孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

台湾  総統選挙の立候補締め切りの24日を控えて、揺れる野党統一候補選び

2023-11-20 22:04:50 | 東アジア

(【11月15日 TBS NEWS DIG】(左から)国民党の朱立倫主席、侯友宜新北市長(国民党候補)、馬英九前総統、民衆党の柯文哲前台北市長(民衆党候補) 15日時点では野党統一候補選定で合意したとのことでしたが・・・)

【習近平氏 軍事侵攻を計画しているとの見方を否定するも、“中国にとっては当たり前のことを言ってるだけ”とのも】
注目された今月15日に実現したバイデン大統領と習近平国家主席の1年ぶりとなる対面での会談は、軍同士の対話再開や薬物対策の協力での合意といったこともありますが、全体的な評価としては、その合意内容よりは、とにもかくにも両者が対面で会談することで、これまでマイナスのレベルにあった両国関係をとりあえずゼロレベルに戻したことに意義があるとも指摘されています。

そうしたなかで、会談の議題となったのが台湾をめぐる問題。 もちろん、中国にとって台湾統一は中国にとって核心中の核心の最大問題ですからそうそうこれまでと異なる踏み込んだ話がでるはずもない問題です。

基本的には、両者が互いの主張を述べたといったところ。
“習氏は数年内の台湾に対する軍事行動を計画していないと述べ、バイデン氏を安心させようと努めたが、武力を行使する可能性のある条件に言及。”【11月16日 Newsweek】

“数年内”云々は、“中国が台湾に関し2027年や35年に軍事行動を起こすことを計画している”といった最近アメリカで報じられているような話を受けての発言です。

****習氏、台湾侵攻計画を否定 米中会談で平和統一目指す姿勢****
中国の習近平国家主席はサンフランシスコ近郊での15日の米中首脳会談で、中国が台湾への軍事侵攻を計画しているとの見方を否定した。米政府高官が16日までに明らかにした。

習氏は台湾統一のため武力行使を放棄しない方針を示しているが、会談では平和統一を目指す姿勢を強調した。

習氏は会談で、中国が台湾に関し2027年や35年に軍事行動を起こすことを計画しているという米国での報道を把握していると言及。「そうした計画はなく、誰もこれについて私に話したことはない」と語ったとされる。少しいらだった様子だったという。

米中両政府によると、習氏はバイデン大統領に台湾への武器支援をやめて平和統一を支持するよう要求。その上で中国は台湾を「必ず統一する」と決意を示した。バイデン氏は「一方的な現状変更に反対する」との米国の立場を改めて伝え、台湾周辺での軍事活動の自制を習氏に促した。

習氏は中国共産党総書記として3期目入りを決めた昨年の党大会で台湾統一を目標に掲げ「武力行使の放棄は約束しない」と明言した。【11月17日 共同】
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特別これまでの立場を変えたものではないようです。“中国にとっては当たり前のことを言ってるだけ”とも。

****米との首脳会談で中国が得たものは? 台湾問題めぐる発言の意図…北京支局長に聞く****
(中略)
――アメリカ側によると、習主席は「台湾に大規模侵攻する準備はしていない」と述べたということですが、その意図とは?

少し踏み込んだように聞こえますが、中国にとっては当たり前のことを言ってるだけです。現時点で、まだアメリカ軍に勝てるとは思っていないはずだからです。

ただ、アメリカと台湾を挟んで緊張を高めるのは得策じゃないとして、あえて発言した可能性があります。ただ、国内向けには強いポーズを示す必要があるので、中国メディアはこの発言、一切触れていません。【11月16日 日テレNEWS】
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【揺れる野党統一候補選定】
こうした状況で来年1月13日に行われる台湾総統選挙。もし野党候補が勝てば、これまでより中国との対話を重視する方向に大きく変化することも予想されおり、台湾だけでなく、今後の米中関係、日中関係にも大きく影響します。

台湾を領土の一部と主張する中国は、与党・民進党を「台湾独立派」と見なし敵視しています。
当然ながら、中国に厳しい姿勢をとる与党の敗北を期待する中国も総統選挙に最大の関心を払っているところですが、バイデン大統領は習近平国家主席に対して台湾総統選に「介入しないよう警告した」と明らかにしています。

その台湾総統選挙は与党候補の頼清徳(らい・せいとく)副総統がトップを走ってはいますが、野党側が統一候補に絞れば形勢逆転するという微妙な情勢。

前回取り上げた10月30日ブログ“台湾総統選挙  野党候補一本化を目論む中国の介入か 総統選挙と議会選挙の“ねじれ”予測も”の時点では、野党統一候補の調整は難しいのではというのが大方の見方でした。

その後、状況は一変。15日に統一候補擁立で話がまとまったという報道が。

****台湾総統選、野党勢力が候補一本化合意 与党優勢、変わる可能性****
来年1月に行われる台湾総統選挙で、最大野党の国民党と第三勢力の台湾民衆党は15日、総統候補を一本化することで合意したと発表した。

与党・民進党の候補となる頼清徳(らい・せいとく)副総統が支持率でトップを走る中、劣勢の野党勢力が手を結んだことで選挙情勢が変わる可能性がある。

総統選では、国民党が侯友宜(こう・ゆうぎ)・新北市長、民衆党は前台北市長の柯文哲(か・ぶんてつ)・主席(党首)を擁立し、頼氏らと事実上の選挙戦に入っている。

15日は両氏と朱立倫・国民党主席が台北市内の馬英九前総統(国民党)の事務所で協議した。両党の合意内容によると、今後、複数の世論調査をもとに専門家が支持率を分析。高い方を総統候補、もう一方を副総統候補にする。結果は18日に発表する。

両党は「民進党下野」を掲げて選挙協力協議を続けていたが、支持層の違いなどから候補の一本化は困難との見方が強かった。20日〜24日に総統選の候補者登録が迫る中、双方が歩み寄った形だ。

ただ、柯氏は民進党と国民党の2大政党の枠組みを批判することで若者らから支持を集めてきた経緯がある。国民党内にも柯氏への不信感を持つ支持者が一定数いるため、順調に協力が進むかは予断を許さない状況だ。【11月15日 毎日】
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老舗政党で中国寄りとされる国民党の侯友宜(こう・ゆうぎ)・新北市長、既成政党を批判して若者らの支持が強い第三勢力民衆党の前台北市長の柯文哲(か・ぶんてつ)・主席(対中姿勢では、与党・民進党と野党・国民党の中間的な感じで、とにかく現状維持をめざす立場)のいずれに一本化されるのか・・・18日の発表が注目されていました。

****台湾総統選 「野党統一候補」世論調査で与党側を10ポイント以上上回る 統一候補は明日発表****
来年1月投開票の台湾総統選挙に向け野党側は候補者を一本化すると発表しましたが、最新の調査では与党側を10ポイント以上リードする結果となっています。

台湾メディア「鏡新聞」は、総統・副総統候補として▼最大野党・国民党の侯友宜氏、民衆党の柯文哲氏のペアと▼与党・民進党の頼清徳氏、アメリカ大使に相当する「台北駐米経済文化代表処」蕭美琴代表のペアのどちらに投票したいかを市民1000人以上を対象に調査しました。

その結果、野党側が46.5%で与党側を11.6ポイント上回りました。

柯文哲氏が総統候補、侯友宜氏が副総統候補という組み合わせでも46.6%で、こちらも野党側が13.5ポイント上回る結果となりました。

これまでの「鏡新聞」の調査では頼清徳氏がリードしていましたが形勢が逆転した形です。

野党側の統一候補予定者は、専門家らが複数の世論調査を分析したうえで18日発表される予定です。【11月17日 TBS NEWS DIG】
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ところが、再び状況は一転。18日になっても統一候補が決まらない・・・

****台湾総統選、野党統一候補の発表見送り 選出方法合意できず****
来年1月に行われる台湾総統選挙で、18日に予定されていた最大野党・国民党と第三勢力の台湾民衆党による統一候補発表が見送られた。

先行する与党・民進党対策として、国民党と民衆党は15日に、独自に擁立している候補を一本化することで合意したばかりだが、統一候補の選出方法を巡る意見の相違が表面化。両党は協議を続けるとしている。

両党は15日の合意で、国民党が擁立する侯友宜(こうゆうぎ)・新北市長と民衆党から出馬する前台北市長の柯文哲(かぶんてつ)・党主席(党首)のうち、どちらを総統候補とした方が支持率が高いかについて複数の世論調査の結果から判断すると決め、18日午前に発表することになっていた。

だが両党関係者が17日夜に行った世論調査の分析会議で、統計上の誤差についての取り扱いで意見が一致せず、物別れに終わったという。

総統選では20〜24日に立候補の届け出が行われる。【11月18日 毎日】
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両者は各種世論調査でも支持率がほぼ同レベルにあるだけに、判断が難しいところ。

専門家3人が最近出た六つの世論調査結果について、国民党候補と民衆党候補に対する世論の支持率を精査した結果、国民党はうち五つの調査で勝ったと主張。一方の民衆党は、調査結果の誤差の扱いが不当だとし、3勝3敗になるはずだと反発しているとも報じられています。

そういう“誤差”レベルの争いですが、単純な世論調査結果の数字であれば15日時点でも分かっていた話で、そこらをどのように話を詰めたのか・・・と訝しく感じるところもあります。

長く台湾政治をリードしてきた国民党としては、新勢力・民衆党の補完にまわるのはプライドが許さないし、近年党勢が低迷するなか今後の展望が開けません。
一方、既成政党を批判して支持を拡大した柯文哲氏としては、国民党を補完する選択は支持者を失う危険も。

立候補の届け出は24日まで。再々度の情勢一変があるのでしょうか。
勝つためには副総統でもかまわないと判断して総統を譲るのか、総統になれないのなら単独候補で争った方が、たとえ負けても次につながる、あるいは議会選挙に有利に働く・・・と判断するのか、もう数日チキンレースが続くようです。

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太平洋島しょ国で繰り広げられる米中の陣取り合戦

2023-11-19 22:20:36 | オセアニア

(【e-food】)

【太平洋島しょ国の現状を反映したソロモン諸島での総合競技大会】
太平洋島しょ国がアメリカと中国の陣取り合戦のような勢力争いの主戦場のひとつになっていることはこれまでも度々取り上げてきました。

今のところ中国陣営の中核的存在がソロモン諸島。ソロモン諸島は昨年台湾と断交して中国と国交を結び、更に中国と安全保障協定を結んで中国の警察官も常駐しています。もちろんオーストラリアなども中国の影響力拡大に対抗しようとしています。

そのソロモン諸島で開催された南太平洋諸国が参加する総合競技大会「パシフィックゲームズ」は、さながらこの地域で繰り広げられる「陣取り合戦」の縮図のような様相です。

****ソロモン諸島で総合競技大会開幕 裏では地域内の影響力争い顕著****
南太平洋諸国が参加する総合競技大会「パシフィックゲームズ」が19日、ソロモン諸島で開幕した。

首都ホニアラのメインスタジアムなど七つの関連施設を中国の援助で建設。警備のために中国、オーストラリア、ニュージーランドがそれぞれ警察官を派遣するなど、大会裏で起こる地域内の影響力争いに注目が集まっている。

サッカーやラグビーなどの試合が行われる同大会は1963年に始まり、4年に1度開かれる。今回は12月2日まで24カ国・地域から集まった約5000人のアスリートが競う。19日は1万席あるメインスタジアムで開幕式があり、多くの観客が集まった。

同スタジアムを巡っては2017年、ソロモン諸島と当時外交関係があった、台湾の援助で建設することで合意した。しかしソロモン諸島は19年に台湾と断交し、中国と国交を樹立。スタジアムの建設も中国に取って代わった。

豪州や日本も援助をしているが、大会運営にかかる直接費用2億2000万ドル(約331億1670万円)のうち、半分以上を中国が援助しているとみられている。

中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報(英語電子版)によると、スタジアムは、南太平洋島しょ国における中国の最大規模のインフラ支援。今年8月の引き渡し式で、李明・駐ソロモン中国大使(当時)は「(スタジアムは)中国とソロモン諸島の友情のシンボルだ」と表明。同地域における中国の存在感を象徴するものとなった。

またソロモン諸島は10月末、今大会の警備に向け、国内にいる中国の警察官が増員されると発表した。人数は明らかにしていないが、中国から金属探知機や制服も提供されたという。

これに対し、中国の影響力拡大に懸念を示す豪州はソロモン諸島に駐在する警察部隊を100人増員。ニュージーランドも治安部隊を90人増派するなど、大会を巡り地域内の影響力争いが激しくなっている。【11月19日 毎日】
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【アメリカと島しょ国首脳の会議を一蹴したソロモン諸島 「説教」は聞きたくない】
地域全体の「陣取り合戦」の状況について言えば、「一帯一路」で資金を注ぎ込む中国に対し、アメリカも9月25、26日にホワイトハウスで太平洋島しょ諸国との首脳会議を開催し、関係強化を図っています。

****バイデン氏、太平洋島嶼諸国と首脳会議 中国にらみ関係強化****
バイデン米大統領は25日、ワシントンのホワイトハウスで太平洋島嶼(とうしょ)諸国との首脳会議を開く。首脳会議は同地域への影響力拡大を図る中国をにらみ昨年9月に初開催しており、今回で2回目。バイデン氏は島嶼諸国への関与と協力拡充を改めて表明して関係強化を図り、中国を牽制(けんせい)する。

バイデン氏は25日午前に島嶼諸国首脳らをホワイトハウスに迎えて会議を開き、昼はワーキングランチで議論する。
午後はケリー米大統領特使(気候変動問題担当)と島嶼諸国首脳らとの会合やブリンケン米国務長官主催の夕食会などが開かれる。

一連の日程は26日までの2日間。気候変動問題や経済成長の促進、違法漁業への対処など同地域の優先課題における協力を協議する。

初開催となった昨年の首脳会議では、バイデン政権が海洋安全保障や貿易促進などのために計8億1千万ドル(約1200億円)の支援を実施すると発表。影響力拡大を図る中国に対抗していく姿勢を鮮明にした。

また島嶼諸国との連携に向けた戦略文書を打ち出し、「中国の圧力と経済的威圧が同地域の平和と安定を損ねている」と名指しで批判した。

島嶼諸国との対話を巡っては、バイデン氏が今年5月に広島で開かれた先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)後に南太平洋のパプアニューギニアを訪問し他の島嶼諸国首脳とも会談する予定だったが、米国の内政問題で中止していた。【9月25日 産経】
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このアメリカの思惑を一蹴したのが中国より姿勢を強めるソロモン諸島。アメリカの「説教」を聞く気はないと。

****ソロモン首相、米主催のサミット欠席 「説教」無用****
南太平洋の島国ソロモン諸島のマナセ・ソガバレ首相は27日、ジョー・バイデン米大統領がホワイトハウスで25日に主催した米・太平洋諸島フォーラム首脳会議(サミット)を欠席したことについて、「説教」を避けるためだったと主張した。

親中派のソガバレ氏は先週、国連総会のため米ニューヨークを訪れていたが、滞在期間を延長して同サミットに出席することはなかった。

ホワイトハウス関係者は、「われわれは、この非常に特別なサミットを欠席するというソガバレ氏の選択に失望している」と語っていた。

ソガバレ氏は27日夜の帰国会見で、「私に説教するつもりでいる人々の話を座って聞くつもりはない。あり得ない」と発言。重要な立法議案をはじめとする国内問題への対処の方が「重要」だとも述べた。

昨年の米PIFサミットには出席したソガバレ氏は、「こうした会議がどのように進行するかといえば、彼ら(米国)から3分間話す時間を与えられた後、説教され、彼らがいかに優れているかを得々と聞かされる」「彼らは今こそ、太平洋諸国、そして世界中の指導者たちを尊重しなければならない。戦略を変える必要がある」と主張した。

ソガバレ氏は、オーストラリアと中国、韓国での扱いは米国とは違い、首脳たちとそれぞれ1時間の会談を行ったと語った。

ソロモンでは2019年4月にソガバレ政権が発足。同政権は同年9月、台湾と断交し中国と国交樹立。中国から巨額の援助と投資を引き出した。今年7月には、中国と警察協力協定を結び、2025年まで中国警察要員の駐留を認めた。 【9月28日 AFP】
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単に陣取り合戦というより、「民主主義的価値観」を上から目線で“遅れた国”に押し付けようとする姿勢がありがちなアメリカへの反感も強いようです。逆に言えば、そんな説教をしないところが中国の特徴。

【オセロのように黒白がひっくり返るバヌアツ 両方から支援を引き出したいフィジー】
米中の「陣取り合戦」と言うか、オセロゲームのように白になったり、黒にひっくり返ったりしているのがバヌアツ。

バヌアツは昨年12月、オーストラリアと災害救助や防衛、治安などで協力するための安全保障協定を結びましたが、これに野党が反発してカルサカウ首相の不信任決議案を提出。カルサカウ首相は9月に失職し、中国寄りとされるキルマン元首相が新首相に返り咲きました。

しかし、その親中派キルマン首相も・・・

****バヌアツの親中派首相、1カ月で失脚=後任に元職サルワイ氏****
南太平洋の島国バヌアツの国会で6日、親中派のキルマン首相に対する不信任案が可決された。

9月上旬に就任したキルマン氏はわずか1カ月で失脚した。後任には野党が推したサルワイ元首相が選出された。今年3人目の首相となる。【10月6日 時事】 
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バヌアツの国内事情は全く知りませんが、親米か、親中かということは、国内の権力闘争・勢力争いの表向きの看板なのかも。

島しょ国側としては、米中の「陣取り合戦」を利用して、できれば双方から最大限の支援を引き出したいところ。

****フィジー首相「一帯一路を支持」=中国主席と融資協議****
太平洋の島国フィジー政府は17日、ランブカ首相が中国の習近平国家主席と、米サンフランシスコで現地時間16日に会談したと発表した。ランブカ氏は中国の巨大経済圏構想「一帯一路」への支持を表明。両首脳はフィジーの港湾、造船所、道路の整備に関連し、中国からの融資について協議した。

島しょ地域では米中両国の覇権争いが激化しており、習氏はアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の機会を利用してフィジーへの接近を図った。フィジーは米国やオーストラリアとも関係強化を進めているが、中国からの経済支援も引き続き得たい考えだ。【11月17日 時事】 
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【バラまきから重点投資に切り替えた中国】
一方、「説教」することなく資金を気前よくバラまいてきた中国にも変化が。資金的に余裕がなくなったのか、重点投資に切り替えたようです。

****中国は南太平洋諸国への金のばらまきをやめたのか?―独メディア****
2023年10月31日、独国際放送局ドイチェ・ヴェレ(中国語版)は、オーストラリアのシンクタンク「Lowy Institute」のレポートを引用し、太平洋地域への影響力を米国やオーストラリアと競っている中国が、クック諸島やフィジーなどの太平洋諸国への援助額を減少させていることを伝えた。

記事は初めに、「Lowy Institute」が31日付で公開した最新レポートの内容について紹介した。

「2008年以来、中国はクック諸島やフィジーなど、主に国交を結んでいる太平洋地域の国々に39億ドル(約5876億円)の金銭的援助を提供してきたが、16年にピークを迎えた後は下降傾向にあり、今では地域全体の総援助額の割合で、40%を占めるオーストラリアやアジア開発銀行(ADB)に次いで、9%の第3位になっている」ことや、「『Lowy Institute』のライリー・デューク研究員は、米AP通信の取材に対し、中国と太平洋諸国間の貸借勘定で、特にインフラ整備への融資への興味が下降している点から中国が米国やオーストラリアなどとの間の援助競争で負けたのは明らかだと指摘している」ことに加えて、「AP通信は、中国の援助が下降している主な原因として、トンガのように中国への負債を抱えた各国が、中国資金への興味を失ったためだと分析している。

先に米国が『中国の資金は財政的に豊かではない国にとって債務のわなだ』と警告したように、各国の主権を脅かしている」と伝えた。

次に記事は「中国の海外援助の減少傾向は、太平洋地域に限ってのことではない。特に新型コロナ流行後の中国は、海外での大規模なインフラ整備や融資計画を基本的に放棄している」として、「一帯一路を提唱し始めた13〜19年の7年間、太平洋諸国に対する中国の援助計画の規模は平均約4000万ドル(約60億円)だったが、近年は平均約500万ドル(約7億5340万円)にまで減少している。中国からの融資支出総額はコロナ前に2億8500万ドル(約430億円)だったのが、21年には2億4100万ドル(約363億円)にまで落ち込んでいる」と説明した。

記事は「21年11月に習近平国家主席は『一帯一路の次の段階』の原則として、専門的なリスク管理を重視し、中国企業やその関連組織が『小規模だが素晴らしい(small but beautiful)』プロジェクトを優先的に考慮すると述べた。また、今月の第3回一帯一路国際協力サミットフォーラムでも、習主席は『質の高さ』を基本とし、象徴的なプロジェクトや小型の民生プロジェクトを推進することを強調している」として、「援助規模や金額が減少しても、中国が太平洋地域への関与をやめることを意味しているわけではない。例えば、中国は19年に台湾と断交したソロモン諸島やキリバスへの援助を増やしたように、リスクを避けて、政治関係を確固たるものにし、資本回収を高めるための援助方針の転換を意味している」と論じた。【11月2日 レコードチャイナ】
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記事にもあるように、従来のバラまき的なインフラ投資から、選別的な「質の高い」投資へ路線を変えているのは、太平洋地域に限ってのことではなく、「一帯一路」全般に言える変更です。

太平洋島しょ国にあって重点国とされているのはソロモン諸島とキリバスのようです。

****ソロモンやキリバスを重点支援=中国の島しょ国援助―豪研究所調査****
オーストラリアのシンクタンク、ローウィー国際政策研究所は31日、太平洋島しょ国への経済援助に関する調査結果を公表した。この中で、中国が2019年に国交を樹立したソロモン諸島やキリバスに重点的に資金を拠出していることが分かった。中国の経済状況が厳しくなる中、島しょ地域への影響力拡大を戦略的に図っているもようだ。

調査によると、中国の島しょ地域全体への援助額は21年に約2億1700万米ドル(約320億円)だった。このうち、ソロモンに約4100万ドル(約61億円)、キリバスに約4000万ドル(約60億円)を拠出した。

各国や国際機関による島しょ地域への援助合計に占める中国の援助額は6%にとどまる。しかし、ソロモンに関しては10%、キリバスは16%に達している。

コロナ禍などによる景気減速に伴い、中国の島しょ地域への援助はピークだった16年の約3億8400万ドル(約570億円)から減少。それでも中国は22年にソロモンと安全保障協定を結ぶなどして米国と覇権争いを展開している。同研究所は「中国は援助の的を友好国に絞り、戦略的に進めている」との見方を示した。【10月31日 時事】
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ロシア  見せかけの「安定」 力で封じ込めれた戦争反対の声 膨大な戦費の一方で疲弊する社会

2023-11-18 23:21:23 | ロシア

(ロシアで9日、開演直前のライブ会場に治安部隊が突入した。その理由は、バンドのリーダーがプーチン政権を批判したためだった。【11月18日 FNNプライムオンライン】)

【戦争停止・和平を求める少なからぬ世論】
戦争遂行が大変なのはどこの国も同じ。どんな大義を掲げた戦争でも、国内では不満や厭戦感が高まります。
ウクライナでも。

****徴兵逃れ、2万人出国か 英報道、ウクライナから****
英BBC放送は17日、ロシアの侵攻を受けるウクライナで、約2万人の男性が徴兵を逃れるために国外に出国したと報じた。

一方で約2万1千人が出国に失敗しウクライナ当局に拘束されたとした。川を泳いで渡ったり、暗闇に紛れて徒歩で国境を越えたりして逃れているという。

米当局者は8月、ウクライナ軍の死者数は7万人に達するとの推計を示した。侵攻長期化で犠牲者が増え続ける中、兵員の確保が喫緊の課題になっているが、徴兵逃れや関連する汚職の問題が深刻化している。

BBCによると、ウクライナに隣接するポーランド、ルーマニア、ハンガリーなど5カ国の不法入国の記録から判明した。【11月17日 共同】
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7万人が犠牲になり、国土が戦場となっているのですから当然でしょう。

ウクライナについては取り上げる機会も多いので、今日は相手国ロシアの事情。

ウクライナと違って国土が戦場になっている訳ではありませんが、ウクライナのように国土防衛といった明確な戦争目的がなく、しかも“人海戦術”的な作戦で多大な死傷者を出していると思われます。

ロシアのウクライナ戦争での犠牲者数はよくわかりません。
“ウクライナ軍参謀本部は29日、ロシアの侵略開始以降、露軍の死者が27万7660人に上ったと発表した。”【9月30日 読売】
“NYTによると、ロシア軍の死傷者は30万人に近づいており、このうち死者は最大12万人、負傷者は17万─18万人に達しているもよう。”【8月19日 ロイター】

数だけでなく、ワグネルのような傭兵や受刑者などがどれくらい含まれているのかによっても社会的な影響は違ってきます。

****「価値観、文化守る戦い」 ロシア大統領、侵攻を正当化****
ロシアのプーチン大統領は3日、ウクライナで続けている軍事作戦により「われわれは自らの道徳的価値観や歴史、文化を守っている」と述べ、国の独立を懸けた歴史的な戦いと位置付けて侵攻を正当化した。4日の祝日「国民統一の日」を前に、モスクワで開かれた国の諮問機関「社会評議会」メンバーとの会合で語った。

プーチン氏は、2014年にウクライナの親ロ派政権が暴徒化した野党側デモで倒されなければ、ロシアによるクリミア半島併合も「なかっただろう」と指摘。その後に起きたウクライナ東部のロシア系住民とウクライナ政府軍の交戦を念頭に、昨年2月の侵攻開始以前にロシアは「攻撃されていた」と主張した。【11月4日 共同】
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「価値観、文化守る戦い」・・・・それで10万、20万人といった犠牲者が出ていることに国民は納得するのでしょうか。

世論調査によれば、(ロシアのような自由が制約される社会でどこまで本音を引き出す調査が可能なのかは知りませんが)戦争停止を求める声が少なからずあるようです。

****ウクライナ戦争の停止、露国民7割が支持 露世論調査*****
「仮にプーチン大統領がウクライナとの戦争停止を決めた場合、その決定を支持するか」とロシア国民に尋ねたところ、70%が「決定を支持する」と回答したことが、露独立系機関「レバダ・センター」の10月の世論調査で分かった。

プーチン政権は従来、「国民の大多数がウクライナでの軍事作戦を支持している」と主張してきたが、今回の調査結果は露国民内での厭戦(えんせん)機運の高まりを示唆した。

レバダ・センターは10月19〜25日、18歳以上の露国民約1600人を対象に世論調査を実施。結果を31日に公表した。

それによると、冒頭の質問に対し、37%が「完全に支持する」と回答。「おおむね支持する」とした33%を合わせると計70%が戦争停止を支持した。一方、「あまり支持しない」は9%、「全く支持しない」は12%で、9%は「回答困難」とした。

レバダ・センターは同時に「仮にプーチン大統領がウクライナとの戦争停止と、併合したウクライナ領土の返還を決めた場合、その決定を支持するか」との質問でも世論調査を実施。

この質問形式の場合、「完全に支持する」「おおむね支持する」とした回答者の割合は計34%まで低下した。反対に「あまり支持しない」「全く支持しない」との回答は計57%に上った。残りは「回答困難」だった。

半数超の露国民が領土の返還を条件とした戦争の停止は支持できないと考えていることが明らかになった形だ。【11月2日 産経】
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****ロシア人のほぼ半分が和平交渉を望む 世論調査****
ロシア人のほぼ半数がウクライナとの和平交渉を求めていることが世論調査で分かりました。戦争継続を支持する人を始めて上回りました。

世論調査はロシアの独立系調査会社「ロシアンフィールド」が10月21日から29日にかけて電話で行われ、1611人が回答しました。

ほぼ半数の48%のロシア人がウクライナと和平交渉の必要があると回答しました。女性や45歳未満の人がより強く和平交渉を支持していることも分かりました。

一方、39%が和平交渉に反対し、「特別軍事作戦」の継続を支持しているということですが、和平交渉を求める人が戦争継続を支持する人を始めて上回りました。

依然として65%のロシア人はロシアが正しい方向に進んでいると考えていますが、前回6月の調査に比べて8%減少しているということです。 また、21%の人は事態がうまく進行していないと考えています。【11月15日 テレ朝news】
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【戦争反対の声を力で封じ込める政権】
戦争停止、和平を求める声は少なからずあるようですが、昨年、動員を発表したひと頃のように反戦の抗議デモなどは最近は聞きません。それは反戦の声が消えた訳ではなく、政権が力で封じ込めた結果でしょう。

****ロシア兵帰還求める集会禁止 妻ら計画、反戦機運警戒****
ウクライナ侵攻によりロシア軍に動員された兵士の妻らが帰還を求めて25日に計画していた集会について、モスクワ当局は新型コロナウイルス対策を理由に許可しなかった。ロシア独立系メディア「メドゥーザ」などが17日伝えた。

コロナ対策は既に形骸化しており、実際には反戦機運の高まりを警戒したとみられる。他の都市でも同様の集会が禁じられた。

動員兵の妻らはボリショイ劇場などがあるモスクワ中心部の劇場広場で集会を計画し、最大300人の参加を見込んでいた。当局は2020年に導入されたコロナ対策の集会制限を根拠として禁止し、無許可で開催すれば責任を問うと警告した。【11月8日 共同】
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****ロシア スーパー「値札」でウクライナ侵攻批判した芸術家に懲役7年 強まる言論統制****
ロシアでスーパーマーケットの値札をウクライナ侵攻を批判するメッセージに替えたとして、芸術家の女性に懲役7年の判決が言い渡されました。

サンクトペテルブルクの裁判所は16日、芸術家のアレクサンドラ・スコチレンコさんに対し、ロシア軍に関する虚偽の情報を広めたとして懲役7年の判決を言い渡しました。

スコチレンコさんは去年4月、スーパーマーケットの商品の値札をウクライナ侵攻を批判するメッセージに替えたとして拘束されていました。

メッセージには「ロシア軍はマリウポリで400人が避難していた芸術学校を爆撃した」などと記されていたということです。

スコチレンコさんは法廷で「私の事件について特別軍事作戦の支持者でさえ、服役が必要だとは考えていない」と批判。

判決が言い渡されると戦争支持者らから「恥を知れ」などと声が上がったということです。

ロシアでは、ウクライナ侵攻後、言論統制の動きが強まっていて、反戦を訴えた人などの拘束や有罪判決が相次いでいます。【11月18日 TBS NEWS DIG】
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****「ロシアは有害で虐待的」プーチン政権批判したバンドのライブ会場に“治安部隊”突入 女性ファンと乱闘騒ぎも ロシア****
ロシアで9日、開演直前のライブ会場に治安部隊が突入した。その理由は、バンドのリーダーがプーチン政権を批判したためだった。現地のメディアは、「ロシアは有害で虐待的」などと発言していたと伝えている。

ライブ直前に治安部隊が突入
ライブ会場で、床に大勢の観客が寝そべっている。 画面奥のステージにアーティストの姿はなく、会場の真ん中には治安部隊がいた。

9日、ロシアで開演直前のライブ会場に治安部隊が突入した。 なかには抵抗するファンの姿もあった。

治安部隊が「おとなしくしろ!こっちは銃を持っているんだぞ!」と言うと、ファンは「離して!」と抵抗する。さらに、治安部隊が「動くな!」と命令すると、ファンは「ちくしょう!ちくしょう!」と悔しがった。

ライブは中止になった。 その後、バンドのメンバーは「このような事態に巻き込まれた全てのファンに、心から謝罪します」と動画を投稿した。

リーダーがプーチン政権を批判
ライブと治安部隊…似つかわしくないが、突入した理由は何だったのだろうか。 それは、バンドのリーダーがプーチン政権を批判したためだ。 現地のメディアは、バンドのリーダーが「ロシアは有害で虐待的」などと発言していたと伝えている。

そんななか、プーチン大統領に新たな動きがあった。 ロシアのメディアによると、毎年恒例の記者会見と国民との対話イベントを復活させるというのだ。

ウクライナへの侵攻を始めた2022年は、厳しい質問を避けたのか、見送りになった。 2024年春に大統領選が控えるなか、プーチン氏は余裕なのだろうか。 (「イット!」 11月10日放送より)【11月18日 FNNプライムオンライン】
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【疲弊するロシア社会】
対話イベント復活など、プーチン大統領の「すべてが侵攻以前と変わりない」というアピールにもかかわらず、ロシア社会には「戦争なんかしているよりは・・・」といった疲弊も色濃く見られます。

****ロシア 地方都市の困窮と住民の本音−国民対話再開はプーチン大統領安泰の証なのか?****
プーチン大統領は今年12月、国民からの要望を直接受け付けるホットラインと地方からの記者も集めた大規模紙記者会見を同時に実施する見通しだ。

関係者によると、去年は不満が高まる世論に正面から対峙することが難しく実施を見送った。今年、恒例行事を復活させるのは、すべてが侵攻以前と変わりないという国民に対するアピールだとみられている。

プーチン大統領は国内経済も順調だと繰り返し主張しているが、本当だろうか?ロシアの地方を取材すると、大都市ではわからない、国民が疲弊している状況が如実に見えてきた。

■足を踏み入れた途端に悪臭が…黒い煙の街
ロシア北西部、フィンランドと国境を接するカレリア共和国。

首都ペトロザボーツクから北へ3時間ほど車を走らせ、幹線道路をそれてセゲジャの街に入った瞬間、異様な光景が目に飛び込んでくる。

工場の煙突から真っ黒い煙がもくもくとあがっているのだ。街の産業を支えている製紙工場だという。
車の窓を開けると、ひどいにおいが車内に入り込み、思わずえずきそうになる。街をしばらく歩くとどうにか鼻は慣れてくるが、それでも違和感は消えない。(中略)

■「水道水はコニャックのよう」 自宅は1930年代築の木造
診療所に勤務するターニャさん(44)は3人の子供を育てている。自宅はこの地方の特徴でもある木造の歴史的な建物で1938年にドイツ人によって建てられたものだという。(中略)

しかし、この家は2018年に危険だと宣言された。別の部屋の住民は床が抜けて、別の場所に引っ越したが、居住登録を変えることができず2重に家賃を支払い続けているという。

ターニャさんは1カ月2万7000ルーブル(約4万5000円)の給与と子供手当てで暮らしていて、引っ越しをする資金的な余裕はない。水光熱費だけでも1万5000ルーブル(約2万5000円)に上る。

特に困っているのが水回りだという。
「ほら見てください」 ターニャさんはキッチンに続く風呂場の蛇口をひねる。たまりだした水はうっすらと茶色い。 「もう少したまれば、コーヒーのようになります。茶色です。時間帯によっても違いますが、コニャックといったほうが良いかしら」

別の60代の年金暮らしの女性も水道水に悩まされている。水質が茶色い理由を教えてくれた。 「私たちの水は工業用水であり、すべて汚れています。家は崩壊しつつあります」

この自宅も1936年に建てられて以来、修繕されていないという。 2019年に安全ではないと宣言されたが、移転の目途は2030年で「それまで生きているのかしら」と女性はつぶやく。

■「生き延びているだけ…」崩壊間際の部屋に住む女性
ガリーナさんがわずかな年金で暮らす木造アパートは、入り口の玄関と階段が崩れ落ち、部屋の壁も崩壊し始めている。

木造にもかかわらず1938年に建てられて以来、一度も修繕されたことがないそうだ。国からは今すぐに退去が必要な住宅に指定されている。しかし何の支援もないため、ガリーナさんには住み続ける以外の選択肢は残されていない。

水道や光熱費などを差し引いて手元に残る数千円ほどで、どうにか日々暮らしている。趣味や楽しみに使うお金がガリーナさんの手元に残ることはない。

「生き延びているだけ」だというガリーナさんの言葉を私は否定できなかった。
ロシアでは、ガリーナさんと同じように崩壊しかけている家に住み、政府が住み替えの対象としている人は少なくとも150万人にのぼる。

