カニの身を殻からほぐし取りながら食べていると、誰しも言葉少なになる。
ほぐし取る作業に集中してしまうからだ。カニ料理の席では会話が途絶えがちになり、時に沈黙が支配する。
宴席での沈黙は概して気詰まりなものだ。とくにあまり親しくない者同士だと、このあてのない無言の時間に身の置き所がない思いをすることがある。
しかし一方、会話というものは、続けばよいというものでもなさそうだ。
気の弱い人(わたしがそう)、または心優しい人は、この沈黙の空白をうめるべく、えてして思いついたことをすぐ口にしてしまうが、それでは何か会話全体が薄っぺらなものになってしまうような気もする。
会話とは、ほんとうは沈黙も含めて「会話」なのであろう。人の話をよく聞き、その場の話の流れを汲みながら自分の考えを提示するには、適度な間(ま)が必要なのではないだろうか。
沈黙は空白などではなく、考えを深めてくれる貴重な間なのかもしれない。
世の中にはときどき一方的にしゃべるOne side speakerがいるが、こういう人に会話を奪われるより、カニに奪われたほうがいい。カニは考える間まで奪わない。
2003.7.21
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