お馴染み銭形平次のシリーズの一つだ。今回の事件の舞台は両国の軽業小屋。そこで大人気の綱渡り太夫のつばめという娘が、綱が切れて落下する。幸いその時は打ち身位で済んだが、今度は座頭の天童太郎が殺された。実は天童は、先の座頭でつばめの父親である久米の仙八の仇であり、一座を自分のものにしていた。果たして事件の犯人は誰か。
出不精の平次だが、今回は気軽に出張っている。やはり美人が怪我をするというのが琴線に触れたのか。
銭形平次の十八番のような投げ銭の場面は今回もなし。平次は見事に事件の真相を見抜くものの、犯人を縛ろうとはしない。平時には、死んだ人間が悪人だったような場合には、わざと真相を明らかにしないようなところがある。これが、「俺は刑事なので犯人を捕まえるのが仕事だ!」とばかり、事件の背景を全く考慮せずに、同情の余地がいっぱいの犯人でも逮捕してしまうという最近の刑事ものとは一線を画するところだろうと思う。そして平次が、手を引くと事件は完全に迷宮に入ってしまうのだ。こんな感じだ。
「八、もう歸らうよ、町役人に知らせて、明日の朝でも檢視をするんだね」
興味を失つたやうに死骸を見捨てゝ、さつさと外へ出るのです。
「親分、下手人は?」
「知るものか、鎌いたちか何んかだらう」
投げ銭よりも何よりも、これが一番の平次の魅力だろうと思う。
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