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東京都による行政処分(教員減給処分)に対する最高裁での違法判決(最判H24.1.16)を、行政法学的に考える

2012-04-25 13:42:22 | シチズンシップ教育
 東京都による行政処分(教員減給処分)に対する違法判決(最判H24.1.16)は、憲法学的に重要な論点がございますが、ここでは、行政法学的な視点に重点を置いて述べます。
 どうか、ご了承ねがいます。


【事件の概要】
Xらは、H15.10月ごろH16.5月ごろ、東京都立高等学校、東京都立養護学校に勤務する教職員であった。

H15年度卒業式、H16年度入学式、又はH15年度記念式典に先立ち、所属校の各校長は、音楽科の教員であったX5,X6に対しては、国歌斉唱の際に伴奏行為を命ずる旨の職務命令を、その余のXらに対しては国歌斉唱の際に規律斉唱行為を命ずる旨の職務命令をそれぞれ発した。(合わせて「本件職務命令」という。)


上記の卒業式や入学式等の式典において、本件職務命令に従わず、

X5、X6は、国歌斉唱時に伴奏行為拒否。

X7,X8,X9は、式場に入場せず。

X10は、卒業式に出席せず。

X11は国歌斉唱の途中で着席。

X12,X13は国歌斉唱の際に式場から退席。

X14は一度起立したがすぐ着席してその後起立せず。

X4を含むその余のXらは国歌斉唱の際に起立しなかった。


都教委は、H16.2.17、同3.30 同3.31、同4.6及び同5.26 X4を除くXらに、不起立行為などは、それぞれ地方公務員法32条及び33条に違反するとして、戒告処分。これらXらには、過去に同種の行為による懲戒処分などの処分歴はなかった。

また、都教委は、H16.4.6、X4に対し、不起立行為は、地方公務員法32条及び33条に違反するとして、給与1月の月額10分の1を減ずる減給処分をした。H14.4.9に行われた平成14年度入学式の際の服装及びその後の事実確認に関する校長の職務命令に従わなかったことが、地方公務員法32条及び33条に違反するとして同年11.6戒告処分を受けたことを踏まえ、量定を加重するという処分量定の方針によるものであった。


【参照法令など】
*東京都の懲戒処分基準
職務命令違反1回目:戒告、違反2回目:減給1月、違反3回目:減給3月、違反4回目以降:停職。

*地方公務員法
(懲戒)
第二十九条  職員が次の各号の一に該当する場合においては、これに対し懲戒処分として戒告、減給、停職又は免職の処分をすることができる。
(小坂補足:4種類の懲戒処分え選ぶ点で、選択裁量。処分することができる、しないこともできる点で、決定裁量)
一  この法律若しくは第五十七条に規定する特例を定めた法律又はこれに基く条例、地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程に違反した場合
二  職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合
三  全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合
2  職員が、任命権者の要請に応じ当該地方公共団体の特別職に属する地方公務員、他の地方公共団体若しくは特定地方独立行政法人の地方公務員、国家公務員又は地方公社(地方住宅供給公社、地方道路公社及び土地開発公社をいう。)その他その業務が地方公共団体若しくは国の事務若しくは事業と密接な関連を有する法人のうち条例で定めるものに使用される者(以下この項において「特別職地方公務員等」という。)となるため退職し、引き続き特別職地方公務員等として在職した後、引き続いて当該退職を前提として職員として採用された場合(一の特別職地方公務員等として在職した後、引き続き一以上の特別職地方公務員等として在職し、引き続いて当該退職を前提として職員として採用された場合を含む。)において、当該退職までの引き続く職員としての在職期間(当該退職前に同様の退職(以下この項において「先の退職」という。)、特別職地方公務員等としての在職及び職員としての採用がある場合には、当該先の退職までの引き続く職員としての在職期間を含む。次項において「要請に応じた退職前の在職期間」という。)中に前項各号のいずれかに該当したときは、これに対し同項に規定する懲戒処分を行うことができる。
3  職員が、第二十八条の四第一項又は第二十八条の五第一項の規定により採用された場合において、定年退職者等となつた日までの引き続く職員としての在職期間(要請に応じた退職前の在職期間を含む。)又はこれらの規定によりかつて採用されて職員として在職していた期間中に第一項各号の一に該当したときは、これに対し同項に規定する懲戒処分を行うことができる。
4  職員の懲戒の手続及び効果は、法律に特別の定がある場合を除く外、条例で定めなければならない。



【選択された訴訟】
訴訟相手方:東京都
*取り消し:行政処分を取り消せ
*国家賠償


【行政法上の論点】
裁量判断の合理性が欠如していることを示すためにどのような指摘を行うべきか

【最高裁の判例法理】
国家公務員の懲戒処分について、神戸全税関(最判昭52.12.20)

*効果裁量の審査方法:神戸全税関(最判昭52.12.20)より抜粋
「(三) 裁量権の範囲の逸脱について
 公務員に対する懲戒処分は、当該公務員に職務上の義務違反、その他、単なる労使関係の見地においてではなく、国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務することをその本質的な内容とする勤務関係の見地において、公務員としてふさわしくない非行がある場合に、その責任を確認し、公務員関係の秩序を維持するため、科される制裁である。ところで、国公法は、同法所定の懲戒事由がある場合に、懲戒権者が、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をするときにいかなる処分を選択すべきかを決するについては、公正であるべきこと(七四条一項)を定め、平等取扱いの原則(二七条)及び不利益取扱いの禁止(九八条三項)に違反してはならないことを定めている以外に、具体的な基準を設けていない。したがつて、懲戒権者は、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、当該公務員の右行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきか、を決定することができるものと考えられるのであるが、その判断は、右のような広範な事情を総合的に考慮してされるものである以上、平素から庁内の事情に通暁し、都下職員の指揮監督の衝にあたる者の裁量に任せるのでなければ、とうてい適切な結果を期待することができないものといわなければならない。それ故、公務員につき、国公法に定められた懲戒事由がある場合に、懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは、懲戒権者の裁量に任されているものと解すべきである。もとより、右の裁量は、恣意にわたることを得ないものであることは当然であるが、懲戒権者が右の裁量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして、違法とならないものというべきである。したがつて、裁判所が右の処分の適否を審査するにあたつては、懲戒権者と同一の立場に立つて懲戒処分をすべきであつたかどうか又はいかなる処分を選択すべきであつたかについて判断し、その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく、懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべきものである。」

*国家公務員法
(懲戒の場合)
第八十二条  職員が、次の各号のいずれかに該当する場合においては、これに対し懲戒処分として、免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる。
一  この法律若しくは国家公務員倫理法又はこれらの法律に基づく命令(国家公務員倫理法第五条第三項の規定に基づく訓令及び同条第四項の規定に基づく規則を含む。)に違反した場合
二  職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合
三  国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合
○2  職員が、任命権者の要請に応じ特別職に属する国家公務員、地方公務員又は沖縄振興開発金融公庫その他その業務が国の事務若しくは事業と密接な関連を有する法人のうち人事院規則で定めるものに使用される者(以下この項において「特別職国家公務員等」という。)となるため退職し、引き続き特別職国家公務員等として在職した後、引き続いて当該退職を前提として職員として採用された場合(一の特別職国家公務員等として在職した後、引き続き一以上の特別職国家公務員等として在職し、引き続いて当該退職を前提として職員として採用された場合を含む。)において、当該退職までの引き続く職員としての在職期間(当該退職前に同様の退職(以下この項において「先の退職」という。)、特別職国家公務員等としての在職及び職員としての採用がある場合には、当該先の退職までの引き続く職員としての在職期間を含む。以下この項において「要請に応じた退職前の在職期間」という。)中に前項各号のいずれかに該当したときは、これに対し同項に規定する懲戒処分を行うことができる。職員が、第八十一条の四第一項又は第八十一条の五第一項の規定により採用された場合において、定年退職者等となつた日までの引き続く職員としての在職期間(要請に応じた退職前の在職期間を含む。)又は第八十一条の四第一項若しくは第八十一条の五第一項の規定によりかつて採用されて職員として在職していた期間中に前項各号のいずれかに該当したときも、同様とする。



【本判決】
 「懲戒権者は、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機性質、態様、結果、影響等のほか、当該公務員の右行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきか、を決定することができるものと考えられる」
 の判例法理を用いて判断。

