本日、注目した記事のひとつ。
参院選を、ぜひとも、「この道」引き返す好機に!
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http://mainichi.jp/articles/20160708/org/00m/040/005000c
<記者の目>2016参院選 その1票、どこへ?=倉重篤郎(論説室)
2016年7月8日
毎日ジャーナリズム
「この道」引き返す好機に
安倍晋三首相は「この道しかない」と言う。「まだ道半ば」だとも言う。そのたびにうさん臭さを感じる。「この道」以外にも適切な道があると思うし、目標に到達できないことを「道半ば」と言い訳している。何よりも戦後歩んできた道とはあまりに異なる。あなた任せでリスクも高すぎる。この道を引き返そう。参院選はその好機にしたい。
外交・安保政策がいい例だ。日本は戦後2度、外交・安保環境の激変に遭遇したが、その度に穏当な道を選んできた。戦後世界を二分した米ソ冷戦では米側陣営に入り、日米安保条約による軍事抑止力と憲法9条による平和規範力によって国力を経済発展に集中、一人の戦死者も出さない経済大国をつくり上げた。
1989年の冷戦崩壊という激変にも、この基本路線を維持した。ただ、冷戦の枠組みが崩れて起こる地域紛争対応として国連平和維持活動(PKO)への参加は決め、国連の指揮権と非軍事活動という厳しいしばりをかけて自衛隊を海外派遣するようになった。
眉唾の経済政策、リスクも語らず
現在、3度目の力の変化が起きている。中国の台頭と米国の後退である。
安倍政権が選んだのは、日米安保体制による軍事抑止力強化の道である。すなわち、特定秘密保護法で軍事情報での日米一体化を図り、武器輸出解禁でアジア・太平洋諸国に米国主導の中国包囲網をつくり上げようとしている。
さらには、安保法制改編により自衛隊の対米支援機能を強化、集団的自衛権行使を一部容認し、後方支援(補給)活動についても弾薬の提供までOK、対象地域も北東アジアから全世界へと拡大した。
この道は、過去2回の道を踏み外している。解釈改憲で9条の規範力を弱めただけではない。日中国交回復、平和友好条約締結といった独自の外交的努力により両国関係を改善してきた先人の足跡を継承する姿勢がない。ひたすらの米国の軍事力頼みである。しかも、その対価ともいえる補給活動の拡大が実は高いリスクを伴う。国連ならぬ米国の事実上の指揮権下、世界のどこにでも自衛隊を派遣できるようになったからだ。
経済・財政政策における「この道」、つまりアベノミクスも眉唾物になってきた。
第一に政策破綻である。異次元金融緩和政策がスタートしたのは2013年4月。「2年間で物価上昇率を2%にする」という予定だったが、一向にその気配はなく、今では17年度中(18年3月まで)に目標年次は先送りされた。つまり、2年間が5年間に変更され、なおかつ達成見込みが疑われているのである。「道半ば」という状況ではない。「政策の失敗」を認めるべき時だ。
第二に公約違反である。あれだけ確約していた消費税増税を再延期した。社会保障や税制といった中長期的観点から構えられた政策が、景気に水を差すという短期的視野からいとも簡単に放棄された。それだけではない。民主党政権時に自公民3党が侃々諤々(かんかんがくがく)の議論の末到達した「税と社会保障の一体改革」合意もまた葬られてしまった。消費税をめぐる政争の激しさを見てきた政治記者としては、良質な政治資産が愚策の犠牲になった気がしてならない。
第三に政策の果実の誇大広告とリスク隠しである。
安倍首相が強調するのは、21兆円の税収増であり雇用の改善である。21兆円という数字はかさ上げが過ぎる。リーマン・ショックと東日本大震災によって谷底に落ち込んだ12年度比の増収で、第1次安倍政権の07年度比ではほぼ同じ税収である。とても胸を張るべき数字ではない。雇用改善は歓迎するが、これだけの人手不足の時代、当然のなりゆきでもある。問題はリスクを全く語らないことだ。異次元緩和により日銀が330兆円もの国債を抱え込み、政策の自由度を失っている。その出口をどうするか、どんな問題が生じるか。そろそろ国民に率直に語るべきである。
安倍政権への賛否表明に意義
ことほどさように、「この道」にはいずれもアラが見えてきた。しかも、それは戦後日本政治の基本(外交・安保では専守防衛、経済・財政では財政健全化)路線を大きく逸脱し、自主独立、自己責任とは全く裏腹に、恥じることもなく徹底的に他者(外交・安保では米国、経済・財政では次世代)に依存する道である。リスクについては先に述べた。
参院選は政権交代選挙ではない。だから、安倍政権の「この道」への賛否表明だけで、十分投票の意義はある。この道にブレーキをかけ、それに代わる道の議論が、与野党内で活性化することを期待する。それを政策として構築し、問うのは次の衆院選となる。
参院選を、ぜひとも、「この道」引き返す好機に!
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http://mainichi.jp/articles/20160708/org/00m/040/005000c
<記者の目>2016参院選 その1票、どこへ?=倉重篤郎(論説室)
2016年7月8日
毎日ジャーナリズム
「この道」引き返す好機に
安倍晋三首相は「この道しかない」と言う。「まだ道半ば」だとも言う。そのたびにうさん臭さを感じる。「この道」以外にも適切な道があると思うし、目標に到達できないことを「道半ば」と言い訳している。何よりも戦後歩んできた道とはあまりに異なる。あなた任せでリスクも高すぎる。この道を引き返そう。参院選はその好機にしたい。
外交・安保政策がいい例だ。日本は戦後2度、外交・安保環境の激変に遭遇したが、その度に穏当な道を選んできた。戦後世界を二分した米ソ冷戦では米側陣営に入り、日米安保条約による軍事抑止力と憲法9条による平和規範力によって国力を経済発展に集中、一人の戦死者も出さない経済大国をつくり上げた。
1989年の冷戦崩壊という激変にも、この基本路線を維持した。ただ、冷戦の枠組みが崩れて起こる地域紛争対応として国連平和維持活動(PKO)への参加は決め、国連の指揮権と非軍事活動という厳しいしばりをかけて自衛隊を海外派遣するようになった。
眉唾の経済政策、リスクも語らず
現在、3度目の力の変化が起きている。中国の台頭と米国の後退である。
安倍政権が選んだのは、日米安保体制による軍事抑止力強化の道である。すなわち、特定秘密保護法で軍事情報での日米一体化を図り、武器輸出解禁でアジア・太平洋諸国に米国主導の中国包囲網をつくり上げようとしている。
さらには、安保法制改編により自衛隊の対米支援機能を強化、集団的自衛権行使を一部容認し、後方支援(補給)活動についても弾薬の提供までOK、対象地域も北東アジアから全世界へと拡大した。
この道は、過去2回の道を踏み外している。解釈改憲で9条の規範力を弱めただけではない。日中国交回復、平和友好条約締結といった独自の外交的努力により両国関係を改善してきた先人の足跡を継承する姿勢がない。ひたすらの米国の軍事力頼みである。しかも、その対価ともいえる補給活動の拡大が実は高いリスクを伴う。国連ならぬ米国の事実上の指揮権下、世界のどこにでも自衛隊を派遣できるようになったからだ。
経済・財政政策における「この道」、つまりアベノミクスも眉唾物になってきた。
第一に政策破綻である。異次元金融緩和政策がスタートしたのは2013年4月。「2年間で物価上昇率を2%にする」という予定だったが、一向にその気配はなく、今では17年度中(18年3月まで)に目標年次は先送りされた。つまり、2年間が5年間に変更され、なおかつ達成見込みが疑われているのである。「道半ば」という状況ではない。「政策の失敗」を認めるべき時だ。
第二に公約違反である。あれだけ確約していた消費税増税を再延期した。社会保障や税制といった中長期的観点から構えられた政策が、景気に水を差すという短期的視野からいとも簡単に放棄された。それだけではない。民主党政権時に自公民3党が侃々諤々(かんかんがくがく)の議論の末到達した「税と社会保障の一体改革」合意もまた葬られてしまった。消費税をめぐる政争の激しさを見てきた政治記者としては、良質な政治資産が愚策の犠牲になった気がしてならない。
第三に政策の果実の誇大広告とリスク隠しである。
安倍首相が強調するのは、21兆円の税収増であり雇用の改善である。21兆円という数字はかさ上げが過ぎる。リーマン・ショックと東日本大震災によって谷底に落ち込んだ12年度比の増収で、第1次安倍政権の07年度比ではほぼ同じ税収である。とても胸を張るべき数字ではない。雇用改善は歓迎するが、これだけの人手不足の時代、当然のなりゆきでもある。問題はリスクを全く語らないことだ。異次元緩和により日銀が330兆円もの国債を抱え込み、政策の自由度を失っている。その出口をどうするか、どんな問題が生じるか。そろそろ国民に率直に語るべきである。
安倍政権への賛否表明に意義
ことほどさように、「この道」にはいずれもアラが見えてきた。しかも、それは戦後日本政治の基本(外交・安保では専守防衛、経済・財政では財政健全化)路線を大きく逸脱し、自主独立、自己責任とは全く裏腹に、恥じることもなく徹底的に他者(外交・安保では米国、経済・財政では次世代)に依存する道である。リスクについては先に述べた。
参院選は政権交代選挙ではない。だから、安倍政権の「この道」への賛否表明だけで、十分投票の意義はある。この道にブレーキをかけ、それに代わる道の議論が、与野党内で活性化することを期待する。それを政策として構築し、問うのは次の衆院選となる。