
小惑星探査機「はやぶさ」のプロジェクトマネージャーであるJAXA(宇宙航空研究開発機構)の川口淳一郎教授をお迎えしての講演会が生涯学習センターまなぼっとの大ホールで開催されました。
お題は「小惑星探査機『はやぶさ』の奇跡」で、800人収容の大ホールはほぼ満席で、はやぶさと川口先生の人気の程が伺えます。
実はJAXAと釧路は縁が深いのです。というのも、釧路市こども遊学館が2005年の開館以来JAXAと連携して取り組んでいる宇宙教育活動に対して当のJAXAから感謝状を受け取ったばかり。
これは特に、北海道教育大学や釧路高専の教官たちと小中学校の理科教員が協力し合って、「道東科学教育支援ネットワーク(DoToねっと)」という組織を立ち上げて、JAXAの協力を得ながらこども遊学館を拠点として宇宙教育活動に熱心に取り組んでいることが評価されたものです。
今回の講演会も、全国から講演要請を受けている川口先生に釧路を選んでいただけたのは、こうした地道な活動を評価されたものと、改めて釧路遊学館を中心とした地域教育活動に敬意を表したいと思います。
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さて、川口先生の講演は、冒頭にはやぶさが地球に帰還するというプロジェクトの成功を受けて、映画製作の企画が八本も来たというエピソードから始まりました。
(そのうち減るだろう)と高をくくっていたのですが結局は3本も企画が残って、三本の映画が相次いで公開されました。
もちろん、どの映画もはやぶさプロジェクトを取り巻く物語をそれぞれ独自の切り口で表現しています。
事前の昼食会で川口先生に、「どの映画が一番お好みですか」と訊ねたところ、「それは私の口からは言わないことにしています(笑)」というお答え。
なるほど、それを言っちゃあおしまい、かもしれませんね。
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小惑星へ行ってその構成物質を持ち帰るというプロジェクトの意味は、地球という星の構成を知る手掛かりになるということに外なりません。
地球の内部は重力で熱くなりマントルという物質が液状になって対流をしています。液状の状態では総体的に重い物質が重力の中心に沈んで行き相対的に軽い物質が上に浮いてくるという状態を呼ぶことから、地球の表面では我々はごく軽い物質を見ていると言えます。
では中心に何があるのか、ということになるとこれは直接見ることができないことから、地球外で組成が太陽系誕生のころと変わらないようなところから物質を持ち帰ってその組成を調べるのが有効で、はやぶさに期待された使命はまさにそこにあったのです。
実は「はやぶさ」と名付けられた小惑星探査機ですが、もともとは「MUSES-C」という味気ないミッション名。
それに愛称をつける段になって、「はやぶさ」ともう一つ対抗となる有力な候補があってそれは「ATOM」というものでした。
言わずと知れた「鉄腕アトム」のアトムを思い起こさせますが、もう一つのこじつけは、「Asteroid Take-Out Misson」の頭文字で、この意味は「小惑星お持ち帰り計画」と呼べるような意味。
しかし川口先生としては、惑星に着陸するや否や試料を確保してすぐに飛び立つその様子が、猛禽類のハヤブサがタッチ&ゴーで狩りをする様子に似ている点や、少し力強い名前にしたかったという思いなどからこちらの名前にしたかったのだそうです。
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この小惑星探査プロジェクトの意義は、地球上のどの国も挑戦したことのないチャレンジングなものに挑戦し、それを数多くのノウハウを詰め込んで果たした初めての例になったということだ、と川口先生は語ります。
故障があっても直してあげることのできない遥か遠くにいる装置には、ターゲットとなる小惑星イトカワに照準を合わせて自力でタッチ&ゴーをする能力、そして何よりも、そこから地球めがけて帰還するということが求められました。
途中で3つある姿勢制御装置のうち2つまでが故障したり、エンジンからの燃料漏れで姿勢が大きく崩れ、太陽電池による蓄電が難しくなりしばらく行方不明になったりと、そのたびに「もうだめか」という場面が繰り返されましたが、技術者の意地が工夫を呼び、それらを一つ一つクリアすることでミッションの成功に導きました。
最終結果として帰還カプセルには小惑星イトカワの岩石の粉粒を取り込むこともできましたが、これは望外の余禄だとおっしゃいます。なによりも往復6億kmを旅して再び地球へ戻ってくることができたということが世界初という快挙になったのです。
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このプロジェクトから得られた教訓を川口先生は、「真似ではないこれまでにない独創的な創造性を発揮できたこと」と言い、そのためには単にちょっと調べればわかるような知識だけを詰め込むような教育は考え直して、創造性あふれる人間を育てるようなものに切り替えてほしい、と熱く語られました。
「教科書には過去のことしか書かれていない」
「我々に必要なことはこれからの未来を切り開く挑戦だ」
「二番じゃなぜいけないのですか」という発言は、一番であろうとするチャレンジング精神、パイオニア精神を踏みにじる恥ずかしい言葉です。
「我々は常に国境を超えた現代社会に貢献するためにチャレンジングでなくてはならない」、という川口先生の熱い思いがひしひしと伝わり、かつところどころのユーモアで会場を沸かせる素晴らしい講演でした。
奇しくも新年度の予算案では、「はやぶさ2」の予算も要求されていますが、財務省ではこれを要求の半分に査定して今国会に臨んでいます。
世界で初の称号を維持できる分野でそれを果たそうとする国家意思のないことを、国民を上げて恥ずかしいことだと思う気概が欲しいものです。
夜空に散ったはやぶさへの涙を踏み台にして、日本人として未来に挑戦的な生き方を貫きたいものですね。