hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

キンモクセイの香りに誘われて

2020年10月08日 | 散歩

巣ごもりの日々に飽きて、たまにはいいかと、人通りの少ないいつもの散歩道の一つをぶらりと歩き出しました。どこからか甘い香りがただよってきます。これは確かキンモクセイ(金木犀)の香りに違いないとあたりを見渡しました。小さなオレンジ色の花が一面に地面に散っているところがあります。茂った葉の間にオレンジの花の房を持つキンモクセイが、「ここだよ、ここだよ」と、教えてくれます。

 

いつも通っている道のそんなところにキンモクセイがあるなんて気づきもしませんでした。キンモクセイはこの季節だけ一斉に豊香を広くただよわせ、華やかにオレンジの敷毛布を広げて、そして散っていくのです。あとはひっそりと目立たないただの庭木になって、また来年のこの季節まで、じっと風景に埋もれているのです。

 

真っ直ぐ伸びる住宅街のいつもの道をのんびり歩いていくと、整地された空地がありました。手前のクリーム色に塗られたコンクリートの塀と、角の小さな家との間のそれほど広くはない土地ですが、前に何があったのか、まったく思い出せません。何もなくなった平地の方が目立つのも哀しいものがあります。無くなって初めてその存在を主張しているようです。

 

いつも曲がる角を、今日は気まぐれでそのまままっすぐ歩いてみました。右手のシャレた洋館の玄関先の駐車場が、何か変なのです。しばらく立ち止まっていてわかりました。駐車場の右手にあった桜の老木が根元から切られていたのです。春先にあんなに見事に豊満な花を咲かせていたのにと、残念でなりません。たしかにそれほど広くはない駐車場に、太い幹、横に伸びた枝はじゃまに違い有りません。たまに通る者が何を言えるものでもありません。せめてあの桜の老木を思い出し、密かに目に焼きつけておくことにしましょう。

 

帰り道、ふと考えてしまいました。私は、それなりに楽しく、家族仲良い人生で満足しているのですが、80歳を目前にして、私に、他人を楽しませた、あるいは感動を与えた季節がわずかでもあったのだろかと。

 

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久坂部羊の略歴と既読本リスト

2020年10月06日 | 読書2

久坂部羊(くさかべ・よう)

1955年大阪府生まれ。医師、作家。
大阪大学医学部卒。外務省の医務官として9年間海外勤務後、高齢者対象の在宅訪問診療に従事。
2003年『廃用者』で小説家デビュー
2014年『悪医』で日本医療小説大賞受賞
2015年『移植屋さん』で上方落語台本優秀賞受賞

他に『破裂』『無痛』『糾弾 まず石を投げよ』『神の手』『第五番』『芥川症』『いつか、あなたも』『虚栄』『反社会品』『老乱』『テロリストの処方』『祝祭』『嗤う名医』『老父よ、帰れ』『怖い患者』『MR』『砂の宮殿

新書やエッセイに、『大学病院のウラは墓場』『医療幻想――「思い込み」が患者を殺す』『日本人の死に時 医者だった父の、多くを望まない最後』『人間の死に方』『カラダはすごい!』など。

本名の久家義之(くげ・よしゆき)名義で、『大使館なんかいらない』『呆然!ニッポン大使館―外務省医務官の泣き笑い駐在記』『老いて楽になる人、老いて苦しくなる人』

 

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久坂部羊『怖い患者』を読む

2020年10月04日 | 読書2

 

久坂部羊著『怖い患者』(2020年4月10日集英社発行)を読んだ。

 

海堂尊や知念実希人など現役医師としてデビューしたミステリ作家の中で、かなり毒気の強い作風の久坂部羊が「読後感最悪小説集という感じ」と自ら語る5編の短編集。

 

「天罰あげる」

地味で職場で仲間外れにされている宮城愛子は、どんな病院に行ってもパニック障害と診断され、納得できない。“ドクターショッピング”に走り、ようやく信用できる心療内科病院の小川医師に巡りあった。しかし、小川医師の問診は愛子の幼少期にこだわり、再び不安を持つ。さらに小川が匿名の作家でもあると知り、愛子のプライバシーが利用されていると疑いを抱く。そこで愛子は同病の砂田汐美と相談し……。

 

「蜜の味」

医師となって4年目の外科医の高見沢涼子は、患者の不幸に内心密かにそこはことない快感を覚えてしまう。涼子に綿貫義人という恋人ができ、結婚も迫る中、幸せの倍の不幸が訪れそうな不安が抑えられない。

 

「ご主人さまへ」

妊娠中の宇川真実子は、一級建築士の夫・昇平と、有名幼稚園に通う智治の3人暮らし。「毛筆ミネラル検査」でアルミニュウムが基準値以上あると分かり、アルミホイール、缶ビールを全部捨てた。昇平のもとに自分を誹謗する手紙が届いていた。手紙を書いたのは幼稚園のママ友か、それとも姑か義姉か。悪い事ばかり考えてしまう。

 

