選手が列を作っていることから、これは大会参加の「権利」なのかもしれない。私も女性を撮影するのは好きだが、そこに自分が入るとダメである。席に座り、遠巻きに眺めた。
O氏が受付を済ませ、私の右に座る。ファイルを見せてくれた。藤森哲也四段の実戦譜が書かれてあり、びっしりと変化が書き込まれている。さすが研究家のO氏だが、こんなのを見せられては、勝てる気がしない。どうして私の周りには、度を越えた将棋バカが多いのだろう。
O氏も写真に収まった。私もせっかくなので、女流棋士と撮影させていただくことにした。
私のスマホに続いて、LPSAのカメラでもパチリ。この男女比で撮影されるのは、人生で最後だろう。いい思い出になった。
室内には、ミスター中飛車氏、O氏のほかに、Sak氏、Su氏ら見覚えのある顔が並んだ。LPSAに馴染みのある人が揃った感じだ。トーナメントAは三段以上が対象だが、こちらへの集まりが多く、人数調整をした。結果、Aが16人、Bが10人前後になったようだ。Aトーナメントは、4回勝てば優勝である。
1回戦の私の相手は、30代前半と思しき男性氏。初対面の相手は棋風が分からないから指しにくくてイヤだ。もっとも、これは向こうも同じ条件だが。
開会に先立ち、島井咲緒里女流二段の挨拶。
「午前もお話ししましたが……うんぬんかんぬん」
さらに大会ルールの説明があった。持ち時間は15分30秒で、大野・植山教室と同じである。
午後1時、対局開始。後手男性氏が、4手目四間飛車に振った。このあと私がふつうに指せば角を換えてくるだろうから、私は▲6六歩と角道と止める。消極的なようだが、持久戦になればこの不満も解消される。
男性氏は穴熊に潜り、私は玉頭位取りに出た。私は一手一手慎重に進める。大野・植山教室のときのように「ええい、行け行け!」というわけにはいかないのだ。
▲3八飛△4四角▲2八飛△2二飛。この取り引きは先手が損をした。先手はもう飽和状態なので、ここで開戦した。
図以下、▲9五歩△同歩▲同香△同香▲同角△9二香▲8六角△2四歩▲4五歩△6二角▲7四香△6三金▲7一香成と進む。
△9二香では△2六香がイヤだったが、男性氏は玉頭の補強を優先した。私は狙いの▲7四香。以下、△7一金と交換できては、まずまずの岐れだと思った。
ただ先手も端が弱いため、実戦的にはまだ難しい。事実後手に、9筋にと金を作られ、3筋からも反撃され、私も生きた心地がしなかった。が、私の▲7二金~▲6六角~▲8四銀も相当な迫力だったようだ。
最後は▲7三歩成で先手勝勢。これを△同桂と取ってくれたので、▲8一金打まで。私はうれしい1回戦勝利となった。
感想戦。私は真っ先に△2六香の変化を質したが、どうも先手が指せたようだ。やはりソッポに駒を打つのはうまくいかないようだ。
私が勝ったこともあり、感想戦は長めに行う。参考になる手筋をいっぱい教わり、勉強になった。男性氏は見るからに手練れで、この将棋を勝てたのは僥倖だった。
2回戦は、Sak氏と当たった。Sak氏はLPSAイベントの常連で、いつも静かに観戦していた。彼は誰だろう? と仲間内でも話題になったが、交流すると彼がなかなかの将棋バカということが分かり、社団戦に参加してもらった経緯がある。
Sak氏とは4回対局をしたことがあるが、いつも私が苦戦した。ただ勝敗は別で、そこが面白いところ。
右の席ではO氏とミスター中飛車氏の対局となる。ここだけ取ればLPSA芝浦サロンのようで、「懐かしいネ」を連発した。
