河野裕の
「いなくなれ群青」(新潮文庫)。「階段島シリーズ」の第1作目に当たる。
舞台は、階段島と呼ばれる不思議な場所。人口は約2000人。「不思議な」というのは、島の住人は、元からそこに住んでいるわけでも、自分の意思で移住してきたわけでもなく、気がついたら島にいたということ。全員が、島に来たときの記憶を失っているため、なぜその島にいるのかは誰も分からない。
その島では、ネットで買い物ができる。郵便局でATMも使える。島に物資を運ぶ船も来ている。それなのに、住民は島から出ることができない。失ったものを見つけるまでは。彼らは、捨てられた者だという。いったいなぜ、そして誰に捨てられたのか。
島では、山のふもとから山頂に向かって階段が続いている。中腹には中高生の通う学校があり、山頂には魔女が住む館があるとの噂だ。この島は、魔女により管理されているという。
主人公は、島の高校に通う七草という少年。それなりに平穏に暮らしていたのだが、幼馴染みの真辺由宇と、島で2年ぶりに再開したことから、彼の日常は変わってしまった。いったいなぜ彼女は、この島に来ることになっってしまったのか。なんとか島から出ようと画策する彼女。真辺は、徹底的な理想主義者で、正論で固めた道をつっぱしる。それは、悲観論者の七草に、いつも厄介事をもたらしていた。
<僕が抱える問題や悩みは、だいたいが真辺に関係していた。君がいなければきっと、僕の日常はもっと静かで、穏やかで、とりとめのないものだった。>(p194)
しかし、それにも関らず、中学2年で彼女が転向するまで、七草は彼女とずっといっしょにいたのだ。
<どれだけ悩みが増えても、厄介事に巻き込まれても、そばにいたいと思っていた>(p195)
人は、生きていくためには変わっていくことも必要だ。その過程で、何かを切り捨てていかなければならないこともある。理想主義者と悲観主義者という正反対の二人がいっしょにいたいと願えば、やはり変わらざるを得ないのだ。しかし、七草は、真辺のまっすぐさを守りたかった。だがそれは、彼女との別れにも繋がる。果たして二人の関係はどうなっていくのか。階段島という不思議な場所を舞台に展開するこの青春ファンタジックミステリーは、甘酸っぱく、そしてほろ苦い。
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