一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

将棋界の二刀流

2022-05-11 10:59:16 | 男性棋士
ロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手が9日、タンパベイ・レイズ戦で、満塁本塁打を含む2打席連続本塁打を放った。大谷選手は投げても3勝しているし、今季も二刀流は健在である。

ところで、将棋界の二刀流は誰か。居飛車と振り飛車の両方を指す棋士が多いが、これは二刀流ではなく、両刀遣いという。それに棋士はどんな将棋も指せるので、これはあたらない。
ここでの二刀流は、将棋棋士と囲碁棋士を兼務した棋士、とする。該当者はただひとり、北村文男七段である。
北村七段は1920年10月4日、三重県生まれ。アマ時代に多くの活躍をし、1956年に35歳で奨励会に入会した。その後「予備クラス」に入る。予備クラスとは、三段リーグに順位戦C級2組からの降級者を合わせたもの。当時は降級規定が厳しかったが、予備クラスで戦う道も開かれていたのだ。
北村七段は1958年にここを突破し四段になったが、初参加のC級2組順位戦では6勝8敗ながら降級してしまい、予備クラス戻りとなった。
しかし北村七段は頑張り、1961年に東西決戦敗者戦で勝利し、晴れて順位戦復帰となった。河口俊彦八段は、この復帰にとても感心した、と後に書いている。
いっぽう囲碁のほうは、1960年に関西棋院の中部総本部が創設された際、人数集めにより、請われて囲碁棋士(初段)になったようだ。
その実力のほどは定かでないが、私の記憶では、河口八段が「升田九段に二子の手合い」と書いていた気がする。
また1977年には囲碁専門誌の企画で、米長邦雄八段(当時)に指導対局を行っている。
さて肝心の将棋のほうは、これといった活躍はできなかった。当時北村姓の棋士は北村秀次郎八段、北村昌男九段と3名いたが、いちばん弱かったかもしれない(失礼)。
しかし1985年8月5日に指された全日本プロトーナメントでは、当時A級だった有吉道夫九段に勝っている。相矢倉から△6五桂と跳んだ手が名手だった気がするが、記憶違いかもしれない。
ちなみに「将棋年鑑・昭和61年版」のアンケート「昭和60年度会心の一局は?」に、北村七段はこの将棋を挙げている。アマチュアがA級九段には勝てないから、やはり北村七段も強かったのだ。
1987年、C級2組で3つ目の降級点を取り、将棋は現役引退。囲碁は、三段まで昇段した。
後年、体調を崩して入院した際は、「将棋を指したい」と話していたという。北村七段は「将棋棋士」だったのだ。
1993年1月14日逝去。同日、将棋七段追贈。囲碁のほうも四段を追贈した記述もあるが、はっきりしない。
2011年には、有志から「人生は一番勝負 北村文男七段対局集」が発刊された。北村七段の熱局58局が収録され、同郷の澤田真吾七段が解説している。
中を読むと、むかしの将棋は序盤が整備されていないと感じるが、北村七段の力強い戦いを堪能できる。

というわけで、以前この記事を「将棋ペン倶楽部」に投稿しようと思ったのだが、「だろう」とか「らしい」とかの記述が多く、見送った次第。
しっかり資料を精査できたら、投稿するかもしれない。
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桐山九段、現役引退