ガリーナさんのようにギリギリの生活を続けている人が多く、政府の補償がなければ転居先の家賃も払えず、建物を自力で修繕することもできないため、住み続けるしかない。

住宅問題は大きな社会問題となっていて、常に行政の最優先課題の一つだとされるが、具体的な進展はほとんど見られない。(中略)

■国民ではなく戦争に費やされる税金
ガリーナさんに「特別軍事作戦(=ロシアによるウクライナ侵攻)」について尋ねても「反対」だとは答えない。
ガリーナさんは特別軍事作戦で親しい友人を2人亡くし、さらに2人が今も戦っているという。だから「特別軍事作戦」に多額の資金が投じられていることについては「惜しいとは思わない」と言う。それでも、疑問を呈さざるを得ない。

「ドネツクに資金が投じられています。そこが大変な状況だということはわかっています。しかし私たちには割り当てられませんし、年金だって増えません。何らかの見直しが必要かもしれません」

ドイツの国際安全保障問題研究所の試算によれば、ウクライナへの侵攻には1日300億ルーブルが費やされている。2024年の予算では10兆8000億ルーブルが「国防」費に充てられる見通しだ。

一方で、ロシア全土の住宅問題の解決に必要な資金は1・3兆ルーブルから3兆ルーブルだとされている。住宅問題の解決に必要な額の3倍以上が、ウクライナへの侵攻に費やされることになる。

■プーチン大統領の直接対話再開は「安定」の証か?
(中略)今はロシア国内で反戦の声もほとんど聞こえず、一見ロシア社会が「安定」を取り戻したかのようにみえる。しかし、ロシア人が反戦を唱えなくなったのは、厳しい弾圧によるものだろう。 言論に対する取り締まりは、ますますエスカレートしている。(中略)

■消去されていない「戦争反対」の落書き
カレリア共和国で旅行業を営む50代の男性は「戦争には反対だ」と打ち明ける。 彼は80年代に旧ソ連のアフガニスタン侵攻に参加し、当時ウクライナ人とも戦友として戦ったという。

「なぜ、かつての仲間を敵にすることができるのですか? 反対です。もちろん反対です。」 男性は、溜まっていたものを吐き出すかのように繰り返した。

セゲジャの街の中心近く、キーロフ通りのバス停には、黒いスプレーで大きくこう記されていた。 「戦 争 反 対」

モスクワなどでは真っ先に消されているだろう。 しかし言論統制の手も回らないのか、それとも見逃されているのか。 このスプレーの黒い文字は長い間、消されずに残されている。【11月18日 テレ朝news】
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アルゼンチン  19日の大統領選挙決選投票に臨む「異色」「型破り」候補ミレイ氏

2023-11-17 22:47:08 | ラテンアメリカ

(集会でチェーンソーを掲げるハビエル・ミレイ氏=9月12日【10月2日 CNN】)

【前年に比べ物価は2.4倍】
日本の場合、“総務省が(10月)20日発表した9月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が105.7となり、前年同月比で2.8%上昇した。”【10月20日 日経】ということですが、3%前後の物価上昇でも家計を大きく苦しめているのは多くの人が実感しているところ。

それにしても、2020年比較でも5.7%しか上がっていない・・・というのが日本経済の際立った特徴ですが、賃金の話を含め、そのあたりの話は今回パス。

一方、南米・アルゼンチンでは前年に比べ、物価は2.4倍に上がっています。日本的な感覚では想像できませんが。

****アルゼンチン 10月の消費者物価 前年同月比2.4倍に上昇****
経済の混乱から激しいインフレが続く南米のアルゼンチンでは、先月の消費者物価が前の年の同じ月に比べて2.4倍に上昇しました。日々の食料品などが十分にまかなえない貧困層は40%にのぼると推計され、悪化する経済への対応が今週末の大統領選挙の最大の争点となっています。

アルゼンチンの統計局は13日、先月・10月の消費者物価指数が前の年の同じ月に比べて142.7%上昇したと発表しました。

インフレが年率で100%を超えるのは9か月連続で、物価が1年で2.4倍に跳ね上がったことになります。

急激なインフレの影響でアルゼンチンでは日々の食料品など生活に必要な支出が十分にまかなえない貧困層が人口の40%にのぼると推計されています。

ブエノスアイレス近郊では地元の市民グループが週3回、寄付などで集めた食材で調理した食事を無料で配布していて、13日にも幼い子どもを連れた女性などが次々に訪れていました。

グループの代表のレベッカ・エレーラさんは「インフレがひどく多くの家庭に仕事がありません。この地区はとてもぜい弱で多くの家庭が支援を必要としています」と話していました。

アルゼンチンでは今週末の今月19日に大統領選挙の決選投票が予定されていて、悪化する経済への対応が最大の争点となっています。【11月14日 NHK】
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アルゼンチン経済の長期的没落、日本も・・・という話はこれまでも取り上げてきました。

****日本が「先進国脱落」の危機にある理由、衰退国家アルゼンチンの二の舞いに?****
19世紀以降の世界で唯一、先進国から脱落したアルゼンチン。日本も同じ道を辿るのか

アルゼンチンは19世紀以降の世界で唯一、先進国から脱落した国家として知られる。農産物の輸出で成長したが、工業化の波に乗り遅れ、急速に輸出競争力を失ったことがその要因だ。国民生活が豊かになったことで、高額年金を求める声が大きくなり、社会保障費が増大したことも衰退につながった。

時代背景は違うが、似た現象が起きているのが現代の日本である。IT化の波に乗り遅れ、工業製品の輸出力が衰退しているにもかかわらず、社会は現状維持を強く望んでいる。この状況が続けば、アルゼンチンの二の舞いになっても不思議ではない。(後略)【2022年2月7日 加谷珪一氏 ダイアモンド・オンライン】
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【「異色」「型破り」の大統領候補ミレシ氏 極右体質・民主主義的価値観軽視の危うさも】
そうした長期的経済低迷のなかでの前年比2.4倍という物価上昇・・・市民生活は困窮・破綻し、現在行われている大統領選挙において変革を求める声も当然に大きくなります。

そうしたなかで異色の大統領候補が支持を集めていることは、8月25日ブログ“アルゼンチン 「物価1年で2倍」 市内では略奪増加 大統領選挙予備選で過激主張候補トップへ”でも取り上げました。

過激な主張を行う“異色の候補”というのは、独立系で極右のリバタリアン(自由至上主義)経済学者であるハビエル・ミレイ氏。 

10月22日の第1回投票ではトップが予想されていましたが、結果は得票率29%で2位。与党候補が36%で1位。それでも、ミレイ氏は勢いを失わず、今月19日の決選投票に向かっています。

****公約は「ペソ」から「ドル」へ通貨変更...「究極のポピュリスト」がアルゼンチン大統領になるのか?****
<3桁のインフレと経済危機に見舞われたアルゼンチンの経済対策が「ドル化」...? 大統領候補者の中で首位を走るハビエル・ミレイだが...>

10月22日に大統領選の投開票が行われる南米アルゼンチンは、瀕死の経済と同国の未来をどの指導者に託すのか。

3桁のインフレと経済危機に見舞われたアルゼンチンで、候補者のうち首位を走るのは経済学者でポピュリストのハビエル・ミレイだ。彼の公約は、中央銀行を廃止し通貨をペソからドルに変えるというもの。8月の予備選でトップに立つと、国民の間でドルを高値で買う動きが加速した。

だがこの「ドル化」の実現可能性は、国内外から疑問視されている。そんななか、10月初めの候補者討論会でミレイがドル化に言及しなかったことで、どれほどその野心を実現させるつもりなのか、有権者の間で不透明感が漂う結果となった。ドル化については、ミレイの経済チームでも意見が割れているという。

22日の大統領選で過半数を得票した候補がいなければ、上位2候補による11月19日の決選投票にもつれ込む。型破りな経済政策の行く末を世界が注視している。【10月23日 Newsweek】
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通貨のドル化、中央銀行廃止が大きく取り上げられていますが、それ以外にも、気候変動は「フェイク」と切り捨て。臓器売買や銃所持の合法化などを訴えたこともあるとか。若年層を中心に熱狂的な支持を得ている。

選挙集会では「既成政党をぶった切る!」とチェーンソウを振り回すパフォーマンス。

「アルゼンチンのトランプ」との異名も持つように、トランプ前大統領を彷彿とさせますが、実際、トランプ氏を信奉していることも明らかにしています。

“過去20年間、アルゼンチンではほぼ同じ政党が政権を握ってきた。ミレイ氏はいわば外部から出てきた新興勢力で、右派・左派の既存勢力に激しく対抗している。米国のドナルド・トランプ前大統領やブラジルのジャイル・ボルソナーロ前大統領など、極右スターの台頭をどこか彷彿(ほうふつ)とさせる。”【10月2日 CNN】

このあたりまでは、異色と言え、あるいは実現性が疑問視されているとは言え、「政策の問題」とも言えますが・・・・

10月に行われた1回目投票について、証拠を示さずに「結果に疑念を抱かせるような規模の不正があった」と批判。決選投票に敗れても、敗北を受け入れるか疑問視もされています。

また、3万人もの市民が殺害、行方不明になった1980年代までの軍事政権時代について「人権弾圧を受けた人は実際にははるかに少ない」とも。

このあたりになると、極右体質、更には民主主義的価値観の軽視といった重大な問題も見えてきます。

「異色」「型破り」ではあるが、その主張全てに同意する訳でもないが、とにかくこの現実を変えられるのは、彼しかいない・・・というのが支持者の気持ちなのでしょう。

ただ、さすがに躊躇する人も少なくなく、第1回投票では2位に甘んじたというところでしょうか。

【予測が難しい決選投票 ミレイ氏勝利なら対中国政策変化も】
決選投票では、第1回投票で3位につけた候補の支持者の票の行方がカギになりますが、ミレイ候補が追い上げているとの観測も。

****アルゼンチン大統領選、与党候補のリード縮小****
11月19日のアルゼンチン大統領選決選投票を前に地元調査機関アナロギアが6日公表した最新世論調査によると、与党連合の中道左派セルヒオ・マサ経済相の、リバタリアン(自由至上主義者)のハビエル・ミレイ下院議員に対するリードが縮小したことが分かった。

支持率はマサ氏が42.4%、ミレイ氏が39.7%。アナロギアが第1回投票直後に行った調査に比べ、リードが8ポイントから3ポイント程度になった形だ。なお投票先を決めていないと答えた割合は18%前後だった。

ミレイ氏は、第1回投票で3位になった野党連合の中道右派パトリシア・ブルリッチ元治安相や、ブルリッチ氏に近いマウリシオ・マクリ元大統領の支持を獲得し、足元で勢いを強めている。

ブラジルに拠点を置く調査機関アトラス・インテルの世論調査では、ミレイ氏が支持率48.5%とマサ氏の44.7%を上回っており、投票先を「分からない」もしくは白票を入れると答えたのが約7%となった。

第1回投票では多くの調査でミレイ氏優勢が伝えられたが、結局マサ氏が首位に立った。ただアトラス・インテルはマサ氏の首位を予測した数少ない調査機関の一つだ。【10月7日 ロイター】
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国際的にはミレイ氏の反中国の姿勢が注目されています。

****アルゼンチン大統領選、19日に決選投票 右派勝利なら親中姿勢に変化****
南米アルゼンチンは19日、大統領選の決戦投票を行う。物価高や通貨安がもたらす経済的混乱への対策が争点。貧困層の生活改善を重視する与党連合の左派セルヒオ・マサ経済相(51)と、大幅な歳出削減を訴える経済学者の右派ハビエル・ミレイ下院議員(53)が競り合う。ミレイ氏は現政権の親中姿勢も見直しを訴えている。

大統領選は現職の左派フェルナンデス氏の任期満了に伴うもの。フェルナンデス氏は経済危機が原因で世論調査の支持率が低迷、与党内でも再選への賛同が広がらず、出馬を断念した。

10月の第1回投票の得票率はマサ氏が36%、ミレイ氏は29%と7ポイント差。3位で敗退した野党連合の右派候補を支持した23%の有権者の動向が決選投票の行方を左右するとみられる。世論調査の支持率トップは頻繁に入れ替わり、接戦が続く。

アルゼンチンの10月の消費者物価指数は前年同月比142%上昇。現地からの報道によると、首都ブエノスアイレスではトマト1キロの値段が1週間で2倍になり、通貨ペソの下落により安定した米ドルが流通。法定通貨のドル化や中央銀行の廃止を唱えるミレイ氏の主張が受け入れられやすい土壌が生まれたという。

マサ氏は、ミレイ氏の提案は「経済をさらに混乱させる」と批判、日本の消費税に相当する付加価値税の減税などを公約に掲げる。ただ、現職閣僚として経済的混乱への責任を負うマサ氏に対する批判は根強い。

ミレイ氏は「自由」を重んじる立場から、外交方針でも強権体制の中露朝、キューバなどを非難する。当選した場合は新興5カ国の枠組みBRICSへの新規加盟の方針を撤回し、米国との関係を強化したい考え。

マサ氏は現政権の方針を受け継ぎ、中国との関係を重視、BRICSへの新規加盟も進める方針を示す。債務危機を回避するための国際通貨基金(IMF)との交渉でも、引き続き中国に仲介を頼むとみられ、対中依存は深まる方向だ。【11月17日 産経】
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中国との関係は結果で、多くの国民にとっては、やっぱり物価対策・貧困対策でしょう。

****「日々を生きるだけ」経済格差 縮まらぬアルゼンチン 大統領選の決選投票で貧困対策が大きな争点に****
この日曜日に大統領選挙の決選投票が行われる南米アルゼンチン。記録的インフレに直面し物価は去年の2倍、深刻な貧困、格差は大きな争点です。その実態を取材しました。

アルゼンチンの首都、ブエノスアイレスのタンゴ劇場。 タンゴショーの料金は国民の平均月収のおよそ2割、150ドル相当で、訪れるのは海外からの観光客が中心です。

アルゼンチンでは今、アメリカドルの需要が高まり、ホテルなど多くの場所で価格はドル表記。 ドルに対し通貨ペソは大きく下落していて、年率140%を超える記録的インフレにも直面しています。自国通貨ペソの信頼が低下するなか、ドルを求める動きが強まっているのです。

ピザ店を営むセバスチャンさんは経営の傍ら、前に住んでいたアパートを観光客に貸し出す「民泊ビジネス」でドルを稼いでいます。2LDKで一泊およそ40ドル。月900ドルほどの収入があり、本業を上回っているといいます。

セバスチャン・ヒメネスさん 「ピザ店の収入は安定していないので、このような副収入はありがたいです」

資産をもとに副収入を得る人がいる一方で。
記者 「こちらにブエノスアイレス最大級の貧民街が広がっています」

月200ドル以下の収入しか得られない人は、人口の4割。「ビジャ」と呼ばれる貧困地区に住む人たちは人口の1割あまり、500万人を超え年々、増加傾向にあるといいます。

「ビジャ」で40年以上暮らすネリーさん。縫製の仕事などで得る一家の収入はペソのみで、日々の暮らしで精いっぱいだといいます。

ネリーさん 「ドルで貯蓄なんて考えられない。日々を生きるだけです」
娘には自分たちと同じ道を歩ませたくないと教育に力を入れ、奨学金の助けを得ながら学校に通わせています。(中略)

あさって行われるアルゼンチン大統領選の決選投票で、貧困対策は大きな争点です。

「アルゼンチンのトランプ」との異名も持つミレイ候補は貧困地区を訪れ、法定通貨のドル化という大胆な政策や貧困対策を直接アピール。対する与党マサ候補は、外貨獲得のための輸出促進や労働環境の改善を訴えます。

ネリーさん 「マサ候補もミレイ候補も好きなところはあるけれど、信用はできません」

長年、経済危機から脱却できないアルゼンチン。 国民は深刻な貧困からの脱却策をどちらの候補に委ねるのでしょうか。【11月17日 TBS NEWS DIG】
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市民生活の困窮、それに対する既成政治の無力さ・無能さが、「○○のトランプ」と称されるような政治家への現状打開の期待を膨らませます。
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進む温暖化 遅れるCO2削減 今月末からドバイでCOP28 議長は国営石油企業のトップ

2023-11-16 22:45:10 | 環境

(【11月13日 ウェザーニュース】1991年から2020年の平均気温をベースにした、10月の地球の平均気温の推移)

【今年は記録的な高温】
人間の(私の?)記憶・印象というのはすこぶる曖昧・不確かなもので、ここ数日急に寒くなっただけで、今年の夏、そして秋の異常な暑さは忘れてしまいそうですが・・・

****10月も地球の平均気温は過去最高 史上最も暖かな年になることはほぼ確実****
世界気象機関(WMO)とコペルニクス気候変動サービスは、10月も地球の平均気温が過去最高を更新したと発表しました。5か月連続で記録的な高温となり、2023年が史上最も暖かな年になることはほぼ確実としています。

5か月連続で記録的な高温
EU=欧州連合の機関であるコペルニクス気候変動サービスによると、10月の地球の平均気温は15.30℃と、1991年から2020年の平均気温を0.85℃上回り、10月としてこれまで最も高い記録より0.40℃も高くなりました。

地球の平均気温は6月から5か月連続で記録的な高さとなっていて、1〜10月までの平均気温は1850年から1900年の産業革命以前に比べて1.43℃高くなっています。

年平均気温が過去最も高かった2016年の数字を0.10℃上回り、WMO(世界気象機関)は2023年が観測史上最も暖かな年になることはほぼ確実としています。

日本も2023年の気温は過去最高の見通し
日本の10月は北日本で気温がかなり高く、1か月の平均気温は平年に比べて1.0℃高くなりました。また、11月に入ってからは全国的に記録的な高温となり、東京都心では11月7日、100年ぶりに11月の歴代最高気温を更新しています。

先週末から寒気が流れ込んで季節外れの高温は落ち着き、この先1か月は西日本から北日本で平年並みの気温となる見通しです。それでも今年の高温傾向を相殺するほどではなく、11月、12月の気温が平年並みで推移したと仮定しても、今年の日本の平均気温は平年よりも1℃以上高くなり、過去最高を大幅に更新するとみられます。

今年の世界的な高温は、エルニーニョ現象の強まりなどが大きな影響を及ぼしていると考えられますが、それだけでは説明が難しく、長期的な地球温暖化の影響が加わっていることが確実です。今後さらに温暖化が進むと、記録的な高温の出現頻度が高まると考えられ、今年はその先駆けなのかもしれません。

二酸化炭素の排出を抑えて温暖化対策を進めるとともに、気候変動による極端気象への備えも必要になりそうです。【11月13日 ウェザーニュース】
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今年の暑さが“長期的な地球温暖化の影響が加わっていることが確実”なのかどうかは素人にはわかりませんが、冒頭のグラフ(10月に関して、1991年から2020年の平均気温との比較)を見ると、1970年代後半あたりから顕著に右肩上がりで気温が上昇していることがわかります。

【アルプスでも、南極でも、グリーンランドでも融ける氷 海面上昇の危機も現実味増す】
地球規模での暑さの影響で、アルプスの氷河も南極の氷床も、そしてグリーンランドの氷河でも融解が加速しています。

****たった2年で溶けた氷河が“過去30年間”に匹敵 アルプスの氷河に危機 “雪が少なく夏が暑すぎ”が原因****
スイスのアルプスの氷河に危機が訪れている。 1960年以降の30年間で失われた量に匹敵する規模の氷河が、2022年と2023年の2年間で消えたという。

たった2年で…急激に溶ける氷河
アルプスを覆う広大な氷河が、急激に溶けている。 スイスの科学アカデミーによると、1960年以降の30年間で失われた量に匹敵する規模の氷河が、2022年と2023年の2年間で消えたという。

この2年間で約10%が減少した。 原因は、雪が少なく、夏が暑すぎたこと。

どれほどの勢いで氷河が失われたのか、それを示す映像が記録されていた。 突き立てられた目盛りが付いた棒。日を追うごとに氷はみるみる溶け、目盛りが下がっていく。 2カ月あまりで減った氷の量は、計測する男性の背丈に迫るほどだ。1.5mをゆうに超えている。(後略)(「イット!」 9月29日放送より)【10月8日 FNNプライムオンライン】
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****南極西側、氷融解止まらず 英研究所、海面上昇警告****
南極大陸の西側を覆う「西南極氷床」は、温室効果ガスの排出削減を強力に進めたとしても21世紀中は融解が止まらないとの予測を、英南極研究所のチームが23日、英科学誌ネイチャー・クライメート・チェンジに発表した。

全て解けると海面が5.3メートル上昇するほどの氷を蓄えており、チームは「現状維持はできなそうだ。海面上昇が22世紀以降も続いて数メートルに及ぶ事態に備えるべきだ」と訴えた。

氷床のうち、海にせり出して浮かぶ部分は棚氷と呼ばれる。棚氷は下部が接している海水の温度が上がると融解が進み、さらに陸側の氷が海にずり落ちて深刻な海面上昇につながる恐れがある。(後略)【10月24日 共同】
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****グリーンランドの氷河融解、20年前の5倍に加速****
地球温暖化により、グリーンランドの氷河が解ける速度が過去20年間で5倍になっていると、コペンハーゲン大学の科学者が10日に発表した。

グリーンランドの氷が全て解けた場合、海面を少なくとも6メートル押し上げるとされており、特に懸念されている。

コペンハーゲン大学地球科学・自然資源管理学部のアンダース・アンカー・ビョーク助教授は、この地域の1000の氷河を調査した結果、融解の速度が過去20年間で新たな段階に入ったとロイターに語った。

「地球の気温と氷河が急速に解けていく変化の間には非常に明確な相関関係がある」という。

科学者らは衛星画像と20万枚の古い写真を通して130年にわたる氷河の変化を調査。氷河の融解ペースは約20年前の年平均5─6メートルから25メートルに加速したと結論付けた。

世界の平均気温はすでに産業革命以前に比べ1.2度近く上昇している。欧州連合(EU)の気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」(C3S)は8日、今年が過去12万5000年間で最も暖かい年になることが「事実上確実」だと発表した。【11月13日 ロイター】
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南極やグリーンランド、北極海の氷の融解、そして海面上昇・・・島しょ国で水没する危機が現実のものになっています。太平洋の島国ツバルもそんな国の一つですが、オーストラリアの移住を視野にいれています。

****水没危機のツバル、豪と移住協定 地球温暖化で海面上昇****
地球温暖化による海面上昇で国土が水没する危機にさらされている南太平洋の島国ツバルは9日(日本時間10日)、オーストラリアへの移住を可能にすることで同国と合意した。こうした取り決めを盛り込んだ2国間条約に両国首脳が、訪問先のクック諸島アバルアで署名した。

ツバルのナタノ首相とオーストラリアのアルバニージー首相は共同声明で、ツバルが水没しないよう海岸の埋め立て作業を拡大すると強調。

その上で「気候変動の影響が悪化する中で、ツバルの人々には別の場所に暮らし、学び、働く選択肢があってしかるべきだ」と述べた。

ツバルは人口1万人余り。九つのサンゴ礁の島から成る。【11月10日 共同】
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ツバルとオーストラリアの今回合意は“協定では中国を念頭に、第三国・地域と安全保障や防衛分野の協定を結ぶ前に協議することを定めた。アルバニージー首相は会見で、ツバルから要請があれば安全保障面の支援を提供すると述べた。”【11月10日 ロイター】という、太平洋島しょ国を舞台にした中国と米豪日などの対立を背景にしている国際政治の側面もありますが、その話は今回は省略。

温暖化・気候変動は単に暑くなるだけでなく、異常気象も、それによる災害も増加します。

「温室効果ガスの排出量が増加を続け、気候変動が続く中、世界中の人々が異常気象と気候現象の深刻な影響を受け続けています。例えば2022年の、東アフリカで続いた干ばつ、パキスタンでの記録的な豪雨、中国とヨーロッパにおける過去に例を見ない熱波によって数千万人が影響を受け、食料供給が不安定化し、集団移住が加速し、数十億ドルの損失と損害が発生しました」(WMO(世界気象機関)のペッテリ・ターラス事務局長)【5月24日 国際連合広報センター】

【進捗が遅い温室効果ガス削減の取り組み】
温暖化・気候変動が進むなかで、世界の対応は・・・と言えば、あまり芳しくありません。“負け戦”の様相。

****温室効果ガス2030年までに「2%の減少」か 目標は「43%」 国連報告書****
国連は、各国が温室効果ガスの排出削減目標を達成しても、2030年の排出量は2019年と比べて2%の減少に留まるとの報告書を公表しました。

国連の気候変動枠組み条約事務局は、14日、世界各国が掲げる2030年の温室効果ガスの排出削減目標を分析した報告書を公表しました。それによると、各国がそれぞれ目標を達成した場合、2019年と比べて温室効果ガスの排出量は2%削減されるということです。

しかし、今世紀末の気温上昇を1.5度に抑えるというパリ協定の目標達成には2030年までに43%の削減が必要とされていて、現在の取り組みでは遠く及びません。

報告書は各国が現在の削減目標を達成しても、今世紀末までに気温が2.5度前後上昇するおそれがあるとしています。【11月15日 TBS NEWS DIG】
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かろうじて“減少”はするものの、「43%の削減が必要」のところに「2%削減」・・・話になりません。

****世界のCO2濃度、産業革命前の1・5倍で過去最高に…世界気象機関「我々はいまだに間違った方向へ」****
世界気象機関(WMO)は15日、2022年の大気中の二酸化炭素(CO2)の世界平均濃度が過去最高を更新し、417・9ppm(ppmは100万分の1)だったと発表した。産業革命前の水準の1・5倍に初めて達したという。

報告書によると、濃度上昇の程度は前年よりやや弱まったが、短期的な自然変動によるものだった。産業活動による排出は増え続けていると分析している。

現在のCO2濃度は300万〜500万年前と同程度で、当時の気温は現在より2〜3度高く、海面も10〜20メートル高かったという。

WMOのペッテリ・ターラス事務局長は、「科学界からの何十年にもわたる警告にもかかわらず、我々はいまだに間違った方向に進んでいる。化石燃料の消費を緊急に削減しなければならない」と指摘した。【11月16日 読売】
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【今月末からCOP28 再生エネ3倍目標や「化石燃料の段階的削減」の合意が焦点 ただ、産油国での開催で議長は国営石油企業のトップ】
こうした状況を受けて、今月末からアラブ首長国連邦(UAE)ドバイで国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)が開催されます。

****首相、COP28出席を調整 地球規模課題で存在感狙う****
岸田文雄首相が、アラブ首長国連邦(UAE)で11月末から開かれる国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)に出席する方向で調整していることが分かった。複数の関係者が10月31日、明らかにした。

今年の先進7カ国(G7)議長国首脳として地球規模の課題で存在感を示し、気候変動の影響を受けやすい新興・途上国に日本の取り組みをアピールする狙いがある。

一方、中東ではイスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘が激しさを増している。臨時国会の会期とも重なるため、UAEだけを訪れて帰国する日程が想定されている。

COP28は11月30日~12月12日にドバイで開催される。首相は首脳級会合が予定される12月1、2両日に合わせて出席を検討している。会議では世界各国が協調して気候変動に対処するよう呼びかけ、環境負荷の軽減に貢献する日本の姿勢を強調するとみられる。

首相は今年7月にUAEを訪問した際、ムハンマド大統領と会談。COP28の成功に向け国際社会を主導すると申し合わせていた。【11月1日 共同】
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ただ、誰しも思うのは、「UAE? 産油国だよね・・・本気で脱炭素ヤル気あるの?」という疑問。しかも、議長を務めるUAEのスルタン・アル・ジャベル気候変動特使はアブダビ国営石油会社(ADNOC)のグループCEO(最高経営責任者)でもあり、昨年のCOP27で提案したものの実現しなかった「化石燃料の段階的削減」に対し、消極的な発言を繰り返してきました。

そうしたことから、5月にはアメリカやEUの議員ら130人以上が連名で、議長解任を求める書簡を送った経緯もあります。

そうした批判もあって、ジャベル議長の発言・姿勢は徐々に前向きに変化しているとも・・・。本心かどうかはわかりませんが。

COP28では再生エネ3倍目標や「化石燃料の段階的削減」の合意が焦点となりますが、UAEはその提言書を公表し、各国に取り組みへの参加を働きかけています。

****「2030年までに再エネ3倍に」 COP28議長国・UAEが提言****
国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28、30日開幕)を前に、議長国のアラブ首長国連邦(UAE)は、産業革命前からの気温上昇を1・5度に抑えるという目標を実現するには、世界の再生可能エネルギーの設備容量を2030年までに22年の3倍に増やす必要があるとの提言書を公表した。

提言書は、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)、世界再生可能エネルギー同盟(GRA)と共同で作成。10月30~31日の非公式閣僚級準備会合(プレCOP28)で各国政府に示した。COP28のジャベル議長は、再生エネ3倍目標や「化石燃料の段階的削減」の合意を目指すと表明しており、提言書をCOP28での議論のたたき台にするとみられる。

提言書によると、21年のCOP26で合意した1・5度目標を達成するには、再生エネの設備容量を22年の約3倍の1万1000ギガワット超に拡大させる必要があるとした。IRENAの分析に基づくもので、太陽光は約5倍の5400ギガワット、風力は約4倍の3500ギガワットを超える水準に増やすことを想定している。

また、エネルギー効率を30年までに現在の2倍にする必要があるとも指摘。具体的には、省エネの指標となるエネルギー原単位(一定の製品などを生み出すために必要なエネルギー消費量)の年間改善率を30年までに現在の2倍にすることを想定している。

ジャベル氏は、提言書の中で「化石燃料の段階的削減は不可避かつ不可欠だ。公正で秩序あるエネルギー転換の実現には、再生エネ拡大を急がねばならない」と指摘している。

ただし、化石燃料の削減・廃止やその時期を巡っては各国の意見の隔たりが大きい。また、ジャベル氏が国営石油企業のトップを務めていることなどからも、化石燃料を巡る踏み込んだ合意の実現性については懐疑的な見方も多い。【11月2日 毎日】
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COP28のような利害が対立する国際会議では、個人的な情熱・思いの強さよりは国営石油企業のトップとしての調整手腕が役に立つ・・・といいですが。

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移民問題の「アウトソーシング」 オーストラリア、イギリス、イタリアの場合

2023-11-15 23:35:25 | 難民・移民

(【2022年11月15日 NHK】オーストラリアへの難民申請を求める人たちを移送・収容する南太平洋の島国ナウルの施設)

【オーストラリアの「パシフィック・ソリューション」】
多くの国が難民・不法移民の扱いには、人道的観点を重視して共生を目指すのか、受入れによって国内で惹起される様々な難題を重視して排除を原則とするのか苦慮していますが、排除の立場から、外国(多くは途上国)に資金提供して収容施設を建設し、そこに移送・収容するという、移民問題を「アウトソーシング」するような方策をとる国もあります。

オーストラリアが取っている「パシフィック・ソリューション」もその一つです。

****パシフィック・ソリューション****
2001年8月、オーストラリア政府は、400人以上の難民認定を求める人たち(多くはアフガニスタン人)を乗せた船が国内の港に入ることを拒否。乗船者の健康状態が悪化する中、オーストラリア政府は、ナウルとニュージーランドに移送することを決定した。船の名前にちなんで「タンパ号事件」として知られている。

これを機に、オーストラリアは、難民申請を求める人たちを上陸させず、他国で難民審査を行うため、2001年9月にナウルと、翌10月にパプアニューギニアと協定を結んだ。オーストラリアのこの措置は「パシフィック・ソリューション」と呼ばれるようになった。

こうした政策の導入について、当時のオーストラリア政府は、「オーストラリアは寛容で開かれた国であり、世界でも最も多くの難民を受け入れている国の1つである」とした上で、「私たちには誰が、そしてどのように来るのかを決める権利がある」と主張した。

「パシフィック・ソリューション」では、国際移民機関(IOM)がナウルとパプアニューギニアにおける施設の運営を担い、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)も初期の一部の難民審査に関わるが、その審査体制の透明性や施設の環境・人々の管理体制について、人道上の観点からUNHCRを含む国内外からの懸念や批判が絶えず、2008年に一度は解体された。

しかし、施設の閉鎖後、再び海からの不法入国者が急増したことで、2012年9月からナウル共和国への移送、2012年11月からパプアニューギニアへの移送を再開。

これに対して再び批判が高まり、パプアニューギニアの施設は2016年4月にパプアニューギニアの最高裁判所から「違憲状態にある」との判決が出される。2017年6月にはオーストラリア政府もこれを認めて収容された人に対して慰謝料を払うことを発表。施設は2021年末に完全に閉鎖された。

一方、ナウルとは、2021年9月「永続的な施設の維持を構築する」とする覚え書きを交わした。【2022年11月15日 NHK】
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【収容された人々には「自殺願望」「あきらめ症候群」】
こうした施設に収容された人々は「先が見えない状況」に長期間置かれることで、精神的に追い詰められることが多いことが報告されています。

****生きることをあきらめる人たち 絶望が招く「あきらめ症候群」*****
寝たきりになり、食べ物を食べなくなり、トイレにも行かなくなる。 そして、昏睡状態になって、痩せ細っていく。 安全な地で、人として当たり前の暮らしをしたい。 そう願って祖国を離れた人たちに待ち受けていたのは、“絶望”だったのかもしれません。

子どもが自殺願望を口にする、小さな島
「診察した患者のうち、60%に自殺願望がみられ、30%が未遂を起こしました。9歳の子どもですら“自殺”を口にして、実際に未遂をしていた状況は、あまりにも恐ろしかったです」
当時の状況をこのように話すのは、ニュージーランドの精神科医、ベス・オコナーさんです。

オコナーさんは「国境なき医師団」のメンバーとして、2017年の秋から約1年にわたり、南太平洋の小さな島国ナウル共和国に滞在しました。(中略)

難民認定を求める人たちの行き先は…
ナウルにあったその施設は、難民認定を求める人たちを収容する「ナウル地域処理センター(Nauru Regional Processing Centre)」という施設です。 そこで暮らしていたのは、オーストラリアでの難民認定を求めて、イラン、アフガニスタン、スリランカなどからボートで海を渡って来た人たち。

なぜ、オーストラリアでの難民認定を求めた人たちが、ナウルにいるのか? その理由は、オーストラリア政府がナウルと2001年に交わした「パシフィック・ソリューション」という措置です。

オーストラリア政府は、難民認定を求める人たちが密航業者などを通じて、危険な行路で海を渡る行為を根絶することを目的に、ボートでやってきた人たちをナウルなどへ移送・収容し、そこで難民申請などの手続きを行うとしたのです。

オーストラリア政府は、移送や滞在に必要な経費を負担するだけでなく、ナウルに対して追加の開発援助も行うことを表明。 ナウルの当時の大統領も「友が我々に頼んだ。我々は友人を助けることを決めた」と述べて、運用が始まることになりました。

これによって、ナウルに収容されたのは、最も多いときの2014年8月には、1233人に上りました。ナウルの人口1万人余りの10%近くに上る人数でした。

プライバシーのない暮らし
(中略)大人から子どもまでいた収容された人たち。診察した208人のうち75%が、施設に来る前に母国や旅の間で、何らかの精神的な苦痛を受けていたといいます。ナウルに到着したあとで、身体的な暴力を受けていた人もいたということです。

また、診察した人たちの約6割に中度から重度のうつ症状が見られ、心理的な安全を感じることができる環境が必要だったといいます。

しかし、収容された人たちは名前ではなく”番号”で呼ばれ、施設内では狭い場所に密集し、プライバシーのない状態だったということです。 長い人では4年以上も、そうした状況で暮らしている人もいたそうです。

収容された人たちは難民申請が認められれば、オーストラリアなどで暮らすことになっていましたが、いつ認められて施設を出られるのか、基準も明らかになっていなかったともいいます。

