定年バカ (SB新書) | |
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・勢古浩爾
世の中には、定年後の生き方についての本が溢れている。そのどれもが、定年後こそ、これまでやれなかったことをやるチャンスだといった論調で書かれているのではないだろうか。曰く、定年後こそ地域デビューのチャンス。曰く定年後こそ何か勉強をすべき等々。そんな本を読んで、よし自分もと思ったのはよいが、どうもうまくいかずに焦っている人はいないだろうか。
本書は、そんな本を、次から次に、ばっさばっさとめった切りにする。そのツッコミ具合がシニカルでなんとも面白いのだ。本書が訴えていることは、やりたい人間はやればいいが、やりたくない人間は別にやらなくてもいいんじゃないかということに尽きる。定年後に何かやらなけりゃならないと思い込むのは、それこそ病気ではないか。
例えば本書には、とある市民講座の例が出ている。定年退職者のための講座だが、その講師が30歳という大学の助教。人生経験豊富な定年退職者が、「定年」をテーマに、よく30歳の若造の話などを聴きたいと思うものだ。受講する方もする方だが、講師を引き受ける方も引き受けるほうで、かなり皮肉な口調で書かれているのだが、私ならまず聴きに行こうなんて思わないだろう。
定年退職者は、これまで長い間、会社という枠に嵌められてきたのだ。我慢してきたことも沢山あったろう。定年後こそその枠を取り払い自由に生きればいいじゃないだろうか。定年後、何かしなくちゃと脅迫観念に囚われているような人は一読すれば、心がすっきりするのではないかと思う。
☆☆☆
※初出は、「風竜胆の書評」です。