虚構推理短編集 岩永琴子の出現 (講談社タイガ) | |
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講談社 |
・城平京
本書は、私が今嵌っている、片瀬茶柴さんの漫画による「虚構推理の原作小説だ。妖怪たちの知恵の神である岩永琴子とその彼氏の不死身の桜川九郎のコンビが活躍する話だ。収録されているのは次の5編。
1.ヌシの大蛇は聞いていた
2.うなぎ屋の幸運日
3.電撃のピノッキオ、あるいは星に願いを
4.ギロチン三四郎
5.幻の自販機
このうち、1~4までは片瀬さんのコミカライズ版で既に読んでいる。1,2はコミックス版の7巻に、3は8巻に、そして4は9巻に収録されている。5は、まだコミカライズされていないが、化け狸のやっているうどんの自動販売機の置いてある異界に、殺人を犯した者が迷いこんだため、アリバイがヘンなことになっているという話。
あらためて小説版を読んで、九郎の琴子に対する扱いのひどさに噴き出す。
なにしろ、1では大蛇に会いに行くという琴子が、一緒に来てくれと言うと、「今夜はダメだ。昼に作った豚汁をゆっくり食べたいから、ひとりで行ってくれ」(p13)との返事。琴子には、保温性に高い水筒にいれて豚汁を持たせる。主の大蛇からは、「そうして汁物を持ってこられるなら、九郎殿もここにいっしょに来て食べられたのでは?」(p20)と突っ込まれる。
最後に、明日は日本海側のとある断崖に海坊主に会いに行かないといけないというと九郎は、「わかった。こんどはけんちん汁を持たせてやるから」(p57)とのたまう。琴子は、「なぜ汁物を用意して事足りると思う。一緒に来い」(p57)と怒り狂うのだが、そりゃそうだよね。
こんなことも言っている。「恋人とは人聞きが悪いな」(3.p150)、「ええ、当人は僕の恋人と自称していますが」(4.p195)(( )内の数字は、何番目の話かを表す)
でもこんなことも言っているのだ。「どうでしょうね。彼女がいなければ、今頃僕はどう暮らしているか見失っていたかもしれません」(3.p159)、「お前は信じないかもしれないが、お前が俺を捨てることがあっても、その逆はないからな。お前は今のままでいいぞ」(5.pp307~308)。それならもっと琴子ちゃんを大事にしないとね。
でも琴子ちゃんももう少しお嬢様らしくしようね。「今夜、恋人の部屋に泊まるので、精をつけておこうとふと思い立ちまして、そこで目にしたうなぎ屋に入っただけです」(2.p92)、「そりゃあ先輩のおかげで未通女(おとめ)ではありませんが」(3.p150)、この他にも、いいものが手に入ったとして、50cm以上もある自然薯を高々と掲げて九郎の部屋にやってきたこともあるらしい(4.p211)。まあ、色々楽しそうだが。
☆☆☆☆☆
※初出は、「風竜胆の書評」です。