グローバルネイチャークラブのガイド日記

グローバルネイチャークラブ(旧グローバルスポーツクラブ)のガイド仲間が観察した伊豆大島の自然の情報を中心にお届けします。

レッドデータ調査報告 最終回

2011年01月05日 | 哺乳類、爬虫類、他
皆さん、3が日も終わりいかがお過しでしょうか?
素敵なお正月を過ごされましたでしょうか?
2011年初の水曜日。
海スタッフは新年初のブログです。。

と書きつつも、今回は全然海とは関係ない話・・・
昨年にVOl.2まで書いた「レッドデータ調査報告」をまだ最後まで書き上げていませんでした。
前回の記事は11/3日と17日です・・・
少し間が空いてしまいましたが最終回を報告したいと思います。

再度書きますが、2010年10月18日~21日にかけて
東京都のレッドデータブックの再登録に伴う調査が行われました。
私がご協力させて頂いたのは「汽水・淡水性のカニ類」の調査です

午前中に筆島・砂の浜をまわった我々は、午後からフノウの滝へ行く事にしました。
フノウの滝とは島の東側の山奥にある滝で
大量の水が岩肌から流れ出ています。
現在は島民の飲み水用に使われている為、下まで流れ出してはいません。
しかし、それでも溢れ出る大量の水は、水を受けるコンクリートからこぼれ出し、海へと急斜面を流れて行きます。

陸ガイドスタッフの鴻池にガイドを頼み、一緒に行ってもらいました。
キャンプ場「海のふるさと村」から途中までは車で行ったのですが後は徒歩です。
鬱蒼と茂る森の中に初めは舗装された道が続きます。
しばらくするとそれも無くなり、完全な山道です。
左右を大きな木に囲まれて歩くのは本当に気持ちの良いものです。
途中で植物の説明を聞いたり、陸生貝を観察したりと歩く事約1時間

やっと目的の場所に付きました。
近づいて行くと「ジャバジャバ」と水のこぼれる音が聞こえて来る程です。
草を掻き分け目的の生物を探します。
暫し探すと、見つかりました~~今回の目的サワガニです。


サワガニは日本固有種で、通常河川に生息しています。
モクズガニやベンケイガニと違い海に降りる事は無く、一生淡水で暮しています。
サワガニ(沢蟹)と言われる様に綺麗な水にのみ生息出来るカニで
水質階級の指標動物にもなっています。フノウの滝の水はやっぱり綺麗な良い水なんですね~

大島にも生息しているカクベンケイガニやアカテガニ等は海に幼生を放出しないといけませんが
サワガニは雌が抱えている卵の中で、幼生が変態します。
つまり生まれた時から、普通のカニの姿をしているのです。
その為、長距離の移動は出来ませんので、地域集団毎に遺伝子レベルでの分化が認めらています。
例えば、近縁のヤクシマサワガニ等は屋久島の固有種になっています。
約10種類位が日本に生息していますが、その大半が絶滅危惧種に指定されています。

黒潮を利用した分布拡大が出来ないサワガニが何故大島にいるのでしょう?
考えられるのは人の手によって持ち込まれた事です。
何故・何時持ち込まれたか分りませんが、そう考えるのが自然でしょう。
食用に持ち込んだのか、他の植物に稚ガニがくっついて来たのかは不明です。
どちらにしても見事に繁殖をし立派に世代交代を行っているようです。

もしかしたら何かの漂流物にくっついて運ばれて来たのかもしれません。
初めは卵を持った雌1匹だったのが、ドンドン数が増え今の様になったのだとしたら
なんてロマンのある話でしょう?自然の逞しさを感じます。

今回の調査では、標本を数匹持ち帰っています。
先にも書きましたが遺伝子レベルで調べれば、どこの個体群と同じになるのか分るはずです。
こちらの調査もして頂く事になっています。
もしそれが、黒潮が本土に近づく場所の個体群と同じ遺伝子ならば、「流れてきた説」もまんざらでは無いでしょう

もしかしたら後数百年もしたら遺伝子レベルで違いが生まれ「オオシマサワガニ」なんかが生まれるかもしれませんね~

以上で3回に亘る調査報告も終了です。
大島という小さな島にこれだけ貴重な生き物が棲んでいます。
汽水・淡水性のカニという狭いカテゴリーですら、これ程の数が見つかるのです。
中には、大島以外では普通に沢山いるという種類もいます。
しかし、だからと言って大島の物が貴重では無いと言う事にはなりません。
生物には環境が大事です。砂浜や磯、そして今回の様な滝。
この環境が無くなれば、一緒にそこに棲む生き物も消えて行きます。
これを守っていけるのは、人間しかいません。島に住んでいると、目の前にある海や山が何時までもある「当たり前の物」の様に感じてきます。
それは、決して「当たり前の物」では無く「守って行く物」なのです。
守って行くからこそ「当たり前」に目の前にあるのです。
一人一人がこれを意識して行く事で、小さな生き物の命が守られて行きます。

自然環境を守りながらの開発。これからの大島に必要ですね。

有馬
コメント (3)
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