戒厳部隊の武力で弾圧してしまった。

天安門事件に続いて起きた冷戦構造の崩壊で、中国の頑迷ぶりは一層際立つ結果となった。
それでもなお、中国は四半世紀にわたって事件の再評価を拒み、段階的な民主化に向けた「政治体制改革」を事実上棚上げして現在に至っている。

 ◆広がる官僚汚職
天安門事件後、中国が共産党支配体制の護持と引き換えに取ったのは、マルクス・レーニン主義の枠を踏み出す大胆な市場経済化だった。

この結果、中国は世界第2の経済大国に成長し、さらに事件に端を発した欧米諸国の対中武器禁輸をハネ返して、米露に続く軍事大国ともなった。

それほど巨大化した中国だが、国内では天安門事件の際、学生らから「官倒(官僚ブローカー)」として批判を浴びた官僚汚職は、度し難い規模に広がってしまった。

革命幹部の2世が既得権益を握る「太子党」も、事件当時の壁新聞が警告した通り、21世紀の今日、世代を超えた利益集団として改革を拒んでいる。

中国社会を覆う貧富の格差の拡大、環境汚染の深刻化、言論や思想の抑圧-。「政治体制改革」で期待されたチェック・アンド・バランスを欠いた統治のツケはあまりにも大きい。

 ◆進まぬ名誉回復
政治体制改革を共産党の路線目標に掲げた趙紫陽氏は、自宅軟禁のまま2005年に死去し、名誉回復のめどさえ立たない状態だ。

天安門広場での学生運動を理論面で支えた反体制知識人、厳家其氏(米国在住)は、産経新聞に対して「言論空間の後退」など中国の現状を強く憂慮したうえで「“六・四”(天安門事件)の再評価には、まず趙紫陽氏の平反(ピンファン)(名誉回復)が欠かせない。これなくして政治体制改革は不可能だろう」と語った。

天安門事件当時、30代半ばだった習近平国家主席は福建省の貧困地区で党務をつかさどっていた。弾圧には手を染めていない。習氏が政権在任中に事件の再評価に踏み込む日は来るのか。

現状でその兆しは見えない。だが、この四半世紀に堆積した矛盾や課題が中国を深くむしばみ、もはや放置できないことは、現指導部が最もよく知っているはずだ。【5月30日 産経】
******************

習近平政権は広範な汚職撲滅運動を行い、その象徴として元公安トップの周永康氏の処遇が注目もされています。また、李克強首相を先頭にした経済改革の取り組みも行われています。

しかしながら、習近平政権のもとで、人権派弁護士等へのこれまで以上に厳しい締め付け、民主や法治の実現を目指す「新公民運動」への弾圧が行われていることも事実です。

****消される言葉 天安門事件から25年:3)学問の自由縛る「七不講****
昨年5月初旬、法曹界に人材を輩出する上海の華東政法大学の教員だった張雪忠さん(37)は、定例会議のため約50人の同僚と会議室に集まった。すると大学の幹部が、授業で取り上げてはならないことを列挙し始めた。

「(人権などの)普遍的価値」「報道の自由」「(欧米式の)市民社会」「共産党の歴史的な過ち」「司法の独立」……

張さんは「当局がこれだけはっきり禁止事項を明らかにするなんて」と驚いた。
「七不講(七つの語るべからず)」と呼ばれる指示で、昨年春、党中央から各地の大学に出されたとされる。

中国政府はこれまで、「中国には報道の自由がある」「中国には中国式の民主がある」などと主張してきた。張さんは「政府の主張が建前なのはみんな知っている。しかし、現政権はその建前さえもかなぐり捨ててしまった」と感じた。(中略)

 ■習政権から強化
習近平(シーチンピン)指導部が発足した12年11月の党大会後、学内の言論の引き締めが強まってきたという。

「憲法に基づく政治の実現」といった当たり前のことを言っても、批判にさらされる。
大学のホームページやネット上の掲示板の監視も強まり、問題のある書き込みがすぐに削除される。
授業で外部から講師を招く場合、党の担当者らが事前に入念に審査してから可否を判断するようになった。

張さんが担当する教科は、七不講の指示に触れるような内容ではなかったため、授業に特段の支障はなかったが、教員の間で不満の声が高まった。しかし、学内はそれを大っぴらに言える雰囲気ではなかった。

 ■「独創性育たない」
張さんは昨年6月、憲法をないがしろにしている政権を批判する論文をネット上で発表した。この論文が大学で問題となり、大学側は翌月から張さんに授業をさせず、主張の誤りを認めるよう求めた。

自説を撤回しなかったため、昨年末で教員の身分を失った。張さんは、大学で言動が厳しく制限されている現状に危機感を募らせる。

「教員でさえ自由に語ることができないような教育から、独創性のある若者が生まれるだろうか」【6月1日 朝日】
******************

習近平政権は、6月4日で25年目を迎える天安門事件について、徹底した封じ込めを行っています。

****天安門事件25年 今月、拘束100人超に 評価見直し、遺族に広がる絶望****
中国で民主化を要求する大学生らが人民解放軍に武力弾圧された1989年の天安門事件から6月4日で25年を迎える。

中国当局は事件の評価見直しを求める動きが広がることを警戒し、今月初めから全国で人権、民主化活動家らを次々と拘束し、すでに100人を超えた。

「近年で最も厳しい締め付けを行っている」(民主化活動家)とされ、遺族らの間で「生きている間に事件の見直しはないかもしれない」といった絶望感が広がっている。(後略)【5月30日 産経】
*******************

****中国 天安門事件で失脚の趙紫陽元総書記の側近連行****
1989年に中国・北京で起きた天安門事件で民主化を求める学生に理解を示したことで失脚した趙紫陽元総書記の側近が公安当局に連行されたことが分かり、海外メディアに接触させないねらいがあるとみられます。

関係者によりますと、公安当局に連行されたのは、趙紫陽元総書記の側近の鮑※とう氏(81)です。

鮑氏は天安門事件で民主化を求めた学生に理解を示し、軍による鎮圧に賛同しなかったとして解任された趙元総書記の秘書で、みずからも国の転覆をあおった罪などで7年間、服役しました。(※とうは「杉」の「木」が「丹」)(後略)【6月1日 NHK】
*******************

現在も続く民主化や人権を求める動きに対する弾圧は、批判を許さないという天安門事件当時の対応と同根です。
「汚職糾弾」や「民主化」を訴えた学生らを武力弾圧し、戦車で踏みつぶした天安門事件を再評価し、当時の共産党政権の対応の間違いを明らかにすることなしに、中国の民主化はあり得ません。

“この25年間、学校教育でもメディアでも天安門事件はタブー視され、全く触れられていない。このため学生の多くは事件のことを知らず、「天安門広場でその日何かイベントでもあるのか」と聞く学生もいたという。”【5月30日 産経】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする