孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ベトナム  バイデン大領訪問で米越関係強化 中国に対抗して、ベトナムを半導体制裁拠点に育成

2023-09-10 23:09:11 | 東南アジア

(バイデン米大統領(左)とベトナムのグエン・フー・チョン共産党書記長=10日、ベトナム・ハノイ【9月10日 産経】)

【インドネシアでのASEAN関連首脳会議を欠席したバイデン大統領 インドネシアで広がる波紋】
バイデン大統領はインドネシアで開催されたASEAN関連首脳会議を欠席してハリス副大統領が出席、ASEAN側には「軽視」された失望も広がっています。

特に、開催国インドネシア側には面子を潰された思いもあるようです。

バイデン大統領のASEAN「軽視」の背景には、ASEANには中国の影響力が強い加盟国もあって、結局中国対応で明確な姿勢を打ち出せないということもあるように推測します。

それ以外に、インドネシアのジョコ大統領の中国重視姿勢が影響しているとの指摘も。

****アジアの視線 インドネシアを待つ「外交的屈辱」 森浩****
(中略)
インドネシアはASEANが1967年に5カ国で発足した際の創設メンバーだ。東南アジア最大の2億7千万人超の人口を抱え、ASEANの盟主としてのプライドがある。奏功しているとは言い難いが、国軍がクーデターで実権を握ったミャンマー問題の解決に向けてリーダーシップを見せている。

ただ、これまでもバイデン政権のインドネシアを巡る対応は物議を醸したことがある。2021年7〜8月にかけ、オースティン米国防長官とハリス氏が東南アジア各国を歴訪した際、インドネシア訪問はなかった。「米国はインドネシアに不信感がある」という疑念は近年、インドネシアのメディア関係者らの間で強まっていた。

14年発足のジョコ政権は米国との関係を重く見る姿勢は示しつつも、外交関係の軸に据えたのは中国だ。インドネシアメディアによると、ジョコ氏は大統領就任以降、訪米3回に対し、訪中は6回。今年7月には中国・四川省で習近平国家主席と会談し、新首都建設への支援を要請した。

それにも関わらず、中国の覇権的な海洋進出は止まらず、インドネシア北西部ナトゥナ諸島周辺での中国船の活動は常態化している。

インドネシアにとり安全保障面での米国との連携強化は焦眉の急だが、ジャカルタ・ポストは、親中姿勢が米国との緊密化を妨げていると指摘し、「ジョコ氏は米国との関係を強固なものにできなかった自分自身を責めるべきだ」と苦言を呈した。(後略)【8月22日 産経】
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上記のインドネシア側の受け止め方が的を射たものかどうかはわかりませんが、やはりインドネシアはASEAN中心国であり、今後グローバルサウスをリードする国のひとつでもありますので、そのインドネシアとの関係がギクシャクするのはアメリカにとってマイナス面もあるかも。逆に、今後に向けてアメリカとして敢えて厳しい姿勢を見せたということでしょうか。

【バイデン大統領 中国に対抗すべく、ベトナム訪問で米越関係のグレードアップ図る】
一方、アメリカ・バイデン大統領が重視しているのがベトナムとの関係。

バイデン米大統領はインドで開催されていたG20を終えて、10日にベトナム訪問し、最高権力者のグエン・フー・チョン共産党書記長と会談します。

アメリカ政府によると、両国関係を新たに「包括的な戦略的パートナーシップ」に格上げすることで合意する段取りになっています。

****米越「戦略関係」に格上げへ 対中国、半導体で連携強化****
バイデン米大統領は10日、ベトナムの首都ハノイを訪問し、最高指導者のグエン・フー・チョン共産党書記長と会談する。

バイデン政権はインド太平洋を重視しており、米高官はベトナムに向かう大統領専用機内で、首脳会談で両国関係を「包括的戦略パートナーシップ」に格上げすると明らかにした。

バイデン政権はアジアで影響力を強める中国に対抗し、半導体などの供給網再構築の一環としてベトナムとの戦略的連携を強化したい考えだ。

両国関係は「包括的パートナーシップ」だった。専門家らによると「戦略的パートナーシップ」を飛ばして格上げするのは異例の措置となる。

ベトナムは米中間でバランス外交を展開しつつも、南シナ海の領有権問題で中国とのあつれきは強まっている。ベトナムは半導体生産や人工知能(AI)分野に力を入れており、米国は同盟国や友好国と供給網を構築する「フレンド・ショアリング」で協力を目指す。

ベトナム戦争を経て両国は1995年に国交正常化し、武器関連の禁輸措置を段階的に緩和してきた。【9月10日 共同】
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「包括的パートナーシップ」「戦略的パートナーシップ」「包括的戦略パートナーシップ」の違いはよくわかりませんが、両国関係のレベルが更にグレードアップされたということでしょう。

岸田首相が出席して9月6日に開催された日本とASEANの首脳会議においても、日ASEAN包括的戦略的パートナーシップ(CSP)を立ち上げる共同声明が採択されています。

なお、ベトナムはこれまでロシアや中国を「包括的戦略的パートナーシップ」に位置づけ、アメリカとの関係はこれより劣後していました。中国への対抗を念頭に、アメリカはかねてよりベトナム側に、関係の格上げを働きかけていました。

ベトナムは経済面での中国との関係は深いものの、南シナ海領有権をめぐって中国と厳しく対峙する関係にあり、アメリカとの関係強化は中国を牽制するものともなります。

【訪問直前に、ベトナムとロシアの関係の強さを示す秘密裏の武器取引計画ニュースも】
ただ、これまでも度々触れてきたように、現実重視のベトナム外交はしたたかな側面があり、必ずしもアメリカとの関係にのめり込んでいる訳でもありません。

そのあたりの“したたかさ”はロシアとの関係でもあきらかになっています。

****ベトナムがロシアと秘密裏に武器取引計画 シベリアの合弁会社経由で 米紙報道****
アメリカのバイデン政権が対中国を念頭に関係強化を目指すベトナムが、秘密裏にロシアから武器輸入を計画していたとアメリカメディアが報じました。

ニューヨーク・タイムズによりますと、入手したベトナム政府の内部文書に、ロシアから秘密裏に武器を購入する計画が記されていたということです。

文書は今年3月付けで、計画はアメリカの監視を逃れるためにシベリアにあるベトナムとロシアの合弁会社を経由して支払いを行い、ベトナムの軍装備を近代化させるという内容だったとしています。

また、文書には武器の取引が両国間の「戦略上の信頼関係を強化する」と記されていたとも伝えていますが、実際に取引が行われたかは分かっていません。

バイデン大統領は中国に対抗するために10日にベトナムを訪問し関係強化を図ろうとしていますが、ベトナムとロシアの結び付きの強さが明るみになったことで、アメリカ側への取り込みが一筋縄ではいかないことが浮き彫りになった形と言えそうです。【9月10日 テレ朝news】
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バイデン大統領訪問直前にこういう情報が公開されるというのは、たまたまでしょうか、何か裏の動きがあるのでしょうか・・・わかりません。ドラマならいろんなシナリオが考えられるところですが。

ベトナムとしては南シナ海への中国進出に対抗するためにはアメリカを利用したいけど、アメリカと中ロの対立構図には巻き込まれたくない・・・というのが本音でしょう。

アメリカとしてもそれは承知の上で、更にそのベトナムを自陣に引っ張りこめるか・・・というところ。

【アメリカはベトナムを半導体生産拠点に成長させる狙い ただし、深刻な技術者不足も】
その関係強化の中心に位置づけられているのが“半導体生産”。

アメリカは中国に絡む供給リスクへの備えとして、ベトナムを半導体の生産拠点として急成長させる計画のようです。しかし、このプランを進める上でベトナムの慢性的な技術者不足が重い課題に浮上しています。

****米が狙うベトナム半導体拠点化、技術者不足が重い課題*****
バイデン米大統領は9月10日からベトナムの首都ハノイを訪問する。両国関係の本格的な強化が狙いで、半導体が議論の焦点になる見込み。米政権関係者によると、バイデン氏はベトナムの半導体生産強化に向けた支援策を提示する予定だ。

友好国で供給網を完結させる「フレンドショアリング」構想に戦略的な半導体産業が組み込まれていることは、米国がベトナムの共産主義指導者を説得し、正式な関係強化への同意を求める重要な動機の1つとなっている。ベトナム政府は当初、中国の反発を恐れ、米国の求めに応じることに消極的だった。

両国の本格的な関係強化により、ベトナムの半導体産業には数十億ドル規模の新規民間投資のほか、一部の公的資金も流れ込む可能性がある。

しかし関係者によると、ベトナムの半導体産業は熟練した技術者が少ないことが急速な発展にとって大きな障害になりそうだ。

米国・ASEANビジネス評議会ベトナム事務所のVu Tu Thanh代表は、「実働可能なハードウエア技術者の数は、数十億ドル規模の投資を支えるのに必要な数をはるかに下回っており、今後10年間で必要とされる水準の10分の1程度に過ぎない」と述べた。

1億人の人口を抱えるベトナムは、半導体セクターで必要な熟練技術者の数が5年後に2万人、10年後には5万人に膨らむと見込まれるが、今は5000人ないし6000人しか育っていないという。

またRMIT大学ベトナム校でサプライチェーン(供給網)に関するシニア・プログラム・マネージャーを務めるフン・グエン氏は、熟練した半導体ソフトウェア技術者の供給が不足するリスクもあると指摘した。

<中国の優位>
ベトナム政府の統計によると、同国の半導体業界の対米輸出額は年間5億ドル余り。現状ではサプライチェーンの後工程、つまり組み立て、パッケージング、試験に重点が置かれているものの、設計などの分野も徐々に拡大している。

米政府はベトナムの半導体産業のどの分野に優先的に取り組むかを明らかにしていないが、米国の業界幹部は後工程が重要な成長分野だと指摘した。

計画を練る上では中国の存在感が大きい。ボストン・コンサルティング・グループの分析では、2019年には世界の半導体後工程の40%近くが中国にあり、米国の割合はわずか2%だった。中国が軍事活動を活発化させ、紛争への懸念をあおっている台湾は27%。

つまり半導体セクターにおいて組立部門は製造部門に次ぎ業界で最も地域的な集中度合いの高いセクターのひとつで、中国がこれほど支配的な地位を占めている分野は他にない。

米半導体大手インテルはベトナム南部で15年ほど前から半導体の組み立て、パッケージング、試験を行う世界最大級の工場を運営してきたにもかかわらず、ここまで中国への集中が進んだ。

ただ、米半導体大手アムコーがハノイ近郊に半導体の組み立てと試験を行う最新鋭の巨大工場を建設する、と先月ハノイを訪問したイエレン米財務長官が明らかにするなど、ベトナムへの関心は高まっている。

とりわけ米国が自国の半導体生産を強化する狙いで導入したCHIPS法に盛り込まれた5億ドルの資金のかなりの部分がベトナムに向かえば民間投資はさらに増えるだろう。

RMIT大学ベトナムのフン氏は、米国はベトナムの半導体原料、特に中国に次いで世界第2位の埋蔵量を持つと推定されるレアアースの供給を強化することにも関心があるかもしれないとみている。

ベトナムは小規模な半導体設計分野にも企業が進出している。米半導体設計ソフトのシノプシスが事業展開しているほか、同業のマーベルが世界トップクラスの拠点建設を計画している。またベトナムは半導体製造装置メーカーからの関心も集めている。

<求人>
しかし、熟練技術者の不足に適切に対応しなければ半導体産業の野望は夢物語に終わり、ベトナムはマレーシアやインドといったアジア地域の競争相手に対してより弱い立場に置かれるかもしれない。

関係者に話を聞くと、インテルは熟練技術者の数を増やすよう当局に繰り返し要請している。

消息筋によると、インテルは今年に入り、ベトナムでの事業規模を現在の15億ドルから2倍近くに拡大することを検討した。ただ、6月に同社は欧州での大規模な投資を発表しており、その後もこの計画が継続しているかどうかは不明だ。インテルはコメントの求めに応じなかった。

アムコーはベトナムのウェブサイトで約60件の求人をかけており、そのほとんどが技術者とマネジャーだ。

米国・ASEANビジネス評議会のThanh氏によると、技術者不足対策として国内の熟練技術者が十分に増えるまで、外国人技術者の労働許可証の発行規則を緩和することが考えられる。しかしそのためには法改正と行政手続きの迅速化が必要で、ベトナムではこれは容易なことではないというのが関係者の見方だ。

ホワイトハウスは声明で、バイデン氏はベトナムの指導者と既存の訓練イニシアティブを拡大するような労働力開発プログラムについて話し合うつもりだと説明した。【9月2日 ロイター】
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アメリカ主導でインド・中東・欧州を結ぶ回廊の構想 10年経過の中国「一帯一路」 伊は離脱の方向

2023-09-09 23:01:57 | 国際情勢

(G20サミットでバイデン米大統領(左)を迎えるインドのモディ首相=9日、インド・ニューデリー【9月9日 共同】)

【インドと中東を結び、更に欧州へ アメリカ版「一帯一路」】
アメリカ・バイデン大統領は、中国の「一帯一路」に対抗して、インドと中東地域を鉄道・港湾網で結ぶインフラ投資構想を明らかにしています。

****インドと中東に「交通回廊」 バイデン政権がインフラ整備構想、中国に対抗****
バイデン米政権は9日、インドと中東地域を鉄道・港湾網で結ぶインフラ投資構想を明らかにした。20カ国・地域首脳会議(G20サミット)出席のためインドを訪問中のバイデン米大統領が、インドやサウジアラビアなど関係国・地域と同日にも覚書を締結。中東・南アジアでの影響力を強める中国の巨大経済圏構想「一帯一路」に対抗する狙いがある。

構想は、インドと中東のサウジやアラブ首長国連邦(UAE)などを港湾や鉄道で結び、最終的には欧州地域にまで至る「陸海交通の回廊」を整備する内容。近年、港湾整備などを通じてパキスタンやイランとの関係を強化している中国への対抗軸を打ち出した。

ファイナー米大統領副補佐官(国家安全保障問題担当)は9日、記者団に、構想は関係国・地域に「商業やエネルギー、データの流れ」を生み、各国間のインフラ面での格差を埋める効果もあると説明。バイデン政権が掲げる世界的なインフラ投資の「新たなモデル」になると強調した。

構想には、地中海に面するイスラエルの将来的な参加も見込まれる。バイデン政権は現在、サウジとイスラエルの国交正常化に向けた仲介に乗り出しており、こうしたインフラ投資を中東戦略に組み込むことで域内での影響力回復を図る狙いもありそうだ。【9月9日 産経】
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中東域内を鉄道で結び、海路でインドにつなげる構想のようです。
地中海に面したイスラエルも参加すれば、インド~中東 ~欧州をつなぐ、まさにアメリカ版「一帯一路」ともなります。

9日、アメリカとインド、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、EUの各国・地域首脳らが中東経由でインドと欧州を鉄道網や航路で結ぶ大規模な交通インフラ整備計画に関する覚書に署名しました。

ただ、イスラエル参加には高いハードルも。
“バイデン政権は、アラブの「盟主」を自任するサウジとイスラエルの国交正常化に向けた仲介の動きを積極的に進めている。ハードルは高いとみられているが、正常化すれば、イスラエルもインフラ建設計画に参加する可能性もあるという。”【9月8日 毎日】
もっとも、下記のように、もともとはイスラエルが持ち込んだ構想のようです。

このニュースを目にして疑問に感じたのは、鉄道建設のノウハウはどうするのか? という点。
自動車立国アメリカは鉄道後進国で、横断鉄道も相当にガタがきている状態。

これに関してはインドが鉄道建設ノウハウを担うとか。
“インフラ建設計画の構想は、2021年に設立された米国、インド、イスラエル、UAEの協力枠組み「I2U2」で協議されてきた。イスラエルが昨年に、インドの鉄道建設のノウハウを活用して中東域内を鉄道で結ぶ構想を提起し、バイデン政権がサウジの参加を促したという。”【9月8日 毎日】

確かに鉄道網の長さや国民の“足”として活用されている点で、インドは世界有数の「鉄道大国」ではあります。
ただ、施設は老朽化し、事故が絶えないことも周知のところ。

****延長64,000㎞以上。日本より長い歴史を誇る「鉄道大国」インド****
13億人を超えるインド国民にとって、鉄道は日常の移動を支える“足”だ。インド国有鉄道がインド全土に張り巡らせた鉄道網は総延長64,000㎞以上。日本の鉄道の総延長は27,000㎞強であり、国土面積の違い(インドの国土面積は約329万㎢で日本の約8.7倍)を考えると日本の方が“密度”は高いものの、インドが世界有数の「鉄道大国」であることに異を唱える人は少ないだろう。

インドの鉄道の歴史は古く、1853年には当時インドを植民地としていたイギリスが綿花・石炭・紅茶の輸送を目的としてボンベイ-ターネー間約40kmの路線を開業している。日本の鉄道は1872年、新橋-横浜間なので、インドの鉄道は日本より長い歴史を持っていると言える。

インドの鉄道というと、TVの紀行番組などで放映された、古い客車に入りきらない乗客がぶら下がっているような映像を思い浮かべる人も多いだろう。

現在でもこのような状況が十分改善されているとはいえず、例えばインド最大の都市で、周辺都市を含めた都市圏人口が2,300万人近くに及ぶムンバイを走る列車は、毎日、600万人を超える人を市中心部まで運んでおり、通勤・通学のラッシュ時の乗車率は250%にも及ぶとのことだ。

このような状況の中で鉄道事故も後を絶たず、死亡事故が起きることも日常茶飯事となっている。ちなみに最大の事故原因は、混雑のため車両に乗り込めず、車両の端につかまって移動している乗客が落下してしまうことであり、鉄道当局の事故防止対策もなかなか功を奏さない状況が続いている。

また、鉄道設備の老朽化や整備不良による事故も多発しており、2016年11月には北部のウッタル・プラデーシュ州で線路の整備不良による急行列車が脱線し、120人以上が死亡する事故が起きている。【グローバル マーケティングラボ】
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今年6月2日にも、インド東部のオディシャ州で3本の列車が関連する衝突事故が起き、290人超が死亡する今世紀最悪の事故となっています。

インドは中東での鉄道網建設を行う前に、自国の鉄道網の改善に務めた方がよいように思うのですが・・・

鉄道建設のノウハウと言えばやはり日本でしょう・・・と言いたいところですが、日本の“完璧主義”は海外ではいささか問題視されるかも。

中東砂漠地帯の鉄道建設など劣悪な条件を考えると、実績があるのはやはり中国でしょう。ただ、中国の手を借りる訳にもいきませんので・・・。

【10年の節目にあたる「一帯一路」 イタリアが離脱の方針 中国は引き留めに躍起】
一方、本家「一帯一路」の方は開始から10年の節目にあたります。

*****10月の「一帯一路」首脳会議、90カ国が参加表明=中国****
中国政府は7日、10月に北京で開催される広域経済圏構想「一帯一路」首脳会議に90カ国が出席を表明したと発表した。同会議の開催は3回目で今年は発足10周年に当たる。

中国国営メディアはセルビアのブチッチ大統領やアルゼンチンのフェルナンデス大統領らが出席すると伝えた。

ロシアの国営通信タス通信はプーチン大統領が10月に訪中する予定との側近の発言を報じた。

新華社によると、中国はこれまでに150以上の国と30以上の国際機関との間で「一帯一路」協力文書に署名した。【9月7日 ロイター】
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その「一帯一路」で最近繰り返されているのが、イタリア首脳の一帯一路離脱発言。
これは単にG7で唯一の「一帯一路」参加国イタリア単独の動きではなく、欧州全体に中国との関係を見直す流れがあり、そうした流れのひとつと言えそうです。

