・宮竹貴久
ちょっとエロいタイトルだが、決して人間のことではない。著者は昆虫学者ということで、述べられているのは、昆虫やクモなど、要するに「ムシ」と呼ばれるやつのことだ。要するに虫たちの生殖戦略について解説したものである。オスもメスも基本的には自分のDNAを残すことが生殖の最終目的だろう。しかし、オスはいくらでも種をまくことができるのに対して、メスの生むことができる卵の数には限度がある。ここからオスとメスとで生殖のためのやり方が違ってくるということだ。オスとメスのどちらかにとって有利なことが、もう片方には不利になることがあるのである。これを「性的対立」というようだ。
例えば、オスはメスに他のオスから受精させないようにメスの寿命を短くするような暴挙に出るのである。キイロショウジョウバエは精液の中に毒が混じっているし、ヨツモンマメゾウムシはペニスに棘が生えており交尾中に生殖管に突き刺さって寿命を縮めるというのだ。そこまでいかなくとも、ウスバシロチョウやアゲハチョウの仲間は、交尾の際に精液に含まれる粘着性の分泌物でメスの生殖器を物理的に塞いでしまうのである。キタコガネグモダマシに至っては、交尾の後で、オスがメスの交尾器を潰してしまうという。自分自身が他のオスとメスが交尾できないよう繋がったままの状態になっている場合もある。イトトンボなどは、先に入っていた精子を、交尾する際に掻き出しているという。
一方メスの方も負けてはいない。ヒメフンバエでは3つの受精嚢を持ち、実際に受精するオスを選んでいるし、フタホシコオロギは自分の近縁者の精子を受精には使わないという。また、上に挙げたヨツモンマメゾウムシでは、メスが生殖器の内壁を厚くして棘に対抗しているらしい。
ところで、掻き出し効果だが、ヒトでも同じような効果があるのか、男女のあそことそっくりな模型を作って実験してみたというから面白い。やったのは、ニューヨーク州立大学だそうだが、やっぱり疑問に思ったら、突き詰めていくというのが学問の世界だよね。
最後に一つ共感できる言葉があったので紹介して終わろう。
<研究している本人がまず面白がらないことには、他人にその面白さは伝わらない>(p46)
理系方面に進みたい人は、まず自分が面白いと思ったことを突き詰めていくことが必要だろう。それはほかの人にはあまり興味がないことかもしれない。しかし、興味のない人に興味を持ってもらうためには、まず自分が面白いと思わなくてはだめなのだ。
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※初出は、
「風竜胆の書評」です。