2022-04-30 23:07:02 | 男性棋士
4月27日、桐山清澄九段の現役最後の対局が行われ、現役生活にピリオドが打たれた。
最終局は惜しくも敗れ、通算996勝でフィニッシュ(歴代10位)。1000勝に届かなかったのは我がことのように残念だが、4勝足りないところが桐山九段らしい、ともいえる。
その桐山九段の代表局はどれだろう。私は、桐山九段の初タイトルとなった第10期棋王戦第4局(1985年3月22日)を挙げたい。
田中寅彦八段に勝って棋王戦五番勝負初登場となった桐山九段。当時の棋王は米長邦雄永世棋聖で、4連覇中だった。このころ、米長棋王と大山康晴会長との間でちょっとしたやり取りがあった。通算5期の棋王を手にした米長棋王は、ウソかホントか分からぬが、大山会長に「永世棋王」を直訴したらしい。
しかし大山会長が首をタテに振るはずもない。だが代替案として「連続5期で永世棋王」を提示した。これなら米長棋王ももう1期棋王を獲ればよい。いい落としどころだったと思う。
桐山九段にとって米長棋王は最強の敵だった。それまで28局戦って7勝21敗。カモにされていたうえ、当時米長棋王は、十段、棋聖、王将を併せ持つ四冠王。下馬評でも米長棋王の防衛の声が高かった。
第1局は米長棋王が勝ち、やっぱり、となった。
ところが第2局、第3局と桐山九段が勝ち、将棋ファンは「あれっ?」となった。
そして運命の第4局を迎えた。桐山九段の先手で、ひねり飛車。ひねり飛車というのは不思議な戦法で、居飛車に分類されるが部分的に石田流の形で、玉形も片美濃囲いに似ているから、振り飛車の味がある。しかし純粋居飛車党の加藤一二三九段が愛用し、高い勝率を挙げていた。結局、棋士はどんな将棋も指せるのだ。
将棋は桐山九段がひねり飛車らしい捌きを見せたが、米長棋王も反撃し、第1図の△7七歩が痛打。

これに▲8八金は△8五飛なので先手が困ったようだが、じっと▲9一とが好手。桐山九段は、忙しいときに緩そうな手を指し、それが後で利いてくるところがある。いぶし銀といわれるゆえんである。
実戦は▲9一と以下、△5五角▲3七桂△7八歩成▲3五香△3三桂▲5四歩△同金▲3四桂(第2図)と進み、桐山九段の面白い形勢になった。

この後も形勢不明の局面が続いたが、最後は179手目▲7五馬(投了図)まで、桐山九段の勝ち。うれしい初タイトルとなった。同時に、この年の将棋大賞では、殊勲賞を受賞した。

この奪取がフロックでなかったことは、桐山九段がこの翌年、米長棋聖から棋聖を奪取したことからも分かる。
通算996勝、順位戦A級14期、名人戦などタイトル戦登場10回、棋聖3期、棋王1期。弟子に豊島将之九段。素晴らしい現役生活だったのではなかろうか。桐山先生、お疲れさまでした。
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川上七段、竜王戦で4組昇級!!

2022-04-22 22:09:47 | 男性棋士
19日、20日は第80期名人戦第2局が行われた。しかし19日にはもう一局、知られざる勝負将棋が行われていた。
それが第35期竜王戦ランキング戦5組準決勝・南芳一九段VS川上猛七段戦である。
いままで何度も記しているが、川上七段は今年度がフリークラス10年目。順位戦復帰を狙うにもう後がないが、竜王戦は4組以上に在籍なら、竜王戦は期限なしに参加できる。
それには今回の対局で勝利し4組昇級を決めてしまうのが最短・最良である。
結果は川上七段が勝ち決勝進出、4組昇級を決めた! とりあえず、「完全引退」という最悪の事態からは脱した形だ。
C級2組からフリークラスに陥落した棋士がその期間中に竜王戦で昇級したのは、私の記憶では第24期6組で大野八一雄七段が5位で5組へ昇級して以来(それ以前も以後もあったかもしれないが、面倒なので調べない)。今回の川上七段は先崎学九段、森下卓九段、南九段と、元A級3名を破ってのそれだから、文句なしだった。
さてこうなると、夢は竜王ドリームである。決勝の相手は佐々木大地六段or石川優太四段。佐々木六段は当ブログでも注目している隠れた強豪で、本日も王位戦で豊島将之九段に勝った。川上七段には難敵だが、棋士はみんな強いんだから、川上七段はどちらが相手でも思い切ってぶつかってゆくしかない。
最後に、順位戦復帰の星勘定を整理しておこう。川上七段は今年度1勝、前年度は最後の7局を4勝3敗でフィニッシュしている。
よって、順位戦復帰の
・良い所取り20勝10敗
・年度18勝12敗
に達するには、
「15勝7敗」「17勝12敗」
が目標となる。後者のほうがラクだが、大変なのは言うまでもない。
さあ最後の1年、どうなるか。
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伊藤匠五段の将来

2022-04-15 00:35:22 | 男性棋士
今年の将棋大賞・勝率第一位賞は、.0818の伊藤匠五段に決まった。伊藤五段は棋士2年目の新鋭で、初参加の第80期順位戦では9勝1敗の成績を収め、C級1組に昇級した。
さて将棋大賞・勝率第一位賞は、すべての棋士に勝ちまくらないと達成できないから、記録部門で最も価値のある賞ともいえる。
そこできょうは、過去48回の受賞者を掲げ、伊藤五段の将来性を占ってみたい。
では、過去の受賞者を記す(肩書は現在)。

中原誠十六世名人
桐山清澄九段
青野照市九段
森雞二九段
森安秀光九段
田中寅彦九段 4回
福崎文吾九段
南芳一九段
有吉道夫九段
富岡英作八段
羽生善治九段 7回
中田宏樹八段
森下卓九段
森内俊之九段
井上慶太九段
久保利明九段
鈴木大介九段
郷田真隆九段
行方尚史九段
木村一基九段 2回
山崎隆之八段
深浦康市九段
近藤正和七段
佐藤紳哉七段
阿久津主税八段
村山慈明七段 2回
宮田敦史七段
豊島将之九段
佐藤天彦九段
中村太地七段
永瀬拓矢王座
菅井竜也八段
斎藤慎太郎八段 2回
青嶋未来六段
藤井聡太竜王 4回

昨年の藤井竜王まで、35名が受賞している。栄えある第1回の受賞は中原名人(当時)だが、トップクラスと戦うことが多い現役名人が受賞することが実は難しい、ということが後に分かった。その後の現役名人の受賞は、第23回の羽生名人まで待つことになる。
最多受賞は羽生九段の7回。その次が藤井竜王と田中寅九段の4回となり、谷川浩司九段や佐藤康光九段、丸山忠久九段ら名人経験者は受賞していない。
のちの九段も含め、九段の受賞は23名。現在八段で将来九段を約束されている棋士も何名かおり、「九段率」はもう少し高くなる。
タイトル経験者は20名。タイトル戦経験者は27名。A級経験者は26名。
また勝率8割以上での受賞は伊藤五段で7人目となるが、過去の6名中5名がタイトルを獲得している。
つまり伊藤五段は、相当な確率でタイトル戦に出場し、A級に昇級すると考えられる。ただタイトルの獲得となると、藤井竜王との対決が予想され、相当ハードルが高くなる。
さて、どうなるか。
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谷川浩司九段、60歳に

2022-04-06 15:39:26 | 男性棋士
きょう4月6日は、谷川浩司九段の還暦の誕生日。おめでとうございます。
ちなみに同日生まれは桂米丸、小沢昭一、伊東ゆかり、秋山幸二、宮沢りえ、乙武洋匡など。このうち秋山幸二は同じ60歳だ。それにしても、14歳で棋士デビューした谷川九段が60歳とは、時の移ろいの早さを実感せずにはおれない。
ちなみに、大山康晴十五世名人の60歳の1年間は36勝30敗、中原誠十六世名人は9勝9敗1不戦敗、米長邦雄永世棋聖は4勝11敗(引退)、加藤一二三九段は17勝21敗だった。
谷川九段の59歳の1年間は14勝16敗だったが、60歳では何勝できるだろう。
なお今年の将棋の日には、将棋連盟が谷川九段に「十七世名人襲位」を打診する可能性がある。そのとき谷川九段がどう応えるか。そうなった場合、快諾してほしいと私は思っている。
コメント (2)
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