沖縄での一人暮らし

延べ8年間、沖縄で一人暮らしをしました。歴史・自然・文化を伝えます。

忘れられないメンチカツ

2009-09-13 | 生活
誰にでも忘れられない味があるといいます。幼少の記憶はなおさらです。私には30年間覚えている味が有ります。

子供の頃、買い物の母について肉屋でメンチカツを買ってもらうのが楽しみでした。小学校5年で引っ越してその味からは遠のきました。社会人になり長野、千葉、大阪、名古屋と転居し30年が過ぎました。

各地で多くのメンチカツを食べましたが、どれも味が異なり私には本当のメンチカツには思えませんでした。食い道楽といわれる大阪では巨大化したコロッケに化け期待を裏切ったばかりか、名前までミンチカツに変わっていました。

コロッケにはクリーム、野菜など様々な種類があるのにメンチカツにはそれがありません。名前の定義がないほど悲しい存在なのでしょうか。

私の忘れられないメンチカツは細長い手のひらサイズでボリューム感があり、中味は粗挽きの牛肉と豚肉とタマネギに黒胡椒がたっぷりまぶしてあります。揚げたては辛さがピリリと効いて口当たりが実においしい。

そのメンチカツがなんと今も有りました。○○市の△△中学校の前にある志村屋さん。街並みはすっかり変貌していましたが、老いた母と息子夫婦が当時の味を守っていました。1枚百円のメンチカツを1日百枚揚げている小さな肉屋ですが、こういう店が町の風景や生活感を作っているのです。

さらに驚くことは店の人が私の顔を覚えていたこと。引っ越し先や母や姉のことまで思い出して話してくれました。
私が忘れなかったのと同様に店の人も忘れていませんでした。味でも顔でもない、それは何でしょうか。
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これは7年前、地方紙に掲載されたものです。
30年ぶりに訪れた肉屋さんが、私の顔を覚えていたことに、とても驚きました。
理由を考えましたが、一つ思い当たるのは、このお肉屋さんは注文を聞いてから揚げ始め、出来上がるまでの間、待っているお客と世間話をしていたこと。会話を通じて自然とお客のことを覚えていったのでしょう。
私はメンチカツの「味」を忘れていませんでしたが、お店の人は「人情」を忘れていなかったのだと感じて、地方紙に投稿したのでした。
地方紙の編集部の人が店に取材に来て、確認してから掲載したと聞きました。
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先日、墓参りの帰りに久しぶりに訪れたら、写真のように空き地になっていました。どこかへ引っ越して店を続けているのかなと、ケータイで調べて電話をしたら、なつかしい息子さんが電話に出ました。「体調を崩して昨年末に店を閉めた。」と教えてくれました。

メンチカツは、忘れられないけれど、思い出すこともできなくなってしまいました。