****「さらば一帯一路」イタリアが中国に冷や水...メローニ首相の強硬姿勢***
<専門家は「中国政府としては、今回の事態を放置するわけにはいかないだろう」と指摘している>

ヨーロッパへの影響力拡大を目指してきた中国にとっては大打撃だ。イタリア政府が中国主導の広域経済圏構想「一帯一路」からの離脱に向けて動き出したのだ。イタリアは2019年、G7(主要7カ国)で初めて一帯一路に参加していた。

13年に習近平(シー・チンピン)国家主席が一帯一路構想を提唱して10年という節目の年に、中国はメンツをつぶされた格好だ。「中国にとっては非常に屈辱的なこと」だと、米スティムソン・センターの中国プログラム部長、孫韻(スン・ユン)は言う。中国はヨーロッパの国、とりわけ西ヨーロッパの国が参加していることを誇りにしていたのだ。

これまでヨーロッパは、アメリカほど強い姿勢で中国に臨んでこなかった。特に経済面のデカップリング(切り離し)を強硬に推し進めてきたとは言い難い。しかし、風向きが変わり始めたようだ。

一帯一路は、中国のインフラ輸出を後押しし、さらには中国が地政学上の影響力を拡大させる手だてになってきた。
現在までに東欧諸国を中心にEU加盟国の3分の2が一帯一路に参加して、中国からの投資を呼び込み、自国経済のテコ入れを図ろうとしてきた。これらの国々の多くは、イタリアと同様、経済の不振にあえいでいて、中国からの投資が自国経済に大きな恩恵をもたらすと主張していた。

ところが、イタリア経済は一帯一路によって期待どおりの恩恵に浴せていない。中国側は総額28億ドルのインフラ投資を約束したが、イタリアに好景気は訪れなかった。

「19年当時は非合理な期待が高まっていた」と振り返るのは、米コンサルティング会社ローディアム・グループのノア・バーキン上級アドバイザーだ。「この取引は大きな恩恵をもたらさなかった」。バーキンによると、イタリアの対中輸出はほとんど増えず、中国からイタリアへの直接投資は大幅に減っている。

イタリア政府は、中国に厳しい姿勢で臨むようになっている。ドラギ前首相は昨年、中国への技術移転にストップをかけ、中国企業によるイタリア企業の買収もたびたび阻止した。

メローニ現首相は、もっと強硬だ。イタリアのタイヤメーカー、ピレリに対する中国企業シノケムの影響力を制限する措置を講じたり、台湾への支持を明確に表明したりしている。

テクノロジーをめぐる中国と西側の対立が激化するなかで、ほかのヨーロッパ諸国も中国との経済関係を見直すようになっている。

7月には、西側の対中輸出規制への報復として、中国が半導体素材のガリウムとゲルマニウムの輸出規制を打ち出した。こうした緊張関係の下、EUもアメリカと同様に、対中関係での「デリスキング(リスク回避)」に向けて動き始めている。

もっとも、具体的な措置については西側諸国の間でも足並みがそろっていない。「どれくらい大々的な措置を講じるべきかでは、明らかに考え方の違いがある」と、米外交問題評議会のリアナ・フィックス研究員は指摘する。

一帯一路が習の政治的なレガシーに不可欠な要素であることを考えると、イタリア政府の一帯一路離脱の方針が両国関係に影響を及ぼすことは避けられない。

スティムソン・センターの孫は言う。「中国の人々は、一帯一路を習の看板外交政策と見なしている。中国政府としては、今回の事態を放置するわけにはいかないだろう」【8月9日 Newsweek】
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こうしたなか、イタリア外相が訪中、中国との協議が注目されました。

****イタリア外相「期待した成果ない」 中国の巨大経済圏構想「一帯一路」離脱検討****
イタリアの外相は2日、参加する中国の巨大経済圏構想「一帯一路」について、「期待した成果をもたらさなかった」と語り、離脱を検討していることを改めて明らかにしました。

イタリアのタヤーニ外相は2日、北部・チェルノッビオで開かれた経済フォーラムに参加し、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」について、「期待した成果をもたらさなかった」「われわれは改めて評価をし、議会は参加を続けるかどうかを決断しなければならない」と述べました。

タヤーニ外相は3日から3日間の日程で中国を訪問する予定で、一帯一路についても議論するものとみられます。

イタリアは2019年、EU懐疑派のコンテ政権がG7=主要7か国として唯一、一帯一路への協力の覚書を結びましたが、その後、経済的な恩恵が乏しいと国内で不満が高まっていました。

覚書の期限は来年3月で、メローニ政権は年内に離脱の是非について結論を出す考えです。【9月2日 TBS NEWS DIG】
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中国側はなんとかイタリアを引き留めたいところ。

****中国、伊の一帯一路引き留め躍起 成果強調も離脱なら習氏に痛手****
中国外務省は4日夜、王毅共産党政治局員兼外相がイタリアのタヤーニ副首相兼外務・国際協力相と北京で同日会談したと発表した。

王氏は、両国が中国の巨大経済圏構想「一帯一路」で「大きな成果を上げた」と強調した。イタリアは一帯一路からの離脱を検討しており、中国は引き留めに躍起になっている。

一帯一路は習近平国家主席の提唱から今年で10年を迎え、中国政府は関係国首脳らを集めた国際会議を10月に北京で開催する予定。イタリアは先進7カ国(G7)で唯一、中国と覚書を結んで一帯一路に参画しており、離脱すれば習氏に痛手となる。

中国外務省の発表は、タヤーニ氏が一帯一路に言及したかどうかには触れなかった。会談でタヤーニ氏は「中国との長期的で安定した関係の発展を重視している」と述べたという。

王氏は、過去5年間で両国の貿易額が大幅に増え、イタリアの対中輸出は約30%増えたと主張。今後も「開放的な協力を堅持すべき」と訴えた。

イタリアは2019年に当時のコンテ政権が経済回復を狙って一帯一路に参画した。【9月5日 共同】
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イタリアの意向は固く、両国は「穏健な離脱」を模索しているとも。

****中伊外相、関係維持を強調=一帯一路「穏健な離脱」探る****
中国の王毅共産党政治局員兼外相は4日、北京を訪れたイタリアのタヤーニ外相と会談した。イタリアが中国主導の巨大経済圏構想「一帯一路」からの離脱を検討する中、王氏は「相互信頼と対等な対話の堅持」を強調。

イタリアの引き留めは困難な情勢だが、両国とも経済面などでのつながりを維持したい思惑で一致しており、穏健な形での離脱を模索しているもようだ。【9月5日 時事】 
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【巨大なインフラプロジェクト主導から「小さくて美しい」プロジェクト主体へ】
10年を迎えた「一帯一路」ですが、「債務の罠」等の欧米からの批判もあるなか、中国の姿勢も経済合理性重視の方向に変わってきていることは、これまでも度々取り上げてきたところです。

“巨大なインフラプロジェクト主導から「小さくて美しい」プロジェクト主体へと変化しつつある”との指摘も。

****中国の「一帯一路」はどう変わったのか―仏メディア****
2023年9月4日、仏国際放送局RFI(ラジオ・フランス・アンテルナショナル)の中国語版サイトは、開始から10年を迎えた中国の「一帯一路」が巨大なインフラプロジェクト主導から「小さくて美しい」プロジェクト主体へと変化しつつあると報じた。

記事は、中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席が政権発足間もなかった2013年9月にカザフスタンのアスタナで「一帯一路」構想を発表、その内容は経済的にも政治・外交的にも野心的な戦略で、49年までに70カ国以上でコンソーシアムを形成するというものだったと紹介した。

そして、「一帯一路」がパートナー国における道路、鉄道、港湾の広大なネットワークの建設を通じて中央アジアを統合し、中国とヨーロッパを経済的に結ぶというインフラ戦略だったと指摘。

資源へのアクセスを確保し、販路を作り、建設会社を立ち上げ、稼働させるという中国にとってこそ非常に大きなメリットを持つプロジェクトであるものの、習氏は「世紀のプロジェクト、世界の意思」として大々的に宣伝し、パートナー国を納得させるだけでなく、中国がゲームの中心となるグローバリゼーションの新たなビジョンを作り、それを正当化しようとしたと伝えた。

また、不干渉とウィンウィンを強調する「一帯一路」のストーリーには欧米による植民地的、帝国主義的な支配への対抗意識がにじみ出ているものの、その現状はパートナー国に対して内部的な犠牲を強いる結果になっていると指摘。

指導部が「一帯一路」構想の成功を強調するのとは裏腹に、多くの貧しい国々が中国の多額債務者となっていることから、西側のメディアや専門家からは「債務外交」「債務のわな」「腐敗の輸出」「新植民地主義」などと評されていると紹介した。

記事は、「一帯一路」が10年の間に大きな挫折を次々経験し、その威力は大きく損なわれているとともに、中国自身も世界における威信の面でも経済の面でも大きな挫折を味わっていると指摘。

その中で、日本のメディアが中国の「一帯一路」関連の海外投資構造に異変が生じつつあり、大規模なインフラプロジェクトが減っていると報じたことを紹介した。

そして、中国共産党の公式メディア・人民日報も先月、「一帯一路」では農業、医療、貧困緩和などといった「小さいながらも美しいプロジェクト」が進んでいるとする評論記事を掲載し、国務院新聞弁公室も「小さいながらも美しいプロジェクト」がデジタル、医療、環境保護などの分野で日増しに浸透しているとの見解を示したことを伝えた。

その上で、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが「一帯一路」について、この10年でより多くの国を中国側に引き込むことに成功したことから中国が「一帯一路」を完全に撤回する可能性は低いとする一方で、中国がパートナー国への融資をより慎重なアプローチに切り替えた場合、一部の国にとっては魅力が低下する可能性があると論じたことを紹介した。【9月7日 レコードチャイナ】
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カンボジア  首相職・有力ポストの世襲化・私物化 期待できない“昨日よりも寛容で民主的な社会”

2023-09-08 23:12:52 | 東南アジア

(言葉を交わす岸田文雄首相(右)とカンボジアのフン・マネット首相=7日、ジャカルタ【9月8日 時事】)

【ミャンマー・カンボジアなど東南アジア詐欺拠点で数十万人が強制労働】
「ルフィ」と名乗る今村容疑者などが関与してフィリピンを拠点に60億円以上の被害を出した特殊詐欺事件が話題になりましたが、東南アジアにおけるこうした犯罪行為の最大勢力はミャンマーやカンボジアを拠点とする中国人犯罪組織のようです。

単に詐欺行為・違法なオンライン賭博を行っているだけでなく、現地で数十万人規模の人々に強制労働を強いているということで、その悪質さは半端ないものがあります。

****東南アジア詐欺拠点で数十万人が強制労働か、犯罪組織下で=国連****
国連人権高等弁務官事務所は29日、東南アジア地域で近年見られる詐欺拠点や違法なオンライン事業に数十万人規模の人々が犯罪組織の手で移送され、強制労働を強いられているとする報告書を発表した。

複数の信頼できる情報筋に基づく推計として、ミャンマーで少なくとも12万人、カンボジアで約10万人が詐欺拠点に収容されている可能性があると指摘。ほかにも、ラオスやフィリピン、タイなどに、暗号資産詐欺やオンライン賭博などの犯罪組織が所有する企業があるとしている。

ターク国連人権高等弁務官は「こうした詐欺行為に強制的に加担させられている人々は、非人道的な扱いを受けながら犯罪行為を強いられている。被害者であって犯罪者ではない」と述べた。

カンボジア警察の広報は報告を見ていないとした上で、「(10万人という)数字をどこから得たのか。外国人がとやかく言っているだけだ」などと述べ、ミャンマー軍政はコメント要請に応じていない。

こうした状況は新型コロナウイルス禍以降に見られ、カジノ閉鎖で規制の緩い東南アジア各地に拡大している。

報告書は、詐欺拠点は急速に拡大し、毎年数十億米ドル規模の収入を生み出していると分析している。【8月30日 ロイター】
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「外国人がとやかく言っているだけだ」(カンボジア警察広報)・・・これだけの規模で犯罪行為を行う場合、警察などに察知されずに行うというのは考えにくく、現地警察・地方政府などとの「癒着」があるのでは・・・というのは容易に想像されるところです。

強制的に詐欺行為に加担させられている者には中国人若者が多いということで、中国公安が摘発に乗り出しています。

****中国当局269人逮捕 ミャンマー拠点の“振り込め詐欺G”摘発****
ミャンマーを拠点に中国に対して“振り込め詐欺”を行なっていたグループが摘発され、269人が一斉に逮捕されました。中国の公安当局は、海外に潜む詐欺グループの摘発を強化しています。

中国国営の中央テレビによりますと、中国の公安当局はミャンマー当局と合同でミャンマー北部にある“振り込め詐欺”グループの拠点を摘発し、269人を逮捕したということです。このうち186人は中国人だったということです。

ミャンマーでは詐欺グループに騙され渡航した中国人の若者が、監禁や拷問により犯罪に加担させられるケースが相次いでいますが、こうした「人身売買」の問題は今、インドネシアで行われているASEAN=東南アジア諸国連合の関連首脳会議でも大きな議題のひとつとなっています。【9月5日 TBS NEWS DIG】
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****中国へ1207人送還=ミャンマーから越境詐欺****
ミャンマーで中国国内を標的にした電話・インターネット詐欺に関わったとして、容疑者1207人が6日、国境を接する中国南部雲南省に移送された。中国国営中央テレビが8日、中国人とみられる集団の送還の様子を伝えた。

中国では、電話やネットを悪用した詐欺が社会問題化。2022年には被害額が2兆元(約40兆円)に達したとされる。習近平政権が社会の統制を強め、犯罪の取り締まりも強化していることから、中国人詐欺グループは東南アジアなど近隣に移って中国人相手に犯行を続けている。【9月8日 時事】 
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詐欺グループの摘発は結構な話ですが、“中国の公安当局はミャンマー当局と合同で”というのは、中国公安がミャンマーに大挙乗り込んで犯罪者逮捕などの実際の警察行為を行っているということでしょうか?

日本では考えにくい話ですが、中国との関係が強いミャンマーやカンボジアならそういうこともあるかも・・・これは想像です。

【フン・マネット新首相の外交デビュー】
でもって、今日はカンボジアの話。
カンボジアでは(仕組まれた)7月の総選挙“圧勝”を受けて、40年近くカンボジアを統治してきたフン・セン首相から長男のフン・マネット氏に首相職が禅譲されました。

(フン・セン氏の「院政」が敷かれているとは言え)欧米での教育も受けているフン・マネット新首相がどのような政治姿勢を見せるのか注目され、今月の一連のASEAN関連会議は新首相の外交デビューとなりました。

****カンボジア新首相、国際会議で演説 50年までの高所得国入り目指す****
カンボジアのフン・マネット新首相は4日、就任後初めて国際会議で演説し、2050年までに高所得国入りを目指す構想を明らかにした。(中略)

フン・マネット氏はインドネシアで開催された東南アジア諸国連合(ASEAN)のビジネスフォーラムで演説し、カンボジアは「50年までの高所得国入りを実現するため、苦労して勝ち取った平和を守り、国の開発を加速する」総合的な国家経済ビジョンでを打ち出したと説明。

「五角形戦略」と呼ぶこのビジョンでは、人的資本の開発、デジタル経済、包摂性、持続可能性を重視していると述べた。

カンボジアは長年の内戦で経済が疲弊したが、現在では経済成長率7%の低中所得国に発展しているとも指摘した。
大国間の地政学的な競争が激しくなり「ASEAN全体の平和、安全保障、繁栄」を圧迫しているとも発言。

「戦争を戦争によって終わらせることはできない」とし、主権国家を武力で脅すことに反対するようASEANと国際社会に呼びかけた。「(ASEANと国連は)独立、主権、領土の一体性、不干渉の精神を貫くべきだ」と主張した。【9月5日 ロイター】
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“不干渉の精神”・・・要するに“人権”とか“民主主義”に関して外国が余計な口出しするな・・ということでしょうか。

このあたりは“形式的なお題目”に近い話で、あまり中身がありませんが、中国・李強首相との会談などで、父親の親中路線を継続する姿勢を見せています。

****カンボジア新首相が外交デビュー=親中路線を踏襲―ASEAN会議****
カンボジアのフン・マネット新首相(45)がインドネシアで開催中の東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議に出席し、国際舞台にデビューした。加盟各国や中国の首脳らとも個別に会談するなど積極的な外交を展開した。

フン・マネット氏は8月、38年間首相を務めた父親のフン・セン氏(71)から首相の座を引き継いだ。欧米への留学経験があり英語は堪能で、ASEAN各国の首脳では最年少となる。

フン・マネット氏は4日に夫人と共にインドネシア入り。新政権の発足直後で新首相が参加していないタイと、クーデターで排除されているミャンマー以外の加盟国首脳と個別に会談したり、朝食を共にしたりした。

6日のASEANと中国との首脳会議では「中国の『一帯一路』構想はカンボジアに多くの恩恵をもたらした」と強調。李強首相とは個別会談も行い、フン・セン氏の親中路線を踏襲した。

一方、米国のハリス副大統領とは立ち話であいさつを交わすなどした。英国で経済学博士号を取得した経歴などから、世界経済フォーラム(WEF)のシュワブ会長とも会談した。【9月7日 時事】 
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【国家を私物化する世襲システム】
“親中路線を踏襲”を含めて、まだスタートしたばかりでその中身を云々するには早すぎます。すべてはこれからですが、これまでも取り上げてきたように首相だけでなく、有力閣僚ポストの多くが世襲されるというカンボジア政治の特殊性を考えると、あまり期待しないほうがいいようにも思えます。

****高級官僚のポストを「倍増」し、与党幹部の親族に「ばら撒き」...世襲大国カンボジアの罪****
<長男を後継の首相とするために、フン・セン前首相は権力の大安売りで省庁の次官・次官補級ポストを倍増したが...>

アジアの国には世襲が似合う──のだろうか。
(中略)8月22日には新議会が粛々とフン・マネットの首相就任を承認した。さて、この世代交代は何を意味するのか。あの国は昨日よりも寛容で民主的な社会になるのだろうか。

予断は禁物だが、同国のジャーナリスト協会(JA)が運営する英文ニュースサイト「カンボJAニュース」が8月23日付で興味深い情報を載せていた。なんと、新内閣では各省庁の大臣より下の長官(次官)、副長官(次官補)級ポストが2倍以上に増えるという。その数は計1422、父の時代には641だったから、まさに激増である。

カンボJAによれば、「新設ポストの多くは与党幹部の親族に加え、今回の選挙前に与党側に転じた野党有力者や活動家、労働組合の幹部などに振り分けられた」らしい。

とんでもない「高級官僚の超インフレ」だが、実は今に始まった話ではない。93年に国連の監視下で総選挙が行われて以来、ずっと続いてきた慣行なのだ(あのときは日本も国連のPKO選挙監視団に加わっていた)。

選挙の結果、王制が復活したが、CPPのフン・センは「第2首相」の座を確保。以来、CPPはひたすら反対勢力を排除し、力ずくで黙らせる一方、与党側に寝返れば政府の要職を与え厚遇するという手法を取ってきた。だから選挙のたびに政府組織が肥大化し、高級官僚の数が増えた。

カンボJAの報道によると、今回はフン・センの盟友で2017年に死去したソック・アンの息子4人が要職に起用された。「ソック・サングバーは公共事業省の次官、ソック・プティブットは郵政省の次官、ソック・ソカンは国土整備省の次官、そしてソック・ソケーンは観光相」だ。

どうやら、これがカンボジア流の現代版世襲制らしい。そこでは権力の継承が法律や規則ではなく個人的な関係によって行われる。公務員は国民にではなく、その上司に奉仕する。公務員の給料は微々たるものだが、その地位と権力を利用すれば十二分に稼げるから困らない。

とめどなく増えるポスト
当然のことながら、このCPPを核とする権力ネットワークは選挙のたびに肥大せざるを得ない。
政府高官の地位に一旦就けば、政権に忠実である限り、まず追放されることはない。一方で、新人を受け入れるために新しいポストが設けられる。現職は昇進ないし横滑りするのみだから、その数はどんどん増えていく。

それにしても、今回の高級官僚インフレの規模は異例と言うしかない。そこには父から子への権力継承を円滑に進めるための入念な準備があったとみるべきだろう。

カンボJAによると、官僚インフレが特に顕著なのは内務省だ。前政権では22人だった次官・次官補が、今回は104人に増えた。また国防省でも、38人だった次官級が86人に増えた。

増員の理由は明かされていないが、実を言うと両省のトップは以前から、首相職の世襲に批判的だと指摘されてきた。内務相のサル・ケンと、国防相のティア・バン。共にフン・センの長きにわたる盟友である。

もちろん真相は闇の中だ。CPPの党内政治に関しては事実と噂の区別がつかない。しかし、フン・センの狙いどおり息子を後継者に据えるためには、長年にわたって彼の統治を支えてきた政界有力者や治安組織の賛同が必要だったことは明らかだ。そのためには有力者を金と名誉で釣る必要があった。

結果として、内務省でも国防省でも首相府と同じ世代交代が行われた。サル・ケンとティア・バンは退任し、それぞれの息子(サル・ソカとティア・セイハ)が後を継いだ。これで実質的に内務省はサル家の、国防省はティア家の私物となった。

それで次官・次官補級のポストが激増した。退任した2人の親族や手下を追い出すわけにはいかず、新任の2人の親族や仲間には新たな席を用意しなければならない。かくして政府は肥大化する。それはフン・センが首相職を息子に渡すに当たり、支持を確保するために支払わねばならぬ代償だったと言える。

これら全てが、フン・セン政権下で発展してきたカンボジアの独特な政治システムと、その今後の展開について重要なことを物語っている。

新政権の次官・次官補級1422人のうち、その地位にふさわしい具体的職務をこなしてきた人物は皆無に等しい。しかし全員がその地位を利用して稼ぎ、親類縁者の暮らしを支え、自分を補佐し、あるいは自分の手足となる者たちのネットワークを維持する資金を必要としている。

少なくとも過去には、役人が昇進のために金を払い、昇進によって増えた稼ぎの一部を「上の者」に献上するしきたりがあった。

経済縮小で崩壊のリスク
そういう事情があれば、公務員(正規の給料はたかが知れている)は自らの地位を利用して最大限に稼ごうとする。だから賄賂が横行する。結果、国民への奉仕は二の次になる。これがフン・セン政権下のカンボジアで汚職が蔓延した根本原因だ。

この現実を踏まえて、本稿の冒頭で提起した問い(この世代交代でカンボジアは今よりも寛容で民主的な社会になるか)に戻るなら、多くを望めないことは明らかだ。仮にフン・マネットに改革意欲があっても、できることは限られている。【9月7日 Newsweek】
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“これで実質的に内務省はサル家の、国防省はティア家の私物となった”・・・首相職はフン・セン一族の私物なら、有力ポストも・・・。

まあ、日本でも特定ポストがある派閥や政党に引き継がれるというのはよくある話ですから、そう珍しい話でもないのかも。 当然にそうした世襲で利権構造が出来上がりますし、何より国民のための政治が行われることは期待できません。

冒頭に取り上げた詐欺等の犯罪組織も悪質ですが、国民のための政治を空洞化させる国家の私物化は更に大規模な犯罪行為のように思えます。

なお、フン・マネット首相は岸田首相とも会談

****日カンボジア首脳が会談 岸田氏「民主的発展を後押し」****
岸田文雄首相は7日、訪問先のインドネシアで、カンボジアのフン・マネット首相と会談した。先月就任した同氏との会談は初めてで、法の支配に基づく国際秩序の維持に向け「連携したい」と伝えた。

岸田氏は、海上自衛隊の訪問などを通じ安全保障協力の強化を図る意向も強調。「国民が多様な意見を表明し得る環境が重要だ。カンボジアの民主的発展を後押しする」と語った。(後略)【9月8日 時事】
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「民主的発展」・・・カンボジアにその気があれば“後押し”の仕様もありますが・・・
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ロシア 経済は“欧米が期待するほどは弱くない” “あの手この手”で兵員増強 キューバ異例の対応

2023-09-07 23:39:08 | ロシア

(【9月2日 産経】)

【機体の上にタイヤを敷き詰めて戦略爆撃機をドローン攻撃から守る】
昨日ブログで、ウクライナの「段ボール製ドローン」を取り上げましたが、段ボール製に限らず、(反プーチンのロシア人武装組織を含めて)ウクライナ側はロシアへのドローン攻撃を日常化しています。(ロシアも同様にドローンでのウクライナ都市攻撃を行っていますが)

****ロシア国内6州やクリミアに「最大規模の無人機攻撃」…今年1月から「190回以上」****
英BBCは30日、ウクライナを侵略するロシア側への無人機攻撃が1〜8月に190回以上あったと伝えた。首都モスクワやウクライナとの国境州、ロシアが一方的に併合した南部クリミア半島に攻撃は集中している。

ロシアは「ウクライナのテロ攻撃だ」と非難しているが、ウクライナはクリミアを除いて公には認めていない。

(8月)30日には露国内6州やクリミア半島が攻撃を受け、AP通信などは侵略開始以降で「最大規模の無人機攻撃」と指摘した。露国防省は30日、モスクワ郊外や西部ブリャンスク州など5州で同日未明、無人機攻撃があり、いずれも撃墜したと発表した。独立系メディア「ノーバヤ・ガゼータ欧州」によると、北西部プスコフ州やクリミア南西部のセバストポリでも攻撃があった。

攻撃には、プーチン政権打倒を目指すロシア人武装組織が露領内から仕掛けているケースもあるようだ。武装集団「ロシア義勇軍団」は30日、露西部クルスク州の軍事飛行場を27日に無人機攻撃したと主張した。ウクライナ保安局との共同作戦で国境から露側に進入して実行したという。【9月1日 読売】
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ロシア側は、8月30日のドローン攻撃について、ロシア北西部プスコフ州州内の空港でロシア軍の大型輸送機「イリューシン76」2機が炎上するなど計4機が損傷したと発表しています。

図体が大きく隠すのも難しい戦略爆撃機や輸送機などの大型航空機は、ドローンにとっては恰好の“カモ”でしょう。そこで、ロシア側は・・・・

****ロシア軍が航空機攻撃に驚きの防御策か 機体上部をタイヤで敷き詰め****
ロシア軍はウクライナのドローン攻撃から航空機を守るため、ちょっと変わった対策を取っていることが衛星写真で分かりました。

衛星画像はロシア南部のエンゲリス空軍基地に駐機しているツポレフ95戦略爆撃機を捉えたものです。 両翼と機体上部にタイヤが敷き詰められています。

アメリカのCNNはNATO(北大西洋条約機構)当局者の話として、このタイヤは機体をウクライナ軍のドローン攻撃から守るためのものとみられると報じています。

また、専門家は「かなり馬鹿げているように見えるが、ロシア軍はドローン攻撃でカモにされている大型航空機などの機体の装甲を強化するため何とかしようとしているようだ」と述べています。【9月6日 テレ朝news】
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“馬鹿げているように見える”かどうかより、効果があるのか知りたいところですが、ニュースは肝心のその点には触れていません。 それにしても、戦争の最終段階で国家の命運を担う戦略爆撃機が安価なドローン攻撃で破壊されてしまっては・・・・戦略について発想を根本から変える必要があります。

【「ロシアは自らがこうありたいと思うほどには決して強くはないが、私たちが考えるほど弱くはない」】
ウクライナの戦争遂行能力は欧米からの支援に依っていますが、ロシアの場合、長期的には経済が戦争遂行に耐えられるかどうかが問題になります。

経済制裁を受けるロシア経済ですが、当初予想されたより“よく耐えている”・・・・裏を返せば、制裁があまり効果をあげていないという指摘はよく目にします。
同時に、「いやいや、ボディブローのように効いている」との指摘も。

ロシア経済の4~6月期実質GDPは前年同期比4・9%増(速報値)と、侵攻後初めてプラス成長に転じたことが報じられています。

****制裁下のロシア経済、プラス成長に 軍事支出頼みで持続性疑問****
ロシアによるウクライナ侵略が1年半を超えるなか、欧米や日本などの経済制裁を受けるロシアの2023年4~6月期の実質国内総生産(GDP)は前年同期比4・9%増(速報値)と、侵攻後初めてプラス成長に転じた。

消費回復や昨年の製造業の低迷の反動があったためで、プラス成長は5四半期ぶり。昨年の年間の成長率も前年比2・1%減のマイナス成長にとどまり、ロシア経済は底堅さを見せている。

ただ、軍事費など公的資金の投入に支えられている側面もあり、成長の持続性には疑問符が付く。 

(中略)侵攻後、欧米や日本などは相次ぎ対露経済制裁を発表した。原油、天然ガスの輸入を制限し、ロシア産原油の購入価格を1バレル=60ドル(約8700円)以下とするなど、エネルギー分野からの税収を押さえ込む施策を打ち出した。 

しかし、実際の22年のロシアの原油生産量は前年比で2・1%増に。爆発的にロシア産原油の購入を増やした中国、インドなど、欧米諸国に代わる市場をロシアが獲得したことが大きい。 

ロシアNIS貿易会(ロトボ、東京)によると、ロシア産原油の対中輸出は22年、数量で前年比8・3%増の8625万トン、金額で44%増の584億ドル(約8兆5千億円)だった。

対インドでは数量で6・9倍の3145万トン、金額では9・1倍の210億ドル(3兆円)となった。 

22年の実質GDPは10%前後のマイナス成長に陥るとみられていたが、原油の輸出などに支えられ、実際のマイナス幅が大きく圧縮された。 

ただ、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの土田陽介副主任研究員は、ロシア産原油価格が上昇に転じ、価格面での魅力がそがれれば「中印は再び中東産原油の輸入を強化する可能性が高い」と指摘。「ロシアは値引きの提示など、不利なビジネスを余儀なくされる」とする。 

土田氏はまた、ロシア経済のマイナス成長が一定程度に押しとどめられているのも「軍需産業への支出が大きく貢献している」と見る。ただ、たとえば兵器を生産しても、産業用の機械と違い、長期間、新しい製品を生み出し続けることができない。このため、軍事支出は「(中長期的で継続的な)成長への寄与度は低い」と推測する。 

ロシアはまた、撤退した外資に代わり、自国企業が部品や製品を生産する「輸入代替政策」を強化している。ロトボの中居孝文ロシアNIS経済研究所長は「海外企業と比べ品質が劣るロシア企業の部品などを使って製品を作り続ければ、結果的にロシアの産業の国際競争力を押し下げかねない」と分析。

「ウクライナ侵攻が終わり再び外資がロシアに流入すれば、競争力が落ちたロシアの産業は、極めて厳しい打撃を受けるだろう」と警告している。【9月2日 産経】
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****戦時下の好景気か ロシア経済の“耐久力” 意外な強さのワケ【報道1930】****
ロシアはいつまで戦い続けられるのか…そのカギを握る経済は、西側から厳しい制裁を受けながらも、今年4−6月期のGDPがプラス成長に転じました。今年通年でも前年を上回る見通しで、それは戦時下の好景気とも言える様相。いったい何が、ロシア経済を支えているのでしょうか。ロシアの専門家に聞きました。

アンドレイ・コルトゥノフ氏
「全体としてロシア経済は、かなりの耐久力を見せています。今年は、大きくはないものの、はっきりとした経済成長が見込まれています」

ロシア経済は、かなりの耐久力を発揮していると語るのは、プーチン政権に近いシンクタンク、「ロシア国際問題評議会」の前会長、アンドレイ・コルトゥノフ氏。その粘り強さのわけを聞くと…

アンドレイ・コルトゥノフ氏 「軍事費の増加、兵器製造のための支出の増加も全体の統計に反映されているのを忘れてはなりません。当然、成長の大部分は国防調達によるものです」

戦争の長期化で膨れあがる軍事費が、経済を押し上げていると指摘するコルトゥノフ氏。他にも戦時下の好景気を支えるものがあると話します。

アンドレイ・コルトゥノフ氏 「例えば、今年は建設部門の大きな伸びがあり、ロシアの経済成長の推進力のひとつになっています。おそらく、今年は、農業部門も良いでしょう。ロシアの農業部門は、輸出を含め、成長の大きな推進力のひとつです。西側やロシアの多くの専門家が1年から1年半前に予想していた以上にロシア経済が成長しているのは、複合的な理由によるものです」

ロシア経済は、プーチン政権になってからエネルギーや穀物の輸出を柱に成長してきましたが、西側諸国に比べるとグローバル化は進展せず、西側の制裁が効きにくい構造だとも指摘します。

更に耐久力の裏には、国民の気質も…
アンドレイ・コルトゥノフ氏 「忘れてはならないのは、人々が現在の状況を考えるとき、20年前のロシア、例えば90年代の状況と比較することが非常に多いということです。人々は、現在の状況は、当時よりも良いと考えるのです。

そのため、ロシアの社会は順応性が高いと言うことができ、たとえ、現在の状況が消費に影響を及ぼし、何らかの問題を引き起こしたとしても、新しい状況に自らを適応させていくのです。

特別軍事作戦の開始やロシアと西側の断絶に特に不満を抱いていたのは、ほとんどがロシア国外に去った人々であることも忘れてはならないでしょう」

そして、コルトゥノフ氏は、ロシア経済の今後について3年程度の短期では崩壊しないと予測します。

アンドレイ・コルトゥノフ氏 「私の推定では、少なくとも今後1〜2年、あるいは3年程度の短期では、ロシア経済の劇的な崩壊は起こらないでしょう。西側の政治家が話していましたが、ロシアは自らがこうありたいと思うほどには決して強くはないが、私たちが考えるほど弱くはないということはよくあるのだと。これは、現在のロシア経済とロシア社会を特徴づけていると私は考えています」【9月6日 TBS NEWS DIG】
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結論としては“ロシアは自らがこうありたいと思うほどには決して強くはないが、私たちが考えるほど弱くはない”・・・でしょうか。

【下落が止まらない通貨ルーブル】
一方、通貨ルーブルは下落に歯止めがかからない状態です。
侵攻前に1ドル=70ルーブル台でしたが、侵攻で一気に120ルーブルに上昇、しかし、ロシア当局の市場介入や統制などもあってすぐに反転して今度は侵攻前より高い状態に。その後、昨年7月頃から下がり始め、以来下落が止まらず再び1ドル=100ルーブル水準に。

****ロシア通貨、1ドル=100ルーブルの節目突破 1年あまりで価値ほぼ半減****
ロシアの通貨ルーブルが(8月)14日午前、1ドル=100ルーブル台に下落し、およそ1年5カ月ぶりの安値をつけた。ロシアではウクライナでの戦争によって経済への圧迫が強まり、国際的な制裁の影響で政府の収入源も損なわれている。金融政策をめぐる政権内の対立も表面化した。

同日午前の外国為替市場で1ドル=101ルーブル台をつけた。ルーブルが1ドル=100ルーブルの節目を割り込むのは、ウクライナ全面侵攻直後の昨年3月に史上最安の1ドル=120ルーブルを記録して以来。

ルーブルは年初来ドルに対して25%ほど下げており、ここ数週間、下落基調に拍車がかかっていた。ルーブルの価値は、西側諸国による制裁にもかかわらず数年ぶりの高値をつけた昨年6月と比べるとほぼ半減した。侵攻前には1ドル=76ルーブルほどの水準だった。

ブルームバーグ通信によると、ルーブルの年初来25%という下落率は新興国通貨の騰落率としてはトルコのリラ、アルゼンチンのペソとともにワースト3に入る。

政府高官が異例の中銀批判
ロイター通信によると、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の経済顧問であるマクシム・オレシキンはこの日、タス通信に寄せた論説で、ルーブルの最近の下落やインフレの加速はロシア中央銀行による「緩和的な金融政策」に原因があると批判した。

侵攻後、ロシア当局間の不和が表沙汰になるのは異例。オレシキンはまた、ロシア政府は「強いルーブル」を望んでおり、ルーブル相場が早期に正常化することを期待しているとも記している。

ロシア中銀は7月、予想以上の上げ幅の利上げに踏み切ったほか、先週はルーブル相場を支えるために行っていた外貨買い入れを、年末まで休止すると発表していた。近く再び利上げを行うと予想されている。

ロシア中銀はルーブル安の理由は主に外国との貿易の悪化だとし、政府側とは異なる説明をしている。

ルーブルの価値はこれまで、ロシア経済の鍵を握るエネルギー輸出などの貿易状況が主な押し上げ要因になってきた。

ロシア産原油・天然ガスは侵攻前に最大の買い手だった欧州が距離を置き、価格制限などの制裁を科した結果、価格が下落した。ただ、ロシアはその後、アジア諸国、とくに中国やインドなどの買い手を開拓している。最近は需要の高まりもあり、原油相場は上昇してきている。【8月15日 Foebes】
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侵攻直後の乱高下を別にして、制裁下の外貨収入を考えれば、侵攻前の70ルーブル台に対し現在の100ルーブル付近というのは妥当な水準かも。

【“あの手この手”で兵員増強】
戦争遂行能力として、経済以上に直接的な要因は兵士・兵器の調達状況。

ロシア軍は兵員不足が当初から言われていますが、「戦争」のための強制的徴兵は政権への国民支持を低下させる恐れがあるため、国民負担があまり前面に出ない“あの手この手”で兵員増強に腐心しているようです。

****ロシア、兵員増強を加速 1カ月で5万増か 高額報酬、市民権約束も****
ロシアは、ウクライナで続ける「特別軍事作戦」の長期化に伴い、軍の兵員増強の動きを進めている。

メドベージェフ安全保障会議副議長(前大統領)は、今年初めから9月初旬までに約28万人が新規入隊したと言及した。事実なら直近1カ月で約5万人の増員となる。

高額の報酬を支給したり、入隊希望の外国人移民に市民権付与を約束したりするなど、あの手この手で前線で戦う契約兵の増員を図る動きも指摘されている。(中略)

ロシアは8月の法改正で、来年1月以降、徴兵対象者の上限年齢を現行の27歳から30歳に引き上げると決めた。下限は18歳で変わらないが、兵役(通常1年間)の対象者が広がることになる。

徴兵は契約兵と異なって戦場には派遣されない決まりがあるが、戒厳令下や戦時には軍と1年間の契約を結んで契約兵に身分変更できるとの新規定も設けられた。今後のウクライナでの戦況次第では、徴兵を契約兵に切り替えて前線に投入する可能性がありそうだ。

一方、英国防省は8月下旬に公表した分析で、ロシア軍が兵員増強のため、契約兵を給与面で厚遇していると指摘した。「特に貧困地域の出身者にとって、(厚遇は)入隊の強い動機付けになっている可能性が高い」とみる。この分析によると、ウクライナでの軍務に就く露軍契約兵には、下級兵であってもロシア国内の平均給与の3倍近い月給20万ルーブル(約30万円)が支払われているという。

また、英国防省は3日公表の分析で、ロシアがウクライナでの戦闘参加者を募集する広告を旧ソ連諸国の国民に向けてウェブ上で掲示していると言及。ロシアは5月以降、契約兵への採用を希望する中央アジアからの移民に、迅速な露市民権の取得と最高4160米ドル(約61万円)相当の手当を約束しているという。英国防省の分析は、「ロシアは外国人を補充兵として利用し、国内で不人気な動員を避けたいのだろう」と指摘している。【9月7日 毎日】
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国家をあげて総動員態勢で防衛にあたるウクライナに対し、ロシアは不人気な動員を避けながら、戦争を行っていることを極力国民に意識させないように「特別軍事作戦」を・・・・ウクライナが持ちこたえ、ロシアが期待したような結果を出せていない基本的理由は、この対応の違いでしょう。

【反米社会主義国キューバが異例の対応 キューバ人をウクライナに送り込むロシアの人身売買組織を摘発】
“あの手この手”の中に入っているのかどうか・・・「家を修理したり塹壕を掘ったりする契約をしたが、ウクライナでの前線に送られた」といった形で、ロシアの人身売買組織がキューバ人をウクライナに送り込んでいるとの報道があります。

****ロシアのキューバ兵雇用非難 政府、ウクライナ侵攻従事****
社会主義国キューバの政府は5日までに、ウクライナ侵攻にキューバ人を雇い兵として参加させる目的のロシアの人身売買組織を摘発したと発表した。声明で「キューバはウクライナ紛争に参加しない」とロシアを非難した。

ロシアはキューバと関係が深く、経済的困窮から国外に出るキューバ人が渡航しやすい。ロシアでは侵攻の長期化で兵員不足が深刻化している。

キューバ政府は「雇い兵に反対する堅固で明白な姿勢を伝統的にとってきた」とし、国民がいかなる国に対しても武力行使することがないよう「断固として行動する」と強調した。【9月6日 共同】
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“摘発された組織はキューバ人の若者の経済苦につけこんだ可能性がある。若者は取材に対し、露当局にパスポートを取り上げられたほか、帰国しようとすれば「3年間は刑務所の中だ」と脅された、などと証言したという。”【産経】とも。

人身売買組織と言うべき組織なのか、ワグネルのような民間軍事会社的な組織なのか・・・よくわかりません。

興味深いのは、ロシアと関係が深い社会主義国キューバがロシアのウクライナ侵攻に直接協力しない姿勢を明確に示したこと。

カストロ時代、キューバはソ連と協調して世界各地の紛争国にキューバ人を送り込んでいました。ソ連からロシアに変わったとは言え、反米という点では共通点の多いロシアとキューバ。

キューバからすれば「敵(アメリカ)の敵は味方」ということになりそうですが、ウクライナ侵攻に関してはロシアとの間に一線を画す姿勢のようです。

このあたりの事情は興味深いのですが、キューバに関する情報はほとんど目にしないのでわかりません。

なお、ことし2月の国連総会では、ロシア軍に即時撤退などを求める決議案が、欧米を中心に多くの国が賛成して採択されましたが、キューバは中国、インド、イラン、南アフリカなどとともに棄権しています。
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ウクライナ  戦争の新しい形も 段ボール製ドローン 衛星通信システム「スターリンク」

2023-09-06 23:02:46 | 欧州情勢

(段ボール製ドローン【9月2日 Newsweek】)

【ウクライナ「南部戦線で防衛線突破」 ロシア「反攻は失敗」】
ウクライナの戦況は、(双方とも大本営発表的な作為もある前提の)ウクライナとロシアの発表が大きく異なっており、はっきりしません。少なくとも、ウクライナ・欧米が期待したほど迅速・明確な成果は出ていないのは事実でしょう。

ロシア側は、ウクライナは多くの兵員・兵器を失い、反攻は失敗していると指摘しています。

****ロシア「ウクライナ反攻は失敗」 国防相、兵員6万人損害と主張****
ロシアのショイグ国防相は5日、ウクライナ軍は6月の大規模反転攻勢開始以来「6万6千人以上の兵員と7600の兵器を失った」と述べ、反攻は失敗していると指摘した。インタファクス通信が伝えた。

ショイグ氏は国防省幹部との会議で「反攻開始から3カ月間、ウクライナ軍は目的を全く達成できていないが、欧米から軍事支援を受け続けるため成功を誇示している」と主張した。

現段階で最も激しい戦闘が行われているのはウクライナが欧米で訓練を受けた予備的兵力を投入している南部ザポロジエ方面だと説明。東部ハリコフ州クピャンスクの攻略を視野に入れた戦闘でもロシア軍が前進していると強調した。【9月5日 共同】
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ウクライナ側は、南部ザポリージャ州でロシアの「第1防衛線」を突破したとアピールしています。この方面で更に前進できれば、クリミアへのロシア側の陸上補給路を分断できる重要な成果となります。

****ウクライナ軍「ザポリージャ戦線」に注力、「顕著な進展」…露軍は他地域から投入迫られる****
ウクライナ軍が南部ザポリージャ州で攻勢を強めている。ロイター通信によると、ウクライナのハンナ・マリャル国防次官は1日のテレビ番組で、同州の数か所でロシア軍の最前線の防御陣地となる「第1防衛線」を突破したと述べた。南下を図る「ザポリージャ戦線」に兵力を集中させた効果が出ている模様だ。

一方、マリャル氏は「前進には多くの障害を乗り越えなければならない」とも述べ、地雷原などが敷かれた露軍の防衛線への対策が困難であることを示唆した。

米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官は1日、最近3日間のウクライナ軍の戦いについて「顕著な進展があった。(ウクライナ軍は)第2防衛線に対しても一定の成果を上げた」と指摘した。

エストニア公共放送は1日、エストニア軍関係者の見方として、露軍はザポリージャ方面を防衛するために他地域から部隊を投入する必要に迫られ、予備戦力も限られていると伝えた。

一方、ロシア国防省は2日、ロシア本土とウクライナ南部のクリミア半島を結ぶ「クリミア大橋」への攻撃を試みたウクライナの水上無人艇を黒海で破壊したとSNSで発表した。【9月2日 読売】
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【ウクライナの生命線であるアメリカの支援 そのアメリカ世論はウクライナ支援に消極的】
ウクライナ外相は、反転攻勢の進展の遅さを批判する声が西側当局者から出ていることに不快感を露わにしています。

****ウクライナ外相、反転攻勢の遅れ批判に不快感「文句言うなら自分で1cm四方でも解放してみろ」****
ウクライナは31日、3カ月に及ぶロシア軍への反転攻勢の進展の遅さを批判する声が西側当局者から出ていることに不快感を表明した。

米紙ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストなどは先週、米欧の当局者が反攻の進展状況について期待を下回っているとの見方を示唆していると報道。部隊の配置ミスなどウクライナの戦略を非難する声もあるとしていた。

ウクライナのクレバ外相は31日、欧州連合(EU)外相会議で記者団に「反攻のペースが遅いと批判することは、日々犠牲を払いながら前進し、ウクライナの領土を1キロずつ解放しているウクライナ兵の顔に唾を吐くことに等しい」と述べた。
「批判する者全員が黙り、ウクライナに来て1平方センチメートルを自ら解放してみることを勧める」と強調した。

北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長はCNNに対し、西側諸国がウクライナを支援しているものの、決定を下すのはウクライナだとし、信頼することが重要だと訴えた。(後略)【9月1日 Newsweek】
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このあたりのウクライナ側の「不快感」は、「焦り」と表裏一体かも。
ジョイグ露国防相が「欧米から軍事支援を受け続けるため成功を誇示している」と言っているように、ウクライナを支えているのは欧米からの支援であり、その支援を繋ぎとめるには成果を示す必要があります。

さもないと、「支援疲れ」が云々される欧米、特に頼みとするアメリカからの支援にかげりが出て、領土解放が果たせないまま、意に沿わない停戦を強いられることにもなります。

****ウクライナ支援に反対が過半数 揺れるアメリカの“潮目”*****
既に2年半に及んでいるウクライナ戦争。ウクライナが大国ロシアと互角以上に戦っている理由は欧米からの軍事的且つ経済的な支援に他ならない。その欧米による支援の多くを占めるのは言うまでもなくアメリカだ。

ところがこのほどウクライナにとって衝撃的な調査結果が出た。
“ウクライナを支援する予算を承認すべきでない” これにアメリカ国民の55%が賛成したのだ。(中略)

「私が就任したら24時間以内に戦争を辞めさせる」
戦争が始まって以来ウクライナへの支援額の合計は日本円換算で約26兆円。そのうち支援に積極的なイギリスが約1.7兆円。EUが約5.5兆円。日本は約1兆円。どれも小さな数字ではないが、アメリカは桁が違う。約11.2兆円で全体のおよそ3分の1を占めた。

そのアメリカでCNNが出した調査結果。それによると”ウクライナへの支援のための追加資金を承認すべきか”という問いに対し、全体の55%が“すべきではない”とした。民主党支持者でも38%。共和党支持者では実に71%がウクライナ支援に消極的だった。

民主党支持者でも4割弱がいわゆる“支援疲れ”なのか支援に消極的だ。支援に積極的なバイデン大統領も大統領選を来年に控え、世論は無視できないだろう。

上智大学 前嶋和弘教授
「(支援に反対する共和党大統領候補の支持率)これを足すと7割を越えます。調査によっては85%を超えるものもあります。トランプ氏が言っているのは『私が就任したら24時間以内にウクライナ戦争は止めさせる』と。どうやってやめさせるのかみんな首を傾けるんですが、支援を止めるんです。

つまりウクライナに徹底して不利な妥協をさせるということ…。この調査結果で私自身はこう思います。“潮目が変わった”と…。共和党が(大統領選で)優位になったらウクライナ支援は止める…。かなりの確率でそうなると見えてます」

アメリカの潮目を変えた存在の一人がトランプ氏であることは間違いないだろうが、トランプ氏とまさに2人3脚でウクライナ支援を止めるべきだと訴え続ける人物がいる・・・。

「“なぜ遠く離れた国を支援しなければならないのかわからない”と・・・」
タッカー・カールソン氏。59歳。元FOXニュースの人気番組司会者で“過激な司会者”と呼ばれてきた。現在は自らのSNS番組で陰謀論的な話題やウクライナ支援に否定的なコメントなどを発信している。例えば…。

タッカー・カールソン氏 「なぜ我々はロシアと戦争をしているのか。我々のとる外交政策によって重大な悪影響がもたらされている。経済の崩壊はもちろん、人類が絶滅する可能性すらある。多くに罪のない若者たちが殺され何千億ドルのも金が浪費された…」(SNS番組より)(中略)

クレアモント・マッケンナ大学 ジョン・ピットニー教授
「(タッカー・カールソンは)トランプ氏の政策を明確に表現している。トランプ氏は24時間以内に戦争を終わらせられると主張しますが、それを信じる人は殆どいません。しかし、“ウクライナは我々には関係ない”と考えている共和党支持者にとっては響くメッセージです。彼らはロシアやプーチンの支持者ではないかもしれないが、“なぜ遠く離れた国を支援しなければならないのかわからない“と考えているからです」

確かにインフレで生活が苦しい人々にしてみれば、“他国を助ける前に自国民を何とかしてくれ”と考えるだろう。しかし、世の趨勢から思っても口に出せなかった…。タッカー・カールソン氏はそれを代弁したのだろうとピットニー教授は言う。

クレアモント・マッケンナ大学 ジョン・ピットニー教授
「タッカー・カールソンは公然とロシアを応援していたし、公然とロシアの味方だと言った。そして、冷戦時代とは違い現在アメリカの政治的右派にはロシアを支持する人がかなり多くいます。(中略)トランプやタッカー・カールトンは共和党の暗部に訴えています。共和党の政治に携わったことのある私くらいの年の人間なら“移民に対する憤り”“非白人に対する憤り”貿易保護主義や孤立主義の系統が常に根底にあったことを知っています」(中略)

ロシア的な法を一切無視した行動を・・・、アメリカの民主主義が結果的に認めてしまう
上智大学 前嶋和弘教授
「アメリカって世論の国でありますが、気が短い国で…。勝ち馬に乗ってないといけないんです。戦争は勝っている国を応援する。判官びいきで負けてる方に頑張れって言うんじゃなくって、負けてたら“そんなところにアメリカのお金使ってどうするの”ってなる…」

反転攻勢が膠着状態であることもアメリカの支援離れの風潮を後押ししているという。このままだと、共和党政権になる前に支援の先細りは十分に考えられるが、番組のニュース解説、堤氏は懸念を語った。

国際情報誌『フォーサイト』元編集長 堤伸輔氏
「万が一アメリカが支援を減らす、あるいはやめるとなった場合、ヨーロッパだけでは支えきれない。結果的に非常に不利な停戦案を受け入れなきゃならない。極端な場合、敗戦…。

そうなった時、ロシア的な法を一切無視した行動が是認され、それを支持した北朝鮮、あるいは支援してきた中国、そういうところが結果的に勝利に終わってしまう。

せっかく冷戦が終結して、これから冷戦終結後の恩恵を世界が受けるという時から30年余りで全く違う世界なってしまう。残念ながらそれを世界一の軍事力経済力を持ったアメリカの民主主義が結果的に認めてしまう。それを考えると、背筋が寒くなった…」(BS-TBS 『報道1930』 9月4日放送より)【9月5日 TBS NEWS DIG】
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米国務省高官が6日に明らかにしたところでは、ブリンケン国務長官がウクライナ滞在中に10億ドル(約1470億円)超の新たなウクライナ支援策を打ち出したそうです。

【汚職・腐敗の蔓延というウクライナ政治・社会の不都合な事実】
ウクライナ・ゼレンスキー大統領にとって、国内外での求心力を維持して戦争を遂行していくうえで、非常に不都合な事実があります。それはウクライナの政治が汚職・腐敗にまみれているということ。これはロシア軍侵攻以前から指摘されていたことです。

この現実を是正しないと、少なくとも、是正する姿勢を見せないと国内外の支持を維持できなくなります。

****ウクライナの富豪、詐欺や資金洗浄の疑いで勾留 ゼレンスキー氏の元後援者****
ウクライナ有数の大富豪イーホル・コロモイスキー氏が2日、首都キーウの裁判所で、詐欺と資金洗浄(マネーロンダリング)の疑いのため、2カ月の勾留を命じられた。コロモイスキー被告はかつて、ウォロディミル・ゼレンスキー氏の支援者だった。

ウクライナ保安局(SBU)は、コロモイスキー被告が「2013年から2020年にかけて、支配下にある複数の金融機関を通じて、5億フリヴナ(約20億円)以上の違法資金を国外に送金し、合法化した」と起訴内容を発表した。(後略)【9月3日 BBC】
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ゼレンスキー大統領がコメディアン時代に大統領役で主演した人気ドラマ「国民のしもべ」はコロモイスキー氏所有のテレビ局で放送され、ゼレンスキー氏の大統領就任につながるきっかけとなりました。そうしたことから、ゼレンスキー氏が大統領就任した当時は、同氏の背後にコロモイスキー氏がいると言われていました。

****ゼレンスキー大統領、国防相の交代を発表 汚職疑惑受け事実上の更迭か****
ウクライナのゼレンスキー大統領はレズニコフ国防相を交代させると明らかにしました。ウクライナ国防省では汚職疑惑が相次いで指摘されていて、事実上の更迭とみられます。 ゼレンスキー大統領は3日夜のビデオ演説で、レズニコフ国防相の交代を発表しました。

ウクライナ国防省では、装備品や物資の調達を巡って不正や汚職疑惑が相次いで指摘されていて、国防相の交代で綱紀粛正を図る狙いがあると見られます。

レズニコフ氏はおととしから国防相を務め、ロシア侵攻後、欧米からの軍事支援を取り付ける中心的な役割を担ってきました。(後略)【9月4日 テレ朝news】
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8月には全州の徴兵責任者が解任され、司法当局は徴兵逃れに関する汚職捜査の一環として、徴兵事務所200か所以上を一斉捜索したと発表しています。ウクライナでは「担当者が賄賂の見返りとして、障害者認定書や、一時的な兵役免除認定を取得する手助けをする」という形で徴兵逃れが蔓延していると言われています。

戦地に行きたくないというのは当然の思いではありますが、一方で、上から下まで賄賂・汚職がはびこるウクライナ社会の現実をも示しています。

【戦争の新しい形 段ボール製ドローンと衛星通信システム「スターリンク」】
上記のような戦局停滞、アメリカのウクライナ離れ、汚職の問題はこれまでも取り上げてきた話で、特に目新しい話ではありませんが、最近のウクライナ関連報道で一番印象的だったのは「段ボール製ドローン」の話題。

****「ロシアにとって深刻な脅威」...ウクライナの「段ボール製」ドローン、その驚きの攻撃力を示す動画****
<8月27日にロシア国内の基地で戦闘機などを破壊したのは、ウクライナが導入した段ボール製ドローンだったとされている>

長距離兵器を使った攻撃を強化しているウクライナ軍は、ロシア国内の標的を攻撃するのに、新型の「段ボール製」ドローン(無人機)を使用したという。従来のもの以上に安価で製造できる段ボール製ドローンだが、攻撃力の高さはたしかなようで、その性能が見て取れる「攻撃」の様子を捉えた動画も拡散されている。

ウクライナ人ジャーナリストのユーリイ・ブトゥソフが8月31日に自身のYouTubeチャンネルに投稿した動画には、ドローン1機(おそらく機密情報や構造を隠すためにボカシが入っている)が野原に置かれたダミーの標的の上で爆発する様子が映っている。撮影場所は分かっていない。

動画には、標的の上空に到達したドローンの視点から撮影されたショットが含まれ、その後ドローンが爆発し、大量の発射物をあたり一帯に撒き散らす様子が映っている。このドローンは「今やロシアの航空機にとって、深刻な脅威だ」とブトゥソフは書き添えている。

このドローン「Corvo(コルボ)」はオーストラリアの軍需企業SYPAQが製造したもので、8月27日にロシア西部クルスク州への攻撃に使われたとされている。段ボールが主体の構造のため、ロシアのレーダーに発見されにくいという強みもある。

