11月26日の蕨将棋教室の帰り、Tod氏と、LPSA麹町サロンin DISの話になった。28日の第1部は蛸島彰子女流六段が担当だが、まだ2席残っているという。
Tod氏は事前の予約はせず、直近になって空きがあったら申し込むスタイルで、今回も行きたいらしい。時間にゆとりがあるTod氏ならではで、私にはとても真似できない。
それで私も誘われたのだが、LPSAは10月の消費税増税に伴い、料金を改定した。すなわち、会員は4,000円→4,500円で、約13%の値上げである。もう全然計算が違うから指導は受けないつもりだったがそこはそれ、今回はもし2席同時に申し込めたらという条件で、参加することにした。申し込みはTod氏任せである。
翌日、OKのメールがTod氏から来て、久しぶりに麹町に繰り出すことになった。
当日は職安に寄り、1件申し込んだ。今回の応募は「業界新聞の記者」で、これも難しいが、とにかく応募するのが先決だ。
四ッ谷駅に下りたのは14時35分。第1部は15時からなので、微妙に余裕がある。
それで、駅前の小諸そばで二枚もりをたぐった。しかし店を出ると14時52分で、遅刻確定である。まあ、数分の遅刻は大目に見てくれるだろう。
15時05分、サロンに入った。9月5日の堀彩乃女流1級の回以来だ。
将棋コーナーに入室すると、蛸島女流六段と、3人の生徒がいた。ひとりはもちろんTod氏である。ほかにSug旦那氏、もうひとりも常連氏だ。
改めて蛸島女流六段は、1961年奨励会入会。もちろん女性初である。1966年に初段で退会したが、1974年、女流棋戦の創設とともに女流棋士第1号として復帰。以後、女流名人を4期、女流王将を3期獲得するなど第一人者として活躍。またNHK杯の棋譜読み上げとしても有名で、蛸島女流六段の落ちついた声と、山下カズ子女流五段の機械的な秒読みとのコンビネーションは、最高の緊張感を演出した。
2018年2月、体力の限界と勝率5割キープを理由に現役を引退。しかし引退局も若々しい将棋で、文字通り惜しまれつつの引退だった。
このように、蛸島女流六段は女流棋界のレジェンド(伝説)であり、その蛸島女流六段に将棋を教えていただけるのは、文字通り奇跡といえるのだ。
私が4,500円を差し出しつつ遅刻を謝ると、
「大沢さん、これ詰将棋。大沢さんには簡単だと思うけど」
と、蛸島女流六段がミニ詰将棋帳くれた。こういうサービスはうれしい。
蛸島女流六段は今日もキュートで若々しいが、私の名前をなぜ知ってる?
蛸島女流六段には数年前、LPSAのイベントで一局教わったことがあるが、名前は憶えられていないと思う。とすれば、今回事前に憶えてきたということだろうか。
いずれにしてもこうして名前を呼ばれれば感激する。そしていっそうファンになる、の好循環である。
蛸島女流六段はほかにも曲詰の詰将棋をくれる。
「(この作者は)50音すべての文字の問題を持ってるみたいね」
「おおそうですか」
「うん。『タ』は難しいから『田』にすることもあるみたいだけど」
棋士の棋力はすごいが、詰将棋作家の頭も凄い。どういう思考回路になっているのだろう。
ここから4人分の駒並べが始まった。要するに、私の遅刻は軽微だった。
Tod氏は飛車落ち、常連氏は飛車香落ち。
「あらあお強い。香落ちとか飛車落ちは恐いわね。ふつうは二枚落ちから飛車落ちに行きたくなるところ、段階を踏んで飛車香落ちにするんですから」
蛸島女流六段は生徒を褒めるのが絶妙にうまい。これも指導対局50年の賜物であろう。
蛸島女流六段はこちらを向き、
「私が駒を落としてもらおうかしら」
「いえいえとんでもない!」
私は凝縮する。「でも平手でよろしいでしょうか。それと、お願いがあります。中飛車を指していただきたいんですが」
「あらあ。こちらはほっといても中飛車を指すつもりだったのに、こわいわ」
Sug旦那は飛車落ちで、4局順繰りに対局開始となった。
初手からの指し手。▲7六歩△3四歩▲2六歩△5四歩▲2五歩△5二飛▲4八銀△5五歩▲6八玉△3三角▲7八玉△6二玉▲5八金右△7二玉(第1図)
蛸島女流六段は4手目△5四歩。昔だったら△4四歩だが、ゴキゲン中飛車は角交換辞さずだ。中飛車党の蛸島女流六段にとってこの戦法は、強力な武器になった。
▲2五歩に△5二飛で、約束を果たしてくれた。
「そういうことだったんですね。いま気付きました」
と、蛸島女流六段がつぶやく。私の将棋は妙にじっくりしているがほかの3局は進行が早く、右の常連氏は棒銀で仕掛けている。これに蛸島女流六段は△3三角・△4三銀形だったから、▲1六歩から▲1五銀と出られて、早くも受けがなくなってしまったのだ。
私の局面。△3三角に▲3六歩なら超速だが、ここは大人しく▲7八玉とした。

第1図以下の指し手。▲4六歩△4二銀▲4七銀△4四歩▲3六歩△4三銀▲1六歩△8二玉▲6八銀△7二銀▲9六歩△9四歩(第2図)
蛸島女流六段は指す直前に人差し指を曲げるので、中指1本で指しているようにも見える。爪には透明なマニキュアをしており、オシャレである。女性は何歳になってもオシャレを忘れてはいけないのだ。
右の将棋、蛸島女流六段は角銀交換を甘受した。ここで常連氏は▲1二角と桂取りに打つ手もあったが、▲3一角。しかしこれは△3二金▲7五角成△5三銀打となり、上手が若干一息ついた。
私は▲3六歩もあったが、▲4六歩。以下▲4七銀と上がり、極めて大人しい指し方である。
だが次の手はまずかったかもしれない。

第2図以下の指し手。▲7七銀△6四歩▲6六銀△5四銀▲3八飛△6五歩▲7七銀△4五歩▲同歩△同銀▲4六歩(第3図)
私は▲7七銀と上がったが、△6四歩と突かれた。私は構わず▲6六銀と上がったが△5四銀が間に合い、▲3八飛に△6五歩で銀を追い返されてしまった。これは純粋な2手損、というか上手に△6四歩-△6五歩を2手続けて指させた格好で、これは作戦負けになってしまった。
蛸島女流六段△4五歩。これには▲4八飛が正着の気もするが、それでは▲3八飛の一手が無駄になるので、指しきれなかった。
私は▲同歩から▲4六歩と受けたが……。

第3図以下の指し手。△5六歩▲6八金直△5七歩成▲同金直△5六歩▲5八金引△7七角成▲同角(第4図)
ここで△5四銀と引く上手ではない。当然△5六歩。これを▲同歩は△同銀▲同銀△同飛で、△4六飛と△4九銀が残り面白くない。
それで▲5八金直と上がったが、上手は手順に△5六歩の拠点を作った。
▲5八金引に△5四銀は▲5六銀で下手有利だから、ここは暴れてくるはず。
そこで改めて自陣を見ると、△7七角成があるではないか。
果たして蛸島女流六段は「乱暴すぎるかな」と笑いながら△7七角成。いや、私が軽視した攻めで、これは下手がかなりヤバイことになってるんじゃないか?