対局開始。Sak氏は▲5六歩で、先手中飛車の意向。数手進んで、私は結局玉頭位取りを採る。▲2七銀のあと、His流の▲3八飛がイヤだったが、Sak氏は▲3八金。これも本手である。
Sak氏が▲5六銀と立って、戦機が熟してきた。
第1図以下の指し手。
△8六歩▲同歩△4五歩▲6六歩△4六歩▲同金△4五歩▲同銀△同銀▲同金△3四銀▲同銀△同金▲4六歩△5五歩▲4五銀△4四金打▲3四銀△同金▲2五銀
△4三金▲3七桂△5四銀打▲3四銀△同金▲2五銀△4三銀打▲3四銀△同銀▲4五桂△同銀右▲同歩△同銀▲4六歩△3六桂▲3七玉△5六銀▲3四金△4七歩▲4三金打
△4一玉▲5二歩△同飛▲同金△同玉▲8二飛△6二金▲8一飛成△5四銀▲4四銀△同角▲同金△4八歩成(第2図)
頃はよしと、私は△8六歩▲同歩△4五歩と仕掛ける。前局の感想戦の指し手を参考にした。
Sak氏は▲6六歩。いかにも軟弱な手で、私はこしゃくなとばかり△4六歩~△4五歩と突っ張ったが、これは歩を渡して相手の駒を呼び込んで、よくなかった。
Sak氏は4五と2五に執拗に駒を打ちつけ、私は防戦一方。ここでは千日手を覚悟した。
しかしSak君が千日手にするはずもなく、▲4五桂と跳ねる。私は△3六桂~△4七歩だが、この瞬間が絶対に詰まない形なので、Sak氏は猛攻撃を仕掛けてきた。
島井女流二段が、さっき撮った写真を配っている。プリントまでがサービスのようだ。このあたりのキメの細かさは、小回りの利くLPSAならではといえる。
右の将棋は終わって、O氏の勝ち。ミスター中飛車氏にも勝機はあったと思うのだが、O氏の地力が勝った。
数手進んで▲8二飛に△6二金はつらい受け。▲8一飛成に▲4三銀を防いで△5四銀と立つようでは、泣きたくなった。
▲4四銀では▲4四桂でも私の負けだが、これでも問題ない。私は△4八歩成と開き直り、介錯を待つ。第2図からは▲5三歩ぐらいでも負けだと思っていたのだが…。
(つづく)
O氏が受付を済ませ、私の右に座る。ファイルを見せてくれた。藤森哲也四段の実戦譜が書かれてあり、びっしりと変化が書き込まれている。さすが研究家のO氏だが、こんなのを見せられては、勝てる気がしない。どうして私の周りには、度を越えた将棋バカが多いのだろう。
O氏も写真に収まった。私もせっかくなので、女流棋士と撮影させていただくことにした。
私のスマホに続いて、LPSAのカメラでもパチリ。この男女比で撮影されるのは、人生で最後だろう。いい思い出になった。
室内には、ミスター中飛車氏、O氏のほかに、Sak氏、Su氏ら見覚えのある顔が並んだ。LPSAに馴染みのある人が揃った感じだ。トーナメントAは三段以上が対象だが、こちらへの集まりが多く、人数調整をした。結果、Aが16人、Bが10人前後になったようだ。Aトーナメントは、4回勝てば優勝である。
1回戦の私の相手は、30代前半と思しき男性氏。初対面の相手は棋風が分からないから指しにくくてイヤだ。もっとも、これは向こうも同じ条件だが。
開会に先立ち、島井咲緒里女流二段の挨拶。
「午前もお話ししましたが……うんぬんかんぬん」
さらに大会ルールの説明があった。持ち時間は15分30秒で、大野・植山教室と同じである。
午後1時、対局開始。後手男性氏が、4手目四間飛車に振った。このあと私がふつうに指せば角を換えてくるだろうから、私は▲6六歩と角道と止める。消極的なようだが、持久戦になればこの不満も解消される。
男性氏は穴熊に潜り、私は玉頭位取りに出た。私は一手一手慎重に進める。大野・植山教室のときのように「ええい、行け行け!」というわけにはいかないのだ。