スホーイ戦闘機やミグ戦闘機に命中
(中略)ロシア西部のクルスク州は、ウクライナ北西の国境から約105キロメートルのところに位置している。ブトゥソフはドローンのデモ飛行動画の説明の中で、段ボール製のこれらのドローンがクルスクへの攻撃に使われたと述べている。

ウクライナ保安局(SBU)はこの攻撃作戦を称賛したが、どのような種類の無人機が使われたのかは明かさなかった。SBUの匿名の関係者はウクライナの英字紙キーウ・ポストに対して、無人機はクルスクのロシア軍基地にある「スホーイSu30戦闘機4機と、ミグ29戦闘機1機」に命中し、パーンツィリS1対空ミサイルシステムとS300地対空システムを損傷させたと述べた。本誌はこの件についてロシア国防省にメールでコメントを求めたが、返答はなかった。(中略)

SYPAQは3月にオーストラリア政府と70万ドルの契約を結び、ウクライナに供与する「コルボ」ドローンの製造を引き受けた。同社は「コルボ」について「段ボール製の航空機」だと説明しているが、過去の報道資料には、この航空機は「ほぼ全体がワックス加工されたフォームボード」で作られていると書かれている。

ドローンはフラットパック(開封後に組み立てる平箱包装)の状態で引き渡される。「コルボ」の最大積載量は約3キログラムで、飛行距離は約120キロメートル。偵察用ドローンとして設計されており、最近の複数の報道は、ウクライナがこのプラットフォームを自爆攻撃用ドローンに作り変えたことを示唆している。【9月2日 Newsweek】
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実際のところは定かではありませんが、段ボール製ドローン(1機3500ドル 約50万円)が高価なスホーイ戦闘やミグ29戦闘機を破壊できるとしたら・・・戦争の全く新しい形です。

少なくとも、よほどの事がない限りは使えないロシアが盛んに牽制する核兵器や、パイロット育成を考えるといつになったら実戦配備できるかわからない欧米供与のF16戦闘機よりは、はるかに現実的かも。

もうひとつ、戦争の新しい形の話題。

****イーロンが戦争を左右?スターリンクが580億要求****
ウクライナに提供されている衛星通信システム「スターリンク」を巡り、イーロン・マスク氏が激戦地の通信を突然、遮断し、4億ドルをアメリカ政府に要求していたことが報じられました。

いまだ続く争い。この1年半、多くの国がウクライナに支援を続け、その行方を固唾をのんで見守ってきました。しかし、その戦況を左右するのは政治家でも外交官でもない、たった1人の民間人の判断なのかもしれません。

注目されているのはイーロン・マスク氏。宇宙関連企業「スペースX社」のCEO(最高経営責任者)です。侵攻直後から衛星によるネット接続サービス「スターリンク」をウクライナに無償提供したことで“英雄視”された彼。しかし、去年10月。

マスク氏の投稿(去年10月):「スペースX社がウクライナへ無償で提供している費用はすでに8000万ドルに上り、年内には1億ドルを超える見通し」無償での提供に難色を示し始めたのでした。

そして今月、アメリカの雑誌「The・NewYorker」が当時、マスク氏がアメリカ政府に対して4億ドル、日本円で約580億円の費用を請求していたと報道。

また、その交渉のなかで「ネットを遮断する」可能性を示唆。記事では戦闘地域でウクライナ軍が通信不能に陥り、指揮系統が大混乱したことを挙げ、スペースX社による“接続遮断”が行われたとしています。(中略)

今や戦争もサイバー戦。衛星を制するものがたとえ個人であっても、戦況を左右できてしまう時代なのか。【8月29日 テレ朝news】
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パキスタン  政治的混乱と経済苦境 資金的に支える中国とサウジアラビアの思惑

2023-09-05 23:26:04 | アフガン・パキスタン

(パキスタンのシャバズ・シャリフ首相(左)とサウジのムハンマド・ビン・サルマン皇太子。2022年のサウジ訪問時【8月11日 WSJ】)

【政治的不安定さと経済的苦境】
パキスタンでは、議会が解散され暫定内閣が組閣されたものの次期総選挙は年内は難しいとの見方があって、政治的空白が長引くことも予想されています。

パキスタンはIMF融資などによる経済再建途上にあり、政治的空白は経済再建も遅らせることにもなります。

****パキスタンで議会解散、暫定内閣が発足****
パキスタンのシャバス・シャリフ首相(当時)による連邦下院解散(8月9日)にともない、(中略)前内閣と連立を組むバロチスタン民衆党(BAP)所属で上院議員のアンワールル・ハック・カーカル氏が、(中略)8月14日に暫定首相に就任した。

カーカル暫定首相は8月17日、暫定内閣を組閣した。同内閣は、前政権の政策との一貫性継続を重視して、党派に左右されにくい実務家内閣となった。

シャリフ前首相が下院任期満了日である8月12日の前に下院を解散したことから、憲法の規定により、解散から90日以内に総選挙が実施される(任期満了の場合は、解散後60日以内)。

ただし、選挙管理委員会(ECP)は、2023年5月に完了した国勢調査の結果を受けた選挙区の区割り見直しに時間がかかるため、2023年内の総選挙実施は困難と示唆している(8月18日「ビジネスレコーダー」紙ほか)。

また、シャリフ前首相率いるパキスタン・ムスリム連盟ナワズ派(PML-N)では、パナマ文書に端を発した汚職事件で有罪判決を受け、健康上の理由で2018年からロンドンに滞在している、過去3度首相を務めたナワズ・シャリフ氏(シャバス・シャリフ首相の兄)を次期首相にするために帰国させようとの動きも表面化しており(8月17日「ドーン」紙)、総選挙が規定期間内には実施されない公算が高まっている。

6月末に当時のパキスタン政府と9カ月間で最大30億ドルのつなぎ融資合意(SBA)をしたIMFは、暫定政権とはSBA後の新融資プログラムの交渉はしないと明言しており、総選挙が遅れた場合はIMFとの交渉再開が遅れ、再び外貨不足に陥る可能性がある。

次の政権へのつなぎとして発足した暫定内閣はその性格上、独自政策の実施や国際機関などとの新たな交渉はしにくいため、総選挙の遅れは経済の停滞を長引かせる恐れがある。【8月30日 JETRO】
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パキスタンの経済悪化は今に始まった話ではなく、2022年4月に失脚したカーン元首相も外貨準備の枯渇や物価の高騰など経済を低迷させたとの批判が議会による不信任の表向きの理由でした。議会不信任の背景にはパキスタン政治を左右する軍部との関係が悪化したことがあるとも指摘されていましたが。

カーン元首相はその後汚職などの罪で逮捕されていますが、クリケットの元スター選手で国民的人気は未だ高く、その処遇も政治混乱の火種になっています。

****カーン元首相の実刑判決停止=パキスタン高裁―出馬禁止は継続****
パキスタンの首都イスラマバードの高等裁判所は29日、汚職の罪で禁錮3年の実刑判決を受けたカーン元首相の一審判決の効力を一時停止した。地元メディアによると、高裁はカーン氏の釈放も命じたが、他の事件でも訴追されているため、釈放されるかは不透明だ。

一審判決を受け、カーン氏は被選挙権を5年間剥奪されている。高裁によれば、有罪判決は維持されているため、数カ月以内に行われる予定の総選挙への出馬禁止は継続される。

カーン氏は首相在任中、外国の要人からの贈答品を虚偽申告し、違法に売却していたとして5日に実刑判決を受け、収監された。判決を不服として上訴していた。【8月29日 時事】
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“カーン氏は首相在任中、米国などによる政権転覆の企てがあったと主張し、その説明のために外交公電に書かれた内容を都合よく解釈して公表した公職守秘法違反の疑いがある。この事件に絡み、拘束継続の指示が出た。”【8月29日 日経】とのことで、解放は見送られる見通しと報じられています。

カーン元首相は在任中はアメリカには批判的で、ウクライナ支援要請にも応じていませんでしたが、同氏は自身の失脚について“アフガニスタンやロシア、中国に対する外交政策上の姿勢を理由に、野党がアメリカと結託して自分を排除したと主張を続けている。”【ウィキペディア】とのこと。

最近も、米ニュースサイト「ザ・インターセプト」がパキスタン政府の機密文書をもとに、カーン元首相失脚には「アメリカからの圧力があった」と報じているようですが(【9月1日 The Liberty Webより】、真相はわかりません。

いずれにしても、起訴案件で全面的に無罪とならなければ次期総選挙には出馬できません。

【パキスタンを支える中国 テロの標的にも】
パキスタンは中国の重要なパートナーで、「一帯一路」の要となる国でもあり、財政再建が軌道に乗るかは中国の対応にもかかっています。

****中国、パキスタン向け融資24億ドルの返済繰り延べ****
パキスタンのダール財務相は27日、中国輸出入銀行が同国向け融資24億ドルの返済を2年間繰り延べたことを明らかにした。

元本24億ドルが対象。2年間は利払いだけを行う。「X」(旧ツイッター)への投稿で明らかにした。

パキスタンのシャリフ首相によると、中国はパキスタンと国際通貨基金(IMF)の協議が長引く中、同国に対しここ数カ月で約50億ドルの返済繰り延べや新規融資を行った。

パキスタンは、IMFから約12億ドルの融資を受けたほか、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)など友好国からも支援を受けており、外貨準備が増強されている。

ダール財務相は同国経済がすでに安定化に向けた軌道に乗ったと述べた。【7月27日 ロイター】
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中国とパキスタンはそういう“親密な関係にもかかわらず”、あるいは、“親密な関係にあるだけに”、パキスタンでは中国がテロの対象となっています。

****「極めて親密な国」のはずのパキスタン領内で中国人襲撃テロが多発****
パキスタン国内のインフラ建設で、中国企業が工事を請け負うことも多い。ところが、互いに「最も親密な国」であるはずなのに、パキスタン国内では中国人を標的にするテロやテロ未遂事件が多発している。

中国とパキスタンは極めて友好的で親密な関係を続けてきた。その背景には、インドへの対抗があるとされる。インドとパキスタンは国境紛争や東パキスタン(現、バングラティシュ)の独立問題が発端となり、3度に渡り本格的な戦争をした。

また、中国もインドとは、国境問題がきっかけで戦争をしたことがある。

現在は3国とも武力衝突を避け、安定した関係を構築しようと努力しているが、中国−インド、インド−パキスタンがいずれも対抗関係にある構図は続いている。そのような状況にあって、中国はパキスタンを可能な限り優遇し、パキスタンもまた中国を強く支持してきた。現在は「一帯一路」の建設もあり、中国にとってパキスタンはさらに重要な国になりつつある。

友好国のはずなのに中国人を襲撃
パキスタン国内のインフラ建設で、中国企業が工事を請け負うことも多い。ところが、互いに「最も親密な国」であるはずなのに、パキスタン国内では中国人を標的にするテロやテロ未遂事件が多発している。最近では同国西部のバルチスタン州にあるグワダル港で13日、中国人技術者を狙った自爆テロが発生した。襲撃側は少なくとも中国人4人とパキスタン軍警察の9人が死亡したと発表した。ただし中国当局は中国人の死傷を否定した。

パキスタンの首都のイスラマバードでは数週間目に、「中国・パキスタン経済回廊(CPEC)」の成立10周年を祝う記念式典が開催された。式典には中国の習近平国家主席の特使として、何立峰副首相が出席した。パキスタン側からも、政府高官が多く出席した。市内の主要道路の多くの場所でCPECの成立10周年を祝い、さらには「中国とパキスタンの友情は永遠」などと書かれた横断幕が掲げられた。

しかしパキスタンにはCPECに対して強い不満を持つ人もいる。例えばバルチスタン州では、CPEC関連の工事現場が繰り返し襲撃されてきた。バルチスタン州は貧しい地域だが天然ガスなどの地下資源がある。地元住民の多くが「地下資源は地元を裕福にするために使うべきなのに、CPECは別の目的で資源を利用しようとしている」と考えているという。

国内の反対派を力で弾圧するパキスタン当局
パキスタン当局は、繰り返される中国人や中国が関係するプロジェクトに対する攻撃に対抗するために軍を投入している。

中国企業などが本格的に乗り出す前から、バルチスタン州は反政府の過激な動きが活発で、同州では反中国と反政府の動きが結びついた。パキスタン政府は現地の人々の主張に軍事的手段で対抗し、空爆を行ったこともある。また、民主的選挙についても「操作」を繰り返してきたとされる。

中国政府は新疆ウイグル自治区の「分離独立」運動を、強く抑え込んできた。そして周辺国に対しては、「テロ分子に活動の場を提供しない」よう求めている。パキスタン当局は中国の要請に応えて、自国内のイスラム教原理主義者を取り締まっている。パキスタン国内には、そのことに不満を持つ人がいるという。

中国にとってCPECは「一帯一路」建設の中でも目玉となる事業だ。そしてグワダル港関連の事業は、CPECの中でも重点事業だ。中国はグワダルに国際空港を建設しており、9月には完成して引き渡される予定という。

現地警察は中国企業への攻撃を懸念して、老朽化した漁船や漁網を使う地元漁師の出漁を制限している。漁に出られない日が増えているという。現地では「人々に権利を与えよ」という団体が発生した。同団体は中国企業が機械式底引き網漁船で操業し、収穫物のすべてを中国に送っているとして、中国側によるパキスタンの海洋資源の過剰開発への反対運動を展開している。ただしパキスタン当局は「抵抗勢力」を厳しく弾圧している。

現在のパキスタンは政治面で不安定であり、経済も苦境にある。中国はパキスタンに300億ドル(2023年8月時点の為替レートで約4兆3600億円)以上の投資を行ってきたが、パキスタン経済が好転する兆しはない。むしろ債務不履行が懸念される状態だ。

しかし中国としては、「一帯一路」に対する信頼維持の観点からも、CPECからの撤退はできない。そして、CPECを継続するためには、追加投資をせねばならない状況だ。中国企業にとってはすでに、パキスタンよりもベトナムやバングラディシュの方が、魅力ある投資先になったという。

隣国のインドは中国・パキスタン経済回廊に「断固反対」
なお、隣国のインドは、CPECに対して「断固反対」の立場だ。中国とパキスタンの国境はまさに、インドとパキスタン、インドと中国が領有権を争うカシミール地方にあることが、最大の理由とされる。CPECの陸上ルートはカシミール地方にあるパキスタンの実効支配地域を経由して中国の実効支配地域に抜ける。インドは「違法であり、不当であり、受け入れられない」と主張している。【8月21日 レコードチャイナ】
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「一帯一路」の要である「中国・パキスタン経済回廊(CPEC)」に対してバルチスタン州で対中国テロを行っているとされるのが「バルチスタン解放軍」

****中国人を何度も襲撃している「バルチスタン解放軍」とはどんな組織か―独メディア****
2023年9月3日、独国際放送局ドイチェ・ヴェレの中国語版サイトは、パキスタンでしばしば中国人を襲撃している「バルチスタン解放軍」について紹介する記事を掲載した。

記事は、パキスタン・バルチスタン州にあるグワダル港で8月13日、23人の技術者を乗せた中国企業の車列が襲撃されたと紹介。(中略)

その上で、襲撃事件を起こしたとみられるバルチスタン解放軍(BLA)について、2004年に設立され、パキスタンの治安部隊やバルチスタン地域に住むバロチ人以外の人々、特にパキスタン軍を支配するパンジャブ人を攻撃していると説明。(中略)

また、18年8月にはダルバンディンで中国人技術者を乗せたバスに自爆攻撃を行い、19年5月には中国企業が建設したグワダル港のホテルを、20年6月にはパキスタン証券取引所をそれぞれ襲撃したほか、昨年4月には現地の孔子学院職員が乗ったバスを襲撃して中国人3人とパキスタン人運転手1人が死亡したと伝えた。

記事は、一部のアナリストからはBLAが米国とインドの「反中国家」の支援を受けているとの見方が出ているほか、バルチスタン州の政治家からは「中国の投資は地元住民に利益をもたらしていない。中国は何十億ドルもの投資を自慢しているが、グワダルはいまだに深刻な水不足に悩まされている。バルチスタンはパキスタンで最も子どもの死亡率が高く、インフラはボロボロで、保健と教育が優先されていない」といった声が出ていると指摘。(中略)

一方で、BLAによる襲撃や脅威、そして現地住民の不満があるからといって、中国がパキスタンでのプロジェクトを停止することはないと多くの人が考えていると紹介。(後略)【9月5日 レコードチャイナ】
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【中国と並んでパキスタンを資金的に支えるのがサウジアラビアなど中東湾岸諸国 核開発もサウジの資金 見返りには・・・】
IMF、中国と並んで、経済苦境のパキスタンを資金的に支えるのが中東のサウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)。

****財政難のパキスタン、湾岸諸国から巨額投資狙う****
パキスタンが湾岸諸国から巨額の投資を獲得しようと交渉中だ。パキスタンが財政安定のために外貨を必要とする一方で、石油マネーで潤う湾岸諸国は経済の多様化と世界における影響力の拡大に動いている。

事情に詳しい関係者によると、サウジアラビア政府はカナダの金鉱大手バリック・ゴールドがパキスタン西部で70億ドル(約1兆円)をかけて開発中の銅鉱山を買収する方向で交渉している。これとは別に、パキスタンと湾岸諸国の当局者によると、サウジの製油所をパキスタン国内で建設する交渉も進んでおり、建設費用は最大140億ドルに上る可能性がある。(中略)

ここ数カ月、大きな影響力を握るパキスタン軍は政治的弾圧を強めてきた。同国の官僚主義や優柔不断な態度に不満を募らせる湾岸諸国のために、パキスタン軍は投資案件の取引プロセスを簡素化し、同国への投資が一段と容易になるよう取り組んでいる。

パキスタンの鉱業、エネルギーインフラ事業、農地事業、および国営事業の民営化はいずれも、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、カタールへの売却計画に盛り込まれる可能性がある。こうした湾岸諸国の間では、同盟関係にあるパキスタンなどの資産獲得を巡り競争が激化している。(後略)【8月11日 WSJ】
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****パキスタンにサウジが2─5年で最大250億ドル投資へ****
パキスタンのカカール暫定首相は4日、同国のさまざまなセクターにサウジアラビアが今後2─5年で最大250億ドルを投資すると明らかにした。

カカール氏は、サウジの投資は鉱業や農業、情報技術などが対象になるとの見通しを示したが、具体的なプロジェクトには言及していない。

ただカナダの産金大手バリック・ゴールドは先月、パキスタンの金鉱山と銅鉱山の開発パートナーとしてサウジの政府系ファンドを迎える意向を表明している。

カカール氏は、半年以内に国営電力2社の民営化手続きを完了させる方針で、さらにエネルギー以外の分野で新たな国営企業の民営化も検討する考えだ。(後略)【9月5日 ロイター】
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パキスタンの核開発もサウジアラビアの資金供与で行われたと見られていますが、見返りにサウジラビアの有事には5~6発の核弾頭をパキスタンがサウジに供与することになっているとの物騒な関係でもあります。

****サウジが「パキスタンの核弾頭」を手にする日:ミサイルは中国製の東風21****
中東のアラブ諸国などがひそかに核開発を進め、米国などの情報機関が神経を尖らせている。中でも最も懸念すべき動きを見せているのが、スンニ派大国サウジアラビアだ。(中略)