(つづく)
Tod氏は事前の予約はせず、直近になって空きがあったら申し込むスタイルで、今回も行きたいらしい。時間にゆとりがあるTod氏ならではで、私にはとても真似できない。
それで私も誘われたのだが、LPSAは10月の消費税増税に伴い、料金を改定した。すなわち、会員は4,000円→4,500円で、約13%の値上げである。もう全然計算が違うから指導は受けないつもりだったがそこはそれ、今回はもし2席同時に申し込めたらという条件で、参加することにした。申し込みはTod氏任せである。
翌日、OKのメールがTod氏から来て、久しぶりに麹町に繰り出すことになった。
当日は職安に寄り、1件申し込んだ。今回の応募は「業界新聞の記者」で、これも難しいが、とにかく応募するのが先決だ。
四ッ谷駅に下りたのは14時35分。第1部は15時からなので、微妙に余裕がある。
それで、駅前の小諸そばで二枚もりをたぐった。しかし店を出ると14時52分で、遅刻確定である。まあ、数分の遅刻は大目に見てくれるだろう。
15時05分、サロンに入った。9月5日の堀彩乃女流1級の回以来だ。
将棋コーナーに入室すると、蛸島女流六段と、3人の生徒がいた。ひとりはもちろんTod氏である。ほかにSug旦那氏、もうひとりも常連氏だ。
改めて蛸島女流六段は、1961年奨励会入会。もちろん女性初である。1966年に初段で退会したが、1974年、女流棋戦の創設とともに女流棋士第1号として復帰。以後、女流名人を4期、女流王将を3期獲得するなど第一人者として活躍。またNHK杯の棋譜読み上げとしても有名で、蛸島女流六段の落ちついた声と、山下カズ子女流五段の機械的な秒読みとのコンビネーションは、最高の緊張感を演出した。
2018年2月、体力の限界と勝率5割キープを理由に現役を引退。しかし引退局も若々しい将棋で、文字通り惜しまれつつの引退だった。
このように、蛸島女流六段は女流棋界のレジェンド(伝説)であり、その蛸島女流六段に将棋を教えていただけるのは、文字通り奇跡といえるのだ。
私が4,500円を差し出しつつ遅刻を謝ると、
「大沢さん、これ詰将棋。大沢さんには簡単だと思うけど」
と、蛸島女流六段がミニ詰将棋帳くれた。こういうサービスはうれしい。
蛸島女流六段は今日もキュートで若々しいが、私の名前をなぜ知ってる?
蛸島女流六段には数年前、LPSAのイベントで一局教わったことがあるが、名前は憶えられていないと思う。とすれば、今回事前に憶えてきたということだろうか。
いずれにしてもこうして名前を呼ばれれば感激する。そしていっそうファンになる、の好循環である。
蛸島女流六段はほかにも曲詰の詰将棋をくれる。
「(この作者は)50音すべての文字の問題を持ってるみたいね」
「おおそうですか」
「うん。『タ』は難しいから『田』にすることもあるみたいだけど」
棋士の棋力はすごいが、詰将棋作家の頭も凄い。どういう思考回路になっているのだろう。
ここから4人分の駒並べが始まった。要するに、私の遅刻は軽微だった。
Tod氏は飛車落ち、常連氏は飛車香落ち。
「あらあお強い。香落ちとか飛車落ちは恐いわね。ふつうは二枚落ちから飛車落ちに行きたくなるところ、段階を踏んで飛車香落ちにするんですから」
蛸島女流六段は生徒を褒めるのが絶妙にうまい。これも指導対局50年の賜物であろう。
蛸島女流六段はこちらを向き、
「私が駒を落としてもらおうかしら」
「いえいえとんでもない!」
私は凝縮する。「でも平手でよろしいでしょうか。それと、お願いがあります。中飛車を指していただきたいんですが」
「あらあ。こちらはほっといても中飛車を指すつもりだったのに、こわいわ」
Sug旦那は飛車落ちで、4局順繰りに対局開始となった。
初手からの指し手。▲7六歩△3四歩▲2六歩△5四歩▲2五歩△5二飛▲4八銀△5五歩▲6八玉△3三角▲7八玉△6二玉▲5八金右△7二玉(第1図)
蛸島女流六段は4手目△5四歩。昔だったら△4四歩だが、ゴキゲン中飛車は角交換辞さずだ。中飛車党の蛸島女流六段にとってこの戦法は、強力な武器になった。
▲2五歩に△5二飛で、約束を果たしてくれた。
「そういうことだったんですね。いま気付きました」
と、蛸島女流六段がつぶやく。私の将棋は妙にじっくりしているがほかの3局は進行が早く、右の常連氏は棒銀で仕掛けている。これに蛸島女流六段は△3三角・△4三銀形だったから、▲1六歩から▲1五銀と出られて、早くも受けがなくなってしまったのだ。
私の局面。△3三角に▲3六歩なら超速だが、ここは大人しく▲7八玉とした。

第1図以下の指し手。▲4六歩△4二銀▲4七銀△4四歩▲3六歩△4三銀▲1六歩△8二玉▲6八銀△7二銀▲9六歩△9四歩(第2図)
蛸島女流六段は指す直前に人差し指を曲げるので、中指1本で指しているようにも見える。爪には透明なマニキュアをしており、オシャレである。女性は何歳になってもオシャレを忘れてはいけないのだ。
右の将棋、蛸島女流六段は角銀交換を甘受した。ここで常連氏は▲1二角と桂取りに打つ手もあったが、▲3一角。しかしこれは△3二金▲7五角成△5三銀打となり、上手が若干一息ついた。
私は▲3六歩もあったが、▲4六歩。以下▲4七銀と上がり、極めて大人しい指し方である。
だが次の手はまずかったかもしれない。

第2図以下の指し手。▲7七銀△6四歩▲6六銀△5四銀▲3八飛△6五歩▲7七銀△4五歩▲同歩△同銀▲4六歩(第3図)
私は▲7七銀と上がったが、△6四歩と突かれた。私は構わず▲6六銀と上がったが△5四銀が間に合い、▲3八飛に△6五歩で銀を追い返されてしまった。これは純粋な2手損、というか上手に△6四歩-△6五歩を2手続けて指させた格好で、これは作戦負けになってしまった。
蛸島女流六段△4五歩。これには▲4八飛が正着の気もするが、それでは▲3八飛の一手が無駄になるので、指しきれなかった。
私は▲同歩から▲4六歩と受けたが……。

第3図以下の指し手。△5六歩▲6八金直△5七歩成▲同金直△5六歩▲5八金引△7七角成▲同角(第4図)
ここで△5四銀と引く上手ではない。当然△5六歩。これを▲同歩は△同銀▲同銀△同飛で、△4六飛と△4九銀が残り面白くない。
それで▲5八金直と上がったが、上手は手順に△5六歩の拠点を作った。
▲5八金引に△5四銀は▲5六銀で下手有利だから、ここは暴れてくるはず。
そこで改めて自陣を見ると、△7七角成があるではないか。
果たして蛸島女流六段は「乱暴すぎるかな」と笑いながら△7七角成。いや、私が軽視した攻めで、これは下手がかなりヤバイことになってるんじゃないか?

(つづく)