▲3八飛△4四角▲2八飛△2二飛。この取り引きは先手が損をした。先手はもう飽和状態なので、ここで開戦した。
図以下、▲9五歩△同歩▲同香△同香▲同角△9二香▲8六角△2四歩▲4五歩△6二角▲7四香△6三金▲7一香成と進む。
△9二香では△2六香がイヤだったが、男性氏は玉頭の補強を優先した。私は狙いの▲7四香。以下、△7一金と交換できては、まずまずの岐れだと思った。
ただ先手も端が弱いため、実戦的にはまだ難しい。事実後手に、9筋にと金を作られ、3筋からも反撃され、私も生きた心地がしなかった。が、私の▲7二金~▲6六角~▲8四銀も相当な迫力だったようだ。
最後は▲7三歩成で先手勝勢。これを△同桂と取ってくれたので、▲8一金打まで。私はうれしい1回戦勝利となった。
感想戦。私は真っ先に△2六香の変化を質したが、どうも先手が指せたようだ。やはりソッポに駒を打つのはうまくいかないようだ。
私が勝ったこともあり、感想戦は長めに行う。参考になる手筋をいっぱい教わり、勉強になった。男性氏は見るからに手練れで、この将棋を勝てたのは僥倖だった。
2回戦は、Sak氏と当たった。Sak氏はLPSAイベントの常連で、いつも静かに観戦していた。彼は誰だろう? と仲間内でも話題になったが、交流すると彼がなかなかの将棋バカということが分かり、社団戦に参加してもらった経緯がある。
Sak氏とは4回対局をしたことがあるが、いつも私が苦戦した。ただ勝敗は別で、そこが面白いところ。
右の席ではO氏とミスター中飛車氏の対局となる。ここだけ取ればLPSA芝浦サロンのようで、「懐かしいネ」を連発した。
対局開始。Sak氏は▲5六歩で、先手中飛車の意向。数手進んで、私は結局玉頭位取りを採る。▲2七銀のあと、His流の▲3八飛がイヤだったが、Sak氏は▲3八金。これも本手である。
Sak氏が▲5六銀と立って、戦機が熟してきた。
第1図以下の指し手。
△8六歩▲同歩△4五歩▲6六歩△4六歩▲同金△4五歩▲同銀△同銀▲同金△3四銀▲同銀△同金▲4六歩△5五歩▲4五銀△4四金打▲3四銀△同金▲2五銀
△4三金▲3七桂△5四銀打▲3四銀△同金▲2五銀△4三銀打▲3四銀△同銀▲4五桂△同銀右▲同歩△同銀▲4六歩△3六桂▲3七玉△5六銀▲3四金△4七歩▲4三金打
△4一玉▲5二歩△同飛▲同金△同玉▲8二飛△6二金▲8一飛成△5四銀▲4四銀△同角▲同金△4八歩成(第2図)
頃はよしと、私は△8六歩▲同歩△4五歩と仕掛ける。前局の感想戦の指し手を参考にした。
Sak氏は▲6六歩。いかにも軟弱な手で、私はこしゃくなとばかり△4六歩~△4五歩と突っ張ったが、これは歩を渡して相手の駒を呼び込んで、よくなかった。
Sak氏は4五と2五に執拗に駒を打ちつけ、私は防戦一方。ここでは千日手を覚悟した。
しかしSak君が千日手にするはずもなく、▲4五桂と跳ねる。私は△3六桂~△4七歩だが、この瞬間が絶対に詰まない形なので、Sak氏は猛攻撃を仕掛けてきた。
島井女流二段が、さっき撮った写真を配っている。プリントまでがサービスのようだ。このあたりのキメの細かさは、小回りの利くLPSAならではといえる。
右の将棋は終わって、O氏の勝ち。ミスター中飛車氏にも勝機はあったと思うのだが、O氏の地力が勝った。
数手進んで▲8二飛に△6二金はつらい受け。▲8一飛成に▲4三銀を防いで△5四銀と立つようでは、泣きたくなった。
▲4四銀では▲4四桂でも私の負けだが、これでも問題ない。私は△4八歩成と開き直り、介錯を待つ。第2図からは▲5三歩ぐらいでも負けだと思っていたのだが…。
(つづく)