文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
90以上の資格試験に合格。
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書評:捨て猫という名前の猫

2014-03-28 19:48:08 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)
捨て猫という名前の猫 (創元推理文庫)
クリエーター情報なし
東京創元社


 樋口有介の「捨て猫という名前の猫」(創元推理文庫)。あの斜に構えたような独特の語り口が魅力の、柚木草平シリーズの一冊である。

 自殺かと思われた美少女・秋川瑠璃の死。柚木が記事を書いている「月刊EYES」の編集部に、「秋川瑠璃は自殺じゃない。そのことを柚木草平に・・・・」という電話が入る。電話したのは、野良猫のような生き方をしていた青井麦という少女 。銀色の唇、目の下には隈のような化粧。耳たぶにはキーリングに似た金色のピアス、爪には失敗した七宝焼きのようなネイルアートとなかなか個性的ないでたちだ。

 ところが、その麦が、化粧を落とした、学校の制服姿で殺害される。指には柚木の残したメモを指輪のようにまきつけて。そのメモは、ずぶぬれで訪ねて来た彼女が、柚木のアパートに泊めてもらった時のもの(もちろん不埒なことはなしで)。親もなく、宿もないという暮らしを続けていた麦は、柚木に父親を感じたのか、それとも異性として意識したのだろうか。束の間の柚木とのふれあいは、麦にとって幸せな時間だったのだろう。

 捨て猫のような生き方をせざるを得なかったにも関わらず、一見恵まれた瑠璃を妬むこともなく、ただ一人の大切な友達の敵を打とうとして命を落とした麦。そんな彼女のひたむきさと哀しさが胸を打つ。それに比べて、あまりにも汚れた大人たちの世界。同じような年頃の娘のいる柚木の心には、苦さだけの残る事件だったのではないか。

 ところで、柚木の娘で小6年生の加奈子。柚木が妻と別居中のため、普段は別れて暮らしている。本書の冒頭は、小6の娘、一緒に温泉に入っているシーンから始まる。加奈子曰く、「いっしょに入るのは恥ずかしいけどサービス」ということおらしい。なんていい娘や!しかし、さすがに柚木の娘、二人の会話では、パパは完全に押され気味だ。事件の方は、後味の悪くなるようなものだったが、加奈子の出てくるシーンはなんとも楽しい。

☆☆☆☆

※本記事は、姉妹ブログと同時掲載です。

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