自殺を考え、生きることをあきらめる人たち
オコナーさんたちがヒアリングする中で特に驚いたのが、収容された人たちの多くに自殺願望がみられたことでした。

6割の人たちに自殺願望がみられ、3割が実際に未遂を起こしていたのだといいます。自殺未遂を起こした人の中には9歳の子どももいたということです。

オコナーさんたちは、自分の人生を自分で決めることが許されず、毎日が単調に過ぎていく中で、将来に絶望した人たちが、そうした願望を抱いてしまったと考えました。

さらに精神状態が悪化した子どもや大人の中には、ある症状が現れていたとオコナーさんは話しました。 それは「あきらめ症候群(生存放棄症候群)」と呼ばれるものでした。 

オコナーさんたちが現地で活動中「あきらめ症候群」の症状が出たのは、10人の子どもと2人の大人だったといいます。

ある子どもは、時間がたつにつれて引きこもるようになり、その後寝たきりになって食事もとらなくなったそうです。話しかけても言葉を返さず、寝ている場所で失禁するようにもなったといいます。

昏睡状態になり、鼻からチューブを入れて胃に直接栄養を送る必要がありましたが、高度な医療を行う設備がなかったことから、法廷に訴えることで、なんとかオーストラリアの病院に移送することができたということです。(中略)

詳しい原因は分かっていませんが、心の傷を抱えた人が、何年にもわたり先の見えない状況に置かれることで、生きることをあきらめたような状態になると考えられています。(後略)【同上】
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【イギリス ルワンダ移送を計画 最高裁は違法判断】
オーストラリアのパシフィック・ソリューションと似たような制度を導入しようとしているのがイギリスです。

****英政府、不法移民の対策に苦慮 ルワンダ移送計画は難航****
英政府が増加する不法移民・難民への対応に苦慮している。小型ボートで英国に入る密入国者は2018年から150倍以上に増え、受け入れ施設の費用などで財政を圧迫。

スナク政権はアフリカ中部ルワンダに不法移民らを移送する計画を推し進めたい考えだが、英控訴院は移送は違法との判決を下した。国連や人権団体、司法が計画に待ったをかけており、円滑な実現は困難とみられている。

英政府によると、英仏海峡を小型ボートで渡ってきた密入国者は22年に4万5700人を超え、前年の約2万8000人を大きく上回った。18年(299人)以来最も多い。

政情が不安定なイラクやシリアなどからの不法移民が増えたほか、バルカン半島のアルバニアからも仕事を求めて若者が殺到。犯罪組織が金銭を受け取り小型ボートを手配しているとの情報もある。

英国は受け入れ施設の費用などで年間約30億ポンド(約5440億円)を負担しているとされ、財政を圧迫。スナク首相は「不法移民の流入を阻止することは優先事項だ」と断言する。

スナク政権はルワンダに1億2千万ポンド(約218億円)を投資する代わりに、英国に密入国した亡命希望者を受け入れてもらう計画の実現を目指す。英国での居住を容認しない方針を明示することで密航を抑止する狙いがある。政権は今月、不法移民らの英国への難民申請を認めないとする法を成立させた。

ルワンダへの移送計画をめぐっては、ジョンソン政権が不法移民の増加は「医療や福祉の負担となる」とし昨年4月に掲げた。ジョンソン元首相は当時、1990年代の大虐殺を乗り越えて高度成長を遂げ、リビアなどから難民を受け入れたルワンダを「世界で最も安全な国の一つ」と強調した。

英政府は難民の生命や自由が脅かされない国を「安全な第三国」と定義している。移送された移民らはルワンダで亡命申請手続きを行い、申請が受理されれば、最長で5年間の教育や支援が受けられる。

しかし、国連や人権団体は計画を受け継いだスナク政権に厳しい目を向ける。グランディ国連難民高等弁務官は難民条約上の責任を他国に押しつけることは「国際的な責任分担に反する」と批判した。

強権的とされるカガメ大統領の下、ルワンダで難民が虐待されたとの報告もあり、メイ元英首相が移送による不法移民の人権状況の悪化を懸念するなど与党・保守党内でも計画に否定的な発言が目立つ。

英控訴院は6月29日、ルワンダを「安全な第三国」とみなせないとし、移送は違法との判決を下した。スナク政権は上訴の意向を表明したが、司法での争いは数年間続く可能性がある。

一方、スナク政権は非正規なルートで渡航した亡命希望者ら約500人を英南西部の港に係留させたバージ船に入居させる計画も準備。1日600万ポンド(約11億円)の宿泊費を削減できるが、この計画に対しても人権団体が亡命希望者らを船に閉じ込めるのは「残酷だ」と非難しており、「円滑に入居が進むかは不透明」(元議員)という。【7月30日 産経】
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イギリスで密入国者が増加した背景にはEU離脱もあります。
イギリスはEUから離脱したことで、フランスとの関係が悪化、。これまでフランス側で留め置いてもらっていた難民たちが、一気に海峡を渡ってきた・・・ということもあります。

EUからの移民急増を防ぐことを目的の一つに掲げたEU離脱の結果、逆に不法移民が急増することにもなっています。

上記記事にもあるように、グランディ国連難民高等弁務官は昨年6月、責任を「輸出」することは難民条約の考えに反すると指摘。イギリス政府の政策を「完全に間違っている」と非難する声明を発表しています。

イギリスのルワンダ移送計画に対する司法判断は、一審は「合法」としましたが、二審は拷問や非人道的な扱いを禁じる欧州人権条約(ECHR)に違反すると判断。イギリス政府は最高裁に上訴するとともに、ECHRからの脱退も辞さない強硬な姿勢を見せてきました。

そして、さきほど報じられている情報によれば、最高裁は15日、違法と判断しました。

****不法移民のルワンダ移送は「違法」 英最高裁が判断****
英最高裁は15日、難民申請をするために英国にたどり着いた不法移民を東アフリカのルワンダに移送する英政府の計画を違法とする判断を全員一致で下した。

厳格な移民政策をとってきた保守党のスナク政権に大きな打撃となるのは確実で、来年にも実施される総選挙で移民流入の阻止を公約に掲げる同党の選挙戦略にも影響を与えそうだ。

(中略)最高裁はこの日、「ルワンダで移民らが迫害を受ける恐れがある」と指摘して2審の判断を支持した。
最高裁は一方で「(計画では)迫害のリスクが取り除かれる必要がある」としており、英政府が今後、改訂版の移送計画を出す余地も残された。

スナク英首相は判断を受け「不法移民の阻止に向けてあらゆる手段を講じる」との声明を発表した。【11月15日 産経】
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【イタリア・メローニ政権 対岸のアルバニア移送で合意】
一方、移民・難民の最終目的がイギリスなら、その玄関口となっているのがイタリア。
そのイタリア・メローニ政権もイギリスと同様の政策を計画しています。移送先はアドリア海対岸と地理的にも近いアルバニア。

****伊、アルバニアに移民収容施設 「保護受ける権利侵害」と批判****
「不法移民排斥」を掲げるイタリアのメローニ政権が今月、同国の船が海上で救助した移民・難民の一時収容施設をアルバニアに建設する計画を発表した。送還に向けた対策強化が狙いで、移民らは難民申請の審査中、施設に留め置かれる。支援団体からはEU域外への移送について「保護を受ける権利の侵害」と批判の声が上がる。
 
「EU加盟国と非加盟国の協力のモデルになる」。メローニ首相は6日、アルバニアのラマ首相とローマで記者会見し、両国政府が合意した協定の重要性を強調した。来春までに二つの施設を開設予定で一度に最大3千人を収容可能。年間では最大3万6千人の手続きを処理できると見込む。【11月10日 共同】
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イタリアは南伊都市のバーリ近郊であるアルバニアのシェンジン港と内陸20キロのジャデル地区を使用し、イタリアから送還された移民を管理するコンピテンスセンター2つを建設する予定だ。2024年春より稼働開始を目標としている。

センターが建設される地域はアルバニアが無償で供与するが、センターの建設はイタリアの責任の下、建設費用も全額イタリアの自腹。

アルバニアのセンターに必要な医療サービスを保証するための医療体制を確立するのもイタリア当局の責任となる。
センター内の秩序と安全は、境界線と移動はアルバニアによって制御および管理されるが、管轄はイタリア当局になるので、イタリア法および欧州の関連法に従うという。【11月9日 Newsweek】
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メローニ政権は極右とも評される右寄り政権ですが、国内左派系野党は「本当の意味での国外追放だ」「イタリアのグアンタナモ収容所ってことだな」などと猛反対しています。

欧州委員会は書類を検討中であるとのこと。
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中東諸国とイスラエル  ガザ報復で「アブラハム合意」は短期的にはとん挫 長期的には?

2023-11-14 22:55:14 | 中東情勢

(会談するイランのライシ大統領(左)とサウジアラビアのムハンマド皇太子=11日、リヤド(WANA提供・ロイター=共同)【11月12日 共同】)

【アブラハム合意とハマスのイスラエル攻撃】
中東情勢についての議論では「アブラハム合意」という言葉をよく目にします。トランプ前大統領のもとで進んだイスラエルとUAE、そしてその後のイスラエルとアラブ諸国の関係正常化をさす言葉です、「反イラン連合」の形成を目指す流れでもあります。

****アブラハム和平協定合意*****
アラブ首長国連邦(UAE)とイスラエル国間における平和条約及び国交正常化(通称アラブ首長国連邦・イスラエル平和条約、アブラハム合意、アブラハム協定とも)は2020年8月13日にアラブ首長国連邦とイスラエルの間で締結された外交合意である。

この用語については、アラブ首長国連邦とイスラエルの間の合意に止まらず「UAEとバーレーンとを皮切りとして,その後スーダンやモロッコがこれに倣って陸続としてイスラエルとの関係正常化に踏み出した現象を総括してアブラハム合意と呼ぶ。」とすることもある。【ウィキペディア】
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この流れに乗って、イスラエルとの関係改善の話を進めていたのがアラブの盟主を自任するサウジアラビア。
もしサウジアラビアがイスラエルとの関係を正常化すれば「反イラン連合」は確固たるものになります。

イランが支援するハマスがイスラエルへの奇襲を行ったのは、こうした流れを阻止したいイランの思惑があったとも言われています。

イランがどこまで直接関与していたかは定かではありませんが、ハマスにとっても、イスラエルとアラブ諸国、なかでもサウジアラビアとの関係改善は、パレスチナがアラブ諸国から見捨てられることをも意味し、放置できない事態です。

【イスラエルのガザ報復でサウジアラビアとの協議はとん挫、中東諸国との関係冷却化】
イスラエル・ハマスの戦闘がクローズアップされたことで、イランやハマスの思惑どおりかどうかはともかく、少なくとも両者に好都合な形でイスラエルとサウジアラビアの協議はとん挫しています。

*****ハマス「包囲網」に焦り イスラエル・サウジ正常化は暗礁*****
イスラエルがイスラム原理主義組織ハマスへの攻撃を強化する方針を示し、イスラエルが進めるサウジアラビアとの国交正常化協議は暗礁に乗り上げる公算が大きくなった。

両国が国交を結べば中東地域の勢力図は一変し、イランの孤立が決定的になるとみられていた。イランを後ろ盾とするハマスが協議の妨害をもくろんで、大規模な攻撃に着手したとの見方が出ている。

イスラエルとサウジの正常化協議は米国が仲介し、9月には3カ国の首脳が進展を強調した。早ければ来年前半にも正常化が実現するとの見方もあった。

米イスラエルにとって、サウジはアラブで最も国交正常化を実現したい国だ。世界屈指の産油国でイスラム教の2大聖地を擁し、世界の信徒に絶大な影響力を持つ。サウジはまた、パレスチナ問題が解決しない限りイスラエルとは国交を結ばない姿勢をとってきた。

イスラエルとスンニ派大国サウジが国交を結べば、米イスラエル主導の「イラン包囲網」が強化され、シーア派のイランは厳しい立場に立たされることが必至だった。

サウジは協議の過程でパレスチナ問題で一定の譲歩をするとの報道も出ており、ハマスにとっても看過できない事態だった。

イランは攻撃の直接的な関与は否定している。しかし、8日の米紙ウォールストリート・ジャーナル(電子版)は8月、イランの最高指導者直属の「革命防衛隊」メンバーとハマスなどの幹部が複数回、会合を行ったとして、イランが攻撃計画の策定を支援したと報じた。(中略)

イスラエルの攻撃が激しさを増し、ガザに住むパレスチナ人の犠牲者が増えることが確実な情勢だ。そうした中で、サウジがイスラエルとの正常化に歩み寄れば、世界のイスラム教徒から批判を浴びることにもなる。今後の推移次第では、協議が白紙に戻る事態さえ否定できない。【10月10日 産経】
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サウジアラビア以外の中東諸国とイスラエルの関係も急速に冷却化しています。

****中東諸国、ガザ攻撃に反発強める イスラエルと冷却化急速****
イスラエルとイスラム原理主義組織ハマスの戦闘を巡り、中東ではパレスチナ自治区ガザへの攻撃を続けるイスラエルへの非難が強まっている。

アラブ諸国は近年、イスラエルとの和解を進めてきたが、攻撃の激化でパレスチナへの同胞意識が顕在化した。一方のイスラエルも最優先事項は「ハマス壊滅」に切り替わっており、関係は急速に冷え込んでいる。

イスラエルのガザ攻撃に大きな懸念を抱いているのが隣国エジプトだ。シーシー大統領は「自衛権の範囲を逸脱している」と非難し、10月には事態収束を目指す国際会議も開いた。

イスラエルでは、ガザの民間人をエジプト領シナイ半島に「強制移住」させる計画も選択肢に浮上しているとされる。シーシー氏は「ガザから抵抗や戦闘の思想が持ち込まれ、反イスラエル軍事作戦の拠点になってしまう」と拒否している。

戦闘開始前、イスラエルとの国交正常化交渉の進展が伝えられたアラブの大国サウジアラビアも、交渉を棚上げする方針とみられる。サウジのファイサル外相は10月中旬、ハマスの後ろ盾とされ、米イスラエルが敵視するイランのアブドラヒアン外相と会談した。

中東では欧米諸国の「二重基準」に対する批判も強い。イスラエルとガザで死亡した住民について、欧米の対応には温度差があるとの理屈だ。(後略)【11月6日 産経】
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【イラン大統領のサウジア訪問】
イランは、イスラエルに先んじて中国の仲介でサウジアラビアとの関係を正常化しましたが、これは両者が和解したというより、互いが現状・今後を考えて、とりあえず当面の関係を安定化させたほうが得策と判断した結果です。

上記のように、イスラエルとサウジアアラビアなどの関係が冷却化するなかで、イラン大統領がサウジアラビアを訪問し、協力関係を確認しています。

****イラン・サウジ首脳が会談 国交正常化後初、協力一致****
イランのライシ大統領は11日、サウジアラビアの実権を握るムハンマド皇太子と同国の首都リヤドで会談した。3月に中国の仲介で国交正常化した後、両首脳が直接会談するのは初めて。

イラン大統領府によると、2国間関係と地域の協力を発展させるとともに、両国の関心事や地域情勢について詳細に議論することで一致した。パレスチナ自治区ガザ情勢も協議した。

両首脳は10月11日、国交正常化後に初めて電話会談した。今回の直接会談で協力を確認し、関係改善を印象付けた。

ライシ師はアラブ連盟とイスラム協力機構(OIC)による合同の臨時首脳会議に出席するためサウジを訪問した。【11月12日 共同】
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形式としては、サウジアラビアの首都リヤドで開かれたアラブ連盟とイスラム協力機構の合同首脳会議に2人が出席したことから会談が成立したというものです。

なお、イランのライシ大統領はエジプトのシシ大統領とも会談しています。
イランは1979年、イスラエルとエジプトが平和条約を結んだことを理由にエジプトとの国交を断絶していますが、近年は関係修復の動きが進んでいるとも言われています。

【それでも長期的には「アラブとイスラエルの接近」は進む】
上記のような動きを見ると、イスラエルとサウジアラビアなど中東諸国の関係は冷却化し、イランはサウジアラビアとの協調関係をアピールするということで、アブラハム合意以来の「反イラン連合」はとん挫したようにも見えますが、そうした動きは短期的なもので、長期的には中東諸国のイスラエル接近、「反イラン連合」の動きは変わらないとの指摘も。

****それでも「アブラハム合意」に基づく「アラブとイスラエルの接近」が終わることはない****
日本経済新聞コメンテーターの秋田浩之が11月14日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。イスラエル・パレスチナ情勢について解説した。

飯田)秋田さんは11月3〜5日に、アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビで開かれた「World Policy Conference」に参加したそうですね。(中略)

イスラエルが多くの死傷者を出したことへの反発
秋田)2つ発見がありました。1つは、いま中東の上空に、方向性がまったく逆の2つの気流が渦巻いています。1つは当然、憎悪や怒りの感情で、パレスチナ問題をめぐるものです。特にイスラエルが死傷者を大勢出してしまっていることについては、かなり反発が聞かれました。

アブラハム合意に基づくアラブとイスラエルの接近が終わることはない 〜スローダウンしても反転することはない
秋田)ただ、もう一方で「地政学のベクトル」も相変わらず消えてはいないのだなと思いました。長期的には、こちらの方が重要だと思います。いまは感情の部分でぶつかり合っていますが、共通の脅威であるイランに対応するため、「アラブ諸国とイスラエルが接近する」という動きです。

2020年秋から「アブラハム合意」のもとに、それまでずっと宿敵だったアラブ、特にサウジアラビア、バーレーン、モロッコ、UAE。このうちサウジアラビアはまだですが、参加国の湾岸アラブ諸国が、イスラエルと電撃的な国交樹立を決めました。

これは事実上、イランに対抗するためにアメリカが主導した「反イラン連合」なのですが、地政学の計算から結びつくのです。サウジアラビアも、つい最近まではイスラエルとの国交正常化が言われていました。

アブラハム合意は長期を見据えた国家戦略の決定
秋田)それが「もう壊れてしまったのかどうか」が今回、私の最大の関心でした。いろいろと個別に話を聞くと、UAEやエジプト、サウジアラビアの人もいましたが、「アブラハム合意に基づくアラブとイスラエルの接近が終わることはない」と言っていました。(中略)

アブラハム合意に関与している国のある高官は、「これは長期を見据えた国家の戦略決定だ」と言っていました。ですので、いま起きている情勢によって多少スローダウンはするけれど、「反転することはない」と言っていたのが印象的です。(中略)

ハマスはそれを壊そうとしたのですが、傷は付いても完全に消滅はしないというような話でしたね。(中略)

彼らは表立っては言いません。私が今回会議へ行ったいちばんの目的は、「アブラハム合意」という地政学接近が終わるのかどうか、本音を聞こうと思って行ったのです。会議でそのようなことを公式に言う人はいませんが、会場で個別に話を聞くと、だいたいみんな「いまは静かにしているけれど、途切れることはないだろう」と話していました。

将来的には「イラン連合」と「アラブ・イスラエル連合」の二極構造に
飯田)報道によると、イランのライシ大統領がサウジアラビアに行き、トップと会っていたようです。「もはや対イスラエルで、アラブとペルシャも手を組むのか」という話になっているように感じますが、そうではないのですか?

