この作品を一言で表せば、ラーメンにかける男たちの物語というところか。そう男たちなのだ。女性が出てくるものもあるが、どちらかと言えば主人公のサポート役である。だから一言で感想を表せばとにかくアツ苦しいのだ。「いやアツくなければ冷麺やん」と突っ込んではいけない(笑)。本書は全7話で構成されているが、最後の支那そばやの佐野実さんだけは2話に渡っているので、実際に登場するのは店舗と6軒と店主6人だ。
出てくるのは、いかにして彼らがラーメン屋を始めたかという物語。そこには、色々な人生ドラマがある。ちょっと興味を引かれたのは、板倉洋考さんのぜんや。板倉さんの前職はなんと通産省(当時)の役人だそうだ。ここに東大法学部卒のエリートというバカ上司が出てくる。有給をとって母親と結婚する人といっしょに父親の墓参りをしようとしているとき、そのバカ上司から電話がかかってくる。「どうして出勤時間に出てこないのか」という。「今日は有給をとって墓参り」と答えると、「言い訳はいいからすぐに出てこい」とのこと。このバカ、有給の位置づけも知らないらしい。どこがエリートやねん。お前は自分を神様とでも思っているのか。ともあれ、この事件がきっかけで、板倉さんは役所を止める決心をする。やめるなら訴訟を起こしてもいいと思うが、さすがにそこまではしなかったらしい。婚約者は役所を辞めてラーメン屋をやることに、直ぐ賛成したとのことだが、母親は大反対。なんと1か月も口をきかなかったらしい。
支那そばやの佐野実さんはテレビで視ることもあるので知っている人も多いと思うが、結構な強面である。でもラーメンに対するこだわりはすごい。室温が上がると麺が変化するからエアコンの温度設定は変えられないとか、カレーやビールはラーメンに合わないとか、騒ぐなら帰れとか言うのだ。
「たかがラーメン」という気もしないではないが、そのラーメンにかける人たちがいるのだ。「されどラーメン」というところだろうか。
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