(15日、キューバの首都ハバナで開幕した「G77プラス中国」首脳会議=ロイター【9月16日 読売】)
【「陣取り合戦」の時代に入った国連】
現在の国際社会は、欧米と中ロの対立によって国連安保理での決定ができない状況で、いかに多数の支持国をあつめて「有利な状況」をアピールするか・・・という陣取合戦のような様相を呈しています。
****中国とロシアのコンセンサスがなければ国連憲章は改正できない 「陣取り合戦」の時代に入った国連***
(中略)
ロシアのウクライナ侵略以来、機能しなくなった国連安全保障理事会 〜「自分がいい形勢をつくらなければいけない」というゲームの時代に入った
秋田浩之氏(日本経済新聞コメンテーター))(中略)2022年から国連総会の意味が激変してしまったと思います。(中略) 国連安全保障理事会という中枢の場所で、侵略しているロシアとそれを支持している中国が拒否権を握っているという意味では、国連安全保障理事会は機能しなくなっているのです。(中略)
そんな国連に出て何をするかと言うと、理想的には「みんなで協力して一致点を探る」ことも行うべきだとは思います。それ以上に、囲碁や将棋のような盤上にみんなが出かけて行き、「自分がいい形勢をつくらなければいけない」というゲームの時代に入ったのでしょう。何かが決まるのではなく、国連とはそのような場所だということです。(中略)
今後は国連が機能しないまま、陣取り合戦の時代がずっと続いていくかも知れません。
グローバルサウスの国々をどのようにして西側に引き寄せるか
(中略)
秋田)国連総会でみんなが一斉に投票すると、どれだけロシアに批判的な票が増えたか、どれだけ支援する国があるのかがわかる。それが何かの決定につながるわけではないのですが、「悪いことはできない」という圧力にはなります。その意味では、グローバルサウスと言われる途上国や新興国を、どう西側に引き寄せるかが重要だと思います。
グローバルサウスをどのようにこちら側に引き寄せるのか 〜中国・ロシアの周りを陣取りして、自分たちに有利な陣形をつくるために途上国・新興国を引き寄せていく
(中略)
秋田)私は先週まで旧ソ連のジョージアのトビリシに行き、その後は大西洋を越えてニューヨークを訪れ、それぞれの国際会議に出ていました。(中略) トビリシの方はウクライナ問題が中心でした。ニューヨークの方はイギリスのシンクタンクが主催した会議で、アングロサクソン系の元高官や識者が多く参加していました。「2泊3日で世界の問題を討論する」という合宿形式で、50人くらいの少人数で行いました。(中略)
印象的だったのが、「グローバルサウスをどうやってこちら側に引き寄せるのか」という内容が重要なテーマとしてあり、そこに議論が集中していたことです。なぜかと言うと、世界のいまの国際政治は「碁」です。陣取り合戦のような状態になっていて、中国やロシアと交渉しても、いまは戦争になってしまっているから、なかなか埒が明かない。ですから、碁のように周りを陣取って、自分たちに有利な陣形をつくるために途上国・新興国を引き寄せていく。(後略)【ニッポン放送NEWS ONLINE】
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【「G77プラス中国」首脳会議 2014年以来9年ぶり、114か国の首相や閣僚らが出席】
そうした流れで、いわゆるグローバルサウスと呼ばれる、これまでは“その他大勢”的な立場にあった国々の意向注目され、外交戦略としてそれらの国々の支持取り付けが重要になっています。
「大国」を常々アピールする中国は、こうした場面では“途上国の一員”を主張して、途上国の代表者のようにふるまいます。
****「G77プラス中国」首脳会議、9年ぶり開催…キューバが呼びかけ114か国の代表出席****
新興・途上国でつくるグループ「G77プラス中国」の首脳会議が15日、キューバの首都ハバナで開幕した。
構成国は「グローバル・サウス」と呼ばれ、世界的な食料や燃料価格の高騰への結束した対応を確認する見通しだ。
G77は1964年に77か国で発足し、その後、参加国が134に増えた。首脳会議は2014年以来、9年ぶりとなる。経済危機に直面する議長国キューバが呼びかけ、114か国の首相や閣僚らが出席した。
キューバのミゲル・ディアスカネル大統領は「貧困や飢餓などに最も苦しんでいるのは南の国の人々だ」と強調した。中国共産党政治局常務委員の李希リーシー中央規律検査委員会書記は、「中国は常に発展途上国の家族であり、グローバル・サウスの一員だ」と述べた。【9月16日 読売】
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会議の内容としては、“先進国主導の国際秩序がもたらす不公平に「グローバルサウス」と呼ばれる国々が「深い懸念」を表明、是正を求める声明を採択して閉幕した。”【9月17日 共同】とのこと。
2014年以来9年ぶり、114か国の首相や閣僚らが出席・・・・あまり大きな扱いはされていない会議ですが、“陣取り合戦”の様相を呈している現在の状況からすれば、また、“プラス中国”と言う形で中国が影響力を行使できる場であるということなどで、以前に比べて重要性が増しているように思えます。
【アメリカ 太平洋島しょ国との首脳会議】
一方、中国に対抗するアメリカも動いています。
****バイデン氏、太平洋島しょ国との首脳会議を25日開催****
米政府は、バイデン大統領が太平洋島しょ国で構成する「太平洋諸島フォーラム(PIF)」の首脳をホワイトハウスに招き、来週25─26日に第2回首脳会議を開催すると発表した。地域への関与を強めて域内で影響力を高める中国をけん制する狙いがある。
ホワイトハウスのジャンピエール報道官によると、バイデン氏は会議で地域における共通の優先事項に対処する米国の決意を再確認し、さまざまな分野で島しょ国との協力を深める意向。
気候危機への取り組み、経済成長の促進、持続可能な開発の推進、健康安全保障の強化、違法漁業対策、人と人とのつながりの拡大などの分野が含まれるという。 第1回首脳会議は昨年9月に開かれた。【9月20日 ロイター】
ホワイトハウスのジャンピエール報道官によると、バイデン氏は会議で地域における共通の優先事項に対処する米国の決意を再確認し、さまざまな分野で島しょ国との協力を深める意向。
気候危機への取り組み、経済成長の促進、持続可能な開発の推進、健康安全保障の強化、違法漁業対策、人と人とのつながりの拡大などの分野が含まれるという。 第1回首脳会議は昨年9月に開かれた。【9月20日 ロイター】
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南太平洋島しょ国は、その地政学的重要性もあって、米中の陣取り合戦の主戦場のひとつともなっています。
****米中が太平洋島しょ国をめぐって勢力争い 太平洋戦争で日米が戦った地域が、なぜいま注目を集めるのか****
かつて太平洋戦争で、日米が激戦を繰り広げた太平洋の島々。いま、この島々をめぐって、アメリカと中国の勢力争いが激しさを増しています。なぜ、米中両大国がこの地域に注目しているのか、そして、日本は、この地域にどう関与していくべきなのでしょうか。
(いま、なにが起きているのか)
太平洋島しょ国は、赤道を挟んで位置する島々で構成される14の国と地域です。
地域最大の国はパプアニューギニアで、人口はおよそ1000万人。そのほかの国は人口が100万人に達しない比較的小規模な国です。これまでは、アメリカ、オーストラリア、日本などとの関係が深く、中国の足がかりは小さいとみられていました。
地域最大の国はパプアニューギニアで、人口はおよそ1000万人。そのほかの国は人口が100万人に達しない比較的小規模な国です。これまでは、アメリカ、オーストラリア、日本などとの関係が深く、中国の足がかりは小さいとみられていました。
激震が走ったのは、去年4月、ソロモン諸島が中国と安全保障協定を結んだことです。両国政府は協定の内容を明らかにしていませんが、オーストラリアのメディアは、▼ソロモン諸島が中国に軍や警察の派遣を求めたり、▼中国の船舶がソロモン諸島を訪問して、補給を行ったりすることができる内容が盛り込まれていると報じました。
ことし7月、中国の習近平国家主席は、北京で、ソロモン諸島のソガバレ首相と会談し、日本政府の関係者は、会談の中では、安全保障協定の運用に向けた協議も行われたとみています。
こうした安全保障面での関係強化が影響したとみられる、日本にとっては心配な事案が起きています。
(中略)外務省によりますと、日本政府は事前に、すべての国に直接、出向いて(処理水放出について)説明を行い、これまでのところ、13の島しょ国からは明確な反対の声は出ていません。その一方で、ソロモン諸島のソガバレ首相は、「放出は、人々や海洋、経済、暮らしに影響を与えるもので、強く抗議する」という声明を出し、中国と足並みをそろえる形となりました。
(中略)外務省によりますと、日本政府は事前に、すべての国に直接、出向いて(処理水放出について)説明を行い、これまでのところ、13の島しょ国からは明確な反対の声は出ていません。その一方で、ソロモン諸島のソガバレ首相は、「放出は、人々や海洋、経済、暮らしに影響を与えるもので、強く抗議する」という声明を出し、中国と足並みをそろえる形となりました。
中国は、国交のあるそのほかの国々にも、ソロモン諸島と同様の安全保障協定の締結を働きかけています。
こうした状況にアメリカは危機感を強めていて、巻き返しに出ています。
バイデン大統領は、去年9月、この地域の14の国と地域の首脳などを招いた初めての会議を開き、中国に対抗していくため、8億1000万ドル、日本円にして、1100億円あまりの支援を表明しました。
また、ことし5月、ブリンケン国務長官は、ソロモン諸島の隣国、パプアニューギニアを訪れて、防衛協力協定に署名しました。協定は、現地政府が認める施設や区域を、アメリカ軍が使用できるというもので、海軍基地や空港、港湾施設などが候補にあがっています。
7月には、オースティン国防長官も現地を訪れて、協定について協議を行い、期限が15年であることや、9月にもアメリカ軍が使用できる施設について具体的な調整を始めることなどを明らかにしました。
(なぜいま、島しょ国なのか)
