孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

メルケル首相訪日発言に敏感に反応する周辺国、そして日本

2015-03-11 21:21:15 | 東アジア

(日本のメディアでは「最後に握手した」と紹介されていますが、ドイツ紙では「握手しようとしたが、アシモは反応しなかった」とも。まあ、どっちでもいい話ですが、せっかくならアシモもドイツ語でおもてなしすればよかったのに・・・。
写真は【ドイツ大使館HP】より なお、動画もyoutubeにあります。https://www.youtube.com/watch?v=RAjESb5QWSQ 握手シーンはカットされています。全体に微妙な空気にも思えます。)

【「(答えは日本の)社会の中から出てこなければならない」】
来日したドイツ・メルケル首相は、緊張する東アジア情勢や、日本とは異なる選択をしている原発問題などについては、あからさまな日本批判を避ける慎重な姿勢に留意したそうです。

****慎重に徹したメルケル首相=日本内の議論尊重―独紙報道*****
ドイツ各紙はメルケル首相が行った訪日を10日付の紙面で報道。メルケル氏が日本と近隣国の関係改善やエネルギー政策の在り方について、日本国内での議論を尊重する姿勢を示し、「極めて慎重」(南ドイツ新聞)な発言に徹したと伝えた。

独有力紙フランクフルター・アルゲマイネは、9日のメルケル首相の講演に言及。質疑で日本はドイツの戦後対応から何を学べるかという問いに対し、メルケル氏が「(答えは日本の)社会の中から出てこなければならない」と応じたことを紹介。

「日本に助言をするために来たわけではない」という記者会見での言葉も引用し、同紙はメルケル氏が「(発言に)用心深い態度を保った」と分析した。

南ドイツ新聞はエネルギー政策に関し、「他国へのあからさまな忠告は逆効果を生むとメルケル首相は知っている。首相は日本批判はやめ、ドイツが選んだ(脱原発の)道がなぜ正しいと考えているかを説明するだけにとどめた」と解説した。【3月10日 時事】
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そのうえでのメルケル首相の主な発言は以下のように紹介されています。

****歴史や領土問題に関するメルケル氏の主な発言****
「第2次世界大戦後の独仏の和解は、隣国フランスの寛容な振る舞いがなかったら可能ではなかった。ドイツもありのままを見ようという用意があった」

「アジア地域に存在する国境問題も、あらゆる試みを重ねて平和的な解決策を模索しなければならない」(いずれも9日の来日講演会で)
     *
「(ナチスドイツの)過去の総括は和解の前提になっている。和解の仕事があったからこそ、EU(欧州連合)をつくることができた」(9日の日独首脳会談後の記者会見で)【3月11日 朝日】
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岡田・民主代表と会談では、“慰安婦問題にも言及し「東アジアの環境を考えると日韓関係は非常に重要で、きちんと和解を進めることが重要だ」と関係改善を促した。”【3月10日 毎日】とも。

こうしたメルケル首相のドイツの経験を語りながらも問題提起ともとれる発言に、日本や周辺国は敏感に反応しています。

****メルケル氏発言に反響 歴史認識巡り各国****
約7年ぶりの日本訪問を終えたドイツのアンゲラ・メルケル首相による歴史認識に絡む発言を、各国メディアは大きく報じた。

中韓メディアは、日本に歴史を直視するよう求めたなどと指摘し、欧州でもドイツが歴史認識をめぐる日本の議論に介入したと報じられた。
 
 ■ドイツ 「礼儀正しく批判」
メルケル、礼儀正しく批判を試みる――。リベラル系有力紙の南ドイツ新聞(電子版)は、メルケル首相と安倍晋三首相の9日の首脳会談をこんな見出しで伝えた。

今回の訪日は戦後70年という節目の年に実現し、首脳会談は東京電力福島第一原発事故から4年の2日前に設定された。同紙は今回の訪日に、メルケル氏が「歴史認識」「脱原発」の二つの問題提起を秘めていたと分析。

メルケル氏は「外国への助言がしばしば逆効果になると知っており、日本批判をあえて避け、ドイツの選択の正しさを説明する道をとった」と読み解いた。

ところが、会談後の共同記者会見では、脱原発も歴史認識でも日独首脳の方向性の違いが際だった。

また、メルケル氏は日本科学未来館(東京都江東区)を9日に訪れ、二足歩行ロボット「ASIMO(アシモ)」と面会。握手しようとしたが、アシモは反応しなかったという。「訪日中、メルケル氏をこわばらせたのはアシモと安倍首相だった」。同紙は皮肉たっぷりに書いた。

9日付の独保守系フランクフルター・アルゲマイネ紙(電子版)の見出しは「安倍晋三首相に『ドイツの教訓』」。朝日新聞社などが共催した9日の来日講演会での歴史認識を巡るメルケル氏の発言を取り上げ、「期待されていたあからさまな発言で、安倍政権への批判に喜んで用いられるだろう」と伝えた。

 ■中韓 「過去の直視を忠告
中国の国営の中国中央テレビは9日夜のニュース番組で「メルケル首相は、ドイツは過去ときちんと向き合ったから隣国の理解を得られたと語った」とし、「日本に歴史問題で忠告した」と報じた。

国営新華社通信も「ドイツの首相は、歴史を直視することが国際社会復帰の前提になると2度も語った」と伝えた。

一方で、この日の外務省の定例会見では、メルケル氏の発言を引用し「(戦勝国の)フランスは(敗戦国の)ドイツに一定の善意を示した。中国も日本に同様の対応はしないのか」との質問が出た。

洪磊・副報道局長は「このような重要な年に、日本の政治家が正しい選択をすることを希望する」と述べるにとどめた。国際情報紙「環球時報」は10日、「隣国の寛容さがなければ(和解は)成り立たなかったが、最も重要なのはドイツが歴史に向き合ったことだ」と強調した。

韓国の主要紙は10日付の朝刊で、メルケル氏の発言を1面で扱った。いずれも「過去の総括は和解の前提」といった部分を取りあげ、メルケル氏が日本に、過去の歴史の直視や反省を求めたと伝えた。

東亜日報は「ドイツの経験を聞かせる方式で、安倍首相に過去の歴史を直視するよう忠告したものだ」と論評。朝鮮日報は「ドイツと日本は同じ第2次大戦の戦犯国家でありながら、それを清算する努力の面では相反する道を歩んできた」と主張した。

韓国外交省報道官は10日の定例会見で、メルケル氏の発言について見解を問われ、「ドイツが歴史を直視する中で一貫して見せてきた反省が欧州の和解、協力、統合の土台になったことが歴史的教訓だ」と指摘。

「日本が歴史を直視する勇気と過去の歴史の傷を癒やす努力を通じ、周辺国と国際社会に信頼を積み上げていくことを期待する」と述べた。
 
 ■英仏 「議論に介入」「近隣も念頭
英BBCは9日、メルケル氏が、戦後ドイツが国際社会に復帰できたのは「過去ときちんと向き合ってきたため」と述べたと紹介した。

その背景として、安倍首相が戦後70年談話で過去の首相談話での謝罪を骨抜きにするとの見方や、靖国神社参拝に中国や韓国から強い批判があると説明。

メルケル氏の発言は、近隣諸国との緊張関係を抱える安倍政権に、過去との向き合い方を暗に助言したものだととらえて報じた。

英フィナンシャル・タイムズ紙(電子版)はメルケル氏の発言を「日本が第2次世界大戦をどう記憶するかの議論に介入した」と報じた。戦後和平は旧敵国フランスの「寛容な振る舞い」で可能だったとの発言にも触れ、「日本の近隣諸国にもメッセージを発した」とした。

仏紙ルモンド(同)も「過去と向き合う。それがメルケル氏のアドバイスだ」と書いた。(後略)【3月11日 朝日】
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日本社会の中から出てくる答えは・・・
日本の反応は・・・と言えば、気にいらなかった向きが多いようです。

****メルケル独首相、ナチスと日本混同か 「中韓のロビー活動の影響」安易な同一視避けるべき****
ドイツのメルケル首相は10日の民主党の岡田克也代表との会談で、ナチスによる犯罪行為への反省に触れつつ、日本に慰安婦問題の解決を促した。

これは、戦前・戦中の日本と独裁者、ヒトラー総統率いるナチス・ドイツとの混同とも受け取れ、問題といえる。

「米国は同盟国で、長年の付き合いがあるのでまだ知識層は分かっているが、欧州各国は韓国のロビー活動に相当影響されている」外務省幹部はこう警鐘を鳴らす。

韓国だけでなく、中国も安倍晋三首相をヒトラーになぞらえたり、南京事件をユダヤ人大虐殺(ホロコースト)と同一視したりするなどの宣伝工作活動を世界で展開している。

メルケル氏が9日の安倍首相との共同記者会見で、日本の行為を指してではないもののホロコーストに言及し、「過去の総括は和解のための前提だ」と指摘したことも、旧日本軍とナチスを一定程度混同している可能性をうかがわせる。

だが、戦前・戦中の日本では、兵士らの暴走による戦争犯罪はあっても、ナチス・ドイツのような組織的な特定人種の迫害・抹殺行為など全く行っていない。

東京裁判でインド代表のパール判事は「本件被告の場合は、ナポレオンやヒトラー(ら独裁者)のいずれの場合とも、いかなる点でも、同一視することはできない。日本の憲法は完全に機能を発揮していた」と主張している。

また、今年1月末に死去したドイツのワイツゼッカー元大統領も、有名な1985(昭和60)年の演説でこう強調しているのである。「ユダヤ人という人種をことごとく抹殺するというのは、歴史に前例がない」

ナチス・ドイツの戦争犯罪を裁いたニュルンベルク裁判では、有罪となった19人のうち16人までが一般住民に対する殲滅(せんめつ)、奴隷化や人種的迫害による「人道に対する罪」で有罪とされたが、東京裁判では誰もこの罪に問われなかった。

同じ敗戦国とはいえ、日本とドイツでは戦いの様相が全く違う。まして日本の隣国は韓国や中国であって、ドイツが和解を果たしたというフランスやポーランドではない。安易な同一視や混同は避けるべきだろう。【3月11日 産経】
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国家を突き動かす屈辱感
“組織的な特定人種の迫害・抹殺行為など全く行っていない”にしても、八紘一宇のもとで日本を中心とした政治秩序、日本の価値観・文化を他国へ強要し、その過程で多大な生命・財産の犠牲を強いた歴史が正当化される訳でもないでしょう。

そうした過去と向き合うことは現在では“自虐”と見なされるようにもなり、“兵士らの暴走による戦争犯罪はあっても”全体としては国策を誤った訳ではないと自らを正当化するのが近年の流れにもなっているようです。

そこからは、反省も、謝罪も出てきません。出てくるのは“間違ってもいないのに、批判ばかりされる”という屈辱感でしょう。

そうした屈辱感は、かつての“栄光”を取り戻そうと国際秩序を無視した行動にはやるロシアや中国を突き動かしている感情と同じようなものに思われます。

****ギリシャやロシア、中国に見る「屈辱の政治」人間と同じくらい繊細な国民国家、紛争解決には感情への配慮が必要****
アレクシス・チプラス氏は今年1月にギリシャの首相に選ばれる直前に、有権者にこんな誓いを立てていた。「月曜日には国民の屈辱の日々が終わる。外国からの命令とはおさらばだ」

国民の屈辱を強調したこの発言をギリシャの突飛さとして片づける気になった人は、世界のほかの国々にも目を向けるべきだ。(中略)

傷つけられた国家のプライド
・・・・ギリシャ政府による債権者との衝突と同様に、ロシアによる西側諸国との対立は、国家のプライドを傷つけられたという感覚を糧にしている。

ウラジーミル・プーチン大統領と同氏の世代の指導者たちはかつて、ソビエト連邦という今日よりも広大で強力な国家のために働いていた。
そしてプーチン氏は、現代のロシアは引き続き「偉大な国家」として扱われるべきだと主張している。

ロシア政府はウクライナ介入の理由として、海軍基地や市場、国境といった実在する権益を守ることを挙げているが、これは表向きの理由であり、ロシア政府の言葉には国家が屈辱を味わったという感覚があふれている。ロシアはもう軽視したり無視したりできない国だと訴えているのだ。(中略)

中国の他国に対するアプローチにおいても、国家の屈辱という感覚は大きな位置を占めている。

中国の歴史の教科書や北京の国家博物館の展示は、西洋の帝国主義に初めて遭遇した1840年代から日本が敗戦した1945年までの「屈辱の世紀」について詳しく記述している。

中国の若者たちは、弱かった中国は外国の列強に辱められ搾取されたのだと何度も聞かされている。現代の中国はもう小突き回されない、と教えられている。

中国の習近平国家主席は「新型大国関係」なるものを望んでいる。中国は米国と同等に扱われるべきだ、と求めているのだ。

憎み合うイラン政府とISISにも共通点
イスラム原理主義者たちも、西側諸国はイスラム教徒を侮辱し迫害しているとの考え方に乗じている。(中略)

2011年に中東各地で革命が始まった時、アラブの人々の多くは、自分たちが味わっている窮状と屈辱の真の原因は自国の政府にあると判断していたようだった。

しかしその後は、よそ者や西側諸国のせいにするのが再び流行になっている。イラン政府と「イラク・シリアのイスラム国(ISIS)」は互いに忌み嫌っているが、両者とも、西側から受けていると思われている侮辱をはねつけると約束している(イランは、自分たちには核開発計画を進める権利があると主張しており、片やISISは西側の価値観を批判している)。(中略)

これらのことが意味するのは、国際紛争を解決するためには、利益と同じくらい感情について考える必要があるかもしれないということだ。(後略)【3月10日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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いわれなき批判にさらされているという屈辱感、自らの正しさを認めてもらいたいという欲求は、周辺諸国との軋轢を強め、抜き差しならないところへ向かうようにも思えます。

また70年前と同じことを繰り返し、また同じような多大な犠牲を自他に強いて、ようやくそうした感情は収まるのでしょう。
しかし、その反省もまた数十年すれば薄れ・・・。

世界に誇れる文化・国民性を有しながら残念なことです。
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イギリス  5月総選挙でスコットランド独立派躍進か EU離脱を問う国民投票は?

2015-03-10 23:02:46 | 欧州情勢

(教育改革演説もあって学校(The GreenSchool)を訪問したキャメロン首相 生徒は多彩な民族構成のようです “flickr”より By Number 10 https://www.flickr.com/photos/number10gov/16578816638/in/photolist-rgRksD-rxuEUd-rg1MA7-rvithy-rxA74z-rg1LAb-regPy6-rx1kB4-qAdYZK)

英国はゲームを至近距離で見ている観客で、ボールを顔面に食らいやすい
昨日7年ぶりに来日したドイツ・メルケル首相のウクライナ東部やギリシャの問題での超人的な活動については以前ブログでも触れたことがありますが、対照的に最近非常に影が薄いのがイギリス・キャメロン首相です。

保守党のキャメロン首相は、今年5月7日の総選挙後も政権を維持することができれば、2017年末までにEU離脱の賛否を問う国民投票を実施すると約束しています。

現在もユーロ圏の外にいながらも経済的にはユーロ圏の影響を強く受けるイギリスですが、その立ち位置のため、ユーロ圏の問題、ギリシャの問題についてキャメロン首相が何を言っても冷やかな反応しかありません。

EU離脱は、今以上に“欧州に影響されるが、欧州に影響を与える力を持たない”という状況にイギリスを追い込むことにもなります。

****ギリシャ問題、誰も耳を貸さない英国の助言 これが欧州の外れで生きていく英国の未来か****
欧州連合(EU)加盟の是非を問う国民投票の恐らく2年ほど前に、英国は離脱がどんなふうに感じるかを学んでいる。

英国のデビッド・キャメロン首相は9日、ギリシャがユーロ圏から離脱する可能性に備えるために緊急会議を招集した。

会議の後、政府高官らは、ギリシャの離脱は英国経済に打撃を与えると警告した。しかし、キャメロン首相は結果を形成する力を持っていない。

EUに懐疑的で傍観者の英国が何を言っても・・・
ギリシャ新財務相のヤニス・バルファキス氏はベルリンを訪れる前にロンドンに来ることでジョージ・オズボーン財務相を喜ばせたかもしれないが、欧州大陸では誰も両者の話し合いなど全く気にかけなかった。
オズボーン財務相は「非常に悪い結末」になるリスクが高まっていると言うが、実力者は誰も聞いていない。(中略)

英国の傍観者の役割が最も馬鹿げて見えるのは、自分たちの重要性への妄想から、英国の政策立案者がユーロ圏に対し、ユーロ圏をどう運営すべきか指図する時だ。(中略)

ギリシャの問題については、英国はこれ以上ないほどゲームのプレーヤーであることから遠くかけ離れている。英国はゲームを至近距離で見ている観客で、ボールを顔面に食らいやすい。これは良い位置ではない。

だが、それは、ユーロ圏の外にいるが自国の利益がユーロ圏と密に絡み合っている国が必然的に占める位置なのだ。

EU脱退の代償
英国がEUから離脱した場合には、すべてのEU機関で同じことが起きる。
EU離脱のコストと効果に関する経済的議論は、党派色が強いが、不毛だ。EU脱退の条件が全く未知だからだ。(中略)

