喫茶 輪

コーヒーカップの耳

「霜月の随想」

2017-11-02 08:31:27 | 新聞記事
今朝の神戸新聞「文化」欄。
いい随想が載ってました。

「最期の歌」と題された堀浩哉という人の随想。この人のことわたしは全く知りませんでした。
現代美術家ということですので文章家ではありません。
略しながら紹介しましょう。

《母が何やら口を動かしている。…どうやら歌を歌っているらしい。「椰子の実」だろうことはすぐに分かった。》

母親の臨終のことを書いておられます。

《(父は)戦中に亡くなってしまった祖父が決めていた相手(母)と結婚。その新婚初夜に2人で一緒に歌ったのが「椰子の実」だと、母は折にふれ語っていたから。母の口に合わせてぼくは歌った。
 「名も知らぬ遠き島より流れ寄る椰子の実一つ 故郷の岸を離れて」
 そのあとは知らないからハミング。ずっとハミング。…実家で待機していた上の妹夫婦や、めいも駆けつけて一緒に歌った。母もうれしそうに口を動かし続けている。…やがて母は眠り、夜が明けてみんなで「いいお別れだったね」と話し、それから数日して母は逝った。…》


堀さんはその後、たまたまカラオケで試しに「椰子の実」を入力してみる。童謡なんてあるのかと思ったら、あった。

《ぼくらの誰も2番3番の歌詞なんて知らなかったが、その歌詞の最後はこう結ばれていた。
「いずれの日にか 国に帰らん」
 そうか、あれは長い兵役といつ帰れるかもしれない不安な抑留時代の父の、望郷の念を託した歌だったのだ、と初めて知った。》


そして文はこう結ばれる。

《お互いろくに知りもしない相手と結婚した夜に、父は自分の思いを語り、歌った。母も一緒に歌い、そのとき若い父と母は、初めて心を通い合わせることができたのだろう。》

見事な随筆ですね。
全文読んでみようと思われる方はこちらを。←二段階クリック。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする