一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

第9回世田谷花みず木女流オープン戦(6)「室谷女流二段優勝」

2016-05-09 01:28:41 | 将棋イベント

第2図から渡部愛女流初段は▲9二歩! 前局に続いての端の垂らし歩だ。しかし前局が明らかな一手パスだったのに対し、こちらはまだ攻め味がある。とはいえ二階から目薬の手なのは間違いない。
室谷由紀女流二段は△6五歩。全部の駒が働いて、前2局に続き、またも熱戦だ。
島朗九段「室谷さんは、(指しやすいのに差を拡げることができず)こんなはずではないと思っているでしょう。渡部さんの成長が見られます」
渡部女流初段、▲1七桂と跳ねて天を仰いだ。ここ玉川高島屋S・C6階は吹き抜けになっており、階上からも対局が覗ける。もちろん何人も観戦しているが、一手ごとに秒読みが入る対局場のさまは、世間一般がイメージするものに近くなっているはずだ。
室谷女流二段、△5六歩と伸ばす。何となくよさそうな手だ。もちろん読みは入れているのだろうが、室谷女流二段は感覚的な手が多いように思う。
渡部女流初段、▲3三歩成(第3図)。仕事の前にひとつ利かした手だが、これには島九段が動きを止めた。島九段は女流棋士の指し手も否定しないが、絶句をもって疑問手に代えるところがある。室谷女流二段は△3三同桂と取ったが、これは後手に不満がない。

渡部女流初段は▲3四歩から▲3七香。なるほどこれが狙いだったか。しかし室谷女流二段は△5三角と対抗して微動だにしない。
渡部女流初段は▲5六金と歩を払い、室谷女流二段△5五歩(第4図)。両者いつの間にか前傾姿勢になっている。やや渡部女流初段のほうが傾いでいるか。つまり先手が劣勢ということだ。
もし室谷女流二段が優勝すれば、私は彼女のきもの姿をもう一度撮影できる。さっきの撮影の失敗を取り返せる。だがそれは、室谷女流二段の花みず木女流オープン戦の卒業をも意味する。私は複雑な心境だった。

局面。ここで▲5七金と引いては大勢に遅れる。渡部女流初段は▲5五同金のタダ捨てに出た。△同銀に▲3五香から突進する。渡部女流初段最後の勝負手である。
しかし室谷女流二段は冷静に応じ、△6六銀とすりこんで、素人目にも室谷女流二段の勝勢が見えてきた。
渡部女流初段▲5五歩。△同飛なら▲4四角でたちまち逆転する。
島九段「渡部さんはテクニックの数でも女流棋界有数だと思いますね」
日本将棋連盟の棋士が他団体の女流棋士をここまで褒めるのは稀有だと思う。島九段の誠実な人柄が垣間見える一コマである。
室谷女流二段、頭に手をやり、アゴに手をやり、△6七金と打ちこんだ。
島九段「これは室谷さんの本領が発揮されましたね」
さらにガジガジ攻めて△6六桂。しかし島九段は、この瞬間が一瞬甘いのではと危惧する。
渡部女流初段は▲3五角の王手。これが7九の地点に利いて、攻防の手だ。△5三歩に▲5四歩と飛車を取って、後手玉に詰めろがかかった。これは逆転したのではないか?
しかし室谷女流二段は読み切っていたようだ。慌てず騒がず△7八金打(第5図)。だが島九段は、これは打ち歩詰めでは…とつぶやく。

渡部女流初段は▲8七玉と立ったが、仮に▲9八玉にA△8九角だと▲9九玉で打ち歩詰になるが、B△9七歩▲同玉△8八角▲9八玉△9七歩▲8七玉△7七金寄まで詰むのだ。
しかし▲8七玉でも、手順に△7七金と寄られていけない。以下△9九角成まで、渡部女流初段の投了となった。時に午後4時7分、室谷女流二段の優勝が決まった。
さっそく大盤で解説である。
島九段がまっさきに指摘したのは、やはり第3図の▲3三歩成だった。これを入れずに別の手を指せば、まだ難しい局面が続いていたようだ。
いずれにしても両者全力を尽くし、不動駒3枚の名局だった。
終局後のインタビュー。
室谷女流二段「落ち着いて指せたのが勝因だと思います」
渡部女流初段「こういう場で将棋を指せることがうれしいです」
室谷女流二段は如才ないコメント。渡部女流初段には口惜しさがにじみでていないが、それは胸の内にしまっていると解しておこう。
中井女流六段「これからの女流棋界を引っ張っていく存在であってほしい」

表彰式。あらためて室谷女流二段が登場した。準優勝の渡部女流初段は登場せず、このシビアなところがこの棋戦の特色である。
室谷女流二段には花束と賞状が贈られた。ここで待望の撮影タイムである。
私はリュックからカメラを取り出し、レンズキャップを外し、連写モードにする。現在できうる限りの準備をした。もちろん、カメラを横で撮ることも念頭に入れておく。
そうして撮影タイム開始となったが、対局前よりはカメラの放列がなく、割合快適に撮れた。
中村アナウンサーが「朝ドラで有名な波瑠さんに似ていますね」と言ったが、たしかにそうだ。また、上野樹里にも見えた。ただ両者とも、室谷女流二段には大駒一枚及ばない。
最後に保坂展人・世田谷区長が再び挨拶し、ここに第9回世田谷花みず木女流オープン戦はつつがなく終了した。
ゴールデンウィークの風物詩となった同棋戦は、来年第10回大会となる。室谷女流二段はこのまま勇退してしまうのか、渡部女流初段は出場するのか、はたまた新顔の女流棋士が登場するのか…興味は尽きない。
私も1年1年が勝負だが、来年も元気に観戦できたらうれしく思う。




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