孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

トルコ・エルドアン大統領 “活発”な外交・軍事展開で、お疲れモード?

2017-10-11 23:10:36 | 中東情勢
共同記者会見で居眠り
****エルドアン大統領、トルコ・ウクライナ首脳共同記者会見で居眠り****

トルコのエルドアン大統領は9日、ウクライナのポロシェンコ大統領と共同記者会見した。ポロシェンコ氏の演説中、眠り込みそうになる様子の動画がネットに流出した。スプートニクが伝えた。

動画にはエルドアン氏が定期的に寝入りそうになっており、あくびを噛み殺したことがよく見える。
エルドアン氏は9日、ウクライナのキエフを訪問し、ポロシェンコ大統領との首脳会談した。【10月10日 SPUTNIK】
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熱弁をふるっていたポロシェンコ大統領(右)も気づいたようです。テーブルを手で叩いて、エルドアン大統領(左)を起こすようなふうにも見えます。

国内では反体制派の大量拘束という政治闘争継続
ただ、内外に多くの難しい問題を抱えるエルドアン大統領が“お疲れ”なのもよくわかります。

内政の面では、昨年来のクーデター未遂事件を契機とするギュレン派など反政府勢力一掃の“大規模粛清”が続いています。

****トルコ・クーデター鎮圧から1年 政治闘争はなお エルドアン大統領は反体制派を強力締め付け****
トルコで軍の一部によるクーデターが鎮圧されてから、16日で1年となった。エルドアン大統領は、4月の国民投票で承認された改憲で強大な権限を手に入れ、反体制派の大量拘束といった政治闘争を続ける構え。

クーデター事件の黒幕とされる在米イスラム指導者の身柄をめぐり対米関係が一層ぎくしゃくするなど、外交に影響もあらわれている。(中略)
 
エルドアン氏は事件後、米国で暮らすイスラム指導者、フェトフッラー・ギュレン師が首謀したと強調。政府や報道機関に浸透してきた同師支持者らを「国家の脅威」と呼び、公務員15万人以上を停職や免職としてきた。軍や警察などでの逮捕者は5万人に上る。(後略)【7月16日 産経】
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****トルコ軍幹部ら40人に終身刑 クーデター未遂事件****
トルコで昨年7月に起きた軍の一部によるクーデター未遂事件をめぐり、トルコの裁判所は4日、軍幹部ら40人に終身刑の判決を言い渡した。

今回の判決はエルドアン大統領を殺害しようとした罪に対するもので、地元紙などによると、事件で中心的な役割を担った被告らへの判決は初めてという。クーデター未遂をめぐっては別の罪状でも裁判が進められている。(中略)

トルコ政府は、在米のイスラム教指導者ギュレン師とその信奉者団体が事件の「黒幕」と見ており、米国に引き渡しを求めている。【10月5日 朝日】
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同盟国アメリカと対抗措置の応酬 ロシアとは接近
これだけでも大変な事態ですが、最近の外交面でのトルコ・エルドアン政権の“活躍”と言うか、武力衝突や政治対立をものともしない活発な活動は目を見張るものがあります。

あちこちに喧嘩を売っているようにも見えますが、まずはアメリカ。

上記の“ギュレン派一掃”の流れで、アメリカに対しギュレン師引き渡しを要求。これに応じないアメリカと険悪な関係になっていましたが、トルコ側が在イスタンブール米総領事館の現地職員を逮捕したことで互いにビザ発給を中止する事態にもなっています。

****ビザ発給、互いに中止=職員逮捕で対抗措置応酬―米・トルコ****
在トルコ米大使館は8日、米国での一時滞在に必要な非移民ビザの発給業務を中断すると発表した。

トルコ当局が4日、エルドアン大統領と敵対する在米イスラム指導者ギュレン師の支持者と接触したとして、在イスタンブール米総領事館の現地職員を逮捕したことへの対抗措置とみられる。
 
これに対し、トルコ側も米市民へのトルコ滞在用ビザの発給停止を発表した。トルコ外務省は9日、米大使館のナンバー2である首席公使を呼び、撤回を要請。エルドアン大統領は訪問先のウクライナで、今回の米側の決定を「腹立たしい」と述べた。(後略)【10月10日 時事】 
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アメリカとトルコは同盟関係にあり、IS掃討作戦では協調する関係にもありますが、両者の亀裂は中東情勢全体に影響します。

****<米国とトルコ>懸念される中東情勢混乱の拍車 関係悪化で****
米国とトルコの対立が深刻化した場合、とりわけ懸念されるのが中東情勢の混乱に拍車がかかることだ。
 
テロとの戦いを「中東の最優先事項」に掲げるトランプ米政権は、過激派組織「イスラム国」(IS)掃討作戦で多国間の結束を重視。トルコのイスタンブールの空港やナイトクラブなどで相次いだ大規模テロもISによる攻撃とみられ、トルコ側は国内の空軍基地の使用を米軍に許可して共に作戦を進める。
 
また、シリア内戦でも両国は反体制派を支援。イラク北部クルド自治区が9月に独立の是非を問う住民投票を実施した際も、地域の不安定化を懸念する立場から、共に「投票反対」を早くから表明した。

サウジアラビアなどが6月にカタールと断交した問題でも、トルコと米国は沈静化を目指して外交努力を続けている。両国関係がさらに悪化すれば、こうした共闘態勢にも影響を与えかねない。(後略)【10月10日 毎日】
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トルコとアメリカの間には、シリアのクルド人勢力をめぐる対立もあります。

“ISが「首都」と位置付けるシリア北部ラッカの奪還作戦を巡り、米国はクルド人主体の民兵組織を軍事支援しているが、トルコ側はこのクルド人勢力が国内で非合法組織のクルド労働者党(PKK)と関連があるとして問題視。ラッカの「解放」は間近とみられているが、IS追放後のクルド人勢力への対応を巡り、混乱が広がる可能性もある。”【同上】

トルコはアメリカを牽制するようにロシアに接近し、NATO加盟国としては異例のロシアからのミサイル購入を契約しています。

****トルコ、米への不信背景か ロシア製ミサイル購入契約****
トルコはロシアから最新鋭のS400地対空ミサイルシステムを購入する契約を結び、頭金を支払った。トルコメディアが12日、報じた。

北大西洋条約機構(NATO)の加盟国がロシアから主力兵器を購入するのは異例。背景には、少数民族クルド人の武装組織をめぐるトルコと米国のあつれきがあるとみられる。ロシア側にはミサイル売却でトルコの「NATO離れ」を促す思惑がある。
 
ただ、トルコの外交政策の基本は米国との関係重視であることは変わらず、実際にロシア製ミサイルの配備に踏み切るかは微妙だ。(中略)

トルコと米国は過激派組織「イスラム国」(IS)の掃討作戦で協力するが、ここ数年、トルコは米国に不信を募らせている。トルコがテロ組織に指定するシリアのクルド人武装組織に対し、米国が軍事支援し、対IS戦で共闘しているためだ。トルコは米国に支援中止を求めているが、米国は応じていない。
 
トルコはシリア内戦をめぐり、ロシアと対立関係にある。トルコが反体制派を、ロシアがアサド政権をそれぞれ支援しているためだ。ところが、クルド人武装組織がトルコ国境沿いで勢力を拡大し、トルコにとってはアサド政権の打倒よりもクルド人武装組織の牽制(けんせい)の方が優先順位が高くなった。ロシアとは昨夏、関係改善を果たした。(後略)【9月14日 朝日】
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シリア・イドリブに軍事介入か ロシアと共闘
一方、ラッカ奪回が目前に迫っているシリアに関しては、ISとは別のアルカイダ系のイスラム過激派を排除するため、イドリブでの「本格的(軍事)作戦」を開始しています。

****シリア北西部で作戦開始=反体制派を支援-トルコ大統領****
トルコからの報道によると、エルドアン大統領は7日、隣国シリア北西部イドリブ県で、トルコ軍が支援するシリア反体制派が「本格的(軍事)作戦」を開始したと明らかにした。ただ、トルコ軍は越境していないという。
 
イドリブ県をめぐっては、シリア内戦の和平を仲介するトルコ、ロシア、イランが同県に戦闘行為を禁じる「安全地帯」を設定する。3カ国の要員が監視に当たることで合意していた。今回の作戦は、トルコ軍の展開に向け、イドリブ県で強い勢力を持つ国際テロ組織アルカイダ系のイスラム過激派などの排除が目的とみられる。
 
エルドアン大統領は7日、西部アフィヨンカラヒサール県でのイスラム系与党・公正発展党(AKP)の会合で「北部アレッポを逃れてイドリブに着いた同胞を助けなければいけない。シリアとの国境沿いにテロの回廊が形成されることを決して許さない」と訴えた。【10月7日 時事】
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作戦は自由シリア軍が行うとされていますが、“トルコ軍の偵察部隊が8日、国境を越え、隣国シリア北西部イドリブ県に入った”【10月8日 時事】とありますので、おって本格的に越境介入するのではないでしょうか。

イドリブ地域ではロシア空軍が活発な爆撃を実施しており、地上ではトルコ軍が支援し、空からはロシア空軍が支援する共闘体制になるようです。このあたりも、前出のトルコ・ロシア接近の背景にあるようです。これまで反体制派を支援してきたトルコがアサド政権を支えるロシアと対過激派で共闘するということは、トルコとしてもアサド政権を事実上容認したということでもあるでしょう。

なお、エルドアン大統領とプーチン大統領はイドリブでの安全地帯設置で合意しています。

****シリア北西部の安全地帯、ロシアとトルコが設置推進で合意****
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領とトルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領は28日、トルコの首都アンカラで会談し、イスラム過激派の支配下にあるシリア北西部イドリブ県で、戦闘や空爆を禁じる「緊張緩和地帯(安全地帯)」の設置を推進することで合意した。
 
エルドアン大統領は会談後、イドリブ県での安全地帯設置を「より強力に推し進める」ことで合意したと発表。プーチン氏も同様のコメントを出した。
 
ロシアとトルコは5月にカザフスタンの首都アスタナで開かれた和平協議で、シリア国内4か所に軍事監視団が巡回する安全地帯設置の提案を行っていた。中でもイドリブでの安全地帯設置は重要な意義を持つ。
 
ロシア・トルコ両首脳は、6年以上におよぶシリア内戦の終結に向けて「連携を強化していく」とも表明した。
 
プーチン大統領は「同胞が殺し合うシリア内戦を終結し、テロリストを最終的に敗北させ、シリア人に平和な生活と家庭を取り戻すに必要な条件が事実上整った」との認識を示した。【9月29日 AFP】
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イラク・クルド自治政府の独立阻止で強硬姿勢
次に、イラクのクルド自治政府へのけん制・圧力。

これまでイラクのクルド自治政府とトルコは、自治政府財政の命綱である原油のパイプラインがトルコを通っているとか、トルコの企業がイラクのクルド人自治区に多額の投資を行っているなど自治区財政・経済をトルコが支え、一方、自治政府側からはPKK情報をトルコへ提供する、PKK掃討のための自治区領内へのトルコ軍の侵攻も黙認するなど、緊密な関係にありました。

しかし、自治政府が9月25日に強行した独立を問う住民投票に関しては、トルコは明確に反対しています。

トルコ国内で反政府活動・テロを行うPKKに代表されるように、トルコにとってはクルド人問題は最大の問題のひとつであり、自治政府独立で国内クルド人勢力が刺激されることは容認できない立場にあります。

****<トルコ>イラク国境付近で軍事演習 独立住民投票に圧力****
イラク北部のクルド人自治区の独立の賛否を問う住民投票を巡り、実施に反対する隣国トルコがイラク国境付近で軍事演習を開始した。投票強行の構えを崩さないクルド自治政府に対する圧力とみられ、緊張が高まっている。(後略)【9月21日 毎日】
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****クルド独立阻止へ制裁強化も=断固反対で一致―イラン・トルコ首脳****
イランのロウハニ大統領とトルコのエルドアン大統領は4日、テヘランで会談し、イラク北部のクルド自治政府が強行した独立を問う住民投票は「正当性がない」との認識で一致した。

エルドアン氏は記者会見で「一層の制裁措置を講じる。自治政府は孤立を深める」と述べ、独立機運を鎮めるため圧力を強める意向を示した。
 
イラン、トルコはそれぞれ国内に多くのクルド人を抱え、イラクでの動きが自国に波及する事態を警戒している。自治政府はトルコ経由の原油輸出を主要収入源としており、トルコが原油パイプラインの遮断などに踏み切れば大きな経済的打撃となる。
 
イランもイラク軍との合同演習を実施するなど、自治政府への威圧を強化している。ロウハニ師は「憎しみを高め、宗派対立をあおる試みを非難する」と指摘。「イラクは一つの国家であり、地理的国境の変更は認めない」と語った。【10月4日 時事】 
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****イラクとの国境・空域閉鎖へ=クルド自治政府の独立投票で―トルコ****
ロイター通信によると、トルコのエルドアン大統領は5日、首都アンカラでの演説で、イラク北部のクルド自治政府が独立の是非をめぐる住民投票を強行したことを受け、「(イラクとの)空域と国境を間もなく閉鎖する」と述べた。
 
今回の投票に対する制裁措置として、トルコの各航空会社は既に、自治区への国際線運航を中止していた。【10月5日 時事】
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トルコ・エルドアン大統領はクルド自治政府独立問題のカギを握っているとも見られています。

****イラクからの分離独立はクルドの天敵トルコ次第****
・・・・トルコのエルドアン大統領は住民投票実施に反発。自治区からの石油輸出に対して、「蛇口はこっちにある。それを閉めればおしまいだ」と強硬姿勢を見せた。

だが実際に蛇口を閉めるとは断言しておらず、自治政府の指導者たちはトルコの姿勢が最終的に軟化することに賭けていることだろう。(後略)【10月10日号 Newsweek日本語版】
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ドイツに内政干渉
更に、トルコ・エルドアン政権はドイツなど欧州との関係も険悪になっています。

****2017試練の欧州)選挙でも、トルコと泥仕合 ドイツ総選挙****
(9月)24日に迫るドイツ総選挙に、悪化するトルコとの関係が影を落としている。

トルコのエルドアン大統領はドイツのトルコ系住民に、メルケル首相が率いる与党に投票しないように呼びかけた。これに対し、メルケル氏はトルコの欧州連合(EU)加盟交渉の打ち切りを示唆するなど、泥仕合になっている。
 
ドイツにはトルコ系住民約300万人が住み、人口の約4%を占める。昨年7月にトルコでクーデター未遂事件が起きると、トルコ系住民はエルドアン氏の支持派と反対派に分断され、衝突するようになった。
 
ただ、トルコの大統領権限を強める憲法改正を狙った今年4月の国民投票では、ドイツのトルコ系住民の憲法改正賛成率(約63%)はトルコ国内(約51%)を上回り、エルドアン氏の支持派がやや多いとみられる。
 
南西部ダルムシュタットに住むトルコ系移民のサバハティン・チャキラルさん(43)は「移民はドイツで差別されている」といい、ドイツ社会への反発と自らのアイデンティティーを求める心が、エルドアン氏支持に向かわせるという。
 
ドイツ政府は、エルドアン氏の支持派と反対派の対立がドイツ国内に持ち込まれることへの危機感が強い。与党・キリスト教民主同盟(CDU)は今回の総選挙で「二重国籍の制限」を公約した。移民3世には二重国籍を認めず、ドイツ国籍に統一する。
 
これに対し、エルドアン氏は先月、「トルコたたきで票獲得が図られている。総選挙でCDUと(同党と連立を組む)SPD(社会民主党)に投票しないように」とドイツのトルコ系住民に呼びかけた。

メルケル首相はすぐさま「内政干渉は許さない」と猛反発。今月初めに行ったシュルツSPD党首とのテレビ討論では、トルコのEU加盟交渉の打ち切りを模索することで足並みをそろえた。
 
その後も、トルコ外務省が「ドイツの政治指導者は反トルコで選挙運動をし、トルコのEU加盟も阻止しようとしている」とする声明を出すなど非難合戦が続き、関係修復の見通しは立っていない。【9月22日 朝日】
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4月の憲法改正国民投票の際も、トルコ・エルドアン政権は欧州各国でエルドアン支持の政治集会を行おうとして問題となりました。

エルドアン大統領は、欧州との緊張は欧州域内の政治要因が原因とし、ドイツとの関係は9月24日の独議会選挙後に改善するとの見通しを示していましたが、どうでしょうか・・・。

国内で“大規模粛清”を強行しながら、アメリカとの関係が悪化、シリアには軍事介入、イラク・クルド自治政府には独立阻止で圧力をかけ、欧州・ドイツとは“内政干渉”でEU加盟どころではない状態・・・まあ、これだけ厄介の種を抱えていれば、記者会見中に“居眠り”も出るでしょう。

もっとも、エルドアン大統領の“強気”は今に始まったことではなく、以前はロシア機を撃墜したり、ガザ支援船ではイスラエルと揉めたりと、いろいろ経験していますので、今の状態もさほどのストレスではないのかも。
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再び増加するロヒンギャ難民 スー・チー国家顧問自身のロヒンギャに対するネガティブな意識

2017-10-10 21:54:18 | ミャンマー

(バングラデシュ・テクナフで、ボートの転覆事故で死亡したロヒンギャ難民の子どもの遺体を運ぶボランティアの男性(2017年10月9日撮影)【10月10日 AFP】)

【「彼らは私たちには危害を加えないと言ったが、結局は私たちを追い出して家々を燃やした」】
10月1日ブログ“ロヒンギャ問題  脅威を煽り対立構造をつくるミャンマー政府 政府を擁護する中国・日本”など、再三取り上げているミャンマー西部ラカイン州のイスラム系少数民族ロヒンギャに対する“民族浄化”と思われる弾圧について。

10月に入って、ミャンマーから隣国バングラデシュへのロヒンギャ難民が再び増加しているとの懸念されるニュースが。また、ミャンマー国軍によるロヒンギャ追放が再び強化されているとも。

****バングラとの国境付近に1万人のロヒンギャ、脱出が再び増加傾向****
ミャンマーの西部ラカイン州で、隣国バングラデシュとの国境地帯にイスラム系少数民族ロヒンギャ1万人以上が集まっていることが分かった。地元メディアが報じた。襲撃の恐怖や食料不足ゆえにバングラデシュへ脱出しようとしているとみられる。
 
3日付の英字紙「ミャンマーの新しい灯」は、「隣国へと越境するため」に、国境地帯に1万人を超える「イスラム教徒」が集まっていると報じた。
 
ロヒンギャのバングラデシュへの脱出は一時収束したものの、バングラデシュ国境警備隊によると現在は1日4000~5000人が国境を越えているという。
 
ここ5週間でバングラデシュに流入したロヒンギャは50万人超に上り、再びその数が増加する傾向にある。ミャンマー側はロヒンギャの帰還を始めると提案したが、実現性には疑問の声が上がっている。【10月4日 AFP】
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****ミャンマー軍に新たなロヒンギャ追放の動きか、「追い出され家焼かれた****
ミャンマーから隣国バングラデシュへ脱出するイスラム系少数民族ロヒンギャの難民数が再び増加に転じる中、新たに逃げてきた人々が、ミャンマーの治安部隊によって村を追われたと話している。

証言によると、ミャンマー軍は村に残ったロヒンギャの人々を家から追い出す取り組みに力を入れており、村々は人っ子一人いない状態で、数千人の難民が徒歩で国境を目指しているという。(中略)
 
ロヒンギャの人々によれば、ここにきて難民が急増しているのは、ミャンマー西部ラカイン州で、残留していたロヒンギャを追放する新たな動きがあるだめだという。ミャンマーは今週、迫害されたロヒンギャを帰還させる取り組みを開始すると発表したが、提案の実行性に疑問が生じている。
 
この数週間でラカイン州からはロヒンギャ人口の半数が脱出した。さらに、これまで暴力による最悪の事態を免れてきた人々にも、不安に駆られて村を離れようとする動きが広がっている。
 
娘を連れて2日夜にバングラデシュに到着したロヒンギャの女性(30)は、ミャンマーの地元当局者からは村を出なければ安全だと保証されていたが、9月29日に「軍がやって来て、家々を1軒ずつ回って退去を命じた」とAFPの取材に語った。

この女性によると、軍はラカイン州マウンドー周辺を一掃。「彼らは私たちには危害を加えないと言ったが、結局は私たちを追い出して家々を燃やした」という。
 
ミャンマー国営メディアは、ロヒンギャ難民は安全を保証されたにもかかわらず「自発的に」脱出していると報じている。
 
だが、今月1日にバングラデシュに到着したロヒンギャ男性も、ミャンマー軍から村を退去するよう命じられたとAFPに語った。「私たちが村を出ると、周辺の村々からも人々が集まってきた。彼ら(ミャンマー軍)は誰一人殺さず、ただ家々を焼き払った」。

バングラデシュとミャンマーの国境を隔てるナフ川に近づくにつれ、歩いて避難するロヒンギャ市民の人数は増え、長蛇の列をなしていたという。【10月5日 AFP】
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国軍による“新たな弾圧”が行われているのかどうか・・・現地の実態はわかりませんが、百歩譲って直接関与がなかったとしても、暴力の恐怖におびえたり、共同体崩壊で生活できなくなった人々が故郷を去ることが“「自発的に」脱出している”と言えるのか?という問題もあります。なにやら慰安婦問題の話のようでもありますが。

難民の帰還については、ミャンマー・バングラデシュ両政府による一応の合意がなされてはいます。

****ロヒンギャ帰還へ作業部会=ミャンマーとバングラが合意****
ミャンマー政府は3日、チョー・ティン・スエ国家顧問府相がバングラデシュのアリ外相とダッカで2日に会談し、同国に避難したイスラム系少数民族ロヒンギャの帰還問題を話し合ったと発表した。

AFP通信によると、アリ外相は会談後、難民の帰還に向けた作業部会の設置で両国が合意したことを明らかにした。
 
ミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問は9月、難民の帰還を進めるため、「身元確認手続きを開始する用意がある」と表明。ミャンマー側は会談でこの方針を改めて示した。アリ外相は、身元確認は作業部会が行うと述べた。
 
ロヒンギャの武装集団とミャンマー治安部隊の衝突が8月25日に始まってから、バングラデシュに逃れた難民は50万人以上に達している。【10月3日 時事】
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しかしながら、もともと国籍も付与されておらず、着の身着のままで逃げた人々も多い状況で、“身元確認手続き”がどうやって行われるのか?、また、“身元確認手続き”の結果、正式に“外国人”として登録されるようなことにならないのか?等々、今後の扱いには疑問もあります。

前出記事では難民は“1日4000~5000人”レベルに増加している・・・とのことですが、ミャンマー国軍の追放作戦の成果か、状況は更に悪化しているようです。

****ロヒンギャ難民が再び急増、1日で数万人バングラ入りか****
ミャンマーでの暴力を逃れたイスラム系少数民族ロヒンギャが難民化している問題で、最大で数万人のロヒンギャが9日、バングラデシュに到着した。地元当局が明らかにした。新たに到着した難民の中には、飢えや疲労、発熱が原因で死亡する子供がいたとの情報もある。
 
国際移住機関(IOM)によると、ミャンマー西部ラカイン州から国境を越えてバングラデシュに入国するロヒンギャ難民の数は、最近になって1日あたり2000人程度まで減少していた。国連(UN)は、過去6週間に発生したロヒンギャ難民数を51万9000人と推計している。
 
だが複数の目撃者によると9日、ミャンマーとバングラデシュを隔てるナフ川の沿岸にある国境の村アンジュマンパラに、川幅が狭くなっている部分をボートで渡ってきた難民の新たな波が押し寄せた。
 
アンジュマンパラの地元議員は、9日に入国したロヒンギャ難民は数万人に上ると主張。現場のAFP特派員は、日中から夜間にかけて少なくとも1万人の難民が新たに到着するのを目撃した。
 
バングラデシュ国境警備隊(BGB)のマンスルル・ハサン・カーン少佐はAFPの取材に対し、日中に到着したロヒンギャ難民の推定数は6000人程度で「少なくとも過去2週間で最多だ」と語った。
 
同少佐によると、難民の中にいた2歳半と3歳の男の子2人が、バングラデシュに入国する際に飢えと疲労により死亡。また現場のAFP写真記者によると、4歳の男の子が発熱で死亡した。【10月10日 AFP】
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難民の増加に伴って、痛ましい事故も。

****ロヒンギャ難民のボート転覆、新たに子どもら9人の遺体 死者23人に****
ミャンマーでの暴力行為を逃れて隣国バングラデシュに渡ろうとしていたイスラム系少数民族ロヒンギャを乗せたボートが転覆した事件で、バングラデシュ警察は10日、同国側に流れついた9人の遺体が新たに見つかったと発表した。これにより、転覆事故による犠牲者は23人となった。(中略)
 
行方不明者の数は不明だが、生存者や当局者などの話から転覆した船には60~100人が乗っていたとみられる。これまでに15人がバングラデシュの沿岸警備隊や国境警備隊に救出され、当局者によれば泳いでミャンマー側にたどり着いた人もいると考えられるという。
 
バングラデシュを目指すロヒンギャの多くは、ナフ川の川幅が最も狭い場所を横断するが、古く粗末なトロール漁船でベンガル湾(Bay of Bengal)を渡ろうとする人たちも少なくない。【10月10日 AFP】
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ロヒンギャを嫌悪する国内世論 国軍への影響力もないスー・チー氏
このような事態を止められないスー・チー国家顧問については、国軍を統制する力がなく、仏教徒が多数を占める国民世論もロヒンギャに対する強い嫌悪感を示していることから、政治的に身動きがとれない状況にあるとの指摘は再三なされています。

ロヒンギャを嫌悪する世論の一端として話題になったのが、ロヒンギャを批判したミス・ユニバースのミャンマー代表の代表剥奪の件です。

****ミス・ミャンマー代表 ロヒンギャ批判後に代表剥奪****
・・・・ことしのミス・ユニバース、ミャンマー代表のシュイ・エアイン・シーさんは先月29日、自身のフェイスブックにロヒンギャを批判する動画を投稿しました。

この中で、シーさんは「ロヒンギャの武装集団がメディアを使ったキャンペーンを主導してロヒンギャが迫害されていると思い込ませ、世界をだましている」と非難しました。

その後、今月1日になってシーさんは「規則違反があった」として突然ミス・ユニバース、ミャンマー代表の座を剥奪されました。

これについてミス・ユニバースの主催者は「動画投稿との関連はない」としていますが、SNS上ではシーさんの行動を擁護したり、ミス・ユニバースの主催者を非難したりする投稿が多くを占め、ミャンマー国内のロヒンギャに対する見解の複雑さが浮き彫りとなりました。

ミャンマー西部ではロヒンギャの武装勢力と政府の治安部隊の間で戦闘が続き、50万人を超えると見られるロヒンギャの住民が隣国バングラデシュに避難していて、国際社会からの「迫害だ」という非難に対し、現地当局は合法的な取締りだと反論しています。【10月5日 NHK】
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“ミャンマー国内のロヒンギャに対する見解の複雑さ”と婉曲な表現になっていますが、要するにロヒンギャに対する強烈な嫌悪・拒否感です。

スー・チー氏自身は? 「彼らはベンガル人であり、外国人なのだ」 強調するイスラム教徒の脅威
こうした国民世論にあって、国軍に対する影響力をもたないスー・チー国家顧問は積極的な対応ができない・・・という話はわかりますが、スー・チー氏自身はロヒンギャについてどのように認識しているのでしょうか?

下記記事から窺えるところでは、スー・チー氏自身もロヒンギャにはあまり共感・同情を持っておらず、この件で国際社会から責められるミャンマー政府・自身に関して被害者意識を示しているように見えます。

なお、長い記事なので、スー・チー氏の“ロヒンギャに対する意識”に関係する部分のみをピックアップしました。

****スー・チー氏はなぜ沈黙を守っているのか****
軍のロヒンギャ攻撃を批判すれば完全民主化の目標が危うくなる

ノーベル平和賞受賞者の民主化活動家であり、ミャンマーの文民指導者でもあるアウン・サン・スー・チー氏は昨年、ある上級外交官と会談した。このときスー・チー氏は、何世紀も少数派だったイスラム教徒が多数派となったインドネシアの例を戒めとして語った。
 
この会談に詳しい人物によると、スー・チー氏はミャンマーに同様の状況は望まないと述べた。イスラム教徒はミャンマー人口の4%を占めるに過ぎないが、一部の地域では既に多数を占めているとも語った。(中略)

スー・チー氏の側近によると、同氏が沈黙を守っているのは戦術として決めたことだという。もっと強い調子で話せば、かつてミャンマーを統治し、今も大きな権力を握る軍を敵に回して、完全な民主化の達成という目標が危うくなるかもしれない。スー・チー氏はそう心配しているのだ。

民族と宗教のバランス
しかしスー・チー氏は、仏教徒が大半を占めるこの国に昔から残る不満や懸念に共感するが故に、沈黙している面もあるようだ。

少数派であるイスラム教徒が増加すれば、何とか成立している民族と宗教のバランスが崩れるかもしれないという明確な不安がミャンマーには存在する。多くの国民にしてみれば、ロヒンギャは、イスラム教圏を東に広げようとしているバングラデシュからの侵入者だ。
 
2013年、ミャンマーを訪問したある外交官がスー・チー氏と会談した。会談について知るある人物によると、外交官がロヒンギャ問題を取り上げると、スー・チー氏は「ロヒンギャと呼ばないで欲しい。彼らはベンガル人であり、外国人なのだ」と注意した。

ミャンマーでは「ベンガル人」という言葉は、バングラデシュ出身の不法移民を説明するときに使われることが多い。スー・チー氏は、ラカイン州の仏教徒にとってイスラム教徒がどれほどの脅威か、国際社会は過小評価していると不満げに語ったという。(中略)

スー・チー氏は先月、国連総会への出席を断念した。出席すれば、ロヒンギャ難民についてあれこれ聞かれるはずだった。事情に詳しいある人物によると、スー・チー氏が国連の場で行き過ぎた発言をすれば、軍は同氏の帰国を認めないかもしれないという懸念があった。スー・チー氏は兵士がロヒンギャの集落を焼き討ちにしたことへの批判を避け続けている。(中略)

新たな国家主義的な国家観
国内の多くの少数民族と和平協定を結ぶというスー・チー氏の計画は今のところ頓挫している。国内の紛争で住む場所を失った人の数は、スー・チー氏が政権入りしたときより今のほうが多い。

同氏は反政府勢力との信頼構築に向けて懸命に努力しているが、反政府勢力の多くは実権を握っているのは国軍だとみている。
 
今年、ミャンマー北部の戦闘で家を失った数千人のカチン族が暮らすキャンプを訪れたスー・チー氏は、状況を改善するためにどんな経済的チャンスでもつかめるチャンスは逃さないでとアドバイスして多くの人を失望させた。自分が滞在しているホテルで労働者を探しているとも言った。
 
聴衆の一人が政府を親に、武装民族集団を子どもに例えると、スー・チー氏はこれに飛びついた。このやり取りを知る人物によると、同氏は避難民に対し、武装集団に「親の言うことを聞きなさい」と言うように求めたという。

スー・チー氏の報道官は政府の和平計画は前進していると述べた。報道官によると、軍の支援を受けた前政権は武装集団の多くと停戦合意を結んだが、スー・チー氏は紛争の政治的解決について議論を開始し、さらに一歩前進した。
 
ミャンマー経済については、多くの人がベトナムのように急成長すると考えていたが、変化は遅く、一部の投資家は関心を失った。新規投資はスー・チー氏の政権入り前に急増したが、国連のデータによると、2016年の新規投資額は前年比22%減の22億ドル(約2500億円)だった。
 
スー・チー氏率いる政府が悪戦苦闘する中、新たな国家主義的な国家観が広がっている。その背後にいるのは主に軍と、有力な僧侶を含む軍の支持者だ。
 
スー・チー氏は2015年の総選挙で自党からイスラム系の候補者を立てなかったことについて、権利団体からの非難を受け止めていたが、ロヒンギャの反政府集団による攻撃については、国際社会の反応は生ぬるいと腹を立てた。

関係者によると、国連がミャンマー軍に自制を求める声明を発表すると、スー・チー氏はネピドーである国連関係者に詰め寄った。
 
この関係者によると、「彼女は『なぜ攻撃をもっと強く非難しないのか。これは国家に対する反逆だ』と言った」。

ある外交官によると、スー・チー氏はロヒンギャに市民権を与えることにも消極的な姿勢を示した。市民権を与えればバングラデシュからさらに多くのイスラム教徒を招くだけだと話したという。
 
かつての仲間の一部――その多くは1980年代の民主化運動時代からの仲間だ――は、スー・チー氏は軍と権力を分け合うことに合意したことで、軟禁当時と同じくらい身動きが取れなくなっているのではないかと考えている。
 
元政治犯で現在はヤンゴンにあるシンクタンクの所長を務めるキン・ゾウ・ウィン氏はスー・チー氏の軍に対する態度を見ていると、ミャンマーが近い将来、完全な民主主義国家になるとは思えないと話す。
 
「彼女は自分を軍に縛りつけている。両者とも、手を握らなければならないことが分かっているからだ」 とキン・ゾウ・ウィン氏は言う。「昔のものも含めてスー・チー氏の発言を聞くかぎり、彼女には軍に対する影響力はない」【10月9日 WSJ】
******************

スー・チー国家顧問が国軍によるロヒンギャへの暴力行為を積極的に支持している・・・とは言いませんが、彼女自身、多くの国民同様に、ロヒンギャに対してはかなりネガティブな感情を持っているように見えます。

国民の支持を失い、軍部の力によって政権を失うリスクを敢えて冒してでもロヒンギャ保護に出るインセンティブは、彼女自身の中にはないようです。

外から強い力をかけない限り(反発を招かないように、うまく行う必要がありますが)、ミャンマーだけの自発的な取り組みに任せるだけでは、事態の改善、問題の根本的解決は難しいように思えます。
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パレスチナでハマス・ファタハの和解協議始動 イスラエルとヒズボラ、高まる戦闘の危険性

2017-10-09 23:03:48 | パレスチナ

(シリア領内へのイスラエルの空爆で死亡したヒズボラメンバーの葬儀 “flickr”より By Jean Bosco SIBOMANA

それぞれの組織事情もあって動きだしたファタハ・ハマスの和解協議
パレスチナにおける自治政府を主導するファタハとガザ地区を実効支配する強硬派ハマスの和解協議については、9月18日ブログ“パレスチナ ハマスが自治政府・ファタハとの和解交渉の意向 信頼を失っている自治政府ではあるが・・・”で取り上げたところです。

ここにきて対立する両者が和解協議に乗り出した背景には、それぞれ組織の生き残りをかけた事情があるようで、そのあたりにについては、石堂ゆみ氏「オリーブ山便り」“ハマス・ファタハ合意へ急進中か”【10月8日】に詳しく書かれています。

ハマスの側は前回ブログでも触れたように外交的に孤立し、自治政府側の財政的締め付けにもあって、住民行政が立ち行かない状況になっています。
(逆に言えば、これまで対立するハマスが支配するガザ地区のイスラエルからの電力購入代金や、公務員給与などを自治政府側が負担してきたことの方が、部外者には不思議なところです)

窮地に追い込まれたハマスはイランに接近しようとして、これを嫌うエジプトがファタハとの(双方に圧力をかける形で)仲介に乗り出した・・・とのこと。

一方、ファタハ・アッバス議長の側は、ガザ出身の政治的ライバルがガザ支援に乗り出す動きがあり、放置するとガザを、更には自治政府までライバルに持っていかれる懸念も。

そこで、本来であればもっとハマスを締め上げてハマスの軍事部門を解体させたいところながら、やむなく現時点でのエジプトの仲介に乗った・・・という事情とか。

お互いそういう事情もあって、これまでも何回かあって頓挫した和解協議よりは気合が入っているようです。
10月3日、パレスチナ自治政府(ファタハ)のハムダラ首相が、自治政府官僚430人を率いてガザを訪問し、ガザでの初の閣議が開かれています。

****<パレスチナ>ハマスと自治政府、和解協議が本格的に始動****
パレスチナ自治区ガザ地区を2007年から実効支配してきたイスラム原理主義組織ハマスと、ヨルダン川西岸を統治するパレスチナ自治政府の和解に向けた協議が、本格的に始動した。

今後は仲介国エジプトの首都カイロで協議を続けるが、ハマスの軍事部門を巡る隔たりは大きく、和解が実現するか見通せない。
 
自治政府のハムダラ首相や閣僚らは2日にガザ入りし3日に閣議を開くなど、和解ムードを演出。一方で双方の最高指導者は舌戦を展開し、早くも対立点が浮き彫りとなった。
 
AP通信によると、自治政府のアッバス議長は2日、「全てが自治政府の統治下に入らなければならない」と述べ、ハマスが軍事部門を維持しないようけん制した。

ハマスの最高指導者ハニヤ氏は3日、「(イスラエルのパレスチナ)占領が続く限り、武器を持ち抵抗する権利を有する」と主張し、軍事部門の堅持を示唆した。

ハマスは、自治政府の経済圧力による電力不足の早期解消なども求める。だが自治政府側は10日からのカイロでの協議に委ねた。協議が長期化すれば、和解を歓迎するガザの世論が一変し、再び不満が高まる恐れもある。
 
パレスチナの分断状況の解消は、パレスチナとイスラエルの和平交渉の前提条件でもある。両者の間で長年仲介役を務めてきた米国では、今年1月に発足したトランプ政権も仲介への積極関与姿勢を示しており、和解協議の行方が注目される。
 
ただ、米国や友好国のイスラエルは、ハマスをテロ組織と見なす。パレスチナ側で和解が実現しても、ハマス軍事部門の扱いが問題になりそうだ。

イスラエルのネタニヤフ首相は「偽りの和解を受け入れる用意はない」と発言。和解には▽イスラエルの存在承認▽イスラエルと衝突を繰り返してきたハマス軍事部門の解体▽イスラエルと敵対するイランとハマスの関係断絶−−が含まれなければならないと主張している。【10月5日 毎日】
*******************

実効性のある合意が得られるかどうかは今後の協議次第ですが、ハマスが生命線である軍事部門を手放すことは考えられませんので、そのあたりをどう“曖昧に糊塗”するか、また、イスラエルがどのように反応するか(公式見解としては、上記記事にある条件が明確に満たされなければ、そうしたハマスを受け入れる統一政府も相手にしない・・・ということでしょうが)、いろいろ問題が山積しています。

ただ、今回和解協議がまた頓挫すれば、ハマス・自治政府双方とも、いよいよ住民の信頼を失うことにもなります。

ゴールは遠いパレスチナ和平
パレスチナ統一政府が実現すれば、次はイスラエルとパレスチナの和平交渉・・・という話になりますが、ゴールは遥か彼方に・・・といったところです。

なお、イスラエルのネタニヤフ首相とエジプトのシシ大統領は9月日、国連総会開催中のニューヨークで会談。エジプト大統領府によると、シシ大統領はイスラエルとパレスチナの「2国家共存」実現のため、2014年4月以降中断している「公正かつ包括的な解決に向けた交渉を再開する重要性」を強調したとか。【9月19日 時事より】

イスラエル・パレスチナの間では、不穏なニュースばかりが報じられていますが、平和的共存を願う人々もいないことはないようです。

****イスラエルとパレスチナの女性5000人 平和訴え行進****
聖地エルサレムをめぐって対立するイスラエルとパレスチナの女性およそ5000人がヨルダン川周辺を行進し、平和の大切さを訴えました。

この行進は中東和平の実現を目指す女性の市民団体のグループが主催しています。
グループは、2014年にイスラエル軍がガザ地区に侵攻し50日間に及ぶ戦闘の末、ガザ地区で多くの市民を含む2100人以上が死亡、イスラエルでも兵士を中心におよそ70人が死亡したことを受けて設立されました。

行進は平和の大切さを訴えようと先月から行っているもので、8日には聖地エルサレムをめぐって対立するイスラエルとパレスチナの女性、合わせておよそ5000人が集まりました。

女性たちは平和の象徴として白い服を身につけてヨルダン川周辺を行進し、平和を求めてシュプレヒコールを上げたり歌を歌ったりしながら平和の大切さを訴えていました。

グループの創設に関わった女性は「今回の行進にはユダヤ人やアラブ人といったさまざまな女性が参加しています。次の戦争を止めたいと思い行進をすることに決めました」と話していました。【10月9日 NHK】
********************

このような動きが拡大することを願ってはいますが、現実はなかなか・・・。

戦闘に備えるイスラエルとヒズボラ
イスラエル国内では、パレスチナ人の抵抗運動が折に触れ噴き出すような状況が続いていますが、イスラエルが“戦争”の対象として強く意識しているのは、レバノンの武装勢力ヒズボラ、そしてヒズボラの背後にいるイランです。

****イスラエルが希求する「次の中東戦争」 トランプも煽る「イランとの対決****
・・・・九月七日未明に、シリア・ハマー県のマスヤーフという町で空爆を敢行したのは、イスラエル空軍以外にはなかった。この種の攻撃では常にそうであるように、イスラエル政府・軍とも公式なコメントはしなかった。(中略)

空爆の目的は、アサド政権が開発する化学兵器が、イスラエルの仇敵であるヒズボラの手に渡るのを防ぐことだった。元軍高官のヤーコブ・アミドロール氏は「シリアの政府施設攻撃はこれが初めてだ」とさらりと語った。(中略)

最近は、イスラエルによるシリア領内空爆が常態化している。今年は数週間に一度くらいの頻度で、空爆が行われている。ただこれまで標的は通常、領内を通過するヒズボラの車列や、武器を積んだトラック、武器庫などだった。

イランにも開戦を望む動機
北朝鮮問題に世界の耳目が集まる中、イスラエルとヒズボラ、さらにその背後に控えるイランとの軍事的緊張が高まっている。
 
イスラエルを全面支持する米トランプ政権のニッキ・ヘイリー国連大使は、「風雲急を告げている」という表現で、情勢を要約した。

イスラエルとヒズボラの軍事衝突がレバノン南部かシリア南部で勃発すれば、二〇〇六年のレバノン南部での戦争以来十一年ぶりとなる。「次期中東戦争」との形容もあり、仮にイラン軍がかかわることになれば、建国以来初のイスラエルとイランの直接交戦である。

イスラエル側は闘志十分である。
ベンヤミン・ネタニヤフ首相は九月十九日の国連総会演説で、「我々を絶滅させると脅す者たちは、自らの身を生死の危険にさらしているのだ。わが軍は全力で反撃する」「(イラン最高指導者の)ハメネイ(師)に、これだけは言っておく。イスラエルの灯りが絶えることはない」と、旧約聖書を想起させる語調で、イラン政府を批判した。
 
トランプ政権もふんだんに「モラル・サポート」を提供した。北朝鮮による拉致問題に言及して安倍晋三首相を感激させたトランプ演説は、実はイランについても十二回言及して「ならず者国家」と非難し、ネタニヤフ首相を「こんな大胆で、勇気のある国連演説を聞いたことはない」と感嘆させた。
 
ヘイリー大使は八月には、国連がレバノン南部に派遣している「暫定駐留軍」について、ただ駐留しているだけでヒズボラの軍備拡大を黙認しているとして、アイルランド人司令官を名指しして、「何が起きているのか見えていない」と痛烈に批判した。
 
イスラエル軍はまた、九月に「過去二十年では最大」とされる一万人規模での軍事演習を行った。ヒズボラとの戦争を想定した非常に実戦的なもので、イスラエル軍は演習終了に際して、「ヒズボラを圧倒的軍事力で無力化させることができる」との声明を発表した。
 
これに対して、ヒズボラ側も、最高指導者のハッサン・ナスララ師が「次の戦争はイスラエル領内で行われることになる」「我々は(エルサレムの聖地)神殿の丘を奪還する」などと威勢の良い発言を続けている。

だが、在中東邦人特派員は「本音を言えば、今開戦はしたくないのではないか」と言う。スポンサーであるイランの指令でシリア内戦に長年出兵し、死者一千五百~二千人を出しており、組織の兵員たちに疲弊感があるのは確かだろう。
 
その半面、ヒズボラの執拗な働きかけにより、レバノン政府全体が大きくイランとシーア派寄りに変わった。スンニ派盟主を自任するサウジアラビアが、対レバノン支援を大幅削減したほどで、「今やイランはイラク、シリア、レバノンを自由自在に操ることができる」(在米湾岸政府筋)状態だ。

イスラム過激派組織「イスラム国」(IS)との戦闘が収束すれば、イラン=アサド政権=ヒズボラの「シーア派枢軸」は地域最大・最強勢力になる。
 
ヒズボラはアサド政権、イランから武器の供給もふんだんに受けており、戦闘力は〇六年の戦争時よりも格段に向上した。イスラエル軍の評価では、シリア南部で一万人規模の兵員を動員可能な上に、レバノン南部でも自治体の三分の二以上で軍事拠点を築いている。

イスラエルの戦略思考として、これ以上脅威が伸長する前にヒズボラをたたく必要があるのだ。
 
イランにも、開戦を望む動機がある。トランプ政権は親イスラエル、親サウジアラビア、反イランが鮮明で、スンニ派アラブ諸国にイスラエルを非公式に加えた、「イラン包囲網」が次第に浮上しつつある。

危ぶまれる「次の次」の災禍
(中略)国際社会の懸念は、イスラエルとヒズボラの「次期戦争」が「次の次」の前哨戦になることだ。

〇六年戦争が示したように、両者の戦争は軍事的にも政治的にも何の決着ももたらさず、遺恨と憎悪を膨らませるだけだ。その後は中東最強の軍事大国であるイラン、イスラエル、サウジアラビアが直接対峙する危険が残り、災禍は限定的な地域戦争と比べ物にならない。
 
トランプ政権の中東政策がそこまで見据えているなら、非常に危険な終末的シナリオだ。イスラエルやサウジの友人への単なるリップサービスなら、無思慮、無責任の謗りを免れない。中東には過剰な戦火、暴力があるのだから。【「選択」 2017年10月号】
*******************

トランプ大統領がイラン核合意について米議会に対し、合意を否定する報告をする方針で、議会でイラン制裁に関する協議が行われる・・・というのは周知のところです。

“イランにも、開戦を望む動機がある”というのはどうでしょうか?表向きの強気の発言はともかく、アメリカ・イスラエルとの衝突はむしろ避けたいのが本音では?

いずれにしても、トランプ大統領のイラン核合意否定は、「風雲急を告げている」イスラエルとヒズボラ・イランの対立に油を注ぐような無責任な行為に思われます。

ただ、ヒズボラ側は上記記事にもあるようにシリアで多大な犠牲を出しており、今は戦闘を避けたいのが本音でしょう。実際戦えば、2006年のようにはいかないでしょう。

****神の党」を名乗るヒズボラの明と暗****
<シリア内戦に関与して力を付けたヒズボラだが、イスラエルとの全面戦争は自殺行為になりかねない>

・・・ヒズボラは「神の党」の意。レバノンを拠点とするシーア派の武装組織で、シーア派の盟主イランの意向を受け、シーア派の分派に属するバシャル・アサド大統領の率いるシリア政府を支援して、5年前からシリア反政府勢力やスンニ派系の過激派と戦ってきた。

もちろん犠牲は大きかったが、彼らが得たものも大きい。得難い実戦経験を積めたし、イランやシリア政府、そしてロシアから、大量かつ強力な武器を提供された。

だが、それも長くは持たないだろう。天敵イスラエルとの緊張が高まっているからだ。そのためヒズボラは、シリアにいる精鋭部隊をレバノン南部のイスラエル国境付近に呼び戻しているという。

一方でシリア領内にあるヒズボラの拠点に対しては、米軍が何度も空爆を行っている。そのためヒズボラの最高指導者ハッサン・ナスララはアメリカへの報復を示唆している。(中略)

なかなか複雑な関係だが、仮にイスラエルとの本格的な戦闘が始まった場合、ヒズボラはシリアとイラク、レバノン南部の3方面で同時に戦うことになり、全てを失う恐れがある。

ベイルート・アメリカン大学のヒラル・ハッシャン教授が言うとおり、「イスラエルが全面戦争に踏み切れば、ヒズボラが勝てる見込みはない」からだ。(中略)

戦いの継承は文化の一部
現実はそう甘くない、たとえヒズボラが全兵力をレバノン南部に集結させてもイスラエルの攻勢には耐えられない、とみる専門家もいる。06年の戦争で危機感を抱いたイスラエルが軍事力を強化しているからだ。(中略)

両陣営が互いに与える損害の大きさを考えると、現状維持、つまり相互抑止の状態が続く可能性はある。この10年間も、戦争が避けられないようにみえた状況が何度かあった。(中略)

しかし、ここへきて双方の軍事行動が活発化している。イスラエルは3月にレバノンとの国境付近にレバノン南部の村落を模した施設を建設し、ヒズボラの支配地域に侵入して戦う一連の訓練を実施している。

ヒズボラも負けてはいない。イスラエル軍の動きを注視し、情報を探り、戦闘員をレバノン南部に移動させて侵攻に備えている。(中略)

「イスラエル側は準備しているし、こちらも準備は万端だ」。レバノン南部にいるヒズボラの幹部は言った。「子供たちの世代に戦い方を教えること。それはわれわれの文化の一部だ」秋が来る前に戦争になる。この幹部はそう予測した。(後略)【8月2日 Newsweek】
*******************

ヒズボラは、ISとの戦闘に勝利し、レバノンにおける政治的地位を不動のものにしています。
ただ、アメリカ・イスラエルを過度に刺激することは避け、レバノンにおいて“権威を間接的に行使”する方針を今後も続けると思われます。

****レバノンにおけるヒズボラの影響力****
ウォール・ストリート・ジャーナル紙中東担当コラムニストのトロフィモフが、レバノンにおけるヒズボラの政治的影響力は対IS勝利で益々強まるだろうが、ヒズボラは力を間接的に行使する今のやり方を続けるだろう、とする解説記事を8月31日付けで書いています。要旨は次の通りです。
 
レバノンのヒズボラは、ISを同国山岳地帯カラウマンの主要拠点から駆逐した。(中略)シリア内戦の激化により、レバノンに難民、スンニ派の過激派が殺到するにつれ、ヒズボラは自らを地域の少数派、とりわけキリスト教徒の守護者と位置付けることに成功した。それは、ヒズボラの国内での支持拡大をもたらした。(中略)

カラマウンでのヒズボラの勝利は、軍事力のみならず政治的影響力の拡大とみなされ、勝利はヒズボラのシーア派内での影響力を高めることに加えキリスト教勢力との連携強化にもつながる、との見方がある。(中略)今や、ヒズボラの立場は、カラマウンの軍事作戦の結果により強化されている。今後、レバノンでヒズボラの政治的意思に反対するのははるかに難しくなる。
 
さらに事態を複雑化させているのが、レバノンの対米関係である。トランプ大統領は、7月のハリリ首相との会談でヒズボラを「レバノン国家、レバノン国民、そしてこの地域全体にとって脅威」と描写している。(中略)

そういうわけで、ヒズボラがISに対する勝利から政治的な利益を引き出すに際し慎重になると思われる。ヒズボラは国家機構に対し圧倒的な非公式の支配を及ぼしているにもかかわらずハリリ現政権では、ヒズボラは非主要官庁しか掌握していない。
 
今後ともヒズボラは、権威を間接的に行使しレバノン社会の他の勢力から協力を追求するという、現在の戦略を踏襲するだろうと、ヒズボラに通じた人々は予測する。(後略)【10月6日 WEDGE】
********************

やる気満々のイスラエル、それを煽るようなトランプ大統領、今は大規模戦闘は避けたいが、レバノンを支配下に置き、「戦いの継承はわれわれの文化の一部だ」ともするヒズボラ、それを支えるイラン・・・・ということで、目が離せない状況が続きます。
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マダガスカル  “バニラバブル”に踊る栽培農家 都市部でもペスト流行

2017-10-08 21:12:06 | アフリカ

(マダガスカル・ベマラママトラのバニラ栽培業者の農家で、収穫済みのバニラが盗難の被害を受けないよう目を配る警備員(2016年5月25日撮影)【10月8日 AFP】)

外資導入と軋轢
普段あまり取り上げることがない国の話題を・・・ということで、東アフリカの島国「マダガスカル」の話。

****一番アフリカに近いアジアの国****
マダガスカルと言うと思い浮かぶのはバオバブの木、横っ飛びする猿などの不思議な動植物、米を主食とするアジア的な文化の国・・・そんなところです。

アジアとの関連で調べると、人種的にもアジア系で、子供には蒙古斑があるとか。
地質的にも、“ジュラ紀後期のゴンドワナ大陸分裂でアフリカ大陸から分離し、さらに白亜紀後期にインド亜大陸がマダガスカル島から分離した”【ウィキペディア】ということで、アフリカから早い段階で分離したようです。
国民意識のうえでもアフリカと一線を画する意識が強く、アフリカ連合には加盟していますが、アフリカ諸国との関係はかなり希薄であるとも。
“一番アフリカに近いアジアの国”という、元大使が書いた本もあるようです。【2009年3月20日ブログより再録】
****************

2009年にマダガスカルを取り上げたのは、野党指導者で首都アンタナナリボのラジョエリナ市長によるクーデターが起きたためです。(“マダガスカル クーデターまがいの政治混乱で、元DJ・34歳の若き大統領誕生”)

経済的には“世界最貧国の一つで、人口2500万人のうち90%以上が1日2ドル(約220円)以下の生活を強いられている。また、5歳以下の子どものほぼ半数が発育上の問題を抱えているという。”【9月21日 AFP】とのこと。

そうしたこともあって外国資本導入も試みられているようですが、軋轢もあるようです。

2009年には、韓国の物流企業・大宇ロジスティクスが全トウモロコシ用耕作地の3分の1(約130万ヘクタール)に及ぶ土地を99年間租借する契約を政府と結んだことが発覚し、社会混乱を起こし、上記“クーデター”の引き金ともなりました。

例によって中国の影響も大きくなっていますが、住民反発も強まっています。

****ビジネス面で存在感拡大の中国、反発強めるマダガスカル住****
アフリカ南東沖のインド洋に位置するマダガスカルで、金鉱山の開発を予定していた中国企業が現地住民の激しい反発に直面し、空のテントとたばこの吸い殻を残してついに撤退した。
 
中部ソアマーマニンの小さな町はここ数か月、中国の産金業者ジウシンに対する抗議活動にのみ込まれてきた。ジウシンは面積7500ヘクタールの鉱区で40年間の金採掘免許を取得。これを受けて住民は毎週木曜日にデモを行い、鉱山の操業で農業が危険にさらされる恐れがあると主張した。
 
これが一因となり、新たに押し寄せている中国出資者らへの反感がマダガスカル全土に広がった。中国はマダガスカルにとって最大の貿易相手国であるものの、中国の存在感が高まりつつあることへの嫌悪感が、ソアマーマニンだけでなく全国各地で公然と示されるようになった。
 
中国は天然資源の確保を目的にアフリカにおいてビジネス面で存在感を拡大し、市場には中国製品があふれている。こうした状況を背景に、アフリカでは反中感情が高まりつつある。【2016年12月18日 AFP】
******************

問題の鉱山業者は撤退しましたが、“市場には中国製品があふれている”状況は変わっていないし、今後も更に強まるのでは・・・とも思います。

【“バニラバブル”狂騒曲
最近、マダガスカルに関して話題になっているのが“バニラビーンズ”
シュークリーム、アイスクリームなど洋菓子や香水に使うあの“バニラ”原料です。

マダガスカルのバニラビーンズは最高品質とされ、日本の洋菓子に使用されているバニラビーンズは9割以上がマダガスカル島産だとか。

そのバニラビーンズが現在非常に品薄で、この4年程で価格は1キロあたり約13万円と10倍に跳ね上がり、日本の輸入量は約3分の1程度まで激減しています。特に、昨年来の値上がりが顕著のようです。

その一番の原因は、主産地マダガスカルのサイクロン被害にあるとか。

下記はやや古い記事ですが、今年5月時点のもの。

****バニラ豆の輸入価格、昨年比2.4倍に 主産地でサイクロン被害 ****
アイスクリーム香料の原料となるバニラ豆に品薄感が出ている。食材の天然志向が強まる欧米の需要が増えるなか、3月に主産地のマダガスカルをサイクロンが直撃。日本の輸入価格は1年前の2.4倍に跳ね上がった。香料メーカーなどの需要家は代替素材の活用といった対策を急ぐ。
 
世界のバニラ豆生産の8割はマダガスカルが占め、日本も輸入量の9割を同国に頼る。マダガスカル産を扱う現地商社が提示する輸出価格は現在、1キロ600ドル前後。1年前と比べて100~200ドル(2~5割)高い。一部ではこの水準をさらに上回る取引も出ているもようだ。
 
バニラ豆は「欧米で天然原料にこだわる消費者が増え、2010年ごろから価格が上がっていた」(商社)。さらに3月にマダガスカルをサイクロンが直撃し、バニラ豆の生育が悪化するとの思惑が広がった。現地で生育途中のさやを摘むケースもみられ、生産量が減るとの観測も台頭。値上がりに拍車をかけた。
 
マダガスカル産の先高観から、「価格上昇を狙って普段はバニラ豆を取引しない業者が投機目的で買い占めている」(輸入商社)。国際価格はサイクロン後に上昇ピッチを速めた。
 
貿易統計によると、17年3月のマダガスカル産バニラ豆の輸入価格は1キロ5万7000円。海上運賃の反発などで、前年同月に比べ2.4倍になった。円安による輸入価格の上昇もあり、今年に入り値上がりペースはさらに速まった。(後略)【5月29日 日経】
********************

上記記事では“1キロ600ドル前後”とありますが、前出のように「9月から500グラムで6万3000円っていう値段を提示されまして」【8月30日 MBS】と、1キロ13万円とも。

サイクロン被害に加え、天然原料に対する需要増、投機的動きなどで値上がりしているとのことですが、マダガスカルの生産農民のネット情報を使った行動変化もあるとか。

****************
「(マダガスカルの)皆さんインターネットをやっているんですね。農家の人たちまでが直接輸出するようになってきたんで、農家の人たちがどれくらいで売られているのかっていうのをわかるようになったからなんですね。

農家の人たちが搾取されていたのが搾取されなくなったので、農家の人たちがむしろ輸出業者さんに売るのにも高い値段で売るようになった」(ミコヤ香商 水野年純社長)【8月30日 MBS】
****************

日本の洋菓子業界、消費者にとっては困ったことですが、世界最貧国の農家がこれで潤うならそれはよい話かもしれません。しかし、実態は“バブル景気の混乱”状態とも報じられています。

****バニラ景気」に沸くマダガスカルの熱狂と苦悩****
マダガスカルでは今年3月に発生した熱帯サイクロン「イナウォ」の後、同国最大の輸出品であるバニラの価格が生産量減少に対する市場での思惑買いによって数か月のうちに暴騰した。
 
世界の市場に出回るバニラのうち約80%はインド洋に浮かぶ島マダガスカルで生産されており、アイスクリームやアロマテラピー、香水、そして高級フランス料理などに利用されている。

しかし、バニラ価格の高騰により突然この国に舞い込んできた現金はかえって犯罪を助長しており、またバニラの質低下を招いている恐れがある。
 
同国北東部の農村地帯アンパネフェナにあるたった1本だけ舗装された道路で、若者たちは日本製のオートバイに乗って後輪走行をしながら時間をつぶしている。

細い体には大き過ぎるカワサキのオートバイに乗る17歳の少年は、「2億アリアリ(マダガスカルの通貨、約157万円)したんだ」と自慢する。父親は「バニラ商売」に携わっており、プレゼントしてくれたのだという。
 
マダガスカルでは近年、バニラビジネスが盛況だ。2015年以降、バニラの価格は上昇を続けており、同国のバニラ輸出業者協会の会長によると、1キロ当たり600ドル(約6万7000円)から750ドル(約8万4000円)というこれまでにないピークを迎えているという。
 
同国では1989年にバニラ市場が開放された後、その価格は乱高下した。2003年に1キロ400ドル(約4万5000円)の高値を付けた後、2005年には1キロ30ドル(約3300円)に暴落。価格はその後、約10年の間、同様のレベルにとどまっていた。
 
しかしオーガニック製品の人気再燃や投資家による思惑買い、そしてマダガスカルのバニラ生産地域がサイクロンで被災したことなどから、バニラの需要は同国の供給量である年間1800トンを上回るようになった。
 
その結果、バニラ生産地域であるサバ地方では、価格高騰による現金の流入で、ほぼ一夜にして町にはオートバイやスマートフォン、太陽電池パネル、発電機、薄型テレビ、派手なインテリア製品などがあふれ返った。

■規制なく無政府状態に
同国のバニラ景気について、匿名を希望するフランスの貿易業者は「銀行は、バニラ価格の高騰に振り回されていた」と話す。
 
バニラ農家を営む40代男性は、「人々にとってお金が何の意味も持たなくなっている。皆、規制はないも同然と考え、無政府状態になってきている」と述べた。
 
バニラ価格の暴騰により、バニラ農場の盗難被害も増加した。中には貴重なバニラを警護するために農園内で寝泊りする農家もおり、これまでに数人の窃盗犯が殴打されるなどして撃退されたり当局に拘束されたりしたほか、中には殺害されたケースもあったという。

また、盗難を恐れて熟していない状態でバニラの実を収穫せざるを得ない農家も出てきたため、バニラの質が低下する結果にもつながった。
 
マダガスカルではバニラの売買がほぼ無統制で行われており、現行の数少ない規定には強制力がほとんどない。バニラの購入者は山地の村を自由に見て回り、直接農家と価格交渉を行ったり、中間業者に価格の見積もりを依頼したりすることもできる。
 
バニラは同国の国内総生産(GDP)の5%を占めるが、サバ地域の開発局長は「地元当局で(バニラ売買に)税金を課すところはほとんどない」と語る。
 
同地域では飲料水を利用可能な人口は全体の約21%にとどまっており、また電気は86ある自治体のうち6つにしか通っていない状態だ。

■世界最高品質とされたバーボンバニラの質も低下
バニラ農家と貿易商の中間業者は、「はっきり言ってこの仕事で成功を収めることなんて不可能だ。皆がだまし合っている。そしてそれを率先して行っているのが大規模な輸出業者だ」と話す。
 
マダガスカルのバーボンバニラは、何世代にもわたり受け継がれてきた栽培技術の産物であり、世界最高品質とされる。

しかし、バニラの質が低下しているという懸念は、輸入業者がマダガスカル産バニラを避け、購入先を同国のライバル国であるインドネシアやウガンダなどに変更する事態を招きかねない。
 
マダガスカルのバニラ輸出業者協会の会長は、「すべての物事には終わりがあり、(バニラの)価格が下落するのはほぼ確実」と指摘。

「バニラのおかげで私は学校に通うことができた。バニラは価値ある1次産品だ。価格が下落すれば日和見主義者は去っていくだろうが、私たちはこれからもずっとここ(マダガスカル)に残る」と、輸出業者の1人は語った。

「私たち古参の人間は、自分と子どもたちの将来をバニラで築き上げてきた。しかし今の私たちは、ばらばらに引き裂かれていく過程の真っただ中にいる」。【10月8日AFP】
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バニラ“バブル”は、社会に混乱を残して短命に終わりそうな様子です。

なお、アフリカ諸国の主要輸出品である農産物一次産品価格が市況によって大きく変動して経済を不安定化させ、長期的には輸入工業品価格に比べて相対的に安くなり、アフリカ諸国の経済的“離陸”を難しくしている・・・という議論は、数十年前の国際経済ではよく言われていましたが、最近はどうでしょうか?

政府には、価格・農家所得の安定化や、産品の付加価値を高めたり、他の産業育成など、単純な一次産品生産だけに頼らない経済構造への誘導が求められていますが・・・・。

現在は、一部の産品では国家の資源管理が進んでいるようです。
また、食文化の近代化や、人口増加、環境規制の強化のながれは、一次産品産出国側に有利に作用するものも少なくないでしょう。

要は、国家のガバナビリティーの問題のようにも。

ペスト流行 今年は都市部でも
“バニラ”のほかに、ここ数日マダガスカル関連で流れている憂慮すべきニュースは“ペスト”です。

****ペスト流行のマダガスカル、刑務所への訪問禁止 死者36人に****
インド洋の島国マダガスカルの当局は6日、ペストの感染拡大を防ぐため、刑務所への訪問を禁止すると発表した。刑務所管理者は「受刑者をペストから守るためだ」と述べた。この措置は流行が最も深刻な2地域の7刑務所に適用される。
 
当局は同日、8月以降にペストに感染したとみられる患者は258人になり、うち36人が死亡したと発表した。
 
政府は首都アンタナナリボでの集会を禁止し、大学2校も閉鎖に追い込まれた。地元メディアによると、アンタナナリボの専門病院はひっきりなしに訪れるペストに感染した患者に対処しきれずにいる。医療施設の前にはマスクや薬を買おうとする人々が群がり、長蛇の列ができている。
 
今回の流行では、感染したネズミからノミを媒介として拡散する腺ペストと、ヒトからヒトへ伝染する肺ペストの両方が発生している。

マダガスカルは毎年のようにペストの流行に見舞われているが、今年の流行は都市部にその影響が及ぶ異例のケースで、世界保健機関(WHO)は伝染の危険性が高まると懸念している。WHOはマダガスカルを支援するため抗生物質120万回分を送ると発表した。
 
今回の感染のほとんどは、危険性がより高く、近くでせきをすることでヒトからヒトに感染する肺ペストとみられている。

肺ペストは、治療を受けなければ感染後18~24時間以内という短時間で死亡する恐れがあるが、抗生物質を早期に使用することで治療することができる。

「黒死病」として知られる腺ペストは中世の欧州で約2500万人の命を奪ったとされるが、現代ではめったにみられなくなっている。【10月7日 AFP】
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今後の状況が懸念されます。
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キューバ  謎の“音響兵器”で対アメリカ・キューバ関係は更に悪化

2017-10-07 22:34:31 | ラテンアメリカ

(日本がシー・シェパードに対して使用してもいる音響兵器LRAD ただ、目立たずに使うのが難しい、空気を伝うため壁を通過することができない、ピンポイント放射ではなく30~60度という幅を持った放射になるので、LRADを操作する者もプロテクターをする必要がある等々の理由で、可能性は低いとも。【9月26日 GIGAZINE より】)

オバマ“レガシー”否定のトランプ大統領による「制裁強化」】
オバマ前大統領のもとで歴史的転換を実現したキューバとアメリカの関係改善の停滞の気配については、5月27日ブログ“キューバとアメリカ 国交正常化への交渉は消極的なトランプ政権のもとで停滞 キューバ側の不透明さも”で取り上げたところですが、その後、トランプ大統領はキューバへの制裁強化に転じて“一歩後退”の状況にあります。

****<米国>キューバ政策転換 トランプ氏「制裁強化」表明****
トランプ米大統領は16日、南部フロリダ州マイアミで演説し、オバマ前政権の対キューバ制裁緩和策の転換を表明した。キューバのカストロ政権を「60年近く国を支配し、何万もの自国民を殺害してきた」と強く非難。

「前政権が結んだ一方的な取引を中止する」と述べ、渡航や企業取引の制限を強化する方針を示した。2015年にハバナに再開した大使館は維持し、外交関係は保つとしている。
 
新たな政策では、緩和方向にあった米国民のキューバ渡航を制限。キューバ軍や情報機関が関係する企業との取引も規制する。

トランプ氏は、亡命キューバ人の多く住むマイアミでの演説で「カストロ政権が北朝鮮に武器を供給し、ベネズエラの政情不安を助長した。ハイジャック犯やテロリストをかくまっている」などと批判。政策転換は「軍政への資金を断ち、国民に資するものだ」と強調した。
 
トランプ氏は「キューバ政府がすべての政治犯を釈放し、民主的な選挙を実施するまで制裁は解除しない」とも宣言。キューバ政府の反発は避けられず、オバマ前政権で進んだ両国関係の改善は停滞が予想される。【6月17日 毎日】
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トランプ大統領が指摘するように、キューバにおいては大きな人権問題が存在しているのは事実です。

****キューバの人権状況悪化 昨年は9千人超を拘束、7年間で最多****
トランプ米政権は16日、人権問題を念頭にキューバ政策の見直しを発表したが、キューバでは昨年、9000人超の活動家が政府当局に拘束されるなど、2015年7月の米国との国交回復以降も、人権状況の悪化が指摘されている。
 
米国の国際人権団体「フリーダムハウス」は最新報告書で、「キューバ人権和解委員会」(CCDHRN)の調査結果を紹介。それによると、16年1〜10月に政府当局に「恣意的に拘束」された活動家などは9125人で、「過去7年間で最も多い拘束者数」と指摘した。
 
また、ハバナ市内の有料のWiFi区域が200カ所に増え、接続料も安価になっている一方、キューバ政府は、政治系サイトなどへの閲覧制限を強化。また、新規レストランの営業免許発行もより厳しくしているという。

フリーダムハウスは、「オバマ前政権下で進められた米国との関係強化は、(キューバ政府の)制限の撤廃につながっていない」と指摘している。【6月17日 産経】
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しかしながら、およそ人権などには関心がないトランプ大統領が“人権”を云々するのは“ご都合主義”で笑止です。

また、始まったばかりのオバマ前政権下で進められた米国との関係強化について、「(キューバ政府の)制限の撤廃につながっていない」と言うのであれば、それ以前の“50年にわたるタカ派的な制裁は、反カストロ運動家が望むようなキューバの共産政権を追い出すような成果は何ら上げることはなかった。”とも言うべきでしょう。

とにかくオバマ前大統領のレガシーを否定・破壊することで、自分の存在をアバマ嫌いの支持層にアピールしたい・・・それしか頭にないようにも見えます。

****トランプのキューバ政策変更の思惑****
トランプ大統領が、オバマ前大統領が決断したキューバとの和解政策の一部を覆す決定を行ったことに対して、6月16日付のニューヨーク・タイムズ紙の社説は、疑義を提示しています。その要旨は以下の通りです。
 
トランプは、6月16日マイアミにおいて、対キューバ雪解け外交を後戻りさせる決定を発表した。その目標は自由なキューバの実現であると述べたが、真実は、彼の当選を助けたマイアミの亡命キューバ人に迎合するとともに、前任者オバマの重要な政治的遺産を覆す執念深い政治的行動の1つだった。
 
トランプは前政権によるキューバへの一方的な譲歩を取り消すと宣言したが、それは、誇張であって、覆したのはその一部である。キューバ製のラム酒や葉巻の愛好者等にとっては一安心であるが、キューバへの旅行者やビジネスマンにとってはより状況は難しくなる。
 
結局のところ、米国・キューバ関係は冷戦時代のようなより敵対的な関係に戻り、ラテンアメリカにおける米国の立場を害するものとなろう。
 
新たな政策の下では、米国人は、もはや私的なキューバ旅行を計画することはできなくなる。米国企業や市民は、キューバ軍や秘密警察が支配するキューバ企業とビジネスを行うことが禁止され、これは、観光分野を含むキューバ経済の重要な部分に米国がアクセスできないことを意味する。
 
トランプの政策は、歴史的に誤った基礎に基づいている。トランプは、その目的をキューバの指導者の弾圧を止めさせ、民主主義を採用し、経済を開放するよう強制することだと述べ、キューバの圧政の前に黙ってはおられず、オバマの短期間のデタントは、共産政権を強化し軍を豊かにしただけだと批判する。

しかし、50年にわたるタカ派的な制裁は、反カストロ運動家が望むようなキューバの共産政権を追い出すような成果は何ら上げることはなかった。
 
トランプの人権に関する突然の懸念をまともに受け取ることはできない。近年の大統領の中で、人権をここまで軽視し、プーチンやサウジ王家のように国民を虐待する独裁者の国々にこのように好意的に接した者はいない。
 
ただ、言えることは、トランプの政策変更は、懸念されていたほどにはひどくなかったということであろう。双方の大使館は維持され、両国間の直行便は継続し、キューバ系米国人は、キューバに自由に渡航でき、親戚に送金することもできる。

トランプの辛辣な言説からすれば、これは多少の慰めではあるが、他方、保健分野の協力、石油漏出の防止に関する共同計画、麻薬取締りに関する調整や情報交換といった懸案や、トランプが新たに敵視しようとしているキューバとの間の真に建設的な関係といった実質的問題は放置されたままである。(後略)【7月24日 WEDGE】
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ニューヨーク・タイムズ紙も指摘している“トランプを支持したマイアミのキューバ系米国人への配慮とオバマのレガシーの否定が目的”に加え、“ロシア・スキャンダルを審議する上院情報委員会の有力議員であるルビオ等に対する考慮もあるのでしょう。また、中東外交、北朝鮮問題等でさしたる外交的成果も収められていないことからも、このタイミングでの政策発表となったのでしょう。”【同上】とも。

“共産政権を強化し軍を豊かにしただけ”というトランプ大統領の指摘については、“これがキューバの現実であり、このような現状が改革されるには相当な時間がかかります。オバマは、むしろ米国企業にとって利益になる点を重視したのでしょう。”【同上】というように、関係改善のなかで時間をかけながらキューバ体制の変更を求めていく形で取り組むべき問題です。

アメリカ:キューバ政府には駐在している他国の外交官らの安全を守る責任がある
アメリカとキューバの関係は、その後はもっぱら“音響兵器”の件に集中しているのは周知のところです。

****米大使館職員の体調不良、原因は「音響兵器」 ロシアなど第三国が実行か キューバ****
キューバの首都ハバナにある米大使館の米国人職員が身体的被害を受けた問題で、AP通信などの米メディアは10日、米政府高官の話として、人間の耳には聞こえないが身体に悪影響を及ぼす「高度な音響兵器」による攻撃が原因とみられていると伝えた。

国務省や連邦捜査局(FBI)はキューバではなくロシアなど第三国が実行したとの見方を強めているという。
 
APによると、米大使館では昨年秋頃から原因不明の聴覚障害を訴える職員が出始め、5人が身体的被害を受けた。カナダ大使館でも少なくとも1人の外交官が聴覚障害の症状を訴え、治療を受けていることが10日、明らかになった。
 
音響による攻撃は、職員の住居の内部か外部から実行されたとみられるが、外交官らの身体に影響を与えるため実行されたか他の目的があったかは不明だ。

捜査状況に詳しい米政府当局者によると、「ロシアなどの第三国」がキューバ政府に知らせずに実行した可能性があるとみて捜査しているという。
 
米政府は5月にワシントン駐在のキューバの外交官2人を国外追放処分にしたが、キューバは米外交官らへの攻撃を否定。国務省のナウアート報道官は10日の記者会見で捜査中を理由に詳細な説明を避けた。
 
音響兵器としては大音量で暴動鎮圧などに使われる長距離音響発生装置(LRAD)が知られているが、超音波など可聴域外の音波を使った兵器が存在するかは不明なことが多い。【8月11日 産経】
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“米政府が最初にこの事案を把握したのは2016年末だった”【8月10日 ロイター】とのことですが、今年6月のトランプ大統領の発表にこうした事態が影響しているのかどうかは知りません。
“攻撃”は、すでに停止しているようです。

****在キューバ米大使館の「音響攻撃」 職員16人がけが****
在キューバ米国大使館の職員らが音響兵器による攻撃を受けたとされる問題で、米国務省は24日、けがをした米国人は少なくとも16人に上ることを明らかにした。

国務省のヘザー・ナウアート報道官は記者団に対し、攻撃は既に止まったようだが、治療が必要となった米政府職員が複数いると述べた。(後略)【8月25日 AFP】
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アメリカ国務省によると、これまでに計22人のアメリカの外交官らが聴覚障害や頭痛などを訴えています。
当然ながらキューバ政府は“攻撃”を否定しています。アメリカは、キューバ政府が行ったものでないにしてもアメリカ外交官を守る責務があるとしています。

****キューバ外相、「音響攻撃の証拠見つからず」 国連総会で演説****
キューバのブルノ・ロドリゲス・パリジャ外相は22日、国連総会で演説し、キューバの首都ハバナで米国の外交官らが健康を害する「音響攻撃」を受けたとする米側の主張を裏付ける証拠は見つかっていないと述べた。(中略)
 
米当局は当初、大使館員らは謎の「音響装置」による被害を受けたとみられるとしていたが、現在も調査を続けており、国務省は詳細を明らかにしていない。
 
ロドリゲス外相は国連総会で、この件についてキューバ当局は独自に調査を行い、米大使館から提供された証拠を吟味したと述べた。
 
同外相は「これまでのキューバ当局の調査では、米国の外交官とその家族らが訴えた健康障害の原因を裏付けるような証拠は一切見つかっていない」として、「問題を解明する調査は続行する。結論にたどり着くには米当局との協力がカギとなる」「この手の問題が政治利用されるとすれば遺憾である」と述べた。
 
ティラーソン国務長官は今月17日、在キューバ米大使館の閉鎖も選択肢の一つとして検討していることを明らかにした。
 
米政府は、キューバ当局が事件に関与しているとは主張していないものの、キューバ政府には同国に駐在している他国の外交官らの安全を守る責任があると再三訴え、今年5月には米国に駐在していたキューバの外交官2人を国外追放処分にしている。【9月23日 AFP】
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しかし、“事件”の影響は拡大しています。

****<米国>在キューバ職員帰国へ 市民に渡航自粛も要請****
キューバ駐在の米国の外交官らが相次いで健康被害を訴えている問題で、米国務省は29日、ハバナの米大使館職員の半数以上を帰国させると発表した。

キューバ人への査証(ビザ)発給も停止する。米国とキューバの関係正常化が停滞するのは避けられない情勢だ。(中略)

米国務省は29日、緊急的な業務に携わらない職員とその家族に退避を命じた。町中のホテルでも外交官が被害を受けており、国務省は米市民に渡航自粛を要請した。安全性が確保されるまで一連の措置を継続する。
 
ティラーソン国務長官は声明で「外交関係は維持する」と表明しつつ、「キューバ政府が攻撃を防ぐ適切な方法をとる責任がある」と強調した。ティラーソン氏は17日、米テレビ番組で大使館閉鎖を検討中だと明らかにしたが、閉鎖にまでは踏み込まなかった。(後略)【9月30日 毎日】
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アメリカは、自分の方が員数を減らしたのに合わせて、キューバ側にも減員を求めています。

****米国務省、在米キューバ外交官15人に退去要請****
米国務省は3日、在米キューバ大使館の外交官15人に対し、7日以内に退去するよう要請した。キューバに駐在する米国の外交官やその家族に原因不明の聴覚障害が起きていることへの対抗措置だが、外交関係に変更はない。(中略)
 