英国も、残るEU諸国の大半も、英国の離脱に関する交渉で明白な勝利を期待することはできない。十中八九は厄介な妥協に至るだろう。

もし英国が欧州市場に対する幅広いアクセス――例えば、ロンドンの金融セクターがEU全域で営業する権利など――を望むのであれば、その特権に対して対価を払い、その他の単一市場の規制の大半を受け入れなければならない。

英国の市民が他の欧州諸国で暮らし、働き、引退生活を送る大切な権利を維持することにも、相互関係が必要となる。英国は譲歩を勝ち取るだろうが、欧州市場に対するアクセスの縮小と、欧州市場の将来に対して全く影響力を持たないという形で代償を払わなければならない。

欧州に影響されるが、欧州に影響を与える力を持たない――。これは、欧州の偉大な国家の1つにとって、甚だしく無力な立場だ。

我々はギリシャに関するキャメロン氏やオズボーン氏(財務相)、カーニー氏(イングランド銀行総裁)の弱々しい態度を注意深く観察すべきだ。万一、英国の離脱が現実になったら、これが英国の将来なのだから。【2月12日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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英国独立党(UKIP)は支持伸ばすも、大量議席は困難
EU離脱もかかった総選挙で、国民の反EU感情をリードして存在感を増し、保守党の票を奪うと予想されているのが英国独立党(UKIP)です。

****<英国>独立党大会開幕 総選挙で台風の目、EU不信背景に****
英国の欧州連合(EU)からの離脱と移民受け入れの凍結を主張する英国独立党(UKIP)の春季党大会が27日、マーゲイトで始まった。

5月の総選挙(下院)で同党が台風の目になるとみられる中、出席者からは、「英国の将来をブリュッセル(EU)に委ねるわけにはいかない」とEUへの不信の声が相次いだ。

UKIPの党大会は年2回開催。総選挙前の最後の党大会となった今大会のスローガンは「英国を信じよう」。自信を取り戻せとのメッセージだ。

会場に詰めかけた支持者は白人の高齢者が目立つ。(中略)

南部ハンプシャー州ベージングストークの次期総選挙候補者でもあるアレン・ストーンさん(50)は、「自分たちのことは自分で決めたいということに尽きる」と語る。

EUから離脱した場合、経済に深刻な影響を与えるとされていることについて「短期的にはそうかもしれないが、長期的にみれば、英国は、日本や中国、米国と直接、経済的なつながりを作り、経済回復できる」と主張した。

また、移民についてストーンさんは「私の妻は移民のイスラム教徒。移民自体に反対しているわけではない。EUに加盟すれば自由に移民できるという政策に反対しているのだ」と説明した。

英メディアなどによると、UKIPは総選挙で2~10議席程度(現在2議席)をとるとみられている。UKIPが多くの議席を獲得すると、同党が連立交渉の鍵をにぎり、EUからの離脱の是非が英国政治の最大のテーマになる。

政権与党である保守党、自民党、最大野党の労働党は基本的にEUに残る方針を堅持している。
しかし、英国民にはEU域内からの移民に職を奪われた低所得者層を中心に、EU離脱を求める声が強まっており、UKIPが受け皿となって支持を伸ばしている。

UKIPは、英国のEU加盟に反対して離党した保守党議員らが1993年に設立。英調査機関ユーゴブが26日に発表した世論調査によれば、英国の政党支持率は保守党と労働党が33%で並び、UKIPは15%で3位。【2月27日 毎日】
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支持率を大きく伸ばしている英国独立党(UKIP)ですが、小選挙区制のもとでは、かつての自由民主党同様に、獲得票数は議席数には直結しません。

スコットランド民族党(SNP)はスコットランドで議席総取りの勢い
議席数という現実問題で言えば、保守党・労働党の二大政党制を突き崩す可能性があるのは、イングランド独立を問う国民投票で世界の注目を集めた、あのスコットランド民族党(SNP)のようです。

****影落とすスコットランド独立派の躍進 英首相「最悪の結果も」と警戒 英総選挙まで2カ月****
英国の与党・保守党を率いるキャメロン首相は7日、2カ月後の5月7日に迫った総選挙(下院=定数650)で、スコットランド民族党(SNP)が躍進して次期政権に入る恐れが出ているとの懸念を初めて公の場で表明した。

昨年9月の住民投票で英国を揺るがせたスコットランド独立派は、英国の行方に再び大きな影を落としている。

■単独過半数困難な二大政党
各種世論調査によれば、保守党と最大野党・労働党はいずれも単独過半数の獲得は困難とされる。

英紙ガーディアンは各党の獲得議席を保守党275、労働党271、SNP52、自由民主党26、英独立党4と予測。

このため、第3党に躍進する勢いのSNPが政権交代の鍵を握る可能性が出ており、同紙は労働党とSNP、保守党と自由民主党の軸で連立工作が進む可能性があるとみる。

しかし、キャメロン氏は7日の集会で、労働党とSNPの連立について「英国を倒産させようという人たちと、英国を崩壊させようという人たちの同盟だ」と述べ、警鐘を鳴らした。その上で労働党のミリバンド党首に対し、SNPとの連立は組まないと明確に表明するよう求めた。

■保守・労働党が大連立?
昨年9月の住民投票を機に躍進が目立つSNPは、スコットランドでは労働党の議席をすべて奪う勢いだ。

こうした「最悪の結果」を回避するため、保守党と労働党が大連立を組むという案が元保守党の重鎮たちから早くも出されるほど、SNPの「脅威」は現実的なものとなっている。

一方のミリバンド氏は7日、スコットランドのエディンバラで労働党の巻き返しを呼びかけた。SNPとの連立や与野党大連立についての言及はなかった。

総選挙では、キャメロン氏が財政赤字の改善など経済政策の成果を強調する一方、ミリバンド氏は貧富の格差を問題視し、富裕層への課税強化や大学の授業料の抑制を訴えている。

反欧州連合(EU)や移民規制強化を唱える英独立党は、二大政党の支持層を切り崩すには至っておらず、議席の大幅増は見込めないとみられている。【3月8日 産経】
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スコットランド独立問題ではかろうじてSNPの攻勢をかわしたキャメロン首相ですが、政権自体の首根っこをSNPにおさえられる「最悪の結果」もありうる・・・という話です。

SNPは完全な地域政党ですから、全国ベースの支持率では4%程度にすぎません。しかし、その支持はスコットランドに集中しているので“スコットランドでは労働党の議席をすべて奪う勢い”というのが、小選挙区制のもたらすものです。

【「ハング・パーラメント」どころか、3党が連立を組まないと政権が樹立できない混迷の時代に
大手世論調査会社YouGovは、保守党293、労働党270、SNP30、自由民主党30、英独立党5と予測しています。
前回選挙で2大政党と互角の戦いを繰り広げ、得票率23.0%を獲得した自由民主党は、連立与党に入った結果、独自色を出せず、見る影もない衰退ぶりです。

いずれにしても、“どの政党も単独過半数を獲得できない「ハング・パーラメント(宙ぶらりんの議会)」どころか、3党が連立を組まないと政権が樹立できない混迷の時代に英国政治は入りつつある”【3月7日 「木村正人のロンドンでつぶやいたろう」】という情勢です。

小選挙区制にしたからといって、二大政党制で政治が安定する・・・というものでは必ずしもないようです。
日本のように「1強多弱」という場合もあります。

キャメロン首相は選挙戦でも精彩を欠いているようです。

****キャメロン首相は臆病者」=TV討論拒否で批判―英総選挙****
5月の英総選挙に向けた政党党首によるテレビ討論会で、キャメロン首相(与党・保守党)が最大野党・労働党のミリバンド党首との直接対決を拒否し、物議を醸している。

逃げ腰とも受け取れる対応に「臆病者」との批判も出ており、再選を狙う首相に痛手となる可能性もある。(中略)

ミリバンド氏は「首相はおじけづいている。私はいつでも、どこでも討論に臨む用意がある」と表明。
保守党と連立を組む自由民主党幹部も「怖がって逃げている」と述べたほか、ツイッターでも「首相はチキン(臆病者の意)」「自分が首相にふさわしくないことが判明するのを恐れた」と批判的なコメントが相次いだ。【3月8日 時事】
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最初のEU離脱の話に戻れば、イギリスにとっては保守党・キャメロン首相が勝つと国民投票という厄介な事態になります。

その意味では、労働党を軸にした連立政権というのは現実的選択かも。
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中国  大反響を呼んだ大気汚染告発動画 一転、閲覧不可に

2015-03-09 22:03:34 | 中国

(動画「穹頂之下」で大気汚染と政府の無策を告発する柴静氏 【3月9日 zakzak】)

環境保護相も「尊敬に値する」】
PM2.5による大気汚染が深刻な中国で、全国人民代表大会直前に公開された企業や政府の無策を厳しく告発する動画が、「2日間で1億回を超える再生回数を記録」とネット上で注目を集めました。

****中国政府は無策」PM2.5問題、告発動画1億回再生****
中国で微小粒子状物質PM2・5を巡る問題を告発しようと、国営中央テレビの元記者が100万元(約1900万円)を投じて製作した動画が、ネットで1億回を超える再生回数を稼ぎ大きな話題になっている。

企業や政府の無策を厳しく批判し、成長一辺倒の国のあり方に疑問を投げかけた。

動画をつくったのは、国営中央テレビの有名記者・キャスターだった柴静さん。
「大空の下」と題したニュースの特集番組仕立てで、103分の力作だ。

1年ほど前に出産した長女に先天性の腫瘍(しゅよう)があり、大気汚染との関係も疑われたことから、中国を覆うPM2・5の原因と背景を探った。(中略)

先月28日に公開してから約1日で、再生回数が1億回を突破。環境保護相が「尊敬に値する」とコメントするなど、大きな反響を呼んでいる。【3月2日 朝日】
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柴静氏はCCTV(中国中央テレビ)在職中も環境問題では目立った活動を行ってきた女性で、長女の腫瘍という自身の降りかかった問題に突き動かされて、自費を投じて今回動画を作成したと言われています。

****記者として母として100万元を投じる****
・・・・柴静はもともと炭坑の町で大気汚染のひどい山西省出身で、CCTVに在籍中から大気汚染問題について積極的に取材していた。

なかでも「山西:断臂治汚」「塵肺患者人権調査」といった優れた番組のメーン取材記者として、2007年には優れた環境保護活動家に与えられる「緑色中国年度人物」に選ばれている。

2013年に中国で大きな問題となったPM2.5についても積極的に現場に飛び回り取材活動を行っていた。

ところが、この取材直後に妊娠が発覚。しかもおなかの中の娘は腫瘍を患っていた。生まれた直後に受けた手術は成功したが、彼女は娘の看病のためにCCTVを昨年初めに辞職した。

娘の病が大気汚染のせいではなかったかという疑問を消すことができなかったのが、この「穹頂之下」調査報告を始める最初の動機だという。(中略)

取材・制作は自費で、100万元を投じ、スタッフも友人らわずか十人ほどの協力を得ただけで約一年で仕上げたという。

CCTV時代の経験とコネを生かし、環境保護当局の協力も得て、関係省庁幹部や鉄鋼、石油企業幹部、学者たちのコメントもとり、現場の映像や定点観測写真、アニメなどでわかりやすくもドラマチックな構成で中国の大気汚染の問題の本質に迫っている。・・・・【3月4日 福島 香織氏 日経ビジネス】
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腐敗撲滅と環境問題の解決を一気に進めるために指導部が柴氏の告発を利用
上記福島氏の記事によれば、柴静氏の動画では以下のような事柄が取り上げられているそうです。

①汚染は以前からあり、当時は「霧」と表現されていた。
②肺がん死亡率と大気汚染度の分布は一致する。
➂大気汚染に慣れようとしても「適応」することはできない。
④PM2.5の6割は化石燃料の燃焼が由来。原因企業の多くが国が定める排気対策をしていないが、事実上、監査当局は見ぬふりをしている。
⑤低品質の褐炭を、しかも洗浄せずに使用していることで汚染が増大している。
⑥大気汚染の原因の一つは自動車 東京は人口の90%が地下鉄などの公共交通を利用しているのに対し、北京は人口の3~4割がマイカーを利用して移動している。
⑦排出ガス規制基準を満たしていないのに適合シールを貼った「ニセ車」が横行している。また、高品質ガソリン供給不足の背景にはいびつな中国石油業界と市場の問題がある。
⑧老朽化した貨物船や飛行機による汚染も深刻
⑨製鉄業では殆ど利益がでないにもかかわらず、大量の石炭を使って、大量の有害ガスを排出している。実は中国の鉄鋼企業の多くは政府からの大量の補助金を受け取って存続している「キョンシー(ゾンビ)企業」である。
⑩今後も石炭消費、自動車保有は増加し、中国の大気汚染は始まったばかりである。
⑪比較的きれいな天然ガス消費が増加しない背景に、中国石油を中心とするエネルギー企業の寡占問題がある。
【3月4日 福島 香織氏 日経ビジネス より】

一見すると痛烈な政府批判であり、中国でこうした動画が許容されるのか?とも思えるのですが、環境問題を重視して成長の質を高めていこうというのは習近平指導部の方向性とも一致するものです。

そうしたことから、政権指導部も政策遂行のためにこの動画を利用しようとしているのでは・・・との指摘もなされています。

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元女性キャスターが、記者として母として、使命感に駆られて私財を投じて制作した大気汚染調査報道の自己制作「公益動画」という体裁をとっているものの、内容的にみれば、環境保護当局の全面的な協力を得ており、矛先は主に習近平政権が「汚職退治」で徹底的に叩いた中国石油を中心としたエネルギー業界や、山西省の官僚、河北省の鉄鋼産業に向いている。

つまりは、習近平政権の権力闘争の方向性、国有企業改革という政策の方向性と一致しているわけである。

また、この「公益動画」が中国の両会(全国人民代表大会と全国政治協商会議=国会に相当)開幕直前に公開されたのは、両会のメーンテーマを「環境保護」と位置付けるためだという見方も多くの中国メディアで報じられている。

さまざまな利権と結びつく環境問題は、メスを入れようにも抵抗勢力が多いため、こうした「民間人の告発」による世論喚起の雰囲気づくりを狙った、というわけだ。【同上 3月4日 福島 香織氏 日経ビジネス】
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環境汚染の元凶として糾弾されている石油産業は、習政権の進める腐敗粛清運動で権力闘争の相手とされている周永康・前政治局常務委員の支持基盤でもあります。

****中国、PM2・5告発映像で美人キャスター大人気のウラ 習政権、反腐敗運動に利用か****
・・・・厳しい言論統制の中での勇気ある告発に国内外で称賛の声が相次ぐ一方、習近平政権の不穏な動きも見え隠れする。「映像の人気を国営企業改革や反腐敗運動に利用しようとしている」(専門家)というのだ。(中略)

中国共産党による一党独裁下では、報道の自由は著しく制限される。その状況下で、大気汚染を放置する政府批判を繰り広げた柴氏をたたえる声は多い。ただ、このフィーバーに違和感を覚える専門家は少なくない。

『チャイナ・セブン 紅い皇帝 習近平』(朝日新聞出版)の著書がある東京福祉大学国際交流センター長の遠藤誉(ほまれ)氏は、「中国のジャーナリズムの可能性をひらいたという人もいるが、的外れな意見だ。習政権は、一党支配体制を打倒しようとする民主活動家らに対して、より激しい言論弾圧を行っている。彼女の映像は体制批判どころか、むしろ政権の後押しになるものだ」と指摘する。

映像の話題を中国共産党の機関紙「人民日報」が取り上げ、公安当局も公開当初、視聴制限には積極的ではなかった。党が、柴氏の主張が広がるのを黙認していたとすれば、狙いは何なのか。

「法令を形骸化して私腹を肥やしてきた腐敗官僚が、大気汚染を深刻化させてきた。大気汚染の放置は腐敗官僚を野放しにすることと同義。腐敗撲滅と環境問題の解決を一気に進めるために柴氏の告発を利用したのだろう」(遠藤氏)

映像公開は、全人代の開幕直前に行われた。全人代期間中の7日には、陳吉寧環境保護相が、大気や水質などの汚染について「経済発展と環境保護の、人類史上未曽有の矛盾に直面している」と述べ、改善に向けた取り組みへの意欲を示した。

タイミングよく出された柴氏の映像が、腐敗撲滅の延長線上に、大気汚染問題の解決を据える党指導部を勢いづかせたとも言えなくもない。

拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏も「映像が党指導部に好都合な内容だったのは確か」と指摘し、こう続ける。

「大気汚染問題を解決するには腐敗官僚の撲滅とともに、彼らが握る国有企業の利権にメスを入れなければならない。党指導部は、すでにこの改革に手を付け始めており、2月に国有企業を代表する26社に対して秘密警察にあたる『中央巡視隊』の派遣を決めた。3月に入って査察も始まり、3カ月の間に不正を徹底的に洗い出す構えだ。査察結果で、かなりの血の雨が降ることが予想される。柴氏の映像は、その改革の正当性を追認する材料になる」【3月9日 zakzak】
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一転して閲覧できなくなった動画 当局の方針変更
大評判となった柴静氏の動画ですが、ここにきて一転して閲覧できない状態となっているそうです。
政権指導部としては動画が一定に役割を果たしたと判断した一方で、これ以上の政府批判垂れ流しは有害と考えたのでしょうか。「民間人の告発」はここまで、あとは共産党の施策で・・・ということでしょうか。

