
英文学者で上智大学名誉教授とありながら、日本史や近現代史を始め、社会の在り方に対して発言を続ける渡部昇一さんの著書、「知的生活の方法」を読みました。
帯に、「博覧強記の学者が語る発想力を高めるヒントとアイデア」とあるように、物知り学者先生というのはどのような勉強をすればできあがるのか、をご自身の生き方を振り返りながら教えてくれる良書です。
よく見ると、初版発行は1973年4月で、これまで80刷117万部が売れたとのことで、頷ける内容です。
著者は、「知的生活の価値はイデオロギーと関係なく、人間としての価値である」としたうえで、「この本を書いた意図したことは、本を読んだり物を書いたりする時間が生活の中に大きな比重を占める人たちに、いくらかでも参考になることを述べること」としています。
その代表例として、「自分に忠実でなくてはならない」として、「よくわからないのにわかったふりをする子供は進歩が止まる」と言います。
自分をごまかさない精神を著者は、「知的正直」と呼び、「ぞくぞくするほどわからなければ、わからないのだ」という原則に忠実だった、と言うのです。
『分かる』ということの心理に迫る感覚とはそういうことなのでしょう。
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著者は、「本当に良い本は繰り返して読まなくてはならない。文体の質とか、文章に現れたものの背後にある理念のようなものを感じ取れるようになるには、どうしても再読・三読・四読・五読・六読しなければならない」と言います。
私自身の読み方で言うと、本には申し訳ないのですが、本の紙面にはカラーのペンでガシガシと書き込みをします。
そのうえで、そのページの感動の度合いを右下の角を折り込む量で記録します。
こうすれば、とても感動したページは大きく折り込まれ、少ない感動は小さく折り込まれていて、その後に再読するときにポイントが絞りやすくなります。
おまけに、大事なところには赤や青で線を引いたり、感動したフレーズは余白に再度書き記すことですぐに目が行くようになります。
こうしたことで、書架の本から気に入ったフレーズを後から探すときにも、「確か大きく折り込んだはずだ」ということさえ思い出せれば、割と素早くたどりつけるようになりました。
著者はまさにこのことにも触れていて、「精読するような本は(図書館などで借りるのではなく)買ってしまって、感心したところには赤線を引け」、と書いています。まさにわが意を得たり、というところです。

【私も書き込みと折込をしながら読んでいます】
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著者は、日本史などにも大変造詣が深くて、著書が何冊もあるのですが、そのコツとしては、様々な本を読んでいて、おもしろいなと興味深く思ったことをほんの名前やページとともにカードに書いて、それを整理することでテーマをまとめることができるとしています。
なにしろ1970年代の知的生活なので、それが効率的だったのでしょうけれど、今日であればそれらはパソコンやスキャナーなどで取り込んで、デジタル的に検索も素早くできるようになりました。
しかし、そのような文明の利器を上手に活用すれば、誰もが渡部さんのように博覧強記になれるか、と言えばそうではありません。
膨大な読書に裏打ちされた、自分自身の中の価値観や発想が多くの知識に繋がるような能力が出来上がっているからこそであり、一朝一夕では出来上がるものではありません。
もっと早く、読書を始めていればよかった、と悔いるとともに、今の日常の生活の中で、ネットに時間を取られすぎている実態にも反省をさせられます。
読書への憧れをかき立てられる一冊でした。