![]() | 卯月の雪のレター・レター (創元推理文庫) |
クリエーター情報なし | |
東京創元社 |
・相沢沙呼
今私が注目している作家のひとりである相沢沙呼による短編集。収録されているのは以下の5編。
○小生意気リゲット
両親がなく、二人暮らしの姉妹。姉は、有名な絵画賞を取るくらいだったのに、生活のために絵を諦めた。妹のシホは、最近姉に反抗的である。
ある日、シホが姉に内緒で叔父から金を借りた。妹を引き取らず、叔父夫婦の所で暮らさせていた方が良かったのかと悩む姉だが、最後に種明かしがされるとき、反抗的で生意気だと思っていた妹がとってもいじらしく思えてくる。
○こそどろストレイ
サキと加奈の二人はクラスメートの黒塚百織(しおり)の家に遊びに行く。黒塚家には圭織、百織、沙織、小太郎のきょうだいがいた。
黒塚家で、鍵がかかった蔵にしまっておいた花器が盗まれる。雪が積もっていたのにも関わらず、犯人らしき足跡は残っていない。
ところが、圭織が何日か前に自分が割ったと言う。しかし、父親は今朝その火器があることを確認している。サキが名探偵役を務めて、明らかになる意外な犯人。そしてきょうだいの絆。
○チョコレートに、踊る指
事故で、光を失ったヒナ。同じ事故で失語症になったスズは、頻繁に入院中のスズを見舞う。二人のコミュニケーションは、スズがノートパソコンに打ち込んだ言葉を、自動音声が読み上げることによって行われる。
なぜか、スズの心を苛む罪悪感。待っている驚くような種明かし。
○狼少女の帰還
三枝琴音は、小学校の教育実習生だ。彼女の指導教員としてついたのが、坂下知恵といういい加減な人物。なにしろいじめがあっても、全く動く気がないのだ。
生徒の一人である佐伯咲良は、クラスから浮いている。同じクラスの片桐まいなの家に遊びに行った時に、お手伝いが通帳と印鑑を泥棒したのを見たという。まりなは、咲良が嘘つきだと言う。
琴音には、自分が上手く笑えない、人に溶け込むことができないという悩みがあった。それを咲良と重ねて入れ込んでしまうのだが、これは、琴音が過去の自分と決別する物語だろう。
○卯月の雪のレター・レター
表題作である本作。祖母の七回忌で母の実家に行ったとき、従妹から、祖母から祖父に1か月位前に手紙が届いたということを聞く。幽霊からの手紙なのか?
また、手紙にある「卯の雪」とは卯月の雪のこと。卯月とは4月のこと。果たして4月に雪が降るのか。明らかになるのは、60年もの時を越えた思い。そして、卯月の雪の正体。
相沢沙呼の作品は、哀しいほどに多感で不器用な若い女性たちの揺れ動く心を良く描いている。彼女たちは悩み、傷つき、落ち込みながらも、立ち直っていくのだ。一応謎が提示されて、それを解き明かすというミステリー仕立てにはなっているが、最後はどれもちょっといい話に仕上がっており、読後感も悪くない。
☆☆☆☆☆
※初出は「風竜胆の書評」です。