文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
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書評:死を歌う孤島

2015-05-06 22:00:00 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)
死を歌う孤島 (創元推理文庫)
クリエーター情報なし
東京創元社


 女性警官マリア・ヴェーンが活躍するスウェーデンミステリー「死を歌う孤島」(アンナ・ヤンソン/久山葉子訳:東京創元社)。本国では、既に15作まで刊行されているというシリーズ小説だが、翻訳の方は、これが第2作目となる。

 舞台は、スウェーデン最大の島ゴットランド等。訪れたことはないのだが、風光明美な地のようである。マリアは、この島の犯罪捜査官だ。そして、もうひとつの舞台は、この島の沖合に浮かぶ無人島、ゴットスカ・サンド島である。

 事件は、エリック・ハンソンという男が、車のなかで、自殺しているのが発見されたことから始まる。雪に覆われた道路脇に、誰も気がつかずに、4日間も放置されていたのだ。しかし、まさかこの出来事があのような恐ろしい事件に繋がるとは思わなかった。

 マリアは、アダム・コサックという犯罪組織の幹部の裁判で、何かを証言することになっていたようだ。(このあたりの事情は、本書では少しわかりにくい。前の巻からの続きなのだろうか。)ところが、アダムの仲間から、起訴をとり下げるように脅迫される。娘に何かあっても知らないぞというわけだ。スウェーデンのギャングは、警察にも平気で脅しをかけるのだろうか。終わりの方では、アダムの仲間が、彼を取り戻そうと、警官と銃撃戦を繰り広げる場面もあったので、かなり凶悪なことが伺える。さすがに、日本では、こんなことはないだろう(と思う)。

 さて、マリアだが、アダム一味から身を隠すために、親友のカーリンについて、ゴットスカ・サンド島で開催されるセラピーキャンプにいっしょに参加することになる。この島は、9月から5月までは完全な無人島となり、次の舟が来るのは1週間後。集まった7人の女たちは、いずれもかなりの訳ありだった。

 この作品を一言で語れば、いわゆる「絶海の孤島」ものだ。島に閉じ込められた女たちが、一人また一人と、何者かに殺害されていく。いったい誰がなんのために。かって、ゴットスカ・サンド島を根城にしていたという、難破船荒らしのゴットベリの亡霊の仕業か。アダムの仲間がどこかに潜んでいるのか。それとも女たちの誰かがやったのか。次に狙われるのは誰か。恐怖が島を支配し、女たちが、互いに疑心暗鬼に陥る様子は、まさに、手に汗握るサスペンスだ。

 やがて、エリックの事件と、島での殺人事件がひとつに纏まってくる。女たちは、皆、エリックと何らかの関わりがあったのだ。それにしても、いったい誰がなぜ、このような恐ろしいことを行っているのか。この作品は、全般的に、サイコホラーのような味付けになっているが、マリアの、同僚のペールに対する愛や、彼女の子供たちへの思いといったものも絡められて、多層的でなかなか面白い物語に仕上がっている。

(余談)
1.マリア、警官なのに、悪人には脅迫されて、携帯は取り上げられるし、ゴットスカ・サンド島でも、犯人に痛い目にあわされてばかりで、少し弱すぎるのではないか。スウェーデンの女性捜査官って、そんなにやわなのか。警官なのだから、格闘技の訓練も受けていると思うのだが。

2.「小屋の周りを一周してみると、変電器があった」(p201)という表現があったが、「変電器」ってなんだ?電気工学では、そんな言葉は使わない。変圧器か変電所というのなら分かるが。

3、キャンプの参加者の一人、イルマが、「昇進したらランチにも誘ってもらえなくなった」と言っているが、やはり、スウェーデンでも、女子は集団で飯を食う風習があるのか?飯をいっしょに食う相手がいないと、疎外感を感じるのだろうか?

☆☆☆☆

※本記事は、姉妹ブログと同時掲載です。

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