第3
1(1)最高裁の一般法理:効果裁量→比例原則違反がないか。

 (2)ア 不起立行為の性質・態様・結果:職務命令違反、重要な儀式、式典への影響あり。
   イ 不起立行為の動機・原因:個人の歴史観。
     不起立の態様:積極的妨害でない。 結果:支障の評価は困難。

2(1)戒告: 職務命令は合憲であり遵守確保の必要性あり

      効果裁量の考慮要素:①学校規律秩序維持の必要性の見地から相当
                    +
                ②処分が不利益を及ぼさないこと
 (2)あてはめ:処分歴のないものである→戒告処分選択裁量に逸脱濫用はない

3(1)減給:直接・将来の不利益を伴う+繰り返される→減給処分選択裁量の考慮要素:「相当性を基礎づける具体的な事情」→過去の違反の性質・処分歴の内容や頻度から、不利益より規律や秩序の必要性が大きい。

 (2)あてはめ X4さん:式典妨害でなく服装にかかわる命令で2年前に1回の戒告処分歴→選択が重きに失する。(比例原則違反)

【宮川反対意見】(全判決文最後のほうにありますので、ぜひ、お読みください。)
*職務命令違憲説もある。

*戒告処分の不利益は過小評価されるべきでない。

*通常の戒告の対象行為(刑事罰対象)と本件不起立行為とは異なる。



【本判決の位置づけ】
戒告処分には広範な裁量を認め、減給・停職処分には厳格審査基準を提示した。

【本判決の検討課題】
*戒告とその他の懲戒処分との区別は適切か。(宮川反対意見)

*戒告処分においても「相当性を基礎づける具体的な事情」判断基準は必要ではないか。

*別件のX1(3回懲戒処分と2回不起立処分歴)とX2(不起立処分歴)の停職処分について本判決の判断基準を当てはめると、裁量の濫用といえるか。






********判決文 全文(ただし、第1は字数の関係で略)*****************

 主   文

 1 平成23年(行ツ)第263号上告人らの上告を棄却する。
 2 原判決のうち平成23年(行ヒ)第294号被上告人X4以外の同号被上告人らの戒告処分の取消請求に係る部分を破棄する。
 3 前項の部分につき,平成23年(行ヒ)第294号被上告人X4以外の同号被上告人らの控訴を棄却する。
 4 平成23年(行ヒ)第294号上告人のその余の上告を棄却する。
 5 第1項の部分に関する上告費用は,平成23年(行ツ)第263号上告人らの負担とし,第2項及び第3項の部分に関する控訴費用及び上告費用は,平成23年(行ヒ)第294号被上告人X4以外の同号被上告人らの負担とし,前項の部分に関する上告費用は,同号上告人の負担とする。

       理   由

 第1 本件の事実関係等の概要
(小坂補足:字数の関係で略)

 第2 平成23年(行ツ)第263号上告代理人尾山宏ほかの上告理由について
 1 上告理由のうち職務命令の憲法19条違反(同条違反に係る理由の不備・食違いを含む。)をいう部分について
 原審の適法に確定した事実関係等の下において,本件職務命令が憲法19条に違反するものでないことは,当裁判所大法廷判決(最高裁昭和28年(オ)第1241号同31年7月4日大法廷判決・民集10巻7号785頁,最高裁昭和44年(あ)第1501号同49年11月6日大法廷判決・刑集28巻9号393頁,最高裁昭和43年(あ)第1614号同51年5月21日大法廷判決・刑集30巻5号615頁,最高裁昭和44年(あ)第1275号同51年5月21日大法廷判決・刑集30巻5号1178頁)の趣旨に徴して明らかというべきである(起立斉唱行為に係る職務命令につき,最高裁平成22年(オ)第951号同23年6月6日第一小法廷判決・民集65巻4号1855頁,最高裁平成22年(行ツ)第54号同23年5月30日第二小法廷判決・民集65巻4号1780頁,最高裁平成22年(行ツ)第314号同23年6月14日第三小法廷判決・民集65巻4号2148頁,最高裁平成22年(行ツ)第372号同23年6月21日第三小法廷判決・裁判集民事237号53頁参照。伴奏行為に係る職務命令につき,最高裁平成16年(行ツ)第328号同19年2月27日第三小法廷判決・民集61巻1号291頁参照)。所論の点に関する原審の判断は是認することができ,原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。
 2 その余の上告理由について
 論旨は,違憲をいうが,その実質は単なる法令違反をいうもの又はその前提を欠くものであって,民訴法312条1項及び2項に規定する事由のいずれにも該当しない。
 第3 平成23年(行ヒ)第294号上告代理人石津廣司ほかの上告受理申立て理由について
 1(1) 公務員に対する懲戒処分について,懲戒権者は,懲戒事由に該当すると認められる行為の原因,動機,性質,態様,結果,影響等のほか,当該公務員の上記行為の前後における態度,懲戒処分等の処分歴,選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等,諸般の事情を考慮して,懲戒処分をすべきかどうか,また,懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかを決定する裁量権を有しており,その判断は,それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したと認められる場合に,違法となるものと解される(最高裁昭和47年(行ツ)第52号同52年12月20日第三小法廷判決・民集31巻7号1101頁,最高裁昭和59年(行ツ)第46号平成2年1月18日第一小法廷判決・民集44巻1号1頁参照)。
 (2)ア 本件において,上記(1)の諸事情についてみるに,不起立行為等の性質,態様は,全校の生徒等の出席する重要な学校行事である卒業式等の式典において行われた教職員による職務命令違反であり,当該行為は,その結果,影響として,学校の儀式的行事としての式典の秩序や雰囲気を一定程度損なう作用をもたらすものであって,それにより式典に参列する生徒への影響も伴うことは否定し難い。
 イ 他方,不起立行為等の動機,原因は,当該教職員の歴史観ないし世界観等に由来する「君が代」や「日の丸」に対する否定的評価等のゆえに,本件職務命令により求められる行為と自らの歴史観ないし世界観等に由来する外部的行動とが相違することであり,個人の歴史観ないし世界観等に起因するものである。また,不起立行為等の性質,態様は,上記アのような面がある一方で,積極的な妨害等の作為ではなく,物理的に式次第の遂行を妨げるものではない。そして,不起立行為等の結果,影響も,上記アのような面がある一方で,当該行為のこのような性質,態様に鑑み,当該式典の進行に具体的にどの程度の支障や混乱をもたらしたかは客観的な評価の困難な事柄であるといえる(原審によれば,本件では,具体的に卒業式等が混乱したという事実は主張立証されていないとされている。)。
 2(1) 本件職務命令は,前記第2の1のとおり憲法19条に違反するものではなく,学校教育の目標や卒業式等の儀式的行事の意義,在り方等を定めた関係法令等の諸規定の趣旨に沿って,地方公務員の地位の性質及びその職務の公共性を踏まえ,生徒等への配慮を含め,教育上の行事にふさわしい秩序の確保とともに式典の円滑な進行を図るものであって(前掲最高裁平成23年6月6日第一小法廷判決等参照),このような観点から,その遵守を確保する必要性があるものということができる。このことに加え,前記1(2)アにおいてみた事情によれば,本件職務命令の違反に対し,教職員の規律違反の責任を確認してその将来を戒める処分である戒告処分をすることは,学校の規律や秩序の保持等の見地からその相当性が基礎付けられるものであって,法律上,処分それ自体によって教職員の法的地位に直接の職務上ないし給与上の不利益を及ぼすものではないことも併せ考慮すると,将来の昇給等への影響や前記第1の2(5)の本件における条例及び規則による勤勉手当への影響を勘案しても,過去の同種の行為による懲戒処分等の処分歴の有無等にかかわらず,基本的に懲戒権者の裁量権の範囲内に属する事柄ということができると解される。前記1(2)イにおいてみた事情に関しては,不起立行為等に対する懲戒において戒告を超えてより重い減給以上の処分を選択することについて,本件事案の性質等を踏まえた慎重な考慮を必要とする事情であるとはいえるものの,このことを勘案しても,本件職務命令の違反に対し懲戒処分の中で最も軽い戒告処分をすることが裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たるとは解し難い。また,本件職務命令の違反に対し1回目の違反であることに鑑みて訓告や指導等にとどめることなく戒告処分をすることに関しては,これを裁量権の範囲内における当不当の問題として論ずる余地はあり得るとしても,その一事をもって直ちに裁量権の範囲の逸脱又はその濫用として違法の問題を生ずるとまではいい難い。なお,原審は,本件職務命令の合憲性を否定する有力な見解があったことを指摘するが,その合憲性については前記第2のとおりであって,その他原審の指摘する事情はいずれも上記の判断を左右するものとはいえない。
 (2) 以上によれば,本件職務命令の違反を理由として,第1審原告らのうち過去に同種の行為による懲戒処分等の処分歴のない者に対し戒告処分をした都教委の判断は,社会観念上著しく妥当を欠くものとはいえず,上記戒告処分は懲戒権者としての裁量権の範囲を超え又はこれを濫用したものとして違法であるとはいえないと解するのが相当である。
 3(1) 他方,前示のように,前記1(2)イにおいてみた事情によれば,不起立行為等に対する懲戒において戒告を超えてより重い減給以上の処分を選択することについては,本件事案の性質等を踏まえた慎重な考慮が必要となるものといえる。そして,減給処分は,処分それ自体によって教職員の法的地位に一定の期間における本給の一部の不支給という直接の給与上の不利益が及び,将来の昇給等にも相応の影響が及ぶ上,本件通達を踏まえて毎年度2回以上の卒業式や入学式等の式典のたびに懲戒処分が累積して加重されると短期間で反復継続的に不利益が拡大していくこと等を勘案すると,上記のような考慮の下で不起立行為等に対する懲戒において戒告を超えて減給の処分を選択することが許容されるのは,過去の非違行為による懲戒処分等の処分歴や不起立行為等の前後における態度等(以下,併せて「過去の処分歴等」という。)に鑑み,学校の規律や秩序の保持等の必要性と処分による不利益の内容との権衡の観点から当該処分を選択することの相当性を基礎付ける具体的な事情が認められる場合であることを要すると解すべきである。したがって,不起立行為等に対する懲戒において減給処分を選択することについて,上記の相当性を基礎付ける具体的な事情が認められるためには,例えば過去の1回の卒業式等における不起立行為等による懲戒処分の処分歴がある場合に,これのみをもって直ちにその相当性を基礎付けるには足りず,上記の場合に比べて過去の処分歴に係る非違行為がその内容や頻度等において規律や秩序を害する程度の相応に大きいものであるなど,過去の処分歴等が減給処分による不利益の内容との権衡を勘案してもなお規律や秩序の保持等の必要性の高さを十分に基礎付けるものであることを要するというべきである。
 (2) これを本件についてみるに,前記第1の2(3)エのとおり,第1審原告X4については,都教委において,過去の懲戒処分の対象とされた非違行為と同様の非違行為を再び行った場合には量定を加重するという処分量定の方針に従い,過去に同様の非違行為による戒告処分を受けているとして,量定を加重して減給処分がされたものである。しかし,過去の懲戒処分の対象は,約2年前に入学式の際の服装及びその後の事実確認に関する校長の職務命令に違反した行為であって積極的に式典の進行を妨害する行為ではなく,当該1回のみに限られており,本件の不起立行為の前後における態度において特に処分の加重を根拠付けるべき事情もうかがわれないこと等に鑑みると,同第1審原告については,上記(1)において説示したところに照らし,学校の規律や秩序の保持等の必要性と処分による不利益の内容との権衡の観点から,なお減給処分を選択することの相当性を基礎付ける具体的な事情があったとまでは認め難いというべきである。そうすると,上記のように過去に入学式の際の服装等に係る職務命令違反による戒告1回の処分歴があることのみを理由に同第1審原告に対する懲戒処分として減給処分を選択した都教委の判断は,減給の期間の長短及び割合の多寡にかかわらず,処分の選択が重きに失するものとして社会観念上著しく妥当を欠き,上記減給処分は懲戒権者としての裁量権の範囲を超えるものとして違法の評価を免れないと解するのが相当である。
 4(1) 以上によれば,第1審原告X4及び同X2以外の第1審原告らの戒告処分の取消請求を認容すべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。この点に関する論旨は理由があり,原判決のうち上記請求に係る部分は破棄を免れない。
 (2) 他方,以上によれば,第1審原告X4の減給処分が違法であるとして同第1審原告の同処分の取消請求を認容すべきものとした原審の判断は,是認することができ,原判決のうち上記請求に係る部分に所論の違法はない。この点に関する論旨は採用することができない。
 第4 結論
 以上のとおりであるから,平成23年(行ツ)第263号上告人らの上告を棄却するとともに,原判決のうち平成23年(行ヒ)第294号被上告人X4以外の同号被上告人らの戒告処分の取消請求に係る部分を破棄し,同部分につき同被上告人らの控訴を棄却することとし,同号上告人のその余の上告を棄却することとする。
 よって,裁判官宮川光治の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官櫻井龍子,同金築誠志の各補足意見がある。
 裁判官櫻井龍子の補足意見は,次のとおりである。
 1 事案の性格に鑑み,若干の補足意見を述べておきたい。
 公務員の懲戒処分制度は,国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務することをその本質的な内容とする勤務関係の見地において,公務員としてふさわしくない非行がある場合に,その責任を確認し,公務員関係の秩序を維持するために課される制裁である(多数意見の引用するいわゆる神戸税関事件に係る最高裁昭和52年12月20日第三小法廷判決参照)。一方,懲戒処分は,職員にとってその身分や勤務条件に重大な不利益をもたらすものであるため,懲戒の事由,手続等があらかじめ法定,周知されているべきであるのみならず,公正原則,平等取扱い原則,比例原則などの公務員の服務に関する諸原則を踏まえ,個々の事案に即して謙抑的に行使されるべきものである。神戸税関事件に係る上記最高裁判決の判示は,このような公務員の懲戒制度の基本的枠組みを踏まえた上で,当該行政組織の秩序の維持,職員の服務に第一次的な責任を有する懲戒権者の裁量を尊重するという,司法判断の基本的スタンスを画したものといえる。したがって,同判決も述べるように,当該懲戒処分が社会観念上著しく妥当を欠き,当該懲戒権者がその裁量権を適切に行使しているとはいえない事案については,司法がこれに制約を加えることが必要となるものである。
 そこで,多数意見は,本件の懲戒処分のうち,戒告処分については適法と認められるが,過去の処分歴等を理由に量定を加重される処分(以下「加重処分」という。)については,過去の処分歴等が減給などの加重処分による不利益の内容との権衡を勘案してもなお規律や秩序の保持等の必要性の高さを十分に基礎付けるものであることを要するとして,過去の1回の不起立行為と同様の行為による処分歴のみを理由とする加重処分として課された減給処分を裁量権の範囲を超えるものと判断したものである。
 2(1) 公務員の懲戒制度における処分の加重については,制度的に加重の在り方を定める法令上の根拠はないため,過去の処分歴等を個別事案の情状として考慮するのみとする考えも見られるところであり,加重処分そのものが裁量の範囲内といえるためには,懲戒の対象行為の態様や影響と加重処分による不利益の内容との権衡,公務秩序維持のための必要性などについて,上記に述べた懲戒処分制度の基本的枠組みを踏まえ,より慎重な判断が要求されるといわなければならない。
 東京都(東京都教育委員会)における懲戒処分の処分量定については,入学式や卒業式等での国歌斉唱時における不起立(ピアノ伴奏の拒否を含む。本意見において以下同じ。)という職務命令違反の行為に対し,1回目は戒告処分とし,2回目以降からは加重処分を行うこととし,2回目で減給1か月,3回目で減給6か月,4回目以降は停職処分にする方針が採られていることがうかがわれる。
 (2) これらの懲戒処分のうち最も軽い戒告処分と,その上の減給処分の差は大きく,更にその上の停職処分との間には大きな差がある。戒告処分は,職員の規律違反の責任を確認してその将来を戒める処分であって,勤勉手当の減額という条例上の不利益や将来の昇給等への間接的な影響はあるものの,法律上は直接的な給与上ないし職務上の不利益を含む処分ではないのに対し,減給処分は,法律上の不利益として給与そのものが直接的に減額されるのみならず,その結果が期末手当,退職金,年金等にも影響するなど給与上の多大な不利益を伴う処分である。さらに,停職処分は,法律上の不利益として停職中の給与が全額支給されないことによる大きな給与上の不利益に加え,教師の場合は停職期間中教壇に立てないことについての本人の職務上の不利益も大きく(生徒への教育上の影響なども無視できない。),極めて厳しい重大な処分であることが明らかである。したがって,東京都における上記(1)のような一律の加重処分の定め方,実際の機械的な適用は,そのこと自体が問題であるといわなければならず,また,懲戒の対象行為との関係における相当性が問題である。
 本件の不起立行為は,既に多数意見の中で説示しているように,それぞれの行為者の歴史観等に起因してやむを得ず行うものであり,その結果式典の進行が遅れるなどの支障を生じさせる態様でもなく,また行為者も式典の妨害を目的にして行うものではない。不起立の時間も短く,保護者の一部に違和感,不快感を持つものがいるとしても,その後の教育活動,学校の秩序維持等に大きく影響しているという事実が認められているわけではない。
 このような行為が繰り返し行われた場合に加重処分をすることは,それが相当性を欠くものでなければ許容されるものではあるものの,上記のように多大な給与上ないし職務上の不利益や影響をもたらす減給ないし停職の処分を前記(1)のように一律に機械的に加重処分として課すことは,行為と不利益との権衡を欠き,社会観念上妥当とはいい難いものというべきである。
 3 さらに,本件が,さきに当小法廷が判示した起立斉唱に係る職務命令の合憲判断に関する判決(多数意見の引用する平成23年6月6日判決)に関係するものであるので,以下の点を付言しておきたい。
 さきの上記判決において,多数意見は上記職務命令の合憲性を是認しつつ,思想及び良心の自由についての間接的な制約となる面があることを認めたものであり,そのことは,上記職務命令に従って起立斉唱することに自らの歴史観,世界観等との間で強い葛藤を感じる職員が存在することを踏まえたものといえ,処分対象者の多くは,そのような葛藤の結果,自らの信じるところに従い不起立行為を選択したものであろう。式典のたびに不起立を繰り返すということは,その都度,葛藤を経て,自らの信条と尊厳を守るためにやむを得ず不起立を繰り返すことを選択したものと見ることができる。前記2(1)の状況の下で,毎年必ず挙行される入学式,卒業式等において不起立を行えば,次第に処分が加重され,2,3年もしないうちに戒告から減給,そして停職という形で不利益の程度が増していくことになるが,これらの職員の中には,自らの信条に忠実であればあるほど心理的に追い込まれ,上記の不利益の増大を受忍するか,自らの信条を捨てるかの選択を迫られる状態に置かれる者がいることを容易に推測できる。不起立行為それ自体が,これまで見たとおり,学校内の秩序を大きく乱すものとはいえないことに鑑みると,このように過酷な結果を職員個人にもたらす前記2(1)のような懲戒処分の加重量定は,法が予定している懲戒制度の運用の許容範囲に入るとは到底考えられず,法の許容する懲戒権の範囲を逸脱するものといわざるを得ない。
 4 最後に,本件の紛争の特性に鑑みて付言するに,今後いたずらに不起立と懲戒処分の繰り返しが行われていく事態が教育の現場の在り方として容認されるものではないことを強調しておかなければならない。教育の現場においてこのような紛争が繰り返される状態を一日も早く解消し,これまでにも増して自由で闊達な教育が実施されていくことが切に望まれるところであり,全ての関係者によってそのための具体的な方策と努力が真摯かつ速やかに尽くされていく必要があるものというべきである。
 裁判官金築誠志の補足意見は,次のとおりである。
 本件職務命令が憲法19条に違反しないとする多数意見に賛成する立場からこれに付加する私の意見は,多数意見の引用する最高裁平成23年6月6日第一小法廷判決において私の補足意見として述べたとおりである。

 裁判官宮川光治の反対意見は,次のとおりである。
 多数意見は,本件職務命令は憲法19条(思想及び良心の自由)に違反せず,また,第1審原告X4を除くその余の第1審原告らに対し戒告処分をした都教委の判断は懲戒権者としての裁量権の範囲にあるとするが,私は,そのいずれについても同意できない。なお,第1審原告X4に対する減給処分を裁量権の範囲を超えるものとした結論には同意できるが,理由を異にする。
 第1 本件職務命令の憲法適合性について
 1 原審は,第1審原告らがそれぞれ所属校の各校長から受けた本件職務命令に従わなかったのは,「君が代」や「日の丸」が過去の我が国において果たした役割に関わる第1審原告らの歴史観ないし世界観及び教育上の信念に基づくものであるという事実を,適法に確定している。そのように真摯なものである場合は,その行為は第1審原告らの思想及び良心の核心の表出であるか少なくともこれと密接に関連しているとみることができる。したがって,その行為は第1審原告らの精神的自由に関わるものとして,憲法上保護されなければならない。第1審原告らとの関係では,本件職務命令はいわゆる厳格な基準による憲法審査の対象となり,その結果,憲法19条に違反する可能性がある。このことは,多数意見が引用する最高裁平成23年6月6日第一小法廷判決における私の反対意見で述べたとおりである。なお,そこでは,国旗及び国歌に関する法律と学習指導要領が教職員に起立斉唱行為等を職務命令として強制することの根拠となるものではないこと,本件通達は,式典の円滑な進行を図るという価値中立的な意図で発せられたものではなく,その意図は,前記歴史観等を有する教職員を念頭に置き,その歴史観等に対する強い否定的評価を背景に,不利益処分をもってその歴史観等に反する行為を強制することにあるとみることができ,職務命令はこうした本件通達に基づいている旨を指摘した。本件では,さらに多数意見が指摘する「地方公務員の地位の性質及びその職務の公共性」について,私の意見を付加しておくこととする。
 2 第1審原告らは,地方公務員ではあるが,教育公務員であり,一般行政とは異なり,教育の目標に照らし,特別の自由が保障されている。すなわち,教育は,その目的を実現するため,学問の自由を尊重しつつ,幅広い知識と教養を身に付けること,真理を求める態度を養うこと,個人の価値を尊重して,その能力を伸ばし,創造性を培い,自主及び自律の精神を養うこと等の目標を達成するよう行われるものであり(教育基本法2条),教育をつかさどる教員には,こうした目標を達成するために,教育の専門性を懸けた責任があるとともに,教育の自由が保障されているというべきである。もっとも,普通教育においては完全な教育の自由を認めることはできないが,公権力によって特別の意見のみを教授することを強制されることがあってはならないのであり,他方,教授の具体的内容及び方法についてある程度自由な裁量が認められることについては自明のことであると思われる(最高裁昭和43年(あ)第1614号同51年5月21日大法廷判決・刑集30巻5号615頁参照)。上記のような目標を有する教育に携わる教員には,幅広い知識と教養,真理を求め,個人の価値を尊重する姿勢,創造性を希求する自律的精神の持ち主であること等が求められるのであり,上記のような教育の目標を考慮すると,教員における精神の自由は,取り分けて尊重されなければならないと考える。
 個々の教員は,教科教育として生徒に対し国旗及び国歌について教育するという場合,教師としての専門的裁量の下で職務を適正に遂行しなければならない。したがって,「日の丸」や「君が代」の歴史や過去に果たした役割について,自由な創意と工夫により教授することができるが,その内容はできるだけ中立的に行うべきである。そして,式典において,教育の一環として,国旗掲揚,国歌斉唱が準備され,遂行される場合に,これを妨害する行為を行うことは許されない。しかし,そこまでであって,それ以上に生徒に対し直接に教育するという場を離れた場面においては,自らの思想及び良心の核心に反する行為を求められることはないというべきである。音楽専科の教員についても,同様である。
 このように,私は,第1審原告らは,地方公務員であっても,教育をつかさどる教員であるからこそ,一般行政に携わる者とは異なって,自由が保障されなければならない側面があると考えるのである。
 3 以上のとおり,第1審原告らの上告理由のうち本件職務命令が憲法19条違反をいう部分は理由がある。
 第2 懲戒処分の裁量審査について
 1 多数意見は,本件職務命令の違反を理由として,過去に同種の行為による懲戒処分等の処分歴のない第1審原告らに対してなされた戒告処分(以下「本件戒告処分」という。)は,懲戒権者としての裁量権の範囲を超え又はこれを濫用したものとはいえないという。そこで,私も,本件職務命令の憲法適合性に関する判断を留保し,また,本件戒告処分自体も憲法19条に違反する可能性があるが,その判断を留保し,その上で,本件の懲戒処分に係る裁量審査に関し,私の反対意見を述べる。以下,2において考慮すべき諸事情のうち第1審原告らの行為の原因,動機及び行為の態様と法益の侵害の程度について述べ,3において本件では戒告処分は実質的にみると重い不利益処分であることを指摘し,4において他の非違行為に対する処分及び他地域の処分例と比較すると不公正であることを述べる。
 2 第1審原告らの不起立行為等は,「日の丸」や「君が代」は軍国主義や戦前の天皇制絶対主義のシンボルであり平和主義や国民主権とは相容れないと考える歴史観ないし世界観,及び人権の尊重や自主的に思考することの大切さを強調する教育実践を続けてきた教育者としての教育上の信念に起因するものであり,その動機は真摯であり,いわゆる非行・非違行為とは次元を異にする。また,他の職務命令違反と比較しても,違法性は顕著に希薄である。
 第1審原告らが抱いている歴史観等は,ひとり第1審原告ら独自のものではなく,我が国社会において,人々の間に一定の広がりを有し,共感が存在している。また,原審も指摘しているが,憲法学などの学説及び日本弁護士連合会等の法律家団体においては,式典において「君が代」を起立して斉唱すること及びピアノ伴奏をすることを職務命令により強制することは憲法19条等に違反するという見解が大多数を占めていると思われる。確かに,この点に関して最高裁は異なる判断を示したが,こうした議論状況は一朝には変化しないであろう。
 第1審原告らの不起立行為等は消極的不作為にすぎないのであって,式典を妨害する等の積極的行為を含まず,したがって,式典の円滑な遂行に物理的支障をいささかも生じさせていない。法益の侵害はほとんどない。
 3 第1審原告らは,最初の不起立行為等で本件戒告処分を受けたのであるが,その処分が第1審原告らに与える不利益については過小評価されるべきではないと思われる。確かに,戒告処分は法の定める懲戒処分の中では最も軽いが,処分を受けると,履歴に残り,多数意見も認めるとおり勤勉手当は当該支給期間(半年間)において10%の割合で減額され,昇給が少なくとも3か月延伸される可能性があり,その延伸によりひいては,退職金や年金支給額への影響もあり得る。そして,東京都の教職員は定年退職後に再雇用を希望するとほぼ例外なく再雇用されているが,戒告処分を受けるとその機会を事実上失い,合格通知を受けていた者も合格は取り消されるのが通例であることがうかがわれる。
 都教委は,不起立行為等をした教職員に対し,おおむね1回目は戒告処分,2回目は1か月間月額給与10分の1を減ずる減給処分,3回目は6か月間月額給与10分の1を減ずる減給処分,4回目は停職1か月の停職処分等という基準で懲戒処分を行っていることがうかがわれる。毎年度2回以上の卒業式や入学式等の式典のたびに懲戒処分が累積加重されるのであるから,短期間で反復継続的に不利益が拡大していくのである。戒告処分がひとたびなされると,こうした累積処分が機械的にスタートする。
 以上のとおり,実質的にみると,本件では,戒告処分は,相当に重い不利益処分であるというべきである。
 4 教職員の主な非行に対する標準的な処分量定(東京都教育長決定)に列挙されている非行の大半は,刑事罰の対象となる行為や性的非行であり,量定上それらに関しても戒告処分にとどまる例が少なくないと思われる。原審は,体罰,交通事故,セクハラ,会計事故等の服務事故について都教委の行った処分等の実績をみると,平成16年から18年度において,懲戒処分を受けた者が205人(うち戒告が74人)であるのに対し,文書訓告又は口頭注意といった事実上の措置を受けた者が397人,指導等を受けた者が279人となっており,服務事故(非違行為)と認められた者のうち懲戒処分を受けたのは4分の1にも満たないとし,これによれば,戒告処分であっても,一般的には,非違行為の中でもかなり情状の悪い場合にのみ行われるものということができるとしている。
 さらに,不起立行為等に関する懲戒処分の状況を全国的にみると,懲戒処分まで行っている地域は少なく,例えば神奈川県や千葉県では,不起立行為等があっても,またそれが繰り返されていても,懲戒処分はされていないことがうかがわれる。
 このように比較すると,本件戒告処分は過剰に過ぎ,比例原則に反するというべきである。
 5 以上を総合すると,多数意見がいう不起立行為等の性質,態様,影響を前提としても,不起立行為等という職務命令違反行為に対しては,口頭又は文書による注意や訓告により責任を問い戒めることが適切であり,これらにとどめることなくたとえ戒告処分であっても懲戒処分を科すことは,重きに過ぎ,社会通念上著しく妥当性を欠き,裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用するものであって,是認することはできない。この点に関する原審の判断は相当である。
 第1審原告X4については,多数意見は減給処分の取消請求を認容した原審の判断を是認することができるとしており,結論において同じとなるが,上記のとおり,私の意見は理由を異にする。なお,多数意見は,過去の処分歴に係る非違行為がその内容や頻度等において規律や秩序を害する程度の相応に大きいものであるなどの場合は,減給処分が裁量の範囲にあるものとされる可能性を容認していると思われる。そうであるとすると,前述のとおり式典は毎年度2回以上あり,不起立行為等を理由とする戒告処分は短期間に累積されていくのであるから,ある段階では減給処分がなされる可能性がある。多数意見は,起立斉唱行為に係る職務命令は思想及び良心の自由についての間接的な制約となる面があることを認めていることに鑑みると,ただ単に不起立行為等が累積したにすぎない場合に減給処分が裁量の範囲にあるものとされる可能性を容認することは,相当でないと思われる。
(裁判長裁判官 金築誠志 裁判官 宮川光治 裁判官 櫻井龍子 裁判官 横田尤孝 裁判官 白木 勇)
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中央区の適正な行政処分手続のための『中央区行政手続条例』平成八年六月二十八日 条例第十九号

2012-04-25 00:38:47 | シチズンシップ教育
 行政手続法(平成五年十一月十二日法律第八十八号)

 同法3条3項により、自治体の機関が条例・規則に基づいて行う行政行為は、行政手続法の適用除外となっており、

 同法46条で、各自治体はそれぞれ行政手続法に準じた行政手続条例を制定しています。

*****行政手続法 関連条文*****
(適用除外)
第三条  次に掲げる処分及び行政指導については、次章から第四章までの規定は、適用しない。
一  国会の両院若しくは一院又は議会の議決によってされる処分
二  裁判所若しくは裁判官の裁判により、又は裁判の執行としてされる処分
三  国会の両院若しくは一院若しくは議会の議決を経て、又はこれらの同意若しくは承認を得た上でされるべきものとされている処分
四  検査官会議で決すべきものとされている処分及び会計検査の際にされる行政指導
五  刑事事件に関する法令に基づいて検察官、検察事務官又は司法警察職員がする処分及び行政指導
六  国税又は地方税の犯則事件に関する法令(他の法令において準用する場合を含む。)に基づいて国税庁長官、国税局長、税務署長、収税官吏、税関長、税関職員又は徴税吏員(他の法令の規定に基づいてこれらの職員の職務を行う者を含む。)がする処分及び行政指導並びに金融商品取引の犯則事件に関する法令に基づいて証券取引等監視委員会、その職員(当該法令においてその職員とみなされる者を含む。)、財務局長又は財務支局長がする処分及び行政指導
七  学校、講習所、訓練所又は研修所において、教育、講習、訓練又は研修の目的を達成するために、学生、生徒、児童若しくは幼児若しくはこれらの保護者、講習生、訓練生又は研修生に対してされる処分及び行政指導
八  刑務所、少年刑務所、拘置所、留置施設、海上保安留置施設、少年院、少年鑑別所又は婦人補導院において、収容の目的を達成するためにされる処分及び行政指導
九  公務員(国家公務員法 (昭和二十二年法律第百二十号)第二条第一項 に規定する国家公務員及び地方公務員法 (昭和二十五年法律第二百六十一号)第三条第一項 に規定する地方公務員をいう。以下同じ。)又は公務員であった者に対してその職務又は身分に関してされる処分及び行政指導
十  外国人の出入国、難民の認定又は帰化に関する処分及び行政指導
十一  専ら人の学識技能に関する試験又は検定の結果についての処分
十二  相反する利害を有する者の間の利害の調整を目的として法令の規定に基づいてされる裁定その他の処分(その双方を名あて人とするものに限る。)及び行政指導
十三  公衆衛生、環境保全、防疫、保安その他の公益にかかわる事象が発生し又は発生する可能性のある現場において警察官若しくは海上保安官又はこれらの公益を確保するために行使すべき権限を法律上直接に与えられたその他の職員によってされる処分及び行政指導
十四  報告又は物件の提出を命ずる処分その他その職務の遂行上必要な情報の収集を直接の目的としてされる処分及び行政指導
十五  審査請求、異議申立てその他の不服申立てに対する行政庁の裁決、決定その他の処分
十六  前号に規定する処分の手続又は第三章に規定する聴聞若しくは弁明の機会の付与の手続その他の意見陳述のための手続において法令に基づいてされる処分及び行政指導
2  次に掲げる命令等を定める行為については、第六章の規定は、適用しない。
一  法律の施行期日について定める政令
二  恩赦に関する命令
三  命令又は規則を定める行為が処分に該当する場合における当該命令又は規則
四  法律の規定に基づき施設、区間、地域その他これらに類するものを指定する命令又は規則
五  公務員の給与、勤務時間その他の勤務条件について定める命令等
六  審査基準、処分基準又は行政指導指針であって、法令の規定により若しくは慣行として、又は命令等を定める機関の判断により公にされるもの以外のもの
3  第一項各号及び前項各号に掲げるもののほか、地方公共団体の機関がする処分(その根拠となる規定が条例又は規則に置かれているものに限る。)及び行政指導、地方公共団体の機関に対する届出(前条第七号の通知の根拠となる規定が条例又は規則に置かれているものに限る。)並びに地方公共団体の機関が命令等を定める行為については、次章から第六章までの規定は、適用しない。