****ネットで大ヒットの大気汚染映画、動画サイトで視聴不可に 中国****
インターネット上で公開され、再生回数が1億5000万回を超える大ヒットとなった中国の深刻な大気汚染問題を告発するドキュメンタリー映画が、公開からわずか数日で閲覧できない状態となっている。

国営中国中央テレビ(CCTV)のニュースキャスターだった柴静氏が自主制作した「穹頂之下」は7日午後の時点で、「優酷」、「愛奇芸」など国内の主要な動画サイトのいずれでも視聴不可となっていた。

中国版の『不都合な真実』として称賛する人もいる全編103分のこの映画は、動画投稿サイトのユーチューブでは現在も再生が可能。ただ、中国ではユーチューブ自体が遮断されている。

先月28日にインターネット上に公開されてからわずか1日で中国本土での再生回数が1億5500万回を超えたこの映画が遮断されたことは、大気汚染問題に関する国民の声に中国共産党が敏感になっていることを改めて示すものだ。

また、中国当局はこの動画を国営の出版物や放送メディアに積極的に取り上げさせる方針をわずか数日前に示したばかりだったが、その方針が突然変わったことも意味している。【3月8日 AFP】
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ネットを上手に利用したつもりでも、いったんネット上で拡散した批判・不満はやがて指導部のコントロールをふりきって、政権の首を絞める・・・ということにもなりかねません。

本腰を入れる姿勢を強調する指導部だが・・・
対応を変えた中国指導部の意図は判然としませんが、指導部にとって環境問題が避けて通れない重要課題となっていることは確かでしょう。

****全人代2015)PM2.5「1割減」 さらに対策強化*****
深刻な状態が続く中国の大気汚染。北京で開かれている全国人民代表大会(全人代)では今年も主要テーマだ。

環境行政のトップである環境保護相が7日に記者会見し、今度こそ「解決」をめざす姿勢をアピールした。だが、規制強化は経済の減速に拍車をかけかねず、かじ取りは難しくなっている。

陳吉寧(チェンチーニン)環境保護相は7日の会見で、「私は中国の環境管理にとても自信を持っている」と語り、環境保護への投資を増やす考えを明らかにした。

排ガス対策で工場の設備改修や古い自動車の廃棄などを進めた結果、昨年の全国74都市の微小粒子状物質PM2・5の測定値を、前年より11・1%減らしたと説明した。

 ■専門家を大臣に
陳氏は環境問題の専門家で先月末、北京の名門、清華大学長から鳴り物入りで大臣に就任した。年齢は51歳。現職閣僚では最も若い。

習近平(シーチンピン)指導部には、陳氏の清新さと専門性をアピールし、環境悪化に対する国民の不満をやわらげる狙いがあるとみられる。

中国では2012年ごろから大気汚染が大きな社会問題となっている。今年の全人代でも、広東省代表の朱列玉弁護士が中国メディアの取材に「汚染源が国有の大企業だと、環境保護省が調査しようとしない」と批判。「全人代に環境報告を出し、反対が多ければ環境保護相は辞任するべきだ」とも語った。

不満の高まりを背に、李克強(リーコーチアン)首相は5日の政府活動報告で「環境汚染は、民生の患い、民心の痛みである」と表現した。

昨年の全人代でも閉幕後の記者会見で大気汚染に「宣戦布告する」と表明しており、2年連続で対策に本腰を入れる姿勢を強調した。

中国政府は今年1月、「史上最も厳しい」とされる改正環境保護法を施行。汚染企業に対する罰則や行政の権限を大きく強めている。

 ■道のりは険しく
環境改善への道のりは険しい。中国政府は今年の経済成長率目標を「7%前後」と3年ぶりに引き下げた。経済が減速し、経営環境が厳しくなるなか企業が排ガスを浄化するなどの環境対策費用を増やすことは簡単ではない。

環境分野でも官僚腐敗がはびこっているとされ取り締まりが適切にされるかどうかは不透明だ。

PM2・5は前年より減ったとはいえ、それでも高水準だ。北京では7日未明、測定値が一時、日本の環境基準の約9倍となる1立方メートルあたり約310マイクログラムを記録した。【3月8日 朝日】
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柴静氏の動画のにも指摘されているように、これまでは成長重視のなかで“事実上、監査当局は見ぬふりをしている”実態がありました。

このほど、環境保護政策を主管する中央官庁の環境保護部が、汚染企業を抱える地方政府と「約談」(日本で言うところの“行政指導”みたいなもの)を行い、その「約談」の模様がテレビで公開されたそうです。

****中国 環境問題を地方政府に 「丸投げ」する中央****
環境法制の整備と地方指導者の責任
(企業に対する)「約談」という行政行為は決して目新しいものではない。(中略)この時は行政指導とはいえ、発改委と企業の取引に近いものがあった。

しかし今回の「約談」は報道によれば、事前に環境保護部が調査を行い、市長ら責任者に企業の違法性を示すデータを示し、改善要求を提出し、両者のあいだで議事録を交わし、市長らに要求の実現を約束させるという大変厳しい行政指導であることが分かる。(中略)

「約談」の変化
企業への行政指導から地方政府への行政指導へ
これまでの「約談」は、中央官庁の企業に対する行政指導だったが、今回は中央官庁が地方政府に対し行政指導を行ったという点で大きな転換と言える。

(公開「約談」を放映した)「焦点訪談」のキャスターはこれを「『企業監督』から『政府監督』への転換である」と述べ、次のように解説した。

過去には環境保護部門だけが車を止めることに関わり、地方役人はアクセルを踏み込むことに関わる(成長重視―筆者注)だけだった。

現在では地方の政策決定者と環境保護部門がいっしょになって環境汚染に対し車を止めなければならない。

このような環境保護の新方式が功を奏すかどうかは現地の環境に対するガバナンスの効果を見なければならない。

約談はなお「口を動かす」ことにすぎず、真に環境保護問責メカニズムを実際に機能させなければならない。「手を動かす」必要がある。罰すべきは罰し、免除すべきは免除する。汚染に対するガバナンスは政府自らが責務を当然引き受けなければならない。(後略)【3月9日 WEDGE】
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こうした地方政府に責任を負わせる行政を“丸投げ”とも評している訳ですが、地方政府が“アクセル”だけでなく“ブレーキ”を踏むことも求められるようになれば、それは大きな変化と言えます。

当然、「地方経済の成長で大きな成果をあげれば出世できる」といった中央政府の地方評価基準の見直しも必要になります。
日本などでは、住民が選挙などを通じて評価する訳ですが、中国の政治システムにはその部分がありまあせんので。

ただ、環境問題を含めて国民の多様なニーズを党・中央政府が的確に判断できるかどうかには疑問があり、そこが中国の政治システムの基本的問題でもあります。

追記
****大気汚染抗議デモ参加者拘束=政府の責任追及―中国西安市****
中国陝西省西安市で8日、PM2.5など深刻化する大気汚染への政府の対応に抗議し、街頭でデモ活動を行った数人が公安当局に拘束された。支援者が9日、明らかにした。

中国では、国営・中央テレビを離職した著名女性記者・柴静さんが調査した大気汚染の実態に関するドキュメンタリー番組がインターネット上で公開され、市民の環境意識が高まっている。

デモにはマスクを着用するなどした約20人が参加。「政府に責任がある」「健康被害を招いている」と追及するプラカードを掲げた。拘束を受け、支援者はネット上で釈放を求める声を上げている。【3月9日 時事】
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日本  「失踪」する外国人技能実習生  これからの人材確保に向けて

2015-03-08 22:46:40 | 難民・移民

(労働基準監督機関が監督指導した実習実施事業所数 【2014年5月25日 赤旗】http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-05-25/2014052503_01_0.html

人権侵害の温床ともなっている「外国人技能実習制度」】
日本の「外国人技能実習制度」は、開発途上国の人材が最長3年の期限で働きながら日本の技術を学ぶことで、日本で培われた技術等を開発途上国へ移転することを目的とした制度です。

“実習生らの数は2008年の約19万人がピークで、景気の落ち込みなどで一時は減ったが、再び増えて13年は約15万7千人”【3月8日 朝日】

しかし、日本政府が掲げる途上国の経済発展に資する国際貢献という建前と異なり、いわゆる3K職種など日本人労働者を確保できなかったり、中国などの外国製品との価格競争にさらされている中小企業が、安価な単純労働力として外国人を利用しているとの批判が絶えない制度でもあります。

また、賃金や時間外労働等に関するトラブルも多発しており、パスポート取上げ、強制貯金、権利主張に対する強制帰国、保証金・違約金による身柄拘束、強制帰国を脅し文句に使って性行為を迫るような性暴力等々の人権侵害の温床となっているとの指摘もあります。

アメリカ国務省も2014年人身売買に関する年次報告書で劣悪な強制労働の温床になっていると批判しています。

厚生労働省は2014年8月8日立入調査対象2318事業者の79,6パーセントに当たる1844事業所に労働基準関係法令違反を確認したと発表しています。【ウィキペディアより】

なお、従来制度では、労働者ではなく労働関係法令も適用されないにもかかわらず、受入れ企業では労働者と同様に扱われることが多く、結果として賃金や時間外労働等に関するトラブルが多発したことに鑑み、2010年の法改正で、実務に従事する期間はすべて労働者として扱われることとなっています。

今後は人手不足が深刻な介護分野でも受け入れ、期間を5年に延長することなども検討されています。

また、日本側の問題だけでなく、実習生の中にも技能修得ではなく「出稼ぎ」として来日する者が少なからず存在すること、低賃金についても本人が同意している例もあること等々も指摘されています。

追い詰められる実習生・・・失踪、犯罪、不法滞在
こうした問題も多々ある「外国人技能実習制度」ですが、昨年1年間の「失踪者」が4800人にのぼっているそうです。

****過酷労働の悲劇! 外国人の技能実習生2万5千人が失踪 入管「深刻な問題」 過去10年間、平成26年は最多4800人****
日本で働きながら技術を学ぶ「外国人技能実習制度」をめぐり、受け入れ先から失踪した実習生が4千人を超え、過去最多となったことが6日、法務省への取材で分かった。

平成26年までの10年間では約2万5千人が実習先に無断でいなくなっている。

多くの実習生が最低賃金水準で稼働しているが、残業代の未払いなど労働関連法違反は後を絶たない。労働条件の厳しさが失踪増加の背景にあるとみられる。

実習生は勝手に転職できず、国内にとどまっている失踪者の大半は不法就労・不法在留状態にある可能性が高い。法務省入国管理局の担当者は「深刻な問題と理解している」と話し、実態把握を急ぐ方針だ。(中略)

(失踪者は)国籍別では中国が60・6%を占め、ベトナムの26・6%が続く。(後略)【3月7日 産経WEST】 
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****雇用の調整弁にされている****
・・・入管などによると、高賃金を求めて都市部の建設現場や工場などに移るケースが目立つ。ブローカーを介することが多いが、携帯電話などを使って実習生の仲間や同じ国の在留者から職場の情報を得ることもあるという。

難民認定の申請から半年で就労が許可される制度を利用し、実習先を抜け出して難民認定を申請するケースも判明している。

決められた受け入れ先以外での労働は、出入国管理法違反の資格外活動にあたる。実習期間が過ぎるか失踪で在留資格が取り消されれば不法滞在にも問われる。

行方不明者が増える背景には、労働環境が来日前に聞かされたものと違ったり劣悪だったりすることがある。

「外国人技能実習生問題弁護士連絡会」共同代表の小野寺信勝弁護士(札幌弁護士会)は「単純労働者として雇用の調整弁にされている」。

3年の期間中は転職もできず、帰国もしづらいため、事業者には「扱いやすい」存在だという。高い寮費や手数料を取られた上に厳しい労働をさせられたり残業代などが払われなかったりするケースも問題化している。【3月8日 朝日】
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来日前に聞いていた条件と異なる過酷な労働環境については、多くの事例が報じられています。

昨年12月4日、岐阜大が除草効果を美濃加茂市などと共同で研究するため飼っていたヤギ2頭を盗んで食べたとして、留学や技能実習生として日本に入国したベトナム国籍の3人が逮捕されたことが報じられました。

もちろんヤギを盗んだことは犯罪ですが、ヤギを盗んで食べるようなことをするまでになった背景には、現行技能実習制度の問題もあるようです。

****ベトナム人被告はなぜヤギを食べた 「過酷な生活」供述****
・・・・法廷での供述などによると、ロック被告は来日前、ベトナムの田舎町でタクシーの運転手をしていた。両親と妻、娘の家族5人暮らしで、月給は日本円で1万6千円ほど。暮らしは貧しかったという。

「日本で働けば月給20万から30万円。1日8時間、週5日勤務で土日は休み。寮あり」。こんな話を仲介会社から聞き、「思いつかないほど素晴らしい」と飛びつき、来日を決めた。

仲介会社には自宅と土地を担保にして銀行から借金した約150万円を支払い、2013年3月に農業の技能実習生として来日した。

長野県の農業会社でトマトを育てる仕事に就いたが、勤務条件は聞かされていたものとはかけ離れていた。
毎日午前6時から翌午前2時まで働き、休みはない。午後5時までは時給750円、以降は1袋1円の出来高払いでトマトの袋詰めをした。1千袋詰めた日もあったという。

用意された「寮」は、農機具の保管場所。シャワーはあったがトイレはなく、電源盤の下の約2平方メートルで寝た。

「家賃」として月額2万円が給料から天引きされ、手元には6万円程度しか残らなかった。それでも可能な限りの3万~4万円を母国に仕送りした。

寮と職場を往復するだけの日々。7カ月にわたって我慢したが、「頑張ったが、疲れてしまい、逃げ出した」。インターネットの情報を頼りに、愛知県日進市の土木会社で仕事を見つけた。しかし、在留期限が切れた14年3月に解雇され、無職になった。

「借金を残したままベトナムに帰れば担保にしている自宅などが奪われてしまう」。家族にも打ち明けられず、スーパーで弁当などの万引きを繰り返した。(中略)

8月上旬、ベトナム人の仲間約20人で、誕生日パーティーを開いた際、ヤギを盗む計画が持ち上がった。居合わせた7人が車で公園に向かった。(中略)。ベトナムではヤギ鍋などは庶民の味で、すぐに解体して食べたという。(中略)

2人は別の窃盗事件と出入国管理及び難民認定法違反の罪にも問われている。検察側は今月12日、懲役2年を求刑し、弁護側は最終弁論で執行猶予付きの判決を求めた。判決は27日に言い渡される予定だ。【2月19日 朝日】
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もうひとつ、中国人女性の事例。

****外国人実習生「あこがれの日本」で失踪 追い詰められ・・・****
・・・・農業実習生として熊本県に来た中国人女性の場合、別の場所で働いていて警察に摘発され、帰国を余儀なくされた。なぜ、女性は追い詰められたのか。

緩やかな丘に畑が広がる地区に、養鶏場だった建物がある。熊本県合志市。一昨年の夏まで、中国人女性(当時24)が農業実習生として働いていた。

関係者の話や法廷での証言などによると、女性は東北部にある遼寧省のトウモロコシ農家の出身。中学を中退後、弟の学費や家族の生活費を稼ぐためにレストランで働いた。だが、家計は苦しかった。そんなときに実習生の制度を知り、日本へのあこがれもあって興味を抱いた。

「3年働けばもとが取れる」。現地の仲介業者にこう言われたという。保証金として5万元(約95万円)を借り、自己都合で3年以内に帰国した際には20万元(約380万円)の違約金を払う契約も結んだ。2012年8月、鶏の飼育などができる養鶏業の実習生の資格で来日した。

ところが、現実は違った。作業は、「資格外」の卵のパック詰め。月の手取りは時間外労働を除けば約7万円。未明まで残業のときもあったが、日本語の勉強をしながら働いた。

9カ月後、労働基準監督署の調査で資格外作業が発覚し、養鶏場で働けなくなった。

実習生の受け入れの仲介などをする監理団体の寮でいったん過ごしたが、この団体も別の不正行為がきっかけで営業停止に。

「稼ぎがないまま帰国すると借金や違約金が残る」と思い、昨年2月ごろに寮を出た。つてを頼って熊本県八代市内でホステスとして働いた。

同6月、女性は同県警に出入国管理法違反(資格外労働)容疑で逮捕された。同9月、熊本地裁で罰金刑の判決を受け、退去強制命令が出た。

さらに、収容されている間に帰国への不安から床に頭を打ち付けて自殺を図った。止めに入った入管職員にけがをさせたとして公務執行妨害などの容疑で逮捕され、福岡地裁で執行猶予付きの有罪判決を受け、昨年末に帰国した。

