![]() | 贋作 |
クリエーター情報なし | |
東京創元社 |
・ドミニク・スミス、(訳) 茂木健
17世紀のオランダはチューリップ・バブルに湧いていた。この時代を生きた女流画家サラ・デ・フォスは、画家のギルドである聖ルカ組合(ギルド)に参加を許された最初の女性である。この物語は彼女の描いた「森の外れにて」が大きな役割を果たすことになる。
そして時代は下って1950年代後半となる。舞台はアメリカ。コロンビア大学の大学院生であるエリー(エレノア)・シプリーは絵画修復のアルバイトをしていた。そんな彼女のもとに、画商から「森の外れにて」の模写の仕事が持ち込まれる。絵画の窃盗に巻き込まれたエリーだが、元々の持ち主である資産家の弁護士マーティ(マルティン)・デ・グルートが私立探偵を雇ってまで彼女のことを突き止め接触してくる。結局は、彼がエリーを騙した形で男女の関係を持ってしまうのだ。
そして40年以上の時が過ぎ、エリーは祖国オーアストラリアのシドニー大学において美術史の教授になっている。そんな彼女がニュー・サウス・ウェールズ州立美術館で行われる「17世紀オランダの女性絵画展」のキュレーターを務めることになった。そこには、あの「森の外れにて」も展示される。おまけにその作品は、オランダの個人美術館とマーティの持っているもの(こちらが本物。後でマーティが盗まれたこの絵を取り返している。)のどちらもが持ち込まれるという。おまけにマーティは自分でこの絵画を持ち込むのだ。
エリーには、若いころに自分が描いた贋作と再び再開することになる。そして絵を持ち込んでくるマーティは彼女にとって過去からの亡霊のようなものだろう。大学から辞任することも覚悟したエリーだが、話は意外な展開を見せる。
この作品のテーマは「後悔」と「贖罪」だろうか。エリーは、若いころ贋作をつくってしまい、絵画窃盗事件に加担してしまったことに対する後悔。そして「贖罪」のため、大学を辞任しようとする。一方で、マーティの方は、騙した形で彼女と関係を持ってしまった「後悔」、そして彼の行った行動は「贖罪」としての面が大きいと思う。
しかし、どうしてこの絵が窃盗犯に狙われたのだろうかという疑問が残る。1950年代では、それほど有名でもない。知る人ぞ知るといった作者ではなかったのか。
☆☆☆☆
※初出は、「風竜胆の書評」です。