(地方公共団体の措置)
第四十六条  地方公共団体は、第三条第三項において第二章から前章までの規定を適用しないこととされた処分、行政指導及び届出並びに命令等を定める行為に関する手続について、この法律の規定の趣旨にのっとり、行政運営における公正の確保と透明性の向上を図るため必要な措置を講ずるよう努めなければならない。


************************************

 そこで、中央区の『中央区行政手続条例』。

 中央区の行政処分手続は、この条例に沿って適正になされることが求められています。

 以下、その条例。

********中央区行政手続条例**********

○中央区行政手続条例

平成八年六月二十八日

条例第十九号

中央区行政手続条例

目次
第一章 総則(第一条―第四条)
第二章 申請に対する処分(第五条―第十一条)
第三章 不利益処分
第一節 通則(第十二条―第十四条)
第二節 聴聞(第十五条―第二十六条)
第三節 弁明の機会の付与(第二十七条―第二十九条)
第四章 行政指導(第三十条―第三十四条)
第五章 届出(第三十五条)
附則

第一章 総則
(目的等)
第一条 この条例は、処分、行政指導及び届出に関する手続に関し、共通する事項を定めることによって、行政運営における公正の確保と透明性(行政上の意思決定について、その内容及び過程が区民にとって明らかであることをいう。)の向上を図り、もって区民の権利利益の保護に資することを目的とする。
2 処分、行政指導及び届出に関する手続に関しこの条例に規定する事項について、他の条例に特別の定めがある場合は、その定めるところによる。

(定義)
第二条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 条例等 条例及び規則(地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第百三十八条の四第二項に規定する規程を含む。)をいう。
二 処分 行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為をいう。
三 申請 条例等に基づき、行政庁の許可、認可、免許その他の自己に対し何らかの利益を付与する処分(以下「許認可等」という。)を求める行為であって、当該行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされているものをいう。
四 不利益処分 行政庁が、条例等に基づき、特定の者を名あて人として、直接に、これに義務を課し、又はその権利を制限する処分をいう。ただし、次のいずれかに該当するものを除く。
イ 事実上の行為及び事実上の行為をするに当たりその範囲、時期等を明らかにするために条例等において必要とされている手続としての処分
ロ 申請により求められた許認可等を拒否する処分その他申請に基づき当該申請をした者を名あて人としてされる処分
ハ 名あて人となるべき者の同意の下にすることとされている処分
ニ 許認可等の効力を失わせる処分であって、当該許認可等の基礎となった事実が消滅した旨の届出があったことを理由としてされるもの
五 区の機関 中央区の執行機関若しくはこれらに置かれる機関又はこれらの機関の職員であって法令(条例等を含む。)により独立に権限を行使することを認められた職員をいう。
六 行政指導 区の機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為であって処分に該当しないものをいう。
七 届出 行政庁に対し一定の事項の通知をする行為(申請に該当するものを除く。)であって、条例等により直接に当該通知が義務付けられているもの(自己の期待する一定の条例等における効果を発生させるためには当該通知をすべきこととされているものを含む。)をいう。
2 前項の規定にかかわらず、同項第三号に掲げる用語の意義は第三十一条において同号中「条例等」とあるのは、「法令(条例等を含む。)」とする。
(一部改正〔平成一二年条例四号〕)

(適用除外)
第三条 処分及び行政指導で行政手続法(平成五年法律第八十八号。以下「法」という。)第三条第一項各号に掲げるものについては、次章から第四章までの規定は、適用しない。

(国の機関等に対する処分等の適用除外)
第四条 国の機関、区の機関又は他の地方公共団体若しくはその機関に対する処分(これらの機関又は団体がその固有の資格において当該処分の名あて人となるものに限る。)及び行政指導並びにこれらの機関又は団体がする届出(これらの機関又は団体がその固有の資格においてすべきこととされているものに限る。)については、この条例の規定は適用しない。

第二章 申請に対する処分
(審査基準)
第五条 行政庁は、申請により求められた許認可等をするかどうかをその条例等の定めに従って判断するために必要とされる基準(以下「審査基準」という。)を定めるものとする。
2 行政庁は、審査基準を定めるに当たっては、当該許認可等の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければならない。
3 行政庁は、行政上特別の支障があるときを除き、条例等により当該申請の提出先とされている機関の事務所における備付けその他の適当な方法により審査基準を公にしておかなければならない。

(標準処理期間)
第六条 行政庁は、申請がその事務所に到達してから当該申請に対する処分をするまでに通常要すべき標準的な期間(条例等により当該行政庁と異なる機関が当該申請の提出先とされている場合は、併せて、当該申請が当該提出先とされている機関の事務所に到達してから当該行政庁の事務所に到達するまでに通常要すべき標準的な期間)を定めるよう努めるとともに、これを定めたときは、これらの当該申請の提出先とされている機関の事務所における備付けその他の適当な方法により公にしておかなければならない。

(申請に対する審査及び応答)
第七条 行政庁は、申請がその事務所に到達したときは遅滞なく当該申請の審査を開始しなければならず、かつ、申請書の記載事項に不備がないこと、申請書に必要な書類が添付されていること、申請をすることができる期間内にされたものであることその他の条例等に定められた申請の形式上の要件に適合しない申請については、速やかに、申請をした者(以下「申請者」という。)に対し相当の期間を定めて当該申請の補正を求め、又は当該申請により求められた許認可等を拒否しなければならない。

(理由の提示)
第八条 行政庁は、申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合は、申請者に対し、同時に、当該処分の理由を示さなければならない。ただし、条例等に定められた許認可等の要件又は公にされた審査基準が数量的指標その他の客観的指標により明確に定められている場合であって、当該申請がこれらに適合しないことが申請書の記載、添付書類その他申請の内容から明らかであるときは、申請者の求めがあったときにこれを示せば足りる。
2 前項本文に規定する処分を書面でするときは、同項の理由は、書面により示さなければならない。
(一部改正〔平成二〇年条例二二号〕)

(情報の提供)
第九条 行政庁は、申請者の求めに応じ、当該申請に係る審査の進行状況及び当該申請に対する処分の時期の見通しを示すよう努めなければならない。
2 行政庁は、申請をしようとする者又は申請者の求めに応じ、申請書の記載及び添付書類に関する事項その他の申請に必要な情報の提供に努めなければならない。

(公聴会の開催等)
第十条 行政庁は、申請に対する処分であって、申請者以外の者の利害を考慮すべきことが当該条例等において許認可等の要件とされているものを行う場合には、必要に応じ、公聴会の開催その他の適当な方法により当該申請者以外の者の意見を聴く機会を設けるよう努めなければならない。

(複数の行政庁が関与する処分)
第十一条 行政庁は、申請の処理をするに当たり、他の行政庁において同一の申請者からされた関連する申請が審査中であることをもって自らすべき許認可等をするかどうかについての審査又は判断を殊更に遅延させるようなことをしてはならない。
2 一の申請又は同一の申請者からされた相互に関連する複数の申請に対する処分について複数の行政庁が関与する場合においては、当該複数の行政庁は、必要に応じ、相互に連絡をとり、当該申請者からの説明の聴取を共同して行う等により審査の促進に努めるものとする。