「だまされた気がします」。女性は熊本地裁の公判で語った。同地裁判決は、技能実習生の受け入れや送り出しの体制について「問題があったことは否定できない」と指摘した。

福岡地裁の公判では、女性が自ら日本語で記した上申書を提出。日本語で「日本が好きで来た。真面目に仕事したかった」と悔しさをにじませた。

女性が中国側の仲介者に払ったとされる保証金や違約金は、実習生の入国許可などを規定する出入国管理法の関係省令で禁止されている。

女性を受け入れた監理団体の関係者は、女性が中国で払ったとしていることについて「知らない。借金をしてまで来る理由がありますか」と朝日新聞の取材に対して話した。(中略)

■制度廃止し、人権確保した新たな仕組みを
〈技能実習生の人権問題に取り組む指宿昭一弁護士の話〉 
一番の問題は実習生が仕事を変えられないこと。資格外労働をさせられたりした実習生が告発しても、新たな受け手が見つからずに帰国せざるを得なくなる。違約金や保証金は国内法で禁止されても続いている。

実習生制度を廃止し、政府間で労働力のマッチングができるような仕組みを作るべきだ。普通の労働者と同じように、きちんと人権を確保することが必要だ。【3月8日 朝日】
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制度の悪用を防ぐための新法
日本政府は、実習生の人権侵害を防止する対策を検討しています。

****外国人実習、強要に罰則…保護法案を閣議決定****
政府は6日午前、外国人技能実習生への人権侵害に対する罰則を新設するなど、制度の悪用を防ぐための新法「技能実習適正実施・実習生保護法案」を閣議で決定した。

今国会での成立を目指す。
技能実習制度を巡っては、受け入れ団体や企業が、実習生のパスポートを取り上げて労働を強要するなどの人権侵害が問題化している。

新法は、暴行や脅迫などで実習を強要した場合に「1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金」とするなどの罰則を明記した。また、認可法人「外国人技能実習機構」を新設し、受け入れ団体や企業を指導・監督させる。実習生からの相談を受け付ける態勢も整備する。

一方、実習生への対応が優良な企業や団体には、現在最長3年の実習期間を5年に延長できるようにする規定も盛り込んだ。【3月6日 読売】
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【「夢の国」ではなくなりつつある日本
問題が指摘される「外国人技能実習制度」を“改善・拡充”する方向にあるのは、低賃金でも働いてくれる外国人労働者に頼らざるを得ないような人手不足に陥っている職域が存在するという日本の現実が背景にあります。

6日の閣議では介護分野の人材確保に向け、日本で介護福祉士の資格を取得したすべての外国人が国内で働くことができるよう、在留資格に「介護」を加えるとした入国管理法の改正案も決定されました。【3月6日 NHK】

ただ、介護現場では2025年、30万人の人手が足りなくなるとも言われています。介護福祉士の資格を取得した外国人でカバーするのは困難でしょう。外国人技能実習制度に介護分野を対象職種に追加する形で、「資格」も「十分な語学力」もない実習生で取りあえず「量」を確保しようという方向が検討されています。

一方で、多くの深刻な社会問題も伴う移民には実質的に門戸を閉ざしています。

今後、超高齢化社会における労働人口減少が進む日本は、やがて移民を含む外国人労働者の問題に真正面から向き合う必要が出てきます。

外国人労働者の問題を考える際に、日本が条件を緩めれば、「夢の国:日本」に近隣アジア諸国などから、いくらでも外国人がやってくる・・・という暗黙の前提がありますが、そこらへんも次第に変わってきているとの指摘があります。

****人手不足」と外国人(7)「曽野発言」への違和感:日本は「夢の国」ではない(出井康博氏**** 
・・・・一方、厚労省も予期していなかったことがある。外国人介護士たちは、必ずしも日本に永住しようと望んでいないという事実である。

これまで最も多く国家試験合格者を出しているインドネシア人の場合、合格者の4人に1人近くが帰国を選ぶ。日本での永住権を放棄し、インドネシアという「途上国」へと戻っていくのだ。その割合は、今後も減ることはないだろう。

介護の仕事は決して楽なものではない。賃金も看護師などと比べてずっと安い。日本人にとってきつい仕事は、外国人にとっても同じなのだ。しかも、日本とアジア諸国との賃金格差は急速に縮まっている。さらには最近の円安によって、日本で働くメリットも薄らぎつつある。

日本を去っていく「日系ブラジル人」
日本が「経済大国」と呼ばれた時代であれば、状況は違っていたかもしれない。しかし今や日本は、出稼ぎ先としての魅力もずいぶん低下してしまった。そのことを端的に示しているのが、日系ブラジル人社会の現状である。

バブル期の1990年から受け入れが始まった日系ブラジル人は、日本における移民の先行事例と言える。その数は2007年には32万人まで膨らんだ。(中略)ブラジル国籍者の数は、昨年6月時点で18万人を割り込んでいる。

EPA(経済連携協定)介護士は国家試験に合格しても「介護」の仕事にしか就けないが、日系ブラジル人の場合は職業選択の自由もある。

彼らの多くは工場での派遣労働に就いてきたが、人手不足の現在であれば月30万円程度の仕事は簡単に見つかる。にもかかわらず、賃金の安いブラジルに帰っていく。国としての将来性があると考えているからだ。

同じことがEPA介護士たちにも言える。インドネシア人たちは帰国後、日本語を活かして日系企業で働くケースも多い。介護の仕事から解放され、母国でキャリアアップを果たすのだ。フィリピン人であれば、さらに就労条件の良い欧米諸国へと向かっていく。(後略)【2月27日 フォーサイト】
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外国人技能実習生であれ、経済連携協定(EPA)を通じた有資格者であれ、移民であれ、日本側の都合だけでなく、きちんとした受け入れ態勢をつくっていかないと、必要な時に必要な人材が集まらないという事態も考えられます。

すでに、ベトナムやミャンマーの労働者をめぐる日本・韓国・台湾などの争奪戦が始まっており、制度的に劣後する日本は苦戦しているとも報じられています。【2014年7月9日 NHK http://www.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail_3528.html
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エジプト・シシ政権  相次ぐ国内テロ リビア混乱の影響阻止も困難

2015-03-07 22:30:07 | 北アフリカ

(ピラミッドと並ぶエジプト観光の目玉、アスワンのアブ・シンベル神殿 アスワンでもテロと聞くと、1997年のルクソール事件(日本人10名を含む外国人観光客61名とエジプト人警察官2名の合わせて63名が死亡、85名が負傷)を思いだしてしまいます。 写真は【3月2日 AFP】)

治安対策を巡る世論の不満に配慮して内相を更迭するも・・・・
エジプト・シシ政権は、強権的・旧体制回帰との批判を受けつつも、秩序回復・治安対策のためにイスラム同胞団などのイスラム主義勢力の封じ込めに躍起となっています。
(2月7日ブログ「エジプト 旧体制への回帰、強権的な姿勢を強めるシシ政権 経済的成果が出ないことへの国民不満も?」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150207

しかし、テロが相次いでいるのが現状です。

****観光地アスワンで爆弾が爆発、2人死亡 エジプト****
エジプト南部の観光地アスワンで1日、警察署近くに仕掛けられた爆弾が爆発し、2人が死亡、警察官1人を含む5人が負傷した。警察が発表した。

アスワンはルクソールと並ぶ上エジプト地域の2大観光地。

同国では2013年にイスラム組織出身のムハンマド・モルシ大統領が解任されて以来、爆弾攻撃や銃撃事件が頻発しているが、アスワンでこのような攻撃が起きたのは初めて。

モルシ氏排除以降起きている暴力事件の多くは、過激派組織「エルサレムの支援者(アンサル・ベイト・アルマクディス)」が先導するものだ。同組織は、シリアとイラクの広域を支配下に置くイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」への忠誠を表明している。【3月2日 AFP】
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****高裁前で爆発、死者も=首都中心部の繁華街―エジプト****
エジプトの首都カイロ中心部にある高等裁判所前で2日、爆弾がさく裂し、地元メディアによると少なくとも1人が死亡、7人が負傷した。

現場は人通りの多い繁華街。「アラブの春」と呼ばれた2011年の民主化要求運動の舞台となったタハリール広場にも近い。治安当局は近くの地下鉄駅を一時閉鎖するなどし、厳戒態勢を敷いた。(中略)

エジプトでは13年7月の事実上のクーデターでイスラム組織ムスリム同胞団出身のモルシ元大統領が失脚して以降、爆弾事件が相次いでいる。

東部シナイ半島では、過激派組織「イスラム国」に忠誠を誓う組織が主に治安機関を標的とした攻撃を繰り返している。【3月2日 時事】 
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経済回復が進まず国民の不満が増大しているエジプトにとって、アスワンのような観光地でのテロは、基幹産業である観光業の回復を妨げる形で大きな痛手となります。

個人的にも、“アスワンでテロ”と聞くと、やはりエジプト観光はしばらく見合わせた方がいいかな・・・・と思ってしまいます。

****<エジプト>内閣改造で内相交代 治安改善へ警察引き締め****
エジプト大統領府は5日、イブラヒム内相の退任を含む内閣改造を行ったと明らかにした。

今月中下旬に二つの大規模な国際会議を控えた時期に治安を担う内相を交代させるのは極めて異例で、懸案の治安改善に向けて警察当局の引き締めを図る狙いがあるとみられる。

軍と並ぶ権力機構である警察のトップ更迭は、軍出身のシシ大統領の権力基盤が固まったことも象徴している。(中略)

エジプトでは今月13~15日に経済再生に向けた国際会議、28~29日にアラブ連盟首脳会議が開かれる。政府は経済会議で海外からの投資を呼び込むため、治安の改善をアピールしたい考えだが、2月下旬以降に首都カイロ中心部で爆発事件が相次ぐなど治安状況は厳しいままだ。

さらに2013年のクーデター以降続くデモ隊の弾圧、今年2月にカイロのスタジアムで起きたサッカーファンとの衝突など、警察当局の強硬な対応には市民からも疑問の声が上がっていた。

シシ氏は治安の改善を期待されて大統領選で圧勝した経緯があり、治安対策を巡る世論の不満に配慮してイブラヒム氏を更迭した可能性もある。(後略)【3月6日 毎日】
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ただ、内相を代えてみても治安改善は期待できませんし、シシ政権の体質や秩序回復が至上命題となっていることから“警察当局の強硬な対応”にもあまり変化はないように思われます。

“シシ軍事政権はイスラム過激主義(ムスリム同胞団)との死闘を制する他、生き残ることができない”【選択 3月号】とも。

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選挙で選ばれたムスリム同胞団出身のムルシ元大統領をクーデターで追放したシシ大統領は、人口の大半が貧困ラインを割っているエジプト社会に根強い人気のある同胞団を根絶やしにしない限り安心して夜も眠れない。

幸い、問題意識を共有する湾岸産油国の強い支援を得ることに成功し、ムスリム同胞団とそれに類する組織、例えばガザ地区のハマスなどのメンバーは、ほぼ世界的にお尋ね者として取り締まる体制を築き上げることに成功した。

何百人という数の活動家の死刑判決を勝ち取り、反政府デモも時に散弾銃や催涙弾を水平撃ちしてまで鎮圧しているのだ。【同上】
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イスラム系過激主義者の武器庫と化した混沌リビア
エジプトの治安回復が進まない理由のひとつに、隣国リビアの混乱・内戦状態があると言われています。

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治安対策が進まない。その大きな要因のひとつは、リビアがムスリム同胞団の楽園と化していることだ。

ISだけでなく、あらゆるイスラム系過激主義者の武器庫と化したリビアは、サブサハラ方面だけの脅威ではない。広大な砂漠を介して、エジプトと一千キロ以上の国境で接しており、武器と人員の移動はほぼ無制限である。【同上】
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そういう政治状況のなかで、テロ組織ISがリビアのエジプト人のコプト教徒(キリスト教の一派)21人の処刑動画を公開したことに対し、シシ政権は2月16日、隣国への空爆による報復という強硬手段に出ました。

シシ政権が強硬手段に出たのは、自国民保護という話だけでもないようです。

*****エジプト苦境の「リビア介入****
・・・今回、子どもを含む一般市民の犠牲者を出したとされるデルナの空爆をエジプトが強行したのはなぜなのか、シシ大統領はそんなグローバルな利益のために動いたわけではなかろう、とアラブのメディアは喧しい。

背景に、エジプト人キリスト教徒が殺害されたのは今回が初めてではない、ということがある。

非公式な統計で百万人以上の労働者がリビアに滞在しているとされるエジプト。政府は自国民の救済に無関心で、人質事件が発覚しても手をこまねいていると批判されていたのである。

昨年二月には七人のキリスト教徒がベンガジでイスラム勢力に惨殺されたが政府は動かなかった。・・・・【同上】
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リビアには現在、西部トリポリを中心とするイスラム主義勢力と、東部トブルクを拠点する(旧カダフィ政権の残党を含む)世俗派勢力の二つの政府があり、更に、以前からリビアで活動していたアルカイダ系テロ組織、近年勢力を増しているIS系の武装勢力も加わって、“混沌”としか言いようのない状況にあります。

****混沌リビアの勢力図を読む*****
・・・・エジプトのアブデル・ファタハ・アル・シシ大統領は以前から、世俗派で構成するトブルク政府と(旧カダフィ政権の将軍)ハフタルの民兵組織を支持してきた。

宿敵のイスラム主義組織ムスリム同胞団の残党に、リビアのイスラム過激派が加勢する事態を防ぎたいからだ。

だがエジプトも国際社会も、今は深刻なジレンマを抱えている。このまま手をこまねいていれば地中海の南側で過激派の脅威が増すことになるし、下手に手を出せば各地のイスラム主義民兵組織が手を組んで巨大なジハード連合が生まれかねない。(後略)【3月10日号 Newsweek日本版】
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リビア介入に及び腰の欧米 中東各国の利害も不一致
シシ大統領としては、“リビアの東半分が、仮に、かつての「満州国」のような傀儡政権であれ、国連や欧米主導の委任統治であれ、適切な治安能力を有する世俗国家となってイスラム過激主義者の進出を食い止めてもらいたいと切望している。”【選択 3月号】ということです。

そうした流れのなかで、シシ政権は東部トブルク政府と協力する形で、イスラム過激派の拠点都市デルナ空爆を強行し、更に、国際社会にリビア介入を求めています。

しかし、混乱のリビアに敢えて表立って介入しようという国はそうありません。

****国際社会、軍事介入に及び腰=一層の泥沼化懸念―リビア情勢****
リビアで過激派組織「イスラム国」に対する空爆を実施したエジプトが、リビアへの国際部隊展開を求めている。ただ、泥沼化の拡大を恐れる各国の反応は鈍く、結果的に同組織の一層の台頭を招きかねない状況だ。

エジプトのシシ大統領は、17日放送のフランスのラジオで、「国連安保理決議に基づく軍事介入が必要」との認識を示した。これに対し、欧米はリビア国内各派による協議を通じた「政治的解決が必要」との立場で、軍事介入には慎重な立場を崩していない。

慎重姿勢の背景には、リビアの「政府分裂」がある。
現在、東部を中心とする民族派と、西部の首都トリポリを掌握するイスラム系勢力がそれぞれ政権の正統性を訴えている。イスラム国系の過激派も中部シルトなどで独自の統治を主張し、各勢力が覇権争いを繰り広げている。【2月18日 時事】 
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中東諸国の利害もエジプトと異なるところがあります。

****ISが引き裂くエジプトと湾岸諸国 - 酒井啓子 中東徒然日記****
・・・・2011年にカダフィ政権が崩壊して以降、リビアでは各派入り乱れての内戦状態となってきたが、シリアほどに国際社会の注目を浴びてこなかった。

ただ、シリア同様に、域内諸国は何らかの形でリビア内戦に関与しており、代理戦争化していた。
トルコとカタールがイスラーム系の諸組織を支援し、エジプトとUAEは非イスラーム主義系を支援していた、と言われる。よって、エジプト軍によるリビア空爆には、カタールが賛成しなかった。

そこにエジプトが、カチンときた。カタールといえば、ムバーラク政権転覆以降、2012年から一年間、エジプトの政権を担ったムスリム同胞団を支援していたことがよく知られている。

現在のエジプトのスィースィー政権は、その同胞団政権を2013年に打倒して成立した政権だ。以来、カタールとスィースィー政権下のエジプトは冷戦状態にあり、昨年秋にカタールが自国に亡命していた同胞団員を追放し、年末にはサウディアラビアの仲介でようやく関係改善にこぎつけたところだった。

にもかかわらず、カタールは再びエジプトの行動にいちゃもんをつけた。対してエジプト政府は、「カタールはテロリストを支援している」と糾弾、今度はカタールがエジプトから大使を引き揚げるまでに発展した。

カタールとの不協和音程度であれば、さほど深刻ではない。だが、今回エジプトが衝撃を受けたのは、同じくカタールの同胞団支援を嫌い、エジプトの軍事政権を支えてきたはずのサウディアラビアなど、他のGCC(湾岸協力機構)諸国の姿勢だ。

GCC諸国はカタールを擁護して、エジプトの行動を諌める態度を取った。GCCはその後改めて「エジプトを全面的に支持する」と表明したが、亀裂は根深い。

サウディアラビアやUAEからの財政支援でもっているエジプト経済だが、昨年後半の半年間、湾岸産油国からの支援は一昨年から比べてわずか2%に減ってしまったと、エジプト財務省は指摘している。【2月27日 Newsweek】
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下手にリビアに介入すると、今は競合しているアルカイダ系とIS系のイスラム過激派が連携する形となり、そこにエジプト国内の過激派も集結し“巨大なジハード連合”が生まれるという、シシ大統領にとっては悪夢ともなります。

