トランプ氏が、次期米国大統領に決まった。
と同時に、ヒラリー・クリントン氏は敗北宣言をしなくてはならなかった。
これは、米国の大統領選における慣例のようなものだ。
そしてこの時の「敗北宣言」のスピーチほど、その人らしさを表すのかもしれない。
そう感じさせる、見事なスピーチだったと思う。
BuzzFeeⅾ:敗戦のクリントン氏が最後に語った最もパワフルな言葉「若い人に聞いて欲しい」
ネット上では、「もしこのようなスピーチが、選挙戦で聞けていたのなら、クリントン氏が勝利していたのではないか?」という、意見も出ているようだ。
実際、獲得した票はトランプ氏よりも、わずかながらクリントン氏のほうが多かった、という報道もある。
米国の大統領選独特の方法によって、得票数では勝っても負けてしまった、というのが今回の選挙結果だったということだろう。
同様の結果だったのは、民主党のゴア氏が共和党のブッシュ氏(「パパ・ブッシュ」ではなく、ご子息のブッシュ氏)以来のような気がする。
それだけに、悔しさが残る結果だったのではないだろうか?
しかし、クリントン氏は次期大統領に決まったトランプ氏への協力を明言し、祝福の言葉を述べている。
ラグビーでいうところの「ノーサイド」という、ことなのだろう。
その「ノーサイド」のメッセージよりも、より印象深くクリントン氏の信条や思いが伝わったのが、「若い人に聞いて欲しい」という言葉から始まるスピーチだ。
「正しいと信じることのために戦うことは、価値のあることです。やるべき価値のあることなのです。」という言葉には、単純な「勝ち・負け」では無い「信念をもって行動することの素晴らしさ」を問いかけ、若い人だけではなくすべての人々に訴えているように思える。
もう一つ、このスピーチで注目したいのは、「若い女性たち」に向けたスピーチだ。
今回の選挙の敗因の一つが「ガラスの天井」であった、と言われている。
「ガラスの天井」の意味は、ご存じの方も多いと思う。
女性がトップに上り詰めるだけの実力も実績もありながら、女性というだけで上り詰めることができない・・・椅子は見え、手に届くように思えるのにそれを遮る「ガラスの天井」がある。
そのような経験をしてきた女性は、数限りなくいるはずだ。
そのような経験をしてきたからこそ、若い女性には「ガラスの天井」を打ち破るような社会に変えていく力を持って欲しい、社会全体も変わってほしい、というクリントン氏の思いが伝わってくる。
全く同じ内容ではないが、10月クリントン氏の演説会に登壇したミッシェル・オバマさんのスピーチを思い出したのだ。
元々ミッシェル夫人は、夫であるオバマ大統領よりも優れたスピーチをする、と言われてきた。
そのスピーチ力をいかんなく発揮したのが、10月のニューハンプシャーでのスピーチだったと思う。
logmi:ミッシェル・オバマ大統領夫人がトランプ氏の女性蔑視発言を痛烈批判
トランプ氏の名前を具体的に上げているわけではないが、トランプ氏の女性蔑視発言が問題になっていた頃なので、トランプ氏への批判と捉えられるのは、当然なのだが、むしろ注目したいのは「これまで女性が受けてきた社会的蔑視や差別」という点を強調していることだろう。
それは「ガラスの天井」に対する不満というだけではなく、米国社会(だけではなく、日本においても)根強くある「女性に対する、古い価値観の押しつけ」や「暴力の肯定」という問題を話している点だろう。
いずれのスピーチも、心揺さぶられる名スピーチだと思うし、そのようなスピーチこそが多くの人を勇気づけると感じるのだった。