第三章 不利益処分
第一節 通則
(処分の基準)
第十二条 行政庁は、不利益処分をするかどうか又はどのような不利益処分とするかについてその条例等の定めに従って判断するために必要とされる基準(次項において「処分基準」という。)を定め、かつ、これを公にしておくよう努めなければならない。
2 行政庁は、処分基準を定めるに当たっては、当該不利益処分の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければならない。

(不利益処分をしようとする場合の手続)
第十三条 行政庁は、不利益処分をしようとする場合には、次の各号の区分に従い、この章の定めるところにより、当該不利益処分の名あて人となるべき者について、当該各号に定める意見陳述のための手続を執らなければならない。
一 次のいずれかに該当するとき 聴聞
イ 許認可等を取り消す不利益処分をしようとするとき。
ロ イに規定するもののほか、名あて人の資格又は地位を直接にはく奪する不利益処分をしようとするとき。
ハ イ及びロに掲げる場合以外の場合であって行政庁が相当と認めるとき。
二 前号イからハまでのいずれにも該当しないとき 弁明の機会の付与
2 次の各号のいずれかに該当するときは、前項の規定は、適用しない。
一 公益上、緊急に不利益処分をする必要があるため、前項に規定する意見陳述のための手続を執ることができないとき。
二 条例等において必要とされる資格がなかったこと又は失われるに至ったことが判明した場合に必ずすることとされている不利益処分であって、その資格の不存在又は喪失の事実が裁判所の判決書又は決定書、一定の職に就いたことを証する当該任命権者の書類その他の客観的な資料により直接証明されたものをしようとするとき。
三 施設若しくは設備の設置、維持若しくは管理又は物の製造、販売その他の取扱いについて遵守すべき事項が条例等において技術的な基準をもって明確にされている場合において、専ら当該基準が充足されていないことを理由として当該基準に従うべきことを命ずる不利益処分であってその不充足の事実が計測、実験その他客観的な認定方法によって確認されたものをしようとするとき。
四 納付すべき金銭の額を確定し、一定の額の金銭の納付を命じ、又は金銭の給付決定の取消しその他の金銭の給付を制限する不利益処分をしようとするとき。
五 申出に基づき当該申出をした者を名あて人としてされる不利益処分をしようとするとき。
六 当該不利益処分の性質上、それによって課される義務の内容が著しく軽微なものであるため名あて人となるべき者の意見をあらかじめ聴くことを要しないものとして区規則で定める処分をしようとするとき。

(不利益処分の理由の提示)
第十四条 行政庁は、不利益処分をする場合には、その名あて人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならない。ただし、当該理由を示さないで処分をすべき差し迫った必要がある場合は、この限りでない。
2 行政庁は、前項ただし書の場合においては、当該名あて人の所在が判明しなくなったときその他処分後において理由を示すことが困難な事情があるときを除き、処分後相当の期間内に、同項の理由を示さなければならない。
3 不利益処分を書面でするときは、前二項の理由は、書面により示さなければならない。

第二節 聴聞
(聴聞の通知の方式)
第十五条 行政庁は、聴聞を行うに当たっては、聴聞を行うべき期日までに相当な期間をおいて、不利益処分の名あて人となるべき者に対し、次に掲げる事項を書面により通知しなければならない。
一 予定される不利益処分の内容及び根拠となる条例等の条項
二 不利益処分の原因となる事実
三 聴聞の期日及び場所
四 聴聞に関する事務を所掌する組織の名称及び所在地
2 前項の書面においては、次に掲げる事項を教示しなければならない。
一 聴聞の期日に出頭して意見を述べ、及び証拠書類又は証拠物(以下「証拠書類等」という。)を提出し、又は聴聞の期日への出頭に代えて陳述書及び証拠書類等を提出することができること。
二 聴聞が終結する時までの間、当該不利益処分の原因となる事実を証する資料の閲覧を求めることができること。
3 行政庁は、不利益処分の名あて人となるべき者の所在が判明しない場合においては、第一項の規定による通知を、その者の氏名、同項第三号及び第四号に掲げる事項並びに当該行政庁が同項各号に掲げる事項を記載した書面をいつでもその者に交付する旨を当該行政庁の事務所の掲示場に掲示することによって行うことができる。この場合においては、掲示を始めた日から二週間を経過したときに、当該通知がその者に到達したものとみなす。

(代理人)
第十六条 前条第一項の通知を受けた者(同条第三項後段の規定により当該通知が到達したものとみなされる者を含む。以下「当事者」という。)は、代理人を選任することができる。
2 代理人は、各自、当事者のために、聴聞に関する一切の行為をすることができる。
3 代理人の資格は、書面で証明しなければならない。
4 代理人がその資格を失ったときは、当該代理人を選任した当事者は、書面でその旨を行政庁に届け出なければならない。

(参加人)
第十七条 第十九条の規定により聴聞を主宰する者(以下「主宰者」という。)は、必要があると認めるときは、当事者以外の者であって当該不利益処分の根拠となる条例等に照らし当該不利益処分につき利害関係を有するものと認められる者(同条第二項第六号において「関係人」という。)に対し、当該聴聞に関する手続に参加することを求め、又は当該聴聞に関する手続に参加することを許可することができる。
2 前項の規定により当該聴聞に関する手続に参加する者(以下「参加人」という。)は、代理人を選任することができる。
3 前条第二項から第四項までの規定は、前項の代理人について準用する。この場合において、同条第二項及び第四項中「当事者」とあるのは、「参加人」と読み替えるものとする。

(文書等の閲覧等)
第十八条 当事者及び当該不利益処分がされた場合に自己の利益を害されることとなる参加人(以下この条及び第二十四条第三項において「当事者等」という。)は、聴聞の通知があった時から聴聞が終結する時までの間、行政庁に対し、当該事案についてした調査の結果に係る調書その他の当該不利益処分の原因となる事実を証する資料の閲覧を求めることができる。この場合において、行政庁は、第三者の利益を害するおそれがあるときその他正当な理由があるときでなければ、その閲覧を拒むことができない。
2 前項の規定は、当事者等が聴聞の期日における審理の進行に応じて必要となった資料の閲覧を更に求めることを妨げない。
3 当事者等は、聴聞が終結するまでの間、行政庁に対し、前二項の規定により閲覧した資料の写しの交付を求めることができる。この場合において、写しの作成に要する費用は、当該写しの交付を受ける者の負担とする。
4 前項の規定は、法第十八条第一項及び第二項の規定により閲覧した資料について準用する。この場合において、前項中「当事者等」とあるのは「法第十八条第一項の当事者等」と、「前二項」とあるのは「同項及び同条第二項」と読み替えるものとする。
5 行政庁は、第一項及び第二項の閲覧並びに第三項(前項の規定により準用される場合を含む。)の写しの交付について日時及び場所を指定することができる。

(聴聞の主宰)
第十九条 聴聞は、行政庁が指名する職員その他区規則で定める者が主宰する。
2 次の各号のいずれかに該当する者は、聴聞を主宰することができない。
一 当該聴聞の当事者又は参加人
二 前号に規定する者の配偶者、四親等内の親族又は同居の親族
三 第一号に規定する者の代理人又は次条第三項に規定する補佐人
四 前三号に規定する者であったことのある者
五 第一号に規定する者の後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人又は補助監督人
六 参加人以外の関係人
(一部改正〔平成一二年条例一二号〕)

(聴聞の期日における審理の方式)
第二十条 主宰者は、最初の聴聞の期日の冒頭において、行政庁の職員に、予定される不利益処分の内容及び根拠となる条例等の条項並びにその原因となる事実を聴聞の期日に出頭した者に対し説明させなければならない。
2 当事者又は参加人は、聴聞の期日に出頭して、意見を述べ、及び証拠書類等を提出し、並びに主宰者の許可を得て行政庁の職員に対し質問を発することができる。
3 前項の場合において、当事者又は参加人は、主宰者の許可を得て、補佐人とともに出頭することができる。
4 主宰者は、聴聞の期日において必要があると認めるときは、当事者若しくは参加人に対し質問を発し、意見の陳述若しくは証拠書類等の提出を促し、又は行政庁の職員に対し説明を求めることができる。
5 主宰者は、当事者又は参加人の一部が出頭しないときであっても、聴聞の期日における審理を行うことができる。
6 聴聞の期日における審理は、行政庁が公開することを相当と認めるときを除き、公開しない。

(陳述書等の提出)
第二十一条 当事者又は参加人は、聴聞の期日への出頭に代えて、主宰者に対し、聴聞の期日までに陳述書及び証拠書類等を提出することができる。
2 主宰者は、聴聞の期日に出頭した者に対し、その求めに応じて、前項の陳述書及び証拠書類等を示すことができる。

(続行期日の指定)
第二十二条 主宰者は、聴聞の期日における審理の結果、なお聴聞を続行する必要があると認めるときは、更に新たな期日を定めることができる。
2 前項の場合においては、当事者及び参加人に対し、あらかじめ、次回の聴聞の期日及び場所を書面により通知しなければならない。ただし、聴聞の期日に出頭した当事者及び参加人に対しては、当該聴聞の期日においてこれを告知すれば足りる。
3 第十五条第三項の規定は、前項本文の場合において、当事者又は参加人の所在が判明しないときにおける通知の方法について準用する。この場合において、同条第三項中「不利益処分の名あて人となるべき者」とあるのは「当事者又は参加人」と、「掲示を始めた日から二週間を経過したとき」とあるのは「掲示を始めた日から二週間を経過したとき(同一の当事者又は参加人に対する二回目以降の通知にあっては、掲示を始めた日の翌日)」と読み替えるものとする。

(当事者の不出頭等の場合における聴聞の終結)
第二十三条 主宰者は、当事者の全部若しくは一部が正当な理由なく聴聞の期日に出頭せず、かつ、第二十一条第一項に規定する陳述書若しくは証拠書類等を提出しない場合、又は参加人の全部若しくは一部が聴聞の期日に出頭しない場合には、これらの者に対し改めて意見を述べ、及び証拠書類等を提出する機会を与えることなく、聴聞を終結することができる。
2 主宰者は、前項に規定する場合のほか、当事者の全部又は一部が聴聞の期日に出頭せず、かつ、第二十一条第一項に規定する陳述書又は証拠書類等を提出しない場合において、これらの者の聴聞の期日への出頭が相当期間引き続き見込めないときは、これらの者に対し、期限を定めて陳述書及び証拠書類等の提出を求め、当該期限が到来したときに聴聞を終結することとすることができる。

(聴聞調書及び報告書)
第二十四条 主宰者は、聴聞の審理の経過を記載した調書を作成し、当該調書において、不利益処分の原因となる事実に対する当事者及び参加人の陳述の要旨を明らかにしておかなければならない。
2 前項の調書は、聴聞の期日における審理が行われた場合には各期日ごとに、当該審理が行われなかった場合には聴聞の終結後速やかに作成しなければならない。
3 主宰者は、聴聞の終結後速やかに、不利益処分の原因となる事実に対する当事者等の主張に理由があるかどうかについての意見を記載した報告書を作成し、第一項の調書とともに行政庁に提出しなければならない。
4 当事者又は参加人は、第一項の調書及び前項の報告書の閲覧を求めることができる。
5 当事者又は参加人は、前項の規定により閲覧した調書及び報告書の写しの交付を求めることができる。この場合において、写しの作成に要する費用は、当該写しの交付を受ける者の負担とする。
6 前項の規定は、法第二十四条第四項の規定により閲覧した調書及び報告書について準用する。この場合において、前項中「当事者又は参加人」とあるのは「法第二十四条第四項の当事者又は参加人」と、「前項」とあるのは「同項」と読み替えるものとする。

(聴聞の再開)
第二十五条 行政庁は、聴聞の終結後に生じた事情にかんがみ必要があると認めるときは、主宰者に対し、前条第三項の規定により提出された報告書を返戻して聴聞の再開を命ずることができる。第二十二条第二項本文及び第三項の規定は、この場合について準用する。

(聴聞を経てされる不利益処分の決定)
第二十六条 行政庁は、不利益処分の決定をするときは、第二十四条第一項の調書の内容及び同条第三項の報告書に記載された主宰者の意見を十分に参酌してこれをしなければならない。

第三節 弁明の機会の付与
(弁明の機会の付与の方式)
第二十七条 弁明は、行政庁が口頭ですることを認めたときを除き、弁明を記載した書面(以下「弁明書」という。)を提出してするものとする。
2 弁明をするときは、証拠書類等を提出することができる。

(弁明の機会の付与の通知の方式)
第二十八条 行政庁は、弁明書の提出期限(口頭による弁明の機会の付与を行う場合には、その日時)までに相当な期間をおいて、不利益処分の名あて人となるべき者に対し、次に掲げる事項を書面により通知しなければならない。
一 予定される不利益処分の内容及び根拠となる条例等の条項
二 不利益処分の原因となる事実
三 弁明書の提出先及び提出期限(口頭による弁明の機会の付与を行う場合には、その旨並びに出頭すべき日時及び場所)

(聴聞に関する手続の準用)
第二十九条 第十五条第三項及び第十六条の規定は、弁明の機会の付与について準用する。この場合において、第十五条第三項中「第一項」とあるのは「第二十八条」と、「同項第三号及び第四号」とあるのは「同条第三号」と、第十六条第一項中「前条第一項」とあるのは「第二十八条」と、「同条第三項後段」とあるのは「第二十九条において準用する第十五条第三項後段」と読み替えるものとする。

第四章 行政指導
(行政指導の一般原則)
第三十条 行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、いやしくも当該区の機関の任務又は所掌事務の範囲を逸脱してはならないこと及び行政指導の内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることに留意しなければならない。
2 行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない。

(申請に関連する行政指導)
第三十一条 申請の取下げ又は内容の変更を求める行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、申請者が当該行政指導に従う意思がない旨を表明したにもかかわらず当該行政指導を継続すること等により当該申請者の権利の行使を妨げるようなことをしてはならない。ただし、申請者が当該行政指導に従わないことにより公共の利益が害されると認められるときは、当該行政指導を継続することができる。

(許認可等の権限に関連する行政指導)
第三十二条 許認可等をする権限又は許認可等に基づく処分をする権限を有する区の機関が、当該権限を行使することができない場合又は行使する意思がない場合においてする行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、当該権限を行使し得る旨を殊更に示すことにより相手方に当該行政指導に従うことを余儀なくさせるようなことをしてはならない。

(行政指導の方式)
第三十三条 行政指導に携わる者は、その相手方に対して、当該行政指導の趣旨及び内容並びに責任者を明確に示さなければならない。
2 行政指導が口頭でされた場合において、その相手方から前項に規定する事項を記載した書面の交付を求められたときは、当該行政指導に携わる者は、行政上特別の支障がない限り、これを交付しなければならない。
3 前項の規定は、次に掲げる行政指導については、適用しない。
一 相手方に対しその場において完了する行為を求めるもの
二 既に文書(前項の書面を含む。)によりその相手方に通知されている事項と同一の内容を求めるもの

(複数の者を対象とする行政指導)
第三十四条 同一の行政目的を実現するため一定の条件に該当する複数の者に対し行政指導をしようとするときは、区の機関は、あらかじめ、事案に応じ、これらの行政指導に共通してその内容となるべき事項を定め、かつ、行政上特別の支障がない限り、これを公表しなければならない。

第五章 届出
(届出)
第三十五条 届出が届出書の記載事項に不備がないこと、届出書に必要な書類が添付されていることその他の条例等に定められた届出の形式上の要件に適合している場合は、当該届出が条例等により当該届出の提出先とされている機関の事務所に到達したときに、当該届出をすべき手続上の義務が履行されたものとする。

附 則
1 この条例は、平成八年十月一日から施行する。
2 この条例の施行前に第十五条第一項又は第二十八条の規定による通知に相当する行為がされた場合においては、当該通知に相当する行為に係る不利益処分の手続に関しては、第三章の規定にかかわらず、なお、従前の例による。
附 則(平成一二年三月三一日条例第四号)抄
(施行期日)
第一条 この条例は、平成十二年四月一日から施行する。
(東京都中央区行政手続条例の一部改正に伴う経過措置)
第二条 この条例の施行の際現に東京都行政手続条例(平成六年東京都条例第百四十二号)の規定に基づき定められている審査基準、標準処理期間及び処分基準は、第一条の規定による改正後の東京都中央区行政手続条例の規定に基づき定められたものとみなす。
附 則(平成一二年三月三一日条例第一二号)
この条例は、平成十二年四月一日から施行する。
附 則(平成二〇年一〇月二〇日条例第二二号)抄
(施行期日)
1 この条例は、平成二十年十一月一日から施行する。


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