「寺田寅彦」の『科学者とあたま』から
『科学者は頭が良くなくてはいけないが、その一方で、頭が悪くなければならない。
頭のいい人は、足の早い旅人のようなものである。人より先に人のまだ行かない所へ行き着くこともできる代わりに、途中の道ばた あるいは わき道にある肝心なものを見落とす恐れがある。
頭の悪い人、足の のろい人が ずっとあとからおくれて来て、わけもなく そのだいじな宝物を拾って行く場合がある。
頭のいい人は、言わば 富士のすそ野まで来て、そこから頂上をながめただけで、それで富士の全体をのみ込んで、東京へ引き返すという心配がある。富士はやはり登ってみなければわからない。
頭の悪い人は前途に霧がかかっているために かえって楽観的である。そうして難関に出会っても存外 どうにかして それを切り抜けて行く。どうにも抜けられない難関というのは きわめてまれだからである』と。実に解りやすい。