闇の峠 (新潮文庫) | |
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新潮社 |
・諸田玲子
本書のモチーフとなっている、荻原重秀もその嫡子の乗秀(源八郎)も実在の人物で、父の重秀は、元禄時代に勘定奉行として、貨幣改鋳を行ったことでよく知られる人物だ。しかし、死後に罪人とされ、お家断絶は免れたものの、3700石あった所領は、700石にまで減らされた。源八郎は後に佐渡奉行に昇進しているのだが、赴任先の佐渡の地で1年後に急死している。本作は、この重秀の死と乗秀の急死の謎に迫る歴史ミステリーである。
主人公はかって荻原重秀の部下だった萩原源左衛門(これも実在の人物)の娘せつ。かって荻原源八郎と縁談が進んでいたが、荻原重秀が罪人になったことから話が立ち消えとなり、今は小姓組の旗本、根来長時の妻になっている。実家の父、源左衛門はこの時、荻原乗秀の相役となる佐渡奉行だった。
この根来家にある時、江戸町奉行の大岡越前が訪ねてくる。「兼山秘策」という書物を読んだことがあるかというのだ。そこには、20年以上前に起きた荻原重秀の事件のことが書かれているという。そこには重秀が幽閉されて死んだような記載があった。しかし、重秀は生きている間は罪人ではなかった。いったい彼の死の真相は?越前は、この事件を吟味しなおそうとしているのだ。「兼山秘策」とは、江戸時代における金沢の儒学者・青地兼山と麗沢の兄弟が師の室鳩巣から寄せられた書簡を編んだものであるらしい。「兼山麗沢秘策」とも呼ばれている。
せつには重秀の死の直前に、実家の庭で彼を見かけた記憶がある。その時重秀は、せつの実家の庭に何かを埋めていた。果たして、重秀の死に父は関わっているのか。せつは庭を探してみるものの、埋まっているはずのものは、既に誰かに見つけられていた。ところが、ひょんなことからせつに埋まっていたものが回ってくる。それは、重秀から乗秀に宛てた文であった。その一方で、事件に関係したと思われる者が次々に殺されていく。せつは、事件の真相を求めて、越前の与力左右田藤間、根来家の用人八谷徳兵衛、根来家の使用人喜助らと、乗秀のいる佐渡を目指す。
この作品で解き明かされるべき謎は二つだ。一つは、20年以上前の重秀の死の真相。もう一つは、今の時点で関係者を殺している犯人は誰かというもの。そしてこの二つの謎は、だんだんとひとつに収束していく。
20余年前の重秀の死に関する謎は、最初からほぼ明らかなのだが、中心になるのはもう一つの謎の方。いったい昔の事件をもみ消そうとして動いているのは誰か。やがてその人物の正体が明らかになってくるのだが、最後はちょっとあっけない気がする。
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