hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

作家のお宅訪問

2007年06月10日 | 美術


著名な女性作家の方の別荘を訪問した。閑静な住宅街の生垣のトンネルから見える玄関がおもちゃの家のようだ。中に入ると、気楽に家の中を案内していただいた。2階には木々の向こうに雪をかぶる山々を見ながら執筆中の書斎などがある。1階には歴史ある家具、ユーモラスな猫の像や、メカニカルなアートが並ぶ。手回しの木製アイスクリーム製造機、蓄音機などの趣味の骨董品もあった。

何と言っても目を引いたのがマチスのリトグラフだ。女の人が腕まくらで寝転んで、そばにもう一人。右手前には裸でバイオリンを持った女性がいる。簡潔な筆でさらりと描かれているがおもむきがあり、味わい深い。おもわず、ひきつけられてしまった。マチス顔と呼ばれる何本かの線で簡単に描かれた顔、陰影をつけないやわらかな身体の線。ピカソがマチスの天才に嫉妬したというのもうなずける。マチスのリトグラフが戦前は、家中にあったが、戦後竹の子生活のとき、次々と売り払ってしまった。しかし、ご両親が子供部屋にあったこの絵だけは残したという。

子供の頃の私の家にも、書棚の上には額に入った文人画があり、床の間には山水の掛け軸がかかっていた。私は、ぼけーと、これらの絵をよく眺めていたものだ。どうもこれがしみついて今でも絵に親しみを感じるらしい。
ただ、マチスとはえらく違うスッポンの安物だったので、審美眼は培われず、単なる美術好きになったようだ。負惜しみで考えると、やはり、しみついた絵の出来が、その後のレベルを決めたに違いない。

リトグラフで思い出した。2007.1.15のブログ「絵を見るのが好き」に書いたのだが、結婚して間もない頃、文房具店の階段の壁にかかっていたアール・ヌーヴォーのミュシャ風の絵、リトグラフを見て、奥さんが「これ、いいわね」とじっと見ていた。俳優の余技で書いたもので、芸術的とも思えなかったが、とくに女性には夢のある絵だった。
安月給の中、お袋さんを引き取り、ぎりぎりの生活をする中で、奥さんはマイホームを建てようと、節約を重ねていた。そんな中、厳しい価格だったが、2,3日後に店に行って思い切って購入した。
「まさか買ってくるとは思わなかったわ」と言って、ちょっとしんみりしていたのを思い出す。色もあせたし、そんなに価値のある絵ではないし、子供に引き継ぐものでもないが、我々には大切な絵だ。


コメント
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