パキスタンから5~6発
「イスラム爆弾」が差し迫った危険として世界に注目され始めたのは1981年、イスラエルが予兆もなく突然、イラクのオシラク原子炉を爆撃して以後のことだ。その後、パキスタンの核開発が注目を集め、同時にパキスタンの核開発に対してサウジアラビアが資金援助したとの情報が流れた。(中略)

中東の核開発競争は、最初にイスラエルの核武装があり、次いでイラクなどアラブ諸国とイランの核開発、という形で拡大した。

こうした動きを受けて2003年9月、英紙ガーディアンで、サウジの最高レベルで①抑止力として核能力を持つ②防衛してくれる既存の核大国と同盟を組む③中東を非核地帯とする地域協定を締結する――の3つの選択肢から成る戦略案が検討中、と報道された。(中略)

さらに、2010年の英王立国際問題研究所(チャタム・ハウス)の研究会で複数の西側情報筋が「サウド王家はパキスタンの核開発計画の費用60%以下を負担、近隣諸国との関係が悪化した場合、5~6発の核弾頭をその見返りに得るとのオプションが付いている」との情報が明らかにされたという(ガーディアン紙)。

CIAが非核を確認して引き渡し
サウジによる核兵器の運搬手段の入手については、近年になって次々と極秘情報が明らかにされた。イランに対する抑止力を示すため、サウジ側が情報を意図的にリークし始めたとみていい。

2014年1月、米週刊誌ニューズウィークで米中央情報局(CIA)に情報源を持つジャーナリスト、ジェフ・スタイン氏がサウジによる中国製ミサイル入手を暴露した。

それによると、サウジが1988年に極秘裏に中国から入手したのは中距離弾道ミサイル「東風3」(射程3300~4000キロ)。36~60基ともいわれる。東風3は1段ロケットで液体燃料式、命中精度が低い。

問題は、この事実を探知した米国の怒りを買ったこと。当時のロバート・ゲーツCIA長官(後の国防長官)はサウジ側に抗議した。

次にサウジが中国から調達したのは中距離ミサイル「東風21」(射程1500~1700キロ)。2段の固形燃料式で命中精度が向上した。スタイン氏によると、このミサイル入手に当たっては、CIAが仲介した。

サウジ側としては米国の了解を得る必要があり、米側としてはサウジの抑止力を強化する狙いがあったとみていい。
2007年当時のスティーブン・カッペスCIA副長官がCIA本部あるいは近隣のレストランなどで両国担当者と協議を重ねた。

技術的な協議には、CIA側から分析官やCIAリヤド支局長らも加わった。中国から積み出された東風21ミサイルがサウジで荷揚げされると、CIA技術者が出張し、核兵器搭載装置が付いていないことを確認した上でサウジ側に引き渡したとしている。

「イランが持てばサウジも」
(中略)2015年春、ソウルで行われた国際会議に出席したトゥルキ・ビンファイサル元サウジ総合情報局長官は記者会見で、「イランが保有するものが何であろうと、われわれも持つ」と発言、イランの核武装に対抗してサウジも核武装する構えを鮮明に示した。【2016年02月17日 新潮社フォーサイト】
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米CIAが中国からパキスタンへのミサイル供与を仲介・・・・国際関係の奇々怪々です。
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フランス  「政教分離の原則」が重視されるなかで問題視されてきた「アバヤ」 公立学校で禁止

2023-09-04 22:52:32 | 欧州情勢

(フランス・パリ市内を歩くアバヤ着用の女性(2023年8月28日撮影)【8月28日 AFP】
一口に「アバヤ」と言っても、その印象は様々。

アラブ世界で見かけるような黒一色の「アバヤ」に目だけを残して顔を覆う「ニカブ」という服装は日本人的にはさすがに「異様」ですが、上記のようなものならファッションのひとつと言えば、言えなくもない・・・
宗教ではなく伝統的な服装と言えばそうかも・・・。
でも、多くのイスラム教徒が同じような恰好をしているとなると、それはそれでまた・・・・)

【「ライシテ」(政教分離の原則)が重視されるフランス社会 「アバヤ」は「これ見よがしな宗教的標章」か否か?】
フランスでは、フランス革命以来の歴史的経過を踏まえて、「ライシテ」という概念が重視されます。一言で言えば、政教分離の原則でしょうか。

****ライシテ*****
ライシテ(形容詞 ライック)とは、フランスにおける教会と国家の分離の原則(政教分離原則)、すなわち、(国家の)宗教的中立性・無宗教性および(個人の)信教の自由の保障を表わす。(中略)

フランスは「自由、平等、友愛」を標語に掲げる共和国であることはよく知られているが、加えて、フランス共和国憲法第1条に「フランスは不可分で、ライックで、民主的で、社会的な共和国である」と書かれており、ライシテはフランス共和国の基本原則の一つである。【ウィキペディア】
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この考えに基づいて、2004年3月に施行された法律では、校内でキリスト教の大きな十字架やユダヤ教徒のキッパ(帽子)、イスラム教のヘッドスカーフなど、「児童・生徒が自身の宗教を表立って示すシンボルや衣服の着用」が禁じられています。

「ライシテ」は歴史的にはカトリック教会との関係を規定するものでしたが、中東からの移民増加に伴って、イスラムとの関係で論じられることが多くなり、一部には「反イスラム主義」的な色彩を帯びることもあります。

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中東からの移民増加とその文化的軋轢が表面化した1990年代以降はイスラムとの関係で論じられることが多いが、ライシテに関する歴史・社会学者のジャン・ボベロ(フランス語版)によれば、2001年のアメリカ同時多発テロ事件以後、「政治的イスラム」という新たな脅威が生まれ、一部のイスラムに対する恐怖が支配的な趨勢となっていったことがフランスではライシテ法本来の精神からの逸脱、世俗化 ―「ライシテの右傾化」― につながった。【同上】
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イスラムに特徴的な衣装として(特に欧州各国で)いつも問題になるのがムスリム女性が髪を隠すスカーフですが、フランスではすでに上記のように2004年の法律で公立学校では禁止されています。

顔全体を覆う「ブルカ」や、目だけを出す「ニカブ」も公共空間では禁止されています。

最近フランス社会で問題になっていたのが、やはりムスリム女性が頻用する「アバヤ」というスタイルの服。胸元からかかとまで、体形を隠すように緩くすっぽり覆う衣装です。

****「アバヤ」と「カミス」 再燃する宗教的衣装の問題****
12月9日は、ライシテの基本法である1905年の政教分離が制定された日である。近年のフランスはこの日を記念日にして大切にするようになっている。

そうしたなかで、この1年ほど公立中学や高校でのライシテ違反が増加中と報告されている。教育省によれば、9月で313件、10月で720件の違反があった。その多くが、ムスリムが着用するアラブの伝統的民族衣装アバヤとカミスに関するものだという。アバヤは女性用、カミスは男性用の長衣である。

フランスでは、2004年の法律で公立校における「これ見よがしな宗教的標章」の着用を禁じており、キリスト教徒の大きな十字架、ユダヤ教徒のキッパ、ムスリムのヴェールが該当する。その後、公共空間全般でのブルカやニカブの着用が禁じられ、浜辺やプールでのブルキニの着用の可否が論争になってきた。今回再び学校を舞台に特定の衣服が問題化している。

内務大臣のG・ダルマナンと市民権担当副大臣のS・べケスは、ライシテ違反の報告件数急増はイスラーム主義者が攻勢を強めているためだと強調する。教育大臣のP・ンディアイも04年の法律を厳格に適用すべきだと主張している。

ヴェールはそれ自体で「これ見よがしな宗教的標章」を構成するとされているが、アバヤやカミスは現状ではそのリストに入っていない。

しかし、宗教的祭礼などで着用される伝統的衣装をつねにまとい、外す要請を拒否し続けるなど、生徒の態度によっては、これ見よがしな宗教的標章のカテゴリーに入りうる。

アバヤやカミスを着用する生徒やその親たちは、衣装の宗教的側面を否定して文化的側面や伝統的側面を前面に打ち出し、学校での着用を正当化しようとする。

思春期の子どもたちは、アラブ・イスラーム文化圏に由来する服を着てティックトックなどのSNSでネット空間に流すが、背景に流れている音楽はラップなどで、その歌詞はイスラームという宗教の敬虔さを感じさせるものではない。

校長らは判断に迷っている。同じ地域でも、こうした挑発は由々しき問題だと考える校長も、長衣は問題ではないと考える校長もいるようだ。それでも、ケースバイケースの解釈の余地を求める声は少ない。教育省には明確な統一見解を出すことが期待されている。

ムスリムであるなしを問わず、高校生の過半数がヴェールを含む宗教的標章の着用に賛成という数字も出ており、世代間の差も浮き彫りになっている。

教員のなかにも、思春期は自分のアイデンティティーを求める時期と理解を示す者もいる。アバヤに身を包む一方で髪を赤く染める女子生徒もいるようで、その格好は過激的なイスラームとはひとまず無縁である。

宗教批判で知られるヴォルテールは『寛容論』で、「今日の課題は、穏健なひとびとに生きる権利をあたえ、そして、かつては必要だったかもしれないがいまでは必要性がないような厳しい法令の適用をゆるめることである」と書いた。

だが、現代フランスの世論は学校でのヴェール禁止を大前提としており、アバヤやカミスを認めるくらいなら制服にしてはどうかという意見まで出てきている。【2022年12月14日 伊達聖伸氏(東京大教授) 中外日報】
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【アバヤを着用して登校することは「宗教的行為だ」(アタル国民教育相) 公立学校出の着用禁止】
上記のような議論、統一見解を求める声を受けて、フランスのガブリエル・アタル国民教育相は8月27日、イスラム教徒の一部の女性が着用する、全身を覆うゆったりとした服「アバヤ」について、教育現場における厳格な「ライシテ」を定めた法律に違反するとして、今後公立学校での着用が禁止されると発表しました。

****フランス公立学校 イスラム教徒の長衣を禁止 宗教色を服装規制で封じ込め 摩擦の懸念も****
フランス政府は9月の新学期から、公立学校でイスラム教徒の女性用長衣アバヤの着用を禁止した。マクロン大統領は「わが国の公教育は政教分離が原則。宗教を示すものがあってはならない」と訴えた。

服装規制には、イスラム移民2世や3世が宗教で自己主張しようとするのを封じる狙いがあるが、新たな摩擦を招くとの懸念も出ている。

フランスは2004年、公立学校で「宗教シンボル」を排除する法律を施行し、イスラム女性が髪をスカーフで覆うことを禁じている。政府は8月31日の通達で、アバヤを禁止対象に追加。さらに、イスラム男性が着る長衣カミスも禁止した。説得しても生徒が着用をやめない場合、学校は処罰できるとしている。

アバヤやカミスは胸元からかかとまで覆う服装。主にアラブ圏で着用されており、「仏イスラム教評議会」(CFCM)は「宗教シンボルとみなすのは誤り」と抗議した。

移民社会で着用は一般化しており、パリ郊外のイスラム教徒の会社員マリヤムさん(23)は「服装を口実にした差別」と憤りを示す。インターネット上では「長衣をアバヤではなく、ロングスカートだと言って規制をかわす方法」を生徒に伝授する動画も広がる。

フランスでイスラム教徒への服装規制は強まるばかり。11年には、公共の場で女性がベールで顔を隠すことを禁止された。

最近はスポーツ大会で髪をスカーフで覆うことを禁じたり、「ブルキニ」と呼ばれるイスラム女性用の水泳スーツを公営プールから排除したりする動きが広がる。

背景には、イスラム人口の増加に伴い、国是である政教分離が脅かされているという不安がある。世論調査では77%が「イスラム主義は国の脅威」と答えた。

特に学校現場の危機感は強い。20年には、中学で預言者ムハンマドの風刺画を生徒に見せた教員がイスラム過激派に惨殺されるテロが起きたためだ。宗教をめぐる校内トラブルは年々増加し、今年1〜5月には2000件以上報告された。長衣を着て登校するイスラム教徒が増え、学校に戸惑いが広がっていた。

仏ナンテール大のイスマイル・フェラト教授は「中東でアバヤやカミスは単なる伝統衣装とみなされるが、フランスでは若いイスラム教徒が教員を挑発する手段になった。彼らは社会で差別に直面し、宗教を通じて自分の尊厳を保とうとしている」と指摘。規制で封じ込めれば、反発を強めるだけだと警告する。

フランスは政教分離を憲法で定める。原点は19世紀、義務教育からカトリック教会の影響を排除した法律にあり、いまも学校の脱宗教化は共和国の基盤とみなされている。

今回の長衣禁止に急進左派は「宗教狩り」と反発したが、共産党から極右まで保革野党の多くは支持を表明している。【9月4日 産経】
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今後、訴訟にも発展し、司法の場で争われる可能性があるようです。

****フランス、アバヤ禁止で波紋拡大 アラブ女性の伝統衣装、訴訟も****
フランス政府がアラブ女性の伝統衣装「アバヤ」を宗教的だとして学校での着用を禁止する方針を表明したことに波紋が広がっている。政教分離(世俗主義)の原則を重視するフランスでは、右派や左派の多くが賛同する一方、左派の一部はアバヤは宗教的ではないと批判。訴訟も辞さない構えだ。

アバヤは顔や手を除く女性の全身を覆う長い丈の衣服で、イスラム諸国で伝統的に着用されている。「アバヤはもう学校に着て行けない」。アタル国民教育相は27日のフランスのテレビ番組で、アバヤを着用して登校することを「宗教的行為だ」と明言。9月の新学期から禁止する方針だ。【8月31日 共同】
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【スポーツなど様々な場面で問題となるイスラム教徒女性の服装】
前出記事にもあるように、フランスでは“スポーツ大会で髪をスカーフで覆うことを禁じたり、「ブルキニ」と呼ばれるイスラム女性用の水泳スーツを公営プールから排除したりする動き”などが広がっています。

スカーフ「ヒジャブ」をサッカーの試合中に着用することを禁じたフランスサッカー連盟の規則も裁判で争われましたが、フランスの行政裁判所はこの禁止措置を支持しています。

****「ヒジャブ」着用禁止を支持 フランス裁判所、サッカー試合中****
フランスの行政裁判所、国務院は29日、イスラム教徒の女性が頭に巻くスカーフ「ヒジャブ」をサッカーの試合中に着用することを禁じたフランスサッカー連盟の規則を支持する決定を下した。

フランスメディアによると、イスラム教徒の女子サッカー選手のグループが規則に反対していた。グループの弁護士は「表現の自由を揺るがす」と決定に反発した。

キリスト教会と結び付いた王政を革命で倒したフランスは憲法に政教分離(世俗主義)の原則を明記しており、長年論争のテーマとなっている。
 
同連盟のこの規則が来年のパリ五輪・パラリンピックでも適用されるかどうかは不明だ。【6月30日 共同】
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一方で、フランスではシャルリー・エブド襲撃事件(2015年1月7日 ムハンマドを風刺した週刊風刺新聞『シャルリー・エブド』の本社にイスラム過激派テロリストが乱入し、編集長、風刺漫画家、コラムニスト、警察官ら合わせて12人を殺害した事件)に対して、世論が「表現の自由」を高く掲げて反発したように、「自由」を重視する社会です。

イスラム風刺を認める「表現の自由」とイスラムに特徴的な服装を禁じる「ライシテ」の解釈・・・思想としては一貫しているのか・・・

ただ、現実面ではイスラム教徒は抑圧されているような息苦しさを感じるかも。
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東南アジア諸国をめぐる米中の綱引き 新たな地図で中国への反発 米は越・比との関係強化へ

2023-09-03 22:49:17 | 東南アジア

(中国が新たに発表した地図 【9月1日 産経】 従来の「九段線」が明確に台湾を囲い込む「十段線」に拡大されています。もっとも、台湾に関しては「今更」の話ではありますが)

【中国の“新たな地図”をめぐって、ASEAN関連会議で問題となる事態も】
中国政府が発表した新しい地図が、国境問題を抱えるインドや南シナ海で領有権を争う東南アジア諸国の反発を惹起しています。

****中国発表の新地図、係争地や南シナ海まで「領土」「領海」表記…アジア各国相次ぎ反発****
中国政府が8月28日に発表した新しい地図を巡り、アジアの周辺国から反発の声が上がっている。南シナ海やインド北東部などの係争地が「領海」や「領土」として示されたためだ。今月アジアで開かれる一連の国際会議では、領土問題で対立する事態も想定される。

ロイター通信によると、地図では南シナ海の90%を中国の「領海」とした。中国が南シナ海の領有権問題に関して一方的に主張する「九段線」は、台湾の東側に引かれた1本の線とともに計10本で構成され、「十段線」となっている。

フィリピンが領有権を主張するスプラトリー諸島(南沙諸島)が「中国領」とされたことについて、比外務省は「中国当局から出された地図を拒否する」と批判した。声明では、「九段線」の法的根拠をオランダ・ハーグの仲裁裁判所が否定した2016年の判決に従うよう求めた。

インドネシアの地元メディアによると、ルトノ・マルスディ外相は「いかなる主張も国連海洋法条約に従ったものでなければならない」と述べた。同国のナトゥナ諸島は南シナ海の南端に位置し、周辺の排他的経済水域(EEZ)は中国が設定した境界線と重なる。付近では近年、中国船の操業が目立っている。


中国との国境問題を抱えるインドも反発した。係争地のインド北東部アルナチャルプラデシュ州の一部と中国が実効支配するカシミール地方のアクサイチンが「領土」とされたからだ。ジャイシャンカル印外相は8月29日の民放インタビューで「こんな筋の通らない主張によって、他人の領土が自分のものになることはない」と反発した。

5日から始まる東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議では、中国と各国が南シナ海の紛争防止に向けて策定を目指す「行動規範」について議論する見通しだが、対立が先鋭化する可能性が出てきた。【9月2日 読売】
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東南アジア諸国では、上記のフィリピン・インドネシアの他、ベトナム・マレーシアも。

“マレーシア政府は、地図について外交的な抗議文書を提出したと表明。同国は新たな地図に何ら拘束されるものではないと述べた。(中略)

ベトナム外務省は、地図に基づく中国側の主張には何の価値もなく、ベトナムの主権と国際法に違反しているとの見解を示した。”【9月1日 ロイター】

中国外務省は、「中国の南シナ海問題での立場は一貫して明確だ」「各方面には客観的で理性的な対応を希望する」としています。

【ASEAN関連首脳会談には習近平氏・バイデン氏ともに欠席】
なお、習近平国家主席はG20(9月9日~10日 インド・ニューデリーで開催)などには出席しないことが報じられています。

****習中国主席、G20サミット欠席 李強首相が代理出席へ=関係筋****
中国の習近平国家主席はインドで来週開催される20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)への出席を見送る見通しだと、インドと中国の関係筋がロイターに語った。李強首相が代理で出席するという。

G20首脳会議は9月9─10日にニューデリーで開催される。

関係筋は、出席見送りの理由は把握していないとしている。インドと中国の外務省はコメント要請に応じなかった。

首脳会議にはバイデン米大統領も出席する予定で、習氏がバイデン氏と会う可能性が取り沙汰されていた。習氏は昨年11月にインドネシアのバリ島で開かれたG20首脳会議の合間にバイデン大統領と会談している。【8月31日 ロイター】
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G20に先だって5日~7日にインドネシアで開催されるASEANプラス3(日中韓)首脳会議や東アジア首脳会議(EAS)にも李強首相が出席の予定です。

