錯覚の科学 (放送大学教材) | |
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放送大学教育振興会 |
・菊池聡
本書は、放送大学の「心理と教育」の同名科目の教科書だ。
ところで、私たちは外界をありのままに見ているわけではない。例えば、皆さんはこんな経験はないだろうか。夕陽がとっても綺麗なので写真に撮ろうとした。ところが、あれだけ大きく見えていたのに、写真には、思いきりしょぼい太陽しか写っておらずがっかりしたことが。このような例は意外と多いのではないだろうか。
また、私たちは3次元の物を見るとき立体的に見えている。しかし、網膜に写っているのは2次元の画像のはず。しかし、なぜそれが3次元に見えるのか。脳が自動的に補正を加えて立体的に見せているからだ。
例えば、黄班円孔という目の病気がある。黄班部という網膜の中心部に孔が空いたようになるのだ。私もこれで何年か前に左目の手術をしたのだが、これにやられると黄斑円孔になった方の目で見た場合に、中心部がすぼんで見えるようになる。本を読むと一行抜けたようになるし、人の顔もとても人間の顔には見えない。
ところが、両目で物を見ると普通に問題なくみえるのである。脳が補正をかけてくれるためだ。私の場合は、たまたま左目だけで風景を見たときに見え方がおかしいことに気が付いた。皆さんもたまには片目で風景を見れば、早期発見にも繋がるのでやってみて欲しい。異常があればすぐ眼科に。
しかし、この眼科もピンキリだということを思い知った経験がある。若いころ目がごろごろするので、とある眼科に行ったところ、さっと検査をして目薬を出しておしまい。どうにもごろごろが治らないので、別の総合病院に行くと、結膜結石でいくら目薬を差しても治らないと言われた。
そのときの女医さんが注射針の先で結石を取ってくれたのは良いが、どうも自分の指も傷つけたらしく、肝炎の検査はしているかと心配そうに聞いてきたのは余談(ちゃんと同じ病院で人間ドックを毎年受けていましたがな)。
それはさておき、本書にはこのような視覚の錯覚、すなわち錯視を中心に、記憶や思考における錯覚なども解説している。錯覚は私たちが生きていく上でのボジティブな役割もある。しかし錯覚に囚われ過ぎると誤った判断にも繋がりかねない。
本書を読めば、人間はどのように錯覚する生き物であるのかが良く分かるだろう。くれぐれも錯覚に踊らされてヘンな行動を起こさないようにしたいものだ。
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※初出は、「風竜胆の書評」です。