太平洋島しょ国をめぐって、なぜいま、米中が勢力争いをしているのでしょうか。
一連の動きの引き金となったのは、中国がソロモン諸島をはじめ、地域への関与を強めたことですが、これについて、日米の当局者は、中国軍が、この地域の軍事戦略上の利点を2つの面から着目したからだとみています。(後略)
太平洋島しょ国をめぐって、なぜいま、米中が勢力争いをしているのでしょうか。
一連の動きの引き金となったのは、中国がソロモン諸島をはじめ、地域への関与を強めたことですが、これについて、日米の当局者は、中国軍が、この地域の軍事戦略上の利点を2つの面から着目したからだとみています。(後略)
【8月31日 NHK 梶原崇幹解説委員】
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【ロシアの“裏庭”で存在感を増す中国 アメリカも働きかけ強める】
旧ソ連の中央アジアはもともとはロシアの“裏庭”的な存在でしたが、昨今はロシアがウクライナで手一杯なこともあって、中国の影響力拡大が目立ちます。
****中国、中央アジア5か国と首脳会議…ウクライナ問題で「12項目の提案」支持取り付け狙う****
中国と中央アジア5か国による首脳会議が18日、西安で開幕した。中国の 習近平シージンピン 国家主席は先進7か国首脳会議(G7サミット)開催をにらみ、中央アジア各国との連携を誇示しつつ、ウクライナ情勢を巡る国際世論にも影響力を及ぼそうとしている。
対面での開催は初めてとなる。習氏は19日に各国首脳との共同記者会見に臨む。中央アジアとの関係強化に関する演説も行い、巨大経済圏構想「一帯一路」を通じた経済協力や投資の強化を提唱する。ロシアによるウクライナ侵略が主要議題となるG7サミットに対抗する形でウクライナ問題も議論する。中国が掲げる「12項目の提案」への支持取り付けを図る見通しだ。
中国外務省によると、習氏は17、18の両日、各国首脳との個別会談もこなした。強権的手法が指摘されるカザフスタンのカシムジョマルト・トカエフ大統領には「カザフが国情にかなった発展の道を歩むことを支持する」と述べた。中国が「内政に干渉している」と批判の矛先を向ける米欧を意識した発言となる。
ロシアとのつながりが深い中央アジアには日米欧が取り込もうと動き、中国側は「地政学的な駆け引きの戦場にしてはならない」( 秦剛チンガン 国務委員兼外相)と警戒する。中央アジアは習氏が重視する一帯一路の起点でもあり、鉱物資源も豊富で、経済面での要衝でもある。
ロシアは中国との連携を重視する一方、「勢力圏」と位置づけてきた中央アジアで中国の影響力が強まることを警戒している。プーチン露大統領は9日、モスクワでの旧ソ連による対ドイツ戦勝記念日の式典に中央アジア5か国の首脳全員を招待。演説で「ソ連の人々すべてが共通の勝利に貢献した」と一体感を強調した。しかし、中央アジア各国には、ウクライナ侵略を受けて、ロシアと政治的に距離を置く動きも見られる。【5月19日 読売】
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アメリカも、こうした中国の影響力拡大に対抗。
****アメリカ、中央アジア5カ国と初の首脳会議 中国・ロシアけん制****
バイデン米大統領は19日、米国と中央アジア5カ国の協議枠組み「C5プラス1」による初の首脳会議をニューヨークで開いた。バイデン政権は、旧ソ連構成国だった5カ国とウクライナに侵攻するロシアとの関係にくさびを打つとともに、中央アジアで影響力を強める中国をけん制したい考えだ。
中央アジア5カ国はカザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン。ホワイトハウスによると、バイデン氏は中央アジアの豊富な鉱物資源を開発し、その供給網を守るためにC5プラス1による「重要鉱物に関する対話」の立ち上げを提案。欧州からトルコ、カスピ海を経由して中央アジアを抜ける「中央回廊」と呼ばれる物流ルートへの投資と開発を促進するとした。
ロシアは経済的な結びつきが強い中央アジア5カ国を勢力圏と捉えている。ただし、ロシアによるウクライナ侵攻開始以降は、各国のロシアと距離を置く動きも指摘されている。また、中国もこの地域を巨大経済圏構想「一帯一路」の重要な沿線として重視。習近平国家主席は5月には5カ国の首脳を中国に招き「中国・中央アジアサミット」を開催している。
バイデン政権は2月にブリンケン米国務長官をカザフスタンに派遣。C5プラス1の閣僚会議を開くなど関与を強める動きを見せていた。首脳会議はニューヨークで開催されている国連総会の「ハイレベルウイーク」に合わせて開かれた。【9月20日 毎日】
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アメリカと中ロはそれぞれ岩盤支持層とも言うべき関係国を有していますが、そのどちらにも属さない中間層の国々をめぐって、今後“陣取り合戦”が更に激しさを増すと思われます。
一方、対象となる国の側では、米中を両天秤にかけて、自国にとって最大の利益を引き出そう・・・といった動きもあるのでしょう。