秋田)非常に複雑なのですが、基本的に、イランは「イスラム革命を輸出しようとしている」と言われているイスラム国家ですよね。アラブは王政なので、イスラム革命のような状況が起きて、イランのようになってしまうことを恐れているのです。

飯田)イランはイスラム革命によってパーレビ王政を追放したわけですものね。
秋田)彼らは他国にもイラン革命が起きて、自分たちのようになることを望んでいるのです。だからハマスやレバノンのヒズボラなど、イスラム教シーア派を支援している。相容れないわけです。(中略)

では現在、なぜイランとサウジアラビアなどが接近しているのかと言うと、融和のためではなく、米ソ冷戦時代のデタントのようなものです。(中略)

イランも、国内では女性のスカーフ着用の問題でデモが起きて大変ですし、経済制裁も長い。サウジアラビアは今後、再びトランプ大統領に代わるかも知れないアメリカの状況をみると、アメリカがどこまで守ってくれるのかわからない。

緊張緩和しているだけで、やはり全部引き剥がせば、「アブラハム合意」のパラダイムと言うか、アラブとイスラエルが接近して「反イラン同盟」を築いていく。イランはそれに対抗するため、シリアやレバノン、また半ばシーア派が多いイラクなどと組んでいく。(中略)

いまのパレスチナ問題の激情と言っていい対立は長く続くと思いますが、10〜20年先を見ると地政学は、旧ペルシャ帝国の連合である「イラン連合」と、イスラエルの軍事力とハイテクを使って対峙していく「アラブ・イスラエル連合」という二極構造になる。それが安定の鍵を握ると思います。【11月14日 ニッポン放送 NEWS ONLINE】
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イランとサウジアラビアのようなアラブ諸国が基本的立場で相容れないというのは指摘のとおりだと思います。

ただ、「10〜20年先を見ると」というのは、目まぐるしく状況が変化する現代にあっては期間が長すぎ。何が起こるかわからないそんな将来のことは誰もわかりません。

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中国  就職難、地方に都市若者を誘致するためさまざまなプログラム 習近平氏下放体験を反映

2023-11-13 22:26:52 | 中国

(10代に暮らしていた穴居を訪れる習氏(2015年)【11月8日 WSJ】)

【中国若者の「日本化」 中国政府「苦労は買ってでもしろ」】
中国では16歳から24歳の「若者の失業率」が6月には21.3%にまで達し、中国当局は7月から若者の失業率の発表を取りやめてしまいました。

そうした厳しい雇用情勢や経済状況、また、結婚などの厳しい社会情勢からドロップアウトするかのように、仕事もしない、結婚もしないといった、とにかく現実に抗わない内向きな若者像もよく指摘されています。(実際のところ、そうしたイメージどおりの若者がどれだけいるのかは知りませんが)

そうした若者像はバブル崩壊後の長期不況下の日本にもよく似ているとの指摘も。

****30年前と酷似…中国で進む若者の日本化 “寝そべり族”の大量発生で「恋愛の仕方がわからない」****
(中略)
若者たちを突き放し、「引き締め」を強化する中国政府
中国政府が失業率の数字を公表しなくなったために最近の動向はわからないが、若年層(16〜24歳)の雇用状況が改善しているとは思えない。

シンガポール紙「聯合早報」(10月2日付)は、中国財政省の発表として、今年1月から8月までの宝くじの売上高が前年比約52%増の3757.61億人民元(約7兆5000億円)だったことを伝えた。同紙によると、中国メディアは宝くじ販売店の多くが「以前より若者が増えた」とコメントしたことを報じ、SNSでは巨額当せん金の使い道を想像するトピックが人気を呼んでいるという。そのためSNS上では、若者たちにとっての宝くじは「溺れる者がつかむ藁」とみなされるようになっているそうだ(10月5日付Record China)。

このような状況にもかかわらず、中国政府は若者たちに救いの手を差し伸べる姿勢を示していない。それどころか、「苦労は買ってでもしろ」と突き放し、思想や行動に対する「引き締め」の強化に走っている印象が強い。

中国では9月に入り、北京の名門大学のキャンパス内で宣伝活動が強化され、スパイを見つけた場合の通報方法に関する短期集中講座が実施される事態となっている(9月15日付ブルームバーグ)。

社会の閉塞感に絶望した若者が「日本化」
不動産バブルの崩壊が災いして長期不況に陥るリスクが生じていることから、中国経済の「日本化」が指摘されることが多くなったが、筆者は、高まる社会の閉塞感に絶望した若者の間で広がる「日本化」にも注目している。

中国の「寝そべり族(タン・ピン)」は日本でも有名になった。タン・ピンとは「だらっと寝そべる」という意味で、仕事をしないで寝そべって何もしない、結婚もしないというライフスタイルを指す。30年前のバブル崩壊後の日本でもこのような若者が大量に発生していたことが思い起こされる。

中国の昨年の婚姻件数は前年比11%減の683万組と、9年連続の減少となった。ピークの2013年から半減した形だが、婚姻件数はさらに減少することが確実視されている。

寝そべり族が増殖したせいで、「結婚しない」若者が急増しているからだ。中国では2021年時点で15歳以上の独身者の人口が約2億3900万(中国統計年鑑2022)に達したが、彼らが「結婚しない」ことが大きな社会問題になっている。中国紙「中国青年報」が交際相手のいない男女を対象にアンケート調査を実施したところ、男女とも悩みは「恋愛の仕方が分からない」だった。

若者の「日本化」が社会に混乱をもたらす危険性
中国で進む若者たちの「日本化」について、筆者は「社会を混乱させるリスクを内包しているのではないか」との思いを禁じ得ないでいる。

日本ではすでに「ブラックバイト(就業環境が劣悪、常識はずれの低賃金など条件が悪すぎるアルバイト)」という言葉が定着しているが、近年は中国でも大学生らを狙ったブラックバイトが横行している。マルチ商法の片棒を担ぐケースなども増えているという(9月12日付東方新報)。

日本では2000年代以降、刑法犯の認知件数は減少傾向にあるが、中国の刑法犯は2001年から2021年にかけて2倍以上に増加している。国防費を上回る予算を社会秩序維持のために投じているのにもかかわらずに、である(9月30日付共同通信)。

さらに中国の深刻な状況とは、「社会的地位の低い」男性が不特定多数を標的にする襲撃事件(社会報復事件)の増加に歯止めがかからないことだ(7月11日付BBC)。

若者の「日本化」が社会に混乱をもたらす危険性は、排除できないのではないだろうか。【10月11日 藤和彦 デイリー新潮】
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もっとも、仕事もせずに寝そべっていられるのは、ある意味贅沢。それが可能なのは親世代の経済支援などもあってのことでしょう。特に、あせって意に沿わない就職をするより大学院に進む若者などは、親の支援があってのことでしょう。そういう意味では豊かになった中国社会の一面を示す現象なのかも。

【都市若者を地方農村へ 習近平版「下放」 若者に仕事を与え、農村の活性化に資するとのことだが・・・】
「苦労は買ってでもしろ」と突き放す中国当局の対応・・・・習近平国家主席が文革時代に個人的に経験した下放体験を色濃く反映したものです。

そして今、再び都市若者を地方農村に送り込む施策が取られています。

さすがに農村に無理やり放り込まれて、農村に学ぶという毛沢東・文革時代の「下放」とは異なり、習近平思想や新しい技術を農村に広めて農村を活性化する役割を担うボランティア活動といったようにソフィスティケイテッドされてはいるようですが。

これにより無職の若者に職を与え、都市若者の失業率も下がること、併せて農村も活性化することが期待されているようですが、そううまくいくかな・・・若者がそういう農村での生活に満足するかな・・・という感も。

****都会の若者を送り込め 中国が地方空洞化で****
記録的な水準にある若者の失業率、政府は地方に誘致するためさまざまなプログラムを立ち上げ

中国の習近平国家主席は、10代だった文化大革命(文革)の時期に農村に送り込まれ、1960年代後半と70年代前半の数年を農業に従事したり穴居で本を読んだりして過ごした。

それから半世紀がたち、習氏はより多くの若者が自分の先例に倣うことを望んでいる。
若者の失業率が記録的な水準に達し、中央政府が地方空洞化への懸念を強める中、習氏は学生や大卒者に苦難を受け入れ、都会での生活を捨てて田舎暮らしを検討するよう呼び掛けている。

政府は若者を地方に誘致するためにさまざまなプログラムを立ち上げた。農村に入った若者は、地元の農産品を宣伝したり、壁にペンキを塗ったり、共産党の指導力を農家の人に称賛したりする役割を担っている。

何十万人もの若者を地方に送り込むことで、無職の若者に仕事を与えると同時に、国の経済成長から取り残された村落が活性化されることを政府は期待している。

だが、多くの若者がこうしたプログラムを利用するのは、今は難しそうな大都市での職探しを先延ばしするためだ。彼らが働いたところで、ビジネスや投資の不足といった地方の問題を解決できるわけではない。

中国南部の広州市の西にある村では最近、ボランティアの大学生が壁に麻薬撲滅のスローガンを描いていた。政府が再生計画を掲げるこの村は、ひと気がなく、商売は成り立たず、空き家には雑草が生い茂っていた。

ペンキ塗りを志願し、公式アプリで登録すれば、後に共産党に入党しやすくなると考える学生もいる。公職に就ける可能性が高まり、就職に非常に有利になるとの期待がある。

別の村では、党に協力している若者が、子どもに食品ラベルの賞味期限の読み方を教えていた。ある女性は、フルタイムのボランティアに参加することでキャリアについて考える時間ができたと語った。「他に何をすればいいか分からなかった」。そこへ政府関係者が来て、これ以上話を聞くことはできなかった。

「ここは退屈」
中国はこれまで数々の地方向け貧困対策を打ち出してきたが、最新の特徴は、習氏の主要な政治目標を推進するために若者に協力を求めている点だ。

こうした取り組みが加速したのは、習氏が昨年12月の演説で、より多くの卒業生を地方に向かわせるよう政府関係者に要請してからだ。

習氏は、この40年で進んだ地方から都市部への人口移動について、国の食糧供給を危険にさらし、西側諸国との競争が激化する中で国を脆弱(ぜいじゃく)にしているとの懸念を表明。「一部の村落で発展が遅れているのは、もっぱら人材不足が原因だ」としている。

習氏の構想は、より多くの若者を、1年や2年ではなく長期的に田舎に定住させることだ。今夏時点で都市部の若年層の失業率は20%を超えていた。町や村に移住させることで、多くの卒業生が望むホワイトカラーの仕事を十分に創出していない都市部の緊張をいくらか緩和できる。

だが多くの若者は、都会で店員や配達員などの低賃金労働でしのぐ方を選ぶだろう。親のすねをかじって生活している人もいる。
2021年から広東省の田舎で党のボランティアとして働いているチェン・リンミンさんは、「ここは華やかな都市と違って退屈だ」と話した。

チェンさんは大学で美術を専攻していた。今は党の青年団とともに、都市と農村に400万人余りが住む肇慶の北にある、自身が滞在している田舎町を宣伝する動画を製作している。

党はチェンさんのような若者のデジタル分野の感性を積極的に活用しようとしている。えびやピーナツといった地元の特産品を売り込むネット通販サイトの立ち上げを指示された若者もいる。商品をブランド化して差別化することで都会の人にアピールし、地方の商品をもっと購入してもらい、相対的に貧しい地域に収入をもたらす狙いがある。

だが、大都市の人にアピールできるような特産品がない村も多い。
チェンさんは、米を他の地域にも売り込むためパッケージを刷新し、肇慶で自然栽培されたものであることを前面に出すデザインに変えた。今のところ、リブランドしたこの米を購入しているのは主に地元政府と村の住民だという。

チェンさんは、ボランティアを通じて経営方法を学んだことや、田舎ならではの体験ができることを好意的に受け止めている。だがそこにとどまるつもりはなく、年内にプログラムが終了したら都会に戻るつもりだ。

毛沢東のこだま
若者を田舎に送り込むという考えは、中国共産党の歴史に深く根ざしている。党は毛沢東の指導の下、1960年代から1970年代にかけて1600万人余りを農村に下放して労働に従事させた。

15歳だった習氏は、北京の恵まれた環境から北部の荒れ地の村に送られた。公式メディアによると、同氏は穴居で眠り、羊の世話をし、農業従事者と畑の手入れをした。

国家主席となった習氏は当時について、国家のために犠牲を払うことの大切さを教えてくれた、人生を変える経験だったと語っている。中国の農業競争力を高め、若者に雇用を創出するという現実的課題に加えて、若者はもっとたくましくあるべきとの同氏の信念も、農村での労働推奨を後押ししている。

中国国営メディアによると、習氏は「『苦難を自ら追い求めること』は、私が自分自身に要求する最も重要なことだ」と語ったことがある。

ただ、現代の政策は習氏が耐えたものとは根本的に異なっている。まず、強制ではなく政府は有志を募集している。
また、都会人は農村から学ぶ必要があるとされた文革期とは異なり、今の当局者は農村の現代化を支援するために大卒者が必要だとしている。

国営メディアは数人のボランティアを党の賛同者として紹介した。国の農業政策を宣伝するため、田畑まで足を運んでいる。リ・ユエヤンさんは今夏、新卒者に「農業に3年従事して、たくさん収穫できるようになった」と語ったという。

仕事がない多くの若者が国の運営に幻滅することを危惧する共産党にとって、若者に党のイデオロギーを植え付けるのはとりわけ重要だ。

新卒者は国家のニーズに沿ってキャリアを選ぶことが期待されている。たとえそれが地方の低賃金職だったとしてもだ。

大いなる復活
広東省は、25年末までに20万人の若者を地方に誘致する目標を掲げている。仕事を求めて都市部へ移った若者に、地方の故郷に戻って働くよう奨励するのもその一環だ。

あるプログラムでは、新卒者は地方に2~3年住むことになる。参加者は「ボランティア」と呼ばれるが、政治的忠誠心を審査され、月300ドル(約4万5000円)程度の手当てが支払われるほか、住居や食事の支援も受けられる。多くの参加者は地方公務員とともに働く。

期間を満了して公務員試験を受けると、点数にげたを履かせてもらえる。政府系企業に応募した場合も優遇措置を受けられる。(中略)

純粋に習氏の呼び掛けに触発されたという若者もいる。ただ、長期的にとどまることまで説得できるかは別の話だ。
農村の生活環境は大都市に比べて遅れている場合がある。広東省の農村で働く若い新卒の女性ボランティアが撮影した自身の住居の動画には、セメントの壁と格子窓のある貧相な部屋が映っていた。ベッドには虫よけ用の網が張られていた。

恩返しにも限界はある
広東省の北の農村出身というライ・チアンさん(29)は、大学院に進むための奨学金を得たことをきっかけに、国に恩返しをしたいと思うようになったという。(中略)

卒業を控えていた22年、地元の共産党青年団が広東省の農村で働くボランティアを募集していた。ライさんは申し込むことにした。「国や学校に育ててもらったので、恩返しがしたかった」。ライさんは役所でのインタビューでこう答えた。(中略)

こうした取り組みは党からも認められているが、ライさんはこの先も広東省の農村にとどまりたいか迷っている。
ガールフレンドは省都出身で、田舎暮らしには興味がない。それに、都会は田舎よりはるかに稼ぎがいい。「結局、自分も田舎を出た口だ」とライさん。「お金の問題も考えないといけない」【11月8日 WSJ】
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いかにも役人が習近平主席の意向を忖度してひねり出した制度のようにも見えます。
部屋で“寝そべって”いる若者が、そんな農村での厳しい生活に飛び込むのか、仮に飛び込んだとしてどれだけ満足するのか・・・そんな若者ボランティアが農村活性化にどれだけ役立つのか・・・疑問も多々。

【若者の安定志向で日本企業が人気】
もう少し現実的なところでは、就職事情。若者の安定志向で日本企業が人気だとか。

****“就職難”中国で日系企業が就職説明会 学生の「安定志向」強まる****
若者の就職難とされる中国で、日系企業の就職説明会が開かれました。経済を不安視してか、学生の「安定志向」が強まっています。

日系企業13社が集まった説明会には、中国の外国語大学に通う学生らおよそ500人が参加しました。

就活生:「就職が不安定になり始めたころに(大学院への)進学を決めた。大学院を卒業したらもっと不安定になっていた」「教育塾から内定をもらったけど他にはもらっていない。これからも就職活動を続けていきたい」

2021年から就職率の発表を取りやめた中国政府は、特定の組織に所属しない配達員やライブ配信者などを「柔軟な就業」という指標でカウントし始めました。

最新の発表では、労働人口9億人のうち「柔軟な就業」は2億人以上になっていて、近年では高学歴の若い世代の割合が増えているということです。

就活生:「大学のクラスメートは『柔軟な就業』をしてファッション関連をSNSで発信している。私の性格を考えると、決まった仕事をするほうがいい」「(就職活動は)とても大変。就職できても満足できる仕事かどうか分からない。『柔軟な就業』を選ぶ人もいるでしょう」

一方で、中国経済を不安視してか学生の「安定志向」が強まっているといいます。

パーソルケリー 樊蕾さん:「皆、安定を求めています。公務員や大学を卒業して修士・博士コースに進学する人がとても多いです。日本や欧米への留学から戻ってきた新卒の人たちもいて、競争がかなり激しい」

日系企業は、欧米企業などに比べて給料は相対的に低いものの、雇用が安定しているため就職先として人気だということです。【11月13日 テレ朝news】
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ミャンマー  北東部での少数民族武装組織の攻勢が続く 国軍側には強い危機感 中国はどう動く?

2023-11-12 23:08:36 | ミャンマー

(【11月10日 BBC】)

【暫定大統領「国家崩壊の危機に直面している」】 
軍事政権統治下のミャンマーでは、民主派勢力(アウンサンスーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)の議員らが設立した「国民統一政府」(NUG))の民兵組織及び少数民族武装組織と国軍の間で戦闘が続いていますが、10月27日に中国国境も近い北東部シャン州で三つの少数民族武装組織が連携して攻勢を開始したことは、11月2日ブログ“ミャンマー  少数民族武装勢力の攻勢 「次世代のスー・チー」と(欧米で)期待される若い女性活動家”でも取り上げました。

10月27日に北東部シャン州で国軍への攻勢を開始したのは、以前から協力関係にある「ミャンマー民族民主同盟軍」(中国系コーカン族)、「アラカン軍(AA)」(西部ラカイン州を拠点とするアラカン族 アラカンがどうしてシャン州で活動しているのか・・・知りません)、「タアン民族解放軍」(タアン族)です。

辺境での攻勢ですので、ミャンマー全土への影響がどの程度あるのか・・・確認できずにいましたが、暫定大統領が「軍が事態に対応しなければミャンマーは分裂する」と語るほどに、国軍にとって思い他大きな圧力となっているようです。

****ミャンマー軍 少数民族の武装勢力から攻撃 情勢悪化懸念****
ミャンマーで実権をにぎる軍は東部で少数民族の武装勢力から一斉に攻撃を受けていて、暫定の大統領が「軍が事態に対応しなければミャンマーは分裂する」と述べて、情勢の悪化に強い懸念を示す事態となっています。

ミャンマーではおととしのクーデター以降、軍と民主派勢力などとの戦闘が続いていて、先月末から3つの少数民族の武装勢力が東部シャン州で一斉に攻撃を始め、8日までに軍の施設などおよそ150か所を占拠する事態となりました。

国営メディアは9日、軍のトップ、ミン・アウン・フライン司令官や幹部らで構成する評議会が首都ネピドーで8日に開かれ、少数民族との戦闘状況について意見が交わされたと伝えました。

評議会で個別の戦闘が議題となるのは異例で、暫定の大統領を務めるミン・スエ氏は「もし軍が事態に対応しないのであれば、ミャンマーは分裂することになるだろう」と述べて、情勢の悪化に強い懸念を示しました。

少数民族との戦闘は中国との国境周辺で起きていて、国連は先月30日に数百人が国境を越えて中国側に避難しているとしていて、影響は周辺国にも及んでいます。【11月10日 NHK】
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あくまでも地図の上での話ですが、シャン州全域が少数民族側の支配下になれば、首都ネピドーやミャンマー第2の都市マンダレーは州境からすぐ近くです。

また、シャン州での戦況が国軍に不利になれば、各地の少数民族武装勢力が動き出すでしょう。
戦闘は北西部サガインなどにも拡大しています。

また、三つの少数民族武装勢力が攻勢をかけている地域が中国国境に近い地域ということで、この問題には中国が絡んできます。

****ミャンマー北東部で少数民族武装勢力と国軍の戦闘激化、大統領代行「国家崩壊の危機に直面」****
ミャンマー北東部で国軍と少数民族武装勢力の戦闘が激化している。2021年2月の国軍によるクーデター以降最大規模の戦闘と指摘され、衝突が全土に拡大する懸念も強まっている。

ミン・スエ大統領代行は8日、国防治安評議会で「国家崩壊の危機に直面している」と述べ、危機感をあらわにした。

ミャンマー北東部ではシャン州拠点の「タアン民族解放軍」と「ミャンマー民族民主同盟軍」、西部ラカイン州の「アラカン軍」の3勢力が10月27日、「1027作戦」と称し、複数の国軍の拠点に攻撃を開始した。「独裁を終わらせることが目的」とし、独立系地元メディア「イラワジ」はこれまでに中国との国境ゲートを含む90か所以上を占拠したと報じている。

国軍は11月2日、反撃を宣言したが、民主派勢力なども武装勢力を支援しており、国軍は劣勢の模様だ。国軍は兵士の死者数を明らかにしていないが多数の死傷者が出ているとみられる。

戦闘は北西部サガインなどにも拡大し、国連は10日、戦闘によりシャン州で5万人、北西部で4万人が家を追われたと報告した。

中国と国境を接する北東部には、中国人も多く住んでいる。中国外務省の汪文斌ワンウェンビン副報道局長は7日の記者会見で、戦闘の影響で中国人が亡くなったことを認め、「中国人が死傷している状況に強い不満を表明する」と述べた。

中国政府は王小洪ワンシャオホン国務委員兼公安相や外務省高官を相次いでミャンマーに派遣し、国軍トップのミン・アウン・フライン最高司令官らに対し、中国と協力して国境地域の安定を図るよう求めた。

一方、北東部の少数民族武装勢力は歴史的に中国とのつながりが強いとされ、国軍側は「攻撃に中国製ドローンが使用されている」と指摘した。中国の官製メディアは、中国が関与しているとの見方について「事実と大きな隔たりがある」と反発している。【11月12日 読売】
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【「一帯一路」ルート上での衝突 中国は安定を求める】
中国が関係してくるポイントは何点かあります。
難民が中国側に流入してくること、この地域で中国系詐欺グループが活動していることへの対応で、中国がミャンマー側に不満を持っていること、国境近い少数民族武装勢力と中国の間にはかねてよりつながりがあるとされていること、一方、中国は軍事政権とも一帯一路事業推進で関係が深いことなど。

中国の立場ひとつとっても、上記のようにいろんな側面があり、それらが絡み合って複雑な様相を呈しています。

中国は国軍と少数民族のどちらの側につくのか・・・中国としては、とにかく「安定」を望んでいるというところでしょうが、一番重要なのは一帯一路事業が支障をきたさないことでしょう。

****ミャンマー反政府武装勢力が「一帯一路」ルート上で国軍と衝突、中国に打撃****
<ミャンマーで少数民族武装勢力と国軍の衝突が起きているが、現場は中国との国境付近で、一帯一路のルート上にある>

ミャンマー北東部の中国との国境付近で起きている武力衝突は、中国政府がこの地域で進めている数十億ドル規模のインフラプロジェクト「一帯一路」や、両国間を通る主要な貿易ルートを危険にさらす可能性があると、専門家が本誌に語った。

2021年2月のクーデターで政権を掌握して以来、民主化要求を弾圧し続けてきたミン・アウン・フライン国家行政評議会副議長率いる軍事政権と少数民族武装勢力「MNDAA(ミャンマー民族民主同盟軍)」が衝突したのを受け、中国は農融外務次官補をミャンマーに派遣して鎮静化を呼びかけた。

軍政に打撃を与えたのは、MNDAAが中国雲南省と国境を接する東部シャン州北部の国境の町チンシュエホーを制圧したことだ。この町は中国からミャンマーを貫きベンガル湾に出る18億ドル相当の重要な貿易ルートの一部になっている。

報道によると、10月27日以来、反政府勢力はミャンマー国軍の前哨基地90以上を制圧。軍は少なくとも3つの町を失ったことを認めたという。

国連によると、ミン・アウン・フラインは反政府勢力に立ち向かうことを誓い、国軍は空爆で応戦している。衝突によりこの地域では約4万8000人が避難を余儀なくされた。

一帯一路構想への悪影響
ペンシルベニア大学バックネル校の朱志群教授(政治学・国際関係学)は、「反政府勢力と軍事政権の戦闘は、中国にとって深刻な問題となっている」と本誌に語った。

中国は通常、他国の内政や内戦に関与したがらないが、「この地域には雲南省とベンガル湾を結ぶ中国・ミャンマー経済回廊(CMEC)が設置される予定であり、ここでの戦闘は間違いなくミャンマーと東南アジアにおける一帯一路実現の支障になる」からだ。(中略)

「雲南省の国境沿いの環境が不安定になっていることは、中国国境地帯の発展にも悪影響を及ぼすだろう」と朱は言う。紛争から逃れるために難民が中国国境の町に入れば、人道的危機が生じる可能性も高くなる。

ただし「中国が内戦に直接関与する気配はないし、国境の安定をすぐに回復するようミャンマー政府に圧力をかける以外のことをする兆候もない」と彼は言う。

中国とミャンマー軍政との関係はクーデター以降、緊張をはらんだものになっている。農外務次官補はミャンマー訪問後、国境を安定させるために「中国と協力」するようミャンマーに呼びかけた。

「軍事政権が国境の安定を確保するために具体的な措置をとるか、それとも中国がそれをやるか、どちらかだ」と、超党派のシンクタンク民主主義防衛財団民のクレイグ・シングルトン上級中国研究員は言う。

彼は民族自決を求める反政府勢力が中国にとって二重の課題となっていると指摘。それは「中国の一党支配に対するリスク」だと語った。また、「不安定な事態が拡大すれば、この地域での一帯一路構想への投資が危うくなる可能性もある」。

「総合すると、これらのリスクは、中国政府にとって無視できないほど深刻だ」と、シングルトンは述べた。【11月9日 Newsweek】
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****中国、ミャンマー国境の安全・安定確保へ 戦闘停止も求める****
中国外務省は10日、反軍政勢力との戦闘が起きているミャンマーについて、国境における安全と安定を確保すると表明するとともに、同国の全当事者に対して直ちに戦闘を停止するよう求めた。

ミャンマー軍政の大統領は、中国との国境地帯における最近の暴力を効果的に制圧できていないとして、国内は分裂の危機に瀕していると述べている。

軍政は2021年のクーデターで権力を掌握して以来最大の困難に直面しており、北部、北東部、北西部、南東部の軍事基地に対する民主派や少数民族の反軍政勢力による攻撃が急増している。

衝突で中国人が死亡したという情報もあり、中国はミャンマーに滞在する国民に暴力発生地域を避けるよう勧告している。【11月10日 ロイター】
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ただ、“中国は公には停戦を求めているが、(攻勢をかけている三つの少数民族武装勢力の連合体である)同胞同盟のスポークスマンは、中国政府から直接、戦闘をやめるよう要請は受けていないとしている。”【11月10日 BBC】ということで、あまり深入りはしていないようです。

【少数民族武装勢力は自己利益第一 どのようにミャンマーの民主的統一にまとめていくかが問題】
上記のような状況を、詐欺グループへの軍政・少数民族図総勢力の対応及び中国の反応を含めて、改めて詳しく解説した記事が下記【BBC】です。

****ミャンマー軍、クーデター後最大の後退 少数民族武装勢力との戦闘で「国が分裂も」****
クーデターによる軍政が続くミャンマー東部で、国軍と少数民族の武装勢力との戦闘が起きている。ミン・スエ暫定大統領は9日、東部シャン州で勃発した戦闘を政権側が制圧できなければ、国が分裂する危険性があると述べた。(中略)

シャン州で反乱を起こしている三つの民族の武装勢力は、反軍政派のほかの武装グループの支援を受け、国軍の数十の軍事拠点を制圧した。さらに、複数の国境検問所と、中国との陸路貿易の大部分を担う道路を占拠した。

こうした状況は、2021年2月に政権を奪取した軍事政府にとって、これまでで最も深刻な後退と言える。悲惨なクーデターは武装蜂起を起こし、2年半にわたって衝突が続いている。軍は弱体化し、打ち負かされる可能性が出てきたようにみえる。

軍事政権は空爆や砲撃で応戦し、何千人もが家を追われている。しかし政権は、増援部隊を投入することも、失った勢いを取り戻すこともできていない。

殺害された数百人の兵士には、シャン州北部の国軍司令官アウン・キョー・ルイン准将が含まれるとみられている。事実であれば、クーデター後の戦闘で死亡した最も高位の将官となる。

シャン州で活動する反軍政派の武装勢力が、軍事行動の足並みを、軍政転覆と民主的統治の回復を目指す広範な活動と明確にそろえたのはこれが初めてだ。その点からも、今回の攻撃の重要性はさらに増している。

一方で、ほかの要因も考慮する必要がある。これら三つの反軍政派勢力には、自分たちの領土を拡大したいという長年の野望がある。

そして決定的なのは、通常はミャンマーとの国境沿いで活動するすべての勢力に対して抑制的な影響力を見せている中国が、今回の活動の進展を妨げていないことだ。

これはおそらく、シャン州に急増した詐欺組織に対してミャンマーの軍事政権が何も対策を取っていないことへの不満の現れだろう。詐欺組織のセンターでは何千人もの中国人やほかの外国人が働かされている。反軍政勢力は、活動の目的のひとつにそれらのセンターの閉鎖を挙げている。(中略)

今年6月、中国からの圧力を受けた同胞同盟(「ミャンマー民族民主同盟軍」(MNDAA)、「タアン民族解放軍」、「アラカン軍」が結成した同盟関係)は国軍との和平交渉に参加することに合意したが、その後すぐに決裂した。それでも、同胞同盟はまだ、より広範な内戦には関与していないように見えた。

ところが、10月27日に同胞同盟が開始した「1027作戦」と呼ばれる国軍への攻撃によって、その状況は一変した。
同胞同盟は劇的な進展を遂げた。軍の全部隊が、戦わずに降伏したのだ。同胞同盟は100以上の軍事拠点と、四つの町を占拠したとしている。これにはチンシュエホーの国境検問所や、中国への主要な玄関口であるムセに続く主要道路上のフセンウィも含まれる。

同胞同盟は国軍の援軍が来るのを阻止するために橋を爆破。軍事政権と関係のある人物が運営する詐欺センターが多数あるラウッカインの町を包囲した。

ラウッカインには数千人の外国人が閉じ込められていると見られ、町に残った限られた食料を求める人の列ができるなど、混乱が広がっている。中国はすべての自国民に対し、最寄りの国境検問所を通って避難するよう求めている。

同胞同盟はいまの自分たちの最終目標は軍事政権の転覆だとしている。NUG(民主派「国民統一政府」)もこれを目指している。

NUGは同胞同盟の成功を称賛し、自分たちの闘争において新たな勢いを獲得したとした。NUGの志願兵は、陸軍と空軍を総動員した国軍との不均衡な武力衝突を必死に繰り広げていた。

親NUG派の民兵組織「国民防衛隊(PDF)」は、シャン州の武装勢力ほど武装しておらず、経験も浅い。それでも、軍の明らかな弱点につけこんで、シャン州近郊で独自に攻撃を開始。国軍から初めて、地区の主要エリアを奪取した。

同胞同盟はラウッカインを包囲してから間もなく、攻撃のタイミングを慎重に計っていた。中国はこの出来事を受け、ミャンマーの軍事政権にしびれを切らしていた。

中国政府はこの1年、軍事政権に対し、主に中国人集団によって稼働している詐欺センターを閉鎖するよう圧力をかけてきた。詐欺センターに閉じ込められている人身売買の被害者が残忍な扱いを受けていることが広く知られるようになり、中国政府はきまりの悪い思いをしている。

中国側の圧力は、ワ族など多くのシャン州の民族勢力を説得し、詐欺への関与が疑われる人々を中国の警察に引き渡すことにつながった。8月から10月にかけて4000人以上が中国側へ送られた。しかし、ラウッカインの人々は、年間数十億ドルを生み出してきたこのビジネスを停止することに難色を示した。

現地の情報筋がBBCに語ったところによると、10月20日に、ラウッカインで閉じ込められている数千人の一部を解放しようとする試みがあったが失敗に終わったという。

詐欺センターで働く警備員たちが、脱出を試みた大勢の人を殺害したと考えらえている。その結果、隣接する中国側の地元政府から、責任を負う者に裁きを受けさせるよう求める強力な内容の抗議文書がミャンマー側へ送られた。

同胞同盟は好機と見て攻撃を仕掛けた。中国を落ち着かせるために詐欺センターを閉鎖すると約束した。中国は公には停戦を求めているが、同胞同盟のスポークスマンは、中国政府から直接、戦闘をやめるよう要請は受けていないとしている。

同胞同盟はより長期的な目標として、できるだけ多くの支持を得ようとしている。軍事政権が崩壊する可能性を見越しているためだ。支持が大きければ、軍政が倒れた場合にミャンマーの新たな連邦制を築くと約束したNUGとの交渉で、可能な限り有利な立場に立つことができる。(中略)

そして誰もが、(ラカイン州を本拠とする)アラカン軍に注目している。アラカン軍はいまのところ、シャン州における戦闘を支援するにとどまっている。もしラカイン州で国軍を攻撃することを選べば、軍事政権は自分たちが危険なほどまでに拡大しようとしていることに気が付くだろう。同州ではアラカン軍が最も勢力を持ち、すでに多くの町や村を支配している。

TNLA(タアン民族解放軍)のスポークスマンがBBCに語ったように、TNLAはもはや、軍事政権との交渉に価値を見いだしていない。同政権は正当性を欠いているからだ。

いま何らかの合意に至ったところで、将来、選挙で選ばれた政府に無効とされてしまうだろう。タアン族、コカン族、そしてワ族の勢力には、新しい連邦制の中で、自分たちの民族の国家としての地位について憲法上の承認を勝ち取るという、共通の目標がある。

いま起きている戦闘に加わることで、これらの勢力はミャンマーの軍事政権に終止符を打つことができるかもしれない。しかし彼らには、シャン州のほかの勢力の利害とは一致しない、強い願望がある。こうした状況は、ミャンマーの民主的な未来を描こうとする人々が多くの課題に直面することの前触れと言えそうだ。【11月10日 BBC】
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少数民族武装勢力の最大の目標は自分たち民族の利害・自治拡大であり、シャン州だけでも他にも武装勢力は存在し、更にミャンマー全土には多くの同様組織が存在します。