地図問題で中国への反発が強まる状況で開催されるASEAN関連首脳会議に習近平国家主席が出席しないということで、アメリカが会議をリードするチャンスでもありましたが、そのアメリカもバイデン大統領はG20には出席するものの、ASEAN関連首脳会議は欠席とのこと。

****米政府 バイデン氏のG20出席を正式発表 ASEAN関連会合にはハリス副大統領が出席****
アメリカ政府は、バイデン大統領が9月、インドで開かれるG20首脳会議に出席すると正式に発表しました。

ホワイトハウスは22日、バイデン大統領が9月9日から10日にかけてインドで開かれるG20首脳会議に出席し、気候変動対策やウクライナ侵攻による影響の緩和策などについて各国首脳と協議すると発表しました。(中略)

9月5日から7日にインドネシア・ジャカルタで開かれるASEAN(東南アジア諸国連合)の関連会合には、ハリス副大統領が出席するということです。

バイデン氏は、台頭する中国を念頭にASEAN重視の姿勢を打ち出しているだけに、その姿勢に疑念が生じると指摘する声が上がっています。

バイデン氏はその一方で、具体的な時期は示していないものの、対中国を見据えてベトナムを訪問し関係強化を進めると表明しています。【8月23日 テレ朝news】
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トランプ前大統領もEASを4年連続欠席して「アジア軽視」とも言われましたが、“バイデン大統領がASEANとの会議に出席しないことについて、サリバン補佐官は「政権のこの地域への取り組みは信じられないような実績をあげている」と強調し、地域軽視にはあたらないとの考えを示しました。”【8月23日 TBS NEWS DIG】

【アメリカ ベトナム・フィリピンとの関係強化へ】
ASEAN内部にはカンボジアやラオスといった中国の代弁者的な親中国の国、最近中国との関係を強めているタイなどもあって、中国に関する議題では結局明確な対応を示せないのはいつものことですから、あまりこの種の会議に出席しても成果は期待できないとの判断でしょうか。

それよりは、直接に二国間協議で関係を強めた方が・・・といった考えかも。
その二国間協議としては、バイデン大統領はG20出席後に南シナ海問題で中国と厳しく対立するベトナムを訪問します。

****バイデン大統領 9月のベトナム訪問発表 対中国で関係強化へ****
アメリカのホワイトハウスは、バイデン大統領が来月ベトナムを訪問し、最高指導者と会談すると発表しました。アメリカとしては最大の競合国と位置づける中国に対抗する上でベトナムとの関係を強化したい考えです。

ホワイトハウスは28日、バイデン大統領が9月10日にベトナムの首都ハノイを訪問し、最高指導者のグエン・フー・チョン共産党書記長などと会談すると発表しました。

バイデン大統領はインドで開かれるG20=主要20か国の首脳会議に出席したあと訪問するということです。

発表によりますと両者は「アメリカとベトナムの協力関係をさらに深めるための方法を協議する」としていて、ベトナムの経済成長の促進や気候変動問題、それに地域の繁栄や安定などが議題になるとしています。

ベトナムは中国との間で強い経済的な結びつきがありますが、南シナ海の島々の領有権をめぐっては対立を抱えています。

一方、アメリカとしては最大の競合国と位置づける中国に対抗する上でベトナムとの関係強化をはかりたい考えです。

アメリカの政治専門サイト「ポリティコ」は両国が関係を格上げし、外交や経済、テクノロジーの分野で協力を深めることで合意する見通しだと伝えていて、どこまで関係強化を打ち出すのか注目されています。【8月29日 NHK】
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アメリカが中国を念頭に二国間関係の強化を図っているのが上記ベトナムとフィリピン。
南シナ海をめぐって中国との関係が悪化するフィリピンでは今年、米軍が使用可能な拠点の増設が決まったばかりですが、今度は台湾から200kmほどのフィリピン最北端の離島で、米軍と地元自治体が商業港の開発を計画しています。

****米軍、台湾に面したフィリピンの港湾開発で協議中****
フィリピン最北部に位置するバタネス州バタン諸島で、米軍が商業港開発支援を巡って地元政府と話し合いを進めている。同州知事や複数のフィリピン政府高官がロイターに明かした。

米国が取り組んでいるフィリピンとの地政学的な関係強化の一環とみられ、中国側の反発を招く可能性もある。

バタン諸島は、バシー海峡を挟んで200キロ北方に台湾がある。同海峡は西太平洋と南シナ海を結ぶ航路において「チョークポイント」と呼ばれる重要な場所の1つで、特に中国が台湾に侵攻した場合には戦略的に大きな意味を持つ。台湾国防部によると、中国は同海峡に艦艇や軍用機を定期的に派遣している。

バタネス州のカイコ知事はロイターに、海が荒れた際に首都マニラからの物資を揚陸するために必要な「代替港」の建設について、米国側に資金提供を求めたと述べた。

バタン島のバスコという町にある現在の港は、高波発生時に使用できなくなるケースが頻繁にあり、昨年10月に別の港を建設することを決めたという。

フィリピン政府関係者は、米軍の部隊がこの港建設に関する協議のために最近バタネス州を訪れたと述べた。カイコ氏も、代替港建設案の検討を目的として米軍が現地にやってきたと認めた。

在フィリピン米大使館の広報担当者は、大使館と米太平洋軍の専門家がカイコ氏や地元政府の要請に基づき、建設や医療、農業分野での開発プロジェクトの支援について話し合いを行っていると説明したが、この港の問題には言及しなかった。【8月31日 ロイター】
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フィリピン・マルコス政権と中国は南シナ海領有権をめぐって対立を深めています。
2月には南沙諸島(スプラトリー諸島)周辺でフィリピンの巡視船が中国海警局の船からレーザー照射を受けました。

8月にはフィリピンが実効支配するアユンギン礁の軍事拠点に補給物資を輸送していたフィリピンの船に対し、中国海警局の船が放水銃を発射して、進路を妨害する事案も起きています。

この放水銃発射について、アメリカ国務省は「フィリピンの公船や航空機、国軍が武力攻撃を受けた場合、米国との相互防衛条約が発動することを再確認する」と警告しています。

【中国 タイとの関係強化 今後は不透明】
一方、中国はタイとの関係を強化しています。

****タイ海軍が中国と合同演習、過去最大2500人参加…クーデターで米国との関係冷え込み***
中国とタイ海軍の合同軍事演習「ブルー・ストライク」の開幕式が3日、タイ中部サッタヒープの海軍基地で行われた。10日までに過去最大となる約2500人が参加する。

演習は2010年に始まり、19年以来となる今回は5回目。中国軍は揚陸艦や潜水艦などを派遣し、災害救助や潜水艦の操作訓練などを行う。潜水艦の参加は今回が初めてとなる。

タイ海軍のチャーンチャイ司令官は式典で「演習は我々の良好な関係を反映したものだ」と述べた。韓志強・駐タイ中国大使は「タイと中国は他人ではなく兄弟だ。演習で両海軍の協力強化を期待する」と語った。

タイは14年の軍事クーデター以降、米国との関係が冷え込み、中国との軍事協力を深めている。17年には中国の潜水艦の購入契約を結び、19年に中国製揚陸艦を購入した。【9月3日 読売】
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もっとも、周知のようにタイではタクシン派政党のタイ貢献党を軸とした連立政権が成立しています。連立には従来与党の親軍政党も参加していますが、その外交方針がどのようなものになるのか、アメリカとの関係が修復されるのか・・・そのあたりはこれからの話です。

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中国経済の不振 求められる経済刺激策 しかし、習近平氏が求める理念にはそぐわない面も

2023-09-02 23:32:15 | 中国


(【8月29日 WSJ】)

【家計の倹約志向、将来への悲観からデフレ懸念 中国経済の「日本化」の指摘も】
中国経済の不振については、8月14日ブログ“中国経済  景気回復の遅れが鮮明に 巨額負債を抱える不動産大手”でも、不動産市場低迷の問題を中心に取り上げました。

不動産市場低迷にもリンクしますが、中国では家計の節約・倹約志向が強まり、貯蓄が増加し、消費が伸びないという傾向が出ており、消費者物価指数は下落し、デフレマインドが指摘されています。

この傾向は、バブル崩壊後の日本にも似ており、中国経済の「日本化」とも。少子高齢化という構造的問題も日本と重なります。

****中国経済に漂う「日本化」 デフレ懸念、高齢化も****
景気悪化に直面する中国経済が、バブル崩壊後の日本と重ねられて「日本化」と指摘されている。経済の先行きに悲観ムードが広がり、需要不足からデフレ懸念が台頭しているといった見方だ。少子高齢化という構造問題も抱え、中国経済が長期停滞に入った可能性も意識され始めている。

「新型コロナウイルス禍の時よりも庶民はカネを使っていない」
北京で海鮮販売店を営む50代の女性は厳しい経営状況を吐露した。店の売り上げはコロナ禍の昨年と比べて20〜30%は減ったという。

習近平政権は今年1月にゼロコロナ政策を正式に終えて経済回復を急いでいるものの消費はさえない。消費動向を示す小売売上高は7月に前年同月比2・5%増で、伸び率は3カ月連続で縮小した。高額な自動車など耐久消費財は低調だ。

ゼロコロナ政策の後遺症もあって若者を中心に厳しい雇用・所得環境に見舞われている。都市部の16〜24歳の失業率は4月から6月まで20%超の過去最高水準が続いた。国家統計局は7月分の発表からこの統計の公表を停止しており、中国経済悪化を示す数字に敏感になっているもようだ。

消費者は生活防衛のために財布のひもを締めている。中国人民銀行(中央銀行)が4〜6月に行った預金者アンケートで「より多く貯蓄する」との回答は6割弱と高止まりしている。

7月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比0・3%下落と2年5カ月ぶりにマイナスに陥った。物価が継続的に下落し続けるデフレ懸念が強まっている。中国政府系シンクタンク、国家金融発展実験室の殷剣峰副主任は6月に発表した論考で、食品とエネルギー価格を除くコアCPIの伸びが昨年4月から1%以下となっていることなどから中国の状況はデフレに当てはまると指摘。「中国にも日本病の兆しが表れている」と表明した。

日本総合研究所の野木森稔主任研究員は「消費者心理はコロナ禍前よりも悪くなっている」と強調。不動産や雇用の悪化、デフレマインドの強まりなどが要因と分析し、「中国経済が『日本化』している可能性がある」との見方を示す。

少子高齢化の進展も日本の状況と重なる。中国は2022年末に61年ぶりの人口減少を記録しており、消費市場の縮小が見込まれる。

かつて2桁台も記録した中国の経済成長率だが、国際通貨基金(IMF)は24年に4・5%にまで落ち込むと予想している。経済成長は共産党政権を支えるレゾンデートル(存在意義)となっており、「日本化」が進んでさらに減速となれば習政権の威信にも響きかねない。【8月17日 産経】
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家族向けの「事前販売」住宅の引き渡し延期といった不動産市場の変調は家計の住宅購入意欲を低下させ、家計の消費意欲とリスク志向の減退は不動産企業・地方政府の財務状況を悪化させることに。

不動産市場の混乱・低迷に加え、若者の20%を超える失業率に見るように雇用情勢も悪化。そうした経済状況が更に家計の消費マインドを冷え込ませるという悪循環にもなっています。
 
****中国「信頼危機」、チャートで見る経済への影響****
国の未来を信じられない中国の家計、経済の足かせに

中国を苦しめている原因は何か。
人口動態から地政学、貿易に至るまで答えはたくさんある。だが重要な問題は、家計および(それと同じくらい重要なことに)新型コロナウイルス禍を経験した後、自分たちの生活が向上し続けることへの国民の信頼感が大きく揺らいだことに凝縮されるのかもしれない。

なぜ家計が注目されるのか。
中国は深刻な債務と生産性の問題を抱えており、とりわけ国有企業や地方政府でそれが顕著だ。だがそれは何年も前から続く話だ。輸出は落ち込んでいるものの、中国はこれまでも貿易の悪化を乗り切ってきた。さらに言えば、民間の製造業とインフラ投資は実際のところ比較的よく持ちこたえている。

目下の景気減速に関して真に新しく、注目すべき点は、消費者物価や消費支出、サービス部門の投資、不動産投資がどれも並外れて弱いことだ。これらは家計に関わるという明確な共通点がある。

家計の消費意欲とリスク志向の減退は、経済の他の部分を有害かつ自己増幅的な形でむしばむ――消費には直接的に、投資には間接的に影響が及ぶ。

なぜなら家計の借り入れは長らく、主に住宅ローンを通じて、資金繰りの悪化した不動産開発会社や地方政府を下支えする役目を果たしてきたからだ。

倹約シフト
中国の家計債務(主に住宅ローン)は過去10年間に急増した。可処分所得に占める割合は2009年以前の米国の水準に近づいている、と一部のアナリストは指摘する。

ただ金融危機以前の米国とは決定的な違いがある。中国では住宅ローンに滞納の波が押し寄せているわけではない。それどころか家計はローン返済を急ピッチで進め、おおむね倹約に励んでいる。

リスク回避傾向の高まりには多くの原因があるが、恐らく中国政府がコロナ下で行った重要政策のいくつかが寄与している。特に3年に及ぶ「ゼロコロナ」政策がサービス部門の雇用創出にブレーキをかけたことや、政府が不動産開発会社に債務圧縮を迫ったため、家族向けの「事前販売」住宅の引き渡し延期が相次いだことなどだ。

割を食った消費者
理解すべき重要な点は、中国の家計が実際、同国経済の要である不動産業界への巨大な貸し手であることだ。中国で2021年に販売された住宅の約9割は「事前販売」だった。すなわち、不動産開発会社はまだ建設されていないマンションの権利を販売したということだ。

中国の家計は要するに、利子が発生する住宅ローンを組み、その現金をまだ存在しないマンションと引き換えに不動産開発会社に無利子で渡していたということだ。さらに不動産開発会社が開発用地を購入することによって、地方政府の財源を支えていた。(中略)

21年に不動産大手の中国恒大集団などが資金難に陥り、マンションを引き渡せない事態が起きると、住宅購入者は不動産市場から撤退し、ローンの繰り上げ返済によって対応した。23年上半期には、個人向けの住宅ローン債務残高が2000億元(約4兆円)減少した。

試練の雇用市場
さらに悪いことに「住宅危機」は、中国経済の重要な雇用創出源であるサービス部門がすでに脅威にさらされている中で起きた。原因となったのは、政府のゼロコロナ政策や、インターネットプラットフォーム業界に対する規制当局の締めつけだ。同業界は都市部の雇用の約4分の1を占めるとの試算もある。

公式統計によると、20年から22年の間にサービス部門の雇用は1200万人の純減となった。同部門は20年まで、中国における12年以降の雇用純増の全てを占めていた。また高学歴新卒者の大半を吸収する業界でもある。しばらくの間は好調な輸出が、この溝を埋めるのに役立った。だが23年に経済が再開すると、コロナ下の輸出ブームは反転し始めた。

その結果、23年4-6月期に入る頃には中国のサービス部門と建設部門は深い痛手を負い、製造部門は失速の危機にあった。雇用市場は足場が不安定となり、記録的な数の大学新卒者が社会に出る中、若年失業率は20%超に上昇した。21年と22年には就職を諦めて大学院に進学する者も増えた。

信頼感の危機
雇用市場と不動産市場の厳しい状況を受け、悲観的ムードが広がってきた。家計はコロナ前よりはるかに高い水準の貯蓄をしており、消費を増やしたり、住宅を購入したりすることには懐疑的な態度を示す。

中国人民銀行(中央銀行)が都市部の銀行預金者を対象に長年行っているアンケート調査によると、4-6月期に貯蓄に意欲的だった回答者は約58%と、22年12月の62%からはやや低下したが、19年中盤に比べ約15ポイント上昇した。消費に前向きな回答者は24.5%にとどまった。

預金の実際の伸び率も高止まりし、調査会社の龍洲経訊(ガベカル・ドラゴノミクス)によると、4-6月期は年率換算で15%を超えていた。これに対し、コロナ前の平均は10%前後だった。

下方スパイラルを断つには
中国経済は依然として成長し、就労者の所得は増え続けている。だが中国が不動産会社の経営不振や住宅価格の下落、家計の倹約志向による負の連鎖から抜け出せない限り、景気悪化を食い止めるのは難しいかもしれない。

そうなると悲観的見通しがより深く根を張り、さらなる貯蓄を促すことになり、経済が勢いを失うリスクがある。また不動産開発業者や地方政府、貸し手の銀行が、家計の倹約で生じた資金調達エコシステムの穴を埋めようとする過程で、金融システムに大きな問題を引き起こす可能性もある。

この負の連鎖を断ち切るには、恐らく中央政府が自らのバランスシートを動かし、家計への大型の財政移転を行ったり、間接的に不動産開発会社を救済したりする必要があるだろう。また外国人投資家や一部の国内起業家たちを遠ざけている、厳しい規制措置の一部を方針転換する必要があるだろう。

だが中国政府がそのような措置を講じるかどうかは依然不透明だ。一つには、中央政府が大規模な直接支出に慎重になっている可能性がある。地方政府の債務という形でかなり多額の実質的な負債を抱えているからだ。

また数年前から政府は、住宅市場の投機的な動きやIT業界の権力者の存在、外国人への依存を「社会の病弊」として印象付けることに多くの政治資本を費やしてきたため、今になってあからさまに方針転換することは、重大な政治的リスクとなりかねない。実質的に、最高指導部の看板政策のより多くが失敗だったと認めることになるからだ。【8月29日 WSJ】
***********************

日本の「失われた30年」との類似性はありますが、“中国はこれまでも貿易の悪化を乗り切ってきた。さらに言えば、民間の製造業とインフラ投資は実際のところ比較的よく持ちこたえている”といったこと、EVのような成長部門を有していることなど、日本とは異なる点も。

【浪費的消費を嫌い、「福祉主義」を懸念する習近平主席の考えにそぐわない経済刺激策】
いずれにしても目下のデフレ傾向の連鎖を断ち切るためには中央政府の大規模な出動が期待される方策ですが、上記のように、そうした中央政府の消費・投資刺激策に消極的な現政権は消極的な面もあるようです。

もっと言えば、そうした消費・投資刺激策で成長軌道に乗せるという資本主義的手法は、習近平主席の考えにそぐわない、「共産党」の存在意義をも失わせるという面も。

一方で、経済悪化に対する国民の不満が募れば体制を揺るがすことにもなりかねず、政権として放置もできません。

****景気回復は期待外れで不動産危機も...追い詰められた「中国経済」、なのに景気刺激策にも出られない訳****
<景気回復が遅れても大規模な財政出動には慎重。習近平政権の新たな経済政策は、社会の不安や市場の不満に耐え切れるか>
(中略)
共産党の政治的正統性
ただし、こうした(中央政府の経済回復に向けた)動きは実質的というよりレトリックにすぎない。大規模な景気刺激策が取られないことは、経済的苦境と向き合う中国指導部の決断力の限界を示唆している。

