第80期名人戦第4局は、19日、20日に行われた。ここまで渡辺明名人の2勝、斎藤慎太郎八段の1勝。引き続きどちらも負けられない一戦である。
第4局は斎藤八段の先手で、相掛かりになった。中盤の入口で斎藤八段が角を換わり、▲8八角と打ち直す。そして▲3四歩と叩いたのが第1図である。

ここ、アマならノータイムで△2二銀である。だがプロたるもの、そんな軟弱な手は最後に考える。
果たして渡辺名人も△3四同銀! △2二銀と引くようでは未来がないから、強く取ったのだ。とはいえ△3四同銀には斎藤八段も意表を衝かれただろう。
そして私は、1986年に指された第44期名人戦第3局、▲中原誠名人VS△大山康晴十五世名人戦の△4三金(参考図)を思い出した。

本局の渡辺名人が「香が欲しければどうぞ」と言っているのに対し、大山十五世名人のそれは「早く香を取りなさいよ」の催促で、微妙にニュアンスが違う。
参考図で▲1一角成は、△3三桂▲1二馬△9七桂成▲同銀△同角成▲同桂△9六歩で後手勝ち。
よって中原名人は参考図から▲6二角成と突っこんだが、結局前述の順で敗れた。
斎藤八段はもちろん▲1一角成。ここで「歩を取る手がありましたか」などと考え直したら、笑われてしまう。
渡辺名人はもちろん△3三桂。「隅に馬ができたら桂を跳んで封鎖する」が今期名人戦の隠れテーマで第1局と第3局に現れたが、本局もそうなった。
そして▲1二馬に△6三玉(第2図)。これがまたアマには及びもつかない手で、まるで指導対局の上手のようである。その心は、数十手後の飛車打ちに備え、中空の楽園に逃げ越しているわけだ。

まさにこのあたり、渡辺名人が斎藤八段を飲んでかかっているのが分かる。昨年の名人戦と今期名人戦を通して、普通に指せば斎藤八段に勝てる、と見切っているのだ。
斎藤八段は▲8六歩。突き捨てられていない8筋の歩を突くなど理外の手で、まるで藤井聡太竜王みたいだが、その心は随分違う。斎藤八段のほうは苦しんでいるのだ。

ところがこの歩を渡辺名人が△8六同飛(第3図)と取ってしまったから驚いた。
これには▲8八香で以下飛車が死ぬが、「それでも指せる」が名人の読みである。先の▲3四歩に△同銀もそうだが、相手の狙い筋にあえて飛び込み、そこで勝機を見つけるとは、まさに横綱将棋である。
この後渡辺名人は飛車金交換を甘受し、その金を△3六に打って攻めを継続。以下、華麗に攻め切ったのだった。
本局はまさに渡辺名人会心の一局。後年名局集が編まれたら掲載に値する一局だが、あまりに上出来すぎて、逆に載りにくいかもしれない。
こんなに強い名人がどうして藤井竜王に勝てないのか不思議でならないが、いやいやこの内容なら、藤井竜王に勝てるのではないか? と本気で思ってしまった。
第5局は28日、29日。斎藤八段は快勝局を紡がないと、来期A級で指したとき、ナメられる。
第4局は斎藤八段の先手で、相掛かりになった。中盤の入口で斎藤八段が角を換わり、▲8八角と打ち直す。そして▲3四歩と叩いたのが第1図である。

ここ、アマならノータイムで△2二銀である。だがプロたるもの、そんな軟弱な手は最後に考える。
果たして渡辺名人も△3四同銀! △2二銀と引くようでは未来がないから、強く取ったのだ。とはいえ△3四同銀には斎藤八段も意表を衝かれただろう。
そして私は、1986年に指された第44期名人戦第3局、▲中原誠名人VS△大山康晴十五世名人戦の△4三金(参考図)を思い出した。

本局の渡辺名人が「香が欲しければどうぞ」と言っているのに対し、大山十五世名人のそれは「早く香を取りなさいよ」の催促で、微妙にニュアンスが違う。
参考図で▲1一角成は、△3三桂▲1二馬△9七桂成▲同銀△同角成▲同桂△9六歩で後手勝ち。
よって中原名人は参考図から▲6二角成と突っこんだが、結局前述の順で敗れた。
斎藤八段はもちろん▲1一角成。ここで「歩を取る手がありましたか」などと考え直したら、笑われてしまう。
渡辺名人はもちろん△3三桂。「隅に馬ができたら桂を跳んで封鎖する」が今期名人戦の隠れテーマで第1局と第3局に現れたが、本局もそうなった。
そして▲1二馬に△6三玉(第2図)。これがまたアマには及びもつかない手で、まるで指導対局の上手のようである。その心は、数十手後の飛車打ちに備え、中空の楽園に逃げ越しているわけだ。

まさにこのあたり、渡辺名人が斎藤八段を飲んでかかっているのが分かる。昨年の名人戦と今期名人戦を通して、普通に指せば斎藤八段に勝てる、と見切っているのだ。
斎藤八段は▲8六歩。突き捨てられていない8筋の歩を突くなど理外の手で、まるで藤井聡太竜王みたいだが、その心は随分違う。斎藤八段のほうは苦しんでいるのだ。

ところがこの歩を渡辺名人が△8六同飛(第3図)と取ってしまったから驚いた。
これには▲8八香で以下飛車が死ぬが、「それでも指せる」が名人の読みである。先の▲3四歩に△同銀もそうだが、相手の狙い筋にあえて飛び込み、そこで勝機を見つけるとは、まさに横綱将棋である。
この後渡辺名人は飛車金交換を甘受し、その金を△3六に打って攻めを継続。以下、華麗に攻め切ったのだった。
本局はまさに渡辺名人会心の一局。後年名局集が編まれたら掲載に値する一局だが、あまりに上出来すぎて、逆に載りにくいかもしれない。
こんなに強い名人がどうして藤井竜王に勝てないのか不思議でならないが、いやいやこの内容なら、藤井竜王に勝てるのではないか? と本気で思ってしまった。
第5局は28日、29日。斎藤八段は快勝局を紡がないと、来期A級で指したとき、ナメられる。