仮に、戦闘が少数民族側に有利に展開したとしても、そうした少数民族をミャンマー全土の民主化という観点でどのようにまとめあげていくのかというのは大きな問題(これまでビルマ族中心のミャンマー政権が実現できなかった問題)です。

NUG(民主派「国民統一政府」)は州を単位とする連邦制を掲げていますが、多数派ビルマ族がそうした体制を受け入れるのかという問題も。

また、混乱の拡大に中国がどのように関与するのか、あるいは関与しないのかも。

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ドイツとフランス  イスラエル・パレスチナへの異なる対応 

2023-11-11 23:02:56 | 欧州情勢

(ドイツ 政府がイスラエル寄りの姿勢を一貫して示していることに対して反発するデモ 【11月10日 NHK】)

【ドイツ ホロコーストへの反省、あるいは「負い目」から「イスラエルの安全はドイツの国是」】
ユダヤ人に対するホロコーストの歴史があるドイツがその責任を認めて、単に過去の反省・謝罪だけでなく、現在のイスラエルとの関係にもその影響は及んでいること、見方によっては“負い目”ともとれるような関係があることは11月3日ブログ“自国の負の歴史への向き合い方 イギリス、オランダ、ドイツ、フランス、そしてオーストラリアの場合”でもとりあげました。

****ハマス大規模テロ――なぜドイツはイスラエルを支持するのか****
(中略)2008年3月18日、メルケル首相(当時)は、クネセト(イスラエル議会)で約24分間にわたって演説した。イスラエルが建国60周年を迎えたことに敬意を表わすためである。(中略)

そして彼女は、「このドイツの歴史的な責任は、ドイツの国是の一部です。ドイツ首相である私にとって、イスラエルの安全を守ること、これは絶対に揺るがすことができません」と断言した。

この言葉によって、ドイツはイスラエルが紛争に巻き込まれた場合、原則としてイスラエル側に立つというメッセージを全世界に送った。(後略)【10月20日 新潮社Foresight】
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これを受けて、今回のイスラエル・ハマスの戦闘にあっても、10月8日にショルツ首相が発表した声明の中に、「イスラエルの安全を守ることは、ドイツの国是だ」という言葉があります。

****ナチスの犯罪に対する負い目****
ショルツ首相は、メルケル前首相の路線を継承して、ハマスによる大規模テロという危機的な事態において、イスラエル支持の姿勢を改めて打ち出した。ドイツのイスラエル寄りの姿勢の背景には、ナチス・ドイツによるユダヤ人虐殺に対する「負い目」があるのだ。

(中略)ドイツ政府は、イスラエルに対する軍事支援にも踏み切る。ドイツ国防省の10月12日付の発表によると、同国のボリス・ピストリウス国防大臣は10月12日、「イスラエルからリースされている2機の「ヘロン」型ドローンを返還する他、軍事資材や医療物資も供与する」と語った。

同国の緑の党の議員たちの間からも、イスラエルに対して武器を供与するべきだという意見が出ている。同党のアンナレーナ・ベアボック外務大臣は、「イスラエルは自衛する権利がある」と語った。(後略)【同上】
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このドイツ政府の立場は今も変わっていません。

11月9日、「水晶の夜」として記憶される日から85年を迎えました。

「水晶の夜」は1938年11月9日から10日に、ナチスの扇動で全国のユダヤ人の商店やシナゴーグ(礼拝所)が焼き打ちに遭い、多くのユダヤ人が殺害された事件です。破壊された家々のガラスの破片が月明かりに輝いたことから名付けられました。その後のユダヤ人600万人が犠牲になったとされるホロコーストの前兆となった一夜でした。

****「二度と繰り返さない」 独首相、ユダヤ人保護表明*****
ドイツのオラフ・ショルツ首相は9日、イスラエルとイスラム組織ハマスの一連の衝突を受けて反ユダヤ主義が高まっている事態は「国辱」だとし、ユダヤ人の保護を表明した。

この日は1938年のユダヤ人迫害事件「水晶の夜」から85年に当たり、ショルツ氏は、先月火炎瓶2本が投げ込まれたベルリンのシナゴーグ(ユダヤ教の会堂)で行われた追悼式典で演説した。(中略)

ショルツ氏は、「これは1945年以来、数十年にわたって(ドイツが)約束してきた『二度と繰り返さない』という誓いを守ることにほかならない」と主張。

「二度と繰り返さない」とは、ナチスの残虐行為の記憶を生かし続け、「テロのプロパガンダ」を拒否し、そして国民と移民に対して等しく、多様性と尊重を要求・保証するドイツの「自由で民主的な秩序」を確実に重んじるようにさせることだと続けた。

さらに、ドイツが過去に犯した罪の重さを考えると、国内における反ユダヤ主義の高まりは「国辱」であり、「憤慨し、深く恥じている」と述べた。 【11月11日 AFP】
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反ユダヤ主義を許さないというのは正しい主張ですが、それは国家としてのイスラエルの行動を支持するということとはまた別物であるとも思います。

しかし、ドイツはそうした過去の歴史体験を踏まえて、「イスラエルの安全はドイツの国是」という認識から、イスラエルの自衛権を制限する「停戦」に慎重な立場を取っており、国際関係におけるイスラエル支持という立場をとっています。

【ドイツの姿勢はEUの行動にも影響 アラブ諸国などからは批判 国民世論はガザ攻撃には否定的】
こうしたドイツの姿勢はEUの対応にも影響しています。

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(ドイツは)ガザ地区の民間人は守られるべきだという立場は示すものの、イスラエルにはハマスのテロ攻撃に対する自衛の権利があるとして、攻撃をやめることまでは求めてはいません。

そして、人道物資の搬入を目的とした戦闘の休止は支持していますが、国連などが求める人道目的での停戦については否定的な姿勢を示し続けています。

このドイツの姿勢はEU=ヨーロッパ連合の対応にも影響を与えていて、先月の首脳会議で加盟国には停戦を求める声もありましたが、最終的には人道目的の戦闘の休止を呼びかけるにとどまりました。【11月10日 NHK】
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ドイツの反ユダヤ主義への強い姿勢・イスラエル支持姿勢はアラブ諸国などから批判を浴びています。

****国連でドイツに批判集中 ガザ紛争めぐる姿勢で****
国連人権理事会は9日、スイス・ジュネーブでドイツについての普遍的定期的審査(UPR)を実施した。イスラエルとパレスチナ自治区ガザ地区の紛争について、イスラエル支持を明確に打ち出す一方、国内でパレスチナ支持派の抗議活動を禁止するドイツの姿勢に対し、主にイスラム教国から非難が相次いだ。

UPRは国連加盟国(193か国)の人権状況を評価するもので、すべての国が4年ごとに審査を受ける。

ドイツは今回、断固として人権を尊重する姿勢を広く評価されたが、ガザ紛争をめぐる立場については異例ともいえる批判を浴びた。

エジプト代表のアハメド・モハラム氏は「パレスチナ人の権利に関して、ドイツが取っている好ましくない立場を深く遺憾に思う」と述べた。ヨルダン代表はドイツの「不均衡な立場」を非難した。

トルコはドイツに対し、「イスラエルが戦争犯罪や人道に対する罪に使用する可能性のある軍事物資や軍装備品の提供を停止する」よう求めた。

ドイツ連邦議会人権政策・人道支援委員長で、代表団長を務めるルイーズ・アムツベルク氏は「ドイツにとって、イスラエルの安全保障と生存権については交渉の余地がない」と述べ、イスラエルの自衛権を繰り返し擁護した。

ドイツのUPRが行われた9日は、1938年に同国で起きたユダヤ人迫害事件「水晶の夜」から85年目に当たる。(中略) アムツベルク氏はこの歴史を念頭に「ユダヤ人の生活を守ること、そして 『2度と繰り返さない』というわが国の誓いは譲れない」と主張。この1か月で急増している反ユダヤ主義的な行為について「ユダヤ人はもはや安全だとは感じていない」「これを受け入れることはできない」と懸念を表明した。

また「ドイツ国民はガザ、そしてパレスチナ自治区の民間人のことも当然憂慮している」と強調した。

イスラエル代表のアディ・ファルジョン氏は、「反ユダヤ主義の惨劇にドイツが向き合い、国内および多国間で講じている措置」を称賛した。

カタールの代表は「ドイツ国内でガザ住民を支持するデモの参加者に対する制裁などの措置」に懸念を表明。レバノン代表はドイツに対し、「自国民の表現と集会の自由をめぐる権利の尊重し、守る」よう求めた。

アムツベルク氏は「ドイツでは誰もが自由に意見を表明し、平和的にデモを行う権利がある」「(だが)犯罪行為に関しては制限がある。テロリズムを称賛すべきではない」と答えた。 【11月10日 AFP】
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もっとも、ドイツ国内においても国民世論はイスラエル支持では同調するものの、「停戦」に関しては政府の立場とはまた少し違うようです。

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有力紙ウェルトが先月中旬に行った世論調査では、政府がイスラエル寄りの姿勢を明確に示していることについて、▼66%が「正しい」▼16%が「正しくない」▼18%が「わからない」と答えました。

一方、公共放送ARDが先月下旬から今月上旬に行った最新の世論調査で、市民の犠牲を伴うイスラエルの軍事行動についての意見を聞いたところ、「正当化できない」と答えた人が61%で、「正当化できる」の25%を大きく上回り、イスラエルが続ける激しい攻撃に懸念が広がっていることも伺えます。【11月10日 NHK】
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ドイツでは停戦などを求めるデモが相次いでおり、4日にベルリンであったデモには約9千人が参加しています。

【フランス 民間人の命を危険にさらすガザ攻撃には反対 欧州最多のイスラム教徒を抱える国内事情も】
一方、イスラエルのガザ攻撃に批判的姿勢を示しているのがフランス。

フランスは、10月27日に行われた国連での「敵対行為の停止につながる人道的休戦」を求める決議案において、イスラエル・アメリカの反対、日本や欧州諸国の棄権に対し、ロシア・中国・アラブ諸国などとともに賛成に回っています。

****仏マクロン大統領がイスラエル訪問 連帯示したうえで「戦いに容赦はいらないが、ルールはある」****
フランスのマクロン大統領は24日、イスラム組織ハマスとの戦闘が続くイスラエルを訪問し、連帯を改めて示したうえで、ガザへの地上侵攻の準備が進む中、国際人道法の順守を求めました。(中略)

その後、ネタニヤフ首相と会談し、ハマスを「テロ集団」と非難。会見で「テロ組織の打倒が最優先事項だ」とイスラエルへの連帯を示しました。

そのうえで、シリアやイラクでの過激派組織「イスラム国」の掃討に向けた有志国連合の活動をハマスとの戦いにも広げることを提案しました。

一方で、「戦いに容赦はいらないが、ルールはある」と述べ、ガザへの攻撃において国際人道法を尊重することの重要性を指摘。また、「イスラエルの安全保障は、パレスチナ人との政治プロセスの再開なしに維持はできない」と和平交渉に向けた対応の必要性も訴えています。

マクロン大統領はこの後、ヨルダン川西岸のラマラでパレスチナ自治政府のアッバス議長とも会談しました。

その後の会見で、アッバス氏は「事態の悪化を招き、地域または世界を戦争に巻き込む軍事的な解決は受け入れられない」と停戦を要請。

一方のマクロン大統領は「ガザで起きていることは人道的な大惨事であり、ハマスとパレスチナの人々が同一視されるのは政治的な大惨事だ」と述べました。【10月25日 TBS NEWS DIG】
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マクロン大統領は(フランス外交の伝統にも沿って)独自の立場を主張し、仲介役として国際政治におけるフランスの存在感をアピールしたい思惑もあるようです。

****仏、ガザ病院支援へ船派遣 大統領「大規模介入誤り」****
フランスのマクロン大統領は25日、エジプトを訪問し、シシ大統領と会談した。マクロン氏は会談後の共同記者会見で、パレスチナ自治区ガザの病院に支援物資を届ける海軍の船を派遣すると明らかにした。

マクロン氏はエジプト出国前、イスラム組織ハマスを標的にした地上戦は認めるが「民間人の命を危険にさらす大規模介入は誤りだ」と述べ、イスラエルに人道的対応を求めた。

フランス海軍の船のほか、医療機器を積んだ航空機が26日にフランスからエジプトに到着し、ガザへの輸送を目指すという。マクロン氏は記者会見で「状況は深刻だ」と指摘した。【10月26日 共同】
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****仏大統領、即時の戦闘休止を要求 パリでガザ人道支援会議****
イスラエル軍による攻撃で民間人に多数の犠牲が出ているパレスチナ自治区ガザへの人道支援を協議する国際会議が9日、パリで開かれた。

会議を呼びかけたフランスのマクロン大統領は冒頭演説で、民間人を守るため即時の戦闘の「人道的休止」を要求、より長期の停戦に向けても努力するべきだと訴えた。

欧米や日本、中東諸国の閣僚級やEU、国連パレスチナ難民救済事業機関など計約80の国・組織の代表が出席した。イスラエルは招待されず、パレスチナから自治政府のシュタイエ首相が参加した。

マクロン氏はイスラエルに自国防衛権があると認めた上で「民間人は守らなければならない。交渉の余地がないことだ」と強調した。【11月9日 共同】
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ただ、「人道的な休戦」を強調するものの、イスラエルへの直接的な非難は避るということで、アラブ諸国などとは温度差があります。

****仏大統領、イスラエルに民間人への攻撃停止要求 「禍根」残す****
フランスのエマニュエル・マクロン大統領は10日、イスラエルがパレスチナ自治区ガザ地区の民間人を攻撃して多数の死者が出ている事態について、「正当性」はなく、「禍根」を残すだけだとして、停止するよう強く求めた。

マクロン氏はパリで行われた国際平和フォーラムの傍らで行われた英BBCのインタビューで、10月7日にパレスチナのイスラム組織ハマスの攻撃を受けたイスラエルの自衛権を認める一方、「乳児や女性、高齢者が爆撃を受け、殺害されている」「理由も正当性もない。イスラエルに対し停止するよう強く求める」と表明した。

マクロン氏は、10月7日のハマスによる前例のない越境攻撃について「(フランスは)明確に非難する」とも述べた。イスラエル当局によると、この攻撃で民間人を中心に1200人が死亡、240人が拉致された。(中略)

マクロン氏は「われわれは(イスラエルの)痛みを確かに共有している。テロを根絶したいという思いも間違いなく共有している」「フランスでテロリズムが何を意味するかも知っている」と述べる一方、それでも民間人に対する攻撃に「正当性はない」と強調。

「すべての命が重要だと認識」するのは「われわれ皆にとって極めて重要だ。われわれの原則だから、われわれは民主主義国だからだ」とし、「中長期的にも、イスラエルの安全保障にとっても重要だ」と訴えた。

イスラエルは国際法に違反しているかとの質問に対しては、「私は裁判官ではない。国家元首だ」と回答。国家元首としてはイスラエルと「パートナーや友人」でありたいとの考えを示した。

さらに、イスラエルが自国を守る最善手は「ガザへの大規模空爆」という考えには同意できないとした上で、こうした考えは中東に「禍根と反感」を残すだけだと述べた。 【11月11日 AFP】AFPBB News
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北アフリカからの移民が多いフランスは、イスラム教徒が人口の8.8%を占める(日本公安調査庁HP)と欧州でも最も高い割合となっていますので、他の欧米諸国に比べイスラエルに厳しい立場をとるというのは、そうした国内事情への配慮もあるのかも。

【フランス国内で反ユダヤ主義行為 ロシアの関与?】
そのフランス国内では、反ユダヤ主義的行為も目立つようになっています。

****パリの建物に「ダビデの星」落書き ユダヤ人をマークか パリ市が刑事告発****
フランス・パリでイスラエルの国旗に描かれている「ダビデの星」の落書きが各所で見つかり、パリ市は反ユダヤ主義的な行為だとして刑事告発しました。

パリで31日朝、建物にユダヤ教やユダヤ人の象徴とされ、イスラエルの国旗にも描かれている「ダビデの星」が落書きされているのが数十カ所でみつかりました。

「ダビデの星」を巡っては、第二次世界大戦中にナチスドイツがユダヤ人を迫害した際、目印のためにユダヤ人の服に黄色い星を縫い付けさせていました。

近隣住民:「ショッキングだし、心配です。(イスラエルとハマスが紛争中の)現在の状況を考えると、近隣のユダヤ人をマークしている気がする。危険です」

パリ市は「ダビデの星」の落書きが反ユダヤ主義的な行為だとして検察に刑事告発しました。【11月1日 テレ朝news】
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こうした動きへのロシアの関与を疑う向きもあるようです。

****仏、ロシアの「干渉」非難 ダビデの星の落書きで****
フランス外務省は9日、首都パリ市内の建物数十軒に「ダビデの星」が落書きされた問題で、ロシアが落書きの写真をインターネット上で拡散させ、内政に干渉したと非難した。

同省は声明で、ロシアのネットワーク「RRN/ドッペルゲンガー」が「国際的危機を悪用し、フランスおよび欧州に混乱の種をまき、公の議論に緊張を生み出す」狙いで、「ロシアの新たなデジタル干渉作戦」を遂行していると主張した。

RRN/ドッペルゲンガーはこれまでにも、フランスを標的にした偽情報キャンペーンを行ってきたとされる。

問題をめぐっては、モルドバ人2人が先週逮捕され、第三者の指示で落書きに及んだと供述。これを受け、予審判事が行為の意図を調査することになっている。

こうした動きから、フランス当局がロシアを念頭に調査を進めているとの臆測が広がっていた。

ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は9日の会見で、こうした非難は「ばかげた完全なナンセンスで、ただただ見苦しい」と反発。「フランスにおける反ユダヤ主義の拡大は国内に起因する問題ではないと見せ掛けようとする、フランス当局、もしくはその特殊部門によるもくろみだ」と批判した。 【翻訳編集】AFPBB News
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ホロコーストの歴史を持つドイツ、9%近いイスラム教徒を抱えるフランス・・・イスラエル・パレスチナへの関りは日本と比べるとはるかに強いものがあります。

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