シシ大統領としては、自国に波及するリビアの混乱を放置もできないし、かといって介入も難しい。国内のテロは止まない・・・という苦しいところです。

****タフガイ大統領」がISIS空爆で抱えたリスク****
・・・・おぞましい惨劇が今後も繰り返されるようなら、シシの無力さを浮き彫りにする結果になり、政権の正統性の根拠は大きく揺らぐ。

シシは、自分なら国家と治安を守れると言った。軍人出身の「タフガイ大統領」にも無理だと分かったら、次に何が起きるのか。(後略)【2月27日 Newsweek】
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欧州  ロシア対応には各国で独自の事情・・・ハンガリー、リトアニア、スウェーデン

2015-03-06 22:13:11 | 欧州情勢

(リトアニアのグリバウスカイテ大統領(左)を迎えるウクライナのポロシェンコ大統領=2014年11月24日、キエフ(AP=共同)【014年11月24日 産経ニュース】)

けん制しあう欧米・ロシア
ウクライナ東部の情勢は一応の停戦合意のもとにはありますが、依然として先行き不透明な緊張状態にあるとも言えます。

****<ウクライナ停戦合意>欧米首脳、露に追加制裁を警告****
オバマ米大統領と独仏英伊、欧州連合(EU)の首脳が3日、電話協議し、ウクライナ東部での停戦合意が破られた場合、ロシアに追加制裁を導入することで一致した。

欧米首脳が停戦合意と制裁を結びつけ、共同でロシアに警告するのは初めて。

欧米はロシアの支援を受けた親露派武装勢力が、停戦合意を無視してウクライナ南部の港湾都市マリウポリを攻撃する可能性があると見ており、強い警告で停戦合意順守を要求した。(後略)【3月4日 毎日】
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ロシア・プーチン大統領も、ウクライナ政府を支援する欧米側へ軍事的圧力をかける形で、軟化の兆しは見せていません。

****ウクライナ情勢】露軍がクリミア半島で軍事演習 2千人超動員 NATOを牽制か****
ロシア国防省は5日、同国が昨年3月に併合したウクライナ南部クリミア半島や、グルジアの親露分離派地域、ロシア南部などで、計2千人以上を動員した軍事演習を開始したと発表した。4月10日まで実施する。

ロシア軍はまた、欧州内の飛び地であるカリーニングラード州でも5日、演習を開始した。

クリミア半島が面する黒海では、北大西洋条約機構(NATO)軍が4日、対空、対潜水艦の演習を始めており、ロシアの一連の動きはNATOを牽制(けんせい)する狙いがあるとみられる。

インタファクス通信によると、ロシアのアントノフ国防次官は5日、NATOが「ウクライナ東部情勢を口実に、ロシア国境に接近している」と述べるなど、NATOの活動に強い警戒を示していた。

ウクライナ東部をめぐっては、停戦合意に基づき前線からの重火器撤去が進められているにもかかわらず、戦闘による死者が連日のように発生している。

米欧州軍のホッジス司令官は3日、ウクライナ領内にロシア軍兵士約1万2千人が展開し、クリミア半島には2万9千人が駐留していると指摘した。【3月5日 産経】
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ロシアは2月25日から27日にかけても、バルト3国のエストニアとラトビアに国境を接し、ウクライナにも比較的近い北西部プスコフ州で精鋭部隊の空挺軍が大規模な演習を行い、欧米側をけん制しています。

ロシアを範とする「非リベラル国家」を目指すハンガリー・オルバン首相
“停戦合意が破られた場合、ロシアに追加制裁を導入することで一致した”という欧米側ですが、欧州内部は決して一枚岩ではありません。

オルバン首相のハンガリーのように、明確にロシア支持の姿勢を見せている国もあります。

****欧州の足並みを乱す4か国****
■ハンガリー
ハンガリーの現政権もロシアと友好関係にある。先月プーチンは首都ブダペストを訪れて大歓迎された。

EU加盟28力国はロシアからの燃料輸入への依存を減らそうとしているが、長期に安価で供給するとのプーチンからのおいしい話をオルバンービクトル首相は断れるわけもない。

「ロシアからの経済協力なしに欧州経済の競争力が保てるなどと考えるならそれは幻想だ」と、オルバンは述べた。

オルバン政権は国内の司法、報道、市民社会に対する激しい締め付けで、EU内から批判を受けている。オルバ
ンは昨年、「新しい非リベラル国家」を築くという目標を語り、その模範としてプーチンの名を挙げた。(後略)【3月10日号 Newsweek日本版】
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ハンガリー・オルバン首相の話や、ロシアにガス供給を依存する中東欧の事情については、2014年12月7日ブログ「ロシア 天然ガスパイプライン「サウスストリーム」の計画を中止 揺れる中東欧諸国」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20141207)でも取り上げたところです。

EUからの支援を巡って厳しい状況が続くギリシャ・チプラス首相も、EUに代えてロシアに頼るような姿勢も見せることでEUをけん制しています。

ロシアも、こうしたギリシャ側の要請に応える姿勢を見せることで、EU・NATO内部の対ロシア政策に関する温度差を明らかして、揺さぶりをかけています。

また、フランス・国民戦線(マリーヌ・ルペン党首)に代表される、欧州各国の反EUを掲げる右翼勢力もロシアには融和的な姿勢をとっており、こうした勢力の台頭に各国政権は神経をとがらせています。

対ロシア政策を牽引するドイツ・メルケル首相にしても、経済的にも、軍事的にも、ロシアとの決定的な対立は避けたいところで、経済悪化も、軍事力行使もいとわない(ようにも見える)プーチン大統領に対してどこまで踏み込んだ施策がとれるかは疑問があります。

対ロシア強硬派のリトアニア「鉄の女」】
一方、ロシアの脅威に強く反応している国もあります。
旧ソ連から独立し、もともとロシアへの警戒感が強いバルト三国のひとつ、リトアニアのグリバウスカイテ大統領はその代表例です。

グリバウスカイテ大統領は、その強硬な姿勢から「鉄の女」の異名をとりますが、ロシア・プーチン政権を「テロ国家」と呼び、「彼らは隣人を脅威に陥れている」と対ロシア強硬路線をリードしています。
(彼女は空手の黒帯ということで、その点でも柔道家プーチン大統領とはいい勝負かも)

リトアニアは“1940年、独ソ不可侵条約の秘密議定書によりソ連に併合された。ゴルバチョフ政権下の90年3月に独立を宣言、91年にソ連軍の介入で市民に死者が出た。”(血の日曜日事件)という経緯から、ロシアに強い警戒感を有しています。

バルト海沿岸の小国で人口300万人のリトアニアは、欧州で最も急成長を遂げている経済国の1つですが、今年1月から19番目のユーロ圏加盟国となっています。

景気後退とデフレの瀬戸際に立たされているユーロ圏に今加盟するメリットは?との疑問もありますが、経済的な理由のほかに、ロシアに地理的に近く、ロシア語を話す住民が5~8%ほど存在する国情から、安全保障的な見地でユーロ圏・EUとの関係強化を図っているとも思えます。

なお。リトアニアは独立回復後、エストニアやラトビアとは異なり、残留ロシア人に対しほぼ無条件でリトアニア国籍を与えており、エストニアやラトビアのようなロシア系無国籍者の問題はありません。

バルト三国は緊張する欧州・ロシア関係の最前線にあって、昨年来「ウクライナの次は・・・」との危機感が高まっています。

****バルト諸国を揺るがすロシアの領空侵犯****
バルト諸国でロシアによる軍事的挑発が急増し、ロシアが地域大国として力を振るおうとする中で、この地域がウクライナに続く次の開拓地になるのではないかと懸念している人々の神経を逆なでしている。

バルト諸国の領空警戒任務にあたる北大西洋条約機構(NATO)の戦闘機は今年に入り、リトアニアの国境沿いで68回緊急発進(スクランブル)した。過去十数年間で圧倒的に多い回数だ。

ラトビアは、ロシアの航空機の領空接近が確認され、危険な行動がないか監視された「きわどい事案」を150回記録した。エストニアは、今年5回、ロシアの航空機に領空を侵害されたと述べており、その数は昨年までの8年間の合計数7回に迫っている。

フィンランドは、過去10年間の年間平均が1~2回だったのに対し、今年は5回、領空を侵害された。一方、スウェーデンは先週、カール・ビルト外相が8年間の外相在任中で「最も深刻な領空侵犯」と呼んだ一件に見舞われた。(後略)【2014年9月25日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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こうした緊張・危機感から、リトアニアでは「戦時サバイバル・マニュアル」が配布されたそうです。

****リトアニアで戦争を生き残る「マニュアル」配布、ロシアに懸念か****
バルト3国リトアニアの国防省は28日、ウクライナ危機を受け、全国の学校に「戦時サバイバル・マニュアル」の配布を開始した。

全98ページのマニュアルは、地下シェルターを設置することや、人質となった際の対処法、交戦地帯から脱出する方法など、緊急時や戦時における実践的なアドバイスを紹介している。

「避難し損ねた場合は、銃を手に入れなさい。無法者から身を守る助けになるでしょう」などと助言している。

マニュアルはロシアに直接言及してはいないが、ユオザス・オレカス国防相はAFPの取材に対し、ロシア政府がウクライナ東部の分離独立派を支援していることへの懸念から作成されたものだと説明している。【1月29日 AFP】
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また、ドイツに対し対ロシア戦用の戦車の輸出を求めましたが、過度に緊張感を高める危険があるとするドイツ・メルケル首相から拒否されています。

****<ドイツ>対リトアニア、戦車輸出を拒否…露刺激を回避か****
ドイツ政府は、旧ソ連・バルト3国のリトアニアに対する戦車の輸出を拒否した。独紙ウェルト日曜版が伝えた。ドイツ国防省も22日、報道内容を認めた。

ウクライナ情勢緊迫化を受け、ロシアの脅威を訴えるリトアニアは、北大西洋条約機構(NATO)主要同盟国のドイツに武装車両を要請していた。

だが、ウクライナ問題で仲介・交渉役を務めるメルケル政権が、過度にロシアを刺激する事態を避けたとみられる。(後略)【2月23日 毎日】
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実際にロシアとの武力衝突という事態になれば、多少の戦車があっても何の役にも立ちませんが、それでもリトアニア・グリバウスカイテ大統領は防衛強化路線をまい進しています。

なお、こうしたバルト三国からの要請もあって、北大西洋条約機構(NATO)は、ロシアの脅威に対抗して新たに5000人規模の緊急対応部隊を創設することを決めており、バルト三国にもその司令部が置かれることになっています。

****リトアニア、徴兵制再開を計画=ロシアの脅威受け****
バルト3国のリトアニアからの報道によると、グリバウスカイテ大統領は24日、記者団に対し、ロシアの脅威への懸念が高まっていることを受け、今秋からの徴兵制再開を計画していることを明らかにした。

大統領は「われわれは一時的に兵役を再開しなければならない。目下の地政学的状況を踏まえれば、兵員の確保を加速する必要がある」と強調した。

5年間、男子3500人程度を毎年集める計画で、実施には議会の承認が必要。

リトアニアは2008年に徴兵制を廃止していた。【2月25日 時事】 
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リトアニアと同じバルト三国のひとつエストニアでは3月1日に議会選挙が行われました。
選挙では国境を接するロシアの脅威への対応が主要争点となり、対ロ強硬姿勢をとるロイバス首相の中道右派与党・改革党が30議席を確保し、第1党を維持しています。

ただ、“中道左派野党・中道党はロシアとの関係改善を通じた地域情勢の安定化を訴え、ロシア系住民の票を集めたが、27議席にとどまった。”【3月2日 時事】とのことですが、与党との議席数差があまり大きくなく、国論が二分されているように見えます。

周辺諸国との集団安全保障を強化するスウェーデン
ロシアの脅威増大を感じているの点では、北欧諸国も同様です。

昨年10月、スウェーデン領海内で国籍不明の潜水艦とされる不審船の目撃情報があり、スウェーデン海軍は、冷戦終結後、最大規模の動員態勢で捜索に当たりました。この件に関しては、ロシア側は関与を否定しています。

****ロシアの挑発で国防強化する北欧諸国****
NATO非加盟のスウェーデンはフィンランド、デンマークなど周辺諸国との集団安全保障を強化中だ

北欧諸国でロシアの攻撃に対する警戒感が高まるなか、2月にフィンランドと軍事協定を結んだスウェーデンは、今月に入ってNATO(北大西洋条約機構)加盟国のデンマークとも同様の協定を結んだ。

スウェーデンのペーター・フルトクビスト国防相は、この協定をNATO加盟に向けた一歩とみるのは誤りだと強調した。

「北欧諸国が2国間及び複数の国家間の協力体制を深化することで、国防を強化し、周辺地域とより広範な領域で有効な作戦行動を実施できる」と、フルトクビストは3日、首都ストックホルムのメディアに語った。

「デンマークとの協力の深化は、北欧の近隣諸国との密接な協力体制構築の一環であり、地域の安全保障の強化を目的としたものだ」

NATO非加盟国のフィンランドとスウェーデンが協定を結んだ背景には、昨年3月のクリミア編入以降のロシアの動きがあると見ていい。昨年4月に始まったウクライナ東部の戦闘は今も収まらず、ロシアの軍用機が西側諸国の領空に接近するトラブルが相次いでいる。

スウェーデンは非同盟中立の立場をとってきたが、ロシア空軍は13年4月、バルト海上空でスウェーデンを標的にした模擬演習を実施。

昨年10月にはストックホルム群島近くのスウェーデンの領海で不審な海中活動が報告され、ロシアの潜水艦が侵入した疑いが持たれている。

バルト諸国はいずれも昨年、領空近くを飛行するロシアの航空機を確認している。領空侵犯には至っていないが、挑発的とも見える危険な飛行に、スウェーデンとデンマークは強く抗議している。(中略)

デンマークのニコライ・ワメン国防相は2日、国内メディアの取材に対し、「(スウェーデンとの軍事)協力の拡大を検討するに至った理由」として、ウクライナ東部の最近の情勢を挙げた。

スウェーデンはかつては中立政策を堅持していたが、ここ数年NATOとの協力拡大の動きが活発になっている。世論調査でもNATO加盟を支持する人が増えているが、今も中立支持が過半数を占める。今年1月の調査では、NATO加盟支持は33%で、1年前に比べて5%増えた。

昨年10月に発足したスウェーデンの新政権は中道左派の社会民主労働党と緑の党の連立政権で、両党とも伝統的にNATO加盟に反対してきた。

「スウェーデンはNATOと密接な関係を持ちながら、非加盟国であるため発言権はない。これは奇妙な状況だ」と、スウェーデンの軍事専門家ヨハン・ヒルデブラントは言う。「何度プロポーズされても結婚を断って、愛人の立場に留まっているようなものだ。結婚すれば、いろんなメリットがあるのに」【3月5日 Newsweek】
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まあ、愛人にも結婚にないメリットがいろいろありますので・・・・。

なお、フィンランドのストゥッブ首相は“当面はロシアが「普通の西側の国になることはない」との現実を受け入れつつ、忍耐強くロシアとの共存を目指すべきだとの考えを示した。”【2014年10月27日 毎日】とのことで、ロシアに前向きな変化が訪れることを「辛抱強く待つ」重要性を訴えています。

“ベルリンの壁崩壊で東西冷戦が終結に向かってから25年がたつが、「個人としては長くても歴史的には短い」”とも。

各国それぞれの事情による、それぞれの対ロシア対応です。
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ブラジル  政権を揺るがす国営石油会社を巡る汚職事件 社会に蔓延する「犯罪者」リンチ

2015-03-05 23:15:25 | ラテンアメリカ

(2013年6月のサッカー・コンフェデレーションズカップ開催を契機に、公共交通機関の値上げや物価上昇などへの抗議行動が相次ぎましたが、一部は暴徒化。 抗議の名を借りた破壊行為も、「正義」を装うリンチと同根でしょう。 “flickr”より By Gustavo Basso https://www.flickr.com/photos/gustavocb/10505852985/in/photolist-h1nf5i-5Uk5w-6XRov5-5R397-fkaopR-cp3wXm-eF7hj-p7tJ-k6da-3dC9r-3dY4J-pzfxnA-4R59B-eaFTif-4n4Gs-9iAHRf-PX7b-jHzab-Fy9aP-egBq4p-9jWc1S-3XjkSD-3Xjjp6-8jsjzm-EcxR-7FeFWw-dzsTYb-fp53t8-8jsyEJ-fkF7pb-fiEeGU-ptUuhK-nTTmDv-4eTUsT-fpjiSJ-4AMfB3-fpjiNJ-DGhf-BYKt-m2r3pg-h3f8vE-h1ofBr-48Axa3-fkEpL1-fkpxZo-6XG3t2-fiq1EB-fkEpAQ-Ecrn-kAqJWR

政治家に流れたカネは約9800億円?】
ペトロブラス(ブラジル石油公社)は、ブラジル・リオデジャネイロ市に本社おく、ブラジルというより南半球最大の石油採掘会社で、1日あたりの石油採掘量は200万バレルを越え、他の国際石油資本と比較しても遜色のない水準を誇っています。その議決権の過半数をブラジル政府が有しています。【ウィキペディアより】

ブラジル政治が、その“カネのなる木”との言える巨大石油企業ペトロブラスをめぐる汚職事件で揺れています。

****<ブラジル>国営石油会社汚職に54人関与疑惑 大統領は****
ブラジルのジャノ検事総長は3日、国営石油会社ペトロブラスを巡る汚職事件に関与した疑いがある54人に対する捜査開始許可を、連邦最高裁に申請した。

不正が行われていたとされる時期にルセフ大統領がペトロブラスの取締役会議長を務めており、大統領の弾劾を求める世論が高まるとみられる。

捜査対象となる54人の氏名は最高裁が公表するまで明かされない。地元メディアは、上下両院の議長をはじめ、政権与党の労働党など有力与野党の国会議員が含まれていると報じており、ブラジル政治史上最大の疑獄事件に発展する恐れがある。

ペトロブラスの汚職疑惑は2014年3月に発覚。同社は過去10年にわたり建設会社や電気工事会社など取引先と水増し契約を繰り返して約100億レアル(約4000億円)の裏金をつくり、有力政党や政治家に違法献金していたとされる。

捜査当局はこれまでに同社の幹部2人と取引先幹部23人を贈賄、資金洗浄、脅迫の罪で起訴している。

ルセフ大統領と国営石油会社の関係を巡って昨年10月、地元メディアが、大統領が同社による違法献金工作を以前から把握していた疑いがあると指摘。大統領は否定していた。

昨年10月、再選を決めたルセフ政権への支持率は汚職疑惑の影響で任期中で最低の23%まで下落。捜査の進展次第では2期目を全うできない可能性もある。【3月5日 毎日】
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汚職金額については、“ペトロブラスの元幹部は集めた資金の一部が議員や労働党を含む政党に流れたと話しており、当局の調べによると、その額は230億レアル(約9800億円)に上る。”【2月6日 ブルームバーグ】との報道もあります。

約9800億円・・・・日本でも相変わらず政治とカネの問題が大きな問題となっていますが、数十万円の寄付とか、桁違いです。

日本も大物政治家が絡む大規模な汚職事件が繰り返されてきましたが、近年はそうした典型的な汚職事件はあまり目にしなくなったようにも思えます。

水面下で巧妙に行われるようになったのか、政界の浄化が進展したのか、あるいは政治のダイナミズム自体が失われて犯罪行為を含めて全体的に矮小化しているのか・・・そこらへんはわかりませんが。

ルセフ大統領は汚職の実態を認識していたのか?】
閑話休題。ブラジルの話です。

問題が表面化した昨年前半には、日本の製油所「南西石油」の買収も関係していることが現地日系紙で報じられています。

また、疑惑が指摘された買収については、ジルマ・ルセフ大統領が経営審議会長でした。

****疑惑拡大のペトロブラス 沖縄の南西石油関連も****
真相究明に向けCPI発足
2012年の米パサデナ精油所の買い取りに端を発した汚職疑惑に揺れる国営石油会社ペトロブラス社のニュースが連日にわたって国内メディアで取り上げられる中、先月には各問題ごとに複数の議会調査委員会(CPI)が設置されたことが明らかになった。

一方、ペトロブラスにより数年前に買収された日本の精油所が当時既に赤字経営だった上に契約書に不備があったことが指摘されたため、さらなる汚職疑惑が浮上している。6日付フォーリャ紙が報じた。

パサデナ精油所は06年に、日本の南西石油は07年に締結された契約に基づきペトロブラスが買い取ったが、どちらの場合も当時ペトロブラス国際部門長だったネストール・セベロ氏の責任の下で契約書が作成されていたことが明らかになった。

パサデナ精油所との最初の契約が交わされた際、買収の詳細を定めた契約書に将来起こりうる全株買い取りに関する義務についての項目が抜け落ちた契約書が、当時のペトロブラスの経営審議会長だった現ジルマ大統領(労働者党=PT)に配布されていた。このため、ジルマ大統領は「重要事項を知らないまま契約に署名した」と述べている。(後略)【2014年5月7日 サンパウロ新聞】
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政治とカネの構造的問題
しかし、ブラジル最大の“カネのなる木”から多くの政治家・政党が“甘い汁”を吸い上げるシステムが、15年前から行われ、その後組織化されたことも報じられています。

なお、下記現地日系紙の表題にある“FHC”とは、フェルナンド・エンリケ・カルドーゾ元大統領の略称です。
また、労働者党(PT)はルセフ大統領の政党、民主運動党(PMDB)は連立与党で、今回捜査対象となっている上下両院の議長が属している政党です。
“ラヴァ・ジャット”とは、今回の汚職捜査の作戦名です。

****ペトロブラス贈収賄=PP組織化説が急浮上=ジャネネ氏がFHC政権時に=PMDBとPTは後乗りか=元党首にも新たな疑惑が****

ラヴァ・ジャット作戦の主犯アルベルト・ユセフ容疑者が行った供述によると、ペトロブラス(PB)内での贈収賄疑惑は進歩党(PP)によって組織化されたもので、同党が大きく関与しているとの見方が強まっている。1日付エスタード紙が報じている。(中略)

PPは労働者党(PT)、民主運動党(PMDB)と並び、ペトロロンの中心3大政党と見られている。

ラヴァ・ジャットの捜査官たちは、PB内での汚職は15年ほど前からはじまっていたが、それを政党がらみの組織化した犯罪にしたのは、PP元下議の故ジョゼ・ジャネネ氏だと見ている。

15年前となると、PTが政権を担う前の民主社会党(PSDB)のカルドーゾ政権のこととなる。(中略)
PPの前身はブラジル進歩党(PPB)で、カルドーゾ政権では連立与党のひとつだった。

ジャネネ氏がPB内の汚職を政党がらみの組織化したものとしたのは、ペトロロンの重要人物とされるPB供給部元部長のパウロ・ロベルト・コスタ容疑者を同職に指名した2004年からと見られている。

コスタ容疑者は供述の中で、PPはPBと契約を結んだ企業から契約額の1%分を賄賂として受け取っていたことやそれがどう分配されたかも語っている。連警はこのやり方をPMDBとPTが模倣したと見ている。(後略)【2014年12月2日 ニッケイ新聞】
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ブラジル議会においては、ルラ前大統領やルセフ大統領を出している労働者党(PT)の議席数は2割に届かず、連立政権が組まれていますが、そうした政治構造がカネによる政治の温床になっているとも指摘されています。

ルラ政権時代の2005年にも「メンサロン事件」という大規模汚職事件がありました。

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メンサロン事件は90年代以降の連立与党体制の弱みを露呈したものとなった。
PTは2002年の下院議員選で大躍進したものの、全議席に占める割合は20%にも満たない。

そのため、議会での過半数を得るために他党との連立が必要となるのだが、そこで起こったブラジル政治史上最大級の汚職事件だった。【2013年9月12日 ニッケイ新聞】
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今回のペトロブラスをめぐる汚職事件で捜査対象とされた上下両院の議長、その所属政党「民主運動党(PMDB)」は反発し、政府・大統領との対決姿勢を見せています。

****ラヴァ・ジャット=両院議長が汚職リスト入り=検察庁長官が最高裁に提出=28の容疑で政治家ら54人=レナンは連邦政府に報復****
連邦検察庁のロドリゴ・ジャノー長官は3日夜、連邦最高裁のテオリ・ザヴァスキ判事に、ラヴァ・ジャット作戦で摘発された種々の疑惑に関し、連邦議員など54人に対する容疑28件の捜査開始を求める依頼書を提出した。

捜査対象者には、レナン・カリェイロス上院議長、エドゥアルド・クーニャ下院議長(共に民主運動党・PMDB)らが含まれていると言われている。4日付伯字紙が報じている。(中略)

両議長は共に汚職事件への関与を否定しているが、レナン議長は3日午後、このリスト入りへの不満や連邦政府への抗議を、連邦政府が先週発表した、INSS(社会保険院)納付金での企業への恩典を見直し、税率をあげる暫定令(MP)を差し戻す形で表した。

PMDB関係者は、連邦政府は同党を弱体化させたくてジャノー長官に圧力をかけたと見ている。

レナン議長は2日のジウマ大統領との会食も拒否しており、3日には、大統領拒否権の内容の見直しと15年の予算案審議のための両院合同の会議を来週に延期させた。

経済立て直しのための財政の健全化と早期の予算成立を目指す政府は、3日のうちに暫定令復活のための暫定令を発し、必死の対応を図っている。【2015年3月5日 ニッケイ新聞】
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苦しい立場のルセフ大統領
停滞する経済立て直しを早急に迫られているルセフ政権は、中心的連立与党PMDBとの対立で苦しい状況に追い込まれています。

また、汚職事件への大統領自身の関与を疑う声も多く、支持率は急落しています。

****ブラジル大統領支持率最低 ペトロブラスの汚職拡大に不満****
ブラジルのルセフ大統領の支持率が過去最低に下がっている。ブラジル石油公社(ペトロブラス)に対する汚職捜査の拡大について、同大統領に説明責任があると有権者はみている。

調査会社データフォーリャが7日、ブラジル紙フォーリャ・ジ・サンパウロで公表した調査結果によれば、ルセフ大統領を支持ないし強く支持するとの回答は23%と、2011年の就任以降最も低く、1999年のカルドソ大統領以来の低水準。データフォーリャによれば、昨年12月の支持率は42%だった。

ルセフ大統領はペトロブラスの汚職を認識していなかったと公式に表明したものの、回答者の大半は同大統領が状況を把握していたと考えている。

検察と警察当局は、ペトロブラス幹部が水増しされた建設契約を承認する代わりに賄賂を要求したと主張している。こうした疑惑に、経済の停滞やサンパウロでの給水制限が重なり、有権者の不満は高まっている。(後略)【2月10日 SankeiBiz】
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巨大石油企業ペトロブラスをめぐる汚職事件の舞台のひとつである世界最大級の掘削リグ企業「セテ・ブラジル」の幹部で事件関係者でもある人物は、主な収賄者としてルセフ大統領の労働者党の会計担当者を挙げています。【3月5日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】

「セテ・ブラジル」の賄賂の3分の2がこの会計担当者に流れたそうで、その先は・・・・。

今後、労働者党の多くの政治家の名前がでてくることも予想されますが、ルセフ大統領は昨年末にメンバーを一新する内閣改造を行い、事件関係者をはずしてはいます。

ただ、ルラ前大統領の名前が出てくるような事態になると、ルセフ大統領は決断を迫られることにもなります。

ブラジル社会で横行する「犯罪者」への「リンチ」】
個人的には、ブラジル関連で最近興味がひかれたのは、こうした汚職問題ではなく犯罪者への「リンチ」に関する記事です。

****サンバの国、リンチの闇 ブラジル、「犯罪」に集団暴行****
南米初の五輪を来年に控えた世界第7位の経済大国ブラジルで、「リンチ」が深刻な社会問題となっている。

司法の手続きを経ずに、市民が路上などで「犯罪者」に集団暴行を加え、最後には殺害してしまうケースも少なくない。陽気な「サンバの国」のイメージとほど遠い陰惨な暴力が、なぜ繰り返されるのか。その実態と背景を探った。

 ■誘拐犯と誤認、主婦を撲殺ブラジル南東部の都市グアルジャ。この町で昨年5月、ブラジル社会を震撼(しんかん)させる事件が起こった。33歳の主婦ファビアニ・マリア・デジェズスさんが突然、地域の住民から殴る蹴るの激しい暴行を受け、2日後に死亡したのだ。

きっかけは、その1カ月ほど前からソーシャルメディア上に流れた「この地域で子供を誘拐している女がいる」というデマだった。(中略)

 ■強盗未遂、裸でさらす
ブラジルでは凄惨(せいさん)なリンチが後を絶たない。最も多いのは、窃盗や強姦(ごうかん)などの容疑者が、その場で住民らに取り押さえられ暴行を受けるケースだ。

リオデジャネイロで学校を経営するイボニ・ベゼハ・デメロさん(67)は昨年1月の夜、市内の路上で、街灯の柱に裸のまま鎖で縛り付けられた15歳の少年を見つけ、救急車を呼んだ。少年は体中を殴られ、耳の一部がちぎられていた。

通行人に強盗をしようとしたとして、30人ほどの若者から袋だたきにされたという。イボニさんは「悪いことをしたら、その場でリンチしてもいいのか。若者たちは正しいことをしたつもりでも、実に危険な行為だ」と語る。(中略)

 ■低い処罰率、司法へ不満
リンチの問題に詳しいサンパウロ大学・暴力研究所(NEV)のアリアジニ・ナタウ氏は「市民が暴力を振るう背景には、恐れや不安だけでなく、犯人が逮捕されなかったり、十分な刑罰を受けなかったりする警察や司法への不満がある」と指摘する。

国連薬物犯罪事務所(UNODC)のまとめでは、2012年のブラジルの殺人発生率は人口10万人あたり25・2人で、先進国や新興経済国で構成する主要20カ国・地域(G20)の中でも南アフリカに次いで2番目に多い。

一方で、ブラジル犯罪学協会(ABC)によると、同国で殺人犯が逮捕され処罰される割合は、全体の5~8%に過ぎない。米国の65%、イギリスの90%、フランスの80%などと比べ、低さが際だっている。

ナタウ氏は「国が処罰できないから、自分たちで手を下す。悪者は排除してもよいという人権意識の欠如が、その状況に拍車を掛けている」と言う。(中略)

地元メディアは「過去60年間で100万人のブラジル人が何らかの形でリンチに加わった」とする専門家の話まで紹介している。

80年代には泥棒がリンチの対象になることが多かったが、その後は殺人や強姦などにも広がり、現在では交通事故を起こした人が、住民や親族からリンチに遭うケースも珍しくない。最近は、発生件数が増加傾向にあるとみられている。

ブラジル社会でじわりと広がる不満が、背景になっている可能性もある。ブラジルは2010年ごろまでは高成長を続けていたが、その後は成長率が年1~2%程度に落ち込んだ。物価上昇率は6%前後で高止まりし、いらだつ市民は少なくない。

「問題は、リンチに加わる人が正義を実行していると信じていることだ」とナタウ氏は言う。「リンチは憎しみによる報復であって、正義とは違うことをよく理解すべきだ」【2月6日 朝日】
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汚職も問題ですが、「リンチ」の横行は更に深刻な問題です。
汚職を許す政治の貧困が関係しているのかも。
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アメリカ  黒人への警官発砲事件で再び問われる差別問題

2015-03-04 22:37:42 | アメリカ

(事件現場で死を悼む射殺されたホームレスのそばに住んでいた男性 【3月4日 The Huffington Post】)

Black Lives Matter
アメリカでは昨年来、警官による黒人に対する過剰な対応が議論となる事件が相次いでいますが、3月1日、ロサンゼルスで同様事件が起き注目を集めています。

****LA 警察が黒人男性に発砲し死亡させる****
アメリカで警察による容疑者への対応が過剰だという反発が強まるなか、西海岸、ロサンゼルスで複数の警察官が、強盗の疑いで拘束しようとした黒人男性に発砲して死亡させ、対応に行き過ぎがなかったか議論を呼んでいます。

ロサンゼルス中心部で、1日昼ごろ、警察官が、ホームレスの黒人男性を強盗の疑いで拘束しようとしたところ、もみあいになり、抵抗を続ける男性に発砲して男性は死亡しました。

近くにいた人が一部始終を撮影した映像では、複数の警察官と男性がもみ合うなか、連続して5発の発砲音が聞こえ、男性が倒れたあと、「丸腰だったのに」などと叫ぶ人の声が記録されています。

警察は、3人の警察官が発砲したことを認めたうえで、「男性が警察官の銃を奪おうとしたため撃った」として、対応に問題はなかったと説明しています。

一方、地元の人権団体などは警察の対応に行き過ぎがあった可能性があるとして、一連の対応が適切だったか検証するよう求めています。

アメリカでは、去年、警察官が容疑者などを死亡させるケースが相次いで黒人社会を中心に反発が強まり、大統領の指示で信頼を構築する方策を検討する特別委員会が設置されていただけに、今回の警察の対応に行き過ぎがなかったか、メディアが大きく報じるなど注目が集まっています。【3月3日 NHK】
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事件の一部始終を撮影した動画がネットで確認できます。
【3月2日 Iran Japanese Radio】http://japanese.irib.ir/news/latest-news/item/52589-%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%82%AB%E3%81%AE%E8%AD%A6%E5%AE%98%E3%81%8C%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0%E3%83%AC%E3%82%B9%E3%82%92%E5%B0%84%E6%AE%BA など。

問題の黒人男性を4人ほどの警官が取り押さえようとしていますが、激しい揉みあい状態のため、小さな画面では警察側が主張しているように“男性が警察官の銃を奪おうとした”のかどうかは確認できません。

同様に、“映像を撮影した人は「男性の手は銃に届いていなかった」と証言”【3月3日 時事】についても確認できません。

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米国では、昨年黒人男性を死亡させた白人警官が相次いで不起訴になり、各地で抗議デモが発生。同市警は1月、警官が7千個の小型カメラを装着する制度を導入した。

今回関与した警官3人のうち2人が小型カメラを装着し、状況を録画していたが、同市警は「いまは調査中のため公開しない」と話している。”【3月3日 朝日】
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調査結果が待たれますが、3月1日夜、ロサンゼルスのダウンタウンでは市警に抗議して「黒人の命だって大切だ(Black Lives Matter)」のスローガンを掲げるデモが行われました。

司法省調査:ファーガソン警察署では公民権の侵害が日常的に行われていた
一連の発端となった昨年8月に起きたミズーリ州ファーガソンでの事件については、黒人に対する警官による公民権の侵害が日常的に行われていたことが司法省の調査で明らかにされています。

*****<米司法省>黒人青年射殺の警察署「公民権侵害、日常的*****
米中西部ミズーリ州ファーガソンで昨年8月、丸腰の黒人青年が白人警官(事件後に辞職)に射殺された事件で、警官が所属するファーガソン警察署では、人種的偏見に基づき黒人を逮捕するなど、公民権の侵害が日常的に行われていたことが司法省の調査で分かった。米メディアが3日、一斉に報じた。同省が報告書にまとめ近く発表する。

ファーガソンでは事件後、黒人住民らが抗議行動を起こし、全米に広がった。住民らは事件に限らず「不公平な司法システムが横行している」と主張していたが、それが裏付けられた形となった。

司法省は2012~14年の同署の活動を調査。ファーガソンは人口の67%を黒人が占めるが▽不審視し、車を停車させるケースの85%▽逮捕するケースの93%▽実力行使するケースの88%--は黒人が対象になっていた。また、住民が警察犬にかまれた14件のすべてが黒人だった。

車を止められた後、黒人の運転手が所持品検査をされる割合は白人の2倍近いが、実際に薬物などの違法所持が見つかるのは逆に26%も低かった。また、軽微な違反行為を問われる割合も黒人が圧倒的に多かった。

警官や裁判所職員が、人種的偏見に満ちた電子メールをやりとりしていたことも判明。黒人のオバマ大統領をばかにするものや、黒人女性が中絶すれば犯罪減少につながるという内容まであったという。【3月4日 毎日】
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南部の黒人リンチの歴史
アメリカにおける人種差別の問題は今さらの感があります。差別を表に出すことは厳しく抑制されていますが、各人の心の内側に根強く残存していることが間違いありません。

一方で、なんだかんだの問題をはらみつつも、“ひとつのアメリカ”といった社会的一体感が維持されている点では、民族対立がごく普通の出来事として見られる世界にあっては、非常にうまくいっている社会・・・と言っていいのかもしれません。

いつも思うのですが、私が子供の頃のアメリカは、まだ“白人専用”といった表示が許される社会でした。
キング牧師などによるワシントン大行進が行われたのが1963年、ジョンソン大統領のもとで人種や宗教、性、出身国による差別を禁止する公民権法が成立したのが1964年のことです。

いまだ半世紀しか経過していない現在にあって、差別が残存しているというのはやむを得ないことにも思えますが、人種を隔てる垣根をこれから更に取り除いていくことはなかなか容易なことではないようにも思われます。

歴史を遡れば、リンカーン大統領が南北戦争中に敵対する南部連合が支配する地域の奴隷たちの解放を命じた「奴隷解放宣言」を行ったのが1862年のことです。

当然ながら、ひとつの法律で社会がすぐに変わることはありません。
その後も、アメリカ南部では1877年から1950年までの間に4000人近い黒人が私刑(リンチ)によって殺されていたことが明らかになっています。

****黒人リンチで4000人犠牲、米南部の「蛮行」 新調査で明らかに****
米国の人種差別に基づく暴力の歴史に関する新たな調査で、米南部では1877年から1950年までの間に4000人近い黒人が私刑(リンチ)によって殺されていたことが明らかになった。

73年間にわたり1週間に平均1人以上が殺されていた計算になる。

調査を行ったアラバマ州の人権団体「公正な裁きのイニシアチブ」は、現代の人種差別や刑事司法における問題は、米国の暴力の過去に根差すものだと指摘している。

同団体の創設者ブライアン・スティーブンソン氏はAFPに対し「ドイツならばホロコースト(ナチス・ドイツによるユダヤ人大量虐殺)の遺産に向き合うことを強いられるが、米国では逆だ。われわれは自分たちで真実と和解に取り組もうとせず、この遺産が引き起こしている結果に真剣に対処しようとしたことがない」と語った。

同団体が数年かけて行った調査の結果、1877~1950年に南部12州で私刑によって殺害された人数が、従来の調査結果よりも700人多い3959人であることが分かった。うち大半は1880~1940年の間に発生していた。

■「ピクニックしながらリンチを観賞」
またスティーブンソン氏によれば、私刑のうち20%は、驚くことに、選挙で選ばれた役人を含む数百人、または数千人の白人が見守る「公開行事」だった。

「観衆」はピクニックをし、レモネードやウイスキーを飲みながら、犠牲者が拷問され、体の一部を切断されるのを眺め、遺体の各部が「手土産」として配られることもあったという。

例えば1904年にはミシシッピ州ダッズビルで、黒人男性ルーサー・ホルバートが、白人の地主を殺害したとして、妻とされる黒人女性と一緒に数百人の前でリンチされた。

2人は木に縛り付けられて指を切断され、暴漢たちはその指を配った。ホルバートは耳も切り落とされ、頭蓋骨が砕けるまで殴打された。さらに暴漢たちは大きなコルク栓抜きで2人の体に穴を開け、肉の塊を取り出したという。

「公正な裁きのイニシアチブ」によれば、犠牲者のうち数百人が、投票をしようとしたり、黒人の地位向上を訴えたりしたこと、さらには歩道で脇に寄らなかった、白人の女性にぶつかった、といったもっと些細な規則違反を理由に殺された。

一方で同時代、黒人をリンチで殺害したかどで有罪となった白人は一人もいない。

「多くの人はこの時代について知識がない。100年足らず前の米国社会で人々がこうした蛮行に走っていたことを想像するのは、非常におぞましいことだ」とスティーブンソン氏は述べている。

一方、南部で常態化していた脅威から逃げるために、1910~1970年の間に600万人近いアフリカ系米国人が米北部や西部の都会のゲットーに流入した。

■現在も黒人に偏る死刑判決
米国では現在も、逮捕、有罪、投獄、死刑の対象となるのは黒人に偏っている。米人口に黒人が占める割合は13%でしかないにもかかわらず、1976年以降、米国で刑が執行された死刑囚の34%が黒人で、現在収監されている死刑囚も42%近くが黒人だ。

スティーブンソン氏は過去のリンチと、現在の米国の刑事司法制度の問題、そして警官の手で殺されている人の中で圧倒的に黒人が多いこととの関連性を指摘。

「リンチが死刑になり、投獄になっている。悪者扱い、犯罪者扱いが有色人種に偏っているのだ」と語る。

最近の米国で、武器を持たない黒人男性が、警官に殺害される事件が相次ぎ、そうした状況への抗議デモで「黒人の命は軽くない(Black Lives Matter)」というスローガンが叫ばれているが、問題の根は同じ歴史にあるとスティーブンソン氏は言う。

「米国人による米国人に対するテロリズムが広く実行されていた時代があったことを、多くの米国人は分かっていないと思う」【2月12日 AFP】
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変えられる社会
人種に限らず、民族・性別その他に関し、異質なものを排除・忌避・攻撃しようという差別は古今東西にわたって存在し、それは自分自身を含め、人間という生き物にとって不可避なもののようにも思えます。

ただ、少しでもそれを克服していこうとする努力が求められ、そのことが人間性の証であるようにも思います。

黒人への「リンチ」の実態はおぞましいものがありますが、当時からわずか100年前後しかたっていません。
当時に比べれば、差別の在り様も大きく変化しました。

日本も百数十年前は、まだちょんまげを結っていた時代です。

100年あれば社会は信じられないぐらいに変わるとも言えます。そうであれば100年後の世界は現在の差別が信じられないような世界になっている・・・・と期待したいものです。
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イエメン・イラクで影響を強めるイラン 核開発問題交渉ではサウジアラビアなどの反発も

2015-03-03 22:51:28 | 中東情勢

(イランの国外活動組織「クッズ部隊」を率いるスレイマニ司令官 イラクでシーア派民兵を指揮するなど、重要な役割を担っていると言われています。写真は【2012年 4月 5日 WSJ】)

イエメン フシ支援を明確化するイラン 対抗するサウジアラビアなど湾岸諸国
中東・イエメンの国家崩壊状態については、2月13日ブログ「イエメンの国家崩壊 中東・北アフリカの人口爆発が惹起する社会不安定化」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150213 で、人口増加という社会側面から取り上げました。

政治状況としては、北部のシーア派系のザイド派武装勢力(フシ)が事実上のクーデターで首都サヌアを占拠し、ハディ大統領は辞意を表明しました。

その後、フシによる軟禁状態にあったハディ大統領は変装して公邸を抜け出し、出身地の南部アデンに脱出、2月21日に辞意を撤回する意向を表明しています。

シーア派系のフシと対立するスンニ派部族や、もともと南部で根強い分離独立派はフシの権力奪取を非難しており、ハディ氏と協力してフシに対抗する構えを見せており、南北対立が激化する状況となっています。

イエメンでは東部を中心に国際テロ組織アルカイダ系の「アラビア半島のアルカイダ」(AQAP)が活動。更に、イスラム過激派組織「イスラム国」(IS)も浸透を図っており、混乱の長期化は過激派勢力の拡大につながる恐れがあります。【2月22日 毎日より】

イエメンの混乱拡大で、アメリカ政府は2月11日までに首都サヌアの米国大使館を閉鎖し、職員を国外に退避させました。イギリスとフランス大使館も同日閉鎖されています。

あっさりとイエメンを後にした中東への深入りを嫌うアメリカに対し、シーア派と対立するサウジアラビアなどスンニ派周辺国は、ハディ氏が逃れてきた南部アデンで大使館業務を再開、フシに対応する姿勢を強めています。

****イエメン分裂加速も=大使館「移設」相次ぐ****
サウジアラビアなどの湾岸諸国が、イエメンの首都サヌアで一時閉鎖した大使館の業務を、同国南部アデンで相次いで再開させている。

イスラム教シーア派系のザイド派武装勢力による事実上のクーデターでアデンに逃れたハディ大統領を支持する姿勢を鮮明にする動きで、イエメンの南北分裂の既成事実化に拍車が掛かりそうだ。(後略)【3月1日 時事】 
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これに対し、フシを事実上支援してきたとされるシーア派のイランが、政権奪取したフシ支援を本格化させています。

****イラン、イエメンのシーア派支援を本格化****
イスラム教シーア派の大国イランが、イエメンで事実上のクーデターを起こした同じシーア派のフーシ部族に対する支援を本格化し始めた。

食料などを積んだ飛行機をイエメンに派遣したほか、今後、両国を結ぶ定期便を就航する予定だ。イランはこれまで表だってフーシ支持を明らかにしていなかった。

今後、スンニ派のアラブ諸国との緊張が一層高まるのは必至だ。(後略)【3月3日 読売】
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水面下で続いていたシーア派イランとスンニ派とスンニ派サウジアラビアなど湾岸諸国という対立構図が表面化した形となっています。

対ISでシーア派民兵を支援するイラン革命防衛隊 アメリカと“暗黙の了解”】
イランはイラクでも、対IS軍事作戦でその存在感を強めています。

イラクでは、ISが支配するティクリートの大規模奪還作戦をイラク軍が開始しました。
ティクリート奪還は、4~5月の作戦開始に向け準備していることをアメリカが公表している北部の大都市モスル奪還・対IS反転攻勢にとって重要な意味を持っています。

****イラク軍、北部ティクリートの奪還作戦を開始****
イラク軍は2日、イスラム過激派「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」に支配されている北部ティクリートの奪還作戦を開始した。アバディ首相が1日に発表した大規模作戦の一環と位置付けられる。

イラクの国営放送「イラキーヤTV」によると、軍部隊はイスラム教スンニ、シーア両派の民兵やスンニ派部族の戦闘員とともに多方面からティクリートに迫り、同市の北側と南側でISISと交戦した。

イラク軍側の兵力は総勢約3万人。空からは戦闘機とヘリコプターが同市内外の標的を攻撃した。

国連のムラデノフ事務総長特別代表(イラク担当)はティクリートの全戦闘勢力に対し、民間人の保護に全力を尽くすよう呼び掛けた。

ISISは昨年6月、イラク第2の都市モスルに続き、フセイン元大統領の出身地として知られるティクリートを制圧。その後まもなく、イラクとシリアにまたがるイスラム国家の「建国」を一方的に宣言した。

ティクリートはISISによる最大の虐殺現場となった。ISISは当時、イラク軍兵士1700人を殺害し、その場面のビデオをインターネット上で公開した。

ティクリートはイラク軍がこれまでに反撃に出た町に比べ都市の規模が大きく、奪還作戦は長期化が予想される。

軍は昨年後半にも何度か同市に作戦を仕掛け、一部地域を取り戻したものの、ISISの支配は揺るがなかった。

イラク軍ではこれまでに数千人の兵士が米国などによる集中訓練を受けてきた。また今回の作戦には、隣国イランの最精鋭部隊を指揮するスレイマニ司令官が協力していると伝えられる。作戦の成否は、こうした共闘態勢の実効性を測る試金石になるとも考えられる。

イラク軍がティクリートで勝利を収めれば、約200キロ北方に位置するモスルの奪還も現実性を増す。ただし両都市の間に広がる地域も現在、大半がISISの支配下にある。

逆にティクリートでISISに数カ月ぶりの勝利を許すようなことがあれば、政権への反発や兵士らの士気低下を招き、イラクは深刻な打撃を受ける恐れがある。【3月3日 CNN】
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アメリカが、イラク軍が「数週間後」に大規模な地上戦に踏み切ると公表し、その後も、4~5月の開始に向け準備していることを明らかにした件では、イラク側は「軍の指揮官が敵に攻撃の時期を教えるべきではない。攻撃の時期はイラク軍が決める」(国防相)と苦言を呈していました。

今回のティクリート攻略作戦については、アメリカは敢えて表に出ない構えのようです。

****<米軍>「空爆しない」イラク政府軍の奪還作戦で****
米国防総省のウォレン報道部長は2日、イラク政府軍が始めた北部の要衝ティクリート奪還作戦について、「米軍は作戦を支援するための空爆をしていない」と記者団に語った。

ウォレン氏は、米軍はイラク側から作戦を事前に知らされていたことを明らかにしたが、「(空爆による)作戦支援の要請がなかったので行っていない」と説明した。

また、ウォレン氏は「米軍の役割は(イラク側への)助言や支援だ。これはイラク政府の戦いだ」と述べ、奪還作戦の主体がイラク政府軍であることを強調。米軍として偵察・監視活動を実施していることは示唆した。【3月3日 毎日】
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アメリカの代わりに前面に出ているのがイラン革命防衛隊です。

****イスラム国】米軍は蚊帳の外、イランの介入を黙認 進む「分割化」ティクリート奪還作戦****
米政府筋は2日、イラク北部ティクリートの奪還作戦で、イランが支援していることを確認した。一方、国防総省のウォーレン報道部長は、この作戦に米軍は関与していないとしており、米側がイランの介入を黙認している実態が明らかになった。
 
米政府筋によると、イラン革命防衛隊(IRGC)は今回、無人機やロケット砲、迫撃砲などを投入している。米軍はしかし、空爆による支援はもとより、作戦計画への助言すらしていない。

その理由について、ウォーレン氏は記者会見で「イラクが支援を求めなかったためだ」と説明した。政府筋は「イラクが米国に要請しなかったのは、イランの支援を得たからだ」とみている。

米政府は、イスラム教シーア派の大国であるイランの「イスラム国」掃討への介入を警戒し、協調を避けてきた。

それは(1)イランの影響力が増大すれば、サウジアラビアなどスンニ派湾岸諸国が反発し、掃討作戦が複雑化する(2)イラクでのスンニ、シーア両派の対立を助長する恐れがある(3)米国が、核開発問題が未解決のイランと協調すれば、国際的に非難を浴びる-などの懸念からだ。

スンニ派地域であるティクリートでの今回の作戦に関しても、米政府は警戒感をもって見守っている。

米政府筋によると、イランはこれまでも、首都バグダッドの東部やティクリートなど、イラク軍がシーア派民兵に依存する地域で主要な役割を担っている。シーア派民兵がイラン軍事顧問の支援のもと、バグダッド郊外にあるスンニ派の町を奪還した例もある。
 
うした地域では米軍は作戦を支援しておらず、米軍とIRGCの支援地域の「分割化」が進んでいるという。

米軍の作戦支援は、あくまでイラク側の要請を前提としている。このため「分割化」の傾向は、イラクによる選択の結果という側面が強いが、米国とイランの間には、互いの軍事行動には干渉しないという“暗黙の了解”があるようだ。【3月3日 産経】
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アメリカとの溝が深まるサウジアラビア
アメリカとイランは、協調行動について“暗黙の了解”で済みますが、イランの存在感が強まることへのサウジアラビアなどスンニ派周辺国の反発が懸念されます。

