・化野燐
高ビーな態度と「愚か者」という口癖がトレードマークという、考古探偵一法師全が活躍するシリーズの第3弾。この作品は、前作「鬼神曲」の裏表となる作品だ。あちらの副題は「一法師全の不在」だった。それでは彼はどこに行っていたかというと、本作の舞台である北九州の遺跡の発掘現場に居たという訳である。
舞台はF市にある面差山山麓遺跡。そこから石製の鋳型らしい遺物が発見されたというので、一法師たちは見学のためにその遺跡を訪れる。ところが古代の致死性の高いウィルス騒ぎに巻き込まれて隔離用テントに入れられてしまう。それだけではない。遺跡の発掘をしていた北九州国際大学の関係者が、テントで次々に殺されていくのだ。彼らが殺されたテントには誰も出入りしていない。
ということで、これはてっきり密室殺人トリックを扱ったミステリーと思っっていたら大間違い。前作のレビューでも書いたが、いったいどこへ向かうか分からないというのがこの作品の特徴だ。後半は完全にミステリーの枠を飛び越えて、話はバイオテロを企む謎の連中との闘いとなっていく。殺人事件の方も意外な結末に繋がっていくのだ。一法師は考古探偵という触れ込みなのだが、舞台や登場人物が考古学に絡んでいるだけで、事件の解明に考古学の知識が使われるようなことがほとんどないというのはちょっと残念。
ただ邪視紋のついた福田型銅鐸というものが存在し、最初に出土したのが広島市ということや、弥生時代に分銅型土製品というものが瀬戸内海沿岸で作られていたことなど、ある程度の考古学に関する知識は得ることができるだろう。
ストーリーは最後に、前作の「鬼神曲 考古探偵一法師全の不在」と重なり、この次の作品となる「火神録 考古探偵一法師全の記憶」への繋がりを暗示して終わっている。次の作品では時代が一番最初のエピソードまで戻っているので、最初にそちらを読めば作品の色々な背景なども分かるだろうし、前作と併せて読めば、この作品を一層楽しむことができるだろう。
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※本記事は、書評専門の拙ブログ
「風竜胆の書評」に掲載したものです。