米国務省高官は、今回の措置は「キューバが我々の外交官を守れていないため」と説明し、キューバ政府が攻撃に関与していることを示すものではないとしている。
 
米国務省は、9月29日に在キューバの米大使館職員の半数以上を退避させると発表している。ティラーソン国務長官は3日の声明で、両国の大使官職員の数を均衡させるためだとし、「キューバとの外交関係は維持する。キューバ側と協力して捜査をする」とした。(後略)【10月4日 朝日】
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何が起きているのか?・・・・については、いろいろと取り沙汰されてはいますが、わかりません。

“「音響攻撃」が報告されたキューバのアメリカ大使館では一体何が起こっていたのか?”【9月26日 GIGAZINE 】では、アメリカ海軍が研究していたマイクロ波聴覚効果を使った非殺傷型兵器「MEDUSA」のような“兵器”の可能性も指摘していますが・・・。

キューバ政府がアメリカ大使館に“攻撃をしかける”ことは考えにくいので、素人考えでは、あるとすれば何らか通信傍受用機器、あるいはその無効化のための機器の副作用では・・・とも。

****キューバ米大使館に対する「音響攻撃」説の真実味****
<冷戦時代のモスクワでも米大使館の職員にマイクロ波による健康被害が出ていた>
・・・・健康被害の原因は不明だが、冷戦時代のスパイ合戦の記録が謎を解く手掛かりになるかもしれない。

1970年代、ソ連は首都モスクワの米大使館にマイクロ波ビームの攻撃を仕掛け、当時のAP通信の記事によると職員の間に健康被害が発生した。

ソ連はこの時期、通信システムを無線信号からマイクロ波通信に切り替えていた。無線信号は地球を取り巻く電離層に反射するので、米国家安全保障局(NSA)は大型アンテナで信号を傍受できた。

一方、マイクロ波は伝送距離がずっと短く、ビームの伝送経路が見える場所に受信装置を設置しなければ通信を傍受できない。そのためNSAとCIAはソ連圏の東欧諸国などにスパイを送り、高速道路や電柱などに偽装した受信装置を設置した。

NSAはモスクワの米大使館の10階にも、大掛かりな通信傍受用機器を持ち込んでいた。当時のモスクワは高層ビルがほとんどなかったので、10階からの見晴らしは抜群。マイクロ波受信装置はソ連の当局者間の通話を大量に拾い上げた。市内を車で移動するブレジネフ共産党書記長の電話も傍受できた。

40年前の事件の再来か
この盗聴活動はやがてソ連の情報機関KGBに嗅ぎつけられた。78年1月、ボビー・レイ・インマンNSA局長はウォーレン・クリストファー国務副長官からの電話で起こされた。

モスクワの米大使館で火事が発生し、消防署長は10階への立ち入り許可がなければ消火活動をしないと主張しているという。

どうしたらいいか尋ねるクリストファーに、傍受設備の発覚を恐れたインマンは「火事なんて放っておけ」と言った(結局、地元の消防士は消火活動を行った。この時期の米大使館では、原因不明の火事が何度も起きていた)。

アメリカ側の盗聴活動を確信したソ連は、報復として大使館10階の窓にマイクロ波ビームを照射するようになった。正確な狙いは今も不明だ。

「おまえたちがやっていることはお見通しだ」と伝えたかったのか、マイクロ波受信装置を無効化しようとしたのか、大使館内部の会話を傍受したかったのか。(中略)

キューバ政府がハバナの米大使館に何らかのビームを照射していると断言することはできない。だが、キューバが75年頃にソ連から導入した通信技術に今も頼っている可能性は十分ある。

私は引退した米情報機関の元高官に、ハバナの問題は40年前にモスクワで起きたマイクロ波照射事件の再来ではないかという質問をぶつけてみた。

すると、この元高官は報道を目にして全く同じことを考えたと答えた。「(この件については)私には何の情報もないが、おそらく君の言うとおりだろう」【10月3日号 Newsweek日本語版】
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真相はわかりませんが、大使館員帰国措置などを受け、両国関係がさらにぎくしゃくすることは間違いありません。
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イギリス  「辞任は問題になっていない」というメイ首相 求心力低下が鮮明に

2017-10-06 21:58:56 | 欧州情勢

(党大会演説で演説途中に咳が止まらなくなり、ハモンド財務相から受け取ったのどあめを口に入れるメイ首相【10月5日 WSJ】 のど飴をなめながら演説ができるのでしょうか?)

【「歩くデッドウーマン」メイ首相、「辞任は問題になっていない」とは言うものの・・・・
日本の政局は、賑やかに取り沙汰されてはいますが、結局は現状を補強するだけに終わりそうでつまらないので、イギリスの話。

8月末に訪日したイギリス・メイ首相は2022年までの続投、更には22年の後も・・・との政権保持への意欲を示しました。

****メイ英首相、2022年総選挙後の続投に意欲****
日本を訪問中のメイ英首相は、次の2022年の総選挙後も首相としての務めを果たすことを望むと明らかにした。与党・保守党が今年の総選挙で惨敗し、求心力の低下が懸念されるメイ首相を巡っては、英国の欧州連合(EU)離脱後、早ければ2019年に退陣するとの見方があったが、これを否定した。

ITVニュースのインタビューでは「(首相職を)簡単には投げ出さない」と述べた。

また、BBCのインタビューで、次の総選挙に保守党党首として臨むつもりか問われると、「私は長期の政権運営のためにここにいる。私と政府は、EU離脱を履行しているだけではなく、英国により明るい未来をもたらすことに努めている」と答えた。【8月31日 ロイター】
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メイ首相が。EU離脱に対する政権基盤を強めるために、やる必要もなかった総選挙に“勝てる”と踏んで打って出て、結局、思わぬ“返り討ちに”にあって過半数さえ失うことになったこと、それによる求心力低下でEU離脱交渉も“予想通り”に難航し、与党内でも意見がまとまらない状態にあること・・・などから、メイ首相が非常に厳しい状況に追い込まれていることは周知のところです。

もちろん、政権を運営している以上、上記のような“強気”の発言をせざるを得ないのでしょう。
そうした“敢えて”の発言ではあるものの、当時も与党内では波紋が広がりました。

“この発言に保守党のモーガン前教育相は「次の選挙に向けて我々を率いていくのは難しいと思う」と発言。シャップス元幹事長も「驚きがあるのは確かだ」と述べた。”【9月2日 朝日】

****メイ英首相が「歩くデッドウーマン」とののしられる理由****
英国のメイ首相が2022年の次期総選挙まで続投する意向を表明した。総選挙の前倒しに踏み切った結果、与党・保守党の過半数割れに追い込まれた首相の責任論がくすぶっていただけに、政界には驚きが広がっている。

求心力を失った弱体政権のまま、欧州連合(EU)離脱にどう立ち向かうのか。英国の先行きは一層不透明になってきた。(中略)

批判していた「少数政党との連立」
メイ首相が就任したのは昨年7月。サッチャー氏に次ぐ2人目の女性宰相として高い支持率で政権運営をスタートさせたが、改めてこの1年を振り返ると、発言に実行が伴わなかったことは否めない。

そもそもメイ首相は就任以降、「解散・総選挙はない」と言い続けてきた。だが、ライバルの野党・労働党に支持率で20ポイント以上の大差をつけると、4月になって突然、解散を宣言。前言を翻した理由を「EU離脱には強い政権が必要だ」と説明した。
 
選挙期間中は、労働党と少数政党との連立を「英国をカオスに陥らせる」と批判。単独の政党が政権を運営してこそ安定政権であるとの認識を示した。ところが、いざ保守党が単独過半数を割り込むと、北アイルランドの地域政党、民主統一党(DUP)との閣外協力で合意。DUPの10議席と引き換えに北アイルランドに2年間で10億ポンド(約1420億円)の追加予算を措置する「袖の下」を贈り、政権維持を優先させた。
 
「メイ氏は『デッドウーマン・ウォーキング』だ」。ジョージ・オズボーン前財務相は、死刑台に向かって歩く死刑囚を描いた映画「デッドマン・ウォーキング」になぞらえ、政権にしがみつくメイ首相を痛烈に批判した。(後略)【9月9日 毎日】
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6月にロンドン西部の公営住宅で起きた火災もメイ首相にとっては痛手となりました。住民の間には、コスト削減や安全規制を緩和し続けた保守党政権の失政がもたらした惨事だという捉え方も少なくありません。

冒頭の“続投発言”からひと月以上が経過して、事態は改善していません。

****メイ英首相、辞任検討せず=スカイニュース****
スカイニュースは5日、英首相官邸の情報としてメイ首相は辞任を考えていないと報じた。「辞任は問題になっていない」としている。メイ首相と与党保守党の報道官はいずれもコメントを控えた。【10月5日 ロイター】
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「辞任は問題になっていない」と敢えて発表しないといけない状況というのは、とりもなおさず非常に追い込まれている、“もう辞めるのでは・・・”、あるいは“早く辞めてほしい”との見方が多く出ていることを示してもいます。

与党内からは党首交代要求も
メイ首相が4日に行った党内の結束を呼び掛けた党大会演説もトラブル満載だったようです。

****苦境のメイ英首相、トラブル続きの党大会演説****
英国のテリーザ・メイ首相は4日、与党・保守党の年次党大会の閉幕に際し演説し、党内の結束を呼び掛けた。

だが、ひどいせきが止まらず、演説を何度も中断したほか、途中に乱入者の妨害が入り、さらには背後にあった保守党スローガンの文字の一部が落下するというトラブルまで発生した。
 
この演説で、メイ首相の求心力の弱さが改めて浮き彫りになった。自ら前倒し実施に踏み切った6月の総選挙で過半数割れに追い込まれて以来、メイ氏は欧州連合(EU)離脱方針を巡り、党内に広がる溝を埋めようと努めてきた。
 
メイ氏の演説中、1人の男性が「 P45フォーム」(離職時に雇用主から発行される証明書)をボリス・ジョンソン外相からだとしてメイ氏に手渡した。同外相はEU離脱に対するメイ氏のアプローチを公然と批判している。
 
このハプニングの後、メイ氏はせきが止まらなくなり、声はかすれ、何度も演説を中断した。フィリップ・ハモンド財務相がメイ氏にのどあめを渡すと、会場は拍手に沸いた。演説の最後には、メイ氏の背後にあった保守党スローガンの文字の一部が落下した。
 
メイ氏は党員に対し、総選挙で大敗した責任を認め、「あまりにマニュアル通りでトップダウンすぎた」として、選挙運動に問題があったと謝罪した。
 
昨年10月の年次党大会はお祭りムードだった。6月の国民投票でEU離脱が決まったことや、メイ氏が党首選で勝利し、同大会で正式に党首に就任したことを受け、政府関係者や党員は意気揚々だった。
 
だが、今年の党大会は、メイ政権の基盤の弱さが露わになり、沈滞した雰囲気が漂っていた。
 
メイ氏は4日、EU離脱交渉の遅れやジェレミー・コービン氏率いる最大野党・労働党の躍進に不安を抱く党員たちの士気回復に努め、「気を引き締め、英国が必要としている政府を作り上げようではないか。われわれの地位が危ういなどと考えてはいけない。心配するなら野党のことを心配してあげよう」と呼び掛けた。
 
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)のサイモン・ヒックス政治学教授は、空回りで終わったメイ首相の演説には国民からある程度の同情が集まる可能性があるとの見方を示した。
 
教授は「思うように出ない声や体調不良に悪戦苦闘する生身の人間としての姿が見えた。しかも周りは彼女を追い落とそうとしている敵だらけ。まるでロボットという彼女のイメージが変わった」と語った。
 
一方、政府は壊滅状態にあるという一部の人たちの見方が正しいことが立証されることにもなったという。「メイ氏は秋を乗り越えられるだろうか。全く分からない」と教授は述べた。
 
メイ氏は演説で、住宅建設を増やすことや大学授業料値上げの方針を撤回することを約束し、若年層の支持回復に務めた。
 
だが、EU離脱交渉については少し触れただけだった。合意が成立しないまま離脱するというシナリオも含め、あらゆる結果に備えているとし、「英国と欧州の双方にとって都合の良い着地点が見つかると確信している」と述べた。

また、早急に合意を形成するよう交渉団に求め、英国に住むEU市民に対して英国にとどまるよう呼び掛けた。【10月5日 WSJ】
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スローガンの文字の一部が落下したのはメイ首相のせいでもなんでもありませんが・・・。

まあ、評価は様々です。上記のような“悪戦苦闘する生身の人間”に対する同情論も出るのでしょうか?
支持勢力は、どんなことも“良い方向”に評価します。

“デービス欧州連合(EU)離脱担当相はロイターに対し「非常に良い演説だった。国民が懸念している問題すべてに触れていた」と評価。他の閣僚も称賛した。ある党員は「ハプニングがなかったら、もっと硬い演説になっていただろう」と述べた。”【10月5日 ロイター】

一方で、批判的な勢力からは、“「見ていられない」として一部の保守党議員の間で退陣論が再燃している”【10月5日 読売】

実際、苦境に立つメイ首相に対し、与党内から党首交代要求が公然と出されています。

****英保守党で党首交代論浮上、メイ氏支持派と対立鮮明に****
英国のグラント・シャップス元保守党議長は6日、メイ首相は党首選を実施すべきだと述べ、最大30人の議員が党首辞任を支持しているとの見方を示した。

一方、一部の閣僚はメイ氏の続投を支持する立場を表明し、同氏の進退を巡る党内対立が鮮明になった。

シャップス元議長はBBCラジオ5で「メイ首相は党首選を行うべきだ」とし、6月の総選挙敗北や閣内の不一致、党大会の状況などを踏まえると「悪い予兆がある」と述べた。

閣僚経験者5人を含め最大30人の議員が党首交代を支持しているとした。ただ、必要な数が集まるかどうかは不透明だと述べた。

党首選実施には48議員による書面での要請が必要になる。

一方、ラッド内務相はテレグラフ紙に寄稿し、メイ氏の続投を支持する立場を表明。政権ナンバー2のグリーン筆頭国務相もBBCテレビで「メイ氏はこれまでと同様に強い決意で職務を遂行する。それが自身の責任だと考えており、引き続き職務を遂行し、政権を成功に導くだろう」と述べた。

大衆紙サンがメイ氏の交代を支持する議員の話として伝えたところによると、現時点で党首選実施に必要な支持は集まっていないという。

党をまとめられる明確な後継者が不在であることに加え、保守党関係者の間では、党首選を行えば欧州政策を巡る党内の不一致がいっそう深刻になるとの懸念が強い。党首選が総選挙の引き金になり、労働党に勝利をもたらしかねないとの不安もある。【10月6日 ロイター】
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シャップス元保守党議長の政治的スタンス、EU離脱に関する立場などは知りませんが、同氏は“最大30人の議員”のなかには「EU残留派もいれば離脱派もいる」と述べています。

難航するEU離脱交渉 イギリス側の閣内不一致への不満も
肝心のEU離脱交渉の方は、EU側との溝が埋まらず、難航しています。

****英EU離脱交渉、進展不十分 将来の関係協議できず=欧州委員長****
10月3日、欧州委員会のユンケル委員長(写真)は、英国との欧州連合(EU)離脱交渉について、十分な進展がなく、将来の英国との関係について協議する「第2段階」に入る準備はできていないとの認識を示した。(後略)【10月3日 ロイター】
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****離脱交渉、清算金などで「深刻な意見の相違」=EU首席交渉官****
10月3日、英国の欧州連合(EU)離脱交渉でEU側の首席交渉官を務めるバルニエ氏(写真)は、交渉に十分な進展が見られず、清算金を含む問題で「深刻な意見の相違」が続いているとの見解を示した。(後略)【10月3日 ロイター】
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イギリス側の意見が与党・政権内でもまとまっていないこと、特に強硬論を振りかざすジョンソン外相への不満がEU側にはあります。

****欧州議会の有力議員、英外相の解任求める EU離脱交渉巡り****
欧州議会の最大会派を率いる有力議員で、メルケル独首相と連携するドイツのマンフレート・ウェーバー議員は3日、メイ英首相が欧州連合(EU)離脱交渉の進展を望むのであれば、同国のジョンソン外相を解任すべきだとの認識を示した。

EU離脱交渉を巡る欧州議会の審議で述べた。

同議員は、英政府内の見解の相違が、離脱交渉の進展を妨げていると指摘。「ジョンソン(外相)を解任してほしい」とし「ロンドンの誰と話をするかが大きな問題だ。メイ(首相)か、ジョンソン(外相)か、デービス(EU離脱担当相)か」と述べた。

欧州議会は、英国とEUの合意内容を承認する必要がある。

ウェーバー議員は、EU離脱強硬派のジョンソン外相が離脱に関して「超えてはならない一線」を独自に表明したことについて、英政府が「党内対立に陥っている」ことを示していると批判した。【10月3日 ロイター】
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当のジョンソン外相は・・・

****英閣僚、首相のEU離脱計画を「一言一句支持」=ジョンソン外相****
英国のジョンソン外相は与党保守党の党大会に先立ち、閣僚は団結して、メイ首相が9月にイタリアのフィレンツェで発表した欧州連合(EU)離脱計画を「一言一句」支持していると表明した。

外相は2016年に行われた離脱の是非を問う国民投票時、EU離脱(ブレグジット)支持派としてキャンペーンを展開していた。

外相は「メイ首相は、フィレンツェでの演説に基づいて英国を素晴らしい離脱協定へと導くため、不動の姿勢を取っており、英国全体が首相から恩恵を受けている。全閣僚は結束しており、演説を一言一句支持している」と述べた。

ただ、その数時間後には別のイベントで、離脱を巡る憂うつさが強すぎるとも話した。

外相はさらに「私はキャンペーンで『自分の国にかじを取り戻そう』というスローガンを掲げていた。首相も同じことを強く信じていると思う」と主張。「実行しようとするなら、上手くやらなければならない。英国にとって素晴らしい結果が得られる方法でやらなければならない」とし、「EUの周りを回る制限された軌道に閉じ込められるだけにならないよう、取り決めが必要だ」と主張した。【10月4日 ロイター】
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メイ首相は閣内の結束を強調していますが・・・・。

****メイ英首相、EU離脱交渉巡り閣内結束を強調****
英国のメイ首相は3日、欧州連合(EU)離脱交渉で最良の条件をいかに引き出すかを巡り閣内で様々な意見があることを歓迎するとした上で、閣内の結束を強調した。

メイ首相率いる保守党の年次党大会は、開幕前日に離脱強硬派のジョンソン外相がEUとの交渉で個人的に譲れないとする4条件を提示したことから、党内の結束に暗雲が漂っている。

メイ首相はBBCテレビとのインタビューで、全員がイエスマンではなく、異なった意見を持つ人達が議論し、合意に達し、その政府見解を提案することをできるようにすることがリーダーシップだと説明し、それはまさにわれわれが行っていることだと述べた。【10月3日 ロイター】
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“全員がイエスマンではなく、異なった意見を持つ人達が議論し・・・・”
そうなんですが、どうも実態は各自がバラバラに好き勝手にふるまうような状況にも見えます。

もっとも、こうした事態はメイ首相を引きずり降ろして、首をすげかえても、EU離脱という難題に関して与党内にも意見の対立がある状況では恐らく解消しないでしょう。

変えるべきは首相・党首ではなく、EU離脱への固執の方だ・・・と、個人的には思うのですが、まあ、どっちにしても反対論は残るのでしょう。民進党のように党を割らない限り。



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タイ 日タイ修好130周年も、強まる中国の影響 アメリカは軍政との関係修復へ 新国王の今後は?

