善院古墳群第1号から計画の半ばで中止して旅館に戻ることにした。先ずは国道210号に出なければ・・これがまたきつくてたまらない。走りながらも大きな日陰を探すのだが、周囲は水田、畑地で、平坦なものだから影が無い。
体力が消耗していくのが自分でもよく判るし、思考が・・・やっとのことで国道に出たのは良いが完全に思考が停止してしまった。自転車によっかかって少しでも回復を試みるのである。ところが、横断歩道前だったので車が止まってくれるんだ。これじゃあ迷惑をかける。少しでも前に進まねばならん。走っても汗が出ないんだ(この時は全くもって気がつかなかった)。休憩を挟んで少しでも前に行かねばと・・ところがだ、国道沿いは日陰が無い。それでも走る。
おっと、屋根付きのバス停が目に入って来た。しかもベンチがあるじゃないか。我輩にとってはオアシスだったな。
日陰の下のベンチに横になり・・・少し気を失ったかもしれん。まだまだ先が遠い。ほんの少しだけだが気が楽になったのでまた走り始めた。そうこうしていると突然左足がつってペダルを踏み外してしまいもんどりうって歩道側に転倒してしまった。すると・・対向車線を走っていた大きなSUVが停まり、運転者が降りてきて道路の向こう側から声を掛けている。「大丈夫ですか。救急車呼びましょうか」「有難うございます。大丈夫です」
周囲の目など全く気にもならない程頭がかく乱しているようだ。もう兎に角旅館のある方向に進むことしか頭にない。あの古墳がある所まで走ればと思いながらまた走り始めた。ところが、全くもってあとどのくらいなのか位置的な情報が頭から消えているのである。兎に角走れと自分に言い聞かせながら、左足よもう少しもってくれよと。
最悪を迎えてしまった。巨瀬川にかかる樋ノ口橋の真ん中あたりで又転倒してしまったのである。一瞬のことだった。目の前が真っ暗になった。気がついてみると歩道の上で仰向けになっている。大の字になっているのだろうな。「おー、空が青いな。」・・うわー、背中が熱い。それは当たり前か。表面が焼けているからな。気温は36度以上で、地表アスファルトの表面温度は50度を超すとも言われているから熱いはずだ。何処も怪我をしていないな。擦り剝いてもない。昔取った杵柄で受け身をしたのだろうな。柔道やっててよかったなと訳の判らんことが頭をよぎるのである。起き上がろうとして少し頭を持ち上げていると、こちらに向かって歩道に乗り上げて来る軽トラが目に入って来た。あーいかん。ここを退かないと邪魔になるなと・・本当にそう思ったもんな。すると・・運転者が降りてきて「大丈夫ですか」我輩はもうだめだと思ったから「いや、だめですね。ちょっと休んで行きますから」「何処まで行くんですか」「原鶴温泉の旅館です」「旅館の名前は何て言うんですか」「佐藤荘です」「じゃあそこまで乗せてあげますよ」と言ったが早い、自転車を荷台に積んで車に乗り込み助手席のドアを開けてくれた「はは、天国と地獄ですよ。涼しいでしょ」「有難うございます」
車内では何か話したのだろうが全く記憶が無い。何か変な返答したらしく何度か聞き返されたのを憶えているくらいである。何処をどう走ったのか、まあ想像はつくのだがあっという間に旅館に着いた。御礼は言ったのだが、名前を聞くのも忘れていた。振り返って見るともうその方はいなくなっていた。本当に有り難かった。こんな人がいるんだなと。
後で思い出したのだが何々古墳と言ったのだが知らないと言う。旅館の名前は知っているのに脇を通った古墳の名前を知らなかったからな。
軽度の熱中症だったのだろう。ハンガーノックにもなったろう。朝飯も昼飯も食ってないからな。4年前壱岐を走った時は朝飯、昼飯を食わずに走ったのだが・・4月だから熱中症にはならなかったろう。