この本は、結構前の本だが、Jim Thompson の店に行くと入手できる。創業者の失踪事件の本を店頭に飾っているというのも何だが、それだけ、謎に満ちた事件だった。
松本清張氏も、この事件を元に小説を書いていることは、my homepegae で触れたと思う(本書には、松本氏の説は触れられていない)。他の、本事件に関する小説も呼んだが、レベルは低い。そもそもこの事件は何だったのかを知るための、本書はマストと呼べるものだろう。
JimThompson ブランドは、タイ旅行のお土産に最適。私もかなり持っている。ただ、このブランドをこれだけ有名にしたのは、たぶんこの失踪事件と思う。でなければ、たぶん雨後の筍のように出てきた同業者とごっちゃにされていたのではないか。
本書を読んでいろんな発見があった。
話は、日本がマレー半島を占領していたころにさかのぼる。彼はその時、タイに、アメリカのCIAの前身(OSS=Office of Strategic Services)の組織の一員として派遣されたのだ。ただ、本書を読むとその先祖にもアジアに所縁のあった人がいたことがわかる。運命的なアジアとの出会いといえる。
WWⅡが終わり、状況は一変する。彼は、元CIAのキャリアを活かしてか、バンコックの最上級ホテルであるオリエンタルホテルの経営に携わる。その時、アジアの美術品の収集に手を染めだした。ただ、それが盗品とされ、政府に接収されるなど、痛い目にもあった。タイの政府もころころ変わり、そのとばっちりも受けたようだ。
タイシルクのビジネスはその頃始めたものだが、その拡大の様子はすごい。本人の金もうけのためというよりも、アジアの産業興しのための情熱が、彼を動かしていたように見える。もちろんユルブリンナーの映画によろところもあるが、その他にも様々な努力を続けた結果が今のJim Thompson ブランドの定着につながったことがよくわかる。彼の欧米との人的つながりも、威力を発揮した。本書を読むと、彼は、とにかくタイを愛していたのだ(いたようなのだ)。
そして、失踪した。マレーシアのキャメロン高原で忽然と姿を消したのだ。
その後の顛末も、本書には克明に残されているが、今から見ると滑稽だ。
ただ、本書を読むと、この事件は、事故ではなく、事件だったということがわかる。事故であれば、なんらかの痕跡が残るはずだが、まったく何も見つからなかった。事故とは到底思えない。この辺も、詳しく考察されている。当時の予言師が多数動員された様子も逐一残されている。今でもそのようなことが行われているのか。
では、誰がこの失踪に関わっていたのか?
思わず想像してしまうのが当時(1968年)、力を増していた共産勢力だ。
ただ、40年以上もたった今、もう真実を確かめる術はないだろう。
Jim Thompson 好きのマニア向け。でも面白い。
私は、何らかの理由で、共産勢力に拉致され、その後その要求に応じなかったため、消されたとみる。あれだけ鮮やかに、かつキャメロン高原という特殊な場所で、これを行えるのは、それっくらいしか思い浮かばないからだ。
状況も北朝鮮の拉致事件と極めて似ている。