図から▲3三角成△同桂▲3五角で一本取った。
▲5三角成を防ぐため後手君は△4四角と打ったが、先手君は▲2四角と飛車を取り優勢。
日本将棋連盟で販売しているグッズの話になる。駒消しゴムなんてものもあるが、売れ行きがいいのは玉や飛車だ。
島朗九段「まあ、そうでしょうね。小中学生が歩を好んで買ったら渋すぎますもんね」
▲6八銀で後手君が秒読みになった。△7七角成と、桂と刺し違えたが、自爆に近い。とはいえ代わる手も難しかった。
島九段の解説は、指し手を非難しない。素人目には悪手に見えても、「これが若さですね」「清々しいですね」と褒める。しかし今年はそのいとまもなく、後手君が敗勢になってしまった。
▲6一竜まで投了。島九段「投了の時期もすばらしいですね」
褒めるところがなければ投了も褒める。これぞ島九段の真骨頂であろう。
続いて表彰式。受賞者は小学生低学年、高学年、中学生の決勝進出者だ。世田谷区と日本将棋連盟双方から賞状と副賞が出る。連盟からは飯野健二七段や飯野愛女流1級の色紙などが提供される。飯野女流1級は「棋愛」と揮毫。これは私たちオジサンがほしいくらいの逸品だった。
飯野七段講評「親の心配をよそに、本人たちは楽しそうに将棋を指していました。将棋は礼に始まり礼に終わる。これらを行うことで、大きく成長していくんだと思います。
今日は子供さんたち、よく将棋を頑張りました。親御さんは子供さんをねぎらってあげて、このフロアにもレストランがあります、どうか美味しいものをご馳走してあげてください」
最後は世田谷区長・保坂展人氏の言葉で締め、子供竜王戦は幕を閉じた。
さて、いよいよ第9回世田谷花みず木女流オープン戦の決勝戦である。
椅子席は若干入れ替えがあったが、小中学生の対局時から、椅子にチラシを置いて場を離れているクズもいて、私が座る余地はない。まあこれは覚悟の上だ。
対局者の室谷由紀女流二段、渡部女流初段、解説の島九段、聞き手の中井広恵女流六段が登場した。
対局者はもちろんきもので、室谷女流二段は臙脂色、渡部女流初段はクリーム色だ。どちらも美しくてため息が出る。渡部女流初段もよく似合っているが、相手がわるい。昨年も書いたが、対抗の室谷女流二段はきもの売り場へ直行してモデルをやっても、まったく違和感がない。ああぁぁ、素晴らしい!!
渡部女流初段「きものを着て指すのは初めてです」
室谷女流二段「洋服も好きですが、和服を着ると気が引き締まります」
さすがに一味違うコメントである。
中井女流六段「4人とも子供の時から見ているので、感慨深いものがあります」
島九段「ラグビーに譬えると、渡部さんはバックス、室谷さんはフォワードでしょうね」
何だか言ってる意味が今一つ分からないが、そういうことだ。
いよいよ緊張感も高まってきたが、その前に恒例の撮影タイムである。私はカメラを取り出す。
撮影開始。と、椅子席のじじいが立ち上がって彼女らを撮りはじめ、私の位置からきものが見えなくなってしまった。
じ、じじい、アンタその位置からだったら立たなくても撮れるだろ!? 後ろの人のことを考えてくれよ!!
いやそのじじいだけではない。その後方の見物客もほとんどが立ったものだから、いやそもそも撮影者もやたら多く、前方に移動した手合いもいて、撮影は困難を極めてしまった。
こんなはずではない、と思う間に撮影タイムが終わってしまった。1分がこんなに速いとは…。
私は半分呆然として、もとの場所に戻る。なんだったんだ今のは…。まったく、凄まじいまでの両者の人気だった。
両対局者が席に着く。「私が勝手に選ぶ女流棋士ファンランキング」で、1位と2位の対局をライブで見るのは初めてだと思う。感謝、感激、感動である。
渡部女流初段の先手で対局開始、▲2六歩と指してお茶を飲んだ。室谷女流二段は角道を止めて三間飛車に振った。2日前の将棋もそうだったが、角道を止めての振り飛車は安心感がある。室谷女流二段にはこの手を続けてほしい。
島九段「室谷さんは作戦の持ち玉が多いですね。…渡部さんは稚内出身ですけど、私の父が同郷でして…」
中井女流六段「公開対局で将棋を見てもらうのは、棋士冥利に尽きます」
島九段「渡部さんは攻め将棋でしょうか」
中井女流六段「いえむしろ、受け将棋だと思います」
誰よりも女流棋士の棋風を知っている中井女流六段ならではの言葉だ。
島九段「室谷さんは本局、卒業はかかっています」
この女流オープン戦は、優勝2回で卒業と言う不文律がある。場合によっては、玉川高島屋での室谷女流二段のきもの姿も、今日で見納めになってしまうのだ。
「以前は清水さん、中井さん、斎田さんでタイトル戦を争っていましたね」
「あのころはよかったです…」
島九段の言葉に中井女流六段がボソッとつぶやいて、場内に笑いが起こった。
渡部女流初段は▲5七銀と上がり、早くも穴熊を匂わせる。
そして▲6六銀。島九段「渡部さんはセットプレーが丁寧ですね」
▲6八角に、室谷女流二段は▲2四歩を防いで△2二飛と受けた。
中井女流六段「これは受けの手ですか」
島九段「いえむしろ、積極的な手に映りますね。面倒を避けるなら△6二玉だったでしょう」
局面は緊張してきたが、私はさっきの撮影の失敗を考える。いくら今年は観客が多いとはいえ、去年だってそこそこはいたのだ。室谷女流二段だって対局者でいたんだし。
…あっ! 去年は室谷女流二段の顔のアップを撮りたかったから、カメラを横にしていた。
だけど今年はきものを入れたいから、縦型にした。ためにじじいの後頭部が入ってしまったのだ!
私は後悔の念がうずまいて、対局を観戦するどころではなくなってしまった。
(私は撮った写真を加工しない主義なのだが、今回は断腸の思いでトリミングをした。何枚か掲げます)
(つづく)