「老人の園」

医師の九賀は、自身の経営するクリニックに、心地よく利用者に過ごしてほしいと心を砕いた老人たちのためのデイサービスを併設した。癖のある、認知症も混じった老人たちにトラブルは尽きない。老人のパラダイスにしたいという思いから、綺麗事で済ます久賀の無為無策が原因で、2グループに分かれていがみ合う老人たちはやがてエスカレートして、ついに……。

 

「注目の的」

大学の懇親会で司会をしなければならない教務課の小山希美(のぞみ)は、緊張し声が出なくなって倒れて入院することになる。先輩の川野夏花が、最近問題になっているヘルペスの抗ウイルス剤ミシュリンの副作用が原因ではないのかと告げた。希美は副作用を告発しようとする患者や医師の団体・レインボーに取り込まれ、TV出演、講演会などしてすっかり巻き込まれてゆく。集団訴訟のための書類に記入する必要からミシュリンを処方されたクリニックに電話してみると‥‥。

 

 

私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

かなり毒気の強い作風の著者が「読後感最悪小説集」というだけのことはある。読んで楽しい小説ではないが、私にとっては、おかしくなっていく主人公と距離を取れるので、他人事で読み進められた。

 

題名からは、医者にしつこく苦情をいうモンスター患者の話と思ったのだが、主人公が自滅していく話だった。

 

久坂部羊(くさかべ・よう)の略歴と既読本リスト

 

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久坂部羊『生かさず、殺さず』を読む

2020年10月02日 | 読書2

久坂部羊著『生かさず、殺さず』(2020年6月30日朝日新聞出版発行)を読んだ。

 

宣伝文句は以下。

がんや糖尿病をもつ認知症患者をどのように治療するのか。認知症専門病棟の医師・三杉のもとに、元同僚で鳴かず飛ばずの小説家・坂崎が現われ、三杉の過去をモデルに「認知症小説」の問題作を書こうと迫ってくる。医師と看護師と家族の、壮絶で笑うに笑えない本音を現役医師が描いた医療サスペンスの傑作。

 

数人の患者のトラブルの話が続き、三杉の過去の医療ミスと、元同級生の取材が絡み合る。

 

結果として三杉はつぶやく。(p306)

「ほどよい医療で、生かさず、殺さずってことか」
その言葉は、ふつうに使われる過酷な意味とはまったくちがう形で、三杉の腑に落ちた。認知症の患者を無理に生かそうとするのも、無理に死なそうとするのもよくない。その人にとって、必要なことろ過不足なくするのが、ほどよい医療ということだろう。

 

 

主な登場人物

 

三杉洋一:世田谷区の伍代記念病院の通称「にんにん病棟」の医長。42歳。WHO熱帯医療研究所を経て現職。

妻は亜紀で、13歳の長女と、10歳の次女がいる。

大野江諒子:看護師長。54歳。美人。権威に媚びない。愛煙家。

梅宮なつみ:看護師。発言が率直すぎるが明るい。

坂崎甲志朗:三杉の医学部の同級生。医師を止めたが売れなくなった小説家。

鈴木浩:脳梗塞と脳欠陥障害性の認知症。74歳。妻富子はかっての夫の業績を長々と自慢し、私にできることならなんでもしますと語る。三杉はそれなら、その長話を止めて欲しいと思ったが言わなかった。

田中松太郎:前立腺がんの疑い。認知症。84歳。娘澄子は徹底治療を要求する。

笹野利平:元中学校教師。三杉が以前在籍した病院で膵臓癌の手術をした患者。妻は佐知子、息子は慎平。

 

初出:「週刊朝日」2019年4月12日号~2020年1月3-10日号

 

 

私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

主人公は、医療とのバランスを取らずに、なにより患者の事だけを考えすぎて迅速に判断できない。誠実というより、単なるグズで小説でなければ最悪の結果に陥る。いつまでもグズグズ迷い続ける主人公にイライラ。

私は、厳しい現実をはっきり言う、口の悪い大野江看護師長に全面賛意を表明します。

 

 

 

久坂部羊(くさかべ・よう)の略歴と既読本リスト

 

その他の登場人物

佃志織:看護主任。42歳

細本沙由理、辻井恵美、高原、疋田康子:看護師

 

小田桐達哉:現栄出版社の辣腕編集者

川尻順:写真週刊誌「バッカス」の記者。版元は現栄出版社。

大室賢治:「月刊エンジョイ・ケア」のライター

 

佐藤政次:アルツハイマー型認知症。元理髪師。重度糖尿病。妻は芳恵。

高橋セツ子:骨折し手術後、認知症悪化。92歳。真佐子は66歳の娘。

伊藤俊文:重度認知症。パーキンソン病。85歳。

渡辺真也:伊藤俊文と同室のルビー小体型認知症の元新聞記者。

中村彰子:前頭側頭型認知症。すぐ「ドナドナ」を歌いだす。

 

 

肺がんの半分を占める腺がんタイプは喫煙とは無関係。

 

 

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