これまで中東におけるアメリカとの最大の同盟国であったサウジアラビアとアメリカの関係は、近年微妙な状況にあります。

エジプトのムスリム同胞団を基盤とするモルシ政権への対応でも、ムスリム同胞団を嫌うサウジアラビアと一定の民主化として支持したアメリカの対応は分かれました。

13年7月、事実上のクーデターでモルシ政権が倒れるとサウジアラビアはクウェートなどと共に、エジプトに120億ドルの経済援助を約束したのに対し、オバマ政権は人権問題を理由に、対エジプト援助を数カ月間停止しました。

また、サウジアラビアの根幹を支える石油問題でも、アメリカのシェールオイル生産拡大に対しサウジアラビアは危機感を強めています。最近の急速な原油価格下落は、アメリカのシェールオイル開発に歯止めをかけるためにサウジラビアが価格下落を容認している結果だとも言われています。

そのサウジアラビアにとってスンニ派盟主として絶対に容認できないのが、シーア派イランの影響拡大です。
イエメンやイラクでのイランの影響拡大を、サウジアラビアをおそらく極めて厳しく受け止めていると思われます。

アブドゥラ前国王が死去したサウジアラビアの今後の対応が注目されています。

イラン核開発問題の交渉は、中東「核拡散」の引き金か?】
そのイランとアメリカは現在、核開発問題で交渉を進めています。
その先行きは不透明です。

****<イラン核問題>包括的合意案 オバマ大統領「大きな差**** 
 ◇「イラン側が妥協しない可能性は50%より高い」とも
オバマ米大統領は2日、ロイター通信のインタビューで、国際交渉が続いているイラン核問題の包括的合意案について、イランが原子爆弾1個分の濃縮ウラン製造に必要な期間(ブレークアウト期間)を1年に延長し、この状態を少なくとも10年は維持し、常駐の査察官を現地に置くことを含む内容であると明らかにした。

両陣営の立場には今も「大きな差」が残ると指摘。数カ月前より合意に近づいたが、「イラン側が妥協しない可能性は50%より高い」との認識を示した。

イラン核合意案の適用期間までオバマ大統領が具体的期間に踏み込んで説明したのは初めて。合意が成立すれば、「(対イラン)軍事行動や制裁よりも核開発阻止に効果的」と主張した。

国連安保理常任理事国にドイツを加えた主要6カ国とイランが行う核交渉に対して、米議会やイスラエルの反対が根強い。オバマ氏は議会をけん制し、世論の支持を取り付ける狙いから一部内容を公にしたとみられる。

交渉優先の方針については、ライス米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)も2日、親イスラエル団体「アメリカ・イスラエル公共問題委員会(AIPAC)」の大会で説明した。ブレークアウト期間は現在は2~3カ月だが、合意で「少なくとも1年」に延長されると成果を強調。また、10年目以降についてもイランの核計画の透明性維持を図る「追加的措置」を含ませるよう交渉中だと説明した。

訪米中のイスラエルのネタニヤフ首相は3日、米議会の上下両院合同会議で演説する。イラン核問題をテーマに、現在の核協議では核の脅威はなくならないと訴え、妥協阻止を狙うとみられる。

上院では、野党・共和党議員を中心に、6月末までに最終合意できなければ、イランに追加制裁を科そうとする動きがある。【3月3日 毎日】
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イランのウラン濃縮を10年間抑制するというオバマ大統領の考えに対し、イラン・ザリフ外相は「受け入れられない」と強い不快感を示しています。

アメリカ国内の共和党保守派、オバマ大統領の頭越しに訪米してイラン批判の議会演説するイスラエル・ネタニヤフ首相とオバマ大統領の対立については、2月26日ブログ「イスラエル首相の頭越し訪米・議会演説で、オバマ政権との関係は悪化の懸念」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150226 でも取り上げましたが、イスラエル同様にイランとの妥協を嫌っているのがサウジアラビアです。

もし、アメリカがイラン核開発を容認した・・・・と判断するような結果となれば、今でもパキスタンから原爆を購入できると言われているサウジアラビアがイランに対抗して核武装することも懸念されます。
更には、トルコなど中東各国への核拡散にもつながるとも指摘されています。

****中東「核拡散」の危機迫る 「イスラム核保有国」が一気に増加へ****
あらゆる国が引き金に近づく世界
キッシンジャー発言を重視したWSJ紙は二月九日付で取り上げ、米国はすでに核の拡散を許していると論じた。

冒頭陳述後の質疑応答でキッシンジャー氏は、「(ブレークアウトまでの)一年間に大規模な査察の問題が生まれるか、私は合意ができるまで議論を控える」と断ったうえで、「しかし、核拡散問題も強調したい。査察が正しいと見なされ、すでに存在する核物質の在庫も認められれば、次はこの地域の国々が何をするかだ。さらにこの地域の国々が、米国は(〇三年協定にある)一年間のウラン濃縮能力を認めたとの結論を出せば、またこれらの国々が同じ能力を持つと言い出したとき―仮に合意なるものが守られたにせよ―あらゆる国が引き金にきわめて近づく世界にわれわれは住むことになる」とも述べた。

WSJは「これらの国々」の名をキッシンジャー氏は挙げなかったが、「パキスタンから今でも原爆を購入できるサウジアラビア、シーア派のイランがこの地域で勢力を増大させることに我慢のならないトルコ、長年にわたってアラブの指導国家を自任してきたエジプト、サウジを信用していない、湾岸首長国のうちの一カ国または二カ国だ。その前に、地域には脅威を与えず、かなり前から原爆を保有していると考えられてきたイスラエルがある」と書いた。【選択 3月号】 
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こうした中東情勢に直結するアメリカとイランの関係であり、それゆえに核開発問題の交渉でも慎重に対応しているオバマ政権ですが、逆に交渉が決裂して、イランが暴走し始めるような事態になれば、イスラエルの核施設空爆や対抗措置としてのホルムズ海峡封鎖といった破局的な危機を招くことも考えられます。

イランの存在は、敵視するサウジアラビアやイスラエルを考慮すると、その扱いが非常に厄介ではありますが、それだけにイランを排除するのではなく、話ができる関係に留め置くことが重要かと思います。
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ロシア  プーチン体制のもとで深まるロシアの「闇」 更なる反政府勢力弾圧の懸念も

2015-03-02 21:01:44 | ロシア

(3月1日 クレムリンを背に行われたネムツォフ氏追悼デモ 【3月2日 AFP】)

近年では最大規模となった追悼デモ
周知のようにロシアでは27日、「プーチンなきロシア」を掲げて街頭デモを主導してきた、また、ウクライナ問題などでプーチン大統領を厳しく批判してきた野党指導者ボリス・ネムツォフ氏(55)が、モスクワ中心部の路上で射殺されました。

3月1日にはネムツォフ氏らが主導する大規模な反政権集会が予定されており、その直前の凶行でした。

****反プーチン貫く鋒****
「特定の人物への権力集中は破局につながる。ロシアの政治改革が必要だ」。暗殺される数時間前にロシアのラジオ番組に出演したネムツォフ氏は、いつものように「反プーチン」を貫いた。

中部ニジェゴロド州知事として経済民営化で手腕を発揮し、若き改革派として頭角を現した。その手腕が認められ、1997年3月に当時のエリツィン大統領(故人)から第1副首相に抜てきされ、「将来の大統領候補」と目されたことも。

同年6月に訪日し、当時の橋本龍太郎首相にエリツィン大統領の親書を渡すなど北方領土交渉にも関与した。

98年の経済危機で副首相を解任されたあと、リベラル勢力を結集した政党「右派勢力連合」の旗揚げに加わり、99年12月の下院選で当選して副議長も務めた。しかし、2000年にプーチン大統領が就任して中央集権化を進めていく中で改革派は勢いと国民の支持を失っていった。

03年に議席を失ったあとは在野で政権批判を続け、11年末から高まった「反プーチン」デモでは自ら先頭に立って行動した。ウクライナ危機が勃発すると、プーチン政権による軍事介入を批判した。政権側からの厳しい野党攻撃に屈せず、最後まで信念を貫いた。【2月28日 毎日】
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予定されていた反戦デモは追悼デモに変更され、3月1日に行われました。

****<モスクワ>「プーチンなきロシアを!」反政権の大規模デモ***
 ◇暗殺された反プーチン派ネムツォフ氏悼み実施
プーチンなきロシアを!」「戦争はいらない!」。

1日午後、モスクワのクレムリン(露大統領府)に近い川沿いの車道は、喪章付きのロシア国旗を掲げる人波で埋まった

2月27日に暗殺された野党勢力指導者、ボリス・ネムツォフ氏(55)を悼んで実施されたデモ行進は、反政権色の濃い大規模なものとなった。

主催者の話で7万人以上とされる参加人数(警察発表では約2万人)は、2011年12月に下院選の不正疑惑を巡って約12万人が集まったモスクワでの抗議集会以降で最大規模。

より自由な社会を求める中間層が中心になったとみられる。昨年2月のウクライナ危機発生以来、高まる一方の偏狭な愛国ムードに異を唱えた。

ネムツォフ氏が1日に計画していたウクライナへのロシアの軍事介入を批判する反戦集会の色合いも帯び、ウクライナ国旗を振る人も。

子供連れの家族、若いカップル、高齢者夫婦など参加者は「このままのロシアではいけない」と口々に語り、射殺事件現場までの約1・5キロを歩いた。クレムリン前では政権批判のシュプレヒコールを上げた。

ロシア第2の都市サンクトペテルブルクでも同日、追悼デモがあり、約1万5000人が参加。ただ、地方都市で呼応する動きはほとんどなく、政権への影響は限定的なものになりそうだ。

一方、インタファクス通信によると、モスクワのデモでは数十人が「公共秩序を乱そうとした」との疑いで拘束された。ウクライナ最高会議(国会)のゴンチャレンコ議員も一時拘束された。

捜査当局は同議員が昨年5月にウクライナ南部オデッサで親露派住民ら46人が死亡した火災に関与した疑いがあるとしている。【3月2日 毎日】
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ウクライナ紛争でロシア軍の関与を示す証拠を公表しようとしたため・・・・?】
プーチン大統領は事件直後に報道官を通じて、事件は「挑発行為だ」との見方を示しています。
連邦捜査委員会の担当者も28日、「政治状況を不安定化させることが目的の計画的殺害の可能性がある」と述べ、プーチン大統領は組織横断の捜査チームを編成し陣頭指揮をとる考えを示しています。

捜査委員会は、〈1〉国内を不安定化させる扇動〈2〉イスラム過激派の犯行〈3〉ウクライナの過激派の犯行〈4〉ビジネス上のトラブル――の可能性を指摘していると報じられています。

しかし、野党勢力支持者やウクライナでは、政権側が関与した陰謀を疑う声があがっています。

****ネムツォフ氏、紛争への露軍関与暴露図り射殺か****
モスクワでネムツォフ元第1副首相が27日に射殺された理由について、ロイター通信は28日、ウクライナのポロシェンコ大統領が、ウクライナ紛争でロシア軍の関与を示す証拠を公表しようとしたためだとの認識を示したと報じた。

ポロシェンコ氏は28日、ウクライナのテレビで、ネムツォフ氏が数週間前、ポロシェンコ氏に露軍の介入について「説得力のある証拠を暴露する」と伝えてきたといい、「これを恐れた者が殺害した」と語った。

ロシアの野党勢力は「政治的殺人」として、政権と対立する有力者を狙った犯行を念頭に置く。

これに対し、政権側は「ウクライナに絡み(社会が)感情的になっている状況を背景に行われた挑発」(ペスコフ大統領報道官)として、政権批判をあおるための犯行だとの立場だ。【3月1日 読売】
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仮に、ウクライナ紛争でロシア軍の関与を示す証拠があったとしても、すでに当局によって押収されたと思われます。

****暗殺後に「家宅捜索」=ウクライナ侵攻の証拠押収か―ロシア****
ロシア当局がモスクワで2月27日夜に暗殺された野党指導者ボリス・ネムツォフ氏の関係先を次々と「家宅捜索」している。

同氏はプーチン政権が認めないウクライナ東部への軍事介入の証拠を入手、暴露を計画していたとされる。ウクライナのメディアは1日、ロシア当局がこの証拠を既に押収したと伝えた。

ロシア当局は懸賞金300万ルーブル(約580万円)を用意して有力情報の提供を呼び掛ける。プーチン大統領は「犯人を裁くため全力を尽くす」と約束したが、黒幕を含めて容疑者は明らかでない。(後略)【3月2日 時事】 
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まあ、もし“証拠”が公表されたとしても、プーチン大統領は“ねつ造”とか“陰謀”として、まったくとりあわなかったでしょうが。

プーチン政権への批判者を裏切り者と見なす雰囲気
ロシアではこれまでにもプーチン大統領を批判した人物の変死・暗殺という「闇」の歴史が繰り返されています。

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2006年には激しいプーチン政権批判を展開していたロシア人ジャーナリストのアンナ・ポリトコフスカヤ氏が殺害され、昨年、モスクワの裁判所が男5人に禁錮刑を言い渡した。

プーチン大統領の汚職を批判した実業家のミハイル・ホドルコフスキー氏は10年の禁錮と強制労働を言い渡された。

ロシアのスパイだったアレクサンドル・リトビネンコ氏は国家治安当局がプーチン氏に実権を握らせるためのクーデターを組織していたと非難。2006年に英ロンドンで放射性ポロニウムを使って毒殺された。犯人はつかまっていない。

ネムツォフ氏も生前、プーチン政権を非難したとして何度か逮捕されていた。【3月2日 CNN】
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こうした事件の背景には、プーチン政権への批判者を裏切り者と見なす雰囲気が広がっていることがあると指摘されています。

特に、ウクライナ紛争で欧米からの制裁を受けてから、政権批判を「利敵行為」とみなす論調がますます強まっており、ロシアを代表する文化人や芸術家がプーチン氏支持の署名に軒並み加わるなど、政権への同調圧力は強まっています。

****露野党指導者射殺】裏切り者の「第五列と戦え」…プーチン流プロパガンダの犠牲に「異論迫害が生んだ事件だ****
ロシアのプーチン政権を批判してきた著名人がまた、凶弾に倒れた。

モスクワのクレムリン近くで銃殺されたネムツォフ元第1副首相は、ロシアのウクライナ介入や高官の汚職を鋭く糾弾してきた存在。殺害の実行犯や背後関係は不明だが、クレムリンのプロパガンダ(政治宣伝)により、反政権派を許さない風潮が広がっていることが事件の背景として指摘される。

政権批判が理由だと疑われる殺害事件は過去にもあった。2006年10月にモスクワで女性記者のポリトコフスカヤさんが射殺された事件や、09年7月にチェチェン共和国で人権活動家のエステミロワさんが殺害された事件が一例だ。

それでも「一線を越えない限り、政権に否定的な意見も許される」というのが政界や報道界の“掟(おきて)”だった。

しかし、昨年3月のクリミア併合後、プーチン大統領が反政権派を「第五列」と称した頃から状況が一変した。

「第五列」はスペイン内戦(1936~39年)の際に使われたのが語源とされ、対敵協力者や裏切り者を意味する。

主要テレビ局の放送は、「第五列」が米欧と結託してロシアの攪乱(かくらん)を狙っているとのプロパガンダ一色となった。

2012年発足の第3次プーチン政権は、外国の資金援助を受ける非政府組織(NGO)を「外国の代理人」と規定したり、国家反逆罪の適用範囲を拡大したりと外国敵視の路線を鮮明にしてきた。

米欧の制裁などで経済情勢が悪化する中、政権は、内外の「敵」を設けて国民多数派の結束を促す旧ソ連時代さながらの手法を強めている。

ネムツォフ氏を知る地方議員や識者からは「プーチンの『第五列』発言に始まる異論迫害の結果がこの事件だ」「テレビがネムツォフ氏を殺したのだ」といった意見が出ている。

今回の事件が社会に与える影響は不明だ。国家反逆罪の適用事件が増えていることについて尋ねた最近の世論調査では、半数近くが「外国特務機関の活動が強まっているため」もしくは「露機関の職務水準が高まっているため」と答えた。【2月28日 産経】
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体制には揺らぎなし 懸念される「家宅捜索」での情報による更なる弾圧
今回の追悼デモは近年では最大規模となりました。
“モスクワでプーチン大統領に批判的な市民がこれほど大勢集まったのは最近では例がなく、その背景には、ウクライナ情勢に関する欧米の制裁の影響などでロシア経済が悪化していることに対して市民の間で不満が強まっているという見方も出ています。”【3月2日 NHK】

しかし、“地方都市で呼応する動きはほとんどなく、政権への影響は限定的なものになりそうだ”【前出3月2日 毎日】というのが実態で、直ちにプーチン体制が揺らぐことはないように思われます。

捜査当局はネムツォフ氏の自宅を家宅捜索し、パソコンや文書などを回収して調べを進めているとのことで、そこからの情報をもとに・反政府勢力・野党勢力への更なる弾圧が行われるのでは・・・とも危惧されます。
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