かって、市谷にあったという帯取りの池。この池の上に美しい錦の帯が浮いているのを見つけた旅人が、それを取ろうとしたところ、その帯に巻き込まれて池の底に沈められてしまったという伝説があった。
安政6年3月のこと。その帯取りの池の岸に近い浅いところに派手な女物の帯が流れているのを近所の者が見つけた。やがてその帯の持ち主は、市谷合羽坂下の酒屋の裏に住んでいるおみよという美しい娘であることが分かる。おみよは何者かに絞め殺されていた。
おみよは、母親と二人で暮らしていたのだが、練馬の親戚に二人で行く途中に、いなくなった。そのおみよが、自分の家で死んでいたのである。おみよは、旦那とりをしており、その相手は雑司ヶ谷に住む千石取りの旗本の隠居だった。
この事件を調べるのが半七親分というわけだが、事件を調べに雑司ヶ谷を訪れた際に、知り合いの杵屋お登久という三味線の師匠と出会う。お登久は、自分の所に稽古に来ている娘の兄が10日前から行方不明になっているという。
一見関係のないようなこの二つの事件が、やがて絡まっていく。よくミステリーにあるような筋書きだが、もしかするとこれが嚆矢なのか。実際には、関係のないようなものは、本当に関係がない場合が多いだろう。最初、少しホラー風味で味付けがしてあるのは、この作品の特徴なのだろう。
☆☆☆
※初出は、「風竜胆の書評」です。