「女の子。銃を持ってる。なるべくデカい銃を」
著者はカバーイラストの内容についてこう指示するらしい……。
ロングナイフといえば辺境星域では名門の一族であり、故郷のウォードヘブンでは歴代首相を務め、祖父は財界の支配者という一族。しかし、その令嬢として生まれたクリスは幼少時の誘拐事件の影響で社交界だの政略結婚だのには興味が持てず、母親の反対を振り切って海軍へと入隊してしまう。
そして配属されたカミカゼ級戦闘宇宙艦<タイフーン>での初めての任務は、誘拐された地元有力者の娘の救出。しかし、待ちかまえていたのはまだ軍にも行き渡っていない最新装備で武装した集団だった……。
ここ最近のハヤカワSFはミリタリーSFか名作の復刻ばかりが目立ちます。手に入りづらかった名作が新装で手にはいるというのは嬉しいですが、新作はどいつもこいつも分厚くてかないません。
この話も高名すぎる家名にうんざりな若き女性がでかい銃を持って戦うというものです。いろいろ陰謀やら戦闘やらあって面白い話ですが、別に舞台はナポレオン戦争でもスターリングラードでも良い気がします。ベトナムでもアフガニスタンでも通用する、スペースオペラ的な話ですね。70年代80年代はこうした作品の合間にハリイ・ハリスンやキース・ローマーみたいな(SF的なアイデアを軽快なアクションでまとめた)話が挟まってアクセントになっていましたが、今はそういった役割はライトノベルのレーベルに求めるのがベストでしょう。(2009/12/14)
「やはり最後は自分の判断だ。両親からの贈り物は全部がガラクタではないんだから」
「でも大事なものとガラクタを区別するのは一生かかる仕事よ」
ヘンリー・スマイズ-ピーターウォルド十三世とクリス・ロングナイフの言葉。
さて、ミリタリーSFの重鎮パーネルが書いて創元SFから出ていた《ファルケンバーグ大佐》サーガは途中で翻訳が止まってしまいましたが、大佐が美少女なら良かったのでしょうか? これも《ファルケンバーグ大佐》的な世界。数十年前に異星人との戦いがあり膨張が止まった人類世界では、複数勢力に分裂の危機にあっり、そんな時代のまっただ中に任官した新任少尉がさまざまな勢力の思惑に翻弄されながら、目の前の任務をこなしつつ自分が何のために戦うのか見出していくという話。話のクライマックスはあそこではあれでもなく、「連隊付き最先任曹長の言葉」が語られるシーンにあった気がします。《ファルケンバーグ大佐》でも語られた構図の事件もあれば艦隊戦もあり、やはり構成は帆船小説。
最初は主人公が海兵隊を指揮したり艦を指揮したりという展開に何となく違和感があったのだけれど、よく考えてみたら海軍と海兵隊が別組織になっている時代の話に慣れすぎていただけでした。
いろいろ波瀾万丈で面白かったです。エナミカツミのイラストに惹かれて手にとって正解。
単にキャラが巧い人、カラーイラストが上手い人は多いけれど、エナミカツミのイラストは人物がちゃんと地に足が付いていて、単にキャラクターのポーズ絵を描いていても「そこにいるけれど次の瞬間には別の場所に向かって動き出す」みたいな動きが内包されているんです。(2009/12/28)
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