GDPの成長率は指導部が許容できる範囲で踏みとどまっており、社会不安は政治的に懸念されるレベルまで悪化していないというわけだ。

長い目で見れば、彼らは現在の難局を、経済の新常態(ニューノーマル)に向かうために必要な調整と捉えている。中国共産党は「新発展理念」の下、「成長第一」の考え方から脱却し、習が「資本の無秩序な拡大」と呼ぶものを「より質の高い」発展に置き換えようとしている。これは景気刺激策の引き金が引かれない理由の1つでもある。

しかし、そこにはもっと根本的な理由があるのではないか。最近の経済指標は、指導部にとって受け入れやすいというだけでなく、長期的な政治的利益に合致しているのだ。仮に中国経済が資本主義のメカニズムによって高成長に戻れば、「共産主義」を名乗る党の存在意義はますます疑わしくなるだろう。

中国の政治エリートは、「中所得国の罠」にはまることを懸念するより、国内の上位中流階級がますます拡大することに脅威を感じているようだ。個人や企業の富の創造に上限を設けることは、そうしなければ存在意義を失いかねない党の支配力を拡大する手段でもある。経済の拡大をせき止めることは、中国の政治経済システムの特徴であってバグではない。

確かに、中国指導部は経済の不振とそれに伴う社会不安に満足してはいない。ますます多くの若者や都市生活者が職を失い、キャリアや今後の人生に幻滅して、「躺平(タンピン)主義(諦め、寝転び主義)」が広がっている。現役世代の信頼を失うことが政治的正統性の危機に発展しかねないことを、指導部は知っている。

中国経済に関する不利な報道を抑圧
さらに、景気後退が中国政府に否定的な世論を招くことを懸念して、中国経済に関する不利な報道を抑圧しようとしている。(中略)

ただし、経済不振に対する世論を恐れて当局が大規模な景気刺激策に踏み切るとは限らない。現金給付のような措置は、持続可能性と「闘争」を強調する習の経済ガバナンスの精神に反する。富の移転は政治的なパワーバランスを国民の側に傾けるかもしれず、習の国家主義思想に反する。

こうした政治的論理は、少なくとも短期的には、中国指導部が大規模な景気刺激策を打ち出すことを牽制するはずだ。もちろん、より長期的な展望は定かではない。いずれ政府が大規模な財政・金融刺激策を実施するとしても、それは積極的な政策の方向転換によるものではなく、大規模な経済危機や社会の不満の高まりによって強制される可能性が高い。(後略)【8月30日 Newsweek】
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****中国経済再生を阻むイデオロギー欧米流の消費喚起に習氏が抵抗する理由****
中国の経済政策を動かすのは今やイデオロギーとなった。約50年前に西側に門戸を開いて以降、その傾向は最も強まっており、指導部は混迷する経済に活を入れるための有効な手を打てずにいる。

エコノミストや投資家らは、国内総生産(GDP)を押し上げるもっと大胆な取り組みを中国政府に求めている。(中略) だが最高指導者である習近平国家主席は、欧米流の消費主導による経済成長に対し、哲学的で根深い反対論を抱いている。政府の意思決定をよく知る複数の関係者はそう話す。

習氏はそのような成長は浪費が多く、中国を世界有数の産業・技術大国に育てるという自身の目標とは相いれないと考えているという。

習氏は中国の財政規律を守るべきだとの信念を持つ。同国が抱える重い債務を考えればなおさらだ。そのため米国や欧州のような景気刺激策や福祉政策を導入することは考えにくい、と先の関係者は言う。

市場志向を強め、数年かけて中央集権化を進めた経済を逆回転させることも、同様に考えにくい。中国は消費者向けインターネット企業などの民間企業への締め付け――この締め付けが民間投資の弱体化につながった――を最近緩和しているが、これらの企業を無秩序に拡大させることには依然として懐疑的だ。(中略)

党の目標に合致する政策
政府は最終的には、より積極的な刺激策を支持するかもしれない。特に5%前後という今年の成長率目標を大幅に下回るリスクが出てくれば、その可能性はある。エコノミストの一部が指摘するのは、政府が「ゼロコロナ対策」の解除を当初は拒否したものの、代償があまりに大きいと分かると突然、方針転換したことだ。

より可能性が高い選択肢として、インフラなど政府が望ましいと考える事業への支出拡大や、最近の数回の利下げに続くさらなる信用緩和が現在は考えられる。エコノミストや政府の考え方をよく知る複数の関係者はそう言う。

このような動きは、インフラ投資であれ、半導体や人工知能(AI)など共産党の目標を前進させる重点分野に資金を回すことであれ、政府が景気てこ入れの中心的役割を果たすことを望む政権の意向を反映する。(中略)

中国が待機姿勢を続ければ続けるほど、長引く停滞に陥る危険性は高まる。そうなれば中国は信頼できる世界の成長エンジンから世界経済のリスクへと転じる可能性がある。一部のエコノミストはそう警告する。(中略)

「福祉主義」への根強い懸念
個人消費に対する消極的な姿勢は何年も前から続いている。人々が貯蓄を減らし消費を増やすことを促す政策変更(例えば医療給付や失業手当ての拡大など)には当局が抵抗する。社会福祉への支出不足は、中国共産党が公言する目標とは矛盾する。共産党は国民に継続的な繁栄をもたらすことが党に正当性を与えるとしている。

シンガポール国立大学東アジア研究所のバート・ホフマン所長によると、中国の家計が社会保障制度から受け取る給付金はGDPの7%に過ぎず、米国や欧州連合(EU)の約3分の1にとどまる。

「需要拡大を目指す具体的な措置という点では、大したことは行われていない」。世界銀行で中国担当ディレクターを務めたホフマン氏はこう話し、「消極的態度はイデオロギーに基づくもので、中国を欧米流の福祉国家にしてはならないと習氏は繰り返し述べてきた」と指摘する。

習氏は演説や著作の中で、中国は外国への依存を減らすことに注力すべきだと説き、消費促進のために政府が家計を過剰に支えることはリスクが高いと警告してきた。22年に「求是」に掲載された記事では、地方政府が「行き過ぎた保証」をすれば、中国は「福祉主義」に陥りかねないと警告した。(中略)

香港大学の陳志武教授(金融学)によると、中国の政策立案者たちは長年、国有企業に資源を振り向ける方が、国民への現金配布よりも迅速かつ確実に成長を生み出せると考えてきた。消費者は国有企業よりも気まぐれで制御が難しく、たとえ現金を受け取っても支出を増やすかどうか定かでない、というのが彼らの見方だという。

また中国当局者は国際機関の担当者に対し、文化大革命の時代に習氏自身が乗り越えた数々の苦難――当時は洞窟で暮らしていた――が、緊縮から繁栄が生まれるという思想の形成に役立ったと話していた。

「中国からのメッセージは、欧米流の社会的支援は怠惰を助長するだけ、ということだ」。国際機関の会合でのやり取りを知る関係者はこう語った。【8月31日 WSJ】
************************

ただ、国民は「欧米流の社会的支援は怠惰を助長するだけ」「緊縮から繁栄が生まれる」といった習近平主席の考えに本心から共感して共産党支配を受入れている訳ではなく、現体制が自分たちの暮らしを豊かにしてくれたから支持している・・・逆に言えば、豊かさを実現してくれないなら現体制への信頼も揺らぐということにもなります。

そのことは共産党指導部も十分に理解していますので、理念と国民の期待との間でのバランスになります。
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関東大震災から100年 朝鮮人虐殺事件

2023-09-01 23:16:57 | 災害

(朝鮮の人々を保護するため、旧田島町の神社境内に設けられた小屋=「大正12年9月1日大震災記念写真帳」より(川崎市立中原図書館所蔵) 

“朝鮮人労働者を雇い、工員を派遣していた親方が暴徒から朝鮮人たちをかくまったり、旧田島町の助役が新田神社(川崎区渡田)に小屋を設け、約百八十人の朝鮮人を保護し、自警団が押しかけても守った記録もあった。”【2020年8月31日 東京】

当時まだ人口の少ない田舎だった川崎でも、朝鮮人殺害の記録の一方で、上記のような保護の動きもあったようです。

「日ごろから朝鮮人と付き合いがあった人たちは、簡単にデマを信じることなく、加害者にもならずにすんだ。犯罪をあおるヘイトスピーチと対峙していくヒントがある」【同上】)

【デマを信じて虐殺へ 背景には差別意識と独立運動への警戒感】
今日9月1日で、1923年9月1日11時58分に起きた関東大震災から丁度100年が経過しました。

絶え間なく地震災害に襲われている日本にあっては、特に、地震調査研究推進本部(文部科学省研究開発局地震・防災研究課)によると、甚大な被害が予想される南海地震の発生確率が今後30年以内で70~80%程度、50年以内は90%程度にも及んでいるとされるなかで、災害対策を改めて考える日でもありました。

(上記の発生確率を考えると、本来なら目の色を変えて対策に取り組むべきところでしょうが、政府にも、自分を含めた国民にもそうした緊張感がまったく見られないというあたりが・・・人間というのはそういうものなのでしょう)

100年前の関東大震災では、地震・火災・津波の被害だけでなく、不安で動揺する人々の間で「朝鮮人や共産主義者が井戸に毒を入れた」といった類のデマが流れ、それを信じた官憲や自警団などが多数の朝鮮人や共産主義者を虐殺するという二次的事件も発生しました。

この種の出来事によくあるように正確な犠牲者数は不明で、論者の立場によりその数は異なりますが、推定犠牲者数は数百名~約6000名とされています。【ウィキペディアより】

事件が起きた背景については、民族的な差別意識が当たり前のこととされるような社会にあって、当局側に朝鮮・台湾の独立運動への警戒感があったことも影響したようです。

なお、現代では少なくとも表向きは差別はよくないとされていますが、私の親世代、更に震災を経験したその上の世代にあっては、差別は極めて当然の感情であり、それを抑制するという意識はほとんどないように思われます。
そいう風潮の社会で流言飛語が流れたら・・・結果は想像に難くないようにも。

****震災時の背景****
当時の日本政府は地震発生前に発生した朝鮮の三・一運動や台湾の大規模デモを流血鎮圧した経験から、これら統治領の独立運動を行う一部の民衆の抵抗に警戒感を抱いていた。

当時の朝鮮人への無理解と民族的な差別意識も背景として考えられる。

日本国内では大正デモクラシーによって労働運動・民権運動・女性運動など支配権力に対する社会主義者らの抵抗・権利拡大運動の活性化と、それに対抗する保守的勢力の急伸、首相暗殺や恐慌による政治経済への不安から社会体制が揺らいでいた。

また、国外でもイギリス・アメリカとの対立、シベリア出兵の大失敗などから国際的な孤立化を深めつつあり、関東大震災はいわば内憂外患の状態に追い打ちをかけるように起こった大災害だった。

山本内閣は9月7日に治安維持令を公布した。この戒厳令が解除された11月15日までの東京・神奈川・埼玉・千葉の被災地1府3県民の市民的・政治的自由が停止した状態の中で、大震災発生直後の9月1日午後3時以降、東京や横浜などで「社会主義者及び鮮人の放火多し」「不逞鮮人暴動」といったデマが発生していったが、デマの中には警察や軍が流したものもあった。

これらの報道や伝聞による噂に接し不安を煽られた各地の民衆や有志によって自警団が結成されたが、中には地域の管轄警察の主導・指導で組織された自警団もあった。

これら自警団の一部によって朝鮮人・日本人・中国人らが虐殺されていった。

陸軍や警察はこの混乱を奇貨として社会主義者や労働運動家らの抹殺を画策し、10名が軍隊に虐殺された亀戸事件および無政府主義者が憲兵大尉らに殺害された甘粕事件が実行されたが、こうした「白色テロ」に対する責任追及や批判は低調だった。

当時の社会にとっては治安維持と被災者救援活動の一環であり、軍や政府や警察が威信を取り戻したとして歓迎される状況になっていた。【ウィキペディア】
*********************

【民団主催式典 初めて日韓国会議員が参列】
東京では在日本大韓民国民団(民団)による朝鮮人虐殺の犠牲者を追悼する「殉難者追念式」が催されました。

****関東大震災の朝鮮人虐殺 東京で追悼式典開催=韓日国会議員ら出席****
在日本大韓民国民団(民団)東京本部は1日、東京都内で関東大震災当時に起きた朝鮮人虐殺の犠牲者を追悼する「殉難者追念式」を開催した。

関東大震災から100年を迎え、在日韓国大使館と在外同胞庁が後援した今年の式典には初めて韓日の政治家が出席し、例年に比べ大きな規模で開かれた。

朝鮮人虐殺を公式に認めていない日本政府の関係者の姿はなかった。

韓国からは超党派の国会議員でつくる「韓日議員連盟」の会長を務める与党「国民の力」の鄭鎮碩(チョン・ジンソク)議員と幹事長である最大野党「共に民主党」の尹昊重(ユン・ホジュン)議員、幹事である国民の力の裵賢鎮(ペ・ヒョンジン)議員が出席した。

日本からは鳩山由紀夫元首相、山口那津男・公明党代表、福島瑞穂・社民党党首、逢坂誠二・立憲民主党代表代行、額賀福志郎・日韓議員連盟前会長、武田良太・日韓議員連盟幹事長らが会場を訪れた。

献花台の両側には、日韓議員連盟会長を務める菅義偉元首相と韓悳洙(ハン・ドクス)首相からの花輪が並べられた。

民団は「関東大震災当時の韓国人に対する大量虐殺の悲劇は天災であると同時に人災だった」と指摘。数千人の韓国人が虐殺されたが、国を奪われた状態だったため抗議はもちろん調査を要求することもできなかったと強調した。

民団東京本部の李寿源(イ・スウォン)団長は「悲惨な受難の歴史は絶対に忘れてはならない」として犠牲者に哀悼の意を表した。

また、日本政府の中央防災会議が作成した関東大震災の報告書に「過去の反省と民族差別の解消の努力が必要なのは改めて確認しておく」と明記されているとして、韓日両国の平和と共存に希望を示した。

尹徳敏(ユン・ドクミン)駐日大使は、犠牲になった韓国人の正確な数は確認されていないとしながら「数字を問わず、関東大震災当時に韓国人が無念に犠牲となった事実は誰も否定できない歴史だ」と述べた。

続けて、不幸な歴史は二度と繰り返されてはならないとし、「ありのままの歴史を直視すれば、韓国と日本は真のパートナーとして未来志向的協力を持続し、世界平和と繁栄に共に寄与できるだろう」との考えを示した。

一方、尹大使と李団長は約6000人が命を奪われたと推算される朝鮮人虐殺を認めない日本政府に明確に真相究明を求めることはせず、犠牲者の追悼と両国の相互理解を強調した。

鳩山元首相は追悼式に出席後、記者団に対して日本は朝鮮人虐殺をきちんと調査し、過去の過ちに対して謝罪の気持ちを持たなければならないと述べた。【聯合ニュース】 
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“今回は、初めて日本と韓国の国会議員が参列した”というのは、韓国・伊政権のもとで進む日韓関係改善を反映したものでしょう。

【松野官房長官「政府内において事実関係を把握する記録が見当たらない」】
歴史の「常識」とも思われる朝鮮人虐殺事件ですが、日本政府は“朝鮮人虐殺を公式に認めていない”ということで、松野博一官房長官は「政府内において事実関係を把握する記録が見当たらない」と述べています。

****関東大震災での朝鮮人虐殺「記録ない」と発言 日本に対し「必要な措置検討」=韓国政府****
韓国外交部の任洙ソク(イム・スソク)報道官は31日の定例会見で、日本政府が1923年の関東大震災当時に起きた朝鮮人虐殺について「記録が見当たらない」としたことについて、「韓国政府はこれまでさまざまな機会に日本に対して過去を直視するよう促した」として、政府として必要な措置を引き続き検討するとの立場を示した。

また、政府は関東大震災に関して日本側に真相調査の必要性を提起し、真相究明のための資料提供を要請したと説明した。

日本の松野博一官房長官は30日の記者会見で、朝鮮人虐殺について「政府内において事実関係を把握する記録が見当たらない」と述べた。また、災害の発生時に国籍を問わず全ての被災者の安全と安心を確保するために努力することが非常に重要な課題だと認識していると述べたが、反省や教訓という言葉はなかった。【8月31日 聯合ニュース】
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“論者の立場により認識が異なる”この種の問題ではありますが、被害者とされる側からすれば「記録が見当たらない」で済まされると納得がいかないところでしょう。
北朝鮮の拉致問題で、同様の対応に日本人がどのように感じるか・・・。

日本との関係重視に力点を移している伊政権は上記のような対応ですんでいますが、反日傾向が強い野党は反発を強めています。

****日本責任逃れ、韓国政府は無関心 関東大震災直後の朝鮮人虐殺****
韓国国会で関東大震災直後に起きた朝鮮人虐殺の真相を究明するための特別法制定を目指す最大野党「共に民主党」の柳基洪議員らが1日、ソウルで記者会見し「日本政府の責任逃れと韓国政府の無関心」を批判した。柳氏らは「100年の無責任に終止符を打つべきだ」として早期の可決、成立を訴えた。

法案は、首相直属の調査委員会を設置し、「朝鮮人が井戸に毒を入れた」といった流言飛語がもとで殺された被害者の名誉回復などが柱。与野党議員100人の連名で3月に提出された。

市民団体幹部は「政府と国会は今まで何をしてきたのか」と批判。「真実が分からなければ(日韓の)和解と許しに至らない」と話した。【9月1日 共同】
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犠牲者数について多くの幅のある考え方があるということと、そういうことがあったのかどうかという認識は別物のように思えるのですが。

最近観たTV番組だったかどうか忘れましたが、出演者が「歴史とは自国の失敗を学ぶことだ。どうして間違えたのか。再び繰り返さないためにはどうすればいいのか・・・」といった趣旨のことを述べていました。

日本に限らず、どの国も自国の過去の過ちに向き合うのは非常に困難なことです。ただ、「なかったこと」にしてしまっては、同じ過ちを繰り返すことになります。

SNSが発達した今日、流言飛語・デマ・フェイクが飛び交う環境は、以前にもまして危険なものになっています。

混乱時における集団の“狂気”は、多くの悲劇を産みます。なかには朝鮮人と疑われて殺害された日本人も。
8月30日のNHKクローズアップ現代は、そうした「福田村事件」を取り上げていました。

****福田村事件とは****
内閣府中央防災会議の専門調査会の報告書によると、当時、関東地方各地では「朝鮮人が井戸に毒を入れた」「火をつけた」などの流言(デマ)が広がり、多くの朝鮮人や中国人が民衆や軍、警察によって殺傷されました。

関東大震災から5日後の大正12年9月6日、甚大な被害が出た都心部からおよそ30キロ離れた千葉県福田村。香川県から来ていた薬売りの行商の一行が神社で休憩していたところ、地元の自警団に言葉や持ち物などから、「朝鮮人ではないか」と疑われ、幼い子どもや妊婦を含む9人が命を落としました。

事件後、殺害を主導した自警団の8人が有罪判決を受けたものの、その後、大正天皇の崩御に伴う恩赦で釈放されています。【NHK】
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朝鮮人と疑われた日本人ですら犠牲になるような当時の空気ですから、実際の朝鮮人がどういう状況に置かれていたかは・・・・。

コメント
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