2017-10-05 22:31:56 | 東南アジア

(タイの首都バンコクで建設が進む火葬施設=2日(共同)【10月3日 産経フォト】)

国外逃亡のインラック前首相に禁錮5年 “政治的”裁判のようにも
国際的にも注目されていたタイ・インラック前首相に対する判決直前に本人が出国逃亡したこと、本人不在のまま禁錮5年の実刑という厳しい判決が下されたことは周知のとおり。

****インラック前タイ首相に禁錮5年の判決 本人は国外逃亡****
タイのインラック前首相(50)が在任中のコメ政策で国家財政に巨額の損失を与えたとして、職務怠慢罪などに問われた裁判で、最高裁判所は27日、本人不在のまま禁錮5年の実刑判決を言い渡した。

判決はもともと先月(8月)25日に予定されていたが、インラック氏が直前に国外に逃亡し、言い渡しが延期されていた。
 
問題とされたのは、2011年に首相に就任したインラック氏が導入した事実上のコメ買い上げ制度。
政府が農民から市価より高い価格で買い、農民の収入が上がった一方で、政府の財政赤字を招いた。14年5月のクーデターで実権を握った軍事政権は、損失が出ることを知りながら政策を変えなかったことが職務怠慢にあたるとし、インラック氏を訴追していた。
 
これに対し、インラック氏は「農民に適切な収入を得させるための有益な政策だった」とし、訴追は政治的な動機に基づくものだと反論していた。
 
農民など低所得層向けに手厚い施策をとってきたタクシン元首相や、妹のインラック氏らタクシン派への支持は農村部を中心に依然として根強く、有罪判決に反発して結束を強める可能性がある。

判決を受け、来年後半にも予定される総選挙に向けてタクシン派、反タクシン派とも戦略を練り直すことになりそうだ。【9月27日 朝日】
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“損失が出ることを知りながら政策を変えなかったことが職務怠慢にあたる”・・・・確かに財政的な負担が大きい“ばらまき政策”であることは間違いありませんし、政策的に正しい判断だったどうかという問題はありますが、農民層の生活改善を目指した政策的判断(もちろん、支持層を固めるという政治目的があってのことですが)が“犯罪行為”にあたるのか・・・疑問も。

農産物の高値買い取り制度や補助金など、農民への優遇政策・所得補填政策は、日本を含め多くの国でとられています。

すべての政策は財政的負担を伴うもので、実行するかどうかは“政治判断”であり、その妥当性は司法ではなく、議会における議論なり、選挙なりで争われるべきものでしょう。

その意味で、今回の訴追、厳しい判決は、軍政側のタクシン派弾圧に沿った“政治判断”だったようにも思えます。

インラック前首相側、軍政側双方とも、上記のような厳しい判決が出ることを事前に承知しており、タクシン派の抗議行動激化を懸念する軍政側がインラック氏の逃亡を助けた・・・というのがもっぱらの観測ですが、実際のところはよくわかりません。

確かに、インラック氏の出国逃亡により、抗議行動で混乱することもなく、タクシン派はインラック前首相という象徴を欠くことにもなり、軍政にとっては“都合のいい”展開ではあります。

もっとも、タクシン・インラック両氏を国内に欠いて、このままタクシン派の抵抗が収束するのか、あるいは上記記事にあるように“有罪判決に反発して結束を強める”のか・・・来年総選挙に向けた展開を見る必要がありそうです。

インラック前首相の現況については、イギリスに渡り、政治亡命を考えているとも報じられています。

****インラック前首相が政治亡命を申請か****
米CNNが「インラック前首相がロンドンに滞在」と報道。前首相がロンドンに行ったのは英国に政治亡命を認めるよう申請することが目的という。

タクシン派・タイ貢献党関係筋から提供された情報に基づいたとされるこの報道は、ロイター通信が先に「前首相が9月11日にドバイを離れた」と報じたのを裏付けるものとなっている。ドバイは国外逃亡中のタクシン元首相が生活の拠点としている。

また、反タクシン派・民主党のワチャラ元下院議員は、インラック前首相はタイ国内で迫害を受けるなどして国外に逃れたのではなく、受刑を免れるために逃亡した犯罪者であり、亡命の条件に合致しないことを速やかに国際社会に発信するよう外務省に要求すると述べている。【10月2日 バンコク週報】
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崩れつつある「タイでは日本企業がナンバーワン」】
ところで、9月26日は“日タイ修好130周年”にあたる日だったようです。

****日タイ修好130周年式典****
日本とタイの修好130周年を祝う式典が26日、バンコクで開かれた。タイのウィラサック副外相は「両国関係は包括的で多層的なものに発展してきた」と語った。

堀井巌外務政務官は「日本の産業はタイと共に成長してきた」とあいさつし、安倍晋三首相のメッセージをウィラサック氏に手渡した。
 
日本とタイの交流は600年前にさかのぼると言われる。琉球と貿易が始まり、その後、当時の都アユタヤに日本人町も形成された。1887年9月26日の条約締結で、正式に国交が始まった。
 
日本企業にとってタイは一大生産拠点であり、サプライチェーンの重要な一角を担う。また、タイからの訪日客も増えており昨年、90万人を突破した。【9月27日 毎日】
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記念イベントも行われたようですが、全般的にはあまり大きな話題になることもなかったようです。
プミポン前国王の葬儀を控えているという時期的なもののあるのでしょうか。

“日本企業にとってタイは一大生産拠点であり・・・”という関係は、例によって中国の影響力がタイにおいても顕著になるにつれ、今後もそのような表現が可能かどうかは怪しい情勢とも。

****中国の「属国化」進むタイ軍政****
日本企業を脅かす「紅い資本」の猛威
タイのプラユット政権は国民の根強い軍政批判を無視したままその座に居座り続け、民政移管への行程表は現状ではまったく見えない。

タイ経済は観光収入の増加、政府のインフラ投資などで今年四〜六月に三・七%成長など一見、持ち直してはいる。だが、外資の直接投資は停滞し、むしろ人手不足、賃金上昇で「タイ脱出」が加速しつつある。

そうした出口のないタイ政権に救いの手を差し伸べているのが中国。自動車、電子など中国企業のタイ進出は勢いを増し、金融でも中国式スマホ決済が席巻しつつある。タイに東南アジア最大の基盤を築いてきた日本企業は足元を侵食されつつある。(中略)

中国の大手民族系自動車メーカー、上海汽車がバンコク東部のチョンブリ県の工業団地に建設したタイ最大の企業グループ、チャロンポカパン(CP)との二番目の合弁工場が稼働。タイ政府認証のエコカー生産を本格化したことが中国企業を勢いづかせている。(中略)

経済圏拡大の橋頭堡
タイといえば、日本の自動車メーカーでスバルを除く全社が生産拠点を構え、東南アジア諸国連合(ASEAN)最大の生産規模になっているほか、タイの自動車市場の日本車シェアは八五%前後と圧倒的。この状況に独フォルクスワーゲンですら工場進出を躊躇するほどだ。
 
にもかかわらず、上海汽車がタイで投資を拡大しているのは、一四年五月のクーデターで政権を奪取したプラユット軍政から依怙ひいきとも取られかねない多くの支援策を受けているからだ。(中略)

タイにとって、中国は大国で唯一、政治的にプラユット軍政を認め、積極的に支持してくれる存在。

中国にとっては習政権の最大の外交戦略である「一帯一路」を推進するうえで、タイはインド洋にも出口を持つ地政学上、外せない国。

中国は軍政時代に事実上、属国化していたミャンマーがテインセイン前政権と民主化後のアウンサンスーチー政権のもとで中国に距離を置き、独自外交を展開していることが戦略上の失点となっている。ミャンマー以外にもうひとつの確実なインド洋への出口として、タイ重視策を打ち出しているわけだ。
 
さらに中国が人工島建設を既成事実化しようとする南シナ海をめぐり、両国には紛争がないことも中国にとってプラスだ。タイ政府は昨年から潜水艦、戦車など中国からの武器購入を急増させている。
 
重要なのはそうした外交、軍事戦略と並んで、中国がASEANへの経済圏拡大の橋頭堡としてタイを使おうとしている点だ。
 
バンコク繁華街に林立するコンビニエンスストアやドラッグストア。セブンイレブン、ファミリーマートやBoots、マツモトキヨシなど日本でもおなじみの看板が日本人客を引き寄せる。

だが、いざ会計となって日本人が周りを見渡すと地元のタイ人や中国人観光客が使うのは支付宝(アリペイ)と微信支付(ウイチャットペイ)の中国のスマホ決済システムで、もはや現金払いは少数派。

気がつけば、サイアムパラゴン、エンポリアムといったバンコク中心部の大型商業施設の店舗も支付宝などが定着している。タイ国内の小口決済は中国方式で固められ、日本企業が展開を狙ったSuicaはもはや付け入る隙もない。(中略)

縮小続く日本製品の生存圏
製造業に話を戻そう。タイではスマホのシェアトップだった韓国サムスンがシェアを低下させ、今、トップに立とうとしているのは広東省に本拠を置くOppoとVIVOの中国の新興メーカー二社。基地局設備では華為技術、中興通訊(ZTE)が寡占状態。中国製造業は日本メーカーが弱体化した分野からタイ市場を奪いつつある。
 
家電では韓国のLGエレクトロニクスが強く、パナソニック、ソニー、ダイキン工業なども存在感はあるものの、高額商品に偏っている。タイの庶民の間では中国製品の品質向上で、韓国から中国メーカーへの製品乗り換えが始まっている。
 
日本企業は今なお、タイでは最も信頼されるブランドと自負しているメーカーが多いが、足元では日本商品の生存圏は縮小を続けている。

雇用の面でも、かつてはトヨタ、ホンダ、パナソニック、コマツに勤めていることはタイ人の誇りだったが、最近は昇進スピードが速く、給与水準も高い韓国、中国企業が優秀な学生を取り込み、「タイで日本企業が雇えるのは一・五流から二流に低下した」(人材コンサルタント)。日本メーカーが話し合いで給与水準を抑制しようとする点が、タイ人の優秀な人材の流出を招いている。

「タイでは日本企業がナンバーワン」。新しい日本人社員がバンコクに赴任すると先輩社員が必ず語る言葉だ。だが、それが崩れつつあることに日本企業の多くは気づいていない。
 
工業団地で最大規模の工場が中国メーカー、給与が最も高いのも中国メーカーといった時代は確実に近づいている。タイが軍政のもとで、軍事、外交だけでなく、経済分野でも中国の属国化しつつある事実に目を向けるべき時だ。【「選択」 2017年10月号】
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話の内容はともかく、“属国化”という表現はややセンセーショナルに過ぎるように思えます。
もし、そういう表現が許されるなら、“タイは日本の属国から解放されつつある”とも言えるでしょう。

要は、政治的にだけでなく、経済関係においても中国の存在が大きくなっており、その分、日本の影が薄くなっているということであり、冷静に現実を直視し、今後の対応を検討する必要があります。

東南アジア諸国がいつまでも日本の“属国”であり続ける、あるいは、そうあるべきだと思い込むのは、根拠なき妄想にすぎないでしょう。

アメリカ・トランプ政権 タイ軍政との関係修復へ
政治的関係について言えば、タイは最近、中国製潜水艦3隻の購入を決めるなど、中国への接近が目立っています。
タイ軍政の中国接近という現実に対し、軍政と距離を置いてきたアメリカも軌道修正をはかっているようです。

****米・タイ首脳が会談 中国にらみ関係修復****
トランプ米大統領は2日、ホワイトハウスでタイ軍事政権のプラユット暫定首相と会談した。両国の首脳による会談は、2014年5月の軍事クーデターでプラユット陸軍司令官(当時)が実権を掌握して以降初めて。
 
トランプ氏は会談の冒頭、米タイ関係が自身の大統領就任後の9カ月間で「一層強固になった」と述べた上で、「両国の通商関係は重要度を増している」とし、タイへの輸出促進に意欲を表明した。 
 
プラユット氏は「両国は長年にわたる同盟国だ」と指摘し、テロなどの脅威への対処に向けて防衛・安全保障協力を進めていくとともに、「地域の懸案への対処に向けて緊密に連携していく」と強調した。
 
米タイ関係をめぐっては、オバマ前大統領がタイでのクーデターを受けて「早期の民政復帰」や「人権尊重」を要求し、タイ軍との合同演習を減らすなどプラユット暫定政権と距離を置いていた。
 
これに対しトランプ氏は、中国による南シナ海の軍事拠点化や東南アジア諸国への影響力拡大に対抗するため、オバマ前政権下で関係が冷却化していたタイやフィリピンとの関係改善を推進。11月には、オバマ氏を激しく罵倒していたフィリピンのドゥテルテ大統領とマニラで会談を予定している。【10月3日 産経】
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アメリカの軌道修正に対し、“人権弁護士団体のパビニー・チュムシリ弁護士は「クーデター後、タイでの政治的表現に関する人権侵害に対し、米国は声明を出すなどしていたが、変わってしまった」と話した。”【10月3日 毎日】
といった声も。

トランプ大統領誕生で、アメリカが“変わってしまった”のは間違いありません。人権とか民主化といった価値観は捨て置かれ、アメリカにとって有利な関係のみが追及されるようにもなっています。
その意味で、アメリカも中国も共通の土俵で争うようになっているとも言えます。

相変わらず奔放な新国王 政治対立へのスタンスは?】
タイでは今月下旬にプミポン前国王の葬儀が行われます。

****別れの列、延々と=前国王弔問最終日―タイ****
昨年10月13日に88歳で死去したタイのプミポン前国王のひつぎの前で、国民が哀悼の意をささげる一般弔問が5日、最終日を迎えた。ひつぎが安置されているバンコクの王宮前では未明から多くの人が延々と続く長い列を作り、別れを惜しんだ。(中略)

一般弔問は昨年10月末に始まり、これまでの参列者は延べ1263万人。1日当たりで最も多かった4日は9万6150人に達した。一般弔問は9月30日までの予定だったが、命日が近づくにつれ訪れる人が増えたため、延長された。
 
葬儀は25〜29日。火葬が行われる26日には25万人の参列が見込まれている。バンコクでは今月初めから黒い服を着る人が増え、追悼ムードが高まっている。【10月5日 時事】
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で、新国王のワチラロンコン国王はと言えば・・・。

****相変わらず「自由奔放」なタイ国王 愛人との旅行姿がネット上に流出****
即位前から悪評しかなかったタイのワチラロンコン国王に国内から密かな非難の声が上がっている。
 
国王の息子の留学先であるドイツで、元看護師の愛人と連れ添ってショッピングする姿が確認されたのは今年春。その後六月以降に当時の写真がネット上に流出し始めたのだ。

タイ国内では王室に対する不敬罪があるため、表立っては批判できないものの、陰口を叩いている状態だという。また、最近では財界周辺からも「なんとかしろ」という声が上がる。
 
タイでは、前国王の葬儀を十月下旬に控えている。新国王は葬儀中の国内滞在には同意したものの、交際相手とのドイツ旅行をやめる気はないというから、批判は収まりそうもない。【「選択」 2017年10月号】
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ふつうは、周囲の目も気にして、しばらくは身を慎む・・・というのが常識的ですが(しかも現在は、反政府的行為とみなされるものが厳しく取り締まられる軍政下にあります)、そうした周囲の批判・空気を気にしないあたり、新国王はなかなかの“大物”なのか、単に王族育ちで鈍感・わがままなのか、あるいは意図的に軍政の神経を逆撫でしているのか・・・。

冒頭の総選挙に向けたタクシン派・軍政の国内対立という問題については、このワチラロンコン国王がどちらの側に立って、どのように行動するのかも大きな焦点です。
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ブラジル  民主主義のジレンマ? 汚職まみれの不人気大統領の「民意を気にしない改革断行」で成果

2017-10-04 23:04:34 | ラテンアメリカ

(ブラジルの汚職を描いた映画「連邦警察:法を超越する者などいない」の公開を宣伝するために積まれた偽札(8月28日、ブラジル・クリチバ)【9月12日 WSJ】 同作品は一千以上の映画館でヒットを飛ばしているとか)

汚職で起訴され、国民の信頼6%のテメル大統領 中長期的視点で重要な構造改革を「粛々とぶち上げている」】
ブラジルで国営石油会社ペトロブラスを舞台とする大規模汚職事件に政界全体が巻き込まれていることは、これまでもこのブログでも取り上げてきました。
(4月15日ブログ“ブラジル 汚職一掃の「洗車作戦」で閣僚8人、現職国会議員63人を含む98人が捜査対象”など)

テメル大統領も例外ではなく、6月に続き2度目の起訴を受けていますが、与党が議会を押さえている関係で公判開始には至っていません。

****<ブラジル>テメル大統領を2度目の起訴****
 ◇犯罪組織形成と司法妨害の罪で
ブラジルのジャノ検事総長は14日、政府機関を使い便宜を図る見返りに賄賂を集める犯罪組織を率いたなどとして、テメル大統領を犯罪組織形成と司法妨害の罪で起訴した。

大統領が被告として裁判に出廷するには、連邦下院の3分の2以上の議員による承認が必要。テメル氏の起訴は2度目だが、前回に続き、連立与党が多数を占める下院が公判開始を承認する可能性は低い。
 
起訴内容は、テメル氏や与党・ブラジル民主運動党(PMDB)の下院議員ら7人は、国営石油会社ペトロブラスなどの公共機関を悪用して便宜を図る見返りに、賄賂を集める犯罪組織を形成したとされる。
 
また、こうした実態を知るロビイストに口止めを図った司法妨害の罪でも起訴された。テメル氏は起訴内容を否定している。
 
テメル氏は6月、国内最大手の食肉加工会社「JBS」から50万レアル(約1700万円)の賄賂を受け取ったとして収賄罪で起訴されたが、連邦下院は8月、公判開始を認めなかった。【9月15日 毎日】
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テメル大統領が(他のブラジル政治家同様に)汚職に関与していることは、大統領就任前から指摘されていましたので、大統領起訴のニュースも別に驚きはありません。

そうした腐敗が公になるにつれて支持率が低下していることも、驚きではありません。
ただ、“国民の92%がテメル大統領を信頼していない”と、弾劾で罷免されたルセフ前大統領にも及ばない状態になると、民主主義国家としていかがなものか・・・ということにもなります。

****ブラジル国民の92%が大統領に不信感、新たな汚職疑惑で=調査****
調査機関IBOPEが28日に公表した最新世論調査で、ブラジルの現政権に対する信頼が一段と低下し、国民の92%がテメル大統領を信頼していないことが分かった。

大統領に国内食肉最大手JBSに絡む汚職疑惑が浮上したことなどが背景。

調査によると、テメル政権を「悪い」または「ひどい」と感じている回答者は全体の77%で、7月の前回調査時の70%から割合が上昇。政権を「素晴らしい」または「良い」と感じていた人の割合は、同5%から3%に低下した。

現在も大統領を信頼しているとの回答は、同10%から6%に低下した。

テメル大統領の支持率は、弾劾で罷免されたルセフ前大統領が記録した最低値を下回った。(後略)【9月29日 ロイター】
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こうした国民からの支持をほとんど失った状況では、まともな政策遂行もできないであろう・・・と思うのが常識ですが、こちらは非常に意外なことに、テメル大統領の改革断行でどん底状態にあった経済はプラス成長への回復基調にあるとか。(中央銀行の成長率予測で、17年は0.68%増、18年は2.8%増)

****ブラジルがまさかの「経済回復*****
テメル政権が「国民不人気改革」断行
・・・・景気後退のさなかにルセフ前大統領にとって代わったテメル政権発足から一年が過ぎたが、現政権の支持率は三十一年間で過去最低の五%にまで落ち込んでおり、民主主義への失望が国民の心理を覆っている。
 
混乱の詳細は改めて語る必要もないだろう。だが、株式市場はなぜか史上最高値を更新している。この「失望する国民」と「期待する市場」というパラドックスは何だろうか。

「首を切られて走り回る鶏」
同国の株価が上がる要因はいろいろある。ブラジルの金融環境は利下げ段階にあり、いわゆる「不況の株高」になりやすいことが一つ挙げられる。

また世界的に低金利で株式市場が割高(益回りの低下)になっており、リスクを取った海外資金が流入しやすいことも一因だろう。

だが、それだけで株価が一六年の安値から二倍に急騰したことの説明はつかない。疑惑の渦中にいるテメルは、驚くほど正しい政権運営をしている。

あの出鱈目な前政権で副大統領だったとは思えない。彼が犯罪者かどうかは別にして、短期的には景気対策を打ち、財政を手当てしながら、中長期的視点で重要な構造改革を「粛々とぶち上げている」のだ。少なくとも市場はそう認識している。

現地メディアは「首を切られて走り回る鶏」と例えるように、死に体が生きているのだ。(中略)

結論から言えば中道路線に急激な舵を切っている現政権は、短期間ですでに成果を出している。

ブラジルの労働法はこれまで柔軟な雇用を生み出す上で障害となってきたが、現政権は四月に改正案を出し、メディアには「困難だ」と言われながらも七月には改正労働法を可決成立させた。

またエネルギーやインフラ部門の改革も進めている。八月二十二日、政府は国全体の電力の四割を供給する最大の電力会社エレトロブラスの民営化を発表。その翌日には電力、空港、道路、港湾など五十七事業の民営化を矢継ぎ早に発表した。
 
同国において民営化は経営の効率化から汚職の減少まで、様々なメリットをもたらす。過去に大企業の民営化を行った時には、異論が噴出し、暴動やデモが起こったが、通信大手テレノルテや航空機メーカー大手エンブラエルなどを振り返れば、どれも民営化は成功したと言える。

他にも、鉱業、エネルギー、バイオエタノール、自動車など様々な業界でこれまでの保護主義的、官僚主義的なものを断ち切るべく各企業と議論を進め、国際競争力を高めるために多くのアジェンダを打ち出している。
 
また、これまで同国の経済成長を支え続けた世界三位の開発銀行である国立社会開発銀行(BNDES)についても、財務省の負担を減らし、金利収益モデルの見直し議論も行っている。

このように、前政権にはまったくできなかったことをテメルはやっており、やろうとしているのだ。(中略)
 
低支持率でも民意を気にせず
汚職捜査では与党も野党も右も左もメスが入っており、政局については「テメル降ろし」を含め、連立の行方も、明日の事も予想できない状況だ。

大統領選の行方などなおさら難しい。次期大統領選挙でテメルは出馬しない意向を示しており、仮に出馬しても勝つことはないだろう。
 
いずれにしても暫定政権は残り一年三カ月と時間は限られているが、景気を回復させ、部分的に構造改革をすることはできる。

今のように「低支持率でも民意を気にせず改革を進めていく」という新自由主義政権は過去にもあり、悲観することはない。ブラジルのように貧富の差が激しい国では自由主義と民主主義が相容れないことが多い。支持率低下もまた運命であり、捨て身の改革を断行しているとも言える。
 
一九四五年、米国の農場で首を切られても生きている鶏が話題になった。科学者を驚愕させたこの鶏を人々は「首なし鶏マイク」と呼び、その後十八カ月間生き続けたという。

今のブラジルは、まるでこの首なし鶏のように、「まだ生きている」状態だ。だが、同国民が「極めて無責任だった左派政権の後始末を現政権がやっている」と認識できず、次期大統領選で再び左派ポピュリズムが勝ち、切られた首の上に「余計な頭」を付けるなら、国民の失望と市場の期待という今のパラドックスは逆転する。

これには大きな不幸が待っている。何しろ、その頭は自分の体をついばんで「おいしい、おいしい」と食べるのだから。【選択 2017年10月号】
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話が横道にそれますが、「首なし鶏(ニワトリ)マイク」の話があまりに興味深いので・・・

【2011年09月20日 カラパイア】

****首なし鶏マイク****
コロラド州Fruita(フルータ、フルイタ)の農家ロイド・オルセンの家で、1945年9月10日に夕食用として1羽の鶏が首をはねられた。

通常ならそのまま絶命するはずであったが、その鶏は首の無いままふらふらと歩き回り、それまでと変わらない羽づくろいや餌をついばむようなしぐさをし始めた。翌日になってもこの鶏は生存し続け、その有様に家族は食することをあきらめ、切断した首の穴からスポイトで水と餌を与えた。

翌週になって、ロイドはソルトレイクシティのユタ大学に、マイクと名づけた鶏を持ち込んだ。科学者は驚きの色を隠せなかったが、それでも調査が行なわれ、マイクの頚動脈が凝固した血液でふさがれ、失血が抑えられたのではないかと推測された。また脳幹と片方の耳の大半が残っているので、マイクが首を失っても歩くことができるのだという推論に達した。

結果、マイクはこの農家で飼われることになったが、首の無いまま生き続ける奇跡の鶏はたちまち評判となり、マイクはマネージャーとロイドとともにニューヨークやロサンゼルスなどで見世物として公開された。

話題はますます広がるとともに、マイクも順調に生き続け、体重も当初の2ポンド半から8ポンドに増えた。雑誌・新聞などのメディアにも取り上げられ、『ライフ』、『タイム』などの大手に紹介されることとなった。

1947年3月、そうした興行中のアリゾナ州において、マイクは餌を喉につまらせ、ロイドが興行先に給餌用のスポイトを忘れたため手の施しようもなく、窒息して死亡した。

マイクの死後、ギネス記録に首がないまま最も長生きした鶏として記録された。【ウィキペディア】
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写真を見ると、一層信じがたいものに思えます。

閑話休題。ブラジル、テメル大統領の話です。

汚職まみれで、国民の信頼を完全に失っているテメル大統領ですが、“次”がないこともあって、国民の人気取りの必要もなく、不人気でも必要な政策を断行し、急速にその成果を実現している・・・・ということのようです。

ただ、これは“民意”が錦の御旗とされる“民主主義”を信奉する立場からすれば、なんとも具合の悪い話でもあります。

“ブラジルのように貧富の差が激しい国では自由主義と民主主義が相容れないことが多い”ということ、ひところアジア諸国でもよく見られた“開発独裁”、昨今の“民意”を振りかざすような“ポピュリズム”の台頭、あるいは、目覚ましい成長を実現する“非民主的”中国モデルなども併せて論ずべき問題でしょうが、いささか手にあまるので今回はパスします。

とりあえずは、言い古されたチャーチルの格言「民主主義は最悪の政治といえる。これまで試みられてきた、民主主義以外の全ての政治体制を除けばだが」ということで・・・・

中南米各国に波及する大手ゼネコンのオデブレヒトによる贈収賄
なお、大手ゼネコンのオデブレヒトが国営石油会社ペトロブラスからの仕事を受注するために政界に賄賂をバラまいたとのことで、ブラジルでは最高裁が現役閣僚級8人や上院議員24人を含む総勢98人の捜査を命じる事態となっているという件は、前回ブログでも触れましたが、大手ゼネコンのオデブレヒトは中南米各国で広く事業を展開しており、今年2月時点でも、贈収賄も12か国に及んでいるとされていました。賄賂の合計額は7億8800万ドル(約900億円)と巨額です。

****ケイコ氏に不正資金疑惑=検察が捜査開始―ペルー****
ペルーの各メディアは(8月)29日、検察当局が国会最大会派のフジモリ派「フエルサ・ポプラル」を率いるケイコ・フジモリ氏の不正資金疑惑で予備捜査を開始したと報じた。
 
RPPラジオなどによると、ケイコ氏は2011年の大統領選に出馬した際、ブラジル大手ゼネコンのオデブレヒトから不正な資金を受け取った疑いが持たれている。(後略)【8月30日 時事】
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ペルーでは、2月9日、オデブレヒトから2000万ドルの賄賂を受け取ったとして、資金洗浄などの容疑で検察当局が逮捕状を請求したトレド元大統領に対し、ペルーの判事は国際逮捕状を発行しています。更に、クチンスキ大統領周辺やガルシア元大統領にも不正資金受領の疑いがあると言われています。

2月には、コロンビアのサントス大統領が2010年の大統領選で同氏の陣営が違法献金の授受したことを認め、「恥ずべき行動で国民に許しを請いたい」謝罪しています。

****ベネズエラ前検事総長、マドゥロ大統領の汚職指摘 証拠に言及****
ベネズエラのオルテガ前検事総長は23日、マドゥロ大統領がブラジルの建設会社オデブレヒトとの間の汚職に関与した証拠を持っていることを明らかにした。

オルテガ氏は今月、新たに発足した制憲議会によって解任され、前週コロンビアに脱出、23日にブラジルに到着した。

同氏は、政権上層部の汚職を隠すために解任されたと主張し、証拠をつかんでいると述べた。実際に証拠は提示していない。【8月24日 ロイター】
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みんながうすうす「そんなものだろう・・・」と感じていたことが、白日の下にさらされるところともなっています。
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インド  高速鉄道建設の一方で、優先して取り組むべき社会に根深い差別意識等の問題も

2017-10-03 23:06:57 | 南アジア(インド)

(インド西部グジャラート州アーメダバードで、「グジャラート州では牛殺しは罪だが、ダリット殺しは容認されている」などと書かれたプラカードを持って抗議するダリットの人々(2016年7月31日撮影)【10月2日 AFP】)

高速鉄道建設の必要性に疑問を示す声も
安倍首相は9月14日、インド西部グジャラート州アーメダバードで、日本の新幹線方式を導入したインド高速鉄道の起工式にモディ首相とともに出席し、インドでの“新幹線建設”が動き始めています。

インドにおける高速鉄道については、中国も別路線への参入を目指していますが、中印間の領土問題などで難しい事情もあります。

日本では“中国は日本の新幹線技術をパクった”と評判はよくありませんが、中国世論が自国の高速鉄道に非常に大きな誇りを感じていることは多くの報道で目にするところです。

“パクり”云々は、成長・発展過程ではすべての国が通る道であり、日本もアメリカなどの自動車等、多くの技術を“参考”にして成長してきたところで、程度問題の部分もあります。(中国の高速鉄道技術がこの“程度”を超えたものななかどうかについては知りません)

中国世論は、自国の目覚ましい成長が実は多くのものを犠牲にしており、巷には多くの怪しいものが出回っている現状はある程度認識しているので、世界最高水準をいく高速鉄道網とその技術に対しては、数少ない本当に世界に誇りうるものとしてひときわ力も入るのでしょう。

中国政府も、高速鉄道輸出にひとかたらぬ力を入れており、各地で日本の新幹線と競合することにもなっています。
そのため、日本の新幹線への対抗意識も尋常ならざるものがあります。

****インドで「日本の新幹線」導入に批判、「高額紙幣廃止と同様に悲惨****
2017年10月1日、中国メディアの人民網によると、インドのモディ政権が導入する「日本の新幹線」に対し、同国内では昨年11月の高額紙幣廃止と同様に悲惨だとする批判が出ているという。

記事はインドメディアの報道を引用し、同国の鉄道で設備の老朽化や整備不良による事故が多発していることを受け、元財政相で議会の指導者のチダンバラム氏が先月30日、日本の新幹線方式を採用するムンバイとアーメダバードを結ぶ高速鉄道プロジェクトに疑問を示し、政府は鉄道安全対策に焦点を当てるべきだと主張したと伝えている。

チダンバラム氏は、高速鉄道プロジェクトを昨年11月のモディ政権による衝撃的な「高額紙幣廃止」措置に結びつけ「同様に悲惨だ」とし、「高速鉄道は普通の人のためのものではない。富裕層の自我旅行のためのものだ。それは安全を含む他のすべてを犠牲にするだろう」と批判したという。

記事によると、インド国内では、高速鉄道建設の必要性に疑問を示す声が相次いでおり、そうした資金は既存の鉄道の安全対策や貧困対策に使われるべきだとする主張が叫ばれているという。【10月2日 Record china】
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中国の高速鉄道に対する“思い入れ”や“日本の新幹線への抵抗意識”は脇に置くとしても、中国メディアが“そうした資金は既存の鉄道の安全対策や貧困対策に使われるべきだとする”との批判を取り上げたのは、視点としては的を射たものでもあります。(その中国もインドへの高速鉄道輸出に躍起になっていますが・・・)

実際、在来鉄道の鉄道安全対策に焦点を当てるべきという批判もあって、インドが計画する別の6路線については時間を要する・・・との見方もあります。

老朽化したインド在来鉄道においては、事故が頻発しており、しばしばその報道を目にします。

****インド 10日間で3度目の列車脱線事故****
インドで、列車の事故が相次いでいることを受けて、日本の安全対策の専門家チームが鉄道の調査を行っているさなかに、この10日間で3度目となる脱線事故があり、ずさんな安全管理の早急な改善を求める声が高まっています。

インド西部の都市ムンバイ郊外で、29日朝、中部のナグプールからムンバイに向かっていた19両編成の列車が脱線し、一部の車両が周辺のやぶなどに突っ込みました。(中略)

インドでは、今月19日に北部を走っていた列車が脱線して22人が死亡したほか、23日には、同じ北部でトラックに衝突した列車が脱線して多数のけが人が出ていて、今回の事故は10日間で3度目になります。(後略)【8月29日 NHK】
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日本なら10日間に3回もの列車脱線事故が起きたら、内閣の責任が問われます。

輸送力も需要を大幅に下回っており、ムンバイの通勤列車が世界でも最も混雑する、そして最も危険な列車と言われていることなども、2008年6月28日ブログ「インド・ムンバイ 最も危険な列車と女子登校促進“現ナマ”作戦」で取り上げたことがあります。

****1日平均死者12人****
ラッシュ時には乗車率は250%にもなり、定員200人の車両に500人が詰め込まれます。
鉄道警察の発表では、昨年は3997人が死亡、負傷者が4307人。
今年は、1-4月ですでに1146人が死亡し、1395人が負傷しています。
1日平均12人が列車で死亡していることになります。

にわかには信じがたい数字ですが、死因の3分の1、負傷原因の多くを占めるのは、混雑のため車両に乗り込むことができず、車両の端につかまった状態で無理やり「乗車」したものの、手が離れてしまったというケース。【2008年6月28日ブログより再録】
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かなり古い数字で、現在がどうなっているのかは知りませんが、そんなに改善もされていないのでは・・・。

列車だけでなく、駅舎などの施設にも問題があるようで、ムンバイで9月29日朝のラッシュ時、鉄道駅に至る歩道橋上で通勤客が殺到して倒れ、少なくとも22人が死亡した件も大きく報じられています。

鉄道に限らず、インドにあっては“遅れた面”“改善が急務なことがら”が多々あるのは事実です。

衛生面についても、あの中国から見てもインドの現状は信じがたいレベルにあります。

****われらの隣国「日本とインド」その衛生面の差はあまりにも「両極端」だ=中国****
中国には衛生面で相反する2つの隣国があるという。それは「日本」と「インド」だ。

日本の清潔さは世界的に有名であり、日本と比較すると中国はひどいといった話題がよく取り上げられるが、中国メディアの今日頭条は9月29日、インドは中国の比ではないと主張し、インドと日本という中国の隣国は衛生面で「両極端」にあると主張した。(中略)

では、記事が主張する「日本と逆の極端」にあるというインドはどうなのだろうか。たびたび日本と比較され、街が汚いと言われる中国からみても、行ったら「常識が覆される」ほど汚れているという。

その汚れの程度については、「3歩ごとに1個のゴミがあり、5歩ごとに1個のフンがある」ほどだと表現。誇張した表現にも思えるが、記事が掲載している写真を見てみると大げさな表現とは言いがたい状況が写っている。
1日中清掃員が掃除している中国は、日本ほどではないとはいえ、そこそこ清潔さが保たれている。(後略)【10月3日 Searchina】
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より問題が根深い差別意識
鉄道にしても、衛生面にしても、今後インドが経済的に成長するに伴い、ある程度改善されていくものでしょう。
それらより問題なのは、インド社会に根強く残る身分制度・格差意識の問題ではないでしょうか。

****インド最下層カーストの男性、伝統舞踊を鑑賞し殺害される****
インド西部で1日夜、カースト(身分制度)の最下層「ダリット(Dalit)」出身の男性が、ヒンズー教の伝統舞踊を鑑賞したことに腹を立てたカースト上位の男らに暴行を受けて死亡した。地元警察が2日、明らかにした。
 
死亡したのはジャイエシュ・ソランキさん(21)。ソランキさんはいとこと共に、グジャラート州ボルサドで9日間の日程で開かれたヒンズー教の祭り「ナブラトリ」を訪れ、民族舞踊のガルバを見ていた際に襲撃されたとみられている。
 
地元のアナンド・サウラブ・シン警察署長はAFPに対し、「被害者を撲殺した容疑で8人を逮捕した」と認めた。
 
警察がいとこから受けた訴えによると、2人はガルバを鑑賞中、男1人になぜ踊りを見ていると聞かれた。男は「カースト絡みの罵声を浴びせた」後に去ったかと思うと、仲間7人を引き連れて戻り、ソランキさんらを暴行し始めたという。
 
男らはまずいとこを殴打し、止めに入ったソランキさんを強く押しのけた。ソランキさんは壁に頭をぶつけてその場に倒れたという。警察は搬送先の病院でソランキさんの死亡が確認されたと明かした。
 
PTI通信によると、容疑者らはダリットには「ガルバを見る権利は一切ない」と供述したという。【10月2日 AFP】
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インドにおけるカースト制、ダリット(不可触民)の問題は、7月18日ブログ“インド 被差別民ダリット出身の新大統領選出でも続く、よそ者には理解しがたい差別社会”でも取り上げましたので詳述はしませんが、インド社会に根深く存在している問題です。

****インドの教師、首相の誕生日祝うためトイレの穴掘り命じられ怒る****
2017年9月19日、米華字メディアの多維新聞によると、インド中央部、マディヤ・プラデーシュ州のティカンガル地区にある公立学校の教師らがこのほど、モディ首相の誕生日を祝うためにトイレのための穴を掘るという屈辱的な任務を与えられたとして怒りの声を上げた。

インドメディアによると、与党インド人民党(BJP)政府は、17日のモディ首相の誕生日を祝うため、ティカンガル地区の公立学校の教師らに、16日に複数の村でトイレのための穴を掘るプログラムに参加するよう求めたという。

政府の命令は、教師らを怒らせ、屈辱を与えた。ある教師は「政府は教師の尊厳を傷つけるためにあらゆる手段を講じている。トイレ建設は教師の名誉の破壊を通じて行われるべきではない」と怒りを隠せない。【9月19日 Record china】
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上記の話はよくわかりませんが、一政治家の誕生日のためにトイレの穴掘りをさせられた・・・という点では、怒るのも無理からぬものもありますが、インドにおいてトイレの整備は(モディ首相が自身の公約にしているように)極めて重大な問題です。

もし、(敬われるべき)教師である自分たちにトイレの穴掘りなどさせて・・・という意識であれば、誤った身分意識でしょう。

カースト制などの身分制度はインド社会と一体となっており、軽々に日本的常識で論じることはできない・・・というのはそうでしょうが、時代とともに変わるべきものが多々あるように思えます。

インド社会では、カースト制などの伝統的差別のほかに、国内アフリカ人への人種差別という新たな差別も問題になっています。

****カースト制に国にもう一つの差別****
・・・ 今年3月、(ニューデリー近郊の)オコイーグベのアパートの近くでアフリカ人学生が集団暴行された。
ネットなどで拡散した動画を見ると、インド人の男たちがショッピングモールに乱入して、黒人の若者を蹴ったり、金属製の椅子などで殴り付けている。被害者はナイジェリア人で重傷を負ったが、命は取り留めた。(中略)
 
きっかけはインド人少年の死だ。事件の数日前、ある少年が行方不明になったと伝えられたが、このとき「ナイジェリア人が誘拐して肉を食べた」というおぞましい噂が流れた。少年はその後、意識がはっきりしない状態で発見され、病院で死亡した。
 
すると今度は「少年はこの辺りに住むナイジェリア人から渡されたドラッグを過剰摂取して死んだ」という根も葉もない噂が広がった。少年の両親が訴えを起こし、警察は容疑者とみられる男たちを拘束。彼らは証拠不十分で釈放されたが、アフリカ人犯人説は消えず、彼らへの怒りが爆発した。
 
この緊張状態を生んだ要因の1つは、インド人がナイジェリア人に対して抱いている固定観念だ。ナイジェリア人
はみんなドラッグの売人や、社会の敵だと見なしてしまう。
 
確かにインドの一流紙は、いくつかの都市では麻薬密売に関与しているのはナイジェリア人が群を抜いて多いと報じている。インドに住むアフリカ人は国籍に関係なく、犯罪に関係していると疑われがちだ。しかもインド人はアフリカ人との交流が少ないため、こうしたイメージがなかなか消えない。
 
インドに住むアフリカ人は推定約4万人で、多くが留学生だ。ここ数年は、インド人とアフリカ人が衝突する事件
が目立つ。

13年には、ゴア州の人臣がナイジェリア入を「癌」と呼んで批判された。14年にはニューデリーで、ガボンとブルキナファソ出身の若者クループが襲撃され、その動画がYouTubeにアップされた。昨年1月には南部バンガロールでタンザニア入学生か車から引きずり出され、殴られ、半裸にされた。(後略)【9月26日号 Newsweek日本語版】
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インドでは肌の色は白いほどいいとの固定観念があり、そうした意識がアフリカ人差別にも影響している・・・とも。

急速な経済成長で社会が変化する時代にあっては、波に乗れない者の不満が伝統的差別、あるいは上記のようなアフリカ人差別といった形で、特定のグループに向けられがちになることも注意が必要です。

インド社会は女性の自由な恋愛(特にカースト違いの恋愛)を一族の恥として殺害するような“名誉殺人”が横行する社会でもあります。

下記はそうした名誉殺人ではありませんが、意に添わぬ女性を殺害するという点では共通する意識もあるようにも。

****インドの18歳女性、元恋人の男とその父親が火を付け死亡****
インドの警察当局は25日、元交際相手の女性(18)に生きたまま火を付けた疑いで男とその父親を逮捕したと発表した。女性は火を放たれた翌日、死亡した。
 
警察によると、同国西部ラジャスタン(Rajasthan)州で女性は2人に殴られた後、灯油をかけられて火を付けられた。(後略)【9月26日 AFP】
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また、インドでは近年、女性に対するレイプ事件など性的暴力が問題となっています。
しかし、そうした犯罪を取り締まる立場の警察に腐敗・汚職が蔓延しているのはインドに限らず多くの途上国に見られることです。

****7歳少女を官舎でレイプか、インドで警官逮捕****
インド北部ウッタルプラデシュ州で、7歳少女をレイプした容疑で警察官の男が逮捕された。地元の警察高官が1日、AFPに明らかにした。逮捕された警察官は当時、酒に酔っていたとみられるという。(中略)
 
インドでは未成年に対する性的暴行事件が多発しており、政府の統計によると2015年には2万件が報告されている。

同国は2012年に首都ニューデリーで起きた医学生に対する集団レイプ殺人事件が国際社会の批判を招いたことを受け、性的暴力を取り締まる法律を厳格化したが、性犯罪が後を絶たない。【10月2日 AFP】
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最近目にしたインドでの事件の記事をいくつか列挙しましたが、高速鉄道建設よりも優先して取り組むべき課題が山積しているように思われます。

もちろん、高速鉄道やIT技術の活用などを梃子にして、社会全体の改革を促していく・・・ということであれば結構な話でもありますが、モディ首相の姿勢は先端技術活用の一方でヒンズー至上主義を助長している・・・という話は再三取り上げているところで、そうした姿勢で差別意識や社会の改革が進むのか・・・やや疑問でもあります。
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プエルトリコ  ハリケーン被害復旧をめぐり、トランプ大統領と現地市長が互いに相手を非難

2017-10-02 23:12:56 | アメリカ

(ハリケーン「マリア」の被害を受けたプエルトリコのベガバハで、タンクから容器に水を入れる人たち(2017年9月30日撮影)【10月1日 AFP】)

【“米自治領”プエルトリコの財政破綻
9月、カリブ海地域は上旬の「イルマ」、20日頃の「マリア」と、立て続けに大型ハリケーンに襲われましたが、その報道によって、この地域にはいまだ多くの欧米の海外領土が存在しているということを改めて感じました。

“カリブ海を直撃したイルマは、仏領サンバルテルミー島やフランスとオランダが領地を分かつサンマルタン島などの小さな島々に多大な被害をもたらした。サンマルタン島では民家の6割が破壊され、略奪行為が横行。イルマはその後、英領バージン諸島と米領プエルトリコを直撃した。”【9月9日 AFP】

海外領土から独立した国も多く、私などは聞いたこともないような名前の国がたくさんあります。こうした国の名前を目にするのは、“殺人事件の多い国ランキング”ぐらいでしょうか。

全くの想像ですが、欧州諸国も今となっては(一部の特別のメリットがある島を覗けば)こうした海外領土を持て余しているのでは・・・。

放り出す訳にもいきませんし、今回のように何か起きると住民保護の責任も生じます。統治能力の有無にかかわらず、独立してくれるなら喜んで・・・。使うこともないのに、維持管理の費用・手間だけかかる別荘のようなものでしょうか。まあ、実際のところは知りませんが。

そうしたカリブ海の島々のなかでも、一番よく目にするの島のひとつがアメリカ領プエルトリコ。

プエルトリコに関しては、今年、ハリケーン以外にも二つほど大きなニュースがありました。

一つ目は、“州昇格”に関する6月に行われた住民投票

****プエルトリコ住民、米国州昇格を97%が支持 投票率低調****
米自治領プエルトリコで11日、米国の51番目の州への昇格する是非を問う住民投票が実施され、賛成票が97%と圧倒的多数を占めた。ただ反対派が投票をボイコットするなどで投票率は23%にとどまり、米議会からの反対も予想される。

投票では「州への昇格」「自治領として現状維持」「独立」の3つの選択肢が提示された。自治政府が同様の住民投票を行うのは、1967年以来これが5回目。結果に法的拘束力はない。

プエルトリコは財政危機に陥っており、公的債務は700億ドル。貧困率は45%に上る。年金基金や健康保険制度も破綻に直面している。

ロセジョ知事は声明で「今後、米連邦政府はプエルトリコの米国市民の多数意見を無視することはできなくなるだろう」と主張。「世界の別の地域では民主主義を要求している一方で、米国領であるプエルトリコでこの日行使された住民投票を行う正当な権利に対応しないことは、連邦政府にとって極めて矛盾している」と述べた。ただ、連邦政府にとっての優先順位は低いとみられる。

現行の法律では、プエルトリコの350万人の住民は連邦税納税義務、大統領選の投票権、低所得層向けの医療保険「メディケイド」など連邦政府からの補助金を受ける権利を有しない。連邦政府はインフラや国防、貿易などの政策を監督している。【6月11日 ロイター】
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プエルトリコは現在アメリカの自治領ということで、ある意味“中途半端”な立場にあります。

****プエルトリコの政治****
現在のプエルトリコはコモンウェルス(米国自治連邦区)という特別な立場にあり、住民はアメリカ国籍を保有するが、合衆国連邦(所得)税の納税義務を持たない代わり、大統領選挙の投票権はない。
合衆国下院に本会議での採決権を持たない代表者を1人送り出すことが認められている。

行政権は知事が有し、知事は普通選挙によって選出され、任期は4年。再選規定は存在しない。立法権は両院制の議会が有し、上院の定数は28人、下院の定数は51人である。

自治拡大派のプエルトリコ人民民主党と州昇格派のプエルトリコ新進歩党の二大政党制が確立されている。
その他にも現在の様な植民地的地位からの独立を目指すプエルトリコ独立党などの独立指向の政党が存在し、ガブリエル・ガルシア=マルケスやエドゥアルド・ガレアーノらを始めとするラテンアメリカの知識人によるプエルトリコ独立運動を支持する声もあるが、独立の機運は高まっていないのが現状である。

プエルトリコは独自の軍事組織を持たないが多数の米軍基地が立地しているほか、他のアメリカの50州およびコロンビア特別行政区と同様に州兵部隊も保有する。【ウィキペディア】
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現状維持(自治権拡大)、州昇格、独立という三つの選択肢があり、順番に権利も大きくなりますが、義務・負担も増す・・・ということで、どの道を選ぶのかという話です。

膨大な負債を抱え、貧困率45%といったプエルトリコを州に昇格した場合、アメリカの負担も大きくなりますので、そのあたりのアメリカ議会の意向もあります。

今年、プエルトリコが話題になったもうひとつの件は、その“膨大な負債”に関する“デフォルト(債務不履行)”の話。要するに“破産”です。

****プエルトリコが破綻手続き 観光低迷、債務8.2兆円 ****
債務不履行(デフォルト)を宣言している米自治領プエルトリコが3日、債務再編の手続きに入った。

プエルトリコは2015年にすでに債務不履行を宣言し、16年には複数回、利払いをせずデフォルトしている。関係債務額はおよそ730億ドル(約8.2兆円)と、米では最大の自治体の財政破綻となる。
 
プエルトリコは主力だった観光業が周辺地域との競争激化で低迷し、米国本土への人口流出も進み経済が行き詰まった。

プエルトリコのガルシア知事(当時)は15年に「債務を支払えない」とデフォルトを宣言。格付け会社はすでにプエルトリコの債務を投資不適格と見なしており、破綻手続き入りによる金融市場への影響は限られるとみられる。
 
プエルトリコは米国の自治領という特殊な立場にあり、13年に財政破綻したデトロイト市のような米地方自治体の破産申請が認められておらず債務再編手続きが不透明だと指摘されていた。こうした問題に対して米政府は昨年に自治領に対しても破産支援を認める法律を制定。プエルトリコも具体的な破綻手続きを進めることができるようになった。【5月4日 日経】
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復旧が遅れる中での非難の応酬
こうした、政治的には特殊な立ち位置にあって、財政的には破たんしているプエルトリコを「イルマ」に続いて直撃したのがハリケーン「マリア」で、最大風速69メートルの強風などによって甚大な被害を出しています。

****過去百年で最強」ハリケーン、プエルトリコを「完全に破壊****
ハリケーン「マリア」の直撃を受けたカリブ海の米自治領プエルトリコでは21日、洪水や停電に見舞われた。マリアはカリブ海諸国で猛威を振るい、ドミニカを中心にこれまでに21人の死亡が確認されている。
 
ドナルド・トランプ米大統領はマリアがプエルトリコを「完全に破壊」したと述べ、人口340万人が密集する自治領に激甚災害宣言を出した。
 
マリアを「過去100年で最強の嵐」だとして警戒を呼び掛けていたプエルトリコのリカルド・ロセジョ知事によると、自治領では全域が完全に停電し、電話も不通となっている。今後も数日は豪雨が続く予報で、洪水や土砂崩れが起きて命に危険が及ぶ恐れがあると同知事は警告している。
 
これまで確認された死者はドミニカで15人、仏海外県グアドループで2人、プエルトリコ北部バヤモンで1人、ハイチで3人の合わせて21人となっている。【9月22日 AFP】
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連邦政府は被災対応で軍など約1万人の要員を投入していますが、空路と海路でしか現地入りできないこともあって、救援物資搬入は遅れ気味です。

更に、現地の住民感情を逆撫でしたのがデューク国土安全保障長官代行の不用意な発言でした。

****プエルトリコ、米政府の災害対応に怒り 「人々が死んでいる****
ハリケーンによる甚大な被害に見舞われたカリブ海の米自治領プエルトリコでは、米軍と緊急援助要員らが支援活動を拡大する一方、米政府の対応についての批判が高まっている。

「イルマ」と「マリア」という2つのハリケーンに立て続けに襲われたプエルトリコでは、電力網や水道、通信網がほぼ麻痺(まひ)状態にある。
 
エレーン・デューク国土安全保障長官代行は28日、これまで米政府が実施した被災地支援について「大変満足している」、「非常にうまく進行している」との見解を表明。
 
さらに「われわれが(被災した)人々に到達できる能力があるかという面、そしてこれほど壊滅的なハリケーンに襲われても死者が少数であったという面では、非常に良いニュースだ」と語っていた。
 
これに対し、プエルトリコの中心都市で人口340万人を擁するサンフアンのカルメン・ユリン・クルス市長は猛反発。
 
29日、米CNNテレビに対し「彼女(デューク氏)がいる場所からは良いニュースに見えるのだろう」「川の水を飲んでいる状況は、良いニュースではない。赤ちゃんに与える食べ物がないことは、良いニュースではない」「これは良いニュースではない。人々が死んでいるというニュースだ」と批判した。
 
一方、プエルトリコ訪問を来週に控えたドナルド・トランプ大統領は、米政府の救援活動を擁護。プエルトリコを襲ったハリケーンは「歴史的、壊滅的に猛烈」な勢力であり、連邦政府職員1万人以上と米軍人5000人が参加する「大規模な連邦人員動員」が進行中だと述べた。【9月30日 AFP】
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確かに、「完全に破壊」という割には、死者数は少ないのは事実です。
ただ、日本でも地震に関して「東京でなく東北でよかった」といった趣旨の発言をした今村雅弘前復興相の発言が大きな問題になりましたが、一定の事実ではあるにしても、被害地住民の感情からすれば容認できないものの言い様という問題はあります。

これだけでも十分に政治問題化しているのですが、更に“参戦”したのがトランプ大統領。

ハリケーン「カトリーナ」への対応がブッシュ元大統領の致命傷になったように、アメリカ大統領にとって災害対応は北朝鮮問題以上に有権者が敏感に反応する重大問題です。

現地の復旧は思うように進んでいません。

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 プエルトリコの中心都市サンフアンのガソリンスタンドでは数時間待ちの長い車の列ができた。一部のガソリンスタンドでは民間警備員がパトロールしているという。

島の内陸部では住民たちが、ハリケーン後に初めて見た島外から来た人は報道陣だと話した。住民のエリサ・ゴンサレスさん(49)は、「FEMA(米連邦緊急事態管理庁)や連邦政府、他の誰からも支援がない」と語った。【10月1日 AFP】
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サンフアンのクルス市長は、「私たちはここで死にかけている。世界で最も偉大な国がなぜ小さな島のための物資輸送のやり方を考え出せないのか理解できない」と批判。

敏感な政治問題でもあるだけに、復旧が進まない現状に苛立ったトランプ大統領は被災地市長を激しく攻撃。結果的には、問題を大きくしているようにも。

****米大統領、ハリケーン被災地の市長非難=「カトリーナ」の二の舞い懸念****
カリブ海の米自治領プエルトリコを直撃した大型ハリケーンへの対応をめぐり、トランプ大統領は9月30日、連邦政府の早期支援を求める首都サンフアンのクルーズ市長を「お粗末なリーダーシップで(救援)要員を助けることもできない」などと非難した。災害対応が政治問題化するのを懸念し、批判に神経質になっているとみられる。
 
20日のハリケーン直撃で、プエルトリコでは少なくとも16人が死亡した。島の大半が停電し、医療機器が使えなくなる病院も続出。連邦政府は軍などの約1万人を災害対応に投入しており、トランプ氏も今月3日に現地入りする予定だ。
 
被災地では道路が寸断され、救援物資搬入の遅れも伝えられている。そんな中、デューク国土安全保障長官代行が「これだけの災害で死者が限られていることは、良いニュースだ」と発言。クルーズ氏は「(病院が機能せず)人が死につつあるのに、どこが良いニュースだ」と反発していた。
 
トランプ氏は30日のツイッターで、クルーズ氏や市当局を「何もかもやってもらおうと思っている」と批判。同日だけで転載を含め20回以上も投稿し、その多くで救援要員の活動をアピールした。トランプ氏に謝意を示していたロセジョ知事については「本当に一生懸命働く立派な指導者だ」と持ち上げた。
 
米国では2005年にハリケーン「カトリーナ」が来襲した際、当時のブッシュ政権が対応の遅れを糾弾された。民主党のソト下院議員はMSNBCテレビで、今回の被災について「既にカトリーナ(と同様の事態)になっている」と指摘。連邦政府の取り組みに苦言を呈している。【10月1日 時事】
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復旧が遅れているのは自分のせいではない、無能な現地市長のせいだ・・・と言いたいのでしょう。
現地は、トランプ大統領の非難に強く反発しています。

****プエルトリコの市長批判 住民らは激しく反発****
トランプ米大統領は30日、ハリケーンで壊滅的被害を受けた米自治領プエルトリコの首都サンフアンのクルーズ市長を、「指導力に欠け、救援活動を機能させられていない」とツイッターで批判した。政権の支援対応が不十分との批判の高まりに「反論」した形だが、住民らは激しく反発している。
 
トランプ氏はクルーズ市長について「(野党)民主党にトランプ批判をしろと吹き込まれたようだ」と主張。「連邦政府が万全の支援活動をしている」とする一方、クルーズ氏らを「自助努力で解決すべきことも、すべてやってもらおうと考えている」と非難した。
 
プエルトリコはカリブ海に浮かぶ面積約9100平方キロの島で米本土から南西に約1600キロ離れ、人口は約340万人。

9月に複数のハリケーンの直撃を受け大部分で電力供給が途絶えたほか、飲料水や燃料の不足が深刻化し、届いた救援物資が配布できない問題も発生。

米メディアは本土のハリケーン被災時に比べ「トランプ氏の関心が低く、対応が鈍い」と連日、批判的に報道している。
 
クルーズ市長は29日、デューク国土安全保障長官代行が「支援活動が機能し、死者数がわずかなのは良いニュース」と発言したことに、「人々は沢の水を飲み、赤ん坊に与える食料がない。生死がかかった状況の、何が良いニュースか」と厳しく批判した。
 
トランプ氏の市長批判に関し、米CNNは「現場に来もしないで地元の努力を批判するな」など住民らの反発の声を報じた。
 
トランプ氏は3日に現地入りする予定だ。【10月1日 毎日】
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冒頭に取り上げたように、プエルトリコは特殊な立場にあるだけに、復旧が遅れると“米本土に比べて・・・”という批判にもつながります。

また、財政的にも破たんしている状況ですから、そうしたことも復旧の遅れに影響するでしょう。

トランプ大統領の被災地市長批判に対しては、アメリカ国内からも批判が出ています。

****プエルトリコ巡り米議員がトランプ氏の対応批判、「支援に注力を****
ハリケーン「マリア」により大きな被害を受けた米自治領プエルトリコを巡り、米議員は1日、トランプ米大統領はプエルトリコ住民に対する非難をやめて復興支援に注力すべきとの考えを示した。

サンフアンのクルーズ市長が連邦政府による支援活動は不十分と述べたことを受け、トランプ大統領は9月30日、市長を批判し、プエルトリコの住民は「何もかもやってもらおうとしている」と述べた。

民主党のシューマー上院院内総務はCBSの番組で、支援活動は「ペースが遅く混乱しており、不十分だ」と指摘し、大統領はツイッターへの投稿をやめて仕事に取り掛かるべきだと強調した。

共和党のルビオ上院議員も、政治的な非難の応酬はやめるべきと訴えた。【10月2日 ロイター】
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トランプ大統領は、引きずる“ロシア疑惑”に加え、最近だけでも、プライス厚生長官のチャーター便乱用、政権幹部の私用メール問題、国歌演奏中の抗議行動批判、オバマケア改廃をめぐる共和党幹部との確執など多くの問題を抱えています。

今日は、ラスベガスの銃乱射で50人死亡という事件も。アメリカ社会の大きな問題“銃規制”にも波及します。

これだけ抱えていれば、この際問題がひとつ増えても、どうってことない・・・というところでしょうか。
また、コアなトランプ支持層はトラブル・スキャンダルでは揺るがないことも強みです。

それにしても、誰彼構わず喧嘩を売るのはトランプ氏の性格なのでしょうが、私企業のワンマンオーナーとしてはともかく、多様な国民をまとめていくべき